44話 微睡みの悪意
ソウマ達は現在ヴェント国の入り口になる渓谷の出口の場所にいた。
「此度のご助力大変感謝します。ソウマ殿達の加勢が無ければ私もかなりの苦戦を強いられていたでしょう」
「気にするな。お前等竜族にシャルの国も世話になっている。なにより俺等の仲間の身内の問題なら俺等の問題だ」
「その通りですウェントゥス様。今回の戦いで私自身も成長することができました。私自身にとっても大きな意味のある戦いでした」
「私に付いては気にする必要は無イ。同じ竜族である貴様の問題なら私の問題でもあル」
「私も大丈夫です。私が精霊さんを助けたくて勝手にやったことなんで。むしろウェントゥス様には私の身を護ってもらったことにお礼を言いたいくらいです」
「私はそれこそ礼は不要です。私にとってソウマや妹達のやることが私にとっての全てですので」
「皆さんの言葉に感謝を・・・・・・」
ウェントゥスはその場でお辞儀をする。
「しかし良かったのですか?まだこの国に滞在して行かれても大丈夫だったのでは?国王などはかなり残念がっていたと私も巫女が言っていましたが・・・」
「ああ確かにな・・・・・・」
あの後ソウマ達は戦闘結果を報告した。ウェントゥスの巫女からもウェントゥス自身が魔族が去ったことを伝えたことにより王国側は正式に勝利宣言を出した。その後に戦勝祝いの祝賀会を開いたのだが・・・・。
「言い寄ってくる者が多すぎてウンザリしそうだったわ」
シルヴィアが顔を顰めながら言う。祝賀会には一応ソウマ達は全員参加した。ソウマはいつも通りの恰好であったがシルヴィア達女性陣は皆ドレスで着飾っていた。幻術で本来の姿を隠しているとは皆超一級の美女・美少女である。当然沢山の男達に声をかけられていた。シルヴィアとアイスは上手くあしらいながらナーバとシャルロットの世話をしている。そんなナーバとシャルロットは食べ物に夢中で言い寄る男に目もくれていない。
「(そもそもシルヴィア達が幻術無しでいたら男共はまともに機能しないからな(特にシルヴィア))」
そう思いながらソウマは一人壁際で酒をチビチビと飲みながら苦笑している。シルヴィア達が男に言い寄られてはいてもそもそもシルヴィア達自身が言い寄る男達を男と認識していない感すらあるので嫉妬するしない以前の問題である。まあそれはそれとして視線で威嚇はしているので突如寒気を覚えた男性が会場を出るという事態が数件発生している。そしてそれに気付いているシルヴィアが実に嬉しそうな視線をソウマに向けていた。
「それだけなら別に良かったのよ」
シルヴィアがそれを思い出して感想を述べる。
「何か他にあったのですか?」
「私に言い寄る男は別にいいのよ。そんなもの最初から視界に入れる気すらないし。シャル達に言い寄る男もまあいいでしょう。どうせ私と同じで彼女達も他の並の男なんて目もくれないでしょう。許せなかったのはソウマに他の牝が言い寄った事よ」
「そっちかよ!」
ソウマが思わず叫んだ。確かにシルヴィアの言う通り壁際で一人酒を嗜んでいたソウマの元にも少なくない数の着飾った女性が話しかけた。話の内容の大半はソウマを自分の家の専属の警護もしくは冒険者にとの勧誘や純粋にソウマ自身が目当ての者もいた。
「俺も別に他の女には興味ねえよ。それはシルヴィア自身が良く分かってるだろうが」
「それは十分承知しているわ。それでも理解と納得は別問題よソウマ。簡単にいうと嫌なものは嫌なの!」
シルヴィアは昔から特殊な状況を除いて自分が許した異性以外の者がソウマに近寄るのを極端に嫌がる。それは本人曰くもはや理屈ではないらしく理性すら凌駕する本能の領域だとかなんとか・・・・・・。
「それで姉上の機嫌がどんどん悪くなってしまって結局祝賀会も早めに切り上げて現在に至るという訳です」
「まあ元々一カ所に長々と留まるつもりもないからな。用が済んだらさっさと移動するに限る」
「勇者とやらも存外に拍子抜けだったナ」
あの後救出されて催眠状態から脱した勇者であるが記憶の欠如が見られここ近況の記憶が欠落していたのだ。そんな状態でソウマも目的を果たす気にならず(面倒くさくなったからでは決してない)取りあえず鎧の状態だけを確認しておいた。
「まあ鎧の状態を見る限りじゃあそこそこの使い方をしているようだしあのまま使わせていても大丈夫だろう。多分な」
「それ以前にあの程度の実力でソウマの鎧を与えていいのカ?」
「まあ言っちゃあ悪いがあの程度の実力だからこそ少しでも生存確率を上げたいっていうシャルなりの優しさだ」
「ソウマはそれでいいのカ?」
「俺自身は正直そこまであの鎧を使った事は無いからなぁ」
「あれは精霊達やエルダードワーフ達がソウマにどうしてもお礼の品が送りたいからって作ったものだからね」
「俺は《聖王竜剣》だけで十分だったんだが・・・・・・。まあそれでも一応俺の為に作ってくれたものだからな。持ってはいたがどうせなら使ってくれる奴に使わせた方が防具も浮かばれるだろう?」
「そういうものカ?」
「そういうもんだ」
ソウマの言葉を聞いてもナーバは憮然とした顔をしている。
「しかし神の連中もわざわざ別の世界の人族に別の世界を救わせようと何を考えていル?」
「そこは深く考えても無駄なんじゃないか?あいつらのやることは基本全て自分基準の善意だからな」
そこにウェントゥスが口を挟む。
「我が主ゼファルトス様に昔にお聞きしたことなのですがどうやらある特定の世界の者は神の祝福を与えやすい者がいるそうです」
「この世界の住人にも神の祝福を持っているわ。この世界の住人に全く適性が無いわけではないのでしょう?」
「その辺りは私にも何ともいえません」
「まあその辺の疑問は今は置いておこうぜ。別に祝福どうこうは俺らにさして重要な事じゃないし」
「まあ事実私はそんなもの関係なしに強い人をたくさん知っています」
そう言ってアイスはソウマやシルヴィアやナーバを見る。
「これ以上話していても別れにくくなるだけだな。そろそろ行こうか」
「そうですね」
「お腹すいた~」
「次も飯の美味い所がいいナ」
「それではソウマ殿、姫様、そして御三方。此度は本当にありがとうございました。不要とは思いますが皆様の旅の無事を祈っております」
「どうした、アイス。やっぱりいつものじゃないと落ち着かないか?」
ソウマが指摘した通りアイスを見ればどこか所在無さげに腰に下げた剣を触っている。その腰にあるのはいつもの《アイスコフィン》ではなく普段ソウマが持っている物と同じエテルニタ王国の騎士が使っている一般的な騎士剣である。
「はい、やはり《アイスコフィン》が無いとどこか落ち着きませんね。早く直るとよいのですが・・・・・」
「まあいつになるかわ分からんが絶対に直るから安心しろ。エテルニタ王国のエルダードワーフ達の腕はお前も知っているだろう?」
「はい」
「折れたのは刀身のみで核である精霊石の部分は無事だったのだし。しかも今回は貴女の成長に伴って《アイスコフィン》の精霊も成長したのでしょう?だったら前より強力に成って戻ってくるわよ」
「今回が折れた要因の一つにお前と氷の精霊の力がの素材の耐久値を超えたからだな」
武器や防具の発揮できる能力の上限には素材となった材料の質が大きく関わってくる。持ち主や宿っている存在の力量によっては素材の耐久値が劣り破損してしまう。永い年月を経た武器防具などは自ら素材の質や性質を変化させていくが今回のアイスの場合は成長速度が武器の耐久値を上回ってしまった。しかもアイスとの同調を果たした氷の精霊コフィンも大きく力を上昇させた。《アイスコフィン》の元々の素材はミスリルを基本として少量のオリハルコンを含んだものだ。本来はそれでも十分すぎる程の素材を使用した武器である。しかしそれでもアイスの成長には役不足だった。もし次に新しく武器を創るにはそれなりの素材が必要になる。
「ナーバには感謝の言葉もありません」
「何度も言ったが気にする必要は全くなイ」
そう言うナーバの口の中を見れば一番大きな左右の牙の内、右側の牙が抜けて無くなっていた。
「ナーバの牙ならアイスの新しい剣の素材としては申し分ないだろうな」
「ついでに私の影の中にある良さそうな剣も素材に渡したしね」
当初はウェントゥスが牙を提供しようとしたのだが、それを聞いたナーバが自らその場で牙を折って渡してきたのだ。ナーバの牙は竜族の牙としては最高級の物だ。流石に祖父である【真竜王】ゼファルトスには及ばずとも竜王の牙にすら見劣りしない代物である。オリハルコンすら易々と噛み砕く牙の硬度は世界屈指の素材である。
「まあ楽しみにしてろって」
「はい」
「世界最強のソウマの武器である世界最強の剣を造った実績のある者達だもの。特に親方のガイザンなんて久々の大仕事にかなり腕が鳴るって言ってたわ。最上級の竜族の牙を素材として扱えるなんて本来長命種でも一生に一度あるかないかだしね」
シルヴィアはその場面を思い出して微笑を浮かべて笑う。
「十分期待させていただきます」
「さあ行くか」
そう言ってソウマが言う。
「どうしたのシャル?」
するとシルヴィアが少し不安そうな声を出す。
「ん?」
見れば先程から喋っていなかったシャルロットが両腕で体を抱く様にして蹲っている。その顔は今迄に無い程に真っ青に変わっている。体も小刻みに震えておりシルヴィアが心配そうにシャルロットの体を抱き締めている。
「怖い・・・・・・・怖いよ」
「どうしたシャル!」
ソウマのその様子に只事ではないと思ったのかいつにもまして真剣な表情をしている。
「一体何事ダ!?」
「シャル!?」
ナーバとアイスも険しい表情で警戒心を高める。
「怖いよ・・・・・怖いのが・・・・・・」
「シャル、しっかりして・・・・」
シルヴィアが心配しながら必死にシャルロットを抱き締める。
「!」
そしてソウマも唐突に空を見上げて、次いで地面を見つめる。その表情にはどこか驚愕が浮かんでいる。
「師匠?」
「どうしタ?」
「怖いのが来るよぉ・・・・」
「皆!気を付けろ!」
シャルロットが不安げに言い、ソウマが皆に警告を発した。
ーーーーーー次の瞬間、世界が鳴動したーーーーーーーー
「!」
「!」
「!」
「!」
ソウマ・シルヴィア・ナーバ・ウェントゥスが同時に反応する。それと同時に凄まじい地震が大地を襲う。
ドクンッ
そして大地の震動音にも掻き消されることなく全ての生物の鼓膜に響く様に鼓動が鳴り響く。
ドクンッ
そしてその鼓動に連動していくように地震がより揺れ動く。
「何ダ!何が起きていル!」
「この・・・・・鼓動は・・・・・何者かの鼓動なのでしょうか?」
アイスが振動でバランスを崩し地面に膝を着く。その顔は大量の冷汗で濡れており、シャルロット同様に真っ青になっている。
「間違いなく何者かの鼓動です!しかもこれ程の存在・・・・・!ゼファルトス様に匹敵する存在感が・・・!」
「そんな馬鹿な!」
ウェントゥスが動揺を表しシルヴィアが驚愕する。
「うあああああ・・・・・・」
「くうううう・・・・・・」
シャルロットとアイスが一際苦しそうな表情に変わる。
ドクンッ
徐々に鼓動の間隔が早くなっている。それに合わせるように地震も大きさを増していく。
※※※※
~竜達の谷~
『馬鹿な!』
大地の鳴動と鼓動が始まると同時にゼファルトスは驚愕に包まれる。
『いや、間違いない。封印はまだ解かれてはおらん』
体を起こし周囲を警戒するように見回す。
『これは・・・・・何かを探している?』
※※※※
「これが魔神って奴か?」
ソウマが揺れる地面に立ちながら周囲を見回しながらそう呟く。
「魔神!?これが魔神なのソウマ!?」
シルヴィアがシャルロットを抱き締めながらソウマに尋ねる。
「まず間違いないだろうぜ。これ程の存在感を示す存在は俺は竜王のおっさんしか知らねえ。しかしおっさんはこんな邪悪な気配を持っちゃいねえ。神にもこんな奴が居るなんて聞いた事が無い。だったら後は消去法だ」
「そん・・・・・な!」
シルヴィアは驚愕する。まさしくソウマが言う通りこの鼓動を放つ存在の規模は暫定でゼファルトスに匹敵する。しかもそこから感じることのできる邪悪さはこれまで出会ってきたどんな邪悪な存在とも比較にすらならない。
「ああああ!」
「う~~ん!」
シャルロットとアイスの苦しみ具合がますます増している。
「どうして二人がこんなに苦しむの!?」
「探してるんだ」
「探してる?」
「自分の遊び相手を探しているんだ。こいつはある程度の実力や特殊な感性を持つ奴だけが受信できる念のようなものを放っている。シャルロットとアイスはそれに当てられてるんだ」
ソウマの言う通り今のこの世界中で一定の者が苦しみもがいていたり圧倒的な存在を感じて押し潰されそうになっている。
「恐らく封印が完全に解かれたわけじゃない。ある程度の封印が解かれて魔神の意識だけが目覚めて外界に干渉してるんだ。そして自分が完全に封印から出た時の遊び相手を探してるんだろうぜ。全く餓鬼かこの野郎は」
「そんな暢気な事を言っている場合では無いだろウ!」
「何とかならないの?」
「恐らく今我々には魔神の念が特に強く届いています。それにより重圧がより強くなっている」
シルヴィアとナーバとウェントゥスも実は魔神の念に押さえつけられるようにされている為に体がまるで超重力でも掛けられているかのように押さえられている。今この場には世界有数の実力者が数人も集まっている為に得に強く魔神の意識が向いているのだろう。
「魔神の野郎の意識を無差別なモノから一方向に固めてしまえばいい」
そう言ってソウマは《聖王竜剣》を取り出す。取り出された《聖王竜剣》にソウマが気を籠める。《聖王竜剣》の柄の宝玉と竜の眼が輝きを放つ。刀身も眩い輝きを増し凄まじい力が凝縮されていく。
「《聖王竜剣》!お前の見せ場だ!寝坊助野郎に教えてやろうぜ!」
ソウマの言葉に呼応するように《聖王竜剣》の輝きが更に増し刀身が唸りを上げる。
「テメエの遊び相手は、ここだこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ソウマはその勢いのまま《聖王竜剣》を地面に突き立てる。突き立てられた
《聖王竜剣》は徐々に輝きを増しながら唸りを上げていく。
「おおおおおおおおおおお!!!!」
ソウマはそれを凌ぐ勢いで凄まじい闘気を放出する。それはまるで噴火する火山のように吹き上がりソウマの頭上の雲を全て吹き飛ばす。
ドクンッ!
ソウマの闘気に反応したのか響く鼓動が一際大きくなる。
「この寝起きの無差別野郎が!大人しく寝てろ馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ソウマが咆哮を上げる。それと同時に更に吹き上がる闘気の噴火がソウマの頭上だけでなく周囲一帯の全ての雲の吹き飛ばし巻き上げられた瓦礫が宇宙まで駆け上る。そして地面もソウマの闘気の影響で更に揺れが増す。
「おおお!これがソウマ殿の闘気か!なんと凄まじいのだ!これが我が王すら凌駕する戦士の闘気!肌が震える程の闘気と覇気が私の肌だけでなくこの惑星全体すら震えている!」
「ですが・・・・・体が楽になりました」
そう言ってアイスが起き上がる。その顔は先程までの青褪めた表情とは一転して通常の状態に戻っている。シャルロットも同じようでシルヴィアに抱かれた状態ではあるが今は穏やかな顔で寝ているようだ。
「ソウマの闘気が魔神の念の影響力を相殺しているのよ。というよりも魔神の意識がソウマに集中しているといった方が正しいかもしれないわね」
『ヴォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!!』
すると遥か彼方より凄まじい地鳴りでもって咆哮が響き渡る。
「お爺様!?」
「我が王!?」
ナーバとウェントゥスが驚いたように顔を上げる。
「ゼファルトス殿もソウマと同じ意図のようね」
「おおおおおおおおおーーーーー!!!!」
『バアアアアアアアアーーーーー!!!!』
両者の咆哮が重なり唸りとなって世界中に轟く。この世界で頂点に君臨する最強の雄2頭による咆哮は魔神の鼓動すら遮って全ての者にその存在を存分に知らしめる。
ドクンッ
魔神の鼓動が更に一度だけ大きくなる。その後にピタリと鼓動と地震が止む。それに合わせるようにソウマとゼファルトスも闘気の放出を止める。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・止んだ?」
辺りが先程とは嘘のような静寂に包まれる。
「・・・・・いや」
次の瞬間ソウマの体をおぞましいまでの邪気が包み込む。
「!」
「ソウマ!」
「ソウマ!」
「ソウマ殿!」
「師匠!」
それは直接浴びせられているわけでもないシルヴィア達にすら怖気を催し寒気を呼び起こすほどのモノであった。まるで全身に纏わりつくような粘着質な程の邪気はソウマの全身を覆う。
「品定めは終了って分けか?」
恐らくは現在ゼファルトスの所でも同じ事が起こっているのであろう。ソウマは浴びせられた邪気を特に気にした風も無く、悠然と受け止めている。
「どういうことなの?」
「どうやら魔神の野郎は目覚めた時の自分の遊び相手を探していたらしいな。そんで今のでどうやらその遊び相手に俺とゼファルトスのおっさんが選ばれたようだな」
「それで今回は大人しくなったっていうこと?」
「そうだな。恐らくはまだ封印が解かれた分けじゃないだろう。今のを感じて分かったが魔神が本当に完全に復活を果たしたんならこの程度で済むわけがねえ。ありゃあ存在そのものがある種の天災だな。しかも世界崩壊級の超弩級の天災だ。それだけの存在がこの世界に出てきたんならこの程度の影響で済む方が不自然だからな」
『その通りだ』
突如ソウマ達に脳内に強大な存在の思念が飛び込んでくる。
「ゼファルトスのおっさんか」
『ソウマの言う通り、魔神の奴はまだ完全に封印から出た訳では無い。何らかの形で封印が一部弱まり魔神の意識のみが一時的に封印から脱出したのだ。何故に封印が弱まり奴の意識が復活したのかは謎だがその復活も今回の一度限りだろう。恐らく奴自身もかなりの無理を通しての行いだろうからな』
「そんな無理をしてまで自分が復活した時の遊び相手を探したって分けか」
『有体に言えばよほど封印内で暇を持て余していたのだろうよ。自分が出た時に最短最速で自身の憂さ晴らしが存分に出来る相手を探したのだろう』
「しかし当面は大丈夫とはいえどうして封印が弱まったのか原因を突き止めなけりゃあまた封印が弱まっちまうぞ」
『それについては我のほうでも探ってみよう。ソウマ達はこれまで通り普段通りの旅をしてもらっていい。それが魔族共の牽制となるはずだ。此度のウェントゥスへの助力も感謝する。お主の仲間の成長と我が孫娘の心の成長も確かに見て取れた。実に見事だったと伝えてくれ。それではな・・・・』
そう言ってゼファルトスの思念はあっさりと消失した。
「ソウマ、今のはゼファルトス様からの念話?」
「そうだ」
「ゼファルトス様は今回の封印が弱まった件で何か知っておられた?」
「いや、何故かは竜王のおっさんにも分からんとさ。自分が調べるから俺等はいつも通り旅をしろとよ」
「そう・・・・・・・・」
「ん・・・・・・・・」
シルヴィアが息を吐くのとほぼ同時に気を失っていたシャルロットが目を覚ました。
「気が付いた?シャル」
「姉・・・・・様・・・」
しばらくシルヴィアを見つめていたシャルロットは急に震えだしてシルヴィアに強く強く自分から抱き着く。
「怖かったよ、さっきすごく怖いのがこっちをみていたよぉ・・・・」
そう言いながらシャルロットはシルヴィアの胸の中で泣きじゃくり始める。
「大丈夫・・・・・もう大丈夫よ。落ち着いて・・・大丈夫だから」
シルヴィアはシャルロットを落ち着かせる為に己の影から家を取り出してその中に連れてはいる。そして寝台に座らせたシャルロットの背中を己の慈愛の全てを乗せて優しく撫でる。ソウマも無言でシャルロットの所に行き優しく頭を撫でる。シャルロットはシルヴィアの腕の中で泣きながらソウマの腕の裾を掴んで自分の胸の中に持ってシルヴィアごと抱き締める。
「姉者・・・・・・・・」
するとナーバも言えの中に入って来て徐にシルヴィアに近づいてきた。そしてやや頬を赤らめながらもじもじしている。
「・・・・・・・・・・いらっしゃい」
シルヴィアは何も言わないナーバの意図を瞬時に察して片腕でシャルロットを抱きながらナーバに片腕を差し出す。差し出されたナーバはおずおずとではあるがシルヴィアの胸の中のシャルロットの隣に収まる。ナーバはゆっくりとシルヴィアの背中に腕を回す。そしてシルヴィアの胸に顔を埋めて静かに震えだす。
「怖かったのね」
「・・・・・・・・うん」
シルヴィアの優しく問い掛けるような質問にナーバはゆっくりと頷く。
「あんなに怖い気配を感じたのは初めてダ」
ナーバはゆっくりと話し出す。
「ソウマやお爺様のような私より強くて凄いと思うものとは違ウ・・・・・・・。只々、純粋に怖かっタ・・・・。普通の怖さとは違う感じがしタ・・・」
「(無理もないだろうな。ナーバは俺達の中で一番野生の本能の部分が強い。その分魔神の邪気から感じるより濃密な原始的恐怖を直接感じ取ってしまったんだろう)」
ソウマはシルヴィア達を見守りながらそう考える。
「それにしても・・・・・・・あれが魔神ですか・・・・・・・・」
アイスが自らの体を両腕で抱き、震えを抑えるようにしている。
「気配だけであれ程の威圧感と恐怖を感じさせるとは・・・・・・・。数万年前に神々や竜族などあらゆる種族を滅ぼしかけたというのも頷けます」
その発する声には明確な恐怖の感情が浮かんでいた。シャルロットやナーバ程ではないにしてもアイスもエルフとしての高い感受性を有している。魔神の発した邪気に当てられて恐怖を感じていたのだ。
「竜王のおっさんの話を聞いていた時は正直半信半疑だったと言われると否定できなかった。当時の竜王のおっさんの実力が今とどれ位違うのかは知らないがおっさんが手こずる程の相手ってのが想像できんかったからな」
「ソウマが言っても説得力が無いわねぇ」
ソウマの言葉にシルヴィアが苦笑いで言葉を挟む。
「ほっとけ。ともかくそう思っていたんだがあの気配を感じた限りだとそれも頷けるな。ありゃあ駄目だ。どうやったらあんな存在が生まれるのかは知らないがあれは純粋な悪だけでできた存在だ」
「どういうこと?」
「普通悪人も善人もどっちかに偏りがあるだけでどっちにも悪の心も善の心も存在する。ただ単にどっちかに傾きやすいってだけだ。神も行い次第で善神にも邪神にもなる。だがなあの魔神は最初から悪しか存在しねえ」
「悪しか存在しない?」
「ああ、生まれた瞬間から悪性の特性のみしか存在しないモノだ。神の連中は生まれた瞬間は何方の性質でも無く状況や資質によって性質が変わるらしいが魔神の奴は一切の混じりけの無い悪しか存在しない」
「そんな存在がいるなんて・・・・・・・」
「その一切の不純物の無い純粋な存在としての密度が魔神の野郎をあそこまで強大な存在にしているだろうさ・・・・・多分だけどな。それでもあれは封印状態の云わば表層部分のみの力だ。正直魔神が完全に封印から解放されたらどれだけの力になるのかは俺にも分からないな」
ソウマのその言葉にアイスから不安の感情が漏れ出る。
「師匠がそこまで言う程の相手とは・・・・・・想像以上の相手のようですね」
アイスは内心では魔神がいかに強大な相手でもシルヴィアやソウマが居れば大丈夫だろうという楽観的な感情があった。二人の実力を知るアイスからすれば相手が例え神であろうと何とかできるという確信があったのだ。しかしソウマの言葉にその考えが自身の願望だったと後悔してしまった。
「それではやはり魔神の封印阻止の方針で動いた方が良いのでは・・・・・・?」
「それについては特に方針の変更は無い」
ソウマの言葉にアイスが怪訝な顔になる。
「しかしこのままでは魔神が復活してしまうのでは・・・・・・・・」
「まあその時はその時だ」
「しかし!」
「その時は・・・・・・」
尚も言い募ろうとするアイスを遮るようにソウマが言葉を挟む。
「俺が倒すさ」
「!」
「相手が誰であろうとどんな奴であろうとどれほど邪悪であろうと俺には関係ない。そこに敵が居て倒すべき相手が居て守るべき奴らがいるなら俺は・・・・・・・」
ソウマの言葉に力を貰う様にシルヴィアは微笑みを浮かべ、シャルロットは泣き止み、ナーバは顔を上げ、アイスは目を見開いてソウマを見る。
「例え魔神が相手でも絶対負けないさ」
その顔はこの世界で最強を誇る男に相応しい顔をしていた。




