30話 勇者との手合わせその2
「・・・・・・ソウマ殿・・・・・・どうかこの場で僕と立ち会ってください」
「いいよ、別に」
カイトが切り出した用件にソウマは意外な程あっさりと了承を示して頷いた。
「あら、以外ね。ソウマの事だから意外とめんどくさがるかと思ったけれど」
「そうなのですか?師匠は闘えればどんな相手でも喜んで応じると思っていましたが?」
「うんうん、私もソウマなら自分から「闘わせろー!」て言う位だと思ってた」
「まあそれも概ね間違ってはいないのだけれどソウマは基本自分の興味の優先順位を何より優先させる性格だから」
「つまり今は勇者の実力以上の興味を引くモノがあるということですか姉上?」
「そういうこと、だから私はこれに結構渋るかもと思っていたのだけれども・・・・・・・・意外と簡単に了承しちゃったわね」
「・・・・・・・・・・なんだか少々人聞きの悪い言葉を聞いた気がするが、俺も人の頼みを断る程薄情じゃないさ」
ソウマの心外と言わんばかりの表情と言葉にシルヴィア・シャルロット・アイスの三人が今度は疑わしそうな表情になる。
「師匠は以前、お城の料理人の方が夜会で出す料理に出す食材が足りずに師匠に食材の調達を頼んだ時に師匠あっさりと断っていましたよね?」
「あ・・・あれは・・・・ちょっとその時の別の用事が入っていてだな・・・・・・」
「あの後結局料理人の方は相当に追い詰められた感じで私の所に頼みに来ました。その後聞いた話によると師匠は城の中には日がな一日昼寝をしていたそうですが・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「そういえば私が小さい時もソウマよく「お腹すいた」とか「眠い」とか「今は乗り気じゃない」ってラルクやお父様の用事を断ったり逃げたりしてた」
「おぐっ」
「そうねえ、昔に私と旅をしていた時も今みたいに旅の武芸者がソウマに立ち合いを頼んだ時ソウマったら「めんどい」の一言でそのまま立ち去った事があったじゃない」
「げふっ」
「可哀想にあの武芸者その後その場で突っ伏して号泣してたわよ?」
「も、もうその辺で勘弁してください・・・・」
矢継ぎ早の言葉攻めにとうとうソウマの膝は折れ地面に四つん這いで伏せてしまった。
「まあ、そんな俺も心を入れ替えてだな、こうして勇者の頼みを快く引き受けてあげようというのだよ」
しかし次の瞬間には勢いよく立ち上がり拳を握りしめながら演説する。
「どうせ最近また退屈を持て余しているだけね」
「だはっ」
シルヴィアの流れるような言葉の追撃にソウマは再び転倒する。
「と、兎に角!勇者の頼みとあれば無下にもできねえだろうが」
ソウマは誤魔化す様に再び立ち上がってカイトの前に立つ。
「それで?どうしてまた俺と戦いたいと思ったんだ?」
「あの時の僕は操られていました。それでも意識は多少なりともあった。だからこそ覚えているのです。あの時のソウマ殿と手合わせしていた時の武術家としての高揚感もまた覚えています。だからこそ今度は自らの意思の宿る拳でソウマ殿と拳を交えたいと思いました」
「武人らしい答えだな。お前さんは向こうの世界では武術の家の出かい?」
「はい、本文は学生ですが家は古流武術を伝える古い家です。僕も幼いころからその手ほどきを受けてきました。正直この世界に来たのは僕にとって半分は幸運でした。身に付けた技術を存分に発揮できる機会がありましたから、僕の元いた世界では中々そういう機会に恵まれぬ世界でして・・・・・」
「(まあ、そうだろうさ・・・・)」
ソウマも内心でカイトの言葉に納得する。
「それでも帰りたいと思う気持ちもこの国やこの世界の人を助けたいと思う気持ちもまた本物です」
「ああ、それもわかるよ」
続くカイトの言葉もソウマは否定しなかった。それはカイトの目を見ればわかることだからだ。
「だから僕は今以上にもっと強くなりたい。もう二度とあのようなことが起こらないように今の未熟な自分を鍛え治す。その為にもう一度僕にはソウマ殿との手合わせが必要なんです」
「わかった」
そう言ってソウマとカイトは練兵場の中央に移動していく。
「一つお聞きしたい」
すると二人が構えるとカイトがソウマに質問を投げる。
「なんだ?」
「あの時のソウマ殿も素手でしたがソウマ殿の本来の戦闘方法は拳ではなく剣ではないですか?」
「あーまあな、一応俺の主武装は剣だな」
「やはり」
「といっても俺が素手の方が弱いわけじゃないぜ?確かに攻撃力という点では剣を持った方が強いが素手の俺も十分強いぜ」
そう言ってソウマは両手を数回打ち合わせる。
「それは十分にこの間の戦いで承知しています。一応気になっただけなので、それでは・・・・・・」
納得したカイトは自らの構えを取る。その両腕と両足には既に武具が装備されておりその右足にはソウマの鎧【紅の右足】が装着している。
「闘う前に一応僕のステータスを見せておきます」
そう言うとソウマ達の前に以前にエテルニタ王国で見たような画面が出現する。
武崎魁人 種族:人間 年齢:17歳 称号:【拳の勇者】
MAG:B
STR:S
VIT:S
DEX:A
AGI:A
INT:B
LUC:C
さすが勇者というだけあり中々のステータスである。
「(前に楓のステータスを見たがやはり実力は楓よりやや上くらいだな)」
以前に拝見した楓のステータスは・・・・・・。
天月楓 種族:人間 年齢:16歳 称号:【水の勇者】
MAG:S
STR:B
VIT:B
DEX:S
AGI:A
INT:A
LUC:B
ステータスを見ればやや劣っている程度だが《緋炎》を使用できるカイト相手ではカエデは不利というしかないだろう。
「まあ俺のステータスは手合わせが終わった後にお前が興味があれば見せてやろう。さあ、来な!」
「はい!」
言うと同時にカイトは縮地で一気にソウマとの距離を詰める。
「!」
しかしカイトがソウマの目の前に移動したと思った時には既にソウマの姿はそこにはなかった。必死にソウマの姿を探すカイト、するとその真後ろから声がかかる。
「こっちだこっち」
その声に驚いたカイトは思わず声のした方とは逆の方向に飛びずさる。
「いつの間に・・・・・」
「今お前が使った縮地の応用技の予備動作を無くしつつ初速から最高速を出す技法、瞬動?だったかな、その技の欠点は移動を開始した直後は一瞬視界を失うってことだ。確かに瞬動は奇襲・先制には持って来いの業だが今の様にそれに合わせて相手も同じ位の速度で移動すると相手を完全に見失うんだよ」
「・・・・・随分と古流武術に詳しんですね」
「瞬動の本来の使い方は今みたいに相手の正面に出るんじゃんなくて・・・・・・・」
そう言った瞬間ソウマの姿が掻き消える。
「こうやって相手の背後に回るのに使った方が有効だ」
そうしてカイトの背後に手を置いて話しかける。
「!」
カイトは再び驚いてソウマから距離を取る。
「・・・・・・どうやら歩法術では勝負にならないようだ。純粋な格闘戦で行かせてもらいます」
「応、俺もそのほうが性に合ってる」
「はっ」
踏み込んだカイトはそのまま強烈な右の正拳をソウマに繰り出す。ソウマはそれを冷静に横から逸らす形で受け流す。受け流されたカイトはそれに逆らわず受け流された勢いを利用してそのまま左の裏拳に繋げる。ソウマはそれを気を集中した左腕で防御する。
「《発気》」
カイトは今度は全身から気を一気に放出する。これは殺威とは異なり全身から一気に気を放出することにより相手の動きを一瞬だけだが封じる技である。もちろんそれは発した気が相手の気を上回っている場合に置いてだが・・・・・・・。
「やはり効きませんか」
「まあね」
ソウマの動きは一瞬も止まる素振りを見せなかった。しかしカイトは予想していたのか驚く素振りを見せることなく次の攻撃に移る。
「《炎舞・連拳》」
次なる攻撃は黄金の炎を纏った拳の連撃だった。今度のソウマは受けることはせずに全て躱している。
「くっ、全て躱される!」
連撃では捉えきれないと判断したカイトは黄金の炎を纏った右足をソウマに繰り出す。
「ふんっ」
ソウマはその右足を迎撃するように気を籠めた右の拳で迎え撃つ。
バガンッッッッ
辺り一帯に凄まじいい轟音が響く。ついで気に吹き散らされる様に炎を辺りに舞う。
「・・・・・・まさか素手の拳に押し負けるとは・・・・・・」
ソウマは拳を振り下ろした状態でその場から一歩も動いていない。対してカイトは打ち合った位置からかなりの位置を後退している。どちらが打ち勝ったかは誰が見ても明らかであった。
「しかもこの鎧を着けた状態の蹴り通用しないなんて・・・・・・」
「一応その鎧は俺のだからな。自分の鎧より弱いような鍛え方はしてないつもりだ」
「いや、そういう問題ではないと・・・・・・・・なんですと?」
「ん、どした?」
「いや、今この鎧が貴方の物であると・・・・・・・・」
カイトの表情が驚愕に包まれている。
「ああ、その鎧の元々の持ち主は俺だからな。そもそもこの国に来た目的の一つにその鎧の様子を見に来たってのがあるからな」
「・・・・・・・・・・・」
驚愕の表情の後カイトはどこか納得がいったような表情になる。
「どうした?」
「いえ、以前にラルク殿に聞かされておりました。この鎧を下賜される時にこの鎧の本来の持ち主の凄まじさを・・・・・・・。得心が行きましたよ」
「だったらここでやめとくか?」
「御冗談を」
「悪い」
お互い軽口を叩き合い、再び構えをとる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ」
裂帛の気合いの後、一気にソウマまで肉薄したカイトは嵐の連打を繰り出した。両の拳だけではなく蹴りも繰り出しながらの更には《緋炎》を両手両足に纏った状態である。
「大したものね。《緋炎》をあれだけの回数使用しながらの連打を繰り出すなんて。あれからかなりの鍛練をしたんでしょうね」
シルヴィアがその攻撃を観戦しながら感心するように感想を述べるている。
「前回の時に私も体験しましたがあの真なる炎である《緋炎》は使用にも相当の精神力と体力を消耗すると推測します。それをあの若さで制御するとは・・・・・・・」
「あれってラルクには出せないの?」
「うーん、出来ないとは言えないだろうけど簡単ではないと思うわね。そもそもあれは魔力の巨大云々以前に精霊が大きく関わっている力だから。その点で言うならラルクはハイエルフのわりにそれほど精霊と親しいとは言えないから使いにくいと思うわ」
「へえ~、それじゃああのカイトって人凄いんだ」
シャルロットが感心する。
「そうはいってもカイト自身もそれほど精霊に好かれている訳ではなくてソウマの鎧を触媒に使っているみたいだけどね。なんせソウマの鎧は精霊王の力が宿っているから鎧自身がカイトを気に入って力を貸せばあれ位はできるでしょうね」
「私もいつか自力で精霊の真の力を引き出してみたいです」
アイスが自らの愛剣の柄を強く握りしめながらソウマとカイトの闘いを見つめている。
「貴方なら大丈夫」
そんなアイスの頭をシルヴィアが優しく撫でる。シャルロットはただ無言でアイスの手を握り微笑む。
「ほっ、はっ、ふっ」
カイトの繰り出す猛攻をソウマは軽い掛け声と共に文字通り軽く捌き続けている。
「(完全に捌き切られている!)」
カイトは捌かれ続ける己の攻撃に驚きを隠せなかった。カイトがソウマを攻撃する手応えはまるで感じず、まるで空中に向かって拳や蹴りを突き出しているかのような錯覚させ覚えてしまう。つまりカイトの攻撃の運動エネルギーの殆ど全てをソウマに受け流されている状態なのである。カイトの攻撃の衝撃はソウマにまるで届いていないのである。加えて・・・・・・・。
「(炎も通じていない!?)」
カイトの繰り出す拳や蹴りには全て《緋炎》が纏わせてある攻撃である。しかしそれを捌くソウマの手足には服の焦げ目すら存在しない。
「前の時に服を燃やしちまったからな。今回はちゃんと生身以外も気で覆って防御してあるからな」
カイトの疑問に答えるようにソウマが攻撃を捌きながら言う。
「簡単に言ってくれますね!」
そう悪態をつきながら尚も苛烈な猛攻を続けるカイト、しかしいくら続けようとその攻撃がソウマに届くことはなかった。一見すると無駄とも思えるカイトの攻撃にソウマは何か意図があるのではないかと考え始める。
「(このまま攻撃を続けても俺に通じないのは理解したはずだが・・・・・・・?。なにか狙いがあるのかな?)」
ソウマはそう考えながら油断なく攻撃を捌き続ける。
「はっはっはあっはあっ」
激しい猛攻にソウマより先にカイトの方が疲労が大きくなったのか呼吸が乱れ始める。それを見逃すソウマではなかった。
「疲れたかい?」
攻撃が緩くなった一瞬の隙をついてソウマが攻撃に転じる。カイトが右の回し蹴りを繰り出した瞬間を狙いってがら空きの背中に掌底を叩き込もうとする。
「なに!?」
しかしソウマの掌底は空を切った。捕えたと思った瞬間カイトが回し蹴りの勢いのままその場でしゃがみ込みソウマの攻撃を回避したのだ。そしてそのまましゃがんだのを理用して今度はその勢いでソウマの逆にがら空きになった腹部に向かって攻撃を仕掛ける。
「(なるほどな、今までの連打は俺の疲労や消耗を狙うものではなく自分自身が疲労したと俺に思わせて逆に俺に不用意な攻撃を仕掛けさせるための餌だったか。さすが武術家らしいな・・・・・・・あの若さで武道ってもんがわかってるじゃないか)」
ソウマは内心でカイトに対して称賛を送る。
「《炎・大筒通し》」
ソウマの腹部に打ち込まれた拳はその拳から大量の《緋炎》を直接ソウマの体内に叩き込み内側から焼き尽くす。本来は鎧を着こんだ相手に気を鎧に遮られることなく叩き込む鎧遠しと言われる古流武術の技である。カイトはそれに改良を加えて気の代わりに《緋炎》を相手の体内に直接送り込む技としたのである。この技は本来のモノでさえ危険な技であるためこの技自体実際に人に使うのは実は初めてのカイトである。しかしソウマ相手には自分の全てをぶつけたいという武術家の思いに逆らうことができなかった。目の前の男には自分の全てで挑めと本能が叫んだのである。
「ぐはっ」
ソウマの体から黄金の燐光が溢れだす。体内を《緋炎》が駆け抜けた証である。ソウマの体が一瞬跳ねるように震える。
「・・・・・・・・・」
そのまま双方動かなくなる。
「(完全に入った・・・・・・・)」
カイトは自分の攻撃の手応えに確かな感触を得ていた。
「・・・・・良い攻撃だったぜ。申し分なしだ。久しぶりだぜ、シルヴィアやラルク以外に攻撃を喰らったと感じたのは・・・・・・」
「なに!?」
「全力で防御しな。死ぬぜ?」
驚愕したカイトの腹部に今度はソウマの手が添えられている。そしてカイトは次に聞いたソウマの言葉にほとんど反射的に腹部のオリハルコンの鎧に全力で気を込めて防御の体勢をとる。
「ふっ」
次の瞬間カイトの腹部で凄まじい威力の爆弾が爆発する。少なくともカイトにとってはそう感じるしかないほどの凄まじい衝撃と威力が突如発生したのだ。
ソウマが今カイトの腹部で行ったのは中国拳法でいう所の発勁と言われる技である。人間の体はそのほとんどの運動の為の力を無駄に使っている。走る時、歩く時、飛び上がる時、しゃがむ時、それは闘う時に置いても言える事である。人を殴るという一つの行動でもその力の殆どはその力を別の部分へと散ってしまうのである。しかし今ソウマはカイトの腹部に密着した状態からそこから発生する運動エネルギーのほぼ全てを大地の力を利用することにより全体重と共にカイトの腹部に叩き込んだのである。おまけに大量の気を乗せてである。
「ごはっ!!!!!」
吹飛ばされたカイトはそのまま練兵場の壁に激突すると同時に壁にめり込むようにして動かなくなる。腹部のオリハルコンの鎧はコナゴナに砕け散っている。カイトはピクリとも動かず完全に意識を失っていることが伺える。
「師匠、手加減したのですか?勇者死んだのではありませんか?」
アイスが壁にめり込んだカイトの方を見ながらいつも通りの氷のような表情でとんでもないことを口にする。
「ええ!?」
「だ、大丈夫だろ?」
カウルスがアイスに言葉にかなり狼狽えた叫びを上げる。カイトが壁にめり込んだあたりで口を半開きにして茫然としていたのだがアイスの言葉で一気に現実に引き戻されたようだ。そしてそれを言われたソウマは若干自信なさげに言葉を返す。
「一見するととてもそうは見えないわねぇ~」
シルヴィアも実に楽しそうに笑いながら笑えない事を言う。
「すごいね~。勇者の人壁の中に入っちゃってるよ~?」
シャルロットは感心するように壁にめり込むカイトを見ている。
「本当に生きてるのかしら?」
シルヴィアがニヤニヤしながらソウマに言う。
「ちゃんと殺さねえように技打ったって!」
「本当に?その割にはオリハルコンの鎧がコナゴナじゃないのよ」
「そ、それはあいつの肉体じゃなくて鎧の方に威力が行くように調整したからだよ!流した衝撃と気の殆どは鎧が受け止めたはずだから肉体へのダメージはそれほどないはず・・・・・・なん・・・だ・・・け・・・ど」
尚も楽しそうに非難を続けるシルヴィアにソウマは否定の言葉を返す。最後の方の言葉は尻窄みのようになってしまったが・・・・・。
「・・・・・・・・・うぅぅ」
するとカイトが壁に埋まった状態ではあるが小さくうめき声の様なものを上げる。
「ほら見ろ!生きてるじゃねえか!」
それを聞いたソウマは「どうだ!」と言わんばかりにカイトの方を指差して笑顔になる。
「辛うじて・・・・・・て感じではあるわね」
シルヴィアはそんなソウマを見てやれやれと言う様に息を吐いて苦笑する。
「そうですね。早めに治療をしなければ本当に死にかねませんね」
「か、かかかかかカイト!?」
冷静なアイスの状況分析を聞いたカウルスが血相を変えてカイトの救出に向かう。先ほどから茫然自失していた同じく観戦していた何人かの兵士達も王の血相に正気に返りカイトの救出に向かう。
「大丈夫かな?」
その様子をシャルロットが少し心配しながら見ている。そんなシャルロットの肩に後ろから優しく手を置いてシルヴィアが話しかける。
「大丈夫よ。見た所ダメージの殆どはソウマの言う通り鎧の方に行ったみたいだから見た目ほどの怪我はしていないわよ。むしろ吹き飛んだあとの壁に激突した方の衝撃の方が深刻な位ね。まあそれ位なら少し安静にしていれば大丈夫よ。心配ならアイスに回復魔術をかけて貰えばいいわ」
「うん、アイス姉様お願いできる?」
「はい」
シルヴィアの言葉にシャルロットは即座にアイスにカイトに回復を施す様に頼む。いくら安静にしていれば大丈夫とは言っても回復魔術をかければ直ぐにでも回復できるのであればそうしてあげたいというシャルロットの純粋な優しさが彼女の表情に表れていた。頼まれたアイスもそれが十分に分かっており優しそうな表情で
シャルロットに微笑みかけながら頷く。そうしてゆっくりと壁の中から救出されたカイトに歩み寄って行く。
「良ければ彼の治療をしましょうか?」
「・・・・・・・お願いできますか?」
そしてその場に居る中で最高の責任者であるカウルスに治療の申し出をする。カウルスはしばし考えた後に静かに頷いて他の兵の少し下がらせてカイトを床に寝かせる。
「万物を構成する要素よ、生ける者を癒す祝福と成れ【聖願】」
そして以前にカエデにかけたのと同じ回復魔術をカイトに施す。
「・・・・う、うううんぅぅん。僕は・・・・・・」
アイスの回復魔術により肉体の痛みが取り払われたことによりカイトの意識は一気に浮上してくる。
「カイト、良かった気が付いたか!」
意識を取り戻したカイトを見てカウルスが安堵の表情を見せる。
「別に焦らなくても練兵場ならライフの加護があるんだろ?だったらそんなに心配しなくても大丈夫だって」
ソウマが妙に大げさな仕草で安堵するカウルスを何でもないように笑う。しかしカウルスの表情は一向にソウマの思う様にはいかなかった。
「実は・・・・・以前の魔族の襲撃の時にライフ神の加護を司るご神体破壊されていまして・・・・・・・」
「え゛」
カウルスが申し訳なさそうに言う。それにソウマは引きつったような声を出す。そして練兵場を見渡してみれば確かにライフ神の加護を表す砂時計のガラスが破壊されておりそこからは何の力も感じられない。
「そういえばここに来てからずっとライフ神の力を全然感じなかったわね。いつもの癖で特に気にしてなかったものだから疑問に思わなかったわ」
シルヴィアも今気が付いたといった風に目を丸くしている。
「最初に言うのを此方も失念しており・・・・・・・・」
カウルスの方も申し訳なさそうな表情で謝罪してくる。
「ま、まあ、双方無事だったんだから別にいいじゃねか」
ソウマは取り繕う様に両手を振っている。若干顔を引きつっているが・・・・・・。
「本当に殺すところでしたね・・・・・・・・・」
「ね~」
アイスとシャルロットが冗談めかして冗談にならないことをまた口にしている。
「大丈夫か?」
「・・・・・・はい」
ソウマがそんな二人の言葉を誤魔化す様に意識を取り戻したカイトに話しかける。
「いや・・・・・・・・、完敗ですね。まるで歯が立ちませんでしたよ」
「そう自分を卑下することも無いだろうよ。お前の力も中々だったぜ」
「正直あの時の魔族とソウマ殿はどちらも僕とは実力が違い過ぎてどちらが強いのかも正直分からないというのが本音ですが、どちらかというとソウマ殿のほうが底が見えないような感触でしたよ」
「そうか?」
「ソウマ殿が敢えて僕と同じ土俵で勝負してくれた分余計に分かったのでしょうけれどね。技術的にも僕の遥か上を行くソウマ殿の強さには正直嫉妬すら沸いてきませんよ」
「まあ確かにそうだが最初に言ったように素手の俺が剣を持った時と比べて特別弱いわけじゃないからな。そこは勘違いするなよ」
「本気をまるで出していないという点では僕にとってあまり変わりありませんよ。ソウマ殿がその気なら最初の十秒程で僕は死んでいる位のことが分かる程度には僕も相手との実力が分かりますよ」
カイトはそれをどこか他人事のように語る。しかしその顔はどこか晴れやかな感情も伺える表情である。
「まあ俺を本気にさせるかどうかは今後のお前次第だな」
「しかしソウマ殿はすごいですね。その若さでそれほどの実力を身に付けるとは・・・・・・しかもその佇まい・・・・いつか僕の武の師である祖父から聞いたことがある姿そのままです」
「ん、何だそりゃ?」
「ソウマ殿からは普段とても実力を持つ者特有の雰囲気を一切感じません。本来どんなモノでもある程度実力を修めた者は普段どんなに自然を装っていても身に付けた技術や闘気が自然とそういう仕草をさせるものです。しかしソウマ殿には全くそれを感じない、むしろ普通の者にしか見えない。祖父が言っていました。ある種の領域に達した者はその領域にいる者にしか実力を察することができないそうです。そしてそれは身に付けた実力が圧倒的であればあるほどにそう見えるそうです。本来それは自然界における絶対強者のみが許される王者の振る舞いに他なりません。シルヴィア様ならともかくソウマ殿の強さは磨かれた強さだと察します」
「まあな、俺も最初はそこらの魔獣にも勝てなかったからな」
「だからこそ凄まじい。一体どれほどの鍛錬を己に課せばそのれ程の領域に至れるのか・・・・・・僕には想像もできません」
その後二人は先の立ち合いについていくつかの意見のやり取りをした後意外な程のあっさりとソウマ達は城を後にした。当然カウルスはソウマ達を食事になど誘ったが丁重にお断りした。カイトの方は意外とあっさりとソウマ達と別れを受け入れていた。カエデのようにソウマ達に協力を仰ぐことも無かった。カエデと違い武人としての気質を持つカイトはどこかソウマの本質を理解しているのかもしれない。
「良い所だったね~」
王都を出てしばらく歩いた所でシャルロットが王都を振り返りながら思い出す様に言葉にする。
「そうですね。例の事件さえなければ実に有意義な時間を過ごせました」
アイスもそれに同意するように頷く。ソウマ達はアイアンガイス王都滞在中は様々な武器屋や鍛冶仕事などを見学した。アイスとしてもやはり現地で自身の目で実際に品質を確かめることは騎士団長として重要なことなので実に熱心に武具や職人を吟味していた。いくつか気になった物や人物になにやら声をかけたりもしていた。シャルロットも地方の珍しい食事に連日舌鼓を打っていた。それこそ王都中の食品関係の露店を回ったのではないかと思われる程だった。シルヴィアはそんなアイスやシャルロットに付き添って微笑ましく見守っていた。ソウマは時に宿に篭り一日中眠りこけ、時にはシャルロットやシルヴィアに連れ出され様々な店を回った。なんだかんだぜ全員が前の国のアグアラグ以上に街を満喫していた。
「次は何処に行くの?」
シャルロットが次の行先をソウマに尋ねる。
「それについては実は決めてない」
「そうなの?」
「アグアラグとアイアンガイスはエテルニタ王国の進む先に偶々並んでいたから行先にしただけなんだよ実は、だからここに来た時点で次の行先は決めていないんだ」
「じゃあどうするの?」
今度はシルヴィアが尋ねる。
「まあいいじゃねか、どこでもよ。元々本来の目的は俺の昔と今の違いを確かめる為の見分を広める旅だ。勇者に会うのは正直俺にとってはついでの目的だからな。だからこれからの旅は特に目的を決めずに行こうと思う」
「ソウマがそれで良いのなら私は別に構わないわ」
「私も~」
「私も師匠の方針に異論はありません」
三人はそれぞれソウマの考えに肯定する。
「それについでの目的が一つ増えたしな・・・・・・・・」
するとソウマがそう言ってすっと目を細める。その眼には僅かではあるが確かに闘争心の欠片を宿していた。




