31話 竜王に会いに行こう!
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「そういえば・・・・・・」
アイアンガイスを出てから数日、森の中を進みながらの途中にアイスが突然何かを思いついたように言葉を発する。
「どうしたのアイス?」
それに気がついたシルヴィアがアイスに問い返す。
「はい、アイアンガイスの王都に入る前に感じた不安感は結局あの城で出会った・・・・・性格には勇者に乗り移っていた魔王が原因だったのでしょうか?」
アイスがソウマやシルヴィアに確認するように言う。
「・・・・・・・う~ん。多分・・・・・・・違うな」
アイスの言葉にしばらく思案したソウマは悩んだ後にそれを否定する。
「違うのですか?」
「おそらくな。俺達が感じた不安感は多分特定の存在にたいするものじゃない。これから起こる事態に対する予感に対してのものだろうな。第一あの程度の奴に俺やシルヴィアが警戒心を抱くわけがないからな」
「これから起こる事態、ですか?」
ソウマの言葉そのものは確定的ではないような口振りだがその言葉に込められたものは何処か確信めいたものを含んでいた。
「そうだ。あのディザイアって魔王の野郎はあの国に居たのは自分の趣味みたいなことを言っていたが多分他にも目的が別にあったんだ。しかもかなり俺達にとっても碌でもないような事態になるような、それを俺達はなにか碌でも無い者が居るかのように感じ取ったんだろうな。正確には碌でものない事を考えている奴が居た訳だ」
「ではそれは一体なんですか?」
「流石にそこまでは分からんさ。それでも俺達全員が感じたんだから相当に碌でものない事だろうさ。特にシャルがそう感じたのなら特にな」
「何故、シャルが?どちらかと言えば師匠や姉上が脅威を感じたことの方が問題ではないのですか?」
「それはシャルが世界に愛されているからよ」
アイスの感じた疑問に答えたのはソウマでは無くシルヴィアだった。
「世界に愛されているシャルは自然とシャルの望むように世界がそう仕向けるのよ。もちろん万能じゃないわ。飽く迄もシャルや周りの者が可能な範囲での協力や助言という形になるけれどね。今回の場合はシャルにとって身近な存在に対する危機を精霊が教えたという形になるわ。この場合私達になるわね」
「・・・・・・・・・」
アイスは無言でシルヴィアの言葉を聞いている。
「神々は勿論、精霊もソウマや私・・・・・特にソウマの実力は良く知っているから大抵の出来事が私達やシャル自身にとって脅威にならない事は十分承知しているはずよ。それでも尚精霊がシャルに警告を発してきた・・・・・この意味がわかるでしょ?」
「師匠や姉上の実力を知った上でそれでも精霊達が危機を感じ取ったということですね」
「そういう事ね。精霊は通常の生物以上にあらゆるものを感じ取る事ができる存在。それは時に未来予知に近い形での場合もあるというの。そんな精霊がまだ未熟と分かっているシャルの体調が崩れるかもしれないのを知っていてもそれでも警告してきた事態がむしろ恐ろしいわね。私やソウマが感じたものなんて戦闘者としての純粋な強敵に対する高揚感とか期待感が大きいだけの可能性の方が大きいわ」
「なるほど・・・・・・・・・」
シルヴィアの言葉に納得したアイスはそのまま考え込む姿勢になる。するとそんなアイスの頭にソウマが軽く手を乗せる。
「師匠?」
「難しく考えることはねえよ。今の俺達で精霊達が不安を感じるんなら不安を感じなくなるくらい俺達が強くなればいいだけの話じゃねえかよ」
そう言ってソウマは何でもないかのように口にする。まるでそうするのが当然と言うような言葉に思わずアイスが苦笑する。
「言われずとも私はそうするつもりです。しかし師匠はそれ以上更に強くなるつもりなのですか?」
「当然だ。以前にシルヴィア達に言ったこともあるが俺は他人が呼ぶ世界最強なんて言葉で自分の強さの限界を決めるつもりはない。俺は俺自身の最強を目指すつもりだ。そしてそれはまだまだ先の事だ」
「ソウマがそうならこの世の殆どの人はどれだけ先の事なんでしょうねぇ・・・・・」
シルヴィアもソウマの言葉に苦笑する。
「俺から言わせれば限界なんて言葉は自分の可能性をそこで決めてしまうものだ。限界なんて言葉は本来存在しないんだよ。生物は諦めなければそこにあるのは成長だけだ、ただそれが人は時として実感しにくいから今がもう限界だと言う言葉で諦めてしまうんだよ」
「そうかもしれないけれどそれを言葉にするだけでなく実際に実践できる人なんているのかしら?」
「それが実践できないのなら、それをあえて言葉にするのならそれこそがそいつの限界なんだろうよ。俺に言わせればだけどな」
「師匠が言うと説得力が違いますね。実際に今もそれを実践し続けているのだから」
「ソウマもどんどん強くなるから私ものんびりしてられないわね」
「私も!」
アイスが頷きシルヴィアも同意するように頷く。すると今まで特に会話に参加することも無く話を聞いていたシャルロットも突然アイスやシルヴィアに同意するように手を上げる。
「駄~目、シャルは闘いなんて危ない事はしなくてもいいの」
しかしそんなシャルロットの考えをシルヴィアが否定する。そしてそのままシャルロットの頭をその豊満な胸元に抱え込む。
「むぎゅぅ!」
シャルロットが思わず変な呻き声を漏らす。
「シャルは闘う事なんて考えなくてもいいの。それは私やソウマ、それにアイスが居るのだから」
「でも私も守って貰ってばかりじゃ・・・・・・・・」
「そんなことないわ。シャルは一緒に居てくれるだけで私はとても嬉しいしそれだけで力が沸いてくるのよ」
「そうなの?」
「そうよ。シャルが居れば私はいつも以上に力を出すことができるわ」
「そうです、シャル。人は護る者が居ることで力を発揮できるものです。貴方が居ることで私も姉上も実力以上のものを発揮できるでしょう」
「・・・・・・・ね?」
「・・・・・・・わかった」
シルヴィアとアイスの説得にシャルロットは渋々ではあるが納得したようだ。
「今の会話だけ聞くと俺だけ別に聞こえるんだが・・・・」
ソウマだけなにやら納得のいかないような表情をしていた。
「ソウマは別に護るものがなくても強いでしょ?」
「それを言うならお前もだろうが!」
シルヴィアの言葉にソウマが憤慨したように反論する。
「気持ちの問題よ」
シルヴィアはソウマの反論に涼しい顔で言い返す。そんなやり取りを続けながらソウマ達はのんびりと当てのない旅を続けるのだった。
※※※※
「~~~~♪~~♪~~~~~♪」
「・・・・・・・・(ハラハラ)」
旅の途中、ソウマ達はいつものように野営の為に火を焚いて夕食の準備をしていた。シャルロットも最近では野営も慣れたようで現在は何が楽しいのか焚き火にかけた鍋を長いスプーンを使い鼻歌を歌いながら笑顔で掻き混ぜている。アイスはそれをいつもの無表情ではあるのだが瞳に少し心配の色を宿して見守っている。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ソウマとシルヴィアはそんな二人から少し離れた所の切り株に並んで座っている。しかし二人はまったく会話をせず黙ったままである。シルヴィアは若干ソワソワしておりソウマは何を考えているのか前方を見つめたままである。
「王城の地下牢で・・・・・・・・」
ソウマがおもむろに話を切り出す。最初の言葉を聞いたときシルヴィアの体が一瞬強張る。
「・・・・・・なにかあったのか?」
「・・・・・・やっぱり・・・・・わかる?」
シルヴィアはまるで悪戯のばれた子供のように無邪気に笑う。その様は彼女をいつも以上に幼く可憐に見せている。ここにソウマ以外の男が・・・・いや、例え同性あったとしても一撃で轟沈していただろう程の魅了を放っていた。
「そりゃあこれでもお前との付き合いはそれなりに長いからな。それに王城に居る時にお前の気配が変化すると同時に複数の気配が一気に消えた・・・・・・ありゃお前がやったんだろ?王都にいる間はシャルが落ち込んでいたから訊ねる機会がなかったんだ。もちろん話したくなけりゃ別に話さなくてもかまわない」
「・・・・・うん、大丈夫よ」
「まあ同時にかなりの怒りの感情を感じたから理由は聞かなくてもなんとなく分かるがな。それよりもお前がまさかあの二人の前で本性を晒すとは思わなかったな」
「私もね・・・・・見せたくはなかったな・・・・・」
シルヴィアはそう言ってソウマの肩に頭を乗せる。
「でも、大丈夫だっただろ?シャルはもう知ってるし今更お前の何を見た所でシャルのお前に対する信頼と親愛は揺るがねえよ。アイスの方もああ見えてお前のことを良く見てる。俺は大丈夫だと思ってた」
「うん、二人は受け入れてくれたわ。シャルは勿論初めて私の本性を見たアイスですら笑顔で私を受け入れてくれた。二人にはとても怖い思いをさせてしまったのに・・・・・・シャルは笑ってくれた・・・・・アイスは血塗れの私の手を取ってくれた・・・・・・・・」
そう言ったシルヴィアの頭をソウマは自らの胸元に抱き寄せる。シルヴィアは最初は目を見開いていたがそのままソウマの胸に顔を埋める。
「・・・・良かったな」
そしてソウマは静かにそう一言だけ告げた。
「・・・・・・・・うん・・・・・」
シルヴィアも静かに一言だけ返した。その声は少し涙声のようにも聞こえたがシルヴィアはソウマの胸に一層頭を押し付けて誤魔化した。
「あーーーーーー!」
するとシャルロットが突然大声を上げる。
「シルヴィア姉様だけずるいよ!」
どうやらシルヴィアがソウマに抱き寄せられている姿を目撃して羨ましくなったようだ。
「シャル、鍋を火にかけたまま離れてはいけませんよ」
シャルロットが放り出した火にかかったままの鍋を脇に退けながらアイスが困った顔をする。しかしその目線はどこか意味有りげにソウマに抱かれるシルヴィアを見ている。
「あらあら、抜け駆けしてしまったわね」
シルヴィアは苦笑しながらソウマから離れる。すでにその顔は何事もなかったかのように綺麗になっている。
「ソウマ、私も!」
そう言ってシャルロットもソウマに抱きついてくる。
「やれやれだな」
ソウマは一度シルヴィアの方を確認した後、抱きついてきたシャルロットに視線を落としその頭を撫でてやる。
「貴女も入って来れば?」
「いえ・・・・・私は・・・・・・」
シルヴィアがアイスにどこか面白がるようなそれでいて優しそうな表情でアイスにそんな言葉をかける。それにアイスは若干どもりながらも断りを言う。しかし俯いたその顔は僅かであるが紅く染まっていた。
「うふふふふ・・・・・」
それを見てシルヴィアは慈しむようにアイスを見つめている。
「シャル、いつまでもソウマに甘えていないで食事にしましょう。折角温めた食事が冷めてしまうわよ」
「は~い」
言われたシャルロットは素直にソウマから離れる。
「さあさあ、食べましょう。アイスその荷物からパンを取り出して頂戴。それと干し肉もね」
「わかりました」
シルヴィアは自らの影の中から大きな袋を出現させる。アイスはその袋の中から人数分のパンと干し肉を取り出す。
「頂きます」
シャルロットが並べられた食事を手に取り出してから全員がそれぞれ礼をして食事を始める。本来シルヴィアは食事の必要は無いが皆に合わせたいらしく食事は一緒にして眠るのも一緒に寝ている(というより一晩中シャルロットやアイスの寝顔を眺めている)。
「そういやあ結構適当に移動しているが今ここは何処の辺りなんだ?」
干し肉を齧りながら今現在の自分達の位置を訪ねる。
「そうねえ・・・・・・この辺りは・・・・・・アイラスの近くかしら?」
「(ピクッ)」
「間違いないと思います、姉上。私が以前に他国の視察に赴いた際の地形に似ています」
「(ピクピクッ)」
「アイラス?・・・・・・・どんな国だっけ?」
ソウマはしばらく考えたがやはり分からなかったらしく大人しく尋ねる。
「百年前にもあったけれど恐らくソウマは一度も行かなかったのではないかしら?昔のソウマからしたら特に興味を引く国ではなかったから。国土も特に大きいというわけでもないからあまり他国の勢力争いにも昔から参加していないし」
「なんか特長みたいなもんがある国なのか?」
「それは・・・・・・」
「ご飯が美味しいんだよ!」
シルヴィアの言葉を遮るように突如シャルロットが右手に持った干し肉を天に掲げるように突き出して言葉を発する。
「シャ、シャル!?どうしたんだ突然!?」
さすがのソウマもシャルロットの突然の奇行に動揺を隠せないようだ。
「ご飯が美味しいんだよ!ソウマ!」
シャルロットは今度はソウマの目の前にまで来て拳を握り締めて力説する。
「アイラスは食文化が盛んな国なのよ」
更に困惑するソウマにシルヴィアが苦笑しながら補足説明を入れる。
「食文化が?」
「そう、アイラスは大陸の流通の中心に近い位置に存在する国だから大陸中の様々な食材が集うの。だから自然と大陸中の様々な食文化も流れてきたってわけね」
「ふ~ん」
ソウマはそう聞きながらもあまり興味をそそられていない様子である。もともと食事に対してそれほどこだわりを持っていないソウマである。確かに食べるのなら旨いに越したことはないとは思っているが最終的には食べられればなんでもいいソウマなのでそれほどアイラスに興味が湧かなかったようだ。だが・・・・・・。
「・・・・・・・・(チラ)」
「・・・・・・・・(ソワソワ)」
ソウマの隣ではシャルロットがチラチラとソウマの様子を伺いながら何かを期待するように見ている。
「・・・・・・・・はあ」
しばらくシャルロットの視線を無言で受け止めていたソウマだが、やがて仕方ないというように溜息を吐いた後微笑を浮かべてシャルロットを見る。
「旨いものでも食べに行くかあ」
そして独り言のように呟く。しかしそれを聞いた瞬間シャルロットはまるで花が咲いたような笑顔を見せる。
「本当!?」
「ああ、旨い物巡りも旅の醍醐味だしな。ただ大陸を回るだけは味気ないし折角いろんな所を回るんだから楽しまなきゃ損だよな」
「そうだよそうだよ!」
ソウマの言葉にシャルロットは飛び上がらんばかりに喜んで賛同する。
「それじゃあ行き先は決まったわね。食事が済んだら寝て朝からアイラスまで行きましょう。アイスもそれでいい?」
「はい、問題ありません」
シルヴィアが話をまとめる。アイスもそれに了承しソウマ達は食事を終えてから就寝する。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
シルヴィアの影から敷く用の厚い布と羽織る用の薄い布を全員分取り出して全員床につく。もっともシルヴィアは形だけではある。ソウマも本来寝る必要はないのだが起きているのも面倒という理由から時間潰しに寝ている。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ソウマ達は眠る時に見張り役が居ない。というよりも必要ない。シルヴィアが基本寝ていないのもあるが大抵の猛獣や魔獣や魔物はソウマやシルヴィアに近寄らないのだ。それにもしそれでも接近してくればソウマかシルヴィアならかなりの距離からでも察知することができのだ。
※※※※
「なんだかもう良い匂いがしてきたみたい~」
翌日、早朝に出発したソウマ達はゆっくりと徒歩でアイラスに向かっていた。
「そうね。風に乗って色々な食材や料理の香りが流れてきているわね」
「アイラスに着いたらまず何を食べようかなぁ」
シャルロットは既に街に着いた後のことを想像しているのか考え事をしながら歩いている。その歩幅も心無しか広く早くなっているようである。
「シャル、そんなに急がなくてもアイラスは逃げませんよ」
アイスはそんなシャルロットが上の空で転倒しないように注意しながら歩いている。
「でも~こんなにも良い匂いが漂って来てるんだもん。嫌でも美味しそうな想像が止められないよ~」
シャルロットはそれでもまるで引き寄せられるようにアイラスから漂う匂いに向かってフラフラと歩いていく。
「まるで誘蛾灯に引き寄せられる蛾だなあ」
ソウマはそんなシャルロットを見ながら面白そうに笑っている。
「あら、可愛いじゃない」
シルヴィアは普段の凛々しい顔を緩ませて微笑ましくシャルロットを見守っている。
「ほら!あれじゃないかな、アイラス!」
するとシャルロットが指し示す先に建物の影が見え始める。道の先には行商人や沢山の荷物を積んだ荷車もかなりの数が見えてきた。
「さずがに食文化が発展している国だけあるなあ」
そう言ってソウマが遠くを見るように額に手をかざして先の行商人や荷台を観察する。
「荷台に積まれている物の殆どが食材や香辛料の類だな。アイラスから出てくる方の商人の荷台には全く物が積んでない所を見ると商人の目的は大概食材などの仕入れだな」
「そうでしょうね、アイラスは観光として有名な国。他国に流通させる特産品が無い代わりに人を招くのが主流の国だから必然商人の目的も大体が仕入れでしょうね」
「アイラスでは持ち込むものが食材関係の場合は大概が全て売り捌けてしまうので商人には実に稼ぎやすい国と見られているそうです。それでも全ての商人がその恩恵を受けられるわけではなく、個々の店や料理人等と個別に契約を結んでいる商人を優先的に買い取る傾向があるそうです」
「まあ誰でも彼でもそうそう上手い話にはありつけないってことだな」
「それに買う側もより質のいい物や豊富な種類の食材を届けてくれる商人を優先したい気持ちはあるわよねえ」
「もう、そんなことはいいから!早く行こうよ!」
建物が見えても以前マイペースな三人に焦れたのかシャルロットが急かすように飛び上がる。
「わかった、わかった」
ソウマがそれに苦笑して足を早めようとした瞬間、それは起こった・・・・・・。
【・・・・・・・・・・・・・・■■よ・・・・・・・・・・・・】
「!!!!!!!!!」
それは圧倒的な思念だった。
【・・・・・・・・■・・・の・・・・・■■・・・・・れ・・・】
それはまるで洪水のような強大な思念と共に四人の脳内に流れ込んできた。
「こ、これは・・・・・・」
アイスは突然発生した姿の見えない強大な存在の思念に頭を押さえて蹲る。
「うう~~~~~~~」
シャルロットは言葉を発することも出来ないのかその場で蹲って唸っている。
「・・・・・・・・・」
シルヴィアは思念にさほど影響を受けたようには見えないが先程とは打って変わり眉間に皺を寄せて実に不機嫌そうな顔でどこか虚空を見つめている。
【・・・・我・・・■・・・・■・・・・・・】
ソウマは流れ込む思念を確認した後、一度溜息をつく。
「おい!竜王のおっさん!思念を送るのはいいが少し出力を抑えろ!シャルやアイスが受け止めきれてねえだろうが!」
そして何処かに向かって怒鳴る。
【・・・・・・・・・・・・・・・】
思念の主はしばらくの間逡巡した後にもう一度思念を送ってくる。
【・・・・済まなかった・・・・・・我が盟友よ。何分他の種族に思念を飛ばすなど数百年ぶりなのでな・・・・・加減が分からぬ】
「竜族の上位種に送るような思念を気軽に下位種族に送るなっての!脳味噌壊れたらどうすんだよ!こいつらに何かあったらさすがに許せねえぞ!(後シルヴィアが怖え!)」
ソウマは思念の主に向かって不満をぶつける。シルヴィアは先程からずっと不機嫌モードである。
【本当に済まなかった。本来はお主一人の飛ばす予定だったのだが力の調整が上手くゆかなかった。お主の回りにいる者にも思念を送ってしまった】
「もういいよ。それで?俺に何か用があるのかよ。おっさんが自分から外界の者に連絡を取るなんて超珍しいじゃねえかよ」
【うむ、実はお主に頼みたいことがあるのだ】
「頼みたいこと?なんだよそれりゃ」
【詳しい話は我の元に来てからしたいのだが良いか?】
それを聞いたソウマは思案顔になる。
「う~ん、俺は別に構わんが他の奴が(特にシャル)・・・・・・・・。俺だけで良いか?」
【できれば全員が良いな。お主の連れている者達ならば意図せずとも巻き込まれる形となるだろう。ならば最初から事情を知っていたほうが良い。実力も一人は申し分ない、もう一人も中々の才覚に恵まれておるし最後の一人は力量はともかく中々面白い逸材よ。我も会ってみたい】
「と、言うことなんだが・・・・・・良いかな?」
ソウマは話を聞いていただろう仲間に一応の確認の為に問いかける。
「・・・・・・私は別に・・・・・」
「え・・・・ええ・・・・・」
シルヴィアは未だ不機嫌そうに、アイスは今しがた思念を交わした相手の正体に流石に驚愕を隠せないようで動揺しながらもなんとか答える。しかし・・・・・・・・。
「う~~~~~~~~~」
シャルロットだけはシルヴィアはとは別の理由で不機嫌であり、唯一行くことに渋っている。先程向けている視線の先を見れば理由は明白ではあるが。
「まあ、アイラスに行けないのは残念だろうが話が終わればまた此処に戻ってくればいいじゃないか」
「う~~~~~~~~~、・・・・・・・・分かった」
しばらくの間やはり渋っていたが、やがて納得したのか(それでも渋々ではあるが)了承した。
「てことだ。で?今からそっちに向かえば良いのか?大分時間がかかるぞ?」
ソウマの記憶ではここから竜王の居る所まではかなりの距離がある。ソウマは一度行ったことがあるとはいえラルクのマーキングがあるわけではないので転移魔法での移動も出来ないので直接移動するしかない。その場合だとかなりの日数がかかってしまうのだ。
「私のキューちゃんでも数日はかかるわね」
【それならば心配いらん。そう思い今お前達の元にウェントゥスを向かわせておる】
「ウェントゥスを?わざわざ【縁竜王】を迎えに寄越すなんてよほどの頼みごとなのか?」
【それについては我の元に来れば全てを話す】
そう言うと同時にソウマ達の上空に巨大な影が出現する。
「あ、あれは!」
アイスがそれを確認して驚きの声を上げる。巨大な影はそのままゆっくりとソウマ達の前に降り立つ。その巨体の頭はソウマ達が見上げる程に大きく全身の鱗は深碧色をしており一枚一枚が凄まじい硬度を秘めていることが分かる。またその瞳からは深い知性と力が感じられる。一目見ただけで上位に属する竜だと分かる存在感を放っている。
『お初に御目に掛かる。【超越者】殿、この度【真竜王】様より皆様をお迎えに上がりましたウェントゥスと申します。以後お見知りおき下さい』
そして深碧の竜は自ら頭を下げていかなる仕組みか思念ではなく人族の言葉を発して挨拶を交わしてくる。
「その呼び方はあまり好きじゃないからやめてくれ。ソウマでいい」
「此方もお初に御目に掛かかります。偉大なる竜を束ねる者の一体【縁竜王】ウェントゥス殿、私はシルヴァラント・ヴァルキュリオ。吸血鬼一族の王族に連なる者です」
『丁寧な挨拶痛み入る。吸血の姫君よ、噂通り実に美しい造形をしておられる』
「シャルロット・ウトピーアです」
「アイスクル・グラシオです」
シャルロットとアイスはウェントゥスの存在感に圧倒されたのかなんとかそれだけの挨拶を返すのが精一杯の様子だった。
『お初に御目に掛かかります。ウェントゥスと申します。今回は我が主の急な申し出に応じて戴き感謝いたします。このまま私の背にお乗り下さい、我らが故郷である竜の谷にご案内いたします』
「ああ、よろしく頼むわ。それにどうやら急いだほうが良さそうだしな」
「ええ、そのようね」
そう言ってソウマとシルヴィアはアイラス側に視線をやる。見ればアイラスの方では突如現れた巨大な竜の姿に大騒ぎとなっていた。アイラスの街から武装した何人かの兵士か冒険者と思しき者が此方に向かってきている。
『少々目立ちすぎたようですな。それでは急ぎましょう』
「ああ」
そう言うとソウマはシャルロットをお姫様抱っこの状態でウェントゥス背中に飛び乗る。続いてシルヴィアとアイスも飛び乗った。
『しっかりと掴まっていて下さい』
言うと同時にウェントゥスはそのまま翼を羽ばたかせて飛び上がる。そしてその場から一瞬で消えるように一気に最高速度にまで加速して飛行する。後に残されたのは突如消えた竜の姿を探す武装した者達や腰を抜かしている商人達のみとなった。
「うわわわわわ~~~は~~~や~~~い~~~」
シャルロットはウェントゥスの飛行速度に大はしゃぎしている。一応ウェントゥスが結界かなにかを展開しているのか風圧も振動も一切受けていないようだがそれでもこの速度がもたらすスリルは十分に刺激的なのか喜んでいる。
「本当に・・・・・速いです」
アイスは只々呆然としている。以前に体験した窮奇とは比べ物にならない程の速度で飛行するウェントゥスの力に驚愕の感情しか出てこないようだ。
「流石に速いわね」
「ああ、流石は全竜種最速のドラゴンなだけはあるな」
ソウマとシルヴィアは平然として感想を口にしていた。
「しかもこれ多分本気じゃないだろう?」
『おや?お分かりですかソウマ殿』
この速度で飛行する中でも当然のように返事が返ってくる。
「そ、そうなのですか!?」
「伝聞によれば【縁竜王】の本来の速度は音を遥かに置き去りにするそうよ」
「・・・・・・・・・・」
シルヴィアの言葉にアイスはまたも言葉を失う。もはや想像すらできない程の凄さにただ圧倒されていた。しかしそれも数瞬で立ち直ることができた。なにしろ最近では毎日のように常識を容易く打ち砕く存在と過ごしてきたのだ。今更この程度のことに驚いてばかりもいられないのだ。
『着きましたぞ』
そうこうしている内にあっという間に目的の場所に到着してしまったようだ。
『あそこで我が主がお待ちです』
そこにあったのは質量すら感じる程に濃い霧に包まれた巨大な谷の間から突き出した谷以上に巨大なとてつもなく大きな巨木だった。
次回の更新も多分来月です。




