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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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41話 ヴェント攻防戦③

 皆さん、あけましておめでとうございます。新年最初の投稿です。

~ソウマ側~

「こ、こんな馬鹿な!?」


 ソウマとガガニヤが戦闘を開始してからその戦況は既に一方的なものになってきていた。


「おらぁっ!」


 ソウマが振るう剣の一撃がガガニヤの腕を切り裂く。


「ぐおぅ!」


 ソウマが闘気を解放してからガガニヤは完全にソウマの動きについていけなくなっていた。


「馬鹿な、何故私の力が通じない!?」


「そりゃあ俺だって素直に相手の能力に掛かる程馬鹿じゃない。抵抗するに決まっているだろうよ」


「有り得ん!私の力は文字通り神の力の一端だ。この世界の通常の生物が抵抗しようとして抵抗できるものか!」


「それが出来るから今お前はこうしてるんだろう?」


「神より強いと言うつもりか!?」


「お前は自分達の可能性を安く見過ぎだ。この世界の生物は決して神に劣るものじゃない。神は決して届かない領域にいる存在じゃないんだよ。お前みたいに神の力に頼らなくてもな」


「うるさい!」


 逆上したガガニヤは自らの手に剣を出現させてソウマに斬りかかる。それと同時に上空に無数の輝く星のようなモノが出現する。


「《星降シューティングスター》」


 天空より飛来する無数の小石程の大きさの隕石群がソウマやその周りに容赦なく降り注ぐ。落下した隕石は地面を抉り大きな穴を作り出す。そして倒れている魔族兵達も容赦なく肉片へと変わっていく。


「天体魔法か、なるほどね。お前は元は魔法使いだったのか。それとも【偽神】になって使える様になったのか。それにしてもお前の部下ごと攻撃するのかよ」


「そんな奴等など私さえいればどうとでもなる。それよりもこの魔法は私が【偽神】と化したことによりその威力は通常の魔法の威力よりも更に増しているのだ。そうしていつまで剣で弾き躱し続けられるかな。肉片すら残さず消え去るがいい!」


 パシッ


「は?」


 ガガニヤ目の前で起こった光景に思わず間抜けな声を出してしまう。上空から降り注ぐ星屑を避けたり剣で弾いたりしていたソウマは突如立ち止まると降り注ぐ星の一つを無造作に掴み取った。高熱を帯びた隕石を掴んでいるがソウマは全く頓着していない。


「同じ天体魔法でもラルクのとは雲泥の差だな。ラルクの隕石はこれの三倍以上はあるからな。どうせ覚えたて何だろうが無理して詠唱破棄なんかするから威力も持続時間も続かない」


 そう言った途端に空から降り注いでいた隕石が止んだ。


「くそっ!《水の寵愛アクア・ネックレス》」


 ガガニヤも隕石が止むのと同時に次の行動を起こしていた。発動したのは水の最上級魔術の一つ。発生した大量の水は上空で巨大な水の輪を作り出す。その水の輪からソウマに向かって無数の水の槍が発生する。それを回避するソウマは徐々に水の輪の中心の方に誘導されるような形になる。


「《電撃の鞭ライトニング・ウィップ》」


 ガガニヤの手に雷の鞭が出現してソウマに襲い掛かる。


「ふんっ」


 ソウマは迫る雷撃の鞭を剣の一振りで両断してしまう。そしてそれだけに留まらずになんと上空の水の輪まで両断してしまう。両断された水の輪はそのまま空中で只の水に変わってしまう。


「ば、馬鹿な!?」


「お前は【偽神】の力もそうだが魔法や魔術を扱うには経験不足だな。元々魔法や最上級魔術を使えるだけの技量がなかったのもあるんだろうがな」


 ソウマはそのままガガニヤに肉薄する。


「ぐあっ!!」


 ソウマはすれ違いざまにガガニヤに左腕を切り落とす。


「ば、馬鹿な!こうも簡単に俺の肉体を切り裂くとは・・・・・・!」


「だから油断するなと言っただろうが」


 続けざまにソウマは回し蹴りを放ち、ガガニヤを吹き飛ばす。


「(こ、こんなことが!ディザイア様の報告では確かに人族としては抜きん出た力を持っていると言っていたがそれでも精々が勇者よりも強い程度だと聞いていたが、これはそれどころの話ではない!)」


 吹き飛ばされながらガガニヤも体勢を立て直す。


「来い!」


 そして何処かに呼び掛ける。


「お前は・・・・」


 ガガニヤに呼ばれてソウマの前に立ちはだかったのは一人の少女だった。右手に細身のレイピアを携えて革鎧の軽装を身に纏っているが左腕に装着している翡翠色に輝く籠手だけが段違いの力を発していた。それは間違いなくソウマの左腕部分の鎧である《緑の籠手》だった。戦闘が開始してから少女だけは一人戦場から離れた位置に居た。その間ガガニヤに加勢することも無くただ茫然と立っているだけだったのだ。


「・・・・・・・・・」


 しかしその瞳には意識の気配は無く。ただ茫然と虚空を眺めているだけの様に見える。


「一様催眠状態にあるようだが・・・・・・これじゃあ只の人形と変わらんだろう。戦闘も出来るとは思えんしな」


「それはそうだ。その勇者は戦力として期待はしていない。ヴェント国の住民の目の前に晒すことによって奴等の精神に揺さぶりをかけて抵抗は無駄だと教える為に連れて来たのだ。だからそいつは極簡単な命令しか聞かん。例えばこんな風にな」


 そう言うと少女はいきなりソウマに抱き着いて動きを封じる。勿論その程度ではソウマの動きは一瞬程度しか止められない。しかしガガニヤにはその一瞬で十分だった。残った右腕に力を集中させる。


「《混沌の渦カオス・アリゲーター》」


 その右手から最初に放っていたモノとは比べ物にならないほど巨大な黒い塊が生み出される。それにともないガガニヤの髪が白く染まっていく。


「魔力だけでなく生命力や魂の霊格全てをその一撃に込めるのか・・・・」


「俺の全霊の一撃だ。二度と戻れぬ混沌の底まで堕ちていけぇ!」


 放たれたその黒い巨大な球の中心はまさに底の見えない永遠の奈落を表しているように深く濃い闇を作り出していた。


「それは俺の力の源になった混沌の神の生まれ故郷である永遠の虚に繋がっている。もし堕ちれば二度と出てくることは叶わんぞぉ!」


「堕ちればだろ?」


 ソウマは少女の意識を奪うといつの間にかその右手には先程まで握られていた普通の騎士剣ではなくソウマ本来の愛剣である《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》が握られていた。


「そ、その剣は・・・!?」


 ソウマが力を籠めると《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》の柄の部分の竜の頭の目が光り輝き口の部分に嵌まっている宝玉が光を帯びる。それはまるで主人の意の応えるように剣が咆哮を上げているようだ。


「お前の全霊の一撃に敬意を評そう。俺もこの一撃を持ってお前の全霊に応える。《神斬り》」


 ソウマが《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》で放った斬撃は刹那の抵抗も許すことなくガガニヤの放った《混沌の渦カオス・アリゲーター》を両断した。そしてその一撃はそれに止まることなくそのままガガニヤに迫った。


「馬鹿なァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?????」


 驚愕に彩られながらガガニヤは咄嗟に最後の力を振り絞って防御の為の結界を作り出す。しかしその結界もまるで紙を引き裂く様にあっさりと両断される。


「あがぁ!!!」


 そしてガガニヤは真っ二つに両断された。


「・・・・・・・・」


 両断されたガガニヤには一瞥もくれずソウマは空の向こうを見つめている。


「私がこんな所でーーーーーーーーーー!!!!!!」


 しかしガガニヤが両断された状態でなんと起き上がり再びソウマに襲い掛かった。


「油断すると思ったか?」


 そう言って振り返りざまソウマはガガニヤを一瞬で細切れにしてしまった。


「敵が本当に死んだか確認せずに油断するのは三流のすることだ。ましてやそれだけ生命力の気を残してる相手に油断するなんて俺以外でも有りえないよ。そのまま大人しく死んだふりしてれば見逃してやろうと思ったが、まあ向かってくるなら止めを刺すさ」


 そのままガガニヤの肉片は砂のようなものに変化して風に流れて消えていった。


「さて・・・・・・」


 ソウマは再びさっき向いていた方向を向く。


「頼むぞエスパーダ」


 そう言って己の剣に語り掛ける。すると《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》はそれに応えるように竜の眼が光る。そしてそれを確認するとソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を大きく振りかぶり・・・・・。


「ふん!」


 《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を空に向かって投擲した。投擲された《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》は凄まじい速度で空の向こうに消えていた。


「ふう」


 戦闘が終了し静けさを取り戻した戦場でソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を投擲した方向を静かに見つめて息を漏らす。


「後はお前次第だぜ」


 そう誰かに囁く様に言った。


 ~シルヴィア側~


「《血装闘術:血影鎧サングエ・オンブラ・アルマトゥーラ/20%》」


 シルヴィアは黒緋色の鎧を身に纏う。それに伴い増大した闘気と魔力の余波に周りの大地が軋みを上げて陥没する。


「《血の鎧ブラディ・アーマー》」


 ナイズも自らの手首から血を噴出させる。それが霧状に変化しナイズの体を覆うとそれは全身を覆う血色の鎧へと変化した。そして両手に血で出来た剣を創り出す。


「そんな私の真似事の鎧などなんの役にも立たないぞ!」


 ナイズはそのまま先程までの速度とは比較にならない速度でシルヴィアに迫りその両手の剣を彼女の体に向かって振り下ろす。シルヴィアはそれをなんの防御の姿勢を見せずに静かにそれを見つめている。


 パキィィィィィィン


「え?」


 しかし聞こえてきたのは鎧の砕ける音とシルヴィアの肉の割ける音ではなかった。辺り一帯に響いたのはナイズの振るった血の剣が柄を残してコナゴナに砕け散った音だった。


「あら、真似事だなんて酷いじゃない。私の方こそ言わせてもらうけれど私の鎧を貴女のモノと一緒にされるのは心外だわ」

 

 シルヴィアも自らの手に黒緋色の剣を両手に出現させる。そして今度はシルヴィアからナイズに斬りかかる。


「くそっ」


 ナイズも再び血の剣を両手に創り出してシルヴィアを迎え撃つ。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「くあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 両者は凄まじい速さで自らの得物を振るって剣戟を応酬を繰り返す。しかしその攻防の趨勢は明らかに一方に傾いていた。


「くっっっ!?」


 ナイズは押され始めたことが信じられないとでも言う様に苦悶の表情で徐々に後ずさりし始めている。


「どうやら貴女のその鎧も装着することによって身体能力を引き上げる類いのようね」


 右腕の剣を一振りすることによって防御したナイズの剣が再び二本とも砕け散る。


「それでもその強化の上昇値は私の方が上みたいね。それに加えて既に基礎身体能力でも私が上回っているのだからこの結果は必然と言っていいでしょうね」


「黙れ!」


 それでもナイズは更に剣を創り出しシルヴィアに向かって行く。シルヴィアもそれに焦ることなく対応する。再び激しい剣戟を再開する両者。その剣戟の余波で周りがどんどん切り刻まれる。いつの間にか周りの兵士を片付け終わったのかシルヴィアの《影獣(オンブラ・ベスティア)》達が二人の戦いを遠巻きから観戦している。


「くそっ!」


 それでもやはり押されるのはナイズの方で剣戟を繰り返しながらも徐々にその体に切り傷が増えていく。シルヴィアの方にもナイズ程ではないにしろ傷を負わされているのだが。


「気付いているかしら?貴方が負わせた私の傷は直ぐに治ってしまう。これは私と貴女の力関係以上に貴女の力が徐々に低下していることの証」


 そう言いながらシルヴィアの剣速が更に加速する。


「貴女はまだ【偽神】になって日が浅い結果その力そのものが貴女の体に馴染んでいない。それが経験不足と相まって貴女の体力と霊格に著しい消耗を敷いているのでしょうね」


「・・・・・・・」


 ナイズはもはや言い返す余裕すらないのか無言で顔中に冷汗を流しながらシルヴィアの剣を防ぎ続けている。しかしそれも限界が近いのかもはや自身の急所を護るので精一杯の様子で急所以外の体の各所に次々とシルヴィアの剣が命中していく。


「・・・・・・・」


 やがてナイズは膝を着いてしまう。全身を切り刻まれ血の鎧に更に自らの血を上塗り状態でまさに真っ赤に染まっているようだ。


「降伏するかしら?出来れば私は直ぐにでも向かいたい場所があるの。私の可愛い可愛い妹分たちが今も戦っている所に向かいたいから貴女には早く大人しくなってほしいのだけれど」


「・・・・・・・さない・・・・」


「え?」


「許・・・・・・さ・・・ない」


 再びの降伏勧告をシルヴィアは通告する。しかし帰って来たのは底冷えのするようなナイズの声だった。


「許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!貴様だけは絶対に許さない!」


 全身を血に染めながらその瞳だけは凄まじい怒りと憎しみを宿してシルヴィアを睨み据えている。


「貴様も貴様の妹分と言う者達も必ず殺してやる!貴様は最後だ!貴様の目の前で貴様の妹達を散々に嬲ってやる!貴様の前で男達に死ぬまで輪姦してから・・・・・・・」


 しかし彼女は最後まで言い切ることは出来なかった。


「どうせ最後だから言って置くわね」


 いつの間にかナイズの背後で剣を振り切った姿勢でいるシルヴィアが静かに言い聞かせるように言う。


「普段の私は自分でも言うけれど意外と優しいのよ。でもね・・・・・・私の可愛い妹達に手を出そうとするような発言をする場合は一切の手心を加えてもらえると思わないことね。まあ・・・・・聞こえていればだけれどね」


 シルヴィアはナイズの発言を聞いた瞬間に彼女の首を即座に刎ねていた。その後、刎ねた首はそのままシルヴィアの影に沈むように消えていった。彼女がシルヴィアの言葉を最後まで聞き取れたかどうかは永遠に分からなくなったのだった。


「ふう、まあ神といっても【偽神】の・・・それも成り経てではこんなものでしょうね。彼女がもう少し【偽神】の力を使いこなしていれば私も少し油断は出来なかったはずね」


 シルヴィアは鎧を解除して武器も消して一息を付く。シルヴィアの《影獣(オンブラ・ベスティア)》もいつの間にシルヴィアの影の中に帰っている。


「それにしても・・・・・・・・・」


 そうしてシルヴィアは最初にある方向を見つめる。そして次に別の方向を見る。最後にもう一つの方向を一瞬だけ気にする。それから少し険しい顔付になる。


「シャルの方は取りあえず今の所無事のようね。あまり楽観視できる状況では無いようだけれど。あの娘が意外と無茶するから怪我しないといいけれど・・・・・。ソウマは最初から苦戦するような相手ではないわね。むしろアイスの方が一番深刻なようね」


 シルヴィアは二つの方向を見つめながらしばし悩む素振りを見せる。


「仕方がない。あっちは任せましょう・・・・・・・・・


 しかし悩むのをやめて決断すると背中から羽を生やすと気にかけていた二つの方向の内の一つに向かって飛び立った。


 ~ナーバ側~


「シンダカ・・・・・・・・・・・」


 イクタクアに吹き飛ばされたナーバは崩れた山の下敷きとなった。


「惜シイ女デハ有ッタガナ・・・・・・・。我二敵対シタノガ運ノ尽キダッタヨウダナ」


 バゴオォォォォッッ!!!!


「!」


 戦闘が終了したと思いナーバが激突して崩れた山の瓦礫から背を向けたイクタクアは突如背後から轟音が響いたことに驚いて振り返る。するとそこに広がっていた光景はナーバが下敷きになっていた文字通りの瓦礫の山が跡形も無く無くなっていたのだ。


「ナンダト!?」


 イクタクアは驚愕に彩られた表情でその現象を作り出した存在を捜す。そしてそれは直ぐに見つかる。跡形も無くあった山の有った場所の上空にイクタクアに吹き飛ばされたナーバが頭に竜の角を背中から竜の羽を生やし尾てい骨の所から竜の尻尾を生やして空中に飛んでいた。どうやら瓦礫となった山はナーバが下敷きから脱出する時の勢いの余波でコナゴナになってしまったようだ。


「貴様・・・・・・・!。竜人ダッタノカ!?」


 イクタクアはナーバのその姿を見て彼女の正体に当たりをつけたようだ。


「くハッ・・・・・」


 するとナーバから小さな笑い声が漏れる。


「アハハハハハハハハハハッ!」


 次いで周囲に響くような高笑いを響かせる。


「・・・・・・何ガ可笑シイ?」


「最初はつまらない相手だと思っていたがナ。【偽神】とはいえ神は神だナ。中々に歯応えのある相手で嬉しいゾ!」


 そう言うナーバは確かに先程以上の歓喜と闘気を体中に迸らせている。


「随分ト余裕ノ発言ジャナイカ。マルデ我ガ貴様二及バナイ風二聞コエルゾ?」


「その認識で間違ってはいないナ」


 イクタクアが全身から怒気を発しながら言葉を返せばナーバはそれに不敵な笑みで持って悠然と返した。


「ソノ言葉ハ此方ノ方ダ。如何二竜人トハイエ今ノ状態ノ我ノ相手ニハナレヌ」


「それはどうかナ」


 そう言った瞬間ナーバの姿がイクタクアの前から掻き消える。


「!」


 そしてイクタクアが気が付いた時にはナーバは自身の目の前に現れていた。


「ふんッ!」


 そして振るわれた右腕は先程までとは段違いの威力で持って放たれた。


「ウオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 辛うじて両腕を交差させて防御に成功したイクタクア。しかし威力そのものは受け止め切れずその体はもの凄い速度で後方に吹き飛ばされる。しかしナーバはそれ以上の速度でイクタクアに追撃を加える為に接近してくる。空中で反転して体勢を整えたイクタクアはそのまま突撃してくるナーバを迎え撃とうとする。


「ナニ!」


 己に向かって突っ込んでくるナーバに向かって気を最大限に込めた両の拳を叩き込もうと繰り出したイクタクアだが、その拳はナーバに命中することなく空しく空を切る。


「こっちダ」


 驚愕するイクタクアの背後に一瞬で回り込んだナーバは背中に向かって強烈な回し蹴りをお見舞いする。


「ゴバアア!!!」


 苦悶の表情と共にイクタクアは更に吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先には巨大な岩がありイクタクアはそれに激突する。


「ウヌアァァ!」


 激突した岩を腕の一振りで打ち砕いたイクタクアは再びナーバに攻撃を仕掛ける。振り下ろされたナーバの体を覆い隠すほどの巨拳は容赦なくナーバの頭部に向かって行く。ナーバはそれを片手を上げて受け止める。


「バ、馬鹿ナ・・・・・・」


 振り下ろされた巨拳をナーバは片手だけでその場から微動だにせず受け止める。受け止めた衝撃でナーバの足が膝の部分程まで地面に埋もれてしまう。しかしそれほどの衝撃を受け止めたナーバの顔色には余裕の笑みすら浮かんでいる。


「どうした、この程度なのカ?」


「ヌウン!」


 続けて薙ぎ払う様に右足がナーバの顔面に向かって振るわれる。


「はあッ!」


 ナーバはそれを地面に埋まった状態で自らも左腕を振るって迎撃する。


「グウ!」


 ぶつかり合った瞬間、両者は反動でそれぞれ反対方向に飛んでいく。しかし苦悶の声をあげたのはイクタクアの方だけであり、撃ち負けたのはイクタクアでありナーバはその反動を利用したにすぎない。見ればイクタクアの右足は脛の部分が拉げるように凹んでいた。


「私の一撃で足がその程度の負傷で済むとは確かにそれなりに強くなっているナ」


「舐メオッテ!」


 イクタクアが激昂してナーバに両腕を組んで振り下ろす。ナーバは今度は受けずに回避する。


 バグアァ!


 その直撃を受けた地面はまるで爆裂系の魔術を受けたように周囲一帯が吹き飛ぶ。しかしナーバは回避と同時に空中に飛翔しており爆裂の範囲から瞬時に離脱している。そしてそのまま急降下してすれ違いざまにイクタクアの脇腹に犯してばかりに急降下の勢いを利用した回し蹴りをお見舞いする。


「グアアアアアアアアアアアア!!」


 イクタクアは成すすべもなく吹き飛ばされる。地面を大きく抉りながら停止したイクタクアの脇腹は先程の脛と同じように大きく凹んでいた。


「グハァ」


 しかしダメージは先程以上のようでイクタクアはその場で大きく血を吐いてうずくまる。


「今度のは聞いたようだナ」


 ナーバがイクタクアの前に降り立ち見下ろす様に首を傾げて観察でもするように見ている。


「グハアアアアー、ハー、ハー、ハー」


 見下ろされたイクタクアはその視線に何とか威嚇の視線を返すがそれが精一杯のようでうずくまった状態で立ち上がることが出来ないでいる。


「終わりカ?」


「ナ・・・・・・メ・・・・ル・・・・ナァァァァァァァァァァ!!!!!」


 そう言うと同時にイクタクアの体が更に巨大になっていく。身に纏う闘気も膨れ上がり周囲を威圧するように軋みを上げる。


「そろそろ決着をつけるカ。私もこの後に少し行きたいところがあるのダ」


「ソレハ・・・・・・・デキタラノ・・・・・ハナシ・・・・・・ダ・・・・」


 更に倍以上に巨大化したイクタクアはもはや体が硬くなりすぎて喋るのも覚束ないのか途切れ途切れに言葉を発する。そしてもはや壁としか言いようのないような巨大な拳を振り上げる。


「サイゴ・・・・ダ・・・・ナニカ・・・・イイノコス・・・・・コトハ・・アルカ?」


「早くしロ、ここで決着ダ」


「・・・・イイ・・・ダロウ・・・・シ・・・・ネ」


 イクタクアは巨大な鉄塊のような拳をナーバに向かって振り下ろす。


 ドグアッッッ!!


 衝撃と風圧で辺りに物凄い粉塵がたちこめる。それも徐々に晴れていき段々と衝撃の中心が見えてくる。そこには・・・・・・・・・。


「ソン・・・・・・ナ・・バカ・・・・・ナ・・・・・!?」


 粉塵が晴れたそこにはイクタクアが拳を振り下ろした状態でそこに居た。ナーバの姿は見えない。一見するとナーバが振り下ろされたイクタクアの拳に潰されたように見える。しかし決定的に異なる光景が一つあった。


「ナニガ・・・・・・・オコッタ・・・・ノダ・・!?」


 イクタクアの胸の心臓部分にポッカリと穴が空き、心臓がある部分が丸ごとなくなっていた。イクタクア自身も訳が分からないのか驚愕の感情を覗かせている。


「《竜装形態ドラゴニア・フォーム》。言った通り・・・・・決着ダ・・」


 声のする方にイクタクアは視線を向ける。視線を向けた空を見ればそこにはナーバが居た。その姿は先程までとは違い全身に鎧のように鱗が発生していた。その鱗は先までの白い鱗から白銀の鱗に変わり、瞳も黄金色に輝いている。


「バカ・・・・ナ・・・・!オウゴン・・ノ・・ヒトミト・・・シロ・・・ガネ・・・ノ・・ウロコ・・・ダト・・!」


 それを見たイクタクアは先程以上の驚愕をあらわにする。何故なら白銀の鱗を持ち、黄金の瞳を持つ竜に関連する存在等本来ならこの世界には一体しか存在しない筈である。それはこの世界の絶対者にして間違いなく最強の一角に位置する存在。


「マサカ・・・・・・・シン・・・リュウ・・オウ・・・ノ・・・」


 その驚愕のままイクタクアの意識は永遠に闇の中に沈んでいった。


「神の偽物カ・・・。思ったよりも手応えが有ったガ・・・・・・」


 ナーバは姿を最初に角と尻尾と羽だけの姿に戻しながらゆっくりと下りてくる。それと同時にイクタクアの巨体がゆっくりと砂のようになって崩れていく。


「やはりかなり無理をしていたようだナ。私が止め差さずとも既に体の方が力に耐えられずに崩壊を始めていたようだナ。自滅寸前まで力を扱え切れん未熟者とは呆れるナ。止めを差してやったのは慈悲と思うがいイ」


 そうしてナーバは視線をどこかに向ける。


「・・・・ン~~」


 そして何かを考えこむように腕を組んでしばし考える。


「やはりあちらは姉者に任せる事にするカ。私はあっちに行くとしよウ」


 ナーバは最初に向いていた方向とは違う方向を向くと羽を羽ばたかせて飛び立つ。


「しかし、私が自分以外の存在に気を割くことになるとはナ・・・・・。甘い甘イ・・・・・」


 そう言って自らを自重気味に言う。しかしその顔をどこか悪くないという様に薄く笑っていた。


 ※※※※


「あああああああああああ」


 灼熱の地獄が辺りを包む。


「あああああああああああ」


 体の感覚が徐々に消えていく。


「あああああああああああ」


 口を上げて叫んでいるつもりだが本当に口から出ているモノが言葉になっているのかも定かではない。


「あああああああああああ」


 視界は閃光で埋め尽くされている。眩い光以外何も見えない。否、既に網膜が高熱で焼けているのか本当に視界も見えているのか分からない。自身に回復魔術をかける余裕すらない。


「くううううううううっっっっ」


 膝は折れる寸前、喉は枯れ果てる、瞳は焼かれ、全身の皮膚の感覚も熱で焼かれて無くなっている。徐々に眼前に迫る熱も強くなっている。


「ーーーーーーーーーーー!!!」


 それでも耐える。決して諦めない。既に喉は焼かれ言葉は出ない。それでも声なき声を発しながら懸命に自身の全ての力を振り絞る。眼前に迫る死を懸命に回避するべく有らん限りのちからを発揮する。


「-----------!!」


 音は聞こえない、何も聞こえない。己が持つ剣に全ての神経・感覚・魔力・気力・魂のちからまでも集中させていく。


「-----!」


 何があろうと決して諦めない。己が目指す所はこんな苦難程度を諦めては到底辿りつけないから。


「-----」


 全てが停止する。光も音も熱も何もかもが、既に何も見えない筈の視界にある全てが停止する。それは彼女がある一つの境地に辿り着いた証。それこそが彼女が一つの壁を乗り越えた証。今、彼女は一つの苦難を乗り越えて己の限界を一つ乗り越えた。

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