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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
42/72

42話 ヴェント攻防戦④

最近、新作のモンハンが面白くて書き上げが遅れそうで危なかった・・・・・・。

 ~アイス側~


「(不可思議だ)」


 イクヤタが止めの攻撃を放ってから既に数秒が経過していた。イクヤタは引き伸ばされた自らの体感時間の中で攻撃を続けながら奇妙な疑問を感じていた。


「(やはり不可思議だ)」


 イクヤタの攻撃は衰えてはいない。攻撃が開始されてから一切の容赦なく死の閃光をアイスに向かって放ち続けている。


「(あのエルフの実力ならば既に塵一つ残すことなく焼失しているはずだ。しかし今だに俺の攻撃に抵抗を続けている。いや、それどころか徐々に俺の攻撃が押し返されているようにすら感じる・・・・・・?)」


 イクヤタからアイスの姿を確認することは出来ない。アイスの姿は自身の攻撃に呑まれる様に隠れている為に姿は全く見えない。ただその気配を感じていまだにアイスが生存している事を感じていた。


「・・・・・・・・・・」


 一方、死の閃光の中に身を置いているアイスはもはや声さえ枯れた状態で神経を極限まで研ぎ澄ませていた。


「(集中する。痛みは忘れろ。自身の全てを《アイスコフィン》に委ねるように感覚を通わせる)」


 前方から迫り続ける灼熱の業火に対してアイスは《アイスコフィン》に全魔力を注いで氷の障壁を創りながら耐える。その間もアイスは自らの感覚を更に《アイスコフィン》に同調させていく。


「(剣の声を聴け。剣を使うんじゃない共に戦うんだ。自分が今手にしているのは武器じゃない。共に戦う戦友!)」


 少しずつアイスの意識が《アイスコフィン》の中に浸透していく。


「(分かる、この子の・・・・《アイスコフィン》の声が聴こえる)」


 徐々に氷の壁が厚くなる。今までは完全に押されており熱も殆ど遮断できていなかったのが段々と熱を遮りそれどころか炎を巻き込んで・・・・・・・凍らせ始めている。


「(お願い、ちからを貸して下さい。私にはどうしても追い付きたい人達が居るんです。でも私一人では無理です。この程度の危機に躓いている私程度では到底追い付けません。貴方のちからを貸してください)」


 《アイスコフィン》から蒼白く輝く眩い閃光が溢れだす。その輝きは次第に黄金色に変わっていく。


「何だ!?」


 イクヤタが驚愕に包まれた声をあげる。前方のアイスの居る地点から突如として薄青く光りながら黄金の輝きを放つ氷が出現したのだ。


「何だこの氷は!?馬鹿な!俺の炎が凍らされるだと!?」


 黄金の氷壁は炎を飲み込みながら一気にイクヤタに迫ってくる。


「うぬあああああああああああ!!!!」


 先程までとは打って変わり驚愕をあらわにしたイクヤタが更に胸の中心にちからを収束させて一気にアイスを押しつぶそうとする。しかし出現する黄金の氷の勢いは衰えることをせずにイクヤタの攻撃を飲み込むように出現し続ける。


「黄金の氷!?まさか《蒼氷》だというのか!」


 真なる炎である《緋炎プロミネンス》がそうであるように水・氷系統にも頂点となるものが存在する。真なる属性を宿すちからのは黄金の輝きが宿ると言われる。それは自然界において頂点に位置する精霊から認められた証である。万象全てに対して効果を及ぼし物理的にだけでなく霊的なものから果ては形のない概念的なものや時には神すら屠ることのできる絶対の輝きである。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 アイスは自らの愛剣を構えながら今にも崩れ落ちそうなほど憔悴していた。


「(この氷は・・・・・・維持に必要な集中力も必要な魔力も尋常ではない。今の私では数分・・・・いえ、数十秒持たせるのが精一杯です)」


 如何に《蒼氷》を発動できるだけの技量を身に付けたと言っても所詮は付け焼き刃の域を出ない状態である。加えて既に消費した大量の魔力や体力・気力でこの氷を本来は不可能である。それをアイスは今、文字通り最後のちからで維持している。


「(敵が此方の予想外の行動に虚を付かれ動揺している今が最大の好機です。今この瞬間に勝負を決めなければ負けるのは此方!)」


 アイスは極限の状況で冷静に戦局を分析してここが正念場であることを確信する。


「(後の事を考えるのは無しです!)」


 アイスは文字通り後先を全く考慮せずに今ある己の全力を振り絞る。


「あああああああああああ!」


「ぬおおおおおおおおおお!」


 アイスとイクヤタのお互いの咆哮が轟く。氷と炎が双方を飲み込もうと唸りを上げて激突し続ける。しかし僅かではあるが徐々にアイスの創り出している氷が炎を押し込んでイクヤタに迫り始めていた。


「こんなことが!この俺の炎が押し負けているだとぉ!」


「(このまま押し切ります!)ああああああああああ!」


「有り得ん!神のちからを手に入れたこの俺が押されるなどという事がああああああ!あるはずがないぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 イクヤタは更に胸に己のちから集中して放出してくる。それに伴いイクヤタの体の一部がまるで炭化したかのように真っ黒なボロクズになって崩れ始める。どうやらイクヤタの方もかなりの無理をしているようだ。このままちからの放出を続ければイクヤタも遠からず自滅する事になるだろう。最も・・・・・・。


「くああああああああああ、あああ、ああぁぁぁ・・・・・・・・」


 このまま戦闘が続けば間違いなくアイスの方が先に確実にちから尽きる。外見的にも内面的にもどちらがより満身創痍なのかは火を見るよりも明らかである。


「はああああああああああ」


 それでもアイスの心には微塵の諦観も悲壮感も無い。まるでこの程度は危機でも何でもないというようにその瞳だけは爛々と勝利への闘志に輝いている。


「何故だ!何故そんな目ができるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!このままいけば貴様は確実に死ぬんだぞ!」


 イクヤタは死を前にしてのアイスのその瞳が気に入らなかった。神のちからを手にしてから自分の前に立った敵はその圧倒的なちからの前に皆が絶望や諦めを宿した瞳を向けて来た。しかし彼女は違った。彼女の瞳には戦闘を開始してから一度たりともそんな感情が宿ったことは無い。それどころか自身の勝利を一瞬たりとも諦めていない感情しか宿っていないのである。


「(この俺のちからを前にして尚そのような瞳をするとは!この俺を前にするものは皆畏怖と畏敬を持つべきなのになんだあの瞳は!)」


 アイスの体が消耗していくのとは裏腹に《蒼氷》の勢いは更に増していく。増大したイクヤタの攻撃を今ではほとんど意に介さず飲み込んでいく。


「完全に俺の炎が押されている!?こんな馬鹿な!?この短時間で俺を超えるまでに成長したというのか!?」


 その状況にイクヤタは完全に冷静さを失っている。既に自身の体の数割が崩れ去っているのにも全く気付いていない様子である。


「私には彼方如きに躓いている程暇ではないのですよ!」


「俺如きだとぉ!!」


 もはや氷はイクヤタの炎を飲み込んで今や眼前まで迫ってきている。このままいけばアイスの戦闘不能前に氷がイクヤタを覆い尽くすだろう。


「うがああああああ!」


 そして遂に氷がイクヤタに到達する。イクヤタは咄嗟に胸のちからの放出を中止して右腕で迫る氷を砕こうとする。しかし黄金の氷は激突したイクヤタの右腕を一瞬にして肘の辺りまで氷漬けにしてしまう。文字通り骨の芯まで一瞬で凍り付く凄まじい冷気にイクヤタは痛みの叫びをあげる。

 通常の冷気であればマイナス273度が物理的な限界である。この温度はあらゆる物質が静止した状態の温度であるから理屈上これ以上低い温度は存在しない。事実アイスの使用する最上級氷魔術の温度がそれである。他の術者が使用した場合でも範囲や発動速度こそ違っても温度そのものは変わらないのである。しかし今イクヤタの右腕を覆っている《蒼氷》は物質世界よりも上位にある氷である。つまり通常の物理法則は当てはまらない。振れた対象の肉体だけでなく霊格や魂や果ては形の無い概念ですら凍らせることのできる真なる氷である。これに抗うには物理法則すら超える強靭な魂や霊格が必要である。しかし今のイクヤタはそこまでの強度を獲得していない。つまり《蒼氷》に捕らわれたイクヤタの右腕は文字通りこの世界に存在する上で必要な全てを凍らされたのである。


「くそおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


 イクヤタは右腕を咄嗟に付け根の部分から切り離す。そうしなければ即座に全身に氷が回っていただろう。しかしアイスはイクヤタがそうすることを予想していたようだ。イクヤタの右腕を氷が包むのとほぼ同時に自らは氷を乗り越えてイクヤタに接近していた。


「はああああああああああ!」


 そしてイクヤタが自分の右腕を切り離して体勢を整える暇を与えるの前に一撃を加えるべく《アイスコフィン》を振りかぶる。そして《アイスコフィン》にちからを集中させる。すると《アイスコフィン》に黄金の冷気が宿る。


「うぬあ!」


 回避は不可能と判断したイクヤタは咄嗟に左腕を頭上に掲げて防御しようとする。


「・・・・・!」


 アイスはそれに構うことなく黄金の冷気を纏った《アイスコフィン》を振り下ろす。振り下ろされた《アイスコフィン》はイクヤタの左腕に受け止められる。しかし《アイスコフィン》はイクヤタの左腕にほんの僅かに食い込む。アイスにとってはそれで十分な成果である。僅かに食い込んだ傷口から黄金の冷気がイクヤタの体の中から凍結させる。


「ふああ!!!」


 イクヤタはそれに慌てて自らの左腕を口からの業火で焼き切って逃れる。


「これで、終わりです!」


 アイスはそれに微塵も動揺することなくすぐさま切り返して今度は真横からイクヤタの胴体を両断しようと《アイスコフィン》を振るう。


 パキィィィィィィィィィンッッッ


「!」

「!」


 驚愕は二人同時に発せられた。甲高い音が周囲に響く。音の正体は柄の根元の部分から折れた《アイスコフィン》が発した音だった。《アイスコフィン》はイクヤタの胴体の3分の1程まで食い込んだ所で折れてしまった。激しい戦闘での損耗に耐え切れなかったのか、あるいわ真なる氷である《蒼氷》のちからに耐えられなかったのか。


「ははははははははっ。どうやら武器が耐えられなかったようだなあ!死ぬがいい!」


 イクヤタは口から再び業火を生み出してアイスに向けて放射する。アイスは《アイスコフィン》が折れた衝撃で流石に一瞬茫然自失してしまったようだ。吐き出された業火は容赦なくアイスを包み込む。


 ヒュンッ!


「!」

「!」


 驚愕は再び二人同時だった。イクヤタの放った業火がアイスを包み込んで焼き尽くすと思われた時、上空から飛来した一本の剣がイクヤタの業火を真っ二つに引き裂いて業火からアイスを護った。


「何だこれは!?」

「!」


 二人の反応は又も同時だった。しかし取った行動は全くの正反対だった。イクヤタは突如上空から飛来した剣に驚愕する。更にその剣のちから驚愕する。剣単体から溢れでるちからの総量が己を遥かに上回ると言う事実にイクヤタは驚愕した。


「・・・・・・」


 それに対してアイスの取った行動は目の前に飛来した剣、《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》に向かって迷わず手を伸ばす。本来であればアイスの力量では《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を持ち上げるどころか触れることすら不可能である。アイスもそれは十分承知している。しかしアイスは手を伸ばした。何故かは彼女自身にすら分からなかった。ただ目の前の敵に勝利する為に目の前の剣が最後の鍵であると戦士の本能が選択したのだ。


「あああああああああああああ」


 そうしてアイスは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を抜き放つ。手を伸ばした《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》は何の抵抗もなく地面から引き抜かれる。そしてそのままアイスは上段に《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を振りかぶり躊躇いなく振り下ろす。振り下ろされた《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》はまるでそこに何もないかのようにあっさりとイクヤタを両断した。イクヤタは驚愕の表情のまま左右に体を真っ二つにされた。


「はあっ、はあっ、はあっ、勝った、の、でしょう・・・・・・・か?・・・・・くっ・・・」


 流石にアイスもそれ以上意識を保つのも限界だったようだ。今までの負傷や疲労に加えて初めて使用した真なる氷《蒼氷》の負荷もさることながら《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の使用が最後の引き金になったようだ。今回《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》がアイスにも使用できたのは所有者であるソウマが許可を出していることと《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》自身が許したことが大きい。通常のアルティマタイト製の武器であれば不可能であるが《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》は完全に意思を持ったインテリジェンスウェポンである。《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》が自らアイスに使われることによってアイスの負荷を極限まで抑えていたのだった。ついでにソウマが足りないちからを補うために大量の自らの気を《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》に与えて機嫌を取っていたのも大きな要因である。


「あ・・・・・・・・・・」


 アイスはそのまま意識を手放して仰向けに倒れてしまった。イクヤタの体を両断したのを確認した為に緊張の糸が切れてしまったのだ。確かに《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》で切られた相手はよほどの事が無い限り再生や復活など出来ないだろう。しかし・・・・・・・・・。


「油・・・・・・・断・・・した・・・・・ようだな」


 イクヤタの半身が起き上がる。ソウマの倒したガガニヤがそうであるように【偽神】であるイクヤタの不死性はシルヴィア程ではないがかなり高いものである。ましてやアイスでは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の性能を十全に発揮できない。これではイクヤタに止めを刺すなど到底不可能である。


「ま・・・・・さか、この・・・・俺が・・・こんな、小娘に・・・・ここまで・・・・やられるとは・・・・・な」


 イクヤタはそう言いながら周辺でイクヤタとアイスの戦いの余波に巻き込まれながら辛うじて生きていた魔族兵達の魂を吸収している。魂を抜かれた魔族兵はそのまま白骨と化して絶命する。


「小娘が・・・・・この役立たず共を・・・・・愚かにも守った御かげで・・・・・俺もこうして復活できる」


 魔族兵の魂を吸収したイクヤタは斬られた半身を接着し右腕も徐々に再生を始めている。


「己の甘さを後悔しながら死ぬがいい。いや、もはや後悔することすらできんか」


 そう言ってイクヤタは再生した右腕を振り上げる。


「いいや、お前の負けダ」


「!」


 突如己の頭上からした声にイクヤタは驚愕と共に振り返る。そこには竜の羽を生やした竜人が空中に浮かんでいた。


「竜人だと!?」


「その手を振り下ろしたら貴様は即座に死ぬことになるゾ」


「・・・・・・・この娘の生死が貴様にとって何か関係があるのか?無ければ大人しく立ち去るがいい。如何に竜人といえど命を失う事になるぞ」


 そう言ってイクヤタは躊躇いなくアイスに向かって腕を振り下ろした。その瞬間ナーバはイクヤタに急降下して接近する。イクヤタもそれを予測していたのか即座に振り勝手ナーバを迎撃しようとする。互いの拳が激突する。


「な・・・・・・・に・・・・・!?」


 その結果砕け散ったのはイクヤタの体の方だった。激突の衝撃で撃ち負けたイクヤタの体は拳だけでなく腕所か胸の半分程が砕け散った。一方ナーバはまるで分かりきった結果であるかのような顔して苦悶に顔を歪めるイクヤタを見ている。


「仲間の魂を喰って一時的に体を再生したようだナ。しかし急速な再生だから体は只の見せかけの状態ダ。そんな体で私に対して良くあれだけの口を叩けたものダ」


「き、さま・・・・・只の竜人ではないな!?」


「貴様の最初の質問に答えよウ。貴様が今止めを刺そうとしたエルフは私にとっての義妹が義姉と呼ぶ存在ダ。そいつが死ぬと私の妹が悲しム。何よりそいつも私にとって妹同然の存在ダ。そして尊敬するべき戦士ダ」


「なんだと?」


「そして貴様は下種な魂喰いで私の義妹との闘いを穢しタ」


 己以外の者を下等と断じながらもいざ己の生命が危機にさらされればその下等と蔑んだ存在に依存する。ナーバはそんなイクヤタの性根で行った魂喰いをアイスとの闘いで行った事に相当な怒りを感じていた。


「下等と断じた存在に頼った貴様こそ最も下等な存在ダ。素直に己の敗北を認められない愚物めガ!」


「貴様ぁ!」


 ナーバの口憚らぬ罵倒の言葉にイクヤタは激昂する。


「二つ目の質問にも答えてやろウ」


 そう言った瞬間、ナーバの存在感が膨らむ。いや、存在感だけでなくナーバの体そのものが倍以上に膨れ上がった。イクヤタそれを見た瞬間に激高していたことすらも忘れさる。


『貴様は私の事を竜人かと問うたな。これがその答えだ』


 ナーバの体から闘気が溢れだす。その奔流に思わず目を閉じたイクヤタだったが次に目を開けた時に本当の驚愕に包まれた。


「な!?な・・・・・なななななな!!??」


 言葉にすらならない程に動揺をあらわにするイクヤタ。彼の目の前には白銀の鱗に全体が包まれた圧倒的な存在感とちからを全身から発する竜が存在していた。


「竜だと!?しかも白銀の鱗に黄金の瞳!?」


『神如きのちからに頼る愚かな奴め、貴様は神のちからに頼りそれを自らの実力と勘違いし己のちからに還ることをしなかった。その程度の奴に私の義妹いもうとは負けない』


「まさか真竜王の血族だと!?馬鹿な!存在したのか!?」


『貴様の命運は今ここ尽きた。大人しく己の最後を受け入れるがいい』


 ナーバが口を大きく開く。そこに凄まじいまでのちからの波動が収束していく。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


『《竜の息吹ドラゴンブレス 属性・真》』


 イクヤタの絶叫が響いた直後、ナーバの口から白銀の輝きの極光が放たれイクヤタの包み込んだ。


『・・・・・・・・ふん』


 ナーバが咆哮を止めて攻撃地点を見つめて鼻を鳴らす。その場所はその攻撃の凄まじさに比例して驚くほど荒れていない。ナーバの使った息吹ブレスはあらゆる霊的次元に置いても頂点に位置する【神竜王】の息吹ブレスである。それは物理的攻撃力ではなくより高次元的な攻撃力を有する。それは肉体的では無く魂や霊格に直接大打撃を与える必殺の一撃である。ソウマやシルヴィアのように下位次元に置いて強靭な肉体能力を誇る者達には実は通常の物理攻撃系の息吹ブレスの方が効果がある場合があるが今回のように霊的存在としての意味合いの強い神や偽神には実に効果的なのである。今回のイクヤタのようにまともに喰らえば魂すら跡形も残らないだろう。


「おいおい、少しは加減しろよな」


 するとナーバの横から苦笑しながらソウマが姿を現す。その両腕にはアイスがお姫様抱っこで抱えられている。


「いくらその息吹ブレスが物理的攻撃力に乏しいと言っても下手な奴が喰らえば余波だけで魂が消し飛んじまうぞ?ましてやアイスはかなり消耗しているから一溜りもないだろうさ」


『ソウマが来ているのは分かっていた。私が加減をしなくてもソウマならアイスの身を守る位のことはするだろうと分かっていたからな』


「ご信頼どうも」


 事実ソウマはナーバが到着するよりも僅かではあるが早く到着していたのだ。アイスの闘いの決着を見届けてから現れようと思っていたがナーバが接近しているのに気が付いた為に結局身を潜めて成り行きを見守っていたのだ。


「しかしお前があそこまでアイスの事で怒るとは思わなかったな。何か心境の変化があったのか?」


『ふんっ』


 ソウマの指摘にナーバ自身もそっぽを向きながらも実は驚いていた。以前のナーバは純粋なちからこそが全てであり竜族を例外として己より弱い存在は全て取るに足らない存在である。その頃のナーバであれば今回のアイスがトドメを刺される瞬間を傍観していたかもしれない。シャルロットが悲しむこともアイスが死ぬことも特に何とも思わなかったかもしれない。しかし彼女は今確かにシャルロットが悲しむことを憂い、アイスが死ぬことを嫌った。それはナーバ自身にも気付かない心の変化が起こっている証拠である。


『ソウマには関係ない!』


「はいはい」


 ナーバのそっけない返答にソウマは実に愉快そうに笑いながら見ている。


『・・・・・・・・』


 ナーバも言葉にこそしないが自分のそんな変化に悪い気がしていないのである。


「さて、こっちは何とか片が付いたな。危なかったがアイスも何とか一段階自分の領域を引き上げるのに成功したしな」


『やっぱりそういう思惑だったのか。しかし危険な賭けでもあったな』


「アイスの潜在能力は蓋が開く寸前だった。その蓋を開ける鍵に必要だったのは生死を賭けた勝負での極限の集中力を身に着けることだ。それにはアイスの実力を超える実力の強敵が必要だった」


『ソウマや姉者か私じゃ駄目なのか?』


「俺等じゃアイスに対して本気で殺気を持つことなんて出来ないよ。本気の殺気を持たない相手じゃそれは死闘ではなく訓練にしかならない。最初の頃のお前なら違うだろうがちからの差が開きすぎて覚醒の間もなく殺られちまうよ。必要なのはアイスの実力では及ばなくて覚醒するだけの間を保たせられるほどの適度な力量を持った相手だった」


『それが今回の【偽神】というわけか・・・・・』


「そういうことだ。こいつらは【偽神】になって日が浅いし力の元になった神もそう上位の神じゃない。アイスの相手には丁度いい相手だと思ってな」


 イクヤタも哀れなものである。


『それでもどうせ本当に危なくなれば助けに入るつもりだったんだろう?』


「さてどうだかな」


 ナーバの指摘にソウマは素知らぬ顔で惚ける。


『とぼけても無駄だぞ。意識の大半をアイスとシャルの方の索敵に回しておいて説得力の欠片もあると思うな』


「やっぱ見破られてたか」


『当然姉者にもな。姉者も事情は理解していたが本来ならアイス一人に任せたくはなかったのだろうがアイスの事もソウマの事も信頼して何も言わなかったんだろうさ』


「お前も良く何も言わなかったな」


『先も言ったがアイスもまた一人の戦士だ。その戦士の誇りある覚悟と戦いを私が邪魔することは無い』


「ご立派」


 ソウマとナーバは周囲の様子を観察する。周囲はアイスとイクヤタの戦闘に巻き込まれて氷から脱出出来たがその余波で気絶している魔族兵士がかなりの数転がっていた。


『かなり無事な魔族が居るな』


「アイスが庇いながら戦っていたからな。自分が不利なるのを理解した上でな」


『ならばここでこいつらを始末するのはアイスの心意気に水を指すことになるな』


「そういうことだ」


『ならばどうする?こいつらをこのままにして気が付いたら再び侵攻を始めるのではないか?』


「う~ん」


 ソウマはしばし考え込む。すると何かを考えついたのかナーバを見つめる。


「ナーバ、お前任意の場所に竜巻を起こしてそれを好きな場所で消したりできるか?」


『?出来ると聞かれれば出来るぞ。これでも私は全ての属性を操れる。風の系統もウェントゥス程ではないがその程度できるぞ』


「それじゃあこいつらをどこか適当な魔族領の方まで竜巻でまとめて運んでくれないか」


『面倒くさいがそれが一番簡単ではあるな』


 そう言ってナーバは竜翼を羽ばたかせる。するとそこから小さな風の渦が発生しそれが徐々に大きくなっていき周りの魔族兵を巻き込みながら更に巨大になっていく。途中その轟音と衝撃で目を覚ました魔族兵も居たが再び衝撃で気絶する。


「魔族の国の方向は分かるか?」


『ああ』


 ナーバは再び竜翼を羽ばたかせる。すると発生した竜巻はまるで方向を定められたかのように地面から浮かび上がりある方向へと向かって飛んでいった。


「ちゃんと着地を考えているか?」


『一応魔族の国に着いたら竜巻は徐々に小さくなっていき巻き込んだものを優しく地面に下ろすように調整してある』


「・・・・・・・・・・・ん・・・」


 するとソウマに抱かれた状態のアイスが薄っすらとではあるが目を開ける。


「お?気が付いたか、アイス」


「・・・・・・え?・・・・・・・・・・・スター・・・・?」


 アイスはまだ意識が完全に覚醒していないのか薄く開いた瞼でソウマを呼ぶ。次いでカッと目を見開く。


師匠マスター!え!?なぜ此処に師匠マスターが!?というか何故にお姫様抱っこなのでしょか!?大きな竜!?ナーバですか!?」


「少し落ち着け」

『少し落ち着け』


 状況が把握できずあまりにも狼狽えるアイスをソウマとナーバが同時に落ち着かせる。


「はい、申し訳ありません」


 言われて落ち着いたアイスは静かに回りを見渡す。


「あの【偽神】の男は・・・・・・倒したのでしょうか?」


「ああ、お前の勝ちだ。よく戦ったな」


 事実イクヤタは魂を喰わなければあのまま戦闘不能に陥っていただろう。ならば何方が勝ったのかを判断するのに議論は必要ないだろう。


「そうですか、ですが私が勝てたのは師匠マスターの《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の御蔭です。あれがなければ私はイクヤタに敗れていたでしょう」


「《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を扱えたのもお前の実力の内だ。俺は勝敗の天秤を少し揺らしただけだ」


 事実あの場面でアイスが最後まで諦めずに居たからこそ《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》も自らを使用することを許したのだ。アイスの心のなかに一片でも敗北の恐れや後退の意思が有れば《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》はその場から抜けることは決してなかっただろう。そういった意味でもあの瞬間はアイス自身が生み出した勝機といえる。その後のイクヤタの行動と顛末はアイスに知らせる必要は無いだろう。あの瞬間、勝ったのは確かに彼女なのだから。


「だから自信を持て、この戦いでお前は確実に成長し強くなった」


「・・・・・・はい。有り難う・・・・・ございます」


 アイスはそれだけ言うと薄く微笑んでソウマの胸に顔を埋めて再び意識を手放した。ソウマはそれを苦笑しながら見下ろしている。


「やれやれ、また眠り姫か・・・。まあ限界以上に自分の力を使ったんだから今意識が戻ったも大したもんだがな」


『さて・・・・・』


 それを見届けたナーバは首を持ち上げてある方向を向く。ソウマもそれに釣られる様に同じ方向を向く。


「後はあっちだけだな」


 ソウマ達が見ている方向はヴェント国の上空、丁度真上の方の空である。


「ヴェント国自体は他のルートから侵入した魔族が【偽神】共が負けたことで撤退を始めている。だがあの黒い精霊だけはそもそも命令を聞く様にはされちゃいない。あれはただ暴走するだけのちからの塊だ。あれを何とかしなけりゃどっちにしろ真下のヴェント国は吹き飛ばされるだけだ」


『ならば今すぐ加勢して叩き潰そう』


「止めとけ。シャルは精霊を救いたいと考えているはずだ。恐らくあの精霊を止めるには消滅させるしかない。そして俺達にはそれしかとれる手段が無い。もしあの精霊を救える者がいるとするならこの場にはシャルしか居ねえよ」


『ならば私達はどうする?』


「見守ろうぜ。俺達のお姫様が成長する所を・・・・な」


 そう言ってソウマは楽しそうに笑った

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