40話 ヴェント攻防戦②
寒い・・・・・・・・。
~ソウマ側~
「どうした?それで終いか?」
ガガニヤの繰り出す複数の白い球の様なものをソウマは両手剣で軽々と切り裂き、剣を肩に担いで暢気に話しかける。
「貴様一体何者だ?我が《混沌》をそんな通常の剣で苦も無く切り裂くなど普通の人族には不可能なはずだ」
「一応は出生はごく平凡な人族だよ。珍しい東方地方の民族の出ではあるがそれでも別に特別な血筋でもない。まあ体の中に多少竜の血が混ざっているけどな」
「!」
ソウマの言葉にガガニヤが少し驚愕する。
「なるほど貴様の内から感じる人に非ざる気配の正体はそういう訳か、ならばその力にも納得がいくというもの」
「・・・・・・・・・」
ソウマはガガニヤの的外れな勘違いを特に正すことは無い。わざわざ敵に自分の力を説明してやる義理はないからである。そのままソウマは無言で接近してガガニヤを袈裟懸けに斬りつける。ガガニヤはそれを空間転移かなにかで回避する。
「(この男の力の源が竜の血ならばそれは恐らく相当に上位に位置する竜のはず。まさか竜王級か?真竜王はさすがに有り得ぬから竜王級の竜の血と想定して油断をせぬ方が良いだろう。そして奴の主戦術は剣を使用しての接近戦か?ならば私が接近して戦うのも避けた方が良いだろう)」
ガガニヤはソウマの実力や戦法を冷静に分析している。
「(空間転移か?いや違うな、そんな感じの空気は感じなかった。空間転移なら一瞬世界が撓む感じがある。どちらかというと俺の認識が世界とズレを生じたような感覚だった)」
ソウマも相手の能力の分析を行う。
「混沌の神・・・・・・なるほどね。お前は対象の認識を世界から誤認させて本来みている世界と違う世界を認識させることができるのか」
「ご明察だ。まさかこの短時間で我が能力の一つを見破るとは思わなかったぞ」
「大方さっきの白い球は当たった瞬間から世界を完全に正しく認識できなくなるってところだろうさ」
「それもご名答だ。私の《混沌》は直接命中させねば今の様に一瞬相手の認識を支配する程度しか出来ないのだよ」
そう言ってガガニヤは素直にソウマの言葉を認める。そこには能力を暴かれたという焦り等は感じられない。
「混沌の神の力というだけあって嫌らしい能力だな」
「この世界は混沌から始まったのだ。もっとも原始的かつ始原的な力ではないかね?」
そう言いながらガガニヤ更に白い球をソウマに向かって放つ。その数は実に百以上、まさに躱す隙間の無い程の壁と呼ぶに相応しい攻撃である。
「これを全て迎撃できるかね?」
「できるさ」
ソウマはガガニヤの挑発的な言葉に余裕を持って答える。
「《絶影》」
ソウマは自らの剣を腰の鞘に戻し、目にも止まらぬほどの斬撃を繰り出す。そして目の前に迫る白い球の全てを文字通り一瞬にして切って捨てる。
「本当に大したものだ。その力や速度の加えて剣の力量を並以上とは思わなかったよ。まさか今の攻撃を全て迎撃されるとはね」
ガガニヤの表情に初めて焦りの感情が浮かんでくる。しかし今だにどこか余裕の様なものも感じ取る事が出来る。
「お前のその余裕のある表情の訳を当ててやろうか?お前以外の【偽神】が時間を稼げばここに来ると思っているんだろ?」
「ほう、やはり知っていたかね。私以外の【偽神】が複数人来ていることにね。確かに君は強いよ。俄かには信じがたい程の強さだ。恐らくは私以上であろう。私の能力は残念ながら直接戦闘向きではないのでね。しかし如何に君が常識外れの力を有していても複数の【偽神】に掛かれば一溜りもあるまいね」
「本当にそう思うか?」
ソウマはガガニヤの余裕の理由が判明しても尚不敵な笑みを崩さない。
「複数の【偽神】相手に勝利する自信でも有ると言うのかね?」
「どうかな。それは別にしてお前の仲間の【偽神】共がここに来れると思うのか?」
「それはどういう意味だね?どうやら他の【偽神】の仲間の元に君の仲間が立ちふさがっているようだが私以外の【偽神】の能力は皆戦闘向きだ。それに【偽神】相手に単体で戦闘が成立する存在等そういるはずが・・・・・・」
「俺の仲間は・・・・・・・・・」
ソウマはいつの間にかガガニヤの目の前まで来ておりその首元には剣が突き付けられている。
「な・・・・・・・!?」
ガガニヤの顔が今度こそ本当の驚愕に変わる。先ほどまでは完全にソウマの追えていたのに今の動きは全く感じる事すらできなかったのだ。
「お前等神の出来そこない連中にやられる程弱くないんだよ」
ソウマは先程までは押さえていた闘気を更に解放させてガガニヤを睨みつける。
「貴様・・・・・・・!?」
ガガニヤはその闘気を見て目を見開いている。
「生憎と俺もそろそろ決着をつけたいんだ。何だかんだで俺も気になってる事が有るんでな(やれやれ、俺もシルヴィアの事は言えないな)。」
「何の事だ!?」
「お前が知る必要は無い。極々個人的な事なんでな」
~シルヴィア側~
「《影の弾丸》」
シルヴィアが自分の人差し指をナイズに向けて指先から黒い球を高速で発射する。
「くっ!《血の盾》」
ナイズは自らの血で盾を創り出しシルヴィアの攻撃を辛うじて防ぐ。ナイズの手首と足首の部分には十字の傷がありそこから自らの血を放出し様々な形の武具や攻撃を繰り出すというシルヴィアと似通った戦法を取っていた。
「どうやら貴女はその《偽神》の力を得てからそんなに日が経っていなようね。同じ性質の技を使う者同士ではあるけれど熟練度は私に分があるようだわ」
「くっ!」
戦闘開始からの状況は終始シルヴィアが優勢に進めていた。ナイズの繰り出す攻撃の悉くをシルヴィアは自らも影から創った武器や技で防ぎ攻撃し続けていた。そして現在ではナイズは完全に防戦一方に追い込まれていた。
「《血の槍》!」
ナイズが無数の血の槍を出現させてシルヴィアに向けて殺到させる。シルヴィアはそれに慌てることなく右手を上げて静かに告げる。
「《影の槍》」
シルヴィアも自らの影の槍をナイズの血の槍と全く同じだけの数を創り出し全て迎撃する。
「!」
そして血の槍を迎撃した影の槍はそのまま血の槍を粉砕してその勢いを落とすことなく今度は逆にナイズに向かって殺到する。
「うわああああああああああっ!!!」
ナイズは回避行動も間に合わず急所のみを防御する体勢になって攻撃を受ける。
「・・・・・・・・・」
シルヴィアはそれを静かな瞳で見つめ続ける。
「はあっはあっはあ」
攻撃が止んで砂埃が晴れると煙の中から出てきたのは全身に傷を負いながらもなんとか立っているナイズの姿だった。
「もう降参してはどうかしら?このまま続けても貴女に勝ち目はないわ」
「ふざけるな!私はまだ負けていない!神の力を持つ私が負けるはずがない!」
ナイズは両手に血の剣を創り出すとシルヴィアに向かって猛然と斬りかかる。
「やれやれ」
シルヴィアも両手に影の剣を創り出し迎え撃つ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「・・・・・・・・・・」
ナイズの繰り出す剣戟をシルヴィアは慌てることなく全て捌いていく。純粋な剣技おいてもナイズはシルヴィアに遠く及ばないようだ。
「貴女と私ではそもそも生きて来た年数に大きな違いがあるわ。見た所貴女は精々が百を越えた程度ね。それでは経験値で私に及ぶべくもない。それに神の力をその身に宿してからの日も浅い。それではいくら頑張っても私には届かないわよ」
「うるさい!」
シルヴィアの言葉にナイズは更に激昂してシルヴィアに斬りかかる。それでもその攻撃は全くシルヴィアの体に到達することはなかった。
「確かに【偽神】である貴女の実力はこの世界でも上から見た方が早い程のものではあるけれどそれでも世の中上には上が居るものよ」
そう言うとシルヴィアはどこか遠い目になる。若干本人にも思い当たる事があるのかもしれない。
「黙れぇ!」
ナイズの怒りに呼応するように彼女の体からまるで血のように紅く濃い闘気のようなものが滲みだしてくる。
「!」
シルヴィアはそれを見て瞳に鋭さを宿して油断なくナイズを見つめる。
「いいわ。それじゃあ私も少し本気で貴女の相手をしてあげましょう」
そう言ってシルヴィアの体も紅黒い影が包み込んでいった。
~ナーバ側~
「ぬぅぅぅぅぅうんりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ナーバは大きく跳躍し振りかぶった右腕を掛け声と共に思いっきりイクタクアに向かって振り下ろす。
「はっ!」
命中すれば並の者であれば絶命は免れない一撃をイクタクアは両腕を交差させて受け止める。受け止めたイクタクアの足元は大きく陥没しそのまま数メートル程の地面が沈み込む。
「はははははははっ、良く受け止めたナ!」
それを見てナーバは心底嬉しそうに笑いながら続けて蹴りを放つ。
「おあ!」
その蹴りを右腕で受け止めたイクタクアはお返しとばかりに左腕の裏拳をナーバに繰り出す。
「ふんっ」
ナーバはそれをなんと頭で受け止める。しかも向かってくる拳に笑みを浮かべながら頭突きで迎撃したのだ。激突した頭と拳の対決は頭の方に軍配が上がる。弾かれた拳に引っ張られる様にイクタクアの体も後方に吹き飛んでいく。
「ははっっ!」
そしてナーバはイクタクアを追撃するようにそのまま両手を組み合わせて鉄槌の如く振り下ろす。先程は防ぐことが出来たイクタクアだが今度は防御すること叶わずに振り下ろされたナーバの一撃を腹部にまともに受けることとなった。
「がはあ!」
イクタクアは血反吐を吐きながら今度は体ごと地面に大きくめり込むことになった。
「どうしタ!どうしタァ!それで終わりカァ!」
ナーバは更にそこから回転を加えた踵落としを見舞う。
「くおっっっ!!!」
イクタクアは負傷を負いながらもなんとか迫る死神の鎌を必死に回避する。回避された踵落としはそのまま地面に激突する。その瞬間地面がまるで隕石でも落ちたかのように大爆発を起こす。
「ぬおおおおおおおおおおおおお!」
爆発した地面から高速で飛来する無数の岩の飛来物をイクタクアは両の拳で砕きながら爆風に耐える。
「あはははははははハハハァ」
陥没した地面の中からナーバが笑い声と共に現れる。
「全く無茶苦茶な奴だ。今の我と互角以上の力など考えられんぞ。今の我は神の力により魔族どころかこの世界のあらゆる生物を凌駕する膂力を手に入れているといのに・・・・・・・」
「ふんっ、それは貴様が知っている奴らが非力すぎるだけだろウ。少なくとも私は私よりも純粋に腕力で上回る者を数人知っているゾ」
「・・・・・・信じられんがそれが本当だとするのならとんでもない脅威だな・・・・・」
ナーバの言葉にイクタクアは冷汗を流しながら戦慄の表情になる。
「だが、我も負けるわけにはいかない!我身に宿りし闘争と憤怒の神の力よ、我の戦意に応えよぉ!」
イクタクアの全身から闘気が噴出すると同時にその体が巨大に肥大していく。
「それを大人しく待ってやるほど私はお人好しではないゾ」
ナーバは瞬時に距離を詰めると右手の爪を伸ばし刃と化して手刀を繰り出す。それは寸分たがわずイクタクアの心臓に迫り・・・・・・・・・。
「!」
ナーバの目が一瞬驚愕に包まれる。ナーバが繰り出した手刀は確かにイクタクアの心臓が有る部分に命中した。だがナーバの爪はイクタクアの体を貫くことは出来ずに皮膚で完全に止まっていた。
「ムダダ」
そう言ってイクタクアはナーバをその剛腕で殴り飛ばす。辛うじて防御したナーバだったがその体は遥か彼方まで吹き飛ばされ後方にあった山に激突する。標高数百メートルのその山は激突の衝撃で完全に崩れ去る。
「・・・・・・・」
最初の姿から三倍以上に巨大化したイクタクア。浅黒かった肌は今や完全に漆黒に染まりその体は生物と言うよりは寧ろ金属や鉱物に近い見た目と化している。頭の角もさらに巨大化しその両目は体の色とは逆に真っ白に染まっている。
「シンダカ・・・・・・・・・・・」
イクタクアはナーバが激突し崩れ去った山を泰然と見つめていた。
~アイス側~
「くあああああああああ!」
アイスの苦悶の声が辺りに木霊する。
「くっ!」
「無駄だと言った」
アイスが回避と同時に放った氷の魔術をイクヤタは回避行動すら取らない。アイスの氷の魔術はイクヤタの体に到達する前にその体から発する超高熱によって消滅してしまう。戦闘が開始してからアイスとイクヤタの戦いはほぼこれの繰り返しだった。アイスの放つ氷の魔術はイクヤタの体から出る超高熱に溶かされアイスの繰り出す剣戟はイクヤタの超高熱を生み出す為に硬質化している体を傷つけられない。《アイスコフィン》の特殊能力もイクヤタの体から出る超高熱にその効果を発揮できないでいる。
「いい加減に貴様が何をしても俺には通じないという事が分かるだろう。貴様と俺の能力は性質が真逆だ。そして貴様よりも俺の方が力は上だ。つまり貴様の氷で俺の体を凍らせることは出来んし貴様の氷では俺の熱は防げん。万が一にも俺には勝てんということだ」
イクヤタは淡々と冷静にアイスを見下す様に自らの考える事実を告げる。それをアイスは荒い息を吐きながらも瞳だけはいつもと変わらず氷のような眼差しでイクヤタを見ている。
「それが事実だとしてもここで私が戦闘をやめる理由にはなりません」
そしてそう言い返す。
「ならば貴様はここで死ぬことになるぞ!」
そう言ってイクヤタは右腕を振るう。するとその右腕から巨大な火柱が上がりアイスに迫る。
「くっ!」
迫る火柱はアイスに迫るごとに巨大に、そして熱も増していく。アイスは回避はできないと判断して咄嗟に右手を火柱に向ける。
「《アイス・トルネード》」
アイスは自らも氷の竜巻を作り出し炎の柱にぶつける。
ドヂュワァァァァァァァァッッッッッ
氷の竜巻と炎を柱がぶつかり合い辺りに凄まじい水蒸気が発生する。発生した水蒸気は超高温の霧となり辺りに立ち込める。しかしその水蒸気もアイスの傍にいくと瞬時に氷に変わりイクヤタの周りの水蒸気は一瞬で蒸発する。
「ああああああああああああ!!!」
そして激突する氷と炎は炎の側に軍配が上がる。跡形も無く消滅した氷の竜巻を通り過ぎ高熱の火柱は容赦なくアイスを包み込む。アイスは咄嗟に《アイスコフィン》を使い自分の表面の極小範囲に冷気の壁を展開して身を護る。それでも全ての熱を遮断することは出来ずにアイスはその熱に全身を焼かれることになる。
「はあっはあっはあ・・・・・・」
最初の氷の竜巻との激突によりその威力を減衰されていたことに加えて体の周囲に展開していた氷の壁の御かげでアイスは全身に火傷を負いながらも今だ倒れずに済んでいる。
「くっ・・・・・・・・・・!」
それでもその状態は文字通り倒れていないだけでいつ戦闘不能になっても何らおかしくない状態になっていた。
「その状態でもなお戦闘行為を続けるか?今ここで降伏をすれば悪いようにはせんぞ?」
イクヤタは腕を組んで膝を着いて息を着くアイスを見下ろす形で再度降伏を要求してくる。
「貴様は只のエルフにしては良く戦った。更に修行をすればもっと強くなるだろう。ここで殺すのは惜しい。なにより貴様の美しさを気に入った。俺の女になれエルフよ」
そう言ってイクヤタは右手をアイスに向かって差し出す。それは自らに心だけではなく体すら差し出せと言う意味に他ならなかった。
「この手を取るがいい、そうしなければ貴様はここで確実に死ぬことになるぞ」
「・・・・・・・・・・」
アイスは無言でその差し出されている右手を見つめる。そしてその右手に向かって・・・・・・・・・・。
「うぬ・・・・・!き、貴様ぁ!」
アイスは《アイスコフィン》を一閃して差し出された右手の掌を切り裂いた。
「言ったはずです。私は誰かの物になる予定はないと、そしていかな状況であろうと私が戦闘を止める理由にはならないと」
「・・・・・・・・・ならば死ぬがいい」
スッと眼を細めたイクヤタはアイスに切られた右手を掲げて見せる。切り裂かれて右手の傷はあっという間に塞がっていく。そして向けられた掌から凝縮された炎の塊が幾つも発射される。
「はあっ!」
アイスはそれらを辛うじて逸らし余波を受けながらも回避し完全に防げないが防御には成功していた。それでも逸らす時や躱す時、防御する時などの完全に防ぎきれなかった分の負傷を負い更に体に蓄積させる。
「それで防いだつもりか!」
しかしイクヤタは更に追撃とばかりに先程に倍する数の炎塊を放ってくる。炎塊はアイスに迫りながら徐々に巨大化させながら速度も上げる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アイスは気合いと共に《アイスコフィン》に己の魔力と闘気を込めて全力で振るう。振るわれた《アイスコフィン》は凄まじいに冷気の吹雪の突風を発生させて炎塊にぶつかる。
「甘いわぁ!」
しかし極寒の吹雪は灼熱の炎の流星の前に僅かな勢いを削がれたのみで吹雪を突き破り容赦なくアイスに降り注ぐ。
「ああああああああああ!!!」
吹雪が炎にぶつかる前に既に回避行動に移っていたアイスは辛うじて直撃を避けることに成功する。それでもやはり熱気の余波には晒されて肌を焼かれてしまう。
「はあっはあっはあっはあ」
全身に火傷負い体の至る所から煙を上げながら立っているその姿はまさに満身創痍といった状態だ。アイスは体の各所の火傷を氷で覆って応急処置を施している。しかしそれでもまさに焼け石にとった状況ではあるが。
「まだまだぁ!」
イクヤタは再度の追撃をアイスに見舞う。両手に作り出した巨大な火炎球を上空に飛び上がり遙か上空からアイスに向かって振り下ろす。それはさながらまさに隕石の落下に匹敵する速度と威力で持ってアイスに迫る。アイスはその攻撃に対して回避する素振りを見せずに《アイスコフィン》を構えて迎え撃つ体勢をとる。
「そのような大規模な攻撃を地上に向かって放つとは、その攻撃では地上にいる仲間まで諸共に吹き飛んでしまいますよ!」
現在この戦場にはイクヤタ共に来た魔族軍の兵が多数倒れている。アイスによって氷漬けになった後にアイスとイクヤタの技の衝突で発生した高熱の水蒸気で氷漬けからは解放されたが発生した水蒸気の高熱に晒され意識を失っている。
「例え同族であろうと弱者に用は無い!」
「これだから魔族はっ!」
そう悪態をつきながらもアイスは巨大な氷塊を作り出し炎球にぶつける。
「そんなもので防ぎきれるかぁ!」
ぶつかった氷塊はやはり一瞬で蒸発して消え去る。それでもアイスは次々と氷塊を作り出し炎球にぶつけていく。
「その役立たず共を庇っているのか?元は貴様の敵だろうに」
「それが見捨てる理由にはなりません!」
アイスはそう言って続々と氷塊を作り出して炎球にぶつける。
「自然に存在する氷の精霊達よ、その万物を凍らせる大いなる力を持って全てを氷結させよ《氷結時間》」
そして《アイスコフィン》で氷塊を作り出しながらも呪文を詠唱して氷結系最上級魔術を発動させる。
「魔剣と最上級魔術の同時使用とは良くやる。しかし今の貴様には相当の負担のようだぞ」
イクヤタの言う通りアイスは体に負った負傷以上の疲労を現在表情に出している。精霊や特別な力の宿った武具を使用する場合の多くは使用者の魔力や生命力や気力等を使って行使される。アイスはイクヤタとの戦闘では《アイスコフィン》の能力を全開で行使している。その魔力や気力の使用量は最上級魔術を行使するのと遜色ない程である。本来のアイスの許容量で言えば一度に使用される最上級魔術級の魔力量の消費は限界ギリギリである。今アイスが行った魔剣と最上級魔術の同時行使はまさに限界を超えた行為であったのだ。最上級魔術級の魔力行使の同時使用などラルクを入れてもこの世界でも数人しか出来ない芸当である。
「そもそも貴様と俺とでは持ちうる霊格の大きさが違うのだ。それでは貴様の攻撃で俺の攻撃を防ぎきるのは不可能だ」
肉体を持つとはいえ【偽神】も神は神である。その肉体だけではなく繰り出す能力に対しても高い霊格が宿っている。アイスの持つ《アイスコフィン》も精霊が宿る魔剣である為に高い霊格を備えてはいるがそれでも【偽神】であるイクヤタの霊格に対抗するには《アイスコフィン》単体では抗しえない。
「(師匠が言っていました。力有る魔剣や聖剣等は使用者の霊格と共鳴することでその力を増大させることができると、どんなに巨大な力を持つ武具を持っても真の力を発揮できるのは使用者次第であることを・・・・・・・・)」
アイスはソウマの言葉を思い出しながら負傷と疲労を折った体で精神を集中して《アイスコフィン》との同調を試みる為に気と魔力を高める。
「(あの小娘、戦いが進むごとに疲労や負傷が蓄積しているのは間違いないがそれとは裏腹に感じる力が少しではあるが増大してきている・・・・・・・・・)」
イクヤタはアイスの変化を正確に見抜く。
「(長引くと面倒かもしれんな・・・・・・・)そろそろ終わりにするぞ」
イクヤタは全身の力を凝縮して自らの胸元の部分に集中させる。
「これを喰らえば跡形も無く残らないだろう。最後にもう一度だけ聞こう。我が下に降れ」
「何度でも言います。貴方の元に降る気もありません。そしてここで死ぬつもりも毛頭ありません」
イクヤタの言葉にアイスは僅かな逡巡も見せることなく言葉を返す。
「・・・・・・・・そうか、では死ぬがいい」
そしてイクヤタは死の閃光をアイスに躊躇いなく撃ち放った。
※※※※
更に別の戦場では嵐以上の暴風が間断なく吹き荒れていた。
『■■■■■■■!!!!!!!』
黒に染まった精霊はもはや解読不能の言語ともつかないような叫びをあげて制御不能の力を振り回す。
『完全に己自身にも制御が出来ていないのか!』
「正気に戻ってよーー!!」
吹き荒れる暴風を相殺しながらウェントゥスは何とか風の上位精霊を無力化しようと試みる。シャルロットもウェントゥスの上で必死に精霊に呼びかける。
『■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!」
しかしそれでも黒い精霊は止まらない。まるで何も見えていないかのように辺りを無差別に風の暴風で破壊しようとする。もしウェントゥスが黒い精霊の起こす風を相殺し続けていなければ下にあるヴェント国の被害は甚大なものになっていただろう程の暴風の嵐である。
『まずいですな。やはりあの力の暴走はあの精霊自身の命も危うくしているようです。このままあの暴走が続けばあの精霊は遠からず消滅してしまうでしょう』
「そんな!」
シャルロットが悲痛な声をあげる。このままウェントゥスが耐え続けていれば遠からず戦いは終結する。しかしそれではシャルロットとウェントゥスの勝利条件は満たされない。彼等の目的は防衛であると同時に目の前の精霊を救うことも目的の一つである。このまま精霊が暴走の果てに消滅してしまうのは彼等からすれば敗北も同然である。
『無力化して取り押さえようにもあの状態ではそれもままなりません。かと言ってこれ以上は私の攻撃があの精霊を殺してしまう』
「気絶させるみたいなことは出来ないの?」
『既に意識があるのかも怪しい状況です。あれではいくら攻撃を加えても文字通り死ぬまで大人しくなることはないでしょう』
「なんとかしないと・・・・・・・・・」
『■■■!!!????■■■■■■■!!!!!』
「!」
精霊の叫び声を聞いた瞬間にシャルロットの表情が驚愕に包まれてすぐに悲しそうに歪む。
「・・・・・・・・泣いてる」
『え?』
「あの精霊さん、泣いてるよ。痛いよ、暗いよ、怖いよって泣いてるよ」
シャルロットはそれがまるで自分自身の感情であるかのように今にも泣きだしそうな表情で言葉を語る。それにウェントゥスは目を見開く。
『シャルロット姫はあの精霊の声が理解できるのか!?』
「違うよ、あの精霊さんの感情が私に流れ込んでくるの。とても苦しそうで悲しそうで・・・・・・助けてって言ってる」
『精霊も戦っているのか・・・・・・・暴走する意識と力の中で己の理性を必死に繋とめようとしているようだ』
「助けたいよ!」
『シャルロット姫、やはり鍵は貴女です。あの暴走した精霊にも貴女の言葉ならその意識の奥底に届くかもしれません。呼びかけ続けて下さい。貴女の呼びかけがもしかしたら精霊の理性を呼び覚ますかもしれない。そうすれば精霊自身が暴走を制御できるかもしれない。恐らくあの暴走は精霊の理性を意識の奥底に封じることによって起こされているはずです。精霊の理性が戻れば暴走も抑えられるはずです』
「やってみます!」
『出来るだけ精霊に近づきます。シャルロット姫は結界から出ないように気を付けながら精霊に向かって声をかけ続けて下さい』
『■■■■■■■■ーーーーーーー!!!!!』
精霊が絶叫を響かせながら暴風を身に纏ってウェントゥスに接近してくる。ウェントゥスもそれを迎え撃つように向かって行く。
『ぬうううううううんんんん!!』
ウェントゥスは精霊と激突すると同時に両腕で精霊の体を抑え込む。精霊はそこから脱出しようとまさに狂ったように力を放出し続ける。その荒れ狂う風の暴威にウェントゥスの鱗が傷ついていく。
「竜王さん!」
『私の心配ならご無用です!シャルロット姫は精霊に語り掛け続けて下さい!』
「うん!精霊さん!私の声を聞いて!お願い、正気に戻って!このままじゃあ精霊さんが死んじゃうよ!」
シャルロットは結界越しに精霊に向かって言葉を投げかける。しかし精霊は拘束から抜けようともがくばかりでシャルロットの言葉に反応を示すことは無い。
『くっ!やはり言葉が聞こえていないのか!』
「・・・・・・・・・」
ウェントゥスは鱗が傷つきながらも必死に精霊を抑え続ける。するとシャルロットが何かを覚悟したような表情になって結界の境界線に手を伸ばす。そして・・・・・・。
『シャルロット姫!何を!戻りなさい!』
ウェントゥスの静止の言葉も空しくシャルロットはウェントゥスの張った結界から飛び出していた。




