28話 魔王
どうも皆さん。インフルエンザにかかりました。皆さんも体調には十分気を付けて下さいね。最新話です。
「何、だと!?」
ソウマに言われた事が理解できず王は思わず聞き返してしまう。
「だから~お仕置きの時間だって言ったんだよ駄目親父」
聞き返されたソウマは先程よりも更に嫌味な笑顔を浮かべて同じ言葉を返す。
「なんのつもりだ?貴様のふざけた態度とふざけた言動は?どうやって牢を脱走してきた?そして貴様が後ろに連れているのは時代の趨勢も判断できぬ愚かなる我が息子ではないか。先ほどの言葉はどういう意味だ?」
王は最初こそソウマの登場に動揺を見せていたがソウマの後ろに居る自身の息子であるカウルスをその視界に捉えると途端にその瞳に侮蔑の感情を籠めて睨み据える。
「言葉通りの意味です父上。この国は今誇りを失い滅びに向かっています。私は父上に代わりこの国に誇りを取り戻します」
「滅びに向かっているだと?なにを馬鹿な!私が魔族に協力しているからこそこの国は魔族からの侵略に怯えることなく過ごせることが。むしろ私がこうしているからこそこの国は滅びを回避できていると言っていいぞ」
「それは回避では無く衰弱というのです。確かに一時的な滅びこそ回避できるかもしれませんがそれでは誇りは戻りません。誇りを無くした者は己が堕ちていくことすら気付かずに道を踏みはずすのです。そうして気付いた時には全てが手遅れになっている。今現在の我が国の現状はまさにその瀬戸際にあります。引き返すなら今しかありません」
「貴様が言うのは只の綺麗事に過ぎん!貴様も見たであろうが!我が城があの魔族によって一瞬にして制圧されるのを!我が国の勇者カイトがあの魔族に全く太刀打ちできなかったのをな!我々人族は勝てん、私にはその時分かったのだ。例え一時の延命であろう我々はこうするしかなかった。そこの男が言ったように魔族はもしかしたらいずれ我々を残らず滅ぼす気のなのかもしれん。しかし我々には選択肢が無いのだ。どんなに誇りを保とうと勝てぬものは勝てぬ」
そう言って王は自ら膝を折りベッドに腰かける。その顔はまさに心折れた者が見せるなにかを諦めたような表情だった。
「勝てないと分かっていても誇りを失うくらいなら誇りと共に死ぬ覚悟を持つべきだったのです」
「それで納得するのは一部の者だけだ。この国には誇りと共に死ぬ覚悟が持てる者ばかりではない。家族が友が愛する者がいる。そんな者達にまで誇りと共に死を覚悟せよなどと私にはとても言えん!」
「しかし!」
「あ~論争が白熱してるところ悪いが・・・・・・」
父と子が・・・・・・この国の王と王子がそれぞれの主張を言い合う中、ソウマがそれを突然中断させる。二人は訝し気な顔でソウマを見る。
「お二人さんの主張がそれぞれあるのは分かったが正直それは俺にはどうでもいい。問題は俺達をハメた魔族ってのは一体誰かってことだ。おっさん知っているか?」
ソウマはそう言って王に向かって質問する。以前ソウマは言ったがこういったことに対するお互いの主張というのは往々にして平行線を辿ることが多い。ましてや片方の心は完全に折れており死んでいると言っても過言ではないような精神状態である。これでは王子の方の意見を王の側に通すのは難しいだろう。
「(まあおっさんの方の意見も分らなくはないがなぁ)」
ソウマは本人のやる気はともかくとして一時期は一国の騎士団を預かった身である。部下を教育(?)する時には誇りと共に死ねとは一度も言ったことは無い。自身の心だけは裏切るなとは言った事はある。それは愛する者がいる場合は意地汚くても生きろという意味でありここで死んでもいいだけの理由であり誇りを護るだけの理由である。誇りは一時的に捨てたとしても心さえ生きていれば誇りを取り戻せるとソウマは思っている。
「(まあそれは置いといて)それで?知ってるかい?」
ソウマの質問に少し放心していた王だがソウマの再びの問いかけに意識を取り戻す。
「し、知ってどうするというのだ!」
「見つけてしばき倒す!」
「・・・・・・・・・・」
ソウマの返答に王は再び口を開けてポカンとしている。
「む、無理だ!」
「なんで無理なんだ?」
「そんなことをしても勝てはせんぞ!」
「そんなことおっさんの気にすることじゃない。おっさんはただそいつは誰かを俺に教えてくれればいいだけだ。それか向こうさんに「自分達では手に負えません」と報告してくれりゃ向こうさんが勝手に俺の所に来るだろうさ」
ソウマの言葉に王は更に同様する。それは先程までの驚愕とは違い明らかに恐怖の感情の方が強い。
「どうした?」
ソウマも王のそんな感情を感じ取ったのか怪訝な顔になる。
「(明らかにこれは恐怖を感じている。しかも俺に対してでも報告する事に対しての恐怖でもない。これは・・・・・もじかして?)」
ソウマは王が感じている恐怖を憶えのある感覚として感じ取る。昔に自分の相手をしている敵が自分の強さを知った時にしていた顔だ。つまり・・・…圧倒的な強者によって追い詰められた顔!
「伏せろ!」
直後ソウマはそう言って傍にいたカウルスの頭を掴んで無理矢理床に伏せさせる。王は元々怯えていたこともありソウマの叫びに反射的にしゃがんでいた。そして次の瞬間・・・・・・。
ゴッ!!!!!!!
ソウマ達が顔を上げた時王の寝室のソウマ達のいる廊下側の壁がごっそりと無くなっていた。それどころかその向こうの廊下の壁も何枚か吹き飛んでいた。
「一体何が!」
カウルスはその惨状を見て驚愕に包まれている。もしソウマが自分の頭を掴んで床に押し倒さなかったらと想像し顔を更に青くしている。
「ひ、ひい!」
王はむしろその惨状を作った原因を察しているのか視線をある一点に向けて怯えている。
「わ、私は裏切っていないぞ!そ奴等が勝手にしたことだ。我が国は関係ないのだ!」
そうして視線の向こうに必死に言葉を投げかける。
「はい、邪魔♪」
しかしそんな必死な王様を丸ッと無視したソウマは遠慮なく王様の頭に踵を落として気絶させる。
「そっちからわざわざ出てきてくれるとは手間が省けたな」
ソウマはそう言って先程王が向けていた方向に視線を向ける。
「・・・・・・・・・」
すると寝室のカーテンの後ろから無言で一人の男が現れる。意外な事に表れたのは魔族ではなく人族の男だった。歳は若くまだ少年の面影を残すがその佇まいは無駄が無く彼が相当の使い手であることが分かる。そしてその右足には紅く輝く脚甲が装着されている。
「おい、王子様よ。もしかしてあいつが・・・・・・」
「はい、我が国の勇者カイトです」
カウルスは痛ましそうな顔でソウマに告げる。
「一応生きてはいたんだな・・・・・・・・」
ソウマはカイトの瞳を見る。そこには意思の光は感じられない。いや、正確にはそこに意思の感情は確かに見て取れる。しかしそれはカイトのモノではなく別の何かがカイトという入れ物の中にいる感じである。
「体そのものは勇者君のもののようだが・・・・・中にいるのは誰だ?」
ソウマはカイトの瞳の中にいる人物に向かって言葉をかける。
「・・・・・・・・・・・」
しかしカイトはなんの反応も示さず無言でソウマに音も無く接近する。
「問答無用か」
カイトは地面を一瞬の内にソウマに接近する。カウルスの目にはカイトがまるで地面を滑るように移動したように見えただろう。
「(なかなか良い縮地だな)」
普通の者なら数メートル先にいたカイトが一瞬で自分の目の前に瞬間移動したように感じたことだろう。しかしソウマは落ち着いて縮地の後にカイトが繰り出した右の正拳を受け止める。
「・・・・・・・・」
右の拳を受け止められたカイトは即座に左の回し蹴りを放つ。ソウマはそれを右腕を放して後ろに下がって避ける。カイトは回し蹴りを放った勢いで後ろに下がったソウマを追いすがる。そしてソウマの懐に飛び込むと両手を腰に構えてソウマの腹部に向かって気を籠めた掌底を両手とも叩き込む。
バガッッッッ
それを受けたソウマは壁まで吹き飛びぶつかった壁を突き抜けて隣の部屋まで吹き飛ぶ。
「あ、あああああ」
カウルスはそれただ茫然と見ていた。その視線はソウマが吹き飛んで瓦解した壁の方に注がれている。
「だ、だから言ったのだ。私は止めたのだ・・・・・止めたのだ」
王は頭を抱えうずくまり何かを呟きながら震えている。
「・・・・・・・・」
カイトはゆっくりとカウルスの方を振り返る。そして静かに右腕を振り上げる。
ゴッォ
右腕をカウルスに向けて振り下ろそうとしたカイトの横腹に突如飛び蹴りがお見舞いされた。隣の部屋からソウマがそのままカイトに向けて飛び蹴りを放ったのだ。今度はカイトが壁を突き破り反対側の部屋に吹き飛ばされる。
「駄目だねえ。相手の状態も確認しないまま目を離しちゃあ」
ソウマはそう言いながらカイトが吹き飛んだ方の部屋に視線を向ける
「・・・・・・・・・」
カイトは何事も無いかのようにそこに立っていた。
「精神操作系ではないな。体そのものを別の何かに乗っ取られている感じで間違いないな。しかも乗っ取った相手の身体能力も見た感じ完全に使いこなしているな」
ソウマは感心したように言葉にする。精神操作系の魔術・魔法は知性の高い生命体や精神力の強い者程に抵抗が強く掛けるのが難しい。変わって肉体を乗っ取る系は生きている者を乗っ取るのは難易度がかなり高い、当然乗っ取られる側は生きている間は抵抗を続ける為に殺してから乗っ取る方が簡単である。しかしその場合肉体の生前の能力を発揮できない場合が多く肉体も長時間保てない為にあまり利点も多くない。かと言って生きていても抵抗される為に肉体を操りにくい。しかし目の前のカイトは少なくともソウマから見ても十全に肉体の力を使えているように見える。乗っ取った術者が相当の実力者であることが伺える。
「・・・・・・・・」
カイトが両腕の籠手に気を込めはじめる。両腕の籠手の紅い輝きが増していく。両腕の籠手は気がこもることにより薄白い煙を上げる。恐らくカイトの右腕の着いているのはオリハルコンの籠手だろうが気が込められたことにより本来の硬度以上の硬さと威力を持つだろう。
「・・・・・・はあっ」
カイトはその両腕を縮地で近づくと同時に凄まじい速度を連打を繰り出してくる。
「よっ、ほっ、はっ」
ソウマはその連打を自らも両腕気を込めて危なげなく捌いていく。本来籠手を着けた相手を素手の相手ではいかに手を気で覆っていようと勝負は見えている。ソウマがカイトを遥かに上回る気で持って両手をガードしているからこそ可能な芸当である。
「・・・・・・《炎舞掌底》」
そう言うと同時にカイトの左手が黄金にも似た炎に包まれる。
「へえ、《緋炎》を使えるのか、俺の鎧を触媒に呼び出しているみたいだな。てことは楓よりは俺の鎧を使いこなしているってことだな」
《緋炎》はこの世界で精霊が生み出すとされるこの世の全てのモノを燃やすことができるといわれる炎である。それは単純な物質に限らず実態のない魂や霊的なモノや使い手によっては概念的なモノする燃やすことが可能な真なる炎である。ちなみにこれは残りの三大属性にもそれぞく頂点となるモノが存在する。
「だが・・・・・・・・少し熱が足りないんじゃないのか?」
「・・・・・・・・!!!」
カイトが感情を隠しながらもその瞳の奥に驚愕の光を宿す。ソウマは黄金の炎を宿すカイトの右腕をなんの躊躇いも無く受け止めたのだ。黄金の炎はソウマの受け止めた左手を容赦なく焼こうとするがソウマの左手は火傷すら負っていない。
「《緋炎》は確かに火属性では頂点に立つ最強の炎だ。でもなその特性や威力は使い手の精神力に大きく左右される。つまりお前はまだそいつを使いこなすには修行不足ってことだ・・・・・・て言っても乗っ取られてるんだからあんまり意味ないかもな」
そう言ってソウマは掴んだカイトの左手を捻りあげてカイトが身を捻った瞬間に投げ飛ばす。カイトが再び別の壁を突き破って吹き飛んでいく。
「ちょっと、なんなのよ!」
すると壁の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あ?なんでそんな所に居るんだシルヴィア?」
どうやら壁の向こうに偶然通りかかったシルヴィア達が居たようだ。ソウマも大まかに位置を掴んでいたせいでシルヴィア達がここまで接近していたことに気付かなかったようだ。
「それはこちらのセリフよ。ソウマの気配を辿って来てみれば突然すごい音がしたから急いでみればいきなり壁を突き破って誰か出てくるんだもの」
そう言ってシルヴィアは壁を突き破り瓦礫に埋もれたカイトの方を見る。
バゴォッ
すると瓦礫に埋もれたカイトが一瞬で瓦礫を吹き飛ばすと一番近くにいたシャルロットに襲い掛かる。そこにアイスが割って入る。
「シャルに手出しはさせません!」
取り戻した《アイスコフィン》を構えてカイトの前に立ち塞がる。カイトはアイスの目前で一瞬止まったかと思うと次の瞬間にはアイスの横側に現れる。
「(これは師匠に教わった《抜き足》。しかし師匠程ではありません!)」
アイスは冷静にカイトの技を見切り自身の横に表れたカイトを正確に捉えて反撃をしようする。それにカイトは左手の《緋炎》で迎え撃つ。
ガキッッッ
アイスの《アイスコフィン》とカイトの左手の《緋炎》を纏ったオリハルコンの籠手がぶつかり合う。ぶつかり合った瞬間二人の周囲に氷の破片と炎の粉が舞う、次いで大量の水蒸気が発生する。
「ぐっぐうううぅぅぅぅっっ」
しかし徐々にアイスの方が押され始める。現時点のアイスの生み出す氷ではいかに未熟とはいえこの世界最強の炎である《緋炎》には及ばないようだ。アイスが相殺しきれなかった熱に焼かれながら苦悶の表情を漏らす。
「アイス姉様!」
シャルロットが悲痛な叫びを出す。アイスはそれに応える事すらできずに剣は押され続け遂に膝を着いてしまう。
「・・・・・・・・・」
カイトの瞳の奥が愉悦に歪んだ感情を覗かせる。それは勝利を確信した者が見せる感情だ。しかし・・・・・。
「ナニヲシテイルノ?」
底冷えするような声がカイトの耳に届く。思わず攻撃の手を止めて声のした方を振り向いてカイトはそこで思わず息を飲む。そこには絶対零度の殺意を秘めた瞳が自分を見下ろしていたからだ。いや実際に物理的にもカイトは動けなくなっていた。シルヴィアの放つまるで体中に纏わりつくような濃密な殺威に拘束されていたからだ。
「ネエ、ナニヲシテイルノト聞イテルノヨ?」
シルヴィアからの殺威が更に密度を増す。カイトはそれに膝を着きそうになりながらも右足の脚甲から今までとは比べ物にならない程の《緋炎》を生み出し無理矢理シルヴィアの殺威を振り払う。そしてその勢いのまま《緋炎》を纏った右足の回し蹴りをシルヴィアに放つ。
「姉様!」
「姉上!」
二人が同時に悲鳴を上げる。しかしシルヴィアは二人の心配そうな声に動じることも無く自らの側頭部に迫る炎の蹴りを指先だけで操作した影で受け止める。受け止めた影は数秒黄金の炎と拮抗した後にまるで捕食するように黄金の炎を飲み込んだ。そしてカイトの右足も飲み込むと影が迫った所でカイトが慌てるように距離を取った。シルヴィアはそんなカイトを追撃することはせずに僅かに影に飲み込まなかった《緋炎》を右手の掌で弄んでいる。
「本来の真なる炎である《緋炎》なら私の影を焼き尽くす事も出来るでしょうけども・・・・・・未熟な貴方では・・・・というよりもその肉体の性能ではまだほとんどが物理的な攻撃力しか持たない様ね」
そう言ってシルヴィアは無造作に《緋炎》を握り潰す。肉の焼ける匂いと音が周囲に響く。シャルロットとアイスが再び悲鳴を上げるがシルヴィアは今度は二人に心配ないという様に笑いかけてゆっくりと掌を開く。そこには痛々しい火傷がありまだ僅かに煙が立ち昇っている。しかしその火傷も数秒で跡形も残さず消える。
「いくら吸血鬼の弱点の一つである炎であるとはいえ私の体に傷を付けるのはさすがに真なる炎ね。それで簡単に傷が治せてしまう・・・・・・・・本来の《緋炎》なら私でも再生に時間が掛かる」
そう言うと同時にシルヴィアが視線をカイトに向けたと同時にシルヴィアの周りに出現した影の槍がカイトに殺到する。
「・・・・・・・・」
今だ無言ながらカイトが今度は苦悶の表情で迫るシルヴィアの攻撃を避ける。シルヴィアは一歩も動かずにそれどころか指一本動かさずカイトに攻撃を加え続ける。籠手や脚甲で槍を弾き続けるカイトだが次第に捌き切れなくって追い詰められていく。そしてついに完全に捌き切れなくなり腕を十字に組んで防御の構えになる。そんなカイトに容赦なくシルヴィアの影の槍が殺到した。あたり一帯が瓦礫と変わり土煙で覆われる。
「おいおい、シルヴィア。出来れば殺すなよ。多分分かってるんだと思うがあれは肉体が乗っ取られた勇者なんだからな」
「一応私もそのつもりでほとんど牽制だけで怪我はさせてないはずよ」
ソウマが苦笑しながらシルヴィアに注意をする。それにシルヴィアは此方は微笑しながら答える。それをアイスが呆れながら見つめる。
「師匠と姉上の手加減は大抵の者にとって手加減とは見なされません。弄ぶと言うのです・・・・・・」
アイスが自身の経験談を思い出しながらカイトが居る方向の土煙に同情に似た視線を向けている。
『・・・・・・・その強さ・・・・・貴様等は・・・・・・』
すると土煙の向こうから声が響いてきた。それはまるで喉から発せられたというよりもソウマ達の使う念話のような響き方だった。
「ほら、やっぱり大丈夫じゃない」
それを気にせずシルヴィアが勝ち誇ったように豊かな双球を逸らして言う。
『・・・・・銀の髪・・・・・・深紅の瞳・・・・そして影を操り類いまれなその容姿・・・・・・そうか、貴様があの【闇を駆る者】か・・・・・・こんな所でSS級の冒険者・・・・しかも吸血鬼の王族にお目に掛かれるとは思わなったな・・・・・』
そうして土煙が晴れた向こうから現れたカイトは全身が切り傷でボロボロだったが確かにそこに立っていた。しかし先ほどとは違いその顔には確かに感情が見て取れる。
「そういう貴方は何処の誰なのかしら?」
シルヴィアはカイトを油断なく見つめながら質問を投げかける。先とは違うカイトの雰囲気に気付きその中にいる人物に警戒心を高めている。
『これは失礼した。私の名はディザイア、魔族を束ねる者の一人だ』
そう言ってカイト・・・・・ディザイアが恭しく一礼する。
「魔族を束ねる?魔王の一人ってことか?」
それを聞いたソウマがシルヴィアに代わり尋ねる。
『その通り、私は確かに魔王と呼ばれる者の一人だ」
「やっぱりこの件には魔王クラスが関わってたか。それで?なんでまた魔王自らがこの国を支配してるんだ?」
『なに、近年我が魔族の侵攻に激しい抵抗を見せだした人族どもの理由に勇者なる者の存在があると聞いていたのでね。どうせならと人族の中でも特に各国に武器の供給を担うこの国を潰すがてら問題の勇者の実力でも見ようと思ってね』
「それなら何故この国はこんな状態で勇者は生かしてあるんだ?見た所お前の実力ならその両方をするのは造作もなさそうだが・・・・・・・」
『なにこれは私の趣味のようなものだよ。奴等頼みの勇者が私にあっさりと敗北したのを見て簡単に絶望したんだよ。すると臆面も無く命乞いをしだしたのが面白かったので私の遊びに使う事にしたのだよ』
「遊び・・・・・・だと?」
『そうだとも、ついでに勇者がまだ生きていたのでこの体も使わせてもらった。そうしてこの国にはいつも通りに各国に武器を供給しながらその裏で我が魔族にも武器を供給させたのだ。この国の武器の品質は我が魔族も敵わぬからな。それになこれが一番私にとって大事な部分だが・・・・・・同胞である者を裏切ってまで生き延びようとする者の足掻きを見るのは非常に面白いからね』
そう言ってディザイアは顔を歪めて笑う。それはまさに歪むという言葉が形になったかのような邪悪な笑みだった。それはカイトの顔では無く間違いなくその向こうにある者の性格と性根を表している顔だった。
『そして人族を滅ぼした暁には再びこの私自らがこの国を滅ぼすのだ。しかもこの国の国王を最後にして奴の目の前で国民を最後の一人になるまで殺し尽くし最後に国王を殺す。まさに私の考えた最高の脚本だった!しかし・・・・・・・』
歪んだ笑顔を浮かべていたディザイアは今度は忌々しそうにソウマ達を見る。
『貴様等がここに現れた。偵察用の部下の報告から先のアグアラグでの一件の失敗の原因は勇者ではなく貴様等であるという事は分かっていた。それから貴様等の動向は逐一監視を命じていたのだが・・・・・・・・』
「ああ、やっぱりアレはお前らの差し金か・・・・」
ディザイアの言葉にソウマが何か納得するように手を叩く。
「いちいち私達の行くところに付いて回るように居るからなんの嫌がらせかと思っていたわ」
それに同意して納得するようにシルヴィアも頷いている。
『・・・・・・・やはりそれも貴様等か、偵察の者が貴様等を監視しに行くたびに戻って来なかった。だから私も貴様等がこの国に入ってくるまで気付かなかったのだ。しかしそれも納得だな・・・・・』
ディザイアはシルヴィアに視線を向ける。同時にその場から《緋炎》を纏わせた拳を空中で連打する。するとその拳の形をした炎が雨あられとシルヴィア達とソウマに降り注ぐ。
『《紅・破拳》』
しかも今度の《緋炎》の威力は前以上で城の瓦礫が跡形も無く燃えて消えてなくなっている。ソウマやシルヴィアが言う様に確かにカイトの使用できる《緋炎》は今だ未熟ではあるがその威力は上位の精霊や竜種以外なら一撃で屠れる程度の威力はあるのだ。それをソウマは冷静に観察する。
「(それに加えて本人の体の限界以上に能力を引き出してやがる。あれじゃ自滅にまっしぐらだな・・・・・)」
『まさかその一行に伝説の存在が居るとは私も予想外だった。確かに貴様が居ればアグアラグでの失敗も頷ける』
ディザイアが目を向ければソウマもシルヴィアもその後ろにいるアイスやシャルロットも全くの無傷でそこにいた。シルヴィアは自らの影を操り《緋炎》をその影で包み込むようにして封じている。それが現在はシルヴィアの周りで無数の黒い球体となって浮いている。見ればアイスやシャルロットの周りにも同じモノが浮いている。そしてソウマの周りは更に酷い惨状になっていた。ソウマの足元の瓦礫や床は至る所が焼け焦げ融解している場所がいくつもある。対してソウマの方は掠り傷すら負っていない。その代りソウマが来ている服の裾の手首の部分が焼けて破けている。そこから導き出された答えは・・・・・・・。
「《緋炎》を生身の拳で全部叩き落したの?相変わらず良く分からない無茶をするわね」
「ちゃんと拳を気で覆って叩き落したぞ。すこしさじ加減間違えて服の裾燃えちゃったけど、どうもこういう加減は逆に難しいな」
「ていうか何で素手なのよ?《聖王竜剣》召喚して切り落とせばいいじゃない?」
「いや、向こうのを見て俺も久しぶりに素手格闘を・・・・・・・・」
『貴様は一体何だ?その強さ、見た目は人族のようだがとても人族とは思えん。多少何か混じっているようだがそれでもこの肉体の勇者は人族では間違いなく最高峰に近い強さの持ち主であるはずだが正直貴様にはまるで歯が立たん。勇者・・・・・・ではないな、見た所では神や精霊などの強い加護は受けていない。貴様は一体何だ?』
ディザイアがソウマに警戒心も露わにそう尋ねる。シルヴィアはソウマの言葉を聞いて頭を振って呆れている。
「魔族のお前なら多分俺のこと知ってるんじゃないのか?俺が封印されたのは約百年前だから魔族からしたらそんな昔の話でもないだろうからな」
『なに?封印だと?』
ソウマの言葉にディザイアが怪訝な顔をする。そして次いで段々と驚きの表情に変わる。
『待て!吸血姫と一緒に居るという事は貴様はまさかあのエテルニタ王国の人間か!?そして封印とは・・・・・まさか!』
「そうそう、邪神連中の共同合作の禁忌魔法の封印に百年間閉じ込められていたんだよ」
ソウマはそう言って当時の事を思い出したのか少し苦い顔して憮然とする。どうやら今だに払拭できていないようだ。
『そんな・・・・・・まさか・・・・・・・本当に貴様がそうだとしても、いくら何でもたかだが百年程度で敗れるような封印ではないはずだぞ!』
ディザイアは驚愕を張り付けた表情となる。
「その様子からしたらやっぱり百年前の件はお前らの手引きだったんだな?」
「!」
ソウマがそう尋ねた瞬間ディザイアが更なる動揺を見せる。
「どうしてそう思うのソウマ?」
「当時の魔族からしたら先代の魔王を単独で倒した俺は邪魔以外の何物でもないからな。何らかの手を仕掛けてくることは予測はしてたよ。しかも百年前のガラルドの野郎の行動はいくらアイツが上級魔術師といっても禁忌魔法やらあれだけの準備をアイツ一人でしたとはとても考えられない。必ず協力者がいると思っていたよ」
「ああ、確かに言われてみればその通りかもね」
ソウマの言葉にシルヴィアが納得するような顔をする。今まで深く考えたことが無かったのか妙に神妙な顔になっている。
「多分ガラルドの邪神召喚にもなにかしら協力していたんじゃないのか?恐らくガラルドは当時の魔族協力者か何かだったんだろうさ」
『そこまで分かっていたか・・・・・・・・・・』
「お前もこれで完全に分かったんだろ?俺が誰なのか、もっとも俺はその呼び方があんまり好きじゃないんだがな」
『世界・・・・・・・最強・・・・・・・・』
ディザイアが絞り出すようにそう言葉を発した。




