表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
36/72

36話 風の国

「・・・・・・・・スンスン」


「・・・・・・・・」


「お前等それ楽しいのか?」


 結局あれからソウマ達がアイラスを旅立ったのは実に十日以上過ぎてからのことだった。案の定ソウマとシルヴィアが旅立ちを提案すると・・・・・・・。


 ※※※※


「ええ~~~」


 シャルロットが悲痛そうなそれでいてなんとも気の抜ける声を上げる。


「もうアイラスから出ちゃうの~」


「不満そうだなシャル」


 ソウマはそんなシャルロット見ながら大方予想通りだったのか苦笑している。シルヴィアもその横で同じような顔をしながら笑っている。


「だってだって・・・・・・・」


 シャルロットは両手を上下に振りながら必死に何かを訴える様な仕草をする。しかし中々言葉に出来ずに両手の動きがより激しくなる。


「シャル、落ち着きなさいな。別に私もソウマも直ぐに出発するとは言わなかったでしょう?」


 そう言われてシャルロットはようやく動きを止めて深呼吸をする。


「私もシャルと一緒ダ。まだもう少しこの場所に滞在したイ。ングング」


 するとナーバがなんの肉かは不明だが通りの露店で買った骨付きの肉を齧りながら自らの意見を言う(当然のように骨も一緒に噛み砕いて食べている)。


「私もこの国で色々な食べ物を食べてみたイ。モグモグ」


「食うのか喋るのかどっちかにしろよな」


 ソウマはナーバに呆れたような表情を向けている。


「まだ食べたりないの?」


 シルヴィアも苦笑しながらナーバに問い返す。


「聞けばこの国は地区によって食材や料理の種類や味が変わるらしイ。今私達がいる地区は肉料理が主な区画らしイ。今度は魚料理が食べてみたイ。モグモグ」


 そう言って更に肉を口に頬張るナーバ。どうやら初めて里から下りてモノを食べるという行為を単純に腹を満たす行為から食材を調理して食べるという楽しむ行為に目覚めたようだ。


「私もお魚食べたいな」


 シャルロットもナーバに同意するように頷く。


「・・・・・・・・」


 ソウマは苦笑しながらシルヴィアとアイスを見る。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 シルヴィアとアイスも苦笑しながらも目線でソウマに答えを返す。


「しょうがない、別に急ぐ旅じゃない。お前らが満足するまで滞在するとしよう」


「わーい」


「モグモグ」


 シャルロットは嬉しそうに笑い、ナーバは頷きながら更に口に肉を投入していく。こうしてソウマ達はアイラスにしばらく滞在する事になった。

 ・・・・・・・・・余談ではあるがソウマ達の滞在期間中にアイラス中の各店舗で全品を食破した伝説の大食い少女が誕生したのは別の話である。


 ※※※※


 そうしてソウマ達は現在アイラスを出てからヴェントに向かう途中の道中で野宿をしていた。いや正確には野宿というのは正しくない。ソウマ達は現在屋内にいるからだ。


「しかし姉者の影は凄いナ」


「はい、こんなものまで収納できるとは驚きです」


 ナーバとアイスが感心するように周りを見渡す。


「俺もこれに入るのは久しぶりだな」


 ソウマ達は今シルヴィアの影の中から出現させた一軒家の中にいる。旅の道中そろそろ日が暮れ始めた頃にシルヴィアが道の外れの人目のない所に自らの影から家を出現させたのだ。その家の外見は漆黒に染め抜かれており窓すらも漆黒に染まっており中の様子は伺えない。明かりも漏れない為に夜の闇に紛れれば肉眼での発見は困難だろう。


「それにしても不思議です。外から見れば窓すら黒に塗り潰されているのに中からだと外の様子がまるで昼間のように見えます。しかもこの家の内部の調度品や家具はどれも素晴らしい出来栄えなのが一目で分かります」


「魔力も満ちていル。この家の壁は相当に頑丈だゾ」


「この家の材質はイヴァを削り出して作ったものなのよ」


「イヴァと言えば我等エルフの至宝である世界樹のユグドラシルと同じく世界を支える大樹といわれる木ですね。確かイヴァは吸血鬼の国有ると言われていましたが・・・・・・」


「そうね。ハイエルフの里にある世界樹ユグドラシルは昼を象徴する大樹よ。対して私達吸血鬼が管理する世界樹イヴァは夜を象徴する世界樹なの。イヴァの木は日の光を一切通さない、私達吸血鬼が身を隠すには最適な建築材料といえるわね」


 いかにシルヴィア達王族級の吸血鬼ロイヤルヴァンパイアが太陽の光を平気だとしても平気だからといって苦手ではないという訳ではない。気分的な問題ではあるが日光を浴びずに済むのならそれにこしたことはないのだ。


「私達王族級の吸血鬼ロイヤルヴァンパイアに代々受け継がれているものなの。何かしらの用事などで国を出た時などに使用しているものなのよ」


「しかもこれはラルクが言うには対魔法・対物理に特化した魔術が付与されているらしいから一層頑丈にできてるらしい。最上級魔術の直撃でもびくともしないそうだぜ」


「それは凄い・・・・・・・」


 アイスが更に感心したように周りを見回す。


「この壺など凄まじい価値がありそうですね・・・・・・」


「それは遥か昔に滅んだ人族の文明の作品ね。確か・・・・ラオールと言ったかしら?」


「太古に栄えた幻の文明の名前ではないですか・・・・・・これ一つで下手をすれば城が買えてしまいますね」


 アイスは驚愕すると同時に壺に向かって伸ばしかけていた手を引っ込める。


「本当は二つ有ったんだがもう一つは以前にシャルが壊しちまったんだよな」


 ソウマが当時を思い出す様に笑いながら言う。


「そうだったわね」


「あれは・・・・・・・ごめんなさい」


 当時を思い出しシルヴィアが笑いシャルロットが申し訳なさそうに謝罪する。


「シャルは気にしなくてもいいのよ」


「そうだぜ。それに本当なら割れた壺はラルクの物質復元の魔法で元に戻せるはずだったのに壺が割れた時にシャルが手を切ったのを見てシルヴィアが壺を破片も残さず塵に変えちまったのがいけないのさ」


 ソウマは更に笑いが込上げて来たのか声を出して笑っている。


「だってシャルの手を傷つけたんだもの塵も残さず消えるべきだわ」


 この反応からシルヴィアが当時からシャルロットにどれ程甘かったのかが伺える。


「それにしてもお前等さっきも同じようなこと聞いたが飽きないのか?」


 ソウマの視線がナーバとシャルロットに向けられる。実は先程からずっとシャルロットはナーバの足の間に座ってナーバに後ろから抱きしめられている状態なのだ。そしてナーバは後ろからシャルロットを抱き締めた状態でシャルロットの首筋や髪の中に鼻を埋めて只管に匂いを嗅いでいる。


「さっきまではずっと私の匂いを嗅いでいたのだけれどねぇ」


 シルヴィアはそれを見ながら面白そうに笑っている。シルヴィアの言う通りナーバはシャルロットの前はシルヴィアの匂いを嗅いでいた。シャルロットの時とは逆にシルヴィアがナーバを抱き締める形でナーバを匂いを嗅いでいた。ナーバはシルヴィアに甘える様に胸元や正面から首や髪の匂いを嗅いでいた。


「姉者は何だか安心する匂いがすル」


 ナーバはそう言っていた。もしかしたら一度も会った事がない亡き母への思慕をシルヴィアに感じているのかもしれない。


「シャルは暖かい匂いダ。この匂いを嗅いでいるだけで心が暖かくなル。姉者とはまた違う・・・・」


 そう言ってナーバは再びシャルロットの髪の中に鼻を埋めて匂いを嗅ぎ始める。


「(こいつの癖なのかそれとも竜族特有の癖なのかは知らないがどうやら気に入った相手の匂いを嗅ぐような癖があるようだな)」


 ソウマはそう分析していた。


 ※※※※


「はあっ、がっ、がぁっ」


 翌朝ソウマとナーバが組み手を行っていた。ナーバは擬態を解いて竜人の状態でソウマと戦っておりソウマは素手で相手をしている。シルヴィア・シャルロット・アイスはそれを少し離れた場所で観戦している。


「ふんっ」


 ナーバが竜爪でソウマに肉薄して攻撃を繰り出していく。それをソウマは拳に気を込めて防御力を上げた状態で上手い具合に捌いて行く。


「くそッ!」


 ソウマはナーバの攻撃を正面から受け止めることはせずに爪や蹴りなどの攻撃を横から叩いて逸らしている。横から攻撃を逸らされるナーバはその度に体勢が崩れて地面に倒れている。ナーバはそれに苛立ちますますソウマに苛烈に攻め立てる。


「ほらよ」


 ナーバが乾坤一擲の勢いでソウマに踊りかかった瞬間にソウマはナーバの視界から一瞬消えてナーバの足を引っ掛ける。ナーバ自身の勢いが強かったこともあり今までで一番激しく地面に突っ込んでしまう。その勢いはナーバの頭が首まで埋まってしまった程である。


「うがーー!!何故ダ!あんなふらふらした動きでどうして私の攻撃を逸らすことが出来るんダ!?」


 ナーバは地面から顔を上げると苛立った様に吠える。


「そりゃあお前、それがブジュツってものだぜ」


 ソウマが笑いながらナーバに手を貸す様に伸ばす。


「ブジュツ?」


 ナーバは不思議に思いながらも伸ばされた手を素直に取って立ち上がる。


「力の流れを理解し力の流れを利用する。今のはお前の攻撃の勢いに対して逆らわずに逆に利用したんだよ」


「どういうことダ?」


「向かってくる力に対して同じく向かっていく力で対抗すると必ず力に劣る側が敗北する。それをせずに向かってくる力に更に勢いをつけてやるのさ。正面から迎え撃つのではなく向かってくる力にほんの少し横方向に別の力を加えることによって少ない力で敵の攻撃を逸らすことができる」


「それで私は攻撃を加える度に勢いが付きすぎて体勢を崩したのカ」


「そういうことだ。但しこれは誰でも出来るわけじゃあない。敵の攻撃の速度や力の方向を正しく把握してないと早すぎれば逆に弾かれるし遅すぎれば逸らすのが間に合わない。更に逸らす力が弱すぎれば敵の攻撃を逸らせない。失敗すれば自分が受ける敵の攻撃はある意味で普通に受ける以上に深刻なモノになる」


「普通にかわしては駄目なのカ?」


「勿論その方が簡単だ。だがこのやり方だと今お前が体験した通り敵の体勢を崩すことが出来る。成功さえすればただ敵の攻撃をかわす以上の成果をもたらしてくれる」


「何だが面倒くさい行為だナ」


「お前がそう思うのも無理はないな」


「私にも使えるのカ?」


「使えない事はないがあまりお勧めはしないな」


「何故ダ?」


「それはブジュツが元々力の弱い者の為のものだからよ」


 二人の会話にシルヴィアが割り込むように入ってくる。


「ソウマやアイスが使用するブジュツといものは元々力の劣る者が自身よりも強い者を制する為に生み出されたそうよ」


「だから何なのだ姉者?それが私が使えなくてもいい理由にはならないだろウ。私は強くなる為なら構わなイ」


「さっきも言っただろう、ブジュツってのは力に劣る者の為の・・・・つまりは弱者の為に生み出されたものだ。生来の強者であるお前やシルヴィアには基本的に必要ないものだ。お前が強くなる一番手っ取り早い近道は兎に角実戦経験を積むことだ。お前等竜族は元々恵まれた能力を生まれながら持ってるからな下手な小細工は本来必要ない」


「・・・・そうなのカ・・・」


 ナーバは腕を組んで唸る。


「だからといって知っといて損は無い。知っているのと知らないのとでは対戦した時の対処の仕方に明確な違いが生じる。世の中にはこういった格下が格上を倒す為の術も存在するのを知っておけ。でないと本物の実戦で足元を掬われるぜ」


「分かっタ」


 ナーバは素直に頷く。元々の性格が素直であるから一度認めた相手からの助言や教えは素直に受け入れるようだ。


「さて次は・・・・・・」


「お願いします」


 ソウマがそう言うとアイスが静かに進み出る。


「おし」


 ※※※※


「はあっはあっはあっはっ」


 アイスは《アイスコフィン》を杖代わりにしながら地面に膝を付いた状態で荒い息を吐いている。


「剣筋も鋭くなってきたし受け流しの技も様になってきた。縮地も見様見真似にしては十分実戦で使える所まで来ている。大分強くなったな」


「あ、ありがとう、ございます」


 荒い息を吐きながらアイスがソウマからの言葉に何とか返答を返す。


「更に技を磨けば大概の奴のは負けなくなるだろうさ」


「(それでも自分が強くなるのを実感すればする程に師匠マスターだけではなく姉上やナーバ殿との力量差を痛感してしまいます)」


 アイスは内心でそんなことを思いながらも目指すべき目標を見据えて更なる闘志を静かに心に刻み込む。


「それじゃあ皆、そろそろ良い時間だからご飯にして先に進みましょうか」


 一段落着いたのを見計らったのかシルヴィアが手を叩きながらもそう提案する。


「ご飯!」


 その言葉に真っ先に反応したのはナーバだった。完全に食の魅力に憑りつかれたナーバはシャルロット以上の食いしん坊へと変貌を遂げていた。


「そうするか」


「そうですね」


 ソウマとアイスもそれに続く形で首肯する。ナーバは既に食事の用意を始めているシャルロットの所に駆け足で行ってしまった。


「さあて目的地までここからそう遠くはない。飯を食べて窮奇で移動すれば直ぐに着くだろうさ」


 ※※※※


「お~~~~~!」


 ナーバが思わず感心したような声を出す。現在ソウマ達は窮奇の背に乗って大空を高速で飛行中である。


「どうした?空を飛ぶなんて竜族のお前からすれば珍しくもなんともないだろう」


「自分以外の力で空を飛ぶのは実はあんまりなくてナ。私が幼い頃に御爺様に何度か乗せて頂いたことは合ったがそれも私が自力で飛べるようになってからは無くなってしまっタ。だからこうして自分で飛ぶ以外の景色を見るのは何だが新鮮な気分ダ」


 そういってナーバは上機嫌に笑いを溢している。


「そういうもんかねぇ」


 そう言いながらソウマは微笑ましそうにナーバを見ている。


「そう言いながら見えて来たわよ」


 シルヴィアがそう言って先を指し示すとその先に深い渓谷が見えてきた。それにともない強い風が吹き始める。


「思った以上に凄い風です」


 アイスが周りの様子を見ながらそう感想を漏らす。窮奇の背中の上は窮奇自身が魔術を使って風を制御している為に影響は出ていない。


「確かにそうね。しかもこの風はただの強風じゃあないわ。緑竜王ウェントゥスが制御している風よ。魔術の干渉を受けにくい風になっているわ。このまま進んだらキューちゃんでも風の影響を受け始めてしまうからそろそろ降りた方がいいわね」


「・・・・・・グルゥァ」


 シルヴィアの言う通り窮奇の進む速度は目に見えて落ち始めており、その顔もどこか苦しそうである。鳴き声も苦悶を訴える様に力がこもっていない。


「よし、ここからは降りて進もう」


 ソウマはそう言って窮奇に地面に降りるように指示する。


「ありがとうね、キューちゃん」


 シャルロットが窮奇にお礼を言いながら顔に抱き着く。窮奇もシャルロットに甘えるように喉を鳴らして鼻先を擦り付ける。


「・・・・・・・・」


「どうしました、ナーバ」


 アイスが先程からやや険しい顔付で風が吹く渓谷を見つめているナーバに声をかける。


「この風・・・・・・・何か危険な匂いがすル」


 ナーバは鼻を数回ひくひくさせながら答える。


「確かにな」


「私にも何となく分かるわ」


 するとそれにソウマとシルヴィアも同意を示す。


「この風に当たっていると何か肌がビリビリ来る」


「何か良くない感覚を思わせるわね」


 ソウマは戦士としての経験と勘、シルヴィアとナーバは人族を遥かに超えた感覚で前方から吹く風に込められた何かしらを感じているようだ。


「確かに言われてれば何か肌がざわつく感覚を覚えます」


 アイスも集中することによってソウマ達と同じモノを感じたようだ。


「ウェントゥスが何かを警戒していル」


「なんだが精霊さん達も不安そうだよ」


 ナーバが険しい顔で前を向いたまま油断を消して言う。シャルロットも周囲の精霊の感情を読み取ったのか不安そうな顔をしている。


「とにかくヴェント国の入り口の渓谷まで行ってみようぜ。当の本人に事情を聞いてみれば一番早いさ」


 ソウマがそう言って暢気に渓谷に向かって歩きはじめる。


「それもそうね。ここで考え事をしていても始まらないわ」


「そうだナ。何が起きても実力で切り抜ければ問題は無イ」


 シルヴィアもナーバもソウマに続く様に警戒を解いて歩き出す。


「何が起きてもソウマや姉様達が居れば大丈夫だよね♪」


「確かにこの世界有数の実力者達がこの場にいる時点で大概の事態には対処が可能でしょうね」


 シャルロットは何の不安も無いといった感じでソウマの腕に抱き着く。アイスも余計な心配だったとばかりに溜息を付いてから自身もソウマ達の後を追った。

 それから歩いて暫くしてからソウマ達は渓谷の入り口の近くまでやってきた。そこにはヴェント王国の兵士がつめている関所がありどうやらそこか唯一の入国場所であり、あの兵士達はそこの監視を任されているようだ。


「よう、お勤めご苦労さん」


 ソウマはそう言って気さくに兵士達に話しかける。


「そういうアンタらは冒険者かなにかかい?」


「まあな、ちと各地を渡る歩きながら見識を広めようと思ってな」


「こんな御時世にご苦労な事だ。各地では魔族の襲撃に備えて警戒態勢の国もあるってのに、うちの国も例に漏れずその類いだかね」


「まあついでにそれをあてにして仕事の話も探してるんだよ」


「確かにそれ目当てで傭兵の口を探した冒険者が偶に来るな。よし分かった、冒険者ならギルドカードを見せてくれ。一応一人見せてくれたら十分だ」


「警戒態勢にしては簡単な検問だな」


「俺等が気にかけずともこの関所を抜ければ【縁竜王】ウェントゥス様の領域だ。悪意の有る者や邪悪な者は直ぐに風に排除されちまうよ」


「なるほどね」


 そう言いながらソウマは自らのギルドカードを取り出して兵士に見せる。


「よし、確認が出来た。この門を抜けて真っ直ぐ進めばヴェント国に入れる。余計な横道に入ったりするとたちまち風に攫われて飛んでっちまうぞ。それにしても・・・・・・・」


 兵士はそう言ってソウマの後ろに視線を投げる。よく見れば他の兵士も全員同じ所に視線をやっている。


「随分とまあ・・・・・・・綺麗所を連れてるもんだ・・・・・」


 兵士はそう言いながら喉を鳴らす。シルヴィア達は現在幻覚系の魔術で容姿を変化させている。しかしその変化させた容姿はあくまでも本人の種族的特徴を隠蔽する程度のものなのでシルヴィアは髪の色や瞳の色を変化させシャルロットも髪の色とエルフ族特有の耳を通常の人族の耳に変化させナーバも当然普通の人族に変化させている、アイスも念の為に今は髪の色を変化させている。それでも基本的な造形は変化していないので全員が美女・美少女であることはかわりない。


「羨ましいだろ」


 そんな羨望の眼差しをソウマは悠然と受け止めて兵士の脇を通過して門をくぐる。その時さり気なくシルヴィアとシャルロットがソウマの両腕を取って歩いていた。


 ※※※※


 しばらく渓谷を進んだところでソウマは後ろを振り返る。兵士達が完全に見えなくなり何か起こっても気付かれないのを確認したソウマは上空を見上げる。


「さて、この辺でいいかな。俺等が来たのはとっくに気付いてるんだろ?」


 そう言ってソウマは空中に向かってまるで誰かに話しかけるように言葉を発する。


『勿論です』


 するとその言葉に当然の如く虚空から返答が返ってくる。そうして次にソウマ達の前方で風が急速に収束し始める。やがて集まった風の塊は徐々に人型に変化してゆく。やがてその人型は長身の青年の姿になった。深碧色の瞳と髪をしたその青年は一見すると線の細い優男風だが、それが見た目だけのモノであることは青年の放つ尋常ならざる気配が物語っている。


「ようこそ、ソウマ殿。そして姫様、思った以上にお早い再会になられましたな。しかし前以上に活力に満ちている御様子でなによりです」


 そう言って青年の姿を取ったウェントゥスは恭しくお辞儀をした後に挨拶を交わす。


「堅苦しい挨拶は別に構わなイ。ここに立ち寄ったのは本来ソウマ達の用事だったからダ。本来ならお前にも会うつもりはなかったが事情が変わっタ。いや、正確に言うならお前の様子から変わったと言うべきだろウ」


「やはりそのことでしたか・・・・・・・・。すみません、どうやら余計な気を使わせてしまったようです」


 ウェントゥスは申し訳なさそうに頭を下げる。


「それは別に気にしてない。それよりも何かあったのか?【縁竜王】ともあろう者がえらく警戒心をあらわにしてるじゃないか」


「それについては何かあったというよりもこれから何かあるといいますか・・・・・」


「?、要領をえないな」


「そちらのハイエルフのお嬢さんも感じているのではないですか?この辺りの風の精霊が妙にざわついているのが感じられるはずです」


「え、えっと・・・・・はい、精霊が不安げなのはなんとなく・・・・・・・・」


 いきなり話を振られたシャルロットは少し戸惑いながらなんとか答えようとするのだが本人も良く分かっていない事なので上手く説明できないでいるとシルヴィアがシャルロットの前に進み出る。


「ウェントゥス殿、申し訳ありませんがこの子は正規の修練を積んでいないので精霊の声をハッキリと聴きとることはできません。精々が周りの精霊の感情を受信できる程度ですのでご容赦願います」


 そう言ってシャルロットに助け舟を出す様に説明をする。


「これは失礼しました。貴女の周りにあまりに多くの精霊が貴女を慕うように集まっていたのでさぞ優秀な生霊術の使い手と思ったのですが・・・・申し訳ありませんでした」


「いえ、大丈夫です」


 シャルロットは気にしていないという様に笑顔でウェントゥスに手を振って見せる。


「貴女からはとても良い雰囲気が漂っています。精霊もそれに惹かれたのでしょう。と・・・・・・話が逸れてしまいました。実は私が竜の谷よりここに戻りましたら精霊達があることを訴えてきまして・・・」


「何を訴えてきたんだ?」


「なんでもこの周辺の風の精霊を統率していた上位精霊が居なくなったそうなのです」


「上位精霊が?」


 精霊とはこの世界のどこにでも存在する。有機物・無機物問わずこの世のあらゆるものに精霊は宿ると言われている。ゆえに精霊は常に自由奔放に存在しているように思われるが実はちゃんとした秩序のようなものが存在する。


「昔ラルクに聞いたことがあるわ。精霊は己の属性や性質に則した場所や物質に宿るけれどそれを管理している精霊も存在するらしいの」


「そうなのか?」


「アイスの《アイスコフィン》に宿る氷精霊のように単体で存在する精霊はともかくこの場所のように精霊が大量に存在する場所にはそれを統率する役目を精霊王から任された上位精霊が居るらしいのよ」


「それは私も聞いたことがあります。下位の精霊も一カ所に集まり過ぎればシャルも体験したことがあるかもしれませんが魔力酔いや精霊酔いを引き起こしてしまいます。それをさせないために精霊王はその周辺の精霊を統率する役割を持った強大な精霊を一体用意するそうです」


「それが今回居なくなったと?」


 シルヴィアとアイスの言葉にソウマはそれを確認するようにウェントゥスに訊ねる。


「その通りです」


「ただ少し姿を消しただけとかじゃないのか?」


「それは無いでしょう。その精霊が姿を消した途端に他の精霊が一斉に騒ぎ始めました。只姿を消しただけではここまでの騒ぎにはならないでしょう。それに精霊達の言葉が正しければ何者かに攫われたようなのです。下位の精霊の思考能力はそこまで高いものではないのではっきりとした内容までは分からなかったのですが・・・・」


「攫われただと?」


 ソウマは怪訝な顔を浮かべる。精霊もこの世界では上位存在に位置する存在である。しかも精霊の中でも上位の精霊ともなればその力は精霊王に次ぐものである。並の存在ではまず太刀打ちすることはできない。それこそ竜種の中でも上位竜級の生物でもないと・・・・・。


「ソウマ殿が考えている通り上位精霊を捕えるとなるとそれは災害そのものを捕獲するに等しい行為です。それは我等竜族でも容易では無い行為、それを成せるとなれば犯人は得体の知れない力を保持しているかもしくは・・・・・・」


「そいつが上位精霊以上の存在ってことか・・・・・・・」


 ともすればそれは竜王や精霊王に匹敵する存在である。ウェントゥスが警戒するのも頷ける話である。


「もし本当に上位精霊が攫われたのであれば狙いはこの人間の国か或いは私かもしれません。ゆえにここに帰って来てよりずっと警戒を続けておりました」


「もしその犯人が魔族の連中だとしたら狙いはヴェント国だろう。だがあの国はお前の庇護下にある国だからあの国を陥落させるなら勇者以上にお前を何とかしないといけないだろう。案外その為に精霊を攫ったのかもな」


「やはりそうでしょか・・・・・・」


 この世界にウェントゥスやゼファルトスを始めとする竜王はゼファルトスを規格外と位置づけても他の竜王も純粋な実力は精霊王やそこ等の神以上である。それを倒すとはいかなくとも足止めするにはそれなりの戦力が必要になる。ソウマ達は捕えた上位精霊を何らかの形で利用するものと考えていた。


「俺達も個人的な用があって来たがこれも何かの縁だ。竜王のおっさんの頼みもあるし力を貸すぜ」


「勿論私もよ」


「私もダ」


「私も未熟ではありますが及ばずながら力になります」


「私は戦えない・・・・・・・・」


 ソウマ達が協力を申し出る。シャルロットだけは自らに戦闘能力が無い事に落胆している。


「これは心強い、我が王と互角以上の力を持つソウマ殿や吸血鬼族の一族最高傑作の呼び声高いシルヴィア殿は勿論姫様まで加勢をしていただけるとは・・・・・・・。それにそこのエルフ殿・・・・確かアイス殿と仰いましたな、貴殿もなかなかの力量をお持ちだ、此度の助力感謝します。それにハイエルフの血を引く姫君よ。戦う力が無いなどととんでもない、貴女が居られるだけで精霊達が落ち着きを取り戻しております。貴女は既にここに来られた時点で既に十分以上に助かっております」


 そう言ってウェントゥスは心からの感謝を込めて礼をする。アイスとシャルロットもこの世界の頂点の一角の賛辞に顔を赤くして恐縮している。


「それにしても・・・・・」


 ソウマは天を仰ぐ。


「やっぱりここでもなんだかんだと面倒事に巻き込まれたか・・・・・」


 どこか他人事のように嘆いた。


「やっぱりね」


 シルヴィアは実に楽しそうな笑顔で誰にも聞こえることも無く呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ