27話 力を振るう
皆さんあけましておめでとうございます。今年も皆さんにとって良い一年でありますように~。僕も更新頑張ります。
いつかソウマがアイスに言ったことがある。
ーーシルヴィアはああ見えて俺よりも怒りの沸点が短いーー
アイスは最初それに疑いの眼差しを向けた。シルヴィアの普段の態度は落ち着いており物腰も柔らかで礼儀作法等も完璧でありそこいらの王族よりもよっぽど王族然とした様子を見せている。まさに王族級の吸血鬼と呼ぶにふさわしい存在である。それに加えて普段から暴走しがちなソウマの手綱を上手く握っているように見えるから余計にそう感じてしまう。
ーーまあそう感じるのも分かる。・・・・・・多少言いたいこともあるがな。シルヴィアは基本的に自分が身内と認めた者以外にはとことんまで冷酷になれる奴だ。しかも昔は小さい頃のシャルが怯えないように出来るだけそういう部分を抑えていたし俺が封印されている間も続けてたみたいだからあっちも素に近い形になってるから余計にそう見えるかもしれないなーー
言われれば確かにアイスにも思い当たることが無い事もない。旅の途中で出会ったゴロツキ連中がシルヴィアやシャルロットやアイスに無遠慮な視線を向けた時にシルヴィアは時折信じられないような殺意をその瞳に宿らせる時がある。
ーーシルヴィアは王族級の吸血鬼だ。あいつらの種族は竜族と同じく神族を除けばこの世界の生態系でも頂点近い位置にいる生物だ。王族級の吸血鬼の連中は基本的に自分以外の生物は格下の下等な生物としてしか見ていない。シルヴィアはそんな中でも少々特殊な例ではあるが俺と会ったばかりの頃はそういう部分も確かにあった。ようするに自分と同じ王族級の吸血鬼以外は例え同じ吸血鬼でもムシケラ程度にしか見ていないってことだーー
ソウマの言葉にアイスはとても信じられなかった。あのシルヴィアにそんな一面があることにである。シルヴィアの自分やシャルロットを見る時の目はいつも優しく慈愛に満ちている。その姿に今ではアイスもシルヴィアを形式だけでなく心の底から敬愛する姉として慕っている。そんなシルヴィアにソウマの言うような冷酷な一面があるなどと信じられなかった。
ーーそりゃあシルヴィアの奴も今では大分お前の事も気に入っているからな。シャル程じゃなくてもお前にも自分の奥底の本性を知られたくないんだろ。だがあいつはエテルニタ王国の城の連中や俺等以外の奴や自分が気に入った奴以外なら間違いなく躊躇なく殺すぞ?ーー
そう言われてアイスは困惑顔になる。出来ればそんなシルヴィアは見たくないという顔だ。
ーーそこでお前に俺から頼みがあるーー
するとソウマが少し神妙な顔つきでアイスを見る。
ーーもしシルヴィアの奴がそれでも我慢しきれなくなってお前達の前でそういう一面を見せる時が来た時には出来ればあいつをあまり怖がらないでやってくれないか?--
「え?」っとアイスは思わずソウマを見返してしまった。
ーーあいつは昔シャルの前でそれを一度見せたことがある。その時はシャルの御かげで事無きを得たんだがその前が大変だったんだ。恐らくお前に対してもそういう不安を持っているはずだ。言い換えればあいつにとってお前もそれだけの存在だってことだ。だからもしシルヴィアがお前の前でも・・・・・・・ーー
そう言おうとしたソウマの言葉をアイスは手で遮る。そうしてアイスはソウマに対して口を開いた。
※※※※
まず最初に犠牲になったのは一番最初に牢に入りシルヴィアに話しかけた男だった。
「な、何だ!?これは!?影が・・・・影が俺の足に絡みついてやがる!?」
男が叫ぶと牢の中に居る全員が異常に気付く。
「お、俺の足元にも影が!」
「この牢全体の足元に影が来ているぜ!」
最初に異変に気付いた男が異変の前のシルヴィアの態度の豹変にこの異変の原因がシルヴィアにあると思いシルヴィアに向き直る。
「テメエの仕業が!!!!!!??????」
しかしシルヴィアを問い詰めようとした男は突如自分の眼前が黒く覆われて言葉を続けられなかった。
「あがががががががっ」
男の体がそのまま空に浮く。シルヴィアが男の顔面を鷲掴みにして持ち上げたのだ。
「は?」
男達は一様に呆けたような声を出す。シルヴィアが持ち上げている男の体格は今いる男達の中でも大柄な方である。シルヴィアも女性にしては背の高い方ではあるがそれでも男の方がシルヴィアよりも頭一つ以上は大きい。それを見た目だけなら細身と言っても過言ではないシルヴィアがいとも簡単に片手でしかも顔を鷲掴みの状態で持ち上げているのである。傍から見ればまるで冗談のような光景であったことだろう。
「愚かなる下賤なる下等生物が・・・・・・・・吾の怒りを買ったことを死の牢獄という闇で悔いるがいい」
一人称が変わり纏う雰囲気もがらりと変化する。男達を見つめるその瞳はまるで感情が伺えず。シルヴィアの人ならざる美しさに一際人間味を取り払ったかのような無機質な美しさを称えている。そしてそれが一層男達の恐怖を加速させる。
「たたたた、タスッ」
グシャッ
男の命乞いの言葉も最後まで言い切ることは出来なかった。シルヴィアが男の言葉を最後まで聞く前に男の頭をまるで果物でも握り潰すかのようにあっさりと握り潰したからだ。
「ひっひっひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
我知らず男の一人が悲鳴を上げる。シルヴィアに頭を握り潰された男の体はシルヴィアが手を離すと同時に影の上に落下する。そして影に落ちた体は不気味な粗食音と共に徐々に影に飲まれていきやがて痕跡一つ残さず消え去った。
「やはり貴様等程度の血はいくら吸血種としての本能を表しても食指がまるで動かん。精々が吾の僕(影獣)の餌程度の価値しかないな」
そう言ってシルヴィアは次の獲物を見定めるように動けない男達に向き直る。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
次にシルヴィアは自分に一番近い位置にいた男の心臓に向かって抜き手を繰り出した。
「ぐはぁあっ!あ・・・・・・あぁぁぁぁぁぁ!」
シルヴィアが放った抜き手はそのまま男の背中まで突き抜けていとも容易く貫通する。そして突き抜けたシルヴィアの手には今だ脈打つ男の心臓が握られていた。男は首を回して視線を自らの抜き取られた心臓に目やる。そして絶望の表情で自らの心臓に手を伸ばそうとして力尽きる。男の体からシルヴィアの手が抜き取られ影に落ちると先ほどの男の体同様に影の中に喰われて消える。
「あぁぁぁぁ・・・・・・・・」
それを見た男達は逃げるのも忘れてその場にへたり込んでしまう。そこから始まったのは文字通りの虐殺だった。首が飛び足があらぬ方向へ曲がり体の一部が抜き取られる。ありとあらゆる殺害方法でシルヴィアは男達を狩り尽くす。男達は既に自らの助かる可能性を諦めたのか虚ろな表情で仲間が処刑されていくのを淡々と眺めている。
「・・・・・・・・・・・・・」
そして全ての男達の命は一人の吸血姫の手によって狩り尽くされた。この惨状を生み出した本人はただただ無表情で血の匂い充満する牢の中で佇んでいる。やがてゆっくりとシャルロットとアイスの方に顔を向ける。
「・・・・・・・・・・・・・」
二人はシルヴィアがこの惨状を生み出すのをただ無言で見守っていた。シャルロットは時折その凄惨な光景を目に出来ずアイスの胸に顔を埋めていたがそれでも二人はシルヴィアの行動を止めることはしなかった。
「あ・・・・・あははは・・・・・・・」
シルヴィアはそんな二人を見て気まずそうな笑顔を溢す。
「やっ・・・・・ちゃった・・・・・・みたいね・・・・・」
そして自責するような言葉を溢ぼす。
「あの・・・・・ごめ・・・・!」
そこで謝罪を口にしようとしたシルヴィアの言葉を遮るようにシャルロットがシルヴィアを抱き締める。
「シャ・・・・・ル・・・」
「ごめんねシルヴィア姉様。また私の・・・・・・私達の為にこんなことさせてしまって・・・・・」
そしてシルヴィアを抱き締めながら逆に謝罪の言葉をかける。
「私が小さな時にも一度シルヴィア姉様が私の前にあの姿を見せたことがあった。その時もシルヴィア姉様にすごく悲しい顔をさせちゃった・・・・・・」
「違うのよシャル・・・・・。あれが私の本来の姿・・・・・前にも言ったでしょう。私達王族級の吸血鬼のあれが本性よ。他の生物をなんの感情も無く殺戮できるただの殺人・・・・・・」
「それは違います、姉上」
すると今度はアイスがシルヴィアの言葉を遮る。
「私も以前師匠に王族級の吸血鬼についてはお聞きしました。それでも姉上は彼等とは違うと思います」
アイスはいつものように静かだがしかしはっきりと言い切る。
「アイス・・・・・」
「先程の姉上は自分の為ではなくシャルと私の為に自らの本性を晒しました。私の故郷の長老の一人が言っていました。力とは誰かの為に振るえる力こそ本当に強いのだと。それが善であれ悪であれ自分以外の為に振るわれる力に間違いなどないと・・・・・・私もそう思います。師匠も姉上も力を持つのにかかわらずその力を私やシャルや自分の大切と思う者達の為だけに振るっています。他の者から見れば確かに納得いかないことかもしれません。それでも私は師匠や姉上が間違っているとは思いません。姉上も私達の為に振るう自らの力を悔やまないでください恐れないでください。その力を私もシャルも決して恐れません」
静かに・・・・しかしとても力強くアイスは言葉をシルヴィアに投げかける。そしてシルヴィアの前にそっと近づきその手を取ろうとする。
「あっ・・・・・・・・」
シルヴィアは思わずその手を引っ込めようとする。現在のシルヴィアの手は血にまみれ爪もいつもより長く鋭くなりより一層凶悪に見えている。しかしアイスは全く躊躇うことなくシルヴィアの手を追って掴み取る。
「言ったはずです。私は姉上を恐れません。この手は私達の為に血にまみれた手です。感謝こそすれ恐れる理由にはなりません」
そう言ってアイスはシルヴィアは目を真っ直ぐ見つめる。シャルロットは言葉を発さずアイスの言葉に自らも同意するようにシルヴィアを抱き締める両腕の力を強める。シルヴィアはしばらく自らを真摯に見つめるアイスと必死に自分を抱き締めるシャルロットに戸惑っていたがやがて小さく笑うとアイスに握られている方の手とは逆の方の手を血を影で拭き取るとシャルロットの頭に置いて優しく撫でる。そして視線はアイスを優しく見つめる。
「ありがとう・・・・・・・アイス・・・・シャル」
そう言ってシルヴィアはアイスをそのまま抱き寄せシャルロットと一緒に抱きしめた。
※※※※
一方ソウマは・・・・・・・・。
「王子?この国の?この国王子様が何でこんな城の牢なんかで鎖に繋がれてるんだ?」
ソウマが入れられている牢から少し離れた位置にある牢から男がソウマに話しかけてきた。どうやらこの国王子らしくソウマは怪訝な顔をしながら疑問を返す。
「私は・・・・・・この国が魔族に協力して人族を裏切っている・・・・・・それがどうしても許せず父上に直接直談判したのだ。そうしたらこの有様さ」
「そりゃ無理だろうな。この国はあんたの父親の国王だけじゃない。国の重鎮軒並みグルだからな。お前さん一人が何か言った所でそうなるのは目に見えているだろさ」
ソウマは半ば呆れるような感じで王子の行いを断じる。しかしその顔は若干笑っており言葉とは裏腹に王子の行動を悪く思っていないようだった。
「私には我慢ができなかったんだ・・・・・・」
しかし王子はソウマのそんな仕草にも気付かず悲痛そうな声音で話を続ける。
「たとえ生き残るためとはいえ誇りを捨てでまで生き延びようとする父上や重臣達のやり方がどうしても認められなかった」
「しかしあの王様やひいてやこの国は魔族からの侵略行為にほとんど晒されずにこれたことは事実だろう?」
ソウマは王子の言葉に試す様に言葉を投げかける。
「確かに生きる為だけならば誇りを捨てることも已むおえない時もあるだろう。しかしそれはあくまでも別
の誇りを護る為の行為だ。それは先祖の誇り子孫の誇りだ。誇りを無くした国や一族はいずれ滅びる。たとえ一時の生を得たとしてもそれは本当に一時だけだ。誇りを本当に無くした者に次に繋げるべき誇りすら消失する。このままでは遅くともいずれこの国は亡びるのだ」
王子は痛ましそうに言葉を紡ぐ。そこには誇りを無くした父親や重臣達に対する怒りよりも悲しみの感情の方が勝っているような感情が言葉には込められていた。
「こうなる予兆みたいなものはあったのか?」
「数年前に異世界から勇者を呼び出した後しばらくしてから・・・・・・・・。魔族を何度か撃退してこの国も勇者の力を国民の誰もが認め安堵し始めていた時にそれは起こった・・・・・・・」
「・・・・・・・・何があった?」
「勇者が・・・・・・・・・・・・・敗れたのだ」
王子は静かに告げた。
「勇者が負けた?しかし本当に負けたのなら各国がもう少し騒ぐんじゃないか?勇者は恐らく各国の戦力の要のはずだ。それが負けたとなれば別の国の事とはいえ各国も穏やかじゃないだろ」
「負けたのは公の場ではない。王城の中で起こった出来事なのだ」
「王城の中?なんでまたそんな所まで侵入を許したんだ」
ソウマの問いに王子はため息を付いた。恐らくは首を振っているのだろうその声は今でも疑問を感じているようだった。
「わからない。奴は突然城の中に出現したのだ。城の魔術師が張る侵入発見用の結界も巡回中の兵士の誰一人気付かれることなくそいつは突然城の広間に表れたのだ」
「(まさか・・・・・・転移魔法?)」
「まさに一瞬の出来事だった。侵入してきた奴を勇者のカイトが立ち向かったのだがあっという間に倒されてしまった。まるで今までの魔族の侵攻は遊びでしかなかったかのようにそれは圧倒的な実力差だった。我々の抵抗など無意味だという様に奴は我々を殺さず弄ぶように蹂躙した。半時もすれば城の殆どの者の心は折れ城は一晩せぬうちに陥落した・・・・・・・・」
王子は悔しそうに嘆く。
「城に侵入してきたのは何者だ?」
「それも分からない。ただ凄まじい強さの魔族だった。今まで見てきた他の魔族とはまるで次元の違う実力と存在感・・・・・・・・まるで魔王のように・・・・・」
「勇者は・・・・・・・・死んだのか?」
ソウマは確認するように問う。
「それは・・・・・・・・・」
「貴様等ぁ!何を話してる!」
ソウマの質問に王子が答えようとした時、見張り役の兵士がソウマ達の話を遮ってくる。さすがにこれ以上の会話は無理と判断したのか王子の方は会話をやめて黙ってしまった。ソウマもそれを察して牢の固い石畳の床に寝っ転がる。
「(さて・・・・・・・どうするかなぁ)」
そしてソウマはこれからの行動を考える。
「(ここで下手に暴れても黒幕が出てこなけりゃなんの解決にもならねえ。どう考えてもこの国の奴はただ命令されてるだけで恐らく魔族側の命令系統をなにも把握してねえ。王や重臣連中締め上げても恐らく何も聞き出せないだろうな。それに勇者を倒したっていうかなり強い魔族も気になるし・・・・・・・・)」
ソウマが思案を巡らせていると自身の意識の端で感じ取っていたシルヴィアの気配が突如変化する。それは以前にも何度か感じたことのあるモノだった。一つは自分が初めてシルヴィアと会った時、一つは以前にシャルロットが関わった事件が起きた時、つまりシルヴィアを己の本性を晒したという事だ。
「(どこかの馬鹿がシルヴィアを本気で怒らしたようだな)」
ソウマは起き上がりシルヴィアの周りの気配をより詳しく探ろうとする。
「(シルヴィアとシャルとアイス以外にも複数の気配があるな。ん?突然一つ消えた。どうやらシルヴィアが殺したようだな。ということはこの複数の気配の集団がシルヴィアを怒らせるなにかしらをやったらしいな・・・・・・・まあ大体想像はできるがな)」
そしてシルヴィアの周りにいる気配がシルヴィアとシャルロットとアイス以外の気配が全て消えたことを確認したソウマは考える。
「(こうなったからにはもうあんまりここに大人しくしている意味はないな。遠からずシルヴィア達の方も騒ぎになるかその前に牢を脱出するだろうなぁ・・・・・・)」
少し考えてソウマは王子が入っている牢の方に目をやる。
「おい、あんた・・・・・」
そして静かにその牢に向かって話しかける。
「・・・・・・・・・・・・・なんだい?」
しばらくしてから王子の方からも静かに返事が返る。
「仮に俺がこの牢を自力で脱出できてアンタもついでにその鎖を千切って助け出せるとしたらどうする?」
「・・・・・・・・仮にお前にそれが本当に出来るとして私に何をさせたい?」
「仮にアンタがこの牢から出れたとして王や重臣連中や魔族をどうにかできればこの国を何とかできるか?」
「仮に私がそれを出来ると答えたとしてお前にそれが可能なのか?」
問い掛けの押収が続く。
「仮に俺が出来ると答えた場合お前はここを出るかい?」
「仮に私が出ると今答えれば出してくれるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
しばし沈黙が続く。
「・・・・・・・ははっ」
「・・・・・・・ふふっ」
そうしてどちらともなく笑う。
「いいだろうもし本当にお前にそれが出来るのなら私がこの国の失われた誇りを取り戻して見せる。どうせ既に私はこのまま牢に繋がれいずれ朽ち果てる定めだ。ならばこの命お前に賭けてみるのも面白い」
王子はそう言って可笑しそうに笑う。
「了承した。アンタのその賭け、絶対に負ける勝負にはさせねえよ」
ソウマもそれに応えるように獰猛に笑う。先に王達に言った言葉だがソウマ自身あまり誇りや矜持を重んじる質ではない。それでも決してそういう類の人種が嫌いという訳ではないのである。いやむしろ好きの部類に入るかもしれないとソウマ自身考えている。先程の王子との会話でソウマはこの王子には父親の王には無い王族としての誇りがしっかりと備わっていると感じていた。
「それじゃあ早速この辛気臭え牢屋から出るとしますかね」
そして先程考えていたこの件を裏から糸を引いている魔族のこととか勇者を倒した魔族の事はとりあえず置いて置くことにした。
※※※※
ソウマの予想通りシルヴィア達はあの後すぐに牢を出た。現在は城の中を歩きながらある目的の為に歩いていた
「ソウマの所に行かなくていいのかな?」
「今の所ソウマの気配は動いていないけど私達の気配が動けばソウマのそのうち牢から出るでしょ。それよりも先に没収されたアイスの剣を取り返すことにしましょう」
「私の剣ならどこにあろうと精霊が教えてくれます」
そう言いながらアイスは自らの顔の横にふよふよと浮かんでいる小さな雪達磨を見る。物に宿る精霊は本来宿っている物体からあまり遠く離れることはできないが自身の契約者や所有者がいる場合はその者の周りにだけは現れることが出来る。但しその場合はほとんどの力を行使できない状態ではある。それでも自身の本体である物の場所を教えるくらいは造作もない。
「それにしても本当に見えてないんだね」
シャルロットが感心したように自身の周りを見る。今現在三人の周りは黒くて薄いカーテンのような膜が覆っており三人が移動するのに合わせて膜も移動している。どうやら膜の正体はシルヴィアの影のようでシルヴィアの足元の影から薄く引き伸ばしたように広がり三人を覆っている。
「確かにこれは便利です」
アイスも感心するようにシルヴィアの影のカーテンを見ている。城の中は少なくない数の兵士が巡回している。しかしその兵士達の誰一人としてシルヴィア達三人に気付く者は居ない。まるで最初から見えていないかのように素通りしていく。
「これの効果は隠蔽用の魔術と同じものなのですか?」
「違うわよ。隠蔽様の魔術は対象の認識を外す効果があるものなのは知っているでしょう?」
「はい。実際は視界に納めていてもそれを認識することが出来なくする魔術ですよね」
「そう、実際に消えている訳ではないから結界にも反応してしまうし気配感知が鋭い者には簡単に見敗れられてしまうのよ。まあラルクは気配も匂いも音も結界にする反応しないような隠蔽魔術を使うけど・・・・・まあそれはいいはね。対して私のこの影の隠蔽は光の屈折を利用して隠れているの」
「光の屈折?」
「私達の周辺に当たる光の角度や光量をこの影の膜で調節して他の者に目には私達がここには居ないという映像が見えているのよ。しかも魔術じゃないから魔術感知の魔術に引っかからないしこの膜が匂いも体温も隠してくれるからね。音も遮断するからこの中で会話しても全然問題もないし」
「これがあればどんな所でも侵入し放題ですね」
アイスがシルヴィアの言葉に更に感心したように言葉を出す。
「まあね。それでもこれの発動中は私何も出来ないのよね。しかもこれ中に居る者以外の生き物がこの膜に触れると解除されちゃうのよね。しかもこれ内側からもすごく壊れやすいから中から攻撃しようとしても不意打ちする前に解除されちゃうの。だからコレ本当に隠れるだけにしか使えないのよ」
シルヴィアは自虐するように自分の出している影の膜を指差す。
「それでも十分凄いですよ。これがあれば無駄な争いをせずに城内を散策できます」
「まあそうなんだけれどね」
「うんうん」
アイスの言葉にシルヴィアもシャルロットも同意する。いかにシルヴィアがたった一人でこの城を容易く制圧できる実力があろうと無駄に争いをしたいわけではない。
「まだ今の所この事件の黒幕も分からない状況で下手に暴れまわるのもあまり得策じゃあないしね」
そう言いながら城内を精霊に案内されるまま移動していた時城内がにわかに騒がしくなってきていることに気付いた。兵士達はなにやら焦った様子で同じ方向に向かって急いでいる。
「何かあったのかな?」
その様子を見てシャルロットは不思議そうに急がしそうに動く兵士達を見ている。
「どうやら城内で何かしらの事案が発生したようですね」
アイスが周りの兵士の様子から冷静に状況を推理する。そうして耳を澄まして廊下を行く兵士達の会話を聞いてみる。
「何があったんだ!」
「なんでも今日地下牢に居れた王国転覆容疑の男がもう一人の牢に閉じ込めていた男と一緒に脱獄したそうだ」
「男の一人は素手らしいが恐ろしく腕が立つらしいから気を付けろ!何でも牢屋の鉄格子もそうだが剣や槍をまるで飴みたいに素手でひん曲げるらしいぞ」
「な!そいつ人間かよ!オーガかなんかじゃないのか!?」
「とにかく集まれる巡回中の兵士達は全員来い!なんとしてもその男を取り押さえるんだ!」
そう言いながら兵士達は走って行ってしまう。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
三人は影の中でしばし視線を合わせて押し黙る。
「どうやら私達の心配も無駄だったみたいね」
「さすがソウマだね♪」
「何となく予測は出来ていました」
シルヴィアは苦笑しながらシャルロットは何故か嬉しそうにアイスは若干の呆れを含んだ笑いをそれぞれ浮かべる。そしてシルヴィアは右手を振って影の膜を解除する。既に周辺には兵士の姿は見当たらない。どうやらほとんどの兵がソウマの方に向かって行ったようだ。
「これなら別にわざわざ姿を隠さなくても大丈夫ね。ソウマの方は放っておいても絶対に大丈夫でしょうから私達は当初の目的通りアイスの剣の回収を先にしてしまいましょう」
「は~い」
「了解です」
そうしてシルヴィア達は精霊に先行させて急ぎアイスの剣がある所に向かった。
※※※※
ソウマは現在城の廊下を文字通り練り歩いていた。
「王様が居る部屋ってどこ?」
ソウマは目の前の剣を構えて斬りかかってくる兵士の剣を素手で受け止めて軽く放り投げると自分の後ろに王子へと話しかける。
「・・・・・・・・・そこの廊下を右に曲がると直線になるから突き当たってもう一度右だよ」
王子は何とも言えない顔でソウマの質問に答える。
「どうしたよ?」
その表情を見たソウマは訝しんで王子に聞き返す。
「呆れていたのだよ。君のあまりの馬鹿げた強さにね。それだけの実力があれば確かに私にあんな話を持ち掛けることもできる。君は一体何者だ?君程の実力者ならば各国に名前が売れていてもおかしくはないと思うのだが・・・・・・」
「いや~実は世の中に出てきたのは実は相当久しぶりなもんでね」
「?」
ソウマはそう言いながら今度は槍を構えて突っ込んでくる兵士の槍の先端部分を指二本で受け止めるとその指二本で摘まんだまま兵士ごと槍を持ち上げて放り投げる。そうして向かってくる兵士を文字通り千切っては投げ千切っては投げを繰り返し無人の野を行くが如く突き進んでいった。
「ここかね」
そしてあっという間に目的の部屋まで辿りつく。ソウマと王子の後ろには夥しい数の兵士達が倒れている。呻いている者や白目を剥いて気絶している者はいるが死んでいる者は一人もいない。これだけの人数を相手にしながら死者を一人も出さずに制圧する。よほどの実力とそしていかにソウマが手加減していたかがありありと分かり王子は完全に言葉を失ってしまう。己の目の前でたった一人に城が制圧されるという光景を再び見せられたのだ。しかも今回は相手はどうみても普通の人族である。ある意味その驚愕具合は前以上である。
「おっ邪魔~」
そしてソウマは目の前の扉をなんの遠慮も無く蹴り開ける。
「な、何事だ!」
部屋の中では既に外の騒ぎを聞きつけて起きていたのか王が焦りを浮かべながらそこに居た。そうしてソウマの顔とその後ろにいる人物を目にして更に驚愕の表情に変わる。
「き、貴様!どうやって牢から!?そしてどうしてカウルスまで貴様と一緒にいるのだ!?」
王子・・・・・カウルスはソウマの後ろから前に進み出て毅然とした態度で自らの父親を見つめる。
「父上・・・・・・この国に誇りを取り戻す時がまいりました」
「何だと!?」
今度はソウマがカウルスの前に出る。そうして不敵な笑みを浮かべている。
「わかんねえか?」
「な、何!?」
「お仕置きの時間だよ駄目親父」
自らの両手の骨を鳴らしながらソウマは実に楽しそうに答えた。
今年も相変わらず更新は不定期です。すいません




