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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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45話 勇気

 暑くなってきました。熱中症には気をつけてくださいね~。

 広い草原、周囲一帯に生き物の気配は感じられない。そこでソウマとナーバは向かい合っていた。その眼はお互い真剣そのものであり、それを見守っているシルヴィアやシャルロットやアイスの顔も緊張を孕んでいる。


「・・・・・・本当に良いんだな?」


 向かい会った状態でソウマは静かに問い掛ける。その手には既に《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》が握られている。《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》も両者の緊張を感じ取ってか静かに唸りを上げるように剣身を震わせている。


「何度も言わせるナ。頼ム、出なければ私ハ・・・・・・・・・」


 ソウマの問いにナーバは絞り出すように、しかし強い決意を秘めた言葉を返す。その答えにソウマは静かに目を閉じる。そして再び静かに目を開ける。


「・・・・・分かった」


 そう言ってソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を構えた。


「ソウマ・・・・・・ナーバ・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 シルヴィアは真剣な表情で二人を見つめている。シャルロットはシルヴィアの服の裾を強く握りしめながらソウマとナーバを心配そうな表情で見つめている。アイスは緊張の為かそのいつもの感情の読めない表情の上に大量の冷汗をかいている。


「・・・・・いくぜ」

「・・・・・・・・」


 ソウマが剣を構えてナーバが無言で構えをとる。


 ※※※※


 ソウマとナーバが対峙する前に少し時間は遡る。魔神の気配に触れたソウマ達は受けた精神的衝撃を癒す為にヴェント国を少し出た所で再びシルヴィアの家で休憩をすることにした。特にシャルロットとナーバが一番深刻でシャルロットは未だに怯えたように四六時中シルヴィアやソウマに抱き着いている。ナーバは口数が減り、時折なにやら悔しそうに唇を噛んだりしている。二人ともそれぞれ状況は違えどかなり精神的に堪えたようだ。シルヴィアも最近は心配そうに二人を見ている。アイスは二人程深刻ではないようだ。


「アイスは大丈夫か?」


「はい、確かにあれ程の邪悪な存在に触れたのは初めての経験でした。しかし私より強い存在には幾らでもあってきましたから」


 アイスはそう苦笑しながら意味有り気にソウマを見る。


「そうかよ」


 ソウマは自身も苦笑を浮かべてアイスに返す。


「(ナーバは今迄自分よりも強い存在に出会った事が少なかった。逆にアイスは以前から自分以上の強者に多く会って来ることが多々あった。その経験の違いが今回の精神的な事にかなり関係しているな。加えてアイスはヴェント国での戦いで実力だけでなく絶望的な状況下を乗り越えたことにより精神的にも大きく成長を遂げているからな・・・・)」


 そう考えながらソウマは視線をシルヴィアに膝枕されながら眠るシャルロットに視線を送る。シャルロットは最近は頻繁に眠ることが多くなった。ハイエルフの持つ感受性の中でも特に高い感受性を持ったシャルロットは今回魔神の邪悪な気を浴びてしまった。


「特にシャルは今回で《精霊神楽曲》を身に付けたわ。それもあってシャルは特に悪意や邪悪な存在に敏感になった。それに加えて《精霊神楽曲》を身に付けたばかりの所為か感覚の制御があまり上手くいっていないみたいなの・・・・・」


 シルヴィアはそう言いながらも自らの膝で眠るシャルロットの頭を優しく撫でる。シャルロットは時折苦しそうに呻きながら涙を溢している。


「可哀想に・・・・・・最近はいつも眠る時に怯えているの・・・・・・」


 ソウマかシルヴィアが傍に居なければシャルロットは最近眠る事すら出来ないでいる。


「シャルの精神は恐らく時間が解決してくれる。シャルの恐怖はシャル自身の恐怖もあるがそれ以上に魔神の悪意に怯えた精霊やその他の生き物の恐怖感も同時に感じているからだ。徐々に感覚の制御も出来てくるはずだからそれも次第に落ち着くだろうよ」


 そう言いながらもソウマもシャルロットの優しく撫でていく。ソウマとシルヴィアが触れている為かシャルロットの表情が苦しそうなものから穏やかなものに変わり寝息も規則正しいものに変わる。自分が信じる最も頼りになる存在を直に感じることによって大分安心感を得ているようだ。


「そうだといいのだけれど・・・・・・・・・」


 シルヴィアはシャルロットの苦しみをまるで自分が感じているかのように不安そうにそれでいてどこまでも優しく彼女の頭を撫でる。アイスも表情や態度にこそ表さないがその視線はシャルロットを心から心配している。


「ナーバ、貴女は大丈夫なの?」


 シルヴィアはシャルロットを心配しながらもナーバにも視線を向ける。当然のことシルヴィアもナーバの心の内には気が付いている。しかしシルヴィアはナーバの事は大切な義妹としてみてはいるが一人の強い戦士として認めている部分もある。勿論精神的に未熟な部分もあることは承知しているがナーバならそれも自分の強さで乗り越えることが出来ると思っている。何よりもナーバ自身が誇り高いゆえに自身で乗り越えることを望むはずである。だからこの言葉は心配する以上に確認の意味合いが強い。


「・・・・・・・うン・・・・・」


 問われたナーバは俯きながら何とかといった感じで言葉を返す。


「・・・・・・・・・」


 シルヴィアはその様子に心配しながらも何も言わなかった。ナーバはそれから暫く俯いて考え事をしていたが突然顔を上げて何かを決意したかのような表情でソウマの元に歩いて行く。


「・・・・・どうした?」


 ソウマは座った状態のままナーバを見上げる形で言葉を投げる。ソウマは言葉こそ問い掛けだがその表情は今からナーバの言う事が何か分かっているかのような表情だ。


「ソウマ、お前に頼みがあル。私と・・・・・・・戦ってくレ」


「・・・・・・・何故だ?」


「今の私には命を賭けた死合が必要なんダ」


「・・・・・・いいだろう」


 ソウマは少しの間ナーバの瞳を覗いていたがその後に了承の返事を返した。


 ※※※※


 そして現在ソウマとナーバは広い草原で向かい合っている。


『ソウマよ・・・・・・・』


 するとソウマの脳内に思念を飛ばす存在があった。


『竜王のおっさんか・・・・』


 思念の正体はゼファルトスだった。ゼファルトスの思念はソウマだけに飛ばされているようで他の者は気づいていないようだ。


『丁度いい、おっさん。アンタには先に謝っとかなきゃいけないかもしれない。俺はもしかしたらアンタの孫娘を殺すかもしれない』


『・・・・・・・・』


『もしそうなった場合、俺の命をくれてやるとまでは言えないが可能な限り俺に出来る償いを・・・・・・』


『ソウマよ・・・・・・・』


 ソウマの謝罪と償いの言葉をゼファルトスの静かな思念の声が遮った。


『謝るのは我の方だ。ナーバの心の内は我も気が付いている。ナーバの心の内には魔神の奴めの恐怖が根付いてしまっている』


 そう、あの魔神の気配を感じた日からナーバの心の奥底には魔神の恐怖が住み着いていた。ソウマやナーバやゼファルトスのような自分を上回る強者と出会うのとは違う。強大なまでの純粋な悪の気配。エルフやハイエルフのような感受性を持たないが竜として本能的な部分の強いナーバはその恐怖のより根源的なモノを感じたようだ。


『その恐怖によりナーバ生まれて初めて死にたくないという感情を抱いた。ソウマ、かつて其方がナーバに浴びせた死の恐怖とはまた違う。魔神の悪意に心が屈してしまった。お主の時は死を覚悟したが魔神の恐怖はナーバに死を忌避させた。それは誇り高い竜族であるナーバには死以上に辛い事だ。その恐怖を拭い去るにはかつて己が感じた最も大きな恐怖や強さを持った相手に相対するしかない』


 そしてそれが出来る者などこの世界でもほんの一握りしか居ない。それも魔神に匹敵するだけの実力を発揮出来るだけの存在等恐らくは世界最強と言われるソウマか【神竜王】ゼファルトス位のものであろう。


『分かってる・・・・・・。だから俺もナーバの頼みを了承した。そしてその結果ナーバが死ぬかもしれないことも勿論分かっていた。だから・・・・』


『だからこそ・・・・・・・その役目は我が請け負うべきだったのだ。だがナーバはそれをしなかった、恐らくは我ではナーバに対してそこのまで非情に成り切れぬと知っていたのだ。だからこそナーバはお主に頼んだのだ』


 以前ソウマはアイスに対しては本気で殺気を持つことは出来ないと言った。確かに親しくなり身内同然ともいえる存在相手に本気で殺意や敵意を持つことは難しい。しかしソウマはそれでも超一流の戦士である。戦場で一度相対すればたとえそれが親兄弟であろうと・・・・・恐らくはシルヴィアやシャルロットであろうと斬ることが出来るだけの精神の切り替えが可能である。勿論それは相手がそう望めばというのが大前提ではあるが、そして今はその条件が満たされた状態である。


『ああ、俺ならナーバに対して躊躇せず戦う事が出来る。ナーバもそれを理解していたんだろうさ。だから先に謝っておこうと思ってな。もしかしたら俺はアンタの孫を殺すかもしれない』


『済まない、ソウマ。もし今回ナーバが死んだとしても我はお主を責めん。寧ろ感謝と謝罪をしたいほどだ。我がやるはずの役目を代わってもらいもしナーバが死ねばお主の心に止むことのない悔恨を刻んでしまう。それでもこのままではナーバは戦士として二度と再起は出来ぬ。それは死ぬよりも辛い事・・・・・』


 竜族はこの世界の生態系の頂点に君臨するという誇りと自負を持ち、己のまた強者足らんとする矜持を持っている。そして闘争を尊び何よりの喜びとする竜族にとって心折れ二度と戦えない状態など死んだも同然、否死ぬ以上に辛い生になろう。


『頼むソウマ、どのような形でも良い。ナーバを救ってやってくれ』


『分かった。アンタの孫を信じな』


「・・・・・どうした、ソウマ?」


 ゼファルトスとの念話はソウマの脳内で行われた一瞬の出来事であったが気が一瞬逸れたソウマを訝しんだナーバがソウマに尋ねた。


「いや・・・・何でもない。始めようか」


 ソウマはそれを誤魔化す様に再び《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を構える。


「・・・・・・・行くゾ!」


 そう言ってナーバの体を一瞬では白銀の鱗が包み込む。ナーバは開始と同時に《竜装形態ドラゴニア・フォーム》となってソウマに接近する。しかし・・・・・。


「!」


 ソウマに向けて全力で踏み出そうとしたナーバに衝撃と痛みが襲った。


「・・・・・クッ!」


 いつの間にか居合の構え《絶影》を放ったソウマはナーバがソウマに向かって踏み込もうとした一瞬の体の緊張を狙って一刀の元にナーバの右腕を付け根の部分から切り飛ばしたのだ。


「(《竜装形態ドラゴニア・フォーム》の私の右腕を刹那の抵抗も無く斬り飛ばすとは・・・・!)」


 即座にナーバは斬り飛ばされた己の右腕を掴もうとする。竜族の高い再生力を持ってすれば切れた腕を再び付けることなど造作もない。しかし・・・・・・。


「余裕だな。俺を前に斬れた腕をわざわざ拾おうとするなんてな」


「!」


 ナーバが斬り飛ばされた右腕の方に振り向いた瞬間、ナーバの耳元でソウマの言葉が聞こえてきた。驚いたナーバが正面を向けば既にソウマがナーバの目と鼻の先まで接近していた。


「くッ!」


 ナーバは咄嗟に残った左腕を振るってソウマに竜爪を繰り出す。しかしそれはあっさりと躱される。そしてソウマは躱しざま左足の蹴りをナーバにお見舞いした。


「ぐあッ!」


 咄嗟に左腕で防いだナーバだが構わずソウマはそのまま足を振り切ってナーバを吹き飛ばす。吹き飛ばされたナーバは地面に叩きつけられる。


「(一旦距離を取って体勢を・・・・・・)」


「距離を取るなんて後ろ向きな考えじゃあ駄目だぜ」


「!」


 一瞬距離を開けようと思案したナーバにソウマが又も一瞬で接近して蹴りを放ってくる。咄嗟に横に転がって回避したナーバに更に追い打ちの斬撃をお見舞いする。爪で防いだナーバだが《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の一撃にナーバの爪は一瞬の抵抗の後に両断される。しかしその一瞬の間を利用しその反動でナーバは後方に自ら吹き飛んで逃れる。


「何とか逃れたようだが本来のお前なら腕を飛ばされても気にせず俺に攻撃を仕掛けただろう。不利になれば距離を取ろうとはせずに逆に距離を詰めて俺の攻撃を牽制しただろう。今、お前の心は常に後ろ向きな思考が支配している」


「・・・・・・・・」


 ソウマの指摘にナーバは苦々しい顔で蹲っている。


「以前のお前なら考えられない事だが今のお前は勝つことを前提の考えではなく負けない事を前提に戦っている。それでは生死を賭けた戦いの中ではあと一歩踏み出す機会を失い命までも失うぞ。そしてそれは同時にお前が自らの命を失うのを恐怖しているからに他ならない」


「・・・・・・・・」


 ソウマの言葉にナーバは何も言えない。ソウマに言われずとも自らの心は自らが一番良く分かっている。しかしそれでも尚魔神の恐怖はナーバの中に巣くっている。そしてそれは分かっていても拭えるものではない。


「命を惜しむのは悪い事じゃねえ。むしろ自らの命を顧みない馬鹿はそれこそ早死にする。だがないざという時に己の命を掴み取るつもりで死に飛び込むことも必要なんだ。それが出来てこそ死線の中で生を掴み取ることが出来る」


 ソウマはゆっくりとナーバに向かって歩みを進めながら言葉を続ける。


「今までお前は生まれ持った本能に任せて戦ってきた。だが今回お前は圧倒的恐怖によって己の本能を恐怖で塗りつぶされた。それをどうにかするには恐怖を克服するしかない」


「恐怖を・・・・・・克服・・すル」


 そういった瞬間ソウマがナーバの視界から消える。ナーバがソウマの姿を捜そうとすればソウマは既にナーバの頭上に飛んでおり《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を振り下ろしていた。


「《竜鱗凱》」


 回避は不可能と判断したナーバは咄嗟に左腕の鱗にちからを集中させて鱗を厚くして斬撃を受け止める。


「ぐうううううううううッッッ!!!」


 斬撃を受け止めたナーバはその勢いまでは殺しきれずに地面に左腕から突っ込む形になった。斬撃を受け止めた左腕も受け止めはしたが鱗はズタズタに切り裂かれてその下の皮膚を深く傷つけている。


「(オリハルコンどころかアルティマタイト製の武具でさえ防ぐことのできる私の竜鱗が・・・・・・・しかも防御に集中してさえ威力を殺しきれんとは・・・・・・流石はお爺様の牙から打ち出された剣・・・そして・・・・)」


 ナーバはゆっくりと前を向く。ソウマは先程と同じようにゆっくりとナーバに向かって歩を進めていく。


「(これが・・・・・・お爺様すら凌駕した世界最強の男か・・・・・・!)」


 ナーバの全身に冷汗が噴き出す様に出てくる。以前に竜の里で体験したソウマの気と比べ物にならない。


「(今だからこそ分かる。あの時のソウマの放った殺威は殺気よりも威圧の方が強く殺気はほとんど込めていなかった。だが今は本当に私を殺すつもりの殺威を放っている)」


 今まさにナーバに向けられているのは正真正銘の世界最強の男が放つ殺威だ。もしこれを浴びたのが通常の生物であればそれだけで心臓を停止させるだろう。圧倒的強者の放つ死の気配に自ら生命活動を放棄してしまうのだ。


「ああ・・・・・・・あ・・・・・・」


 ナーバの足が後ろの後ずさる。


「逃げるか?」


 ソウマが静かにナーバに問い掛ける。


「逃げることは悪い事じゃない。どんなに汚く惨めだろうと野生では生き残ろうとするものが強い。だがな今のお前の逃げは違う。それは戦いの恐怖に屈した逃げだ。逃げると言う行為も次に繋がるからこそ意味がある。明日は勝つ為に、いつかは乗り越える為にのな。だがお前の逃げに次は無い。もしこの場から逃げ出せばお前は二度と闘いの場に立つことはできないだろう」


 ナーバの足が震える。後ろに下がろうとする恐怖に屈した心と戦えと叫ぶ戦士の心が鬩ぎ合う。


「そしてそんなお前を見るのはゼファルトスのおっさんも望まないし俺もそんなお前を見るのは忍びない。何より・・・・・・・そうなる事をお前自身も望みはしないことも分かっている。ならばこそ、このままお前の心が恐怖に屈したままの生に在る位ならここで引導を渡してやるのが仲間として過ごした俺のせめてものお前への情だ」


「!」


 ソウマの言葉にナーバではなく見守っていたシャルロットとアイスから息を呑む気配が伝わってくる。シルヴィアは理解していた様子だがそれでも痛ましそうな顔をしている。


「・・・・・・・・・」


 ナーバはソウマの言葉にすら返すこともできずに尚も振るえている。


「怖いか・・・・・怖いのなら抗うな。せめて一撃で楽にしてやる」


 ソウマはそう言って《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を上段に構える。そして恐怖して動けないナーバの頭上に向かって剣を振り下ろした。


 ガキッ!


 しかし聞こえてきたのはソウマの剣を防いだナーバの爪が出した音であった。


「・・・・・・・!」


 そして何よりもそのことに驚愕していたのはナーバ自身だった。


「(・・・・・これは!)」


 心は折れていた。戦意は最初から無かった。心を支配する魔神の恐怖を払拭する為にソウマと戦おうとしたがやはり体は心に引きずられ様に恐怖に屈していた。諦めていた。己は戦士として終わったのだと。誇り有る竜族としての存在意義すら失ってしまった。このまま生きていてもしょうがない。だったらせめて自分が尊敬する祖父が唯一認めた男に自らの命を絶ってもらう事が最後の救いとナーバはソウマが剣を振り下ろす瞬間確かに死を受け入れた。しかし予想に反してナーバはソウマの剣を防いだ。それもナーバの意思とは関係なく。


「・・・・・・・」


 ソウマはそれに動揺することなく二撃三撃と追撃を見舞った。しかしその攻撃も全てナーバは防いでしまった。それをナーバ自身が一番困惑した顔をしている。


「(一体これは・・・・・・・)」


「無自覚なようだな」


「なニ?」


「今お前は俺の一撃で死を受け入れたな?だが、別のことも心に抱いたはずだ」


「・・・・・」


 その時確かにナーバは死を受け入れた。だが同時にもう一つの思いが心に浮かんできた。それはシルヴィアやシャルロットやアイスの事。自分が死ねば彼女達が悲しんでしまう。彼女達の心が悲しみで曇る、そのことがナーバには何故か恐怖に屈する以上に心を苛んだ。そう考えた時ナーバは無意識にソウマの攻撃を防いでいたのだ。


「分からないか?」


「・・・・・・!」


 続く連撃をナーバは困惑しながらも全て弾いて見せる。


「今お前の心に思い浮かんだ思いこそお前の心が恐怖と戦うのに最も必要な思いだ」


「最も必要な思イ・・・・・・?」


 ソウマは一旦距離を取ってナーバから離れる。


「もしお前にまだ生き残る為の可能性があるとすればその思いを強く心に刻みつけることだ」


 そうしてソウマは再び剣を頭上に掲げる。しかし先程とは違いその剣《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》に膨大なちからが収束してゆく。


「決着だ。お前が今抱いた思いが本物かどうか、この一撃で確かめてやる」


「・・・・・・・・・」


「《竜王斬り》」


 直後振り下ろされるソウマの膨大な気の篭もった一撃。その一瞬の間にナーバの中で膨大な思いが駆け巡っていた。


「(姉者・・・・・・・シャル・・・・・・アイス)」


 この旅を共にして初めて得た同族以外に初めて心許せる存在。今まで同じ竜族以外の種族は自らの種族に劣るか弱い存在だと思っていた。祖父ゼファルトスがそうではないのだと教えられても正直理解は出来なかった。だがこの旅で知った。この世界には自らが知る以外の強さが有る事を・・・・・。シャルロットやアイスはシルヴィアやソウマに比べて圧倒的にちからが劣りながらも決して諦めることなく自分よりも強大な存在に向かって行くことが出来る。


「(何故だ・・・・・何故あの二人は・・・・いや、人族や亜人族の一部の者達は自分よりも遥かに強大な存在に恐れず向かって行ける?)」


 かつて幾つも見てきた。竜の谷には竜を倒して名声やその貴重な素材を求めて幾度も人族や亜人種などが自分達に挑みに来た。その多くの者は名声や金銭に目が眩んだだけの愚か者か竜を一目見て一瞬で恐れをなして逃げ出す臆病者達ばかりだった。しかし、極稀に違う者達が居た。名声でも金が目的でもない。自らの為では無く自分以外の為に竜の素材や竜のちからを求める者達。その者達は決して諦めることなく上位者たる竜に挑んでいた。彼等は恐れていない訳では無かった。その瞳は恐怖に染まり体は明確に震えていた。しかしそれでもその者達はその恐れに全く怯むことなく竜へと向かって行った。そんな彼等の姿に何かを満足した同胞たちがそんな彼等にちからを貸して言った。遠目から眺めながら当時のナーバにはそれが不思議でならなかった。しかし尊敬する祖父であるゼファルトスもそんな彼等を称賛するような瞳で見ていた。ナーバはそれをゼファルトスに問うてみても笑いながら『いつかお主自身が気付くが良い』と笑っていた。


「(その時の私には理解できなかった・・・・。己よりも強い者に向かって行くことは生物としてありえない。弱い生物は強い生物には向かってゆかないものだ・・・・・・)」


 生まれ落ちてよりこの世界の頂点たる【神竜王】ゼファルトスの血を継ぐものとして圧倒的な実力を持って生まれたナーバは気が付いた時には同族の一部以外を遥かに凌いでいた。


「(私はソウマが剣を振り下ろす瞬間に姉者やシャルやアイスの顔が浮かんだ。その時私の中で恐怖に勝る感情が生まれて体が勝手に動いていた・・・・・・)」


 ナーバの思案の間もソウマの攻撃は続いているがナーバはそれを片腕で防ぎ続けている。ナーバはそのままソウマの攻撃を防ぎ攻撃を受け止めた衝撃で切り飛ばされた右腕の所まで飛ぶ。そしてソウマから目を離さないまま足を使い自らの腕を跳ね上げる。空中で掴み取った右腕をそのまま斬られた傷口に付ける。すると右腕はあっという間に傷口に癒着し動くようになった。


「(そうか・・・・・これか!これがお爺様が言っていた・・・・・これが・・・・・)」


 そうして元に戻った右腕にも竜爪を伸ばしてソウマに対峙する。ソウマはそれを見届けると剣を腰に添えて腰を深く落とす。


「あれは・・・・・・・」


「《絶影》の構えね。ソウマも次の一撃で今のナーバを見極めるつもりみたいね」


「ナーバ姉様・・・・・」


 シャルロットがシルヴィアに強く抱きついてシルヴィアがそれを優しく抱きとめる。アイスは険しい表情で対峙する二人を見ている。


「シャル、大丈夫よ。ソウマを信じて、そしてナーバを信じてあげて・・・・」


「・・・うん」


 そう言って三人は二人を見守る。


「ナーバ、これで本当に幕を引こう。この一撃で本当に最後だ。お前が生き残るかどうか・・・・それはお前次第だ」


「・・・・・・・・」


 ナーバは無言で己の爪にありったけの気を込めて強化する。


「・・・・・行くぜ!」


 そう言ってソウマが踏み出した。ナーバもほぼ同時にソウマに向かって踏み出していた。


「(恐怖が消えた訳では無い。魔神の恐怖は変わらず私の中に有る。だがそれと同時にそれに負けないだけの暖かい気持ちが私の中に有る)」


 それはシルヴィアやシャルロットやアイスのことを想う事で芽生える気持ち。それがあればどんな恐怖にも躊躇なく踏み込めるという確信がナーバにはあった。


「(そうだ、今ならあの時の人族達の気持ちが分かる・・・・・・。己が身ではなく他人を想う事で恐怖を克服する強い気持ち。これこそが・・・・・・!)」


「勇気だ」


「!」


 交錯する瞬間ソウマが言葉を口にする。そうしてすれ違いざまに両者は一撃を交わし合う。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 攻撃の交錯によりお互いの位置が入れ替わる。両者はしばらく動かなかった。


「あ・・・・・」


 シャルロットが声をあげる。両者は動かなかったがその瞬間ナーバの両腕の爪が折れソウマの頬からは小さくはあるが一筋の小さな切り傷が出来ていた。


「ナーバ、今お前が胸に抱いた思いこそが恐怖に抵抗する為の最も強い気持ちこそが勇気だ」


「勇気・・・・・・」


「今までお前は生物として上位者であるがゆえにそもそも命の危機に瀕する事が無かった。だからお前は今迄己より強い者に・・・・本気で自らの命を脅かす存在がいなかった故に恐怖が芽生えることもなかった」


「・・・・・・」


「無理もない。お前もシルヴィアも生まれながら上位者として自らに恐怖を与えるような奴がいなかった。そして自らもその実力に絶対の誇りと自信があった。だからこそ初めて感じた心からの恐怖に心も体も簡単に屈してしまった。だがなり理性ある生物にはその恐怖に対抗するためのものがある。それこそが勇気だ」


「勇気・・・・・」


「本能でしか行動できない獣はそれのみしか出来ない。だがナーバ、お前等竜は世界最強の種族でありながら同時に心を持つ慈悲深き存在だ。だからこそお前等竜族はこの世界の頂点に君臨し続けることができる。今お前は竜族として本当に一人立ちしたって事だな」


「私が・・・・・」


『その通りだ・・・・』


 すると天より厳かな声が響いてきた。

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