35話 竜の同行者
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「うまうま」
現在ソウマ達はアイラスの街の中の一軒の食事処にて食事の真っ最中であった。
「うまうま」
「うまうま」
ゼファルトスからの用件やその他の出来事を済ましたソウマ達は来た時と同じ場所のアイラスまで戻ってきていた。当然普通に帰って来ては来る時のようにアイラスの街が大騒ぎになってしまう。なのでシルヴィアの影による認識阻害を施して人知れず街の前まで戻って来てからアイラスに入ったのだ。
「美味しい、シャル?」
「むぐむぐむぐ(コクコク)」
「♪」
そしてアイラスに入国して早速ソウマ達はシャルロットの希望通りにアイラス特有の様々な地方の料理を堪能していた。シルヴィアは口の中一杯に食べ物を頬張りながらも懸命に食べ続けるシャルロットを見て幸せそうに頬を緩めている。シャルロットは格式ばった場などでは身に付けた食事作法で丁寧に食事を摂るがこうした親しいものしか居ない場面や王女としての姿を必要としない時は自由な姿で食事摂る。
「あ、口に付いているわよ」
通常の食事を必要としないシルヴィアはシャルロットの食事を見守りながら時折シャルロットの口周りに付いた汚れを拭いてやっている。アイスも自分の食事を静かに続けながらそれを微笑ましく見守っている。
「うまい、うまイ!」
「・・・・・・・・あー、その、何だ・・・・・・ナーバ、美味いか?」
そしてソウマはその光景を見守りながら視線をシャルロットの横に座る竜人の少女・・・・ナーバに向けられていた。ナーバの前にはシャルロットの食べている量とは比較にならない程の山盛りの料理が並べられておりナーバはそれを実に幸せそうな笑顔で口いっぱいに頬張っている。
「ナーバも、そんなに口一杯に食べ物を入れなくても誰も捕らないし足りなかったらいくらでも食べていいから慌てないの」
「んぐんぐ・・・・・・ぐむ。分かった、姉者。しかし他種族の食べ物というのはこんなにも美味いものばかりなんだナ。肉や野菜に色んな匂いや味が合わさって凄く美味いゾ!」
「竜というのはやはり基本食事は調理しないのですか?」
「そうだ、私達の食事は獲物を仕留めたらその場で食べてしまうからナ。中には自分の息吹で獲物を焼いてから食べる者もいるにはいるが精々がその程度だナ」
そう言いながらもナーバは器用に自分の口に食べ物を運び続ける。
「まあ、知性はあっても基本お前らは野生の魔物と変わらん部分があるからな」
「あんな礼儀も誇りもない奴等と一緒にされては困ル。もぐもぐ・・・・・・・」
ソウマの言葉に怒りを顕わしながらでも食事の手を止めない。その隣ではシャルロットもシルヴィアに介抱されながら黙々と食事を続けている。
「前々から特に人族の食い物には興味があったんダ。しかし御爺様は私を一人で里から降りるのを許してくれなかったんダ」
「ということはナーバ様はあの聖域から出るのは初めてなのですか?」
「そうダ」
「(そりゃあこんな性格で一人で居たらトラブル続出だろうなぁ・・・・)」
ソウマは内心で思ったことは勿論口に出さない。
「それとアイス、私の呼び方に様は要らないと言っただろウ。お前も私の仲間ダ。仲間は仲間を様付けで呼んだりしなイ」
「そうは言いましても我々エルフにとって【真竜王】様の血族ともなれば・・・・・・・いえ、分かりました。・・・・・ナーバ」
アイスはそれでも言い募ろうとしたがシャルロットとのことも思い出してこの話題は不毛だと思ったのか素直に従う。
「それにしても本当に着いてくるとは・・・・・・・」
それはソウマ達が竜の聖域から旅立とうとした時だった。
※※※※
「待テ!」
ソウマ達がウェントゥスの背に乗って飛び出そうとした時にナーバが突然ソウマ達に声をかける。
「私もお前達に連れていケ」
そして唐突にそんなことを言い出した。
「ナーバ、なにを言っておるのだ?」
ゼファルトスが突然の提案をした孫に対して問い掛ける。しかしその顔はどこかそう言いだすのが分かっていたかのように笑っており、かける言葉も何処か確認めいている。
「御爺様、私は今回のシルヴィア殿とソウマ殿との戦いで自らの未熟を痛感しましタ。私に圧倒的に足りないのは経験であると感じましタ。そしてそれはいつまでもここに閉じこもっていては経験できませン。私はソウマ殿達と共に行き世界をこの目で見てきたいと思いまス」
ナーバはゼファルトスの問いに真っ直ぐに見返して言葉を返す。その瞳には強い意思が宿っていた。
「(この僅かな間にも成長したようだな。シルヴィア殿、そしてソウマとの出会いがナーバに良き流れをもたらしている)」
ゼファルトスはそれを見て更に笑みを強める。
「お主の気持ちは理解した。ここを出ることも許そう。しかしそれはソウマ達が許せばの事ではある」
そう言ってゼファルトスはソウマ達の方へ視線を向ける。ソウマ達はウェントゥスの上から一度降り立つ。
「まあ、俺は別に構わない。但し、他の者が良いならな」
そう言いながらソウマは自分の後ろに視線を向ける。
「私は構わないわ。その子の成長は私も興味があるしね」
「私も大丈夫だよ」
「私も構いません」
「と、言う事だ」
皆の賛成を聞いたソウマはナーバとゼファルトスに向き直って笑顔で答える。
「感謝すル。これからよろしく頼ム」
旅の同行を許されたナーバは笑顔を見せて感謝の言葉を述べる。
「差し当たって・・・・人の居る所に行くなら服を着ないとな・・・。それと少々見た目も変えないとな」
そう言ってソウマは顎に手をやってナーバを見る。ナーバの人型の見た目は腕は肘から下は白銀の鱗がびっしりと覆い、胴体は肩の付け根から首元周辺まで、胸を覆う申し訳程度の布の部分以外は(膨らんだ胸元の僅かに見える下部分から肌色が見える)背中まで鱗に包まれている。下半身はふくらはぎの内側以外は殆どが鱗に包まれている。下半身も大事な部分は小さな布で覆っているがどう見ても下着姿にしか見えない。しかも背中からは大きな翼が生えており、顔は頬に少し鱗が見える位で何とかなるがその頭の側頭部の両側から二本の見事な鱗と同じ白銀の角が生えている。ナーバの見た目もさることながら着ているものもあまりにも布面積が少ない。
「私の恰好が何か変カ?」
ナーバは自分の姿を見下ろして首を傾げている。そもそも彼女達は本来の姿は竜である。であるということは彼女達はそもそも服を着るという習慣は無い。彼女達が人型になる際に服を着ているのは(そもそも人型になれるのは一部の上位竜のみである)人の姿を真似て変化する際に人は基本的に服を着ているものなのでそれがイメージとして鱗の一部が変化しているようである。つまりナーバのあの恰好は人は服を着るものというイメージを持ちつつも自分が動きやすい格好が今の状態のようだ。
「まあ、服装もそうだけれど貴女の種族が問題なのよね・・・」
シルヴィアも頬に手を当てて溜息をつく。
この世界には最強の戦闘種族として名高い竜人族がいる。竜の強靭な鱗と高い身体能力を備えたその種族は魔族でさえ簡単には手を出すことが出来ないといわれる程の種族である。しかも竜人族はその戦闘能力に引き換え個体数は全種族中最も少ないとも言われている。世界中に点在する竜人族の里にはそれぞれ百にも満たない数しか居ないと言われる。更に強靭な能力ゆえに普通の人族や亜人種では到底住めない環境や魔獣の生息する地域に住むために滅多にその姿を見ることが出来ない伝説の種族の一つである。
「伝説の種族が街を闊歩して入れば騒ぎは確実でしょうね」
アイスも事実を淡々と語る。正確にはナーバは竜人族ではないが人型の見た目は正しく竜人族そのままの為に間違いなく竜人族に間違えられるだろう。
「もう少し人族に近い姿になれ」
ソウマはハッキリと言い切る。
「どうしてダ?」
「お前の今の姿は人族の居る所では要らない騒ぎにしかならないからだ。出来るだろ?現に竜王のおっさんは出来てるし」
そう言ってソウマはゼファルトスを親指指す。確かにゼファルトスの姿は一見するとローブ羽織った老人にしか見えない。普通の老人に比べれば少々威厳や威圧感が凄すぎるが流石に今のゼファルトスを見て竜人族や竜だとは気付かないだろう。
「なれないことはないガ・・・・・・・」
ナーバはソウマの言葉に肯定の言葉を返すがその顔はどこか不満気である。
「何か不満があるのか?」
「何故わざわざ弱い姿に擬態しなければならない?」
「だから要らない騒動を回避する為だ。お前の姿は色んな意味で強烈なんだよ」
竜人族に見えるということも重要であるがそれ以外にもナーバの体形は出る所が出ての体であるし、その容姿は十分に整っているといえる。それが裸同然の姿で人前を歩けばたちまち騒動の元である。
「お前だって行く先々で一々騒動に対応するのは面倒だろ?」
「うぬぅぅぅぅぅ・・・・・・」
ナーバが唸る。どうやら起きる騒動を片っ端から力技で解決するという選択肢を取る程考え無しではないようだ。
「分かっタ・・・・・・・。少し待テ・・・・・・」
そう言ってナーバは眼を閉じて意識を集中する。すると徐々にナーバの体から鱗が消えていき普通の肌が表れてくる。髪の毛も白銀色から黒へ変化しさらに翼も背中に折りたたまれる様に消えていき頭の二本の角も段々と頭に沈むように消えていく。そしてしばらくしてそこにいたのは鋭い刃のような印象を抱かせる美少女だった。唯一変わっていないのはその黄金色に輝く竜の瞳のみである。
「まあ、いいかな?目なら正面から堂々と見られなけりゃそうたいした問題でもないだろう。問題は・・・・・」
そう言ってソウマはナーバの体を見下ろす。その服装は先程全く変わっておらず布を腰と胸に巻いたままである。むしろ見た目が人族に見える分ソウマの眼には余計に卑猥に見えてしまう。
「服は・・・・・変えられなかったのか?」
「一応人間で言う生殖器に相当する部分は覆っているゾ?」
ナーバは又もソウマの言葉に首を傾げる。本来女性にとっても大事な部分であるはずの箇所を生殖器という言い方をするあたりがある意味で竜族の倫理観を表している。
「まあ、そうなんだが人や亜人の多くは肌の露出を避けるものなんだよ」
「何故ダ?」
コテンと首を傾げて心から不思議そうに無邪気な顔で聞き返すナーバ。
「え~あ~ん~。・・・・・・・・・シルヴィア」
「はいはい」
何事か考えていたソウマだが結局は女性のことは女性に任せることにしたようだ。
「ナーバ、ちょっとこっちにいらっしゃい」
シルヴィアはナーバを手招きして呼び寄せる。ナーバは素直にシルヴィアの傍に近寄る。
「~~~~~~~~~~~~~~~~」
そのままソウマに聞こえないように何事かをナーバに説明している。ナーバはそれに一回二回と頷きながら大人しく話を聞いている。それからしばらくしてシルヴィアとナーバが帰ってくる。
「話は理解しタ。だが私は人族の服に着いては詳しくなイ。出来れば何か見本のようなものがあると助かるのだがナ」
「それならこんなのはどうかしら?」
するとシルヴィアが自身の服を変化させていく。
「昔に故郷の城で催された夜会で仕入れ役が仕入れてきた服よ。なんでもここよりかなり東に行った方の服らしいわ」
そう言ってシルヴィアが変化させた服は確かにシャルロットやアイスが今迄見たことがないような服だった。それは一見するとワンピースタイプの服に見えるがスカートではなくそのまま足の脛まで真っ直ぐに布が下りている。そして最も特徴的なのがその服の裾の部分は大胆にも切れ込みが太ももの部分まで入っておりシルヴィアの脚を露出させている。もしここにソウマ以外の男が居ればその部分に完全に目が釘付けにされたことだろう。
「あまり貴女は着込むのを好みそうにないからこれ位が落とし所かしらね」
「確かにこれなら動きやすそうダ」
ナーバはシルヴィアの服を見て気に入ったようで再び意識を集中し始める。そうするとナーバの体が一瞬淡い光に包まれて光が収まった時にナーバはシルヴィアと同じ服を着ていた。違う所はシルヴィアの服の色は黒だがナーバの服は白に金の竜が刺繍されたデザインとなっていた。
「シルヴィア姉様もナーバ姉様もとっても素敵!」
シャルロットが二人の服を称賛の声を出す。するとシャルロットの声をかけられたナーバ目を見開いていた。
「どうしたのナーバ姉様?」
「・・・・・・何故私を姉様と呼ぶんダ?」
「だってナーバ姉様はこれから私達と一緒に旅をするんでしょ?だったら私達は家族みたいなものだもの」
どうやらシャルロットは先程のやり取りでナーバの何かを気に入ったようで既に彼女の中ではナーバかなり心を許せる存在になったらしく嬉しそうに姉と呼んでいる。
「お前はシルヴィア殿も姉と呼んでいるのカ?」
「うん」
「私もシャルを実の妹のように思っているわ」
そう言ってシルヴィアがシャルロットを後ろから抱きしめる。ナーバは何か考え事をするように俯いて居たがおもむろに顔を上げる。
「もう一度・・・・・・・私を姉と呼ベ」
そうして何を思ったかシャルロットにそう要求する。
「?・・・・ナーバ姉様」
最初は疑問を感じて首を傾げたシャルロットだがもう一度言われた通りに呼ぶ。
「・・・・・・・・・・・もう一度ダ」
要求通りに呼ばれたナーバは目を閉じて再び何事かを考えている。そうして再度シャルロットに要求する。それを見てシャルロットは更に首を傾げている。シルヴィアだけはナーバの意図が分かるようで面白そうに笑っている。
「ナーバ姉様?」
シャルロットは疑問に感じながらもやはり素直にもう一度言われた通りに呼ぶ。
「・・・・・・・・・(反芻中)」
ナーバの頬を段々と興奮の為か紅潮していく。どうやら先程からの目を閉じて何事かを考える仕草は考え事では無くシャルロットに「ナーバ姉様」と呼ばれたことが思った以上に嬉しく感慨に浸っていたようだ。今も再度呼ばれて十二分に言葉を噛みしめているようだ。幼い頃より両親や兄弟姉妹の居なかったナーバにとってシャルロットに姉と呼ばれたことは本人が思っていた以上の喜びをもたらしたようだ。
「そうカ・・・・・・。私はお前の姉なのカ・・・・・」
そうして自らに確かめる様にそう口にする。
「ならば・・・・・シルヴィア殿」
そう言うとナーバはシルヴィアに向き直り真剣な眼差しで名を呼ぶ。
「何?」
「シャルロットは私を姉と呼んダ。そしてシルヴィア殿もそう呼ばれていル。シルヴィア殿は私よりも偉大な戦士ダ。ならば私もシルヴィア殿のことを姉者と呼ばせて欲しイ」
ナーバはそう言ってシルヴィアに頭を下げる。それにシルヴィアは多少苦笑いをして見せる。
「少し呼び方が厳ついのが気にはなるのだけれど・・・・・まあ、別に構わないわよ」
「感謝する、姉者」
「よかったね、ナーバ姉様。私の事もシャルって呼んでね」
「わかった、シャル」
「ナーバ様も間違いなくこの世界有数の実力者です。旅の仲間としてこれ程心強い方も居られません」
「アイス・・・・と言ったナ。私達はこれからは旅の仲間ダ。お前も私のことはナーバと呼ぶがいイ」
「わ、わかりました」
そうは言われても中々それも難しいと言った顔をするアイスである。
「(それにしても・・・・・・・)」
先ほどからソウマは四人の会話には加わらずに実に真剣な顔で顎に手をやってシルヴィア達を・・・・正確にはシルヴィアを見ている。余ほど重大なことなのかその顔にはいつも以上の鋭さがある。一体何を見ているのか・・・・・・・・。
「(何故にチャイナドレスなのか・・・・・)」
と思われたがその脳内は実にくだらない領域の考えをひたすら巡らしていた。しかしその顔は戦闘中以上の真剣さで満ちている。よくよく観察すればその視線の先はシルヴィアの深く裂けた太腿のスリットに向けられている。
「(あの顔は絶対にくだらない事を考えている顔ですね)」
「(あの顔は絶対にくだらぬことを思案しておるなぁ)」
ラルクとゼファルトスだけはソウマのそんな様子を見て考えていることを正確に見抜いている。
「さて、どうやら話も纏まったようだ」
そう言ってゼファルトスがナーバの前に来る。
「御爺様・・・・・・」
そう言った瞬間にナーバとゼファルトスは白銀の光に包まれる。光が膨らんでおさまったそこには見上げる程巨大な白銀の竜とそれより大分小さいが同じく白銀の鱗に包まれた竜が二頭現れていた。
『ナーバよ、世界はお主が考える以上に広く深くそして未知で溢れておる。ナーバ、ソウマ達と旅をして単純な肉体面以外での力も・・・・・真の強者の姿を学んでくるがいい』
『はい、私はこの旅で必ずや成長して見せます。そして必ず御爺様に追いついて見せます』
ナーバの言葉にゼファルトスは嬉しそうに(竜顔的に)首を動かしてナーバの顔の位置まで顔を下げる。ナーバもそれを察してゼファルトスに顔を寄せる。そして二頭の竜はお互いを慈しむように体を擦り合わせる。そして一仕切り別れを惜しんだ後にナーバはソウマ達を向く。
『せっかく仲間になったのだから皆は私が運んでいこう』
「いいのか?」
竜族は本来その誇り高さ故に滅多に他人を自分の背中に乗せることはない。ウェントゥスの場合は主であるゼファルトスの命もあったがそれに加えてソウマという自身の主と同じ強さを持つ敬愛に値する存在がいたからである。しかしナーバはまだソウマ達と知り合ったばかりである。いかにソウマやシルヴィアの強さを経験したとはいえ竜族の女性であるナーバの背に男であるソウマが乗るのは又意味合いが変わる。そういった意味でソウマはナーバに確認を取ったのである。
『問題ない。姉者もお前も私よりも強い、シャルは私の妹だしアイスもシャルの家族なら私にとっても家族だ。ならばなんの問題も無い』
「まあ、お前がいいなら俺から言う事は無い」
「・・・・・・・」
ソウマは肩を竦めて取りあえずは納得する。シルヴィアは何事か意味有り気にニヤニヤしている。
『そういうことだ、ウェントゥスよ。済まないがソウマ達を送り届ける役目を私に譲ってくれ』
『勿論です、姫様。ソウマ殿達と行けば姫様にとって貴重な経験になることでしょう。どうぞ善き旅になることを祈っています』
『ありがとう。さあ、乗れ』
そう言ってナーバは身を伏せて乗りやすい体勢になる。ソウマ達は遠慮なくナーバの背に乗ることにした。
『シャル、私の首元の部分にしっかりと掴まっていろ。なんなら鱗の内側に手を入れても構わないぞ』
「あらあら、竜族にとって鱗の内側は一番無防備な部分だから逆鱗の次に接触御法度箇所なのに・・・・。うふふふふふ」
シルヴィアがナーバの言葉に驚きつつも楽しそうに笑う。ナーバが早くもシャルロットに対して姉振りを発揮していることに嬉しさを感じているようだ。
『それじゃあ行くぞ!』
そう言ってナーバは一気に飛び立った。
※※※※
そうして現在に至る。
「それにしても本当に美味イ!これだけでも里を出てきた甲斐があル!」
口一杯に料理を頬張りながらナーバがそんなことを言う。
「おいおい」
ソウマがそれに呆れる様にツッコむ。
「それで、これからどうするの?」
食事がある程度一段落着いてからシルヴィアがソウマに訊ねる。
「何をだ?」
「ゼファルトス様の話の件よ。魔神の復活の阻止するの?」
「う~ん、それについては成り行きに任せようと思ってる。どうも魔族の奴らは俺等に目を付けたらしいから案外これからも微妙にちょっかいかけられそうな気がするからな。別に俺から何もしなくても普通に旅してれば俺等が魔族を探さなくても向こうから勝手に現れると思うんだ」
ソウマがそう言うとナーバを除く全員が同意するように頷いている。
「確かにソウマのそういう星の巡りみたいなものはまさに神懸っている気がするわ。ステータスでLUC値ですらUNKNOWNが出たほどですものね」
「そのステータスでUNKNOWNといのは結局どういった意味なのでしょうか?単に運が物凄く良いのでしょうか?それとも悪いのでしょうか?」
「とうよりもそれすら分からない状態だと思うわ。それそのものがソウマにとって幸運か不幸すら神にすら判別不可能ということなんでしょうね。退屈を嫌うソウマからすればある意味で幸運といえるものかもしれないけれどそれが周りにどんな影響を出すかすら分からないのでしょうよ」
「良く分からないナ?」
「私も」
ナーバとシャルロットが同じ動作で首を傾げる。
「つまり物凄く幸運でもあるし不運でもあるという事だと思えばいいわ。本人が望む望まざるに関わらず本人の世界に対する影響力の分だけ騒動が舞い込んでくるってラルクは言ってたわ」
「つまり歩く騒動の種という事カ」
「そうね」
「おうコラ、その納得の仕方は俺が納得いかねえ」
「何言ってるの?最初に言い出したのはソウマでしょう」
「うぐ」
ソウマはぐうの音も出ない。
「ともかく私もソウマの言う通りこのまま普通に旅を続けても大丈夫だと思うわよ。どうせ行く先々で騒動に遭遇して気付いたら魔神復活阻止なんてことになるかもしれないしね。いや、もしかしたら・・・・・・・」
そうして何かを言おうとしたシルヴィアは言葉を続けずに口を閉じる。
「どうした?」
それに疑問を感じたソウマは怪訝な顔でシルヴィアに訊ねる。
「ううん、別に特にないわね。案外魔族はソウマの強さを知って手を出さない方が得策だと思って何もしてこないかも?と考えたんだけど流石にそれはないかなーと思って」
シルヴィアは特に表情を変えずに言い返す。ソウマは一瞬訝しんだが結局追及をすることはしなかった。
「(ソウマが原因になるかはわからないけれどなんだかんだで魔神が復活するかも・・・・・なんてね)」
そう考えてシルヴィアは一瞬だけ不安そうな顔になる。しかしその後ですぐにいつもの微笑を浮かべる。
「(まあ、どんな相手が現れたとしてもソウマならなんとかするでしょ・・・・・)」
それはある意味でシルヴィアにとって常識とも言える当然の事実にまでなった信頼であった。
「それじゃあ行先は決めてるの?」
「私は飯が美味い所がいイ!」
「お前自分が何しに旅に出たか覚えてるか!?」
自分の欲望に直球なナーバに思わずソウマが指摘してしまう。
「それでは一応の当初の目的である師匠の鎧を所持する勇者に会いに行きますか?」
「次はどこにいるの?」
「う~ん」
ソウマは腕を組んで思案する。
「とりあえず特に他に優先すべき目的もねえし当初の目的を果たすかぁ」
「普通は魔神の復活阻止は最優先で行うべき目的ではないのでしょうか?」
アイスがいつもの無表情ながら何とも言えない感情を宿した言葉を溢すが誰にも拾われることはなかった。
「ここから一番近いのは・・・・・・ヴェントか」
「ヴェント?」
「確か複数の渓谷で形成された地形に囲まれた国だったかしら?」
「はい、しかもその入り組んだ深い渓谷には絶えず強い風が吹いており魔族ですら迂闊に攻め込めないそうです。渓谷に囲まれている為に大軍で進軍することもできずその進軍も強風に邪魔をされる。上空から侵入しようにも強風の為にまともに飛行することすら困難です。ヴェントの兵士はその地形を利用し奇襲や待ち伏せを主な戦法として魔族と交戦しているようです」
「その国には普通どうやって出入りしてるんだ?」
「その国はウェントゥスの庇護下にある国ダ」
すると意外な所から答えが来た。今だに口の中で何かを粗食しながらもナーバはソウマの疑問に答える。
「あの国はあそこに国を作る時に初代の国王がウェントゥスと契約を交わしたそうダ。契約の内容は知らないが渓谷の入り口側と王国側でそれぞれウェントゥスを祭る祭壇に請えば通り道になる一本の渓谷の風が止むそうダ」
「さすが縁竜王だな。この世界の竜王は精霊の王よりも上位者だ。この星の風を操るくらい造作もないだろうな」
「ということはその国に入るのはその竜王さんにお願いしないといけないの?」
「そういうことだ」
「そこに居る勇者が師匠の鎧の一部を所持しているのですね」
「ああ、俺の鎧の左の籠手を持っている。何でも【風の勇者】と言われているらしいな」
「なるほど、風の国ヴェントに相応しい勇者ですね。どれほどの力量か楽しみです」
「数年前にエテルニタ王国に来たときは全然アイスの方が実力は上でしょうね。今でも早々後れは取らないでしょけれど」
「私も人族の勇者には少し興味がるゾ。噂程度には他の竜達から幾らか聞いたことがあったが会う機会が無かっタ」
「それじゃあ行先が決まった所でいつ頃ここを立つのかしら?
シルヴィアが店員に注文した飲み物を口に含みながら聞いてくる。周りが食事をしているのに自分が何も口にしないのは不自然に見える為に取りあえず飲み物だけでも口にしているようだ。
「私は何時でも構いません」
アイスも食事を終えながら言う。アイスは運ばれてきた大量の料理を全体的に少量食べただけで終えた。アイスは元々食事が細い方であまり量は食べられないらしい。
「俺も別にいつでもいいんだが・・・・・・・・・」
ソウマはかなりの数の皿を空にしている。ソウマは見た目に反してその食事の量は普通とは言えない量を食べることができる。しかしソウマはそこまで食事に拘る方ではない。美味いものが食べれるなら勿論食べるが最終的には食べられれば何でもよい方である。そんなソウマは自分の視線をある方向に向ける。
「うまうま」
「ハグハグ」
話を終えた途端に一心不乱に目の前に積まれた料理の数々に挑む二人が居た。
「このお肉美味しいね」
「この野菜もなかなか美味イ。普段は肉しか食べないが野菜も中々美味いものダ」
たった二人で目の前の料理を次々に片付けていく。周りの客や店員も唖然とした顔で食事をするシャルロットとナーバを見ている。一見すればこの世の物とは思えないほどの可憐な少女と少し鋭い雰囲気を纏ってはいるが此方も見劣りしない程の美少女である。それがどう考えても自分と同じだけの体積の料理を食べているのである。客や店員は今自分達の目の前の出来事が本当に現実なのかというような目を向けている。
「・・・・・・・この調子だとこの国の料理をある程度堪能するまでは滞在は延長だな」
「・・・・・そうね」
「・・・・・そうですね」
ソウマ・シルヴィア・アイスは苦笑と共にシャルロットとナーバを見つめながらやれやれろと机に肘を付いてシャルロットとナーバを見ながらこの国での滞在の延長を決定した。
「うまうま」
「うまうマ」
シャルロットとナーバはそれに気付かずに幸せそうに食事を続けていた。
次回は来月になると思います




