39話 ヴェント攻防戦①
最新話です。寒くなってきましたね~。
「お~~!来てる来てる。団体様でご到着だぜ」
今、ソウマは完全竜化したナーバの頭部に乗ってヴェント国に上空からこの国に接近する魔族の軍隊を眺めていた。
『しかし、ソウマ殿。あの軍勢・・・・・・・・』
『臭い・・・・・・・・・』
ウェントゥスが竜の顔を顰めて魔族軍を睨み、ナーバは鼻息を荒っぽく吐いて一言嫌悪感を口に出す。
『神の匂いがする・・・・・・・・・』
ナーバが更に鼻息を荒くして言葉を吐く。
『・・・・・確かに、複数の神格の気配を感じます。詳しい存在までは感じることはことが出来ませんが間違いなく神に属する存在が複数います』
「明らかに戦力が俺達が居ることを想定したものだな。それに・・・・・・・やっぱり居たな」
そう言ってソウマは視線を凝らして迫る魔族軍の軍勢の中に目当てのモノを発見する。
「しかしこの世界の勇者には姫様属性でも持ってるのかねえ・・・・・・」
魔族の軍勢の中に一人だけ人族の戦士が混じっている。右手に細身のレイピアを携えて革鎧の軽装を身に纏った女性の様だ。しかし一際視線を集めるのはやはり左手に装備された緑色に輝く籠手だろう。
「う~ん、いい感じに操られている感じだなぁ」
以前の作戦会議が終了した後にソウマは王城の者にこの国の勇者について尋ねたのだ。この国の行く末が掛かった戦いが迫ろうとゆうのに勇者がその場に姿を現さないのはいかにも不自然だった。しかもその場に居る者達は魔族が迫る脅威以外にも別の不安を抱えているように見えた。事情を尋ねた所、約一か月前程に魔族の先遣隊と思しき集団が居ると冒険者から報告があった為に勇者が数名の兵士と共に偵察と出来れば討伐に向かったがその後消息が途絶えたそうだ。更に数日後兵士を使い勇者が向かった場所を調査に向かわせた所、護衛に付いていた兵士の死体のみが発見され勇者の姿はどこにもなかったそうだ。その後も勇者の動向は掴めなかった為に王国の者達は勇者が魔族に敗れて戦死したのだと決めたのだそうだ。通常戦力の要とも言える勇者が死ねば兵士やその国全体に動揺が走るものだが幸いにしてこの国は勇者以上に頼もしい存在の庇護下にある国である為にそこまでの動揺が兵士や国民に広がらなかったそうだ。
『ソウマ殿の予想が当たりましたな』
「まあな(まあ、生存を確かめるのは簡単だったけど)」
その話を聞いたソウマはその日の晩に試しに自分の鎧の左部分を呼んでみた。しかし鎧は姿を現すことはなかった。これは現在設定されている所有者が生きていることを示している。勿論ソウマがその気になって鎧を呼べば強制的に所有権を取り返すことは簡単ではあるが勿論それをせずに呼んだので呼び出せなかった。勇者が生きている以上考えられることは多くない為にある程度この場に勇者が姿を現すのをソウマは予想していた。
「複数の神格存在と操られた勇者か、流石にあの戦力はお前一人じゃ持て余したかもな」
『今回は幸運に恵まれました』
「しかし連中の目的は本当に俺達か?それともそれ以外にあの国にあれ程の戦力を投入してまで重要なモノがあるのか?」
『関係ないぞソウマ。奴らを纏めて叩き潰せば同じ事だ』
「まあそれもそうか。それじゃあウェントゥス、シャルの事は頼んだぞ。シルヴィアが痺れを切らしてそっちに行かない内に決着をつけてくれ」
『ご期待に添える様に努力します』
『燃えて来たぞ!』
「程ほどにな」
ナーバが気炎を吐きソウマが苦笑する。
「さて、戻って配置に着くぞ」
ソウマは屈んでナーバの頭を軽く二度叩く。ナーバはそれを合図に反転して渓谷に降りていった。
※※※※
「それでは当初の作戦通りソウマ殿・シルヴィア殿・ナーバ殿・アイス殿はそれぞれ個人で各出入口を守護して頂きます。我々は残りの一カ所と国の防衛の為の戦力を冒険者と兵士を均等に割り振って備えたいと思います」
城にもう一度集まり最後の打ち合わせを行う。
「それでは各人の武運を祈ります。特にソウマ殿達四人は過酷な戦いになると思いますが無事を祈ります」
そうして解散となった。各人の持ち場に向かう為に移動用の足となる動物を用意していたが四人は自分で移動した方が早い為に丁寧に辞退した。
「それじゃあ参りますかね」
「参りましょうかね」
「少しは骨のある相手が居そうで楽しみダ」
「未熟の身ですが持てる力全てで事に当たります」
「皆頑張ってね」
シルヴィアはシャルロットを優しく抱きしめる。
「・・・・・・・・行ってらっしゃい」
「あ・・・・・・・うん♪」
不安そうな顔ながら精一杯の笑顔でシルヴィアはシャルロットを送り出す言葉をかける。それを聞いたシャルロットは一瞬呆気に取られるが次の瞬間には花が咲いたような満面の笑顔に変わって自分からシルヴィアを強く抱きしめる。そしてシルヴィアが出した窮奇に乗ってウェントゥスの居る所まで飛んで行った。
「よし、俺達も行こう」
「ええ」
「応!」
「はい!」
※※※※
~ソウマ側~
「いらっしゃい。団体様で良くここまで来たな」
ソウマは自身の目の前に居並ぶ魔族軍に対して緊張を感じさせない弛緩した様子で気軽に挨拶する。
「貴様が一体どこの誰かは知らぬがたった一人で我々を止めようとゆうのか?」
魔族軍の先頭に立つ一人がソウマを睨み据えながら薄ら笑いを浮かべて訊ねる。
「一応そのつもりだが?(今の言動を聞く限り目的は俺達じゃないのか?)」
ソウマは腰から剣を引き抜いてそれをダラリと腕を降ろして持つ。
「まあどうせ聞いても答えちゃあくれないと思うが何が目的でこの国に来たのか聞いてもいいかい?そこの操られてるっぽい勇者が目的だったらわざわざこんな戦力でこの国は攻めないだろ?」
「聞いた所でどうしようもあるまい。死ぬがいい」
そう言って魔族の男が片腕を上げる。そしてソウマに向かって振り下ろすと同時に後ろに控えていた魔族兵が一斉にソウマに襲い掛かり・・・・・・・・・・。
「な、何ぃぃぃ!?」
そのまま地面に突っ込む形でほぼ全員が顔面から倒れ込む。
「何が起こったのだ!?」
「別に、ただちょっと強めに殺威をかけただけだぜ?」
ソウマは司令官の魔族が腕を振り降ろすと同時に殺威を放っていた。かつてエテルニタ王国の王城でアイスと初めて会った時に浴びせた殺威とほぼ同等の殺威である。如何に戦闘能力に特化した魔族の軍といえどアイスを個々で上回る実力の者はそう多くはない。この結果は当然と言える。司令官が無事なのは単にソウマが司令官だけには殺威を放たなかっただけに過ぎないからである。
「貴様は一体何者だ!?」
司令官の魔族が驚愕も露わに思わずソウマに問う。
「お前を残したのは一応もう一度聞く為だ。この国に来た目的は何だ?」
「そんな事を答えると思うのか!貴様が何者かなどもうどうでもいいわ!死ぬがいい!」
司令官の魔族が腰の剣を抜いて剣先に魔術の光を宿して剣戟に魔術の追加効果を付与して攻撃をしようとソウマに襲い掛かる。
「そうかい」
ソウマはそう言った瞬間に司令官の魔族の首をすれ違いざまに切り落としていた。
「な???」
司令官の魔族は自分の視界が前から一瞬にして空を向いている事に困惑した声と表情を作る。そしてそれが男の最後の顔となって男の意識は永遠に闇に堕ちた。
「さて、前座はここまでにして本番と行こうか」
そうしてソウマは切先を倒れ伏す魔族軍の中で唯一ソウマの殺威を浴びても平然と立っている一人の男に向ける。
「今の凄まじい殺威の波動・・・・・・・そうか、貴様がディザイア様が言っていた人間か」
「俺のことはやはり魔王の奴に聞いていたか」
「その力、このまま放置すれば間違いなく我々の計画に支障をきたす。ここで確実に排除させて頂こうか」
「ふ~ん」
ソウマはその言葉に嬉しそうに笑みを溢す。本気ではないとはいえ自分の殺威をまともに浴びても尚戦意を失わない敵に闘志を滾らせる。
「貴様が如何に人族として勇者に、いやそれ以上の実力を持とうと今の私を越えることは絶対にできない!」
魔族の男は言葉と同時に自らの力を開放する。解放された力は男の体から放出されるとともに大気を振るわせる。その力は明らかに魔族の常識を遥かに超える力を発揮していた。
「やっぱりお前等魔族は【偽神】の造り方を知っているみたいだな」
ソウマの言葉に魔族の男は少しだけ驚きに染まった顔になる。
「ほう、人族の貴様が【偽神】について知っているとはな」
「まあ昔詳しい奴に聞いただけだがね。会うのは初めてだよ」
「ならば知っているだろう。今の私の力は神の準ずるということがな」
「まあな、禁忌魔法によって神の存在を神と契約することにより自身の体にその力ごと憑依させる方法だったかな?それによって憑依された生物はその種族としての限界を超えた能力と神の持つ権能を一部獲得することができる」
「その通りだ」
ソウマがラルクに聞いたこの禁術はまず神の側に契約する意思がなければ成立しない術であること、そして成立した場合憑依させる対象が憑依する神の力に耐えられなければ対象はその場で死んでしまうというものだ。しかしもし適応できた場合は文字通り地上に置いて神に匹敵する力の行使が可能になる。
「【偽神】の禁術を成功させる為に多くの同胞が犠牲となったが私という偉大な存在を生み出すことに成功したのだ。死んだ同胞達も浮かばれるというものだ」
「まあ確かに神を降ろすには受け皿となる対象者自身にもそれなりの強靭さが求められるからな。そういった意味でもお前はそれなりに大したやつなのもかな」
「これで分かっただろう。今の私に勝てるのは竜王級の竜か上位精霊や精霊王、神位のものだ。貴様程度では足元にも及ばんと・・・・・・・」
男が言い切ろうとした時にソウマは剣を一振りする。すると男の頬から一筋の青い血が流れる。
「なに!?」
男はそれに驚愕する。【偽神】になった瞬間に男の体の肉体的強度は如何に高位次元存在の神に劣るとはいえこの世界の生物の常識を大きく超えるものである。つまり今の男を傷つけるには魂の強度である霊格が神に匹敵する領域にまで高めるか物理的に文字通り常識外れの威力を浴びせるかである。具体的には最上級魔術の直撃級の一撃が必要になる。
「これで分かったか?俺はお前を殺せるぞ。油断するな。慢心するな。侮るな。お前は俺を格下と認識するな。今お前の目の前に居るのはお前の敵だぞ」
ソウマの今の攻撃が現実だとすればソウマが繰り出す攻撃は最上級魔術に匹敵する程の物理的攻撃力を有するか神に近い霊格を備えているかの何方かである。今ソウマが持っている武器はどう見ても霊的攻撃力の備わっている武器には見えない普通の武器である。その事実を認識すると同時に男はスッと目を細める。
「良かろう。今より貴様を我が敵として認識する。我が名はガガニヤ、混沌を司る神の力を受けし選ばれし者なり!」
「来な」
ソウマもその名乗りに剣を構えることで応える。
※※※※
~シルヴィア側~
現在シルヴィアの担当する戦場で展開されているのは戦闘行為ではなく食事であった。敵魔族の軍勢が見えたと同時に自身の影から《影獣》を数百匹召喚して前方の集団の餌に向かって突撃させた。そして現在繰り広げられているのは・・・・・・・・。
「最近この子達には遊ばせてあげる機会も餌をあげる機会もなかったから丁度いいわね」
シルヴィアは楽し気に(?)繰り広げられる光景に此方も嬉しそうに眺めている。
「それで?貴方はお仲間を助けなくてもいいのかしら?」
シルヴィアの前にはフードを目深に被った人物が立っていた。その人物だけはシルヴィアの《影獣》に襲われることも無く余裕そうに佇んでいる。《影獣》は明らかにこの人物を警戒するように唸り声を出しながら距離をとっているからだ。
「必要ないね。後ろの奴らはこの国の者に対して少しでも威嚇になればと思い連れて来た只の脅しの道具。私一人いればあんな国落とすのは片手間で出来る事だわ。皆殺しにするのが少し手間だけれど国ごと消せばいいだけだしね」
フードから聞こえてきたのは女性の声だった。
「貴女達魔族の目的は人族の殲滅なのは知っているけど(魔神復活とは言わない)同族が殺されるのは許容するの?」
「私はこの存在となってからは単純な魔族としての枠組みを超越したわ。この力さえあれば魔王すら超えてあの御方の御傍で永久に仕える事さえ夢ではないわ!」
「あの御方とやらが誰かは知らないし全く興味も無いけれどやるなら早くやりましょう。私は今の目の前の出来事よりもこれが終わった後の方が重要なのよ」
シルヴィアの言葉にフードの奥の女は隠し切れない怒気のオーラを溢れださせている。
「目の前の私をまるで眼中にないかのように扱う発言だけでなくあまつさえあの御方すら軽んじる発言。どうやらよほど惨たらしく死にたいようね」
「どうでもいいの」
「何だと?」
「貴女の存在も貴女の尊敬するあの御方とやらも私にとっては可愛い妹の元に行く為の路傍の石ころ以下の邪魔な存在でしかないのよ。ソウマにはああ言ったけれどやっぱり心配なものは心配なのよね。でも任された仕事が有る以上それを放棄するのも私の誇りが許さない。それ以上にシャルにもだけどソウマにも怒られちゃうし・・・・・・」
途中から何やら独り言を言い始めたシルヴィア。その内容は完全に愚痴や言い訳染みた言葉が並べられている。
「こうして考えても気が滅入るだけだわ。さあ、やるならやりましょうよ。さっさと終わらせて一秒でも早くあの子の所に行くことを考えるのが建設的だわね」
すると女の周囲の空間が突如歪み始める。見れば女の被っているフードのそれに呼応するようにゆらゆらと浮き上がるように揺れ出している。そしてフードでは隠し切れない程の凄まじい怒りの感情が浮かび上がっている。
「もう貴様を許すことはできないぞ。貴様は私をまるで軽んじるような発言をした。何よりも貴様はあの御方すら軽視する発言をした。貴様は只では殺してもらえると思うなよ。動けなくなるまで痛めつけた後に部下達に壊れるまで輪姦させてやる!」
憎悪によって浴びせかけられる言葉にシルヴィアは不敵な笑みで応える。
「お生憎と私の命も貞操もあげる人は既に私が決めてるのよ」
「うるさい!」
そう言って女は自分のフードを脱ぎ捨てる。魔族特有の浅黒い肌に何か幾何学的な複雑な紋様なようなモノが刻まれている。
「その紋様は何かの能力の為の触媒か何かかしら?」
「・・・・・・・我が名はナイズ。血と盟約の神の力を授かりし者なり」
ナイズはシルヴィアの質問には答えず名乗りを上げる。
「あら、血に連なる神の力を持っているのね。伝わる波動からは私達吸血鬼とは関係ない神のようだけれど・・・・・・ね」
シルヴィアもそれを気にせず自らの手に影の剣を出現させる。
「行くぞぉ!」
「おいでなさい」
そして両者は一瞬で間合いを詰めた。
※※※※
~ナーバ側~
「次ダァ!」
ナーバが繰り出した右拳が魔族兵士の腹部の鎧に衝突する。何かしらの魔術的な防御手段が施されていた鎧なのかナーバの拳が接触した瞬間術式の陣の様なものが浮かび上がるが一瞬で砕かれると同時にナーバの拳が魔族兵士の腹部を鎧事軽々と貫通する。
「がはぁ!」
腹部を貫かれた男は貫かれながらもナーバの体を両腕で押さえにかかる。魔族の生命力ならこの程度ならまだ絶命には至らない。そしてそれに合わせる様に他の複数の魔族兵士がナーバの背後から襲い掛かる。恐らくこのまま仲間事ナーバを殺すつもりなのだろう。彼等からそれだけの覚悟と練度をナーバは一瞬で感じる。
「ふんっ」
しかしナーバは特に慌てることも無く腹に腕を刺したまま魔族兵士を持ち上げてそのまま恐るべき速度で背後の魔族兵士達に向かってほおり投げる。
「な!?」
ナーバの後ろから襲い掛かろうとしていた魔族兵達は突然自分達に向かって高速で飛来する仲間の体に驚愕の表情になる。そしてそれが彼等の明暗を分ける。一瞬の気の動転により回避が不可能となった魔族兵は飛来する仲間の体を撃ち落とそうとするが飛んでくる仲間の体は彼等の予想を遙かに超える膂力で投げられており彼等は迎撃すら間に合わなかった。結果彼等を巻き込んで飛来した魔族兵は複数の同胞と同時にもの言わぬ肉の塊と化した。
「ドンドン来イ!」
ナーバが魔族軍と戦闘を開始してからナーバが魔族軍に対して行った攻勢行動は実に単純だった。自身の身体能力に任せてただ思いっきり殴る・蹴る・掴む・投げるという実に単純明快なことだった。しかしただそれだけの事ではあるがナーバが持つ圧倒的膂力から繰り出される攻撃は魔族兵の体を文字通り紙のように引き裂き吹飛ばし薙ぎ払う。
「はあッ!」
ナーバは傍に接近していた魔族兵の顔を無造作に掴むとまた手近な集団に向かって再び高速で投げつける。
「くそっ!化け物めっ!」
魔族兵が悪態をつきながら恐怖に慄いた表情でナーバを見ている。それはまさに子供と大人・・・・いやそれ以上に差のある圧倒的上位生物による只の蹂躙だった。
「もういい、下がれ」
すると一人のフードを被った男らしき者が魔族兵士達の前に来てその動きを制する。
「やっと出てきたカ。こんな雑魚ばかりを私の相手にさせるとは舐めているのかと思っていたゾ」
「女・・・・・貴様、人族のような姿をしているが人族ではないな」
「分かるのカ?」
「動きが人族の者ではない。ただ腕力が強いだけでは説明がつかない何か理不尽な存在感を貴様からは感じる。まるで竜巻や津波などの自然災害を目の前にしているかのようだ。この存在感の大きさは人族では説明がつかない」
「なるほどナ。だが人族にも私以上の存在感を持っている者も私は知っているゾ」
「それは是非ともこの次に会って見たいものだ。しかしその発言で君は自分が人族で無いと認めたように聞こえるが間違いないかね?」
「まあ特に隠す気も無いからナ。確かに私は人族では無イ。しかしそれはお前には今はあまり関係が無いことダ」
「何故だね?」
男の返答にナーバが全身から闘気を滲ませながら獰猛な笑みで笑う。
「今から貴様は死ぬからダ」
「ほう・・・・・・・・・・」
スッと男がフードの下で眼を細めたのが雰囲気で感じ取れた。
「只の虚勢や驕り・・・・・・・という訳ではないな・・・・・。貴様の言葉には力が宿っている。自らの力量に絶対の自信を誇りを持つ者特有の生まれながらの強者の言葉だな」
「ほう、少しは分かるようだナ。期待外れではないことを祈るゾ」
相手が敵の力量をある程度測るだけの洞察力を備えていることにナーバは期待を込めて更に戦意を高める。
「良いだろう。一切の油断なく、我が全身全霊で持って貴様を打倒しよう。我が名はイクタクア、闘争と憤怒の神の力を身に宿す魔族の戦士なり」
「神の劣化品如きが私に挑んだ愚かな行為に後悔するがいイ!」
次の瞬間両者の体から闘気が柱となって迸った。
※※※※
~アイス側~
アイスが魔族軍と接敵してからしばらく時間が経過した現在、この場は一面の銀世界に包まれていた。
「はあっはあっはあっ」
それを作り出した張本人であるアイスは肩で息をして《アイスコフィン》杖にして片膝を着いている。
「肩で息をして、相当に疲労しているようだがそれで俺の相手が務まるのかねぇ?」
そんなアイスを見つめながら魔族らしき男が腕を組んで佇んでいる。全てが凍り付く極寒の世界でありながら全く寒さを感じさせない様子で男は立っている。それどころか男の周りだけ全く凍り付いていないのだ。男の肌には魔族特有の浅黒い肌にまるで燃えるような赤い紋様が複雑に走っている。
「しかも今見ている通り君の能力は俺には通用しない。大人しくここで降参するのも一つの手だと俺は思うがねぇ」
その言葉を事実に男の肌に走る赤い紋様は文字通り燃え上がるように揺らめき男の全身から凄まじい高熱を発している。
「【偽神】・・・・・・ですか・・・・・」
「ほう、良く知っているではないか。では分かるだろう?今の俺の力は文字通り神に準ずるということがな」
「それでも・・・・・神には及ばない・・・・・」
「・・・・・・・」
アイスの疲労を感じさせながらも尚不敵な挑発に男の顔に険呑な雰囲気に変わる。
「(しかし実際問題として現在の疲労度でこの男の相手をするのはかなりの危険な好意ではあります。やはり今の私では一軍丸ごとを凍らせるのは少し無茶でしたね)」
アイスは疲労を感じさせながらも冷静に自分の現在の状況と相手の能力や性格を分析する。
「(師匠から聞いた情報と昔に里に居た頃にも文献で読んだ【偽神】の文献が正しければ【偽神】は儀式によって神の力を現身として現世の生物の肉体に宿すもの。その力の強大さは現身となった神の強さと依代となった本人の資質次第となるはず・・・・・。とするならば今の私でも十分に勝機を見出せる可能性があるはずです!)」
「その様子では大人しく降伏を受け入れる気は無いようだな。残念だな、惜しいな。その美しさ・・・・そして強さ、エルフとはいえど大人しく降伏するならば俺の女にしてやろうと思ったのだがな」
「生憎と私は今の所誰かの物になる予定はありません(恐らく敵に能力の元になった神は炎熱系の能力を持つ神・・・・・今の私の能力で対抗できるか・・・・・・・)」
「そうか、ならば圧倒的な力を見せつけて貴様の心を屈服させて見せよう。まあ殺すつもりでやるから死んだら勘弁しろよ」
アイスは息を整えると膝に力を入れて立ち上がり地面から《アイスコフィン》を地面から引き抜いて油断なく構え直す。
「(今の私もこの程度の死線を越えられないようでは所詮師匠や姉上達と共にいる資格は無い!)」
「我が名はイクヤタ、神の力を身に宿した選ばれし魔族の戦士なり!」
「アイス・クライシスフォスです。エテルニタ王国王族直属騎士団長にして世界最強の男女を師と義姉に持つ者です」
「世界最強とは大きく出たな!では貴様を退けた後にその二人も我が獲物として蹂躙するとしようか!」
「貴方では天地が逆さになっても無理な芸当です!」
「ほざけ!」
二人は己の気を高めると次の瞬間には戦場で極低温と超高温の豪風が吹き荒れた。
※※※※
~シャルロット・ウェントゥス側~
『シャルロット姫、しっかりと掴まっておられい!』
「はい!」
ソウマやシルヴィア達が魔族軍と接触したばかりの頃にウェントゥスとシャルロットは既に戦闘を開始していた。魔族軍が近づく前に風の防御を完全に停止させるべく魔族軍は一足早く捕まえた精霊をウェントゥスにぶつけてきたのである。戦闘が開始してしまえば如何にウェントゥスといえど風の結界を張り続けることはできなくなる。ましてやこの精霊が来てから周辺の精霊達ですらがその禍々しい気に当てられるのか同じように禍々しい気配に支配されるようでウェントゥス達に攻撃的な意思を示し始める。
『風の精霊達よ、正気を取り戻すのだ!』
ウェントゥスは自身に繰り出される風の刃や風の竜巻の槍などを躱したり同じく風の竜巻や刃で相殺したりしながら必死に説得を繰り返している。風の上位精霊は現在人型の形をとりながらその全身は真っ黒に邪悪く染まりその表情はまるど虚ろのように意識があるようには伺えない。そしてその周りにも同じく邪悪な黒い風が暴風となって渦巻いている。
「竜王さん頑張って!」
シャルロットはウェントゥスの頭のたてがみの部分に居る。ウェントゥスはそこにシャルロットが丁度収まる程の小型の風の結界を展開している。風の結界内ではシルヴィアの体勢を安定させるように常に風が吹いておりシルヴィアは揺れ等を殆ど感じることなくウェントゥスの頭に掴まっている。場所がウェントゥスの頭の上なのは遠隔で結界を展開するよりは自身の体の表面に展開する方がウェントゥスの負担が軽い事といざという時のシャルロットの危機にウェントゥスが対処しやすいこととなによりシャルロット自身が自らが安全な位置にいることに納得しなかったことである。
『シャルロット姫、決してその結界から出ることのないように!私も現状結界を張るのだけで手一杯で姫に合わせて結界を再び展開する余裕はありません!』
「はい!」
ウェントゥスの言葉にシャルロットも緊張した面持ちで返す。如何にウェントゥスの結界があるとはいえあの黒い精霊の攻撃を確実に防げるとは限らない。それにもしウェントゥスが敗北した場合には間違いなくシャルロットも無事では済まない。現状黒い精霊がウェントゥスだけを標的と定めているので結界に直接攻撃が届く気配がないがいつ攻撃の矛先が変わるとも限らない。シャルロットも決して楽観的ではいられない。
『やはり意図的に暴走に近い形の状態にさせられています!本来の力に命を完全に度外視した力を上乗せして正直今の力は我々竜王や精霊王でも油断できないものになっています!』
「どうやったら元に戻せるの?」
『正直現状では私にも分りません。どのようにしてあの状態にさせられているのかも不明ですので元に戻す方法も推測できません。ただ昔にあれと近い状態の精霊は見たことがあります』
「そうなの?」
迫る風の暴風を回避しつつウェントゥスは油断なく風の上位精霊を観察する。
『狂った精霊です』
「狂った精霊!?」
ウェントゥスの言葉にシャルロットは驚愕をあらわにする。
『ある一定の条件や環境に精霊が身を置かれた場合に稀に起こる現象です』
「そう言えば昔、ラルクに聞いたことがあるよ」
例えば火の精霊を無理矢理水の中に沈める事や逆に水や氷の精霊を灼熱の火山に閉じ込めるなどの精霊の自身に強い心身的な強烈な負荷を与えた場合に稀に起こる現象である。そうなった精霊は自身が消滅するまで見境なく己の力を暴走させて消滅するまで力を放出し続けることになる。
『もしそうなっているのならば私の知る限りでは消滅させる以外に止める手立てがありません』
「そんな・・・・・・・・・」
ウェントゥスの言葉にシャルロットは今度は悲痛そうな表情で今だ狂ったように黒い暴風を放つ黒い精霊を見た。
『やはり鍵となるのはシャルロット姫、貴女です!』
「私?」
黒い精霊から放たれた特大の暴風の竜巻をウェントゥスも口から特大の《息吹》を放って相殺させる。
『シャルロット姫には世界から愛される不思議な力が有ります。その力が必ずや目の前の精霊を救う手立てになるはずです!』
「私にそんな力が・・・・・・・」
『信じるのです!自らの力を自覚する最も近道なのは本来ある己の力を疑わぬことです!そうすれば必ず貴女の中の力がそれに応えてくれます!』
「・・・・・・・・・・・・分かった。やってみる!」
ウェントゥスはシャルロットの瞳に宿る強い決意を確認すると頷いて改めて黒い精霊えと向き直る。
『さあ、行きましょう!あの精霊を救うのです!』
「はい!」
黒い精霊が先程以上の暴風を己の周辺に凝縮させていく。
『・・・・・・・・』
ウェントゥスも無言で己の中の力を集中させる。シャルロットも厳しい表情で黒い精霊を見つめている。そうして二つの極大の暴風は再び激突した。
次話は来月更新予定です




