37話 魔軍接近
風の渓谷に囲まれたヴェント国は渓谷の中心部分のポッカリと開いた実に広大な空間を利用して建国された国である。ヴェント国はその空間に壁等の防壁を造らずにそのまま城や街を作っている。この国に敵を防ぐ壁等は必要ない、【縁竜王】の加護に守られた渓谷がまさに天然の且つ鉄壁の城壁となっているのだ。そもそもこの空間まで辿りつくこと自体が容易ではないのだ。周りの渓谷から噴き出す風はまるでこの空間を意図的に避ける様にドーム状に逸れていく。それがそのままヴェント国の上空で渦を作りこの空間がある位置に空から近付こうとすればするほど風が強く複雑に吹く様になっている。
「まさに天然の要塞だな。これなら魔族が攻め込みたくても確かに攻め込めねえだろうな」
「風をどうにかしようにもこの風は風の精霊達となによりウェントゥス殿が起こしている風の為半端な風の魔術では制御どころか使用する事さえできないわ。かといって他の魔術を使っても大抵の魔術は風に簡単に阻まれてしまう・・・・・・」
「この風の渓谷を力付くで突破できるのは師匠や姉上、ナーバ殿やラルク様等の限られた実力者位でしょうね。私では踏み入ることすらできないでしょうね」
アイスが豪風渦巻く上空を見上げながら誰に言うこともなく呟く。
「良く考えたんだけどこの国になら別に勇者は必要ないんじゃないのかな?」
シャルロットが顎に指を当てながらそう言う。
「確かにシャルの言う通りこれ程の天然の要塞ならばそもそも防衛の為の兵士すら必要ないように思えます。精々が先ほどの関所の兵士や街の警備用の治安部隊位のものでしょう」
アイスがシャルロットの言葉に同意を示す。
「確かにこの国には大規模な騎士団等は無かったはずよ。この国の戦法は前に言ったけれど地形を利用した奇襲や待ち伏せが主だから元々それ程の数が必要ないのよ。勇者君については・・・・・・・・」
シルヴィアがこの国の勇者について語ろうとして何事かを考えた後に・・・・。
「実は私も良く知らないの。この国の勇者がエテルニタ王国に来た時は私はラルクの用事で少し国を離れていたから稽古を付けたのはラルクだけだから・・・・・」
「ふ~ん、まあアレコレと考えても仕方がない。取りあえず街に行ってみようぜ。この国にしばらく滞在してれば精霊を攫った犯人が何か動きを見せるはずだからな」
※※※※
「・・・・・・・これがヴェント国か・・・・」
ソウマがそう言いながら辺りを見舞わす。周りが渓谷囲まれているので周辺諸国等との交流こそ盛んではないがそれでも街全体は活気に満ちており、人種も様々な亜人種が混在している。
「思った以上に雑多な人種だな。獣人やエルフやドワーフ、それ以外にも色んな種族がいやがる」
「ウェントゥス殿の庇護下にある国です。現在の魔族との交戦状態を考えればある意味で勇者以上に頼りになる存在ですからね。安全を求めてこの国に来る者が多いのでしょう」
アイスもそう言いながら周りを見回す。数こそ少ないが同種族であるエルフも複数見受けられる光景にどこか懐かしさを覚えているようだ。
「さてまずは・・・・・・・」
「ご飯だね!」
「飯ダ!」
ソウマがこれからの方針を考えようとした途端に待っていましたと言わんばかりのタイミングでシャルロットとナーバが全く同じ事を言う。
「・・・・・・・・・まあそれでいいか」
ソウマは最初何とも言えない顔をしていたが溜息を付いて二人の提案を受け入れることにした。
「それじゃあ食事が出来る所を捜しましょうか」
シルヴィアがそんな二人を苦笑しながら見ながらも二人の希望を叶えるべく辺りを見回していた。
※※※※
「美味しかったね」
「悪くなかっタ」
食事を終えたソウマ達は再び大通りを歩いていた。シャルロットとナーバは先程から実上機嫌で先頭を歩いている。
「ところでソウマ、今は何処に向かっているの?」
「一応冒険者ギルドだ。何かしらの情報が有るかもしれないからな。と言ってもこの国は冒険者の出番はあんまりなさそうだからそんなに賑わってないかもな」
「精々が商人の荷物の護衛か魔族との戦闘の為の奇襲や待ち伏せの為の傭兵稼業という所でしょうね」
「現状何か手掛かりがあるわけじゃあないからな。何でもいいから情報を集めねえとな」
そう言いながらソウマは予め食事をした時に聞いておいた冒険者ギルドの場所まで先導するように歩いて行く。そうして程なくしてソウマ達は冒険者ギルドの建物まで辿りついた。
「冒険者ギルドに来るのは実はエテルニタ王国以来だな」
「まああくまでも身分を証明する為だけに用意した肩書だものね」
ソウマが建物の見ながら呟き、シルヴィアがそれに苦笑して付け加える。そして冒険者ギルドの扉を開ける。冒険者ギルドの殆どはその建物の中に酒を飲むための酒場のような領域が設けられている。冒険者が依頼を終了した後の打ち上げや日頃の情報交換の場として冒険者は利用している。今日も依頼を捜す為か情報交換と称して酒を飲むためか少ない数の冒険者が複数のテーブルにたむろしている。ソウマ達がギルド内に入ると同時にその視線が一斉にソウマ達の方に向く。
「ほう・・・・・・・・」
そこかしこから感嘆の声が挙がる。普通は建物や部屋に人が入ってくると少なからず最初は必ず視線が集まる。しかしそれは大体が一瞬の事、もし初見の者でも数秒で興味を失うものである。しかし今入って来た者達は建物の中の者全員の視線を完全に釘付けにしてしまった。ソウマの後に続いて入って来たシルヴィア・シャルロット・ナーバ・アイスに冒険者ギルドの建物の中にいる者、それこそ同性である女性や受付の職員すら一瞬であるが動きを止めてしまった。
「ほ、本日はどの様なご用件でしょうか?」
注がれる視線を無視してソウマ達は真っ直ぐに受付まで歩いて行く。受付に座っていた女性職員はソウマの後ろに並ぶシルヴィア達に視線をチラチラと向けながらも精一杯自らの職務を全うしようとする。
「最近のこの国での冒険者の依頼や仕事内容の傾向が知りたい」
「最近では各国の激しくなる魔族との戦闘にこの国も警戒を強めております。アグアラグでの魔族の襲撃の件もあり更には最近にこの国の付近で魔族らしき存在が確認されております。ですので最近の冒険者の方には渓谷を出た周辺地帯の調査や付近の魔族の動向の調査を依頼しております」
「この国の周りに魔族が出没してるのか?」
「はい、ここ数週間前よりその目撃件数が増加しております。この国は見ての通り天然の要塞となっており魔族といえど迂闊には手を出せません。大軍での侵攻が不可能ですので少数人数の小隊でなにか工作行為をしている可能性もあるので調査を依頼しております」
「何か成果が出たのか?」
「現在までに特にこれと言った成果や工作行為の痕跡は発見できておりません。魔族の個体戦闘能力は他種族と比べれば高い為にこれに対抗できるのはかなり高ランクの冒険者の皆様に限ります。しかしそういった高ランクの冒険者はあまりこの国に滞在することが無くこの国の冒険者の平均ランクは高くありません。ですので冒険者の皆様には深追いはしないように注意勧告をしておりますので実際にどこまで調査が出来ているかは疑問ではありますが・・・・・」
それを聞いてソウマはしばし考え込むように腕を組む。
「(ウェントゥスの話を聞く限りじゃあ魔族共は既に工作自体は既に完了している可能性がある。下調べも済んでるってことは魔族共の作戦なり襲撃なりは恐らくそう遠くはないはずだ)」
「現在の依頼は全てヴェント周辺の調査及び監視の依頼だけでございます。受注いたしますか?」
ソウマが考え事をしているのを依頼を受注するかどうか悩んでいると考えた受付はソウマに言葉を投げかける。
「ああ、いや今回は見送ることにするよ。この国にも別に長居をするつもりは実はなくてね。一応のつもりで依頼の確認に来た程度なんだ」
そんな受付にソウマは苦笑いを浮かべながら断りの返事を返す。
「畏まりました。もし依頼を再度受注する気が起きましたら遠慮なくギルドにお越し下さい」
「どうも」
そう言ってソウマ達は再びギルドの入り口まで歩いて行く。その間のやりとりの間中ギルド内の冒険者からソウマ達へ視線が注がれていた。正確に言うならソウマの後ろに居たシルヴィア達にではあるが・・・・・。
「おう、待ちな!」
するとソウマ達がギルドを出てすぐに数人の男達がソウマ達を呼び止める。どうやらギルド内にいた冒険者のようでソウマ達がギルドを出てから直ぐにソウマ達の後を付いてきたようだ。勿論ソウマ達は全員気が付いてはいた。
「何か用かい(お約束展開再び!)」
ソウマは表面上は平静を装いながら内心で笑いを堪えるのに必死だった。
「お前というよりも後ろの綺麗な女性達に話があるのさ」
そう言って男達は実に下心全開の下卑た顔でソウマの後ろのシルヴィア達に話しかけようとする。シルヴィアはそんな男達の下卑た視線に嫌悪感を隠そうともせずにそんな視線からシャルロットを護るように前に立つ。しかし男達はシルヴィアのそんな表情に気付きもせずに自分達の話を聞く気になったと思い更に笑みを深くする。
「お嬢さん達に相談なんだが、見た所その男の奴隷という訳でもなさそうだ。だったらお嬢さん方良かったら俺達と一緒に行かねえかい?好きな食べ物や装飾品を買ってやるぜ」
「・・・・・・・・・」
男達の提案にシルヴィア達は一切答えない。シルヴィアは先程以上に機嫌が悪くなっている。シャルロットは男達のことなど最初から気にしていないのか機嫌が悪くなるシルヴィアの心配を只管している。ナーバは男達をなんとも不思議そうに見ている。竜族にとっては強さこそが正義である。目の前の男達はどう見ても自身の実力の百分の一以下である。そんな者達が今自分達に求愛行動(動物的な意味合いで)をとっている。それが心底不思議でならなかった。アイスは嫌悪や不快感以上に男達にどこか同情にも似た感情を向けていた。それは男達のこれからの末路を確信している顔である。
「この道の先に俺達の行き付けの店があるから女性方全員で・・・・・・・・」
「黙りなさい」
ソウマやシルヴィア達の反応や表情の変化など一切気付かずに自分達の言葉だけを捲し立てる男達に対してシルヴィアが一言だけ言葉を発する。
「え・・・・・・・?」
その言葉は決して大きな声ではなかった。しかしその声は不思議な存在感と重さを持って男達の耳の奥に響き渡った。男達全員がそれに一瞬呆けたような言葉を出す。
「お、おい、もしかして今アンタが言ったのかい?」
男の一人が恐る恐るといった風にシルヴィアに訊ねる。
「そうよ、黙りなさいと言ったのよ」
「なんだと!この女!」
更に男の一人がシルヴィアの言葉に今度は激昂する。
「少し気に入った外見の女が居れば見境も無く声をかけて安っぽい言葉と態度で女を誘う。どうせ断られれば脅すなり何なりして無理矢理物にしようとするんでしょうね。どうせ貴方達に着いて行く女なんて貴方達と同じ中身の安い女だけでしょうからよほど今迄運に恵まれていたのでしょうね。そもそもこの街に冒険者が常駐するなんて真面目にこの国の為に魔族を見張る冒険者か竜王の加護にあやかって自分が安全圏に居たいと思っている臆病者だけね。当然貴方たちは後者でしょうよ」
「こ、この野郎!」
「言わせておけば!」
「テメエ犯すだけじゃあ済まねえぞ!」
男達がシルヴィアの言葉に激高する。一部本音がダダ漏れになってしまっている。
「本当の事を言われて怒るだなんていよいよ程度が知れるわね。そんな程度でソウマを見下して私達に声をかけようだなんてお話にならないわ。それになにより・・・・・・・・・」
シルヴィアが言葉を一拍おくとその体から威圧感が一気に噴き出してくる。
「・・・・・・・私の可愛いシャルにそんな下品な視線を向けたことよ」
更に威圧感が増す、男達は突如発生した空が落ちてきたかと錯覚する程の威圧感に完全に言葉も忘れて這い蹲っている。
「(最後のが本音だな)」
「(最後の部分が本音ですね)」
「(最後が本音ダ)」
ソウマ・アイス・ナーバはそんなシルヴィアと可哀想と言うべき男達を見比べながらそんな事を考えていた。
「野郎!」
男の一人がシルヴィアに向かって掴みかかる。しかし男の体はシルヴィアに触れる寸前で停止する。シルヴィアはその場から指一本たりとも動かしていない。ただ男に向かって視線を投げかけただけである。しかし通常の威圧やましてや殺威でもない文字通り視線を向けただけである。だが男はシルヴィアと視線を合わせると同時に体の自由を奪われてしまった。
「《支配者の眼》か、久しぶりに見たな」
吸血鬼は通常の吸血鬼でも様々な特殊能力を有する種族である。不老の体、どのような深手からでも再生する再生能力や中には霧や動物に姿を変える能力、更には最も恐れられる特性の吸血行為による眷族化などがあるが吸血鬼には種族特性として必ず身に付けるものがもう一つある。それは魔眼と呼ばれる特殊な能力を持った眼である。魔眼を持つ種族や生物は数多く存在し魔眼の能力も数多く存在するが今シルヴィアが男に用いたのは対象の自由や精神を拘束するものである。その強制力は使用者の実力によって変化する。中でもシルヴィア達王族級の吸血鬼の使用する魔眼は《支配者の眼》と呼ばれ最上級の魔眼の一つに数えられる。
「これが王族の吸血鬼のみが使用できるという伝説の魔眼ですか、実際に姉上がしようしているのを見るのは初めてです」
アイスが感心したようにシルヴィアと動けなくなった男を見ている。
「シルヴィアの魔眼はその中でも最強に位置する部類だからな」
「魔眼は強い意思があれば割と簡単に抵抗できると言われますが姉上の魔眼はその程度では防げなさそうですね」
「まあ魔眼はお互いの視線がしっかりと正面から合わないと発動できないから本来なら戦闘中に使用するのはかなり困難だがあの程度の相手なら視線が交差する程度で十分効果は発揮できるだろうな」
意識を奪われずに体の自由のみを奪われた男は自分の身に何が起こったのか理解できずに困惑している。
「な、なんで・・・・体が動かねえんだぁ!?」
男は混乱の極みに達しているがそれでも何とか必死に動こうとしてもがこうと試みる。しかし男の意思に反して男の体はピクリとも動かない。
「お、おい、お前等!何を見てるんだ!早く俺を助けろ!」
男は自ら動くのは無理と判断したのか仲間の男達に助けを求める。
「おい、どうした!」
しかし一向に男達が助けに来ることは無い。首が動かない為に後ろを振り返ることができないので必死に声だけで助けを求めるがやはり助けは現れない。
「もしかしてお前が先から呼んでるのはこいつらの事カ?」
「へ?」
すると男の声に応えたのは男の仲間とは違う声だった。男は思はず声のした方に振り返る(シルヴィアが首から上の自由の身許可した)。
「歯応えのない連中ダ。この程度の実力しかないのに私達に求愛をするなど身の程知らずなナ」
男の仲間たちはナーバによって一瞬の内に片付けられて山と積まれていた。
「私達に求愛したいならせめてソウマの十分の一程度の実力を身に付けるのだな」
流石強さを重んじる竜族の娘である。男女間の恋愛観もどこかズレているようだ。
「なぁ!」
仲間の助けを期待していた男はボロ雑巾のように積まれた仲間達を見て驚愕に包まれる。
「これに懲りたら貴方達も無差別に女性に声をかけるのはおやめなさいな。でないとこんな風に痛い目を見るハメになるわよ」
「テメエら・・・・俺等にこんなことをしやがって、次にあったらどうなるか分かってるんだろうな!」
男は実に憎々し気な表情でソウマやシルヴィア達を睨んでいる。それを聞いてシルヴィアは溜息を付く、ナーバは左手を竜手に変化させて男に近づいて行く。
「貴様等に次が有ると思っているのカ?」
「ひっ!」
ナーバから突如噴き出した途轍もない殺気に男は恐怖で引きつる。もしシルヴィアの魔眼の効果で体の自由が奪われていなければ確実に腰を抜かしていただろう。
「・・・・・何故止める姉者?」
しかし男の息の根を止めようとしていたナーバをシルヴィアは優しくナーバの前に手を翳して止める。
「こんな下らない男達で貴女の手を汚すことはないわ。それにシャルにあまり血生臭い所は見せたくないの」
そう言ってシルヴィアはどこか自重気味に笑う。ナーバはしばらくシルヴィアの顔を見つめていたが次いでシャルロットの方を見て何かに納得したのか大人しく手を元に戻して後ろに下がる。
「別に命を取らなくても二度と私達に逆らう気が起きないようにすればいいだけよ」
「力で脅すのカ?」
シルヴィアの言葉にナーバが再び左手を竜手に変える。
「そんな野蛮な方法を取る必要をないわ」
そういってシルヴィアは倒れている男達も含めて一列に並べる。
「魔眼で彼等の深層意識に私達に逆らえないようにするのですか?」
「うーん、それでもいいけれどどうせならもっと罰を与えたらいいと思うの。特にこいつ等みたいな女性に悪さばかりする輩にはとっておきの罰がね」
「あ、まさか・・・・・・・」
シルヴィアの言葉になにをするつもりなのか察したのかソウマが若干引き攣った顔をしている。
「や、やめろ!何をする気だ!?」
唯一意識のある男がシルヴィアに抵抗しようとする。しかし体は今だにシルヴィアの魔眼の効果で動くことができない。シルヴィアの顔が男の間近まで迫る。男は今し方まで恐怖に凍り付いていたというのにシルヴィアの美しい顔が直ぐそばまで来るだけで男は顔を赤くして見惚れてしまう。シルヴィアが自らの瞳を真紅に染めて先程以上に魔眼に力を籠める。
「俺に何をしたんだ!?」
「さあ?ともかくこれ以上私達に関わるのはおよしなさい。さもないと次は本当に・・・・死ぬわよ?」
男は喉を鳴らして唾を飲み込む。殺気を使わず殺威も出してはいないが男はシルヴィアの視線に込められた圧力に完全に気圧された。そんな男を尻目にシルヴィアは他の気絶している男達にも目を開かせて同じようにしていく。
「それじゃあね。行きましょう、皆」
シルヴィア達はその後気絶した男達と放心した男を放置してその場を後にした。
「姉者、あれでは手緩いのではないカ?」
「私もそう思います。彼等は必ずまた別の女性に不埒な行為を行うと思います」
「あーそれについては心配は要らないと思うぞ」
ナーバとアイスの言葉にシルヴィアでは無くソウマが苦笑しながら答える。
「あいつ等はある意味で死んだも同然なのさ」
「それはどういう意味ですか師匠」
「つまりだな、あいつ等はシルヴィアの《支配者の眼》の効果でな・・・・・まあハッキリと言うと二度と男として再起不能になったのさ」
「え・・・・・・・・はっ!」
ソウマの言葉に少し思案したアイスは次の瞬間意味を理解したのか顔を赤くして俯いてしまった。
「つまりあいつ等の雄としての機能を奪ったという事だナ」
ナーバがしたり顔で堂々と言ってのける。そう、シルヴィアは魔眼を使い男達の男性器の機能を完全に停止させたのだ。つまり今後彼等は二度と女性を抱くことは出来ない体になったのだ。
「さすが姉者ダ」
「そうだね、姉様は凄いね♪(良く分かってない)」
「余計な邪魔が入ったがとりあえず魔族の連中がこの国に何かをしようとしているのは確実のようだな」
「そのようね」
「魔族が何かをしようとしているのは間違いなさそうですが何時頃行動に移すでしょうか?」
「案外早いだろうな。奴等のこの国での恐らく勇者以上に最大の懸念事項に思っているのは竜王のウェントゥスと精霊達だった。しかしその懸念事項も恐らくは解決手段なりなんなりを用意できたんだろうさ。とすると奴等もこれ以上敵側であるヴェントの奴らに変に警戒心を持たれる前に仕掛けてくるだろうさ」
「それじゃあ勇者には会わないのカ?」
「まあそれそのものは何度も言うが別に優先順位の高い目的じゃないからな。それに魔族との戦闘が始まれば多分嫌でも目にする機会はあると思うぜ?」
「それもそうカ・・・・・・。くくくくくっっっ」
ナーバは己の拳を握ったり開いたりしながら戦意に漲った表情で笑っている。恐らく里を出て早々に本格的な戦いが出来るかもしれない事に隠し切れない喜びがあるようだ。
「あんまりやり過ぎるなよ」
ソウマはそんなナーバにやれやれと首を振りながらもしょうがないという風に笑っている。
「どちらにしろ俺達がこの時期にこの国に来たことは偶然だがある意味で運命を感じるな」
「それは・・・・ある意味で運命と偶然の神にいい意味で愛されてるシャルと悪い意味で愛されてるソウマの両方が居るんだもの。この程度の偶然なんて今更驚くに値しないわ」
「えらく含みのある言い方だが今は流そうじゃないか・・・・・・」
ソウマは頬をひくつかせながらもなんとか堪えている。
『ソウマ殿、姫様!』
すると突然ソウマ達の脳内にウェントゥスの思念が飛んでくる。その声はどこか焦りを含んでいる。
「どうしたウェントゥス?」
『魔族共が大群で今現在この国を目指して進軍しております』
「到着は?」
ソウマは余計な事は聞き返さず単刀直入に肝心な事だけを聞き返す。
『恐らくは数日の内に到着します。数はおよそ五千弱でしょう。それと・・・・・・』
「どうした?」
『魔族軍の中に以前に姿を消していた上位精霊が居ます』
「やはりか・・・・・・」
ソウマは半ば以上予測していたのかウェントゥスの言葉にさして動揺することも無く答える。
『恐らくは何らかの方法で操られているか洗脳されているのでしょう。上位精霊から感じる気配は以前とは違いかなり禍々しい気配を含んでいます』
「その上位精霊は多分お前対策に用意されたものだ」
『間違いないでしょう。上位精霊が向こうに居る以上精霊達も十全に力を発揮できないでしょう。私自身も上位精霊を相手にするのであればこの谷を風で護ることもできないでしょう』
「だろうな」
上位精霊は強大な存在であるがこの世界を統べる竜族の王の一角であるウェントゥスならば殺すことを前提に戦えばまず負けることはない相手である。しかしウェントゥスは上位精霊を出来る事ならば正気に戻したいと考えている。である以上は相手を殺してしまう規模の攻撃は繰り出せない。これはかなりの不利と言わざるを得ないことである。相手が全力で殺しにかかってくるのに対して此方はそれが出来ないのである。
『恐らく私は上位精霊の相手で精一杯でヴェント国まで護る程の余力が無いと思われますので・・・・・・』
「任せろ。魔族の相手は俺達がしてやる」
「魔族など私が蹴散らしてやル!」
「任せて頂戴な」
「私も・・・・」
「私も!」
『皆さま感謝します。この国の現国王は人徳があり善政を敷く善き国王です。出来ればこの国の平和が脅かされるのは避けたいのです』
「了解した」
そう言ってソウマ達はウェントゥスからの頼みを引き受けた。すると数日後に冒険者ギルドの方から緊急の依頼が発足された。
「緊急依頼です!現在、この国に向かって魔族の軍勢が押し寄せています!至急冒険者の方は応援として戦いに参加して下さい!なお、先頭に参加された冒険者の方は無条件で王国より特別報酬が出されるとのことです!」
冒険者ギルドの受付嬢が慌てたように大声で冒険者ギルドの建物どころか通りにまで聞こえる声量で緊急依頼の報を叫ぶ。
「さて俺達も参加しますか」
それを予測していたソウマ達は早速冒険者ギルドに入り受付を済ませる。
「貴女は・・・・・・!シルヴィア様ですか!」
シルヴィアの冒険者カードを見た途端に冒険者ギルドの受付は驚愕に包まれる。
「ま、まさか伝説のSS級冒険者に力を貸していただけるのですか!?」
その言葉に冒険者ギルド内が騒然となる。A級冒険者でさえ十数人、S級冒険者でさえ4人しかいない為にS級どころかA級冒険者にさえ滅多にお目に掛かることは珍しいのである。それがいきなりそれすら飛び越して唯一のSS級冒険者の登場である。ギルド内が騒然となるのも当然である。なにしろ勇者でさえ恐らくは歯牙にもかけないだろうと言われる実力者である。
「こ、此方に・・・・」
受付嬢は慌ててソウマ達をギルド内の奥の応接室に案内する。このまま受付で応対していればギルド内が更に騒ぎとなってしまう為に緊急時などには問題となった人物や案件はそのギルドのギルド長が対応するようになっている。
「私がこのギルドの長を務めておりますガースと申します」
そうして応接室に入って来たのは線の細い痩身の中年の男だった。事務仕事専門なのかその頬は若干こけており目の下には薄い隈が出来ている。もしかしたら魔族の襲撃の報によりその対応に追われているのかもしれない。
「この度の魔族の襲撃と言う未曽有の緊急事態に際してまさかSS級冒険者のシルヴィア様にご助力頂けるとは感謝の言葉もありません」
そう言ってギルド長ガースは深々と頭を下げる。この緊急事態に元々戦力に乏しいヴェント国で更に高ランク冒険者の寄り付かないこの国にとってシルヴィアと言う強大な戦力はまさに降ってわいた奇跡以外の何ものでもなかった。
「私達もこの国にはちょっとした用があって立ち寄っただけでしたがこのような事態には私達も勿論力を貸すことを惜しみません」
そういってシルヴィアは柔らかい笑みで答える。その横でソウマが俯きながら薄っすらと笑いを浮かべていた。
「さあ・・・・・・・・戦争だ」




