43話 精霊神楽曲
最新話です。
■■■■歌■■が■■■■聴こ■■■える
ソレは自らの意識に中において自我をおぞましい程の邪悪な思念の暴風に晒されていた。邪悪な思念はソレが今迄感じたことが無い程の凄まじい力と邪悪さでソレの自我を意識を奥底に押し込んだ。
■■何故■■■??■■何故■■■■歌が■■聞こえる■■■?
そしてソレの意識を押し込んだ邪悪な思念はソレに同時に凄まじい激痛を浴びせてきた。ソレはその痛みから逃れる為に無意識に己の力を周囲に撒き散らしながら暴れる。
■■■痛い■■■怖い■■歌が■■■■歌■
そしてそれこそが邪悪な思念の狙い。ソレは己が周囲にどんな影響を及ぼしているのかを把握できない。ソレはこのまま己が力を暴走させ続ければどうなるかすら意識が向かない。ただ只管に自らに振りかかる痛みと恐怖を振り払おうと意識と無意識の両方で暴れ続ける。
■■痛みが■■■恐怖■が■■和ら■■ぐ■■■歌■■■が■■聞こ■える
しかし突如ソレの意識に今迄とは違うものが紛れ込む。それは歌だった。ソレの種族は本来言葉を必要としない。周りの種族に合わせた言語を用いて意思の疎通を行う場合もあるがそれだけであり、歌などの文化を知ってはいても聞いても何の感慨も抱かなかった。しかしソレが今聞いている歌は違った。意識を邪念の暴風雨に呑まれながらも尚、ソレの意識の奥底にハッキリと届いてくる。しかも不思議な事にその歌を聞いていると苦痛や恐怖が徐々に薄れていくのをソレは感じていた。
何故■■だ■■■■??
ソレは邪念吹き荒ぶ深層意識の中で必死にその歌に集中しようとする。すると次第にソレは意識の奥底から次第に意識が浮き上がるように浮上する。段々と周囲の状況が見えてくる。自身を制御することはまだできないがそれでも周囲の状況を把握することまでは出来るようになる。ソレは歌だ聞こえてくる方に視界を向ける。そこに居たのは暴風吹き荒れる凶悪な風の中で巨大な竜の頭上に立ち歌を歌い続ける桃色の髪をした美しい少女だった。
※※※※
暴風吹き荒ぶ戦場で、シャルロットはウェントゥスの頭上で必死に何かに訴えかけるように歌を歌い続けていた。その歌は不思議と暴風による轟音の中でもまるで透き通るように聴く者の聴覚に確かにハッキリと届いていた。
『この歌は・・・・・・・』
ウェントゥスは黒い精霊が生み出す凶悪な暴風を自らの風で相殺しながらシャルロットの歌に驚愕の感情を覗かせていた。
『まさか・・・・・・・《精霊神楽曲》・・・なのか?』
ウェントゥスは言った自分の言葉が信じられないかのように茫然と嘆く。
「その《精霊神楽曲》とは一体何なのですか?」
すると突然ウェントゥスの頭上から別の声が聴こえてくる。
『シルヴィア殿、来ていたのですか・・・・』
「つい先程。シャルが心配だから見に来たのです。それよりも《精霊神楽曲》ってなんなのです?そんなもの私は聞いたことがありませんが・・・」
シルヴィアの到着にもシャルロットは何の反応も見せることなく歌い続ける。どうやら歌を歌う事に全ての集中力を割いているらしく周りの状況をほぼ把握できていないようだ。
『《精霊神楽曲》とは遥かな太古・・・・・・それもゼファルトス様が今だ若かりし頃に存在したハイエルフ達が歌ったと言われる歌です』
「ゼファルトス殿が若かりし頃といえば数万年前ね・・・・・」
『はい、現在ではハイエルフはおろか他の長命種の中ですら伝説に語り継がれるだけの代物です。私も聞いたことがありません恐らくこれを実際に聞いたことがあるのは太古より生きる神々達かゼファルトス様位のものでしょう』
「何故です?」
『魔神との世界を巻き込んでの闘争はこの星の生態系を一度完璧に破壊したそうです。その際に神々や竜族はおろかハイエルフや力有る種族の主だった者が多く命を落としたそうです。かつての竜王も一体を除いて全て魔神との戦いで果てました。それから数千年後に我々他の竜王が生まれたのです』
「では《精霊神楽曲》とはどういうものなのですか?」
『かつてハイエルフ達の中でも最高の力を持つ巫女や司祭達が歌う事が出来たと言われる神や精霊王達に捧げられた歌です。いえ、その歌は神や精霊だけでなく我々竜族やそれ以外の生ける全てを魅了したと言われる程の歌だったそうです。時にはその歌を聞きたいがために神や精霊王自らがハイエルフ達に進んで力を貸したそうです。聞く話によれば我々竜も力を貸したそうです』
「シャルはどこでそんな歌を・・・・・・・?」
『分かりません。しかしこれは好機です。もしシャルロット姫が歌っているのが《精霊神楽曲》ならばあの黒い精霊を何とかできるかもしれません』
そう言ってウェントゥスは口から特大の風の咆哮を放つ。放たれた風の咆哮は前方の豪風を蹴散らし黒い精霊を吹き飛ばす。一旦距離を空けたウェントゥスは上空に上昇する。
『《精霊神楽曲》はどのような精神状態の者にも関係なく魂に直接影響を与えるものだそうです。であれば今シャルロット姫の歌もあの黒い精霊に届いているはず。私もこの歌に実際にどのような効果があるかわ分かりませんが無駄ではないと何故か確信できます』
「ええ、不思議と私もそう感じます。何故かこの歌を聞いていると心が穏やかに変わっていきます。先程までの戦闘と血で昂っていた心が今はまるで熟睡中のように凪いでいます」
『私も同じ気持ちです。戦闘中だと言うのにまるで美しい景色を眺めているかのような気持ちになります。古の神々や精霊王達が対価を払ってでも聞こうとした理由が理解できます』
ーーシャルロット、良く聞きなさいーー
ーーなあに、お母様?--
シャルロットは黒い精霊を見た時からずっと心を痛めていた。精霊の恐怖や痛みの感情を感じる度に自らも胸が張り裂けるような気持ちになった。今の自分では不可能と理解していてもどうにかしたいと心から祈った。そして、ふと幼い頃に母とした話を思い出した。シャルロットはそれを思い出すと同時に思わず歌いだしていた。
ーー貴女はとっても精霊や神様に愛されているわ。いいえ、世界中の全てに貴女は愛されているーー
ーーそうなの?--
ーーそう、だから貴女にこの歌を教えてあげるの。いえ、もしかしたら既に貴女の中にはそれはあるのかもしえないわ。これは世界を愛し愛される者にしか歌う事ができない。古の昔、神と精霊とそれ以外の種族を・・・・時には竜とすら心を通わしその橋渡しを行った絆の歌よーー
ーーそんなすごい歌があるの?わたし歌えるかな?--
ーー大丈夫、貴女なら必ず歌えるようになる。私も教えてもらっただけで歌う事はできなかったけれど貴女なら絶対に歌えるわーー
ーーお母様には歌えないの?お歌を知っているのじゃないの?--
ーーこれは知っていても歌えるものではないの。これは魂を揮わせて歌い上げる究極の歌声。資格の無いものが歌おうとしても歌声は出てこないの。だから私が教えるのは歌い方と心の在り様だけよーー
ーーむ~~、むずかしくてよく分からない。お歌の歌い方を教えてくれるんでしょう?--
ーー歌の内容そのものはそれを歌い出す時に自然と貴女の魂から滲みだすわーー
ーーん~~、やっぱりよく分からないーー
その時、母は自分を優しく抱きしめてくれた。
ーー私の愛しく可愛いシャルロット。貴女ならいつか必ず《精霊神楽曲》を歌える時が来る。その時に貴女は真に世界に愛される存在になる。そして必ず多くの者を救う存在になる。私はそう信じているわーー
そう言って母は自分を抱き締めながら優しく額に口付けをしてくれた。今でもその時の母の優しい顔と暖かい唇の感触を覚えていた。
「(絶対に救って見せる!)」
その絶対の決意を胸にシャルロットは自らの魂から湧き出る思いをそのまま声に乗せて歌を紡ぐ。
「~~~~♪~~~♪~~~~~~♪」
時間が経過するにつれてシャルロットの歌は勢いを増すかのように洗練されてゆく。それに効果を及ぼされるかのように黒い精霊から発せられる風が和らいできている。
「これは・・・・・・精霊がシャルの歌の影響を受けている?」
『間違いありません。あの精霊はシャルロット姫の【精霊神楽曲】の影響で自我を取り戻そうとしています』
※※※※
歌が聞こえる方に自らの意識の奥底から手を伸ばす。手を伸ばした先には光が差し込んでおり、その光は温かく優しい感情が流れ込んでくる。その光に近づくごとに痛みや恐怖が和らいでいく。ソレはもはや無我夢中でその光に向かって進んでいく。光との距離は果てしなく遠く感じながらも直ぐ傍で感じるような感覚でもあった。しかしもはやそれすらお構いなしとばかりにソレは光に向かって只我武者羅に向かう。やがて光はソレの眼と鼻の先にまで迫り・・・・・・・・・・。
※※※※
『これは・・・・・・・』
「どうやら・・・・・・」
ウェントゥスとシルヴィアが前方の精霊に向けていた視線を細める。いつの間にか辺りに吹いていた豪風は止んでおり黒い精霊も動きを止めている。よく見れば頭の一部や指先等から黒い部分が消え去って徐々に通常の状態に戻りつつあるように見える。
「このままシャルの歌を続ければあの精霊を元に戻せそうね」
『そのようですね。我々は万が一にもシャルロット姫の歌が途切れることが無いようにしなければいけませんね』
「・・・・・・ハッ!」
突如シルヴィアは影から剣を出現させてシャルロットに向かって飛来してきた物体を叩き落した。
「どうやらその万に一つを起こそうとする輩が居るようですよ」
『このような素晴らしい歌声を邪魔しようなどとは確かに無粋の極みですね』
シルヴィアとウェントゥスは同じ方向を見る。そこには岩の隙間に隠れるように魔族の男と思しき者が投擲武器のような者を手に此方を見ていた。気付かれたと気が付いた男は咄嗟に逃走を試みようとする。
「ぐああああああああああ!!」
しかし逃走をしようとして背を向けた瞬間、男の背中から胸の中央に漆黒の剣が貫いて出現する。
「どこえ行こうとするのかしら?」
「ああ・・・・あああああ」
男を貫いたシルヴィアは絶対零度の瞳で自らが貫いた男を見つめている。
「私の可愛いシャルを狙うなんて・・・・・死ぬ覚悟があっての行動でしょうね」
「あああ・・・・貴様は・・・・・・、貴様等は・・・・一体・・・・な・・・に・・」
「それ以上お喋りする必要はないわ。これ以上余計な雑音でシャルの歌声を邪魔したくないのよ」
そうシルヴィアが言った瞬間に男の体はシルヴィアの影から伸びてきた無数の触手のようなモノに巻きつかれる。
「なぁ!?」
そして男は刹那の抵抗も見せることなくシルヴィアの影の中に引きずり込まれていった。
「そろそろ終わりそうね」
シャルロットの歌声がまるで終わりを告げるかのように一際高く響くように伸びていく。今この瞬間、この場の生物の全てが自らの呼吸すら止めてシャルロットの歌に聞き惚れる。小さな昆虫から小動物まで、果てはヴェント国の国民から意識の戻った魔族兵まで全ての者が息を止めて歌を聴いている。まるで自らの呼吸音ですらが雑音であると断ずるように口を閉ざす。ウェントゥスは飛ぶの止めて降り立ち、周囲の風は完全に止んで今やこの場で音を発しているのはシャルロットの歌声のみとなる。
『・・・・・・・・素晴らしい』
ウェントゥスは先程までの戦闘すら忘れてシャルロットの歌に瞳を閉じて聞き入っている。
※※※※
~竜達の谷~
巨木の頂上で伏せる様に眠っていたゼファルトスは徐に首だけを持ち上げて目を細める。
『ほう・・・・・・・・、まさか今代になって《精霊神楽曲》を歌える者が現れようとは・・・・・・・・。全く・・・・・・ソウマを始めとしての周りには面白い者が多いな。我も最近は世界を視るのが実に楽しみであるな』
そう言いながらゼファルトスが喉を鳴らしながら実に愉快そうに笑っていた。
※※※※
~エテルニタ王国・王城~
王城の一室で王と王妃と軍師が現在同じ部屋で過ごしていた。王妃は一人室内から窓際に近づいて空を見つめている。
「ヘンリエッタよ。やはりシャルロットなのか?」
「王よ、間違いないでしょう。僕と王妃様が同時に感じたことですし、それに僕以上に精霊の動きに敏感な王妃様がそう感じたのなら間違いないでしょう」
「ええ、あの子が・・・・・・私達の可愛い娘が自分の本当の力に目覚めたようです。この美しい旋律・・・・・・・綺麗で・・・・優しくて、とても温かい・・・・・・あの子の心がそのまま形になったかのような旋律・・・・・・・」
王妃はどこか誇らしそうにそれでいて嬉しそうに遠く聞こえるはずの無い愛娘の魂の旋律を感じ取る。
「王よ、これでシャルロット姫は世界中で最も重要な人物の一人になりました。これから今まで以上に様々な存在が彼女との接点を望むでしょう。精霊や妖精や様々な種族や果ては神にいたるまでもが今後彼女に近づいてくる」
「だが心配することはあるまい、ラルクよ。私やヘンリエッタはあの子を信じている。そしてなによりもあの子の傍にはアイスとシルヴィアが寄り添い、ソウマが見守っておる」
その言葉にラルクは真剣な表情から表情を緩めて薄く笑みを浮かべる。
「確かに、その通りですね。例えこの世界の如何なる邪悪や悪意や理不尽がシャルロット姫に振りかかったとしてもその全てをソウマは文字通り粉砕するでしょう」
王妃は只々無言で窓の外を見つめている。それに王は黙ってそっと後ろに寄り添う。
「今はただ素直に喜ぼう。私達の愛しい娘が大きく成長する事を・・・・・・」
そう言う王の顔も王妃と同じくらいの誇らしさと喜びに満たされていた。
※※※※
~シルヴィア側~
歌を歌い終えたシャルロットはそのまま力尽きるように倒れ込む。しかしシャルロットの体が地面に着くよりも早くその体をシルヴィアが優しく抱きとめる。
「シルヴィア・・・・・・姉・・・様?」
シャルロットは疲労で消耗した体力でもなんとか意識を保っている。そして朦朧とする意識の中で大好きな姉の匂いに意識が覚醒する。
「そうよ、よく頑張ったわね。シャル」
それに応えてシルヴィアは今度は少し強くシャルロットを自らの胸元に抱き込む。
「ん~~~~♡」
シャルロットはそのまま嬉しそうに姉の胸で甘えるように顔を擦り付ける。
「あ、精霊さんは?」
そして思い出したのか突然シルヴィアの胸元から顔を上げて精霊の安否を尋ねる。
「それは心配いらないわ。ほら・・」
そう言ってシルヴィアはシャルロットの精霊は居た方向を指し示す。
「あ・・・・・・」
そこには先程の全身が黒く染まった精霊では無く全身が淡い緑色の光に包まれた13~14歳程度の少女だった。全身に服は着ておらず、しかし体の局部には人のような性器といったものは見当たらずそれこそ全身真っ白の全身タイツを着ているような感じになっている。顔も口や鼻といった器官は見当たらず顔の起伏から鼻の様なものが確認できるだけである。そして顔には唯一眼だけが全身の光と同じ緑色の瞳が二対付いていた。しかしその瞳は角膜や水晶体といった構造ではなく緑一色のまるで宝石が嵌まっているようだ。
「あれが精霊さん・・・・・・」
「私も上位精霊を見るのは初めてだけれど思ったよりも人に近い形をしているのね」
『神もそうですが精霊も上位になればなるほどその姿形は人に近くなりますからね。あの精霊は元に戻ったばかりで自分の器がまだ定まっていないのでしょうから落ち着けばより人に近い形態になるでしょ』
「へえ・・・・・」
すると精霊がしばらく周囲をキョロキョロした後にシャルロット達の方に飛んでくる。しかしまだ本調子ではないようでフラフラと覚束無い様子で飛んでくる。そしてシャルロット達に近寄ってくると最初はウェントゥスの姿に怯えていた精霊も恐る恐るではあるが何とかシャルロットとシルヴィアの前までやってくる。精霊はシャルロットとシルヴィアを最初に交互に見ていたがやがてシャルロットに近寄って彼女に手を伸ばす。
「・・・・・・・・」
「・・・シルヴィア姉様」
それを思わず遮ろうとしたシルヴィアをシャルロットが優しく押し止める。精霊はそのままシャルロットの顔に手を伸ばす。しばらくシャルロットの顔を触っていた精霊は自らの額をシャルロットの額と密着させる。そして両目を閉じる。
「・・・・・・うん。大丈夫だよ、君が元に戻って良かった」
「シャル、その精霊が言っている事が解るの?」
「うん、何となくだけど。それでも何だが前以上に精霊さんの感情や言葉が理解できるようになってるよ」
『恐らくは《精霊神楽曲》を習得したことによって前以上に感応能力が上がっているのでしょう。今のシャルロット姫ならば言葉の通じない種族とですら意思疎通が可能でしょう』
「それで精霊は何と?」
「ありがとうって。それと、迷惑かけてごめんなさいって言ってる」
「そう」
「気にしなくてもいいよ。どこか他に痛い所とか無い?」
精霊の謝罪にシャルロット笑顔で気にするなといって逆に精霊に調子を尋ねる。すると精霊は少し考える素振りをしてから。二回ほど頷いてから首を数回横に振る。どうやら最初の二回の頷きはシャルロットの気にしなくてもいいという言葉に同意し首を横に振ったのはその後の言葉に対するもののようだ。
『風の精霊よ、シャルロット姫は今は疲弊している。礼や話があるのならまた後日にするがいい』
ウェントゥスの言葉に風の精霊は一度ウェントゥスを見上げてそれからもう一度シャルロット達を見て一度頷くとどこかに飛んで行った。
『あの風の精霊の役割はこの付近の風の精霊の統率です。恐らく自分が不在で混乱している他の精霊の統率に向かったのでしょう』
「ということは戦闘終了でいいのね」
『そういう事ですね。どうやらソウマ殿やアイス殿、そして姫様も戦闘を終えているようです』
「そのようですね。三人とも今こっちに向かっています。といっている間に来たようです」
そう言うシルヴィアの視線の先では白銀の竜に乗ったソウマとアイスが此方に向かってくるのが見えている。
「シャル、疲れたでしょう。今は眠りなさい」
「・・・・・・うん」
シャルロットはシルヴィアに優しく頭を撫でられて穏やかな寝息をたてはじめる。
『しかし魔族も運の悪い事です。ソウマ殿達がこの国に来ている時に攻め込んでくるとは』
「・・・・・・・・」
ウェントゥスの言葉にシルヴィアの表情は冴えない。
「(本当に運が悪い・・・・・で済めばいいのだけれど。確かに今回の魔族の用意した戦力は暴走した上位精霊が一体に【偽神】が四柱・・・・・・もし今回私達がここに居なければウェントゥス殿だけでは恐らく対処は不可能だった。でも逆に言うのならウェントゥス殿が居るとはいえたかが人族の王国を一つ潰すには過剰すぎる戦力。今回奴等の目的がウェントゥス殿の討伐が目的ではなくヴェント国を滅ぼすことが目的ならば私達が居なければ暴走した精霊と【偽神】が一柱いれば十分可能な任務の筈。それなのにこの過剰とも言える戦力、まるで・・・・・・・私達を想定したような・・・・・・・)」
「どうした、シルヴィア?」
いつの間にシルヴィア達の所まで来ていたソウマの言葉にシルヴィアは思考の海から引っ張りあげられる。
「なんでもないわ」
シルヴィアは自らの考えを振り払う様に笑みでソウマに応える。
「・・・・・・・心配するな」
「え?」
シルヴィアの笑みを見ていたソウマはしばらく無言だったが唐突に言葉吐く。それにシルヴィアは思わず面喰ってしまう。
「魔族が何を考えているかは正直俺にも良く分からん。まあ最終目標は魔神とやらの復活なんだろうがそれも含めてシルヴィアが難しく考える必要はねえよ」
「ソウマ・・・・・」
「魔族が思惑がどうであれ魔神の復活がどうであれ何があろうと俺が何とかする」
それはシルヴィアを安心させる虚勢でもソウマ自身の決意でもない。ソウマはいつだって己に実現可能な事実だけしか口にしない。それは己の力量に対する絶対の自信を持つからこそである。ソウマは己の力量を疑わない。驕りや慢心では無くただそれをあるがままの現実として当然と受け入れることが出来る。だからこそシルヴィアにはその言葉が何よりも絶対の真実として伝わる。シルヴィアの表情から硬さが完全に抜ける。
「そうね、ソウマが居るのにあれこれ悩んだり考え込むのは労力の無駄ね」
「ああ、今は俺達の仲間の成長を喜んでやろうぜ」
「・・・・・うん」
シルヴィアはそう言って今だソウマに抱えられて目を閉じているアイスの頬に手を伸ばす。その頬にはまだいくつか火傷が残っている(ソウマもナーバも回復魔術は使えない)。その火傷を避けるようにアイスの頬を優しく指でなぞるように撫でる。
「この子・・・・随分な無茶をしたようね」
「ああ、だがアイスも自分の限界を一つ乗り越えた。これでこいつはまだまだ強くなるよ」
「そうね」
シルヴィアはそう言いながらアイスの体に回復魔術をかけて彼女の体を癒していく。
「どうやら別の道からヴェント国に侵入しようとした魔族共も【偽神】共の敗北を知って撤退したようだ。取りあえずの危機は去ったようだ」
『私達の勝利だな』
「そういうことだ」
『ならばこの後にあの国でたらふく飯が食いたいな。出来ればあの舌に痺れる刺激のある肉料理があると良いなぁ』
「ナーバったらすっかり香辛料を使用した料理が気に入った様ね」
『それ以外にも甘い菓子も大好きだな!』
「確かに、よくシャルとアイスと三人でお菓子を買いに行っているわね」
『はっはははははは!姫様はどうやら下界を随分と堪能しておられる御様子ですな』
「堪能しすぎな気もするがねえ」
ナーバとシルヴィアのやり取りにウェントゥスは愉快そうに笑う。ソウマも言葉とは裏腹にその顔には笑みが浮かんでいる。
「兎にも角にも一旦俺達もヴェント国に帰って戦闘結果の報告をしなきゃな。でないと王国の連中が何時までも安心できないだろうからな」
「それなら先にシャルとアイスを宿に休ませてあげたいわ。王城に行くならソウマと私とナーバで十分よ。二人には私の影の・・・・・」
『それには及びません』
そう言ってウェントゥスの体が光に包まれて人型になる。
「二人の護衛には私が付きましょう」
ナーバの体も光に包まれ人型になる。
「いいのカ?」
「此度のご助力、大変感謝しております。ここまで完全に近い形での決着が出来たのは姫様やソウマ殿達の御蔭です。寧ろこの程度でその御恩が返せるとも思っていない程です」
「私としてはお言葉に甘えたいわ。ウェントゥス殿なら安心して二人を任せられるわ」
「私もウェントゥスなら私の妹達を預けるのに異存はない」
「俺もねえよ」
「ありがとうございます。御三方の信頼に感謝します」
そう言ってソウマ達はヴェント国に向かって行った。
※※※※
ここは魔族領の最奥地にある居城。魔族以外でここまで辿り着いたものは今だに数人程度といえるまさに魔境である。
「どうやらガガニヤ達は失敗したようだな」
「情けない奴等だ【偽神】の力を得ておきながら敗れるとは・・・・・」
「それだけ相手が強いという事だ。【闇を駆る者】と【超越者】・・・・・噂には聞いていたが噂以上の実力のようだな」
「しかもそれ以外の戦力もいるようだね」
「百年前に奴が殺られたのも頷けるというわけね」
「そもそも百年前に奴が死にさえしなければ・・・・・・」
「まあまあ」
居城の最奥の部屋で七人の男女が会話している。それぞれが尋常でない魔力を帯びている。
「いずれにしろ想定外の存在の介入こそありましたが我々の計画は概ね予定通りに進んでいると言っていいです」
「【偽神】程度なら我等の最終目的を考えれば惜しい存在ではない。むしろその例外を今後どうするかのほうが重要であろうよ」
「それについては放置でいいと思います」
「何故?【超越者】が本当に規格外の実力者なら我等の計画にすら支障を来たす恐れがあるのではなくて?」
「彼の実力が本当に噂通りであるならかの【真竜王】をすら凌駕する正真正銘の化け物です。そんな存在を排除しようとする方が計画に支障が出ます。下手に刺激して彼の矛先が完全に我らに向かぬようするのが得策ですよ」
「奴は我等と敵対する意思は無いのか?」
「無い、とは完全には言えないでしょうが恐らく自ら進んで我等の計画を邪魔する意思はないように見えます。成り行きで関われば邪魔する程度でしょう。そうでなければ彼とその仲間の実力から考えれば直接ここに攻め込んだ方が効率的ですからね。だったら逆に向こうがその気ならば我々もそれを利用すればいいい」
「・・・・・・・・」
すると一人が部屋から退室しようとする。
「・・・・・何処へ?」
「悪いが俺は危険はないからと「はいそうですか」と静観する程暢気でもない。俺は俺のやり方でやる」
「・・・・・・まあいいでしょう。元々我々はお互いの行動を束縛する権利を持ち合わせていない。各々が思うやり方で計画を遂行すればいい」
「そういう事だ」
そう言ってその人物が退室しようとする。
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
その部屋に居る者全員が息を飲む。
「馬鹿な!?」
「これは一体!?」
「何故!?」
「何が切っ掛けだ!?」
「おいおい!」
「ヤバいんじゃないの!」
「これは想定外ですね・・・・」
その瞬間大地が鳴動した。
早く温かくならないかな~




