33話 真竜王の孫娘
意外と早めに書きあがったので最新話更新します。
「貴様がソウマ・カムイだナ!」
雲を突き破り現れた竜人の女性・・・・・・いや剣呑な雰囲気の中に今だ多少の幼さが残るその感じは外見年齢的にはシャルロットよりも少し年上でアイスと同年代の様な印象を受ける。しかしその発する闘気からは外見以上の威圧感を生み出してはいたが・・・・・・。
「そうだが?」
「やはりそうカ!」
それを確認した竜人の少女は急降下してソウマ達の元に降りてくる。
「私の名前はナーバ、偉大なる【神竜王】の直系にして全ての種族の頂点に立つ資格を有する者ダ!」
そして自身を親指で指しながら堂々と名乗りを上げてくる。
「全ての種族の頂点に立つとは大きく出たな・・・・・・・」
ソウマはそのあまりの堂々たる名乗りに思わず苦笑しながら感想を漏らす。ゼファルトスはその横で自らの額に手を当てて首を振っている。
「何が可笑しイ!」
ナーバはそのソウマの態度が気に障ったのか剣呑な雰囲気と闘気を更に増しながらソウマに詰め寄る。
「いやいや、別にお前さんを馬鹿にしたりしたわけじゃあないんだ。ただあんまりにも堂々としてたもんで感心しちまったんだ」
ソウマはそんなナーバを宥める様に手で制する。
「それにしてもなんだかお前さんは俺に言いたいことがあるようだが?」
「私と今すぐここで勝負しロ!」
ソウマに問われたナーバは即答する。
「お、応?」
その内容にソウマは思わず語尾に疑問符が付いた応答になってしまう。
「・・・・・・申し訳ないが俺、お前さんに勝負を申し込まれるような・・・・・・しかもそんなに敵意を剥き出しにされる程の理由があったか?」
ソウマは眼前の少女とは間違いなく初対面である。ナーバという名前にも全く聞き覚えが無い。それなのに目の前の竜人の少女はまるで親の仇のように自分を敵視してきている。
「ん?そういやお前、竜王のおっさんの孫って言ってたな・・・・・・・。まさか・・・・・・・」
しかしソウマはある一つの考えに思い至る。
「そうダ!我が偉大なる祖父竜ゼファルトスの名誉を私が取り返ス!さあ、私と戦えソウマ・カムイ!」
ソウマの思い至った考えを肯定するようにナーバが吠える。
「おっさんの敵討ちかい・・・・・・・・」
「貴様は百年程前に御爺様を敗り地上最強を名乗ったそうだが、我が偉大にして無敵の存在たる御爺様が他種族の、それも人族如きに敗れはずがなイ!貴様が卑劣な策を用いたに違いなイ!私がその化けの皮を剥いでやル!」
「元気の良いお嬢さんだ(というか俺が地上最強を名乗った覚えはないが・・・・・)。俺は竜王のおっさんとは正面から真っ向勝負を挑んだぞ。それとな卑劣な策の何が悪いんだ?」
激昂して吠えたてるナーバにソウマは微塵も悪びれる様子を見せずに言い換えす。
「何だト!」
「卑劣な策のどこが悪い?策とは弱者が強者を打倒する為に生み出した立派な技術だ。それに勝負の世界にはそもそも卑怯・卑劣なんて言葉は無い。特に命の奪い合いをする上での大前提は生き残ることだ。ならば策とは自らの生存の確立を少しでも引き上げるものだ」
「それがどうしたと言うのダ!」
「お前が言う様に竜王のおっさんはこの世の覇者だ。こと純粋な生物としての強靭さは間違いなく世界一だろうさ、まさにこの世の王者と言うに相応しい生まれながらの強者だ。強者ならば己より弱い存在が行う全ての行為を認めて受け止めなければならない。それが生まれながら強者として生まれた者の義務だと思うぜ」
「・・・・・!」
ソウマに言われてナーバは押し黙る。自身も納得できる部分があるのかソウマの言に反論が生まれなかったようだ。
「そ、それでも貴様が御爺様を倒したという事実は変わらなイ!ならば私がお前を倒してそれが何かの間違いだったと証明してやル。本当の強者は弱者の如何なる小細工も粉砕するということを証明してやるのダ!」
「しょうがねえなぁ・・・・・・・・」
なおも気炎を上げるナーバに言葉で説き伏せることは不可能と悟ったソウマは観念してナーバの要望に応えようとする。すると・・・・・・・・。
「ソウマが闘うまでもないわねぇ」
ソウマが前に出るより早くシルヴィアがナーバの前に進み出る。
「シルヴィア?」
「なんだ貴様ハ!」
そんなシルヴィアにソウマは訝しみナーバは怒りを顕わにする。
「貴女のような血気盛んな御転婆娘の相手は私で十分だって意味よ」
「な、何だトー!」
言われたナーバは更に憤慨する。
「貴様は吸血鬼カ!たかだが血を吸う獣如きが偉大なる竜族たる私に挑むカ!」
「そうやって種族の優劣でしか強さや優秀差を判断できない所が子供の証拠なのよ」
「・・・・・・!!・・・・いいだろウ・・・・・・。貴様の身の程知らずをその体に教えてやル・・・・」
シルヴィアを嘲る言葉を吐きながら冷静に自分に対する評価と挑発を返されナーバの怒りは一周回って逆に冷静な態度を取らせていた。口から出た言葉は今までと違い静かであるが先程以上の強い怒りが込められていた。
「よかろう。手合わせする場所はこの場所でいいだろう。ここは儂の創る領域、結界と同じ役割を持っている。一度中に入れば儂の許可なく外に出ることは不可能だ。無論のことこの中での戦いの余波も防げよう」
先程から話を聞きながら頭を抱えていたゼファルトスは話が決着したのを見計らうと頭を上げて提案してくる。
「大丈夫かシルヴィア?」
ソウマは一旦距離を取ったナーバを確認するとシルヴィアに近づいて話しかける。
「ていうかどういうつもりなんだ?別に俺がやっても良かったんだぞ?」
「別に、そこまで深刻な理由が有った訳じゃないわ。ただあの子・・・・・・昔の自分を見てるようで少し腹が立っただけよ」
「・・・・・・・・・」
「だからこれは私自身のちょっとしたわがまま、それと彼女自身の実力も少なからず興味が有ったのも本当よ」
そう言ってシルヴィアはナーバの居る方へ悠然と歩いて行く。ソウマは一度ため息をつくとそれ以上は何も言うつもりも無いのかシャルロットやアイス居る位置まで下がる。
「仲間とのお別れは済んだカ!」
自らの前まで来たシルヴィアにナーバは腕を組んだ状態で聞く。それにシルヴィアは冷淡な微笑を浮かべる。
「あら、もしかしてそれで待っていてくれたの?以外に優しいのね」
「ふん!」
シルヴィアの皮肉にもナーバはそっぽを向いて応える。それを見てシルヴィアは更に笑みを強める。
「ねえねえ、ソウマ。シルヴィア姉様大丈夫かな?」
そんな二人を眺めながらシャルロットが心配そうにソウマに尋ねる。ソウマはそれに笑って答える。
「大丈夫だから心配せずに見てな」
「そうですよ、シャル。姉上の強さは我々が一番良く知っているではありませんか。確かにあの竜人の女性もかなりの実力者のようですが姉上が師匠以外の者に負けるとは思えません」
「ふふふふふ、どうやらこの旅の間で随分と良好な関係を築けているようですねぇ」
ソウマのシャルロットを安心させようとする言葉にアイスが同意を示し、それを見ていたラルクが嬉しそうに見ている。
「いくゾ!」
どちらともなく無言でしばらく向き合った両者の均衡を崩す様にナーバが一気にシルヴィアとの距離を詰めて鋭い手刀を放った。その爪の先端は鋭利な刃物のように伸びており短剣程の長さにまでなっていた。
「!」
シルヴィアも咄嗟に影の防御を展開する。
「無駄だァ!」
しかし展開された影の防御幕はナーバの爪に易々と貫通されその胸を深々と突き刺される。
「私の爪の硬度はオリハルコン以上ダ。生半可な防御など意味は無いゾ」
「そのようね」
「!」
初撃決着を確信していたナーバは自らの言葉に当然のように応答が返ってきたことに驚愕する。そして目を見開いてシルヴィアを見ればシルヴィアは胸を手刀で貫かれた状態で笑っていた。
「馬鹿ナ!たとえ再生力に優れる吸血鬼であろうと私の攻撃で心臓を潰されて生きているはずガ・・・!?」
「確かに貴女ほどの魔力や霊格の持ち主の攻撃で心臓を潰されたら並みの吸血鬼なら即死でしょうね」
ナーバは手刀をシルヴィアの胸から引き抜いて距離を取る。シルヴィアの胸の傷はナーバが距離を取る間には既に跡形も残さず消えていた。
「でもね、悪いけれど私は並じゃないのよ」
シルヴィアは優雅に美しい銀髪を掻き上げて不敵な笑みを浮かべる。
「っっっっ!」
それに激高したナーバは再度シルヴィアに詰め寄り今度は両手の爪で連撃を叩き込む。
「あの嬢ちゃんはあの形態のままで戦うのか?」
それを眺めながらソウマは隣に来ていたゼファルトスに聞く。要は竜に戻らないのかという意味だ。
「まあ、我々は竜人形態の時と本来の竜の形態の時の戦闘能力は変わらん。強いて言うならば我々竜の最大火力であるブレスの威力が落ちる位だな。ゆえに我々の仲間の中には人型の形態での戦闘を好んで行う者が多い。人型の方がより戦闘に幅が出て他の種族との体格差も少ないゆえより楽しめるらしい。我が孫もその類だな」
「素手喧嘩主義か、まあ分からんでもないな」
ソウマはうんうんと頷きながら何だか良く分からない納得の仕方をしている。
「はあぁぁぁぁぁぁぁァッ」
ソウマ達がそう言う間もナーバのシルヴィアへの連続攻撃は続いていた。シルヴィアはその間特に防御等の行動は一切取らずにただ無防備に攻撃を受け続けている。
「前から思っていたのですが姉上は相手の攻撃を敢えて受ける癖のようなものがありますね」
「そうですねえ。彼女はその不死身の肉体ゆえにあまり痛みというものを感じたことがありません。痛みというのはその肉体が生命の危機を感じ取った時に発する危険信号です。吸血鬼等の不死の肉体を持つ種族は肉体に対する攻撃や損傷が自らの再生能力や耐久値を上回らない限り感覚は伝わっても痛みを発しません。特にシルヴィアなどは生まれてから痛みを感じた回数がそれこそ数える程でしょうね。だから本人もどこかその痛みを与えてくれる存在を求めているような感じではありますね」
「何故でしょう?」
「生きてる実感が欲しいのさ」
アイスの感じた疑問にラルクでは無くソウマが答える。
「あいつらは不老不死の肉体を持つ代償に生きている実感を感じにくいらしいんだ。だから長く生きた吸血鬼はその感覚が極限まで薄れて永久に眠っちまうんだそうだ。シルヴィアはそうなるのが嫌らしくてな、少しでも生きてる実感を求めてああして敵の攻撃を受けてるんだ」
「そうなのですか・・・・・・」
「もっとも、シルヴィアに痛みを与える程の相手ってのもあんまりいないけどな」
「そうですねぇ」
納得したアイスを余所に言葉を続けるソウマに同意するようにラルクも頷く。
「ハアァァァァァァァ!」
一方その間もナーバの攻撃は続いておりシルヴィアは防戦一方を続けている。
「ハアッ!」
そして一拍を置いて大きく踏み込んだナーバは今迄以上の一撃を繰り出す。
ザンッッ
その一撃が直撃したシルヴィアの体は肩口から斜めに斬り込みが入る。
「・・・・」
再び距離を取ったナーバは先程とは違い今度は冷静に油断なくシルヴィアを見ている。
「ふふ・・・・・・・」
するとシルヴィアの肩口から入った切り傷は見る間に塞がっていく。しかし今度の傷は完全には治らずに僅かに傷を残す。よく見れば体の所々に小さな傷がありドレスも幾つかの箇所が治らずにほつれたままになっている。
「うふふふふふふっ」
しかしシルヴィアは笑っていた。自らの体が傷ついているにも関わらず愉しそうに笑っていた。
「どうやら貴様の再生能力を私の攻撃力が上回ったようだナ」
「うふふふふ、そのようね」
「だと言うのに・・・・貴様は何が可笑しい?」
自らの再生能力を越え傷が残る状態に係わらず笑うシルヴィアを怪訝に思ったナーバが問う。
「気に障ったのなら御免なさいね。でも嬉しいの、こうして傷を負い、痛みを感じていると自分が生きていると実感できる。永遠の命をただ無為に過ごすのではなく価値ある生にする為には生の実感は必要不可欠なの。でも私の種族はそれを感じにくい、だからこそこうして痛みを得るのは貴重なことなの」
「ならば痛み以上に死を実感させてより今ある命の価値を教えてやろウ!」
それを聞いたシルヴィアは更に笑みを深める。それと同時にシルヴィアの足元から煙の様に影が噴き出す。
「うふふふふ、いいでしょう。貴女を私の敵と認識します。貴女は私の命に届きうる存在。ならば私も己の存在を賭けて貴女を打ち倒しましょう」
シルヴィアの足元から出現した影はシルヴィアの体を包み込み徐々に形を成していく。そしてやがて体を覆う黒い鎧に変化する。
「《影鎧》」
「何をしようと貴様では私の爪は防げないゾ!」
それを見たナーバは再び肉薄して手刀を繰り出す。
「なんどト!?」
最初と同じく寸分違わずシルヴィアの心臓めがけて繰り出された手刀は影の鎧の表面に亀裂こそ刻んだが肉体そのものには傷一つ負わすことが出来なかった。
「大したものね、私の肉体に傷を付けるだけじゃなくて私の鎧も砕くなんて。でも残念、貴女の爪もオリハルコン以上かもしれないけど、私の鎧の硬度は世界最硬なの」
シルヴィアは言うと同時に影から剣を出現させて今度は自ら攻勢に出る。
「ぐっ!」
シルヴィアの繰り出す剣戟に今度はナーバが防戦一方になる。両手の爪を使い凌ぐのが精一杯のようでその顔からは焦りが滲んでいる。
「かあっ」
苦し紛れにナーバが攻撃の僅かな間隙に手刀を繰り出す。しかし今度はその手刀はシルヴィアに掴み取られてしまう。
「私と力比べでもするつもりカ!」
「貴女こそ吸血鬼の私と|その姿(人型)のままで力比べをするつもり?」
「があぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はあっ」
お互いが力込めて相手をねじ伏せようとして腕に力を籠める。もしここが普通の地面なら二人の凄まじい膂力の余波を受けて放射線状に大きく破壊が拡がっていただろう程の力が現在二人の間では繰り広げられている。
「どうやら単純な腕力は殆んど互角のようだな」
「そのようですね。元々肉体的に最も戦闘に適した種族である竜族と不死身の肉体と人族を遥かに超越した筋力が特徴の吸血鬼、しかも双方がそれぞれが自種族の頂点に属する存在ですからね。単純な身体能力はほとんど互角でも不思議はありません。ですが・・・・・・・」
「くあっ」
徐々にではあるがシルヴィアの方がナーバを押し返し始めている。
「ば、馬鹿ナ。竜族である私がたかだか吸血鬼如きに力負けするなド!」
遂にはナーバはシルヴィアに押されて膝を着いてしまった。先程までは片腕同士で拮抗していた力比べはいつのまにかナーバが両手を使った状態ですらシルヴィアはナーバを抑え込んでいる。よく見ればシルヴィアの鎧の形態が変化しており鎧は全体的に太く頑強に変わっている。
「《影鎧・力》」
シルヴィアはいつのまにか鎧の性能を腕力向上の為の形態に変化させていた。
「くあっ、《竜の息吹 属性・氷》」
ナーバは腕を押し返すのは無理と判断したのか息を思い切り吸い込むとシルヴィアに向かって至近距離から青い息を吹きかける。それはシルヴィアに当たった瞬間彼女の体を一瞬で氷漬けにしてしまった。
「どうダ!私はあらゆる属性の息吹を吐くことができル!一瞬で氷漬けダ!」
ナーバは氷漬けの彫刻と化したシルヴィアを前に勝ち誇ったように吠える。
「流石は【神竜王】ゼファルトスの血縁、本来竜族は様々の効果を持つ《息吹》を放ちますがそれでも大抵一種類が限度・・・・・しかしそれを唯一例外とする存在が【神竜王】ゼファルトス。そしてその血縁である彼女の特性というわけですか・・・・・」
「ラルク様、感心している場合ではないでしょう。姉上が氷漬けではないですか」
なにやら感心しているラルクにアイスが非難するような言葉を浴びせる。しかし普段通りの氷を思わせる様子の為本人自身も焦っているように聞こえない。
「そうだよ、シルヴィア姉様大丈夫なの!?」
しかしこちらは本気で心配するようにシャルロットが訊ねる。それにソウマが焦りを感じさせない声で答える。
「心配ねーよ。シルヴィアを信じな」
「・・・・・・・・うん」
言われて心配そうな顔をしていたシャルロットもソウマの言葉と顔を見て次第に明るい顔になる。
「次は貴様の番ダ!ソウマ・カムイ!」
ナーバはソウマに向かって吠える。ソウマはそれに微笑を浮かべてナーバの後ろを指差す。
「別に構わんがそういうことは後ろの相手を倒してから言うんだな」
「貴様こそ早く私を倒して後ろの奴を助け出さないと一生氷の人形のままだゾ。最も私を斃せたらの話だがナ」
ソウマはナーバの話に笑いを浮かべながら視線をナーバの後ろに移して話しかける。
「なんて言われているぞ。いつまでそんな所に閉じこもってるんだよ?シャルをあんまり心配させるな」
「なにを馬鹿なことを・・・・・・」
『そのセリフ・・・・・・貴方にだけは言われたくないわね。百年も氷漬けだった人はどこの誰よ?』
「!」
ソウマの行動に馬鹿にしたような言葉を出したナーバだが、そのソウマの言葉に自分の後ろから当然のように返答が返ってきたことに思わず驚愕の表情になる。
『まあ、それでもソウマの言う通りシャルを心配させるのは私としても本意じゃないけどね』
パリィィィィィィィンッ
そう言うと同時にシルヴィアの体を包んでいた氷がコナゴナに砕け散る。そして砕けた氷の中から何事も無かったかのようにドレスの裾に付いた埃を掃いながら出てくる。
「馬鹿ナ!私の氷は普通の氷とは違ウ。生半可な力では砕くことすらできないはずなの二!」
ナーバは驚きが隠せないようだ。それを見てシルヴィアは溜息を吐く。
「だから貴女は未熟だというのよ。確かに貴女達竜族はこの世界の種族の頂点に存在する生物よ。だからといってそれに過信しているようでは千年経っても私を斃せないわよ」
「なんだト!」
「そうやっていちいち相手の言葉に激高する所も未熟な証拠よ。竜族が種族の頂点は間違いけれどそれは飽く迄も種族全体の話で個々の能力では竜を凌ぐ存在も居るという事よ」
「うるさイ!」
シルヴィアの言葉に更に激昂し再び詰め寄る。繰り出される手刀に対してシルヴィアは今度は自らも間合いを詰める。
「!」
その行動にナーバは一瞬驚愕の表情になる。それに冷笑を湛えた顔で突き出された手刀を自らの掌に貫通させながらそのまま掴み取りその勢いのままナーバを地面に叩きつける。
「ぐはっ!」
叩きつけられたナーバは思わず肺の中の酸素を吐き出してしまう。しかし直ぐに体勢を立て直してシルヴィアに反撃しようとする。
「敵が自分の予想を超える動きをした位でいちいち動揺しない!」
しかしそれよりも早くシルヴィアがナーバの頭上に巨大な影を落とす。
「《闇の鉄槌》」
質量を伴う影の塊は凄まじい加重をナーバに課している。
「うぐうううぐぐっぐぐう」
ナーバはそれに地面に膝をついて耐えている。しかし耐えるのが精一杯で影を跳ね除けることはできないでいた。
「そのまま負けを認める?」
「んんんんんっっっ、な、舐めるナーーーーーー!!!」
シルヴィアの勝ち誇った表情の挑発に激昂したナーバは雄叫びと共に自らにかかる影の重圧を跳ね除ける。
「《竜装形態》」
ナーバの体が先ほど以上に鱗に包まれ出す。全身にまるで鎧の如く発生した白銀の鱗はまるで羽毛のようなしなやかさとオリハルコン以上の堅牢さを醸し出している。黄金色に輝く瞳は先程以上の力と自信に満ち溢れている。
「この形態で戦うのは御爺様以外では貴様が初めてダ。光栄に思うがいい吸血鬼ヨ!」
再びシルヴィアに詰め寄り今度は両手で組み合う。先ほどは力負けしていたが今度は完全に拮抗していた。
「人型の状態で限りなく竜としての膂力を発揮する為に形態ということね。流石ね、この状態の私と力で互角以上だったのはソウマ以外で貴女が初めてよ」
「そんな減らず口は今すぐに叩け無くしてやル」
組み合った状態でナーバは思い切り息を吸い込む。
「《竜の息吹 属性・炎》」
次の瞬間ナーバが口から灼熱の劫火を吐く。しかもその威力は属性は違えど先程の息吹とは威力も規模も桁違いに上がっていた。シルヴィアは成すすべもなく炎に包まれた・・・・・・・・かのように見えたが・・・。
「《闇盾》」
ナーバが口から炎を吐く一瞬早くシルヴィアは二人の間に影で出来た盾を展開する。盾は炎に激突した瞬間炎に押し切られてしまったがシルヴィアはその一瞬で両手を離して距離を取る。
「私の盾が一瞬しか保たないなんて・・・・、その姿は伊達じゃないという事かしらね」
「分かったのなら観念するがいイ。《竜鱗礫》」
シルヴィアが距離を取ると同時にナーバが自らの両手の竜鱗を手裏剣のようにシルヴィアに向かって飛ばす。それはナーバの腕から放たれたと同時に形状が楕円形の鱗から小さな刃物の様に変化してシルヴィアに殺到する。
キキッキキキキキキキッキンッ
シルヴィアはこれを盾では防がずにいつの間に両手に持っていた漆黒の影剣で全て叩き落す。
「ならバ!」
遠距離ではシルヴィアを仕留めるのは困難と判断したナーバはやはり己が一番得意な接近戦で挑むべく再度シルヴィアに肉薄する。
再びの接近戦、しかし今度はナーバがシルヴィアを押していた。ナーバの繰り出す拳打や爪や鱗を使った攻撃は辛うじて両手の剣で防いではいるがそれでも徐々に捌き切れずに押され始めている。
「ふむ、純粋な武技の練度ではシルヴィア殿がナーバを上回っておるが逆にあの姿になったナーバの膂力や速度に対応しきれなくなっておるな」
「まあようするに純粋に身体能力で負けてるんだな」
「シルヴィアを身体能力で圧倒するのとは大したものですね。如何に竜族とはいえシルヴィアの能力は並の高位の竜など凌駕する。それをあそこまで完全に上回るとは・・・・・・・さすがはゼファルトス殿の血縁」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ゼファルトス・ソウマ・ラルクが冷静に戦況を分析している横でシャルロットとアイスは只々心配そううにしながら戦うシルヴィアを見つめている。
ナーバの繰り出す攻撃を両手の剣でなんとか痛手のみを回避して捌いているシルヴィアだが勢いは殺しきれずに少しづつ後退していく。更に攻撃の度に弾かれそうになる両手を支えるも徐々に反応が遅れだし体勢が崩れ出す。
「くっ!」
そして遂にナーバが繰り出した右の足刀がシルヴィアの右手の剣を弾き飛ばす。そして追撃の左の手刀をシルヴィアは左の剣で防ごうとするが・・・・。
「遅イ!」
既に右手の剣を弾き飛ばされた時に体勢の崩れていたシルヴィアはナーバに難なく左手の武器も弾かれてしまう。そして無防備となった胴体にナーバの右の爪刀が深々と貫通する。
「かはっ!」
最初とは違い今度の攻撃にシルヴィアは口から血を吐き出し苦しそうに呻く。ナーバの攻撃がシルヴィアにかなりのダメージを与えた証だった。
「シルヴィア姉様!」
「姉上!」
シャルロットが悲痛な声でシルヴィアを呼び、アイスが信じられないような声を出す。
「今度こそ負けを認めるがいイ。そうすれば命は取らないでいてやろウ」
「あら・・・・・・意外と優しいのね。でもね・・・・・・私は・・彼女達の前では・・・・そう簡単に負けない事に・・・・しているの・・・」
胸元を貫かれ血を吐いて息も絶え絶えながらそれでもシルヴィアはシャルロットとアイスの方を向いて柔らかく微笑む。
「そうカ、ならば仕方なイ」
その言葉にナーバが止めを刺す為に右手を頭上に掲げる。そしてそれを罪人に刑を執行する処刑人のようにシルヴィアの首に向かって振り下ろす。
ガスッッッ
しかしナーバの爪はシルヴィアの首に到達した瞬間に自身の爪以上に硬質な物に阻まれた。それどころか先ほどはシルヴィアの影の鎧や武具する貫いたナーバの爪が折れていた。
「くっ、な、何ガ!」
ナーバが爪が折れた痛みに顔を顰めながらそれ以上の驚愕を顕わにしていた。見ればシルヴィアの首の後ろが鎧で覆われていた。
「馬鹿ナ、貴様の影の鎧は私の爪を阻むことなど出来なかったはズ!」
「そうね、確かにその状態の貴女の攻撃を私の影では防ぐことは出来ないみたいね。そう、普通の影ではね」
「なん、だト?」
シルヴィアの首の後ろにある鎧は良く見れば先程までの漆黒の鎧ではなくどこか赤黒く・・・・・いや、紅黒く見えている。
「これは、一体!?」
「さすがは、【神竜王】の直系・・・・・・やはり私も舐めてかかってはいけないようね。久しぶりに私の全力を少し見せてあげる・・・・・・・」
そう言いながら首だけだった鎧が徐々に全身に表れていく。
「これで戦うのはソウマ以外では貴女が二人目よ」
よく見れば鎧が表れているのではなく元々着込んでいた漆黒の鎧にシルヴィアが胸から流す血が混じり合って行っている。それに伴ないシルヴィアの胸の傷は鎧と共に塞がる。そして体から漂う威圧感も倍以上に膨れ上がっている。
「出来れば私も貴女を殺したくないの、だから・・・・・・・・全力で生き延びてね♡」
「・・・・・・!!」
シルヴィアの冗談のような口調にもナーバは自身に降りかかる威圧感に晒され言葉を返せない。
「・・・・・・行くわよ」
そうしてシルヴィアはナーバに一歩踏み出す。
「《血装闘術:血影鎧/20%》」
流石に次は来月かな?




