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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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46話 神竜王女

 天より木霊する声はこの世界を遙か頂から見守る悠久を生きる竜であった。


「お爺様・・・・・・」


『ナーバよ、良くぞ恐怖を乗り越えて己の中の勇成る心に気が付いたな』


「勇気・・・・」


『そう、勇気だ。ナーバよ、我等竜族はこの世界で最も優れた種族だ』


 ゼファルトスの言葉、それは驕りでは無く必然を語るように淡々としている。自らの使命とちからを正しく受け止めている者が持つ確かな自信と信頼が感じられた。


『我等知性ある竜族はこの世界を高みから見守ることを使命としておる。そしてそれは決して高みから見下ろす視点だけではいけないのだ。人の世の営みを見守り導くためには我等は人に寄り添わねばならない。でなければ我等は調停者ではなく只の支配者や君臨者になってしまう。それは暴力に溺れているのと同じだ。しかしお主は今人の心が持つ勇気を知った。それはお主が人と同じ目線を持ったという事だ』


「私が・・・・・」


『お主の心の成長に伴いお主自身もまた成長した。それはお主の鱗を見れば一目瞭然』


「これは・・・!」


 見ればナーバの全身を覆う白銀の鱗が今迄以上の輝きを放っている。更に纏うちからもより大きくなっているのが感じ取れる。


『ナーバ、知っていよう。我等竜族の鱗は自らの精神を映す鏡と同じ・・・・・自らの在り様や心の成長によってその輝きは曇りもするし更に輝きを増しもする』


「はい」


『気付いておったはずだ。先程までのお主の鱗はお主の恐怖に屈した心を映す様に輝きが霞んでいた。しかし今はお主の心の成長に呼応するように前以上に美しい輝きを見せておる』


「・・・・・・・」


『嬉しいぞ、ナーバよ。今お主はソウマの言った通り竜の王族として一つの壁を乗り越えた。今よりお主を我の正式な後継として【神竜王女】を名乗るがいい』


 ゼファルトスのその言葉にナーバは一瞬の驚きの後に感極まったように恭しく膝を付く。


「有り難うございまス。お爺様より賜わりしその称号に恥じることなくこれからも精進しまス」


 ナーバ自身内心で今のままでは自分はゼファルトスの後を継ぐことは出来ないと感じていた。だから今までゼファルトスの孫と名乗ることはあっても己自身を【神竜王】に冠する称号を名乗らなかった。それを今尊敬する祖父から直に後継者として認められたのだ。


『これからもお主の成長を楽しみにしておるぞ。まだまだお主が学ぶべきことも多い』


「はい!」


 すると突然ナーバの後ろから腰に抱き着く者が居た。


「シャル・・・・・・」


 それは目に涙を浮かべたシャルロットだった。


「良かった・・・・・よ゛がっだよ゛~~」


 そしてそのまま目に溜めた涙を大粒の雫に変えて瞳から溢す。


「ナーバね゛え゛ざま゛~」


 涙と鼻水を流しながら腰にしがみ付くシャルロット。しかしナーバはそれを常とは違う優しい顔で受け止めていた。


「心配をかけてしまったようだナ。済まなかったシャル。そして有り難ウ」


 ナーバはシャルロットの頭を優しく撫でる。するとシルヴィアとアイスもゆっくり此方に近寄って来ていた。シルヴィアはナーバの腰にしがみ付くシャルロットを微笑まし気に見つめながら、アイスはいつもの無表情の中に隠し切れない安堵の感情が漏れ出ている。


「姉者もアイスも・・・・・・・・有り難ウ」


「ふふふっ」


「?」


 やって来た二人にナーバはシャルロット同様に礼を言う。それにシルヴィアは微笑みで返しアイスは意図が分からなかったのか首を傾げている。


『ではなナーバよ。お主の更なる成長を願っておるぞ』


「はい、必ず御爺様に追いついて見せます」


 ナーバの言葉は最初にソウマ達に同行し旅に出る時に言った言葉と同じ言葉だ。しかしあの時よりも更に自信と力強さに満ちている。その言葉だけでもナーバの成長を伺わせるには十分なものだった。それを聞いたゼファルトスの気配は満足そうにして消えていった。


「取りあえずはこれで大丈夫だな」


 ずっと一部始終を見守っていたソウマが《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を空間に仕舞いこみながら近寄ってくる。


「世話になったソウマ。お前の御かげで私はまた一つお爺様に近付くことが出来タ」


「感謝は要らねえよ。いや本気マジで、俺は本気でお前を殺そうとしただけだからな。それをどうにかしたのはお前自身の力だしその切っ掛けを作ったのはそいつらだ」


「・・・・・・・」


 ソウマの言葉は真実ではない。ソウマは全力で殺威を出していたが全力の実力を出してはいなかった。ソウマは確かにナーバを殺せる攻撃を放っていた。しかしその全てはナーバの防げる間隔でしか行われていなかった。剣で攻撃すれば一撃で終わった場面も蹴りや殴るだけに止めていた。


「(結局ソウマが本当に全力に近い攻撃をしてきたのは最初の私の腕を切り落とした一撃だけだった。いや・・・・それでもソウマの実力はまだまだ底が見えなかった・・・・・)」


 事実ソウマの最後の一撃の《絶影》はナーバの爪を狙っていた。ナーバはそれを咄嗟に察して捌いたに過ぎない。

 ナーバはしばらくソウマの事を見つめる。


「何だよ?」


 それをソウマが訝しむように言葉を返す。


「いや・・・・なんでもなイ、・・・・・・・道は遠いナ」


 ナーバは何か目指す様に、または確認するように呟いた。


「道は遠い・・・・・それでも貴女ならその距離を詰めることは十分に可能よ」


 シルヴィアがナーバの傍によりその頬を優しく撫でながら言い聞かせるように言う。


「・・・・・・追い付けるとは言わないんだナ」


 ナーバは憮然とする。


「貴女だってあの二人に追いつけるとは実は思ってないでしょう?」


「ぬう・・・・・・・・・」


 ナーバはシルヴィアの言葉に反感しながらも反論はしなかった。【神竜王】ゼファルトスと世界最強と言われるソウマ。同じ血筋で同じ竜族であるからとかソウマが人族であるから程度の事で埋まる程にこの2頭の怪物の居る領域は甘くない。命有る内にどれだけその差を縮められるかどうかという程である。


「まあ私も追いかけてる側だから一緒に地道に追いかけていきましょう」


 そう言ってシルヴィアは優しく微笑む。


「・・・・・・・私にとっては姉者も追いかける対象何ダ・・・・・・」


「ん、何?」


「何でもない」


 ナーバの独白は小さすぎてシルヴィアには聞き取れなかった。するとナーバは今度はソウマに向き直る。


「ソウマ・・・・・ソウマ・カムイ」


 そうして真剣な表情で何かを切り出そうとする。


「ん、何だ?」


「最初にお前の強さを感じた時から私の中で小さな予感があっタ。だがこの戦いでお前の強さを更に実感しその中にあるお前の心を感じてそれは確信に変わっタ」


 ナーバは一度言葉を切り深呼吸するように息を吸い込む。


「ソウマ・カムイ、私のつがいになってくレ!」


「ぶっ!」


 ナーバの言葉を聞いた瞬間ソウマは思わず噴き出した。相変わらずこういう方面での勘は全く働かない様である。


「あら」

「うわ~♪」

「・・・・」


 それを聞いたシルヴィア・シャルロット・アイスはそれぞれ微笑ましい笑顔と嬉しそうな笑顔と複雑そうな顔をしている。


「あ~~~、まあ、お前が良いなら・・・・」


 ソウマはそう言って頭を搔きながらチラリとシルヴィアとシャルロットの方を見る。シルヴィアはその視線に微笑みを返しシャルロットは満面の笑みで返す。


「俺としてはそれでいいが・・・・・・」


 シルヴィアやシャルロットが許すのであればソウマは女性の気持ちにはなるべく応えるようにと思っている。というよりもシルヴィアやシャルロットはそれを歓迎しているような節さえある。


「勿論、ソウマには姉者やシャルがいることも分かっていル。だから私の順番は3番目でいイ」


「いや、別に俺は順番を決めるつもりはないが・・・・・・・・」


「最終的に孕ませてくれさえすれば私は問題なイ」


「孕・・・・・・」


 ナーバの直接的な言いようにソウマは苦笑する。


「ナーバ姉様もソウマのお嫁さんだね!」


 シャルロットがそう言って嬉しそうにナーバに抱き着く。


「そうね、皆でお嫁さんね」

 

 シルヴィアも微笑みながらシャルロットの頭を撫でる。そうしてシルヴィアはソウマの方に歩み寄る。


「ちゃんと皆を愛してあげてね」


「・・・・・・・・善処する」


 シルヴィアの言葉にソウマは恐らく生涯でも数える程しかしていないような苦い顔をしていた。


「それでも・・・・・・・」


 そう言ってシルヴィアはソウマに更に顔を近づけて耳元で囁く。


「初めては私が最初ね・・・・・」


 そう言ってそのままソウマの頬にそっとキスをする。何気なく行われた為にシャルロット達にも気付かれていない。


「・・・・・・・・(最初ってどういう意味だ?)」


 ソウマはシルヴィアの言葉に困惑顔をしている。シルヴィアはシルヴィアで自分で言った言葉と行動に今更恥ずかしくなったのか顔を赤くして俯いてしまっている。


「シルヴィア姉様お顔が赤いけどどうしたの?」


「・・・・・何でもないわ」


 シルヴィアはそう返すので精一杯だった。


 ※※※※

~竜の谷~

 今の一部始終を実は遠目から確認していたゼファルトスは実に楽しそうに笑っていた。それをとある用事で来ていた【青竜王】グランディーネが不思議そうにみている。


『王よ、何か楽しい事でも視えましたか?そのように笑うのを私は初めて拝見しました』


『くっくっく、何、我にもしかしたら近いうちに曾孫が出来るかもしれんというのだよ』


『ほう!それはそれはおめでとうございます。それでは姫様に良いお相手が見つかったということですね。それは我等竜族全体にとっても朗報でございますね』


 ナーバは【神竜王】ゼファルトスの孫と言うだけでなくかつて遥か昔に魔神との戦の時に今の力有る竜王達の多くが幼い頃にナーバの両親に助けられた経験が有る。それにナーバの純粋な所や誇り高さの中に有る優しさも好感が持たれていた。つまりゼファルトスとその血縁に対する尊敬とナーバの両親に対する感謝、そしてナーバ自身の性格も相まって彼女は竜族の中で大変に愛された存在である。


『それでお相手は何方なのですか?同じ竜族の方ですか?』


『ナーバが自らのつがいに選んだ相手は一応・・人族だ。名前はソウマ・カムイ、この世界で我を打倒した唯一の男よ』


『ああ、【超越者】殿ですか、それはまた大変な方を姫様も御選びになりましたね。しかしかの御仁ならば同族の中に不満を持つ者はほとんどいないでしょう』


 竜族は良くも悪くも強さを重んじる。それは何も肉体面に依った物理的強さだけでなく精神面での強さなど様々ではあるが一番単純で一番分かりやすいのはやはり純粋な実力的強さである。ましてやソウマは彼等竜族が絶対至高と掲げる【神竜王】ゼファルトスを唯一超える存在である。その強さに異を唱える者など存在しないと言っていい。


『その点は我も全く心配しておらん。それに万が一不満がある者が居れば己でソウマのちからを確かめるが良いと通達するつもりだからな』


『それは【超越者】殿も大変ですね。それにしてもこれはお世継ぎがとても楽しみですね』


 ちなみに竜族は混血についてはそれ程忌避の感情を持っていない。先も言ったが竜族は強い者を重んじる。自分を倒した相手をつがいに選んで子を成すという話は実はそれほど珍しい話ではない無いのだ。しかも竜族と他種族の子は高い確率で竜として生まれてくる。生まれてくる子供は両親の強さを受け継いで生まれてくる場合が多い。つまりより強い両親からより強い子が生まれやすいのだ。例で挙げればもし竜族と吸血鬼の間で子を成せば元々の身体能力に更に高い膂力が加わり恐ろしい程の再生能力を備える竜が生まれる。もっとも竜族も吸血鬼も生物として死の確立が低いせいか子が出来にくい体質でありそれが女性の場合更に低くなる。同族同士でもない限り実は滅多に子供はできないのだ。


『まあ我々竜族と他種族とでは子は出来にくいが我々竜族の者はそれを理解したうえで他種族の異性を受け入れ生涯を共にすることを選ぶ。ナーバも当然それを理解しておる』


『それでも共に居たいと思う相手が居るのは幸せな事ですね』


『うむ。それにそう悲観したものでもない。ソウマは我の血を受けておる。本人は殆んどそのちからを使っておらぬがそれでもその体には我の血が確かに息づいておる。他の他種族と子を成そうとするよりかはできやすいであろうな』


『王の血を体内に入れても肉体に何の変調もないとは流石は【超越者】殿というべきですね。通常ならば竜としての特徴が体に現れているはずなのに・・・・・・』


『与えた我としては少々不満ではあるがあやつは我の血の影響をほとんど抑え込んでおるよ。今与えている影響は精々が寿命の延長と毒や異常状態に対する抵抗力の向上程度だろうな』


『王の血を抑え込めるという点でも驚愕ですが私の記憶が確かなら現在【超越者】殿から感じるちからは王を破った頃よりも更に強くなったように感じますが・・・・・』


『間違いなかろう。あやつは今もなお己の研鑽を積み続けておる。もはやその高み、どこまで登り詰めるのか我にも分からぬ』


『確か【超越者】殿の傍には吸血鬼の姫と人族の王族のハイエルフの混血の姫が居りましたね。吸血鬼の姫は我々から見ても驚異的といっていいほどの実力を持っていますし人族の姫君は実に魅力的な御仁ですね』


『うむ、どちらもナーバにとって良き友であり宿敵ともとなろうぞ』


『我々も今後を楽しみにしておりますよ』


 そう言って2頭の竜は笑いあった。


 ※※※※

 所変わって現在ソウマ達は次の街に向かって進みながらゆっくりと道を進んでいた。今までの道と違い人が通る為だけでなく馬車などが通りやすいように石畳が敷き詰められいる。


「流石に帝国の領内だな。こんな端の方の街道にもしっかりと整備が行き届いてやがる」


「この国の王族は内政だけは特にちから入れていますから」


「少しでも他国と差をつけたいんでしょう。この国の王族は見栄っ張りばかりだから」


「この国の人達私苦手だなぁ」


 5人は街道をゆっくりと歩きながら歩を進める。


「相変わらずこのスペランツェ帝国は独裁軍事国家なんだな」


「強い者至上主義の所も相変わらずよ」


「私はこの国の強ければ何をしても許されるという国法は好きになれません。それは強さの責任の放棄に相違ありません」


 アイスにしては珍しく嫌悪感を表してこの国を評する。ソウマはそれを見てアイスの頭に手を置いた。


「まあお前の言い分も分からんでもない。だがな強い者が正しいというのもある意味ではこの世の真実ではある。何故なら己の言い分を通すには結局どのような形でもちから有る者が有利だからだ」


「それは・・・・・重々承知しています」


「だがお前が言う様にちからを持つ者の責任も大切な事だ。以前に俺も言ったがちからは振るい方次第で只の暴力か武力かに別れちまう。そういった意味ではちからこそが全ての考えは暴力の蔓延を招く恐れがある。お前が帝国を危険視しているのはそういうことだろ?」


「・・・・はい」


「我々竜族も強さを重んじるがそれを笠に着る者はいなイ。我々はお爺様の教えで皆が強さの持つ意味を知っているからダ」


 シルヴィアが溜息をつく。


「そんな危険なこの国がある程度の長い間続いている理由はやはり人族だからでしょうね」


「人族は弱いからナ」


 弱い者程他者に支配されることを受け入れる傾向がある。何故なら弱者がもっとも効率よく生き残る術は強者に支配されることだからである。確かに強者に支配されれば一方的な搾取が待っているが少なくともよほどの暴君でもない限り理不尽に命までは奪われることは無い。強者も利用価値があるからこそ弱者を支配するのだ。そういった意味ではこのスペランツェ帝国はある種人族を象徴した国と言えなくもない。


「もしこれが人族以外の種族ならまず間違いなく反乱が起きてるだろうな」


 エルフやドワーフ等を始めとする他種族の亜人達は皆大なり小なりそれなりのちからや能力を持っている。そんな者達が大人しく強い者に従えという法に頷くはずはない。ましてや森の民と言われるエルフや大地の民と言われるドワーフは自然を重んじると同時に自由を重んじる。そうなると必然的に・・・・・。


「それを証拠にこの帝国にはほとんど亜人族が存在していません」


 そう、この帝国領内にはほとんどエルフやドワーフと言った種族が居ないのだ。如何に自らに実力が有ろうとちからで他者を支配しようとする法が成立する国を好むはずもない。


「それに精霊の数も少ないよ・・・・・・」


 シャルロットが長い耳をひくひくと動かしながらしゅんとしたように俯いている。《精霊神楽曲》の影響でより強く精霊達の存在を感じることができるようになった彼女はこの帝国全体に精霊の数が少ない事に少し落胆していた。精霊は自然界の意思とも言われるほどこの世界と密接に関わった存在である。その精霊が近寄らない場所は生き物の負の感情が堪りやすい場所である。


「この国には、たくさんの悲しい感情が溢れているよ・・・・・」


 俯くシャルロットをシルヴィアが優しく抱きしめてナーバがその頭を撫でる。


「私も昔からこの国は好きになれなかったの。何だか私の国みたいな雰囲気なんだもの。無駄に選民意識の塊のような人が多いしね」


「ということはこの国にはまだあれがあるのか?例の人族至上主義の妙な宗教」


「モート教ですか?有りますよ。現在は大陸中で布教活動を続けていますよ」


「私アレ嫌い!」


 シャルロットが今度は頬を膨らませて叫んだ後に再びシルヴィアの胸の間に顔を埋めてしまう。


「俺が知ってる頃は完全に人族こそが至上で他の種族は滅ぼせーていう程危ない思想連中だったがなあ」


「今はそこまで極端じゃないわね。人族が至上であるとう方針は変わらないけれど他の種族は人族に奉仕するべきとかいうふざけた教義に変わっているわね」


「以前から碌でもなかったが多少はマシになったの・・・・か?」


「エテルニタ王国では禁止宗教になっています」


「エテルニタ王国は沢山の他種族の亜人族達が人族と同じように生活しているから当然ね。そもそも国王と王妃や王子や姫からして人族ではないしね」


 そう言いながらシルヴィアがシャルロットの頭を愛おしそうに撫でる。


「全く人と言う種は面倒くさい連中だナ」


 ナーバが呆れたように溜息を吐いている。


「それは私も偶に思う時が有るわね」


「まあお前等の様に生まれながらに強い種族にはあんまり分からない感覚だろうな」


「ソウマには分かるのカ?」


「これでも昔は最弱の魔物にも手も足も出なかった頃があるからなぁ。弱い奴の気持ちも強さこそが全てっていう考えも分からんでもない」


「それは・・・・・・正直想像できないナ」


 ナーバが何とも言えない複雑そうな顔をしている。ソウマの現在の強さしか知らないナーバにとってソウマの弱い頃の姿は全く想像できなかったようだ。それにシルヴィアも同意する様に苦笑している。


「その気持ちは分かるわ」


「ソウマこの国には来たことはないのカ?」


「有るぞ」


「勿論100年前の帝国だけれどね」


「私も憶えてる」


 ナーバの言葉にソウマだけでなくシルヴィアとシャルロットも反応を返す。


「昔に帝国とエテルニタ王国が国交を結ぶための話し合いが開かれることになったの。それでその話し合いを帝国側で開かれることになってアウロ王が出向いたことがあるの」


「国王自らが国交に赴いたのですか!?」


 アイスが珍しく驚いた表情をしている。それもそのはずだろう。本来外交とはそれを担当する者が国外に赴いて行なうものだ。それが一国の王自らが出向いて行なうなどよほどの事態でもない限り有りえない。ましてや帝国は昔から大陸の覇権を虎視眈々と狙っている国なのだ。


「下手をすれば国王様が人質に・・・・・・・・・あ・・・・」


 そこでアイスはある事実に気が付いた。


「そうよアイス。その時国王は軍や護衛の騎士たちは一人も連れていかなかった。代わりに連れていたのが私とソウマとラルクよ」


「私も一緒に居たよ」


「王国に全軍と私の《影獣(オンブラ・ベスティア)》を全て残して私達が王の護衛兼シャルの観光に付いて行ったの」


「・・・・・・なるほど。下手に軍勢を連れていくよりも頼もしいですね」


 ソウマ、シルヴィア、ラルクの単騎の実力は間違いなくエテルニタ王国の全戦力を軽く上回るものだ。そもそもそれぞれが単独で一国すら制圧できるだけの一人護衛に連れていくこと自体が過剰戦力である。


「むしろそれだと帝国側の方が気の毒な気さえしますね・・・・・・」


 アイスの言う通りその気になれば一人でも帝国を壊滅出来る程の戦力が三人も護衛としているのだ。三人の内の誰か一人でも機嫌を損ねれば自らの国が壊滅するのだ。本来であればとても対等の国交など結べるようなものではない。


「アウロのおっさんは俺とシルヴィアをシャルの護衛役にしてラルクは自分の話し合いの補佐の為に連れてきただけだから俺達の武力を交渉材料にする気は帝国側が下手な事をしなけりゃあ使う気は全く無かったからな」


「アウロ王は純粋な交易を結びたかっただけだから。帝国の方針はともかくとして帝国の広大な領地と豊富な資源を彼は自国の国民の為に交易として回してほしかっただけだから」


「そんな回りくどい事をせずに姉者やソウマがちからで脅して奪えばいいじゃないカ?この国の奴らはちからが全てと自分達で言っているのだから文句もあるまイ」


 ナーバがある意味で至極当然の事を口にする。ちからを誇示する者はより強いちからによって奪われるのは当然の因果である。


「それじゃあ何時まで経っても戦いの連鎖は終わらない。武力で制圧するのは簡単だがなそれじゃあ無駄な憎悪と悲しみが増えるだけだ。おっさんの望みはそんなことじゃあない。おっさんが望むのは常に対話と融和だ」


「・・・・・・難しいのだナ」


「戦いを選ばないというのは時には戦いを選ぶこと以上に難しく大変なの。そしてとても勇気と強さが必要なのよ」


「・・・・私もまだまだ学ばなければいけないことは多いようだナ」


 シルヴィアはそうしてナーバの頬を優しく撫でる。


「それじゃあシャルが着いて行ったのは何か理由があったのカ?」


「観光だよ!」


 ナーバの疑問にシャルロットが元気一杯に答える。


「シャルが帝国に言って見たいって言ったから急遽私とソウマも一緒に行くことになったのよ」


「確かに師匠マスターと姉上ならば万が一すら起こりえませんね」


「もし国で何かあっても私とソウマならその気になればすぐに帰れるしね」


 もしソウマとシルヴィアが戦闘行為以外で本気で移動を行った場合音の速度など軽く置き去りにする。ただしそれは周囲の被害を一切考えないという条件が必要になる。そうすればソウマとシルヴィアならば帝国からエテルニタ王国まで僅か数十秒で返ることが出来る。

 余談ではあるがラルクが転移魔法を開発した理由の一つにソウマとシルヴィアが本気で移動する際の二次被害を無くすために開発したのも理由の一つである。


「帝国に美味しいものがあるって聞いたから言って見たかったんだ」


「本当ならこんな国にあんまりハーフエルフのシャルを連れていきたくなかったのだけれど・・・・・」


 シャルロットのお願いにシルヴィアが拒否できる道理は当時から無かったようだ。


「何があってもソウマとシルヴィア姉様がいれば大丈夫だもん!」


 シャルロット自身も当時から帝国にあまり良い印象を持っていなかったようだがそれでもソウマとシルヴィアに対する信頼の方が遙かに勝ったようだ。


「話し合いの方は上手くいったのですか?」


「う~ん、上手くいったのかと言われれば微妙な所よねぇ」


 アイスの質問にシルヴィアが苦笑する。


「話し合いは最初の頃は物資の交易についての真面目な話だったんだけど、途中で雲行きが怪しくなったのよ。初日は特に問題は無かったのだけれど二日目の私やシャルが偶々参加した会議でおかしくなっちゃったのよ」


 シルヴィアが当時の事を思い出して溜息を溢す。


「当時の皇帝が会議の途中で私やシャルに話を振って来たのよ。やれ自分の愛人にならないかとか自分の息子と婚約しないかとかね」


「身の程知らずナ」


「当然私もシャルもそんな提案考慮の余地すらなく断ったのだけれど意外と皇帝が諦めが悪くてね。ある勝負を仕掛けてきたの」


「勝負、ですか?」


「そう、断る時に私とシャルにはソウマという心に決めた相手がいるから無駄って言ったのよ。そしたらソウマに自分の部下が勝ったら自分の要求を呑めと言ってきたの」


「部下と言うと、もしかして・・・・・・・・」


 アイスが恐る恐ると言った風に言う。


「その顔だと未だに居るらしいな。あの十人・・・・


 ソウマがどこか可笑しそうに笑って言う。


「ええ、帝国が誇る【十騎聖】のことですね」


 それを聞いたソウマは更に愉快そうに笑った。

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