26話 濡れ衣と陰謀
「それは本当の話なの?」
兵士達から聞かされた言葉が信じられずにシルヴィアは思わず聞き返してしまう。
「そうです。私達に王国転覆の容疑とは一体なにを根拠に行っているのですか?」
「私達この国に来たばかりなんだよ」
アイスとシャルロットも自分達に掛けられた在らぬ疑いに思わず不満をあらわにして言い返す。
「我々も詳しい事は聞かされていない。しかし確かな証拠が上の方々に報告されたらしい。我々が受けた命令は王国転覆を企む貴様等を問答無用で拘束しろという命令だけだ」
「それを私達が素直に従うと思いますか?」
そう言ってアイスが自らの腰にある剣の柄に手を掛ける。
「わ、我々には貴様等が万が一抵抗した場合に武器の使用もきょ、許可されている!」
それを見た周りの兵士達が一斉に自分達の武器を構える。周りの住人もアイスや兵士達の放つ剣呑な雰囲気を察していつのまにか距離を取り遠巻きに眺めている。
「やめなさいアイス」
しかしそれをシルヴィアが静かな声で止める。その声は静かなものだったが不思議とアイスだけでなく周りの兵士達の敵意も霧散させていた。
「姉上・・・・・・」
「ここで争うのは私達も本意ではありません。抵抗はしませんからおとなしく王城までかしら?連行願えますか?」
そう言ってシルヴィアは抵抗の意が無い事を示す為に自らの両腕を兵士の前に差し出す。
「・・・・・・・・・・」
そのシルヴィアを見てアイスも大人しく剣から手を離して自らも両手を差し出す。シャルロットも二人にならい両手を差し出している。
「よし。連行しろ!このまま城まで連れていく」
それを確認した兵士達は警戒をしつつも隊長と思しき一人の兵士が部下に命令して三人の手を持っていたロープで縛る。
「姉上、どういうつもりですか?これは明らかに何者かの罠です。ここで大人しく捕まるのは得策ではありません」
アイスが小声でシルヴィアに訊ねる。
「彼等が私達を拘束に来たという事は恐らくは城にいるソウマは既に大人しく捕まっているでしょう」
「そうなのですか?」
「ソウマが抵抗しているのなら彼等が私達の所に捕まえに来るなんて悠長なことをしている訳がないからね。私達の所に兵士が来たという事はソウマを拘束したから残りの仲間である私達を捕まえに来たのでしょう」
「何故師匠は大人しく捕まったのでしょうか?」
「恐らく捕まって相手の出方を伺うつもりなのでしょうね。後ソウマのことだから相手の策に嵌まった後で内側から台無しにする方が面白いとか考えてるんでしょうね」
「師匠なら考えそうです・・・・・・・」
「おいっ貴様等!なにをこそこそ話している。黙って歩け!」
それっきり二人は会話も無く大人しく連行されていった。
※※※※
シルヴィア達三人が連れていかれた城は城というよりもまるで要塞のような様相を呈しており、城の外壁は全てが石造りの壁ではなく所々が鉄で補強されている。
「お前らは一先ず城の地下牢に入ってもらう。その後尋問があるから居って待て!」
そうしてシルヴィア達は王城の地下牢に連れていかれた。地下牢は暗くジメジメしておりとても衛生環境が良好とは言えないような有様であった。
「ちょっと!こんな所に女性を押し込もうっての!」
「暗い~ジメジメしてるう~」
そんな地下牢を見たシルヴィアとシャルロットが兵士に文句を言う。
「文句を言うな!大人しく入っていろ!」
そう言って兵士は去って行った。
「よう、お前等も来たのか」
するとシルヴィア達に地下牢の雰囲気とは場違いな程陽気な声が掛けられる。
「やっぱりここに居たのね」
「あっソウマ!」
「師匠!」
シルヴィア達が自分達の廊下を挟んだ向こう側の牢屋を見る。そこには簡素な草の床に寝っ転がりながら余裕を見せるソウマの姿があった。
「一体ソウマが城に行った後何があったの?」
シルヴィアがソウマに自分達が知らない所で起こった事を尋ねる。
「どうもこうも朝に城に行って武器を店に行って名前を登録したら兵士の野郎が俺の名前を確認した途端に俺を拘束しやがったんだよ」
「よくソウマが大人しく捕まったわね?」
「敵の思惑が良く分からなかったからな。取りあえず捕まってみることにしたんだよ」
「魔族絡みかしらね?」
「早速アグアラグでの一軒の報復といった所でしょうか?」
「でも魔族の人達にソウマや私達の名前って知られてるの?」
「それもそうだ。俺等アグアラグじゃ楓以外に名乗ったっけ?」
「一応アグアラグで王様から褒美を貰う時に名乗ったからそれが噂で流れたんじゃないかしら?魔族も馬鹿じゃないなら各国に間者なり内通者なりを持っているでしょうよ」
「んで俺等を標的にした訳か?なんだか少し出来すぎているような気がするな」
「それに魔族が絡んでいるにしても王国転覆の容疑をかけるなんて回りくどいやり方をするなんてどういうつもりかしら?王国側にも工作行為をするにしても・・・・・・・・・」
そこでシルヴィアはある考えが頭を過った。
「まさか・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「え?」
どうやらアイスやソウマもシルヴィアと同じ考えに行き付いたようだ。シャルロットだけは考えに付いていけていない感がある。
「王国側も絡んでいる・・・・・・?」
そうシルヴィアは考えを口にする。
「考えたくはありませんがそうすれば一応納得はできます。王国転覆の証拠も根拠も無い濡れ衣だったとしても王国側そのものが濡れ衣を着せる側なら関係ありません」
「お城の人達が魔族の人達に協力しているの?」
「城の全員って訳じゃないだろうが上層部・・・・・・王自身が絡んでいるかは分からないが確実にそれに近い地位の人間は絡んでいるな」
「魔族に操られているとか?」
「考えられない事じゃない。精神支配系は禁忌系の魔術・魔法だがアグアラグで見た通り魔族の連中は禁忌魔法も平気で使ってきやがる。使っていないと考えるのは安易だろうな」
「しかしそうした場合この国の勇者は何をしているのでしょうか?この国には【拳】の勇者が居るはずです」
「勇者も操られているとか?」
「それか最悪既に殺されている可能性もあるわね」
「勇者がそう簡単に殺されるとは思えませんが・・・・・・・・」
「正直悪いが楓の実力が勇者の基準で考えると精神操作で簡単に操れるな」
ソウマがあっさりとアイスの考えを否定するように言い切る。
「精神操作系の術を破るには対象がよほど強靭な精神を持つかかなり高い魔術抵抗力を持たないといけないからな。仮に勇者君がそれだけのモノを持っているとしても勇者がこの現状を放置しているとも思えない。だったらやっぱり操られているか殺されているかだな」
「そう言えば前にラルクからアイアンガイスについて良くない噂を聞いたわね」
シルヴィアがふと思いついたように言う。
「良くない噂?」
「魔族との戦争が始まってからアイアンガイスは武器の輸出数を急激に増大させた。それを各国に供給していたのだけれどラルクの調べによると明らかに各国に輸出される量とアイアンガイス国内で生産される量に食い違いが生じているらしいの。確かにアイアンガイスで生産される武器は間違いなく他の国に輸出されているけれどそれ以上の数生産された武器も何処かに行っているの」
「なるほどね・・・・・・・」
「更に言うなら最近魔族側の兵士の装備している鎧や武器が皆アイアンガイス製に酷似したものを装備していたそうよ。その数は明らかに戦場で強奪されたもの以上の数が確認されているらしいってラルクが言っていたわ」
「それを各国は何も言わないのですか?」
「他の国の人がそれを知ったら怒るんじゃない?」
アイスとシャルロットがシルヴィアの話に疑問をぶつける。
「当然各国も疑問に感じているらしいけど下手に突いてアイアンガイスから武具の供給が無くなるのは避けたいんでしょうね。それか若しくは自分達も意外と後ろ暗い所があるからかもしれないわね」
「なんにしても憶測や推測でものを言ってもしょうがない。ここで待っていれば勝手に進展するだろうさ」
「それもそうね」
そう言ってソウマは目をつむってしまう。シルヴィアもそれに倣う様に壁に寄りかかって座り込む。そして自分の膝を数回叩く。
「いらっしゃい、シャル」
そうしてシャルロットを呼ぶ。
「うん♪」
呼ばれたシャルロットは嬉しそうにシルヴィアの膝を枕にして寝っ転がる。いつの間にかシルヴィアのドレスの裾の部分が拡がりシャルロットの下に敷かれている。
「暢気な人達ですね・・・・・・・・」
アイスはそんな三人を見て呆れたような溜息を付いている。流石にこの三人の空気に慣れてきたとはいえここまで三人程暢気な性格にはなれないようだ。
※※※※
「出ろ!」
それからしばらくしてソウマ達の居る地下牢に兵士が降りてくる。どうやらソウマ達を尋問する為の準備なりなんなりが整ったようだ。
「やれやれようやくこんな辛気臭い所から出してくれるのか」
ソウマは大きな欠伸をしながら草のベッドから起き上がる。シルヴィアもすやすやと寝息をついていたシャルロットを優しく起こす。起こされたシャルロットも可愛らしく欠伸をして起き上がる。
「行くぞ!」
そうしてソウマ達は縄で再び縛られて牢から出される。
「私の剣はちゃんと返して頂けるのでしょうね?」
アイスがここに来る途中に没収された自らの愛剣の安否を確認する。
「うるさい!そんな事をお前が気にする必要は無い。本当に貴様等の疑いが晴れれば返してやるさ」
兵士はアイスの言葉に乱暴な言葉で返す。そうしてソウマ達を牢から引っ張るように出す。
「へっへへへへへ」
「ふへっへへへ」
ソウマ達が地下牢から上がる階段を上がる時に地下牢の監視兵の男二人がシルヴィア・シャルロット・アイスの三人に下卑た視線を向ける。それと同時に聞く者が実に不愉快になるような笑い声も出していた。
「・・・・・・・・・」
ソウマ達はそれに気付いてない振りをして階段を上がっていく。
そうしてソウマ達が案内されたのは王との謁見に使われる大広間だった。
「何だ?王様が直接俺達に尋問するのかよ。てっきり一人ひとり小部屋かどっかで尋問するのかと思ってたぜ」
「黙って入れ!」
兵士の一人が大広間の門番の兵士と一言二言会話した後大広間に続く大扉がゆっくりと開かれた。開かれた先の広間には階段の上の中央の玉座に座る人物の左右を陣取るように十数人が控えている。中央の玉座に座るのが王で間違いないだろう。そして恐らく王の左右に控える者達がこの国の重鎮達だろう。
「王国転覆容疑の参考人ソウマ・カムイ以下その仲間三名を連行しました!」
「うむ、ご苦労」
「はっ」
兵士が中央の王に向けて報告する。王がそれに応えると兵士は一礼して退室していった。そうして王は縄で縛られたままのソウマ達に視線を向ける。
「貴様等がアグアラグ王国で魔族の企みを阻んだソウマ・カムイ一行か・・・・・」
「そうだが?」
ソウマは王の質問に縄で縛られながらも不敵な笑みを浮かべて答える。
「貴様!無礼であろうが!」
重臣の一人と思しき一人がソウマの不遜な態度に声を荒げる。
「なんだよ?俺はここの王様の臣下じゃねえよ」
「貴様ぁ!」
「よい、下がれ」
ソウマのなおも崩れぬ不遜な態度に更に激昂しそうになった臣下を王が諫める。言われた臣下の男は納得がいっていないように渋々押し黙る。
「それで俺達に王国転覆の容疑とは一体どういうことなんだ?俺達はただ城に剣を持ってきただけなんだがな」
ソウマがそんなやり取りに構わず王に向かって質問をぶつける。
「その疑問に既に貴様等は答えを出しているのではないかな?」
「なんだと?」
「貴様等の存在を魔族の者が疎ましく思ったのだよ」
「!」
ソウマは王の答えに思わず目を見開いて驚愕する。
「(王国の一部・・・・・王様かそれに近しい者が魔族と内通していることは想定していたが・・・・・)」
ソウマは周りに視線を巡らす。王の周りの者達も先ほどまでソウマの態度に対して憤っていたのに今はソウマの驚く顔に満足したのか邪悪な笑みを浮かべている。
「(まさか王を含めた国の重鎮連中が軒並み魔族と内通しているとはな・・・・・・・)」
ソウマ達の予想以上に国の内部まで食い込んでいる魔族の影響にソウマは内心で驚いていた。そして同時に魔族と人族の戦争の力関係がどちらに傾きつつあるのかを察した。
「それで魔族の連中に頼まれて俺達を始末するってわけか?」
「そういうことだ」
ソウマの言葉に王は無機質な眼をソウマに向けたまま答える。
「魔族に協力する報酬は戦争後の自国の安寧って所かな?」
「貴様には関係ない事だ。それはそうと・・・・・・」
王は次にソウマの後ろに居るシルヴィア達に目を向ける。そして顎を使って傍で控えている兵士に命令する。それを察した兵士はシルヴィアの元まで向かう。
「王の前で顔を隠すとは不遜であるぞ!」
そう言ってシルヴィアの顔のヴェール剥ぎ取る。
「ほお・・・・・」
「なんと・・・・」
「これは・・・!」
シルヴィアの素顔を見た王や周りの重臣達は口々に驚きの声を上げる。そのあまりの美しさに彼等は呆けたような言葉を吐くのみだった。彼等とて国の重鎮として各国で様々な美女・美姫を見てきたがそれらがまるで比較にならないほどの美しさをシルヴィアは持っていた。
「これは・・・・・・またなんとも美しい女が居たものだ・・・・・・・・」
いち早く正気を取り戻した王が何とかそれだけの言葉を絞り出す。
「そして他の女もそれに劣ろうとも皆美しい・・・・・・」
そうしてシャルロットやアイスにも視線をやる。ちなみにシャルロットは容姿を変えており現在は髪も瞳も茶色に変わっている。
「どうだ?貴様等全員余の妾にならぬか?望む物は全て与えてやるぞ?」
そうしてそんな要求をしてきた。
「生憎と体を許していい相手は既に決めているのよ。勿論御免被るわね」
「べーーーーだ」
「貴方のような恥晒しな者に体を許す気など毛頭ありません」
シルヴィア・シャルロット・アイスはそれに即座に答えを返す。三人は既に王達に嫌悪感しかない瞳を向けている。
「貴方達は心が痛まないの?他の国では魔族との戦いで沢山人が死んでいるんだよ?それでも貴方達は国を預かる立場の人達なの?」
シャルロットは先程とは違い悲しそうな瞳で王達を見る。それは自らも王族として同じ人の上に立つ者として何故こんなことをするのか?という疑問と悲しみが現れていた。
「だがその御かげで我が国は魔族からの侵攻に晒されずにすんでいる。他国の者は確かに死ぬかもしれんが我が国の民の安全は少なくとも保障される」
「それは一時の安全だよ。それにそれを知らずに過ごす街の人達の中にも魔族との争うに巻き込まれて死んでいる人も居るんだよ」
シャルロットの言うとおりこの国も魔族の侵攻が全くないわけでない。彼等と魔族の関係を見れば恐らくは各国に対する目暗ましの意味を含めたただの真似事なのだろうがそれで死んでいる者も確かにいるのだ。
「その者達は気の毒と言うほかないがそれでも大事の前の小事だ。魔族に対する武具の供給と数人の生贄で我が国の安全が保障されるなら安いものだ」
「その結果人族全体を裏切ることになっても・・・・・か?」
「そうだ」
ソウマの言葉に王は何の躊躇も無く答える。その答えにソウマは溜息を吐く。
「賭けてもいいが・・・・・。魔族の連中は戦争に勝利したら確実にこの国も亡ぼすぞ」
「その根拠はあるのか?」
ソウマの言葉に王ではなく重臣の一人が尋ねる。
「アグアラグ王国で俺は魔族の将軍の一人と会ったがな・・・・・・・・あれは資源を求めての戦争の仕方じゃない。相手を完全に滅亡させる為の戦争の仕方だ。恐らく相手の魔王の目的は人族の侵略では無く滅亡だぜ」
ソウマの言葉に重臣一同は動揺したようにざわつく。
「狼狽えるな!」
それを王様が一喝して治める。
「貴様の言う事が真実だとしても我々には選択肢はない。魔族は強大だ。我々はこの数年の戦いでそれを十分に痛感したのだ。人族は負けるだろう。それならばいっそ少しでも長く生きられる方法を取るのが正解であろう」
「誇りや矜持を捨ててでもか?」
「・・・・・・そうだ」
王はソウマの言葉にしばし押し黙った後に肯定する。それにソウマはふっと一度小さく笑う。
「いや、分かった。まあ責めはしねえよ。俺もつい誇りや矜持なんて口に出しちまったが俺自身あまりそういうのを重んじる派じゃないからな。もちろんそういう奴は俺は結構好きだけど俺自身がそういうのをあまり人に押し付ける気はないからな。むしろカッコ悪くても無様でも生き残れってのが俺の信条でもあるしな」
「ほう、では貴様も我らと同じ同類という事ではないかな?」
「冗談だろ?お前等のは無様なの通り越して憐れみすら沸いてくるよ。俺は誇りも矜持も目的の為に捨てる覚悟がある。覚悟とは信念だ。信念がある奴はたとえ泥水を啜ろうとも汚れない。だがなアンタたちは誇りや矜持どころか覚悟も信念もない。ゴミ以下だよ。そこらの動物にも生存を勝ち取る為の覚悟や信念を持ってる。お前等のは生き残るだけだ。その先に続くものがまるで感じられない。お前らに感じるのはそこ等の虫けら以下の感情しか沸いてこないね」
ソウマは自身の感じる感情を微塵も隠そうともせずに言葉にする。これには王達は思わず激昂する。
「貴様~~~~!!」
「身の程知らずが!」
「自分の立場が分かっているのか!」
口々にソウマに罵声を浴びせる。それを見ながらアイスとシルヴィアとシャルロットはお互いにしか聞こえない程の会話をする。
「師匠はもしかしてわざと彼等は怒らせようとしているのですか?」
「そうでしょうね?」
「なんでかな?」
「多分わざと相手の反応を見ているのでしょうね。ソウマは自分の言葉の反応の仕方で魔族に対してまだ心が折れていないかどうか確認したんでしょうね。折れていなければまだ立ち直る余地がある。でも完全に心が折れていればここで魔族を排除しても何度でも同じことをするでしょうね」
「もうよい。魔族に逆らったというからどれほどの男かと思ったが自らの立場すら自覚できぬほど愚かな者であったとは拍子抜けだな」
「そりゃこっちの言葉だな。俺の知る王族や国に関わる連中は皆それなりの信念や覚悟を持っていた。この国の奴らもそれなりだと思っていたのに期待外れも良い所だね」
王の明らかな侮蔑の言葉にソウマも負けじと皮肉を口にする。
「口の減らぬ・・・・・・」
王はそんなソウマに苦々しい顔を向ける。
「もうよい!男は後日即刻処刑とする。女共は再び地下牢に閉じ込めておけ。その間の処遇は見張の兵に任せることにする」
そしてソウマ達に処罰を言い渡す。その時シルヴィア達の処遇を言い渡す時に実に嫌な笑顔を浮かべてソウマ達を見やる。それと同時に周りにいた護衛の兵士や王の横に控える重臣たち下卑た視線をシャルロットやアイスに向けている。
「・・・・・・・・・」
その視線や笑いにアイスはハッキリとした嫌悪感をシルヴィアは感情の読めない眼をしている。
「最後にもう一つ・・・・」
去り際にソウマが振り返って王に訊ねる。
「・・・・・・何だ?」
「この国にも勇者が居るんだろ?何処にいるんだ?まさか勇者まで魔族に協力しているのか?」
ソウマの質問に王は不敵な笑いを漏らした。
「これから死ぬ貴様が知っても詮無い事よ」
そう言ってまともに答えようとはしなかった。
「・・・・・・・・そうかよ」
ソウマもそれ以上聞こうとはせずに兵士に大人しく連れていかれた。
※※※※
その後ソウマ達は先程入れられていた地下牢とは別の場所に連れていかれ。しかもシルヴィア・シャルロット・アイスの三人はソウマとは別の場所に連れていかれた。
ソウマは再び押し込められた地下牢で通信用の紙片を取り出す。それを自分の額に張って念を込める。こうするとわざわざ声に出さずとも紙片を持っている者同士で念話を行うことができる。但し普通に会話するよりも魔力を消費するがソウマ達は全員普通以上の魔力量を持つのであまり関係ない。
「(思った以上にこの国駄目だったな・・・・・・)」
そうしてソウマは別の場所に連れていかれたシルヴィア達に念話を飛ばす。
「(まさか王以下ほとんどの重臣が魔族と共謀していたとは思わなかったわね。この国も手遅れかもしれない)」
「(私は正直少し失望しました。王族や国に携わる者と言うのは皆エテルニタ王国のアウロ王やラルク様、そしてそれを支える者達のようなものを私は考えていました。しかし前回のアグアラグ王国の王や今回のアイアンガイスの王や重臣達・・・・・・・・彼等の目は自身の保身と利益のみ凝り固まっていた。人族とはやはり昔里の長が言った通りの人種なのでしょうか?)」
そう言ったアイスの伝わる念話はどこか悲しみを帯びたものだった。自身が今まで見てきたモノを裏切られた事でアイスが感じた感情は怒りや憤りではなくどうしてそうなってしまうのかとういう悲しみだったようだ。
「(確かに人族の心は弱い。簡単に恐怖や絶望に飲まれやすい。でもな、それが全てじゃない。それはお前が今までエテルニタ王国で見たことが証明しているだろ?)」
「(・・・・・・・・はい)」
アイスは生まれてから五十余念程生きているがそのほとんどを自分の里とエテルニタ国で過ごしてきた。護衛の任務で国外に出てもほとんどが待機しているだけで人と接することもなかった(対話中なども常に王達の影にシルヴィアの《影獣》が居たため)。それゆえにアイスのエルフ以外の人種の基本像はエテルニタ王国の人達に限定される。そしてエテルニタ王国の国柄の良さは大陸でも有名でアウロ王の名君振りも相まってかなり名高いものになっている。王族は常に臣民の為に動きそんな王族の為に臣民は国の発展に尽力する。そうして出来上がったエテルニタ王国は大陸でも類を見ないほどの多様の人種を有する国でありながら差別や貧困がほとんど起きない国となった。アイスはそんなエテルニタ王国を長く見て過ごした為にアグアラグ王国やアイアンガイス王国の王族達の行動が信じられなかったのだ。
「(私達の国じゃあ絶対考えられない事だよね!)」
シャルロットも憤慨したように念話を飛ばしている。
「(シャルやアイスは少し人に希望を持ちすぎているな。まああのアウロのおっさんが治める国以外をあんまり知らないなら無理もないがな。人って奴は基本的に心が弱いもんだ。そりゃ全部が全部とはいわないがそれでも大半の人は簡単に恐怖や己の利益の為に自分の心を変える。人ってのはそんなもんだ、分かるだろ?)」
「(うん・・・・・・・・)」
シャルロットは悲しそうに頷く。彼女とて王女として様々な社交界や政事を目にしてきた。そこでは人は必ずしも綺麗な存在ではないと実感してきた。しかしそれでもやはり心のどこかではやはり人を信じたいという気持ちも持っているのである。
「(それにしてもこの国の勇者は何処にいるのかしら?ソウマが王様に質問した時ははぐらかされたけれどもう殺されているのかしら?)」
「(いや、あのおっさんの話し振りはそんな感じじゃなかったな。むしろどちらかと言うと切り札を隠し持っている感じの顔だった)」
「(ということは勇者も魔族側に加担しているという事ですか師匠?)」
「(う~ん、それはそれで違和感があるんだよな~?)」
どうやらソウマの中でも今だに結論が出ていないようだ。するとシルヴィア達の居る地下牢に降りる階段の方から複数の気配が近づいてくるのが感じられた。
「(誰か来たみたいね)」
そう言って一旦ソウマ達は念話を切る。やってきたのは全員城の兵士達のようで全員がシルヴィア達の居る牢の前で動きを止める。
「何か御用?尋問や連行にしては人数が多いように感じるのだけれど」
シルヴィアの言う通り兵士の数は十人を超えており全員がニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべている。シャルロットはそんな男達の笑みを見て怯える様にシルヴィアのドレスの裾を掴む。
「貴方達のその顔を見ると何をしに来たのかは一目瞭然ね」
シルヴィアはウンザリしたような顔になって言う。すると兵士達はますます顔に下卑た笑みを張り付ける。
「中々察しがいいなぁ。お考えの通り俺達の目的はお前さん達自身さ」
男の一人が笑いながらシルヴィアに答える。その視線はアイスやシャルロットの体を舐める様に見ている。
「おいおい、今回はとんでもない上玉じゃねえかよ」
「おい!最初は俺だぞ!」
「馬鹿野郎!俺に決まってんだろうが!」
「お、俺はあっちの青い髪のエルフが良いな!」
後ろの男達は口々に興奮したように言葉を放ちながら自分の鎧を外していく。そして牢の中に入ってくる。
「下種な事をするのね。上も上なら下も下という所ね」
シルヴィアは嫌悪感と呆れをともなった視線を男達に向ける。聞こえてくる言葉から男達はこれが初めてではないと教えていた。よくよく見ればシルヴィア達が入っている牢以外にも人がおり全て女性であった。中には今だ少女に域を出ない者まで居る。彼女達は皆服が所々破れ顔には生気が無く薄汚れている。
「中々気が強いねぇ。でも残念ながらあんたには俺達は手が出せねえんだ」
「どういうこと?」
「王様があんたを大層気に入ってね。他の女を穢されるのを目の前で見せて心が折れた所で自分の所に連れて来いって命令を受けてるんでね。まったく困った性癖の王様だぜ」
そう言いながらも男の顔は実に楽しそうである。そして他の男達の方は既に上半身が裸の者もいる。今にもシャルロットとアイスの服に掴みかかりそうな雰囲気である。
「近寄るな!この下郎共が!」
アイスが縛られたままシャルロットの盾になるように男達を睨み据える。
「(こんな連中縛られていようと魔術だけで氷漬けにしてやる!)」
アイスが縛られたまま魔術を行使しようとした時だった。
「待ちなさいアイス」
それを静かにシルヴィアが静止する。見ればいつの間にかシルヴィアは縛られていた縄から脱出し自由になっている。
「き、貴様!いつの間に!」
男達が驚愕の声を上げる。しかしシルヴィアはそんな男達をまるで居ないかのように無視してアイスを優しく見つめる。
「こんな屑達の為に貴方が手を下すことは無いわ」
「姉上・・・・・・・・・・」
アイスはシルヴィアを見つめながら静かに喉を鳴らす。
「(これは・・・・・・!?)」
怒っている・・・・・・・・。シルヴィアがかつて見たことが無い程の怒りをその身に溜めているのだ。
「おいおい、何のつもりかは知らねえが大人しくしていた方がお互いの為だぜ?俺達もあまりあんたに手荒なことして王様の機嫌を損ねたくないんだよ」
「心配しなくてもアンタ達がそんな心配をすることは二度とないわよ」
そう言って笑ったシルヴィアの口元には鋭い牙が覗いていた。
※※※※
一方ソウマは・・・・・・・。
「(この城の連中下手なことしてシルヴィア怒らせなきゃいいが・・・・・・・)」
そんなことを内心で考えていたが既に手遅れであることは知る由もない。
「・・・・・・・・・そこに・・・・・・誰かいるのか?」
するとソウマの耳に掠れそうなほどか細い声が届く。
「誰だ?」
ソウマが声のした方に視線を向ける。ソウマが視線を向けた方の牢に男性が一人牢の壁の鎖に繋がれた状態で入れられていた。
「君はこの国者では無いのか?旅行者か?君も父にこの牢に入れられたのか・・・・・・・・」
「父?誰だお前は?」
ソウマは訝しんで再度視線の先の人物に訊ねる。
「父は・・・・・・この国の国王・・・・・・・私はその息子・・・・・・この国の王子だ」
鎖に繋がれた人物は掠れる様にそう答えたのだった。
皆さん良いお年を~




