22話 出立
最近ソシャゲーがイベント続きで・・・・・言い訳ですねすいません。とりあえず最新話です。
見えなかった・・・・・・・・。まず楓が最初に抱いた感想はそれだった。異形の姿に成り果てた魔族の将軍がソウマに躍りかかったまでは理解できた。その出来事の前に起こった周りが一瞬で氷に包まれたことにも確かに驚愕したが何が起こったのかは直ぐに理解が出来た。楓自身もアイスと同系統の水の魔術の使い手である。最初にアイスと会った時にそれは分かっていたのでこれはアイスやったのだと分かった。以前にエテルニタ王国でラルクに稽古を付けてもらった時にラルクも使っていた待機魔術をアイスも使えるのだと推測した。しかし・・・・・・。
「(気が付いたら相手の首が宙を舞っていました)」
文字通り瞬きの間の出来事だった。魔族の将軍がソウマに飛び掛かった瞬間に楓は瞬きをした。しかしそれだけで全ては終わっていた。恐らくは0.3秒にも満たない程の間しか空かない瞬きをした瞬間の暗闇。その0.3秒の暗闇の中で全ては終わっていた。気が付いた時にはソウマは剣を振り切り相手の首は胴体と永遠の別れを告げていた。
「バ、馬鹿ナ!?何ガ!一体何ガ!?」
肉体の変化による恩恵か、はたまたソウマの神速の斬撃により脳が死を理解していないのか驚いたことに魔族の男は生きていた。しかしその顔は自らの肉体に起こったことを認識した瞬間に驚愕と恐怖に包まれた。
「その状態でまだ生きてんのか、その明らかに生物離れした肉体変化が原因みたいだな。並大抵のことじゃ死なねえ体みたいだな。まあそれでも流石に首を落されても体が首を自分から探すなんて真似はしないみたいだな」
クチュンッ
どこかで誰かの可愛らしいくしゃみが聞こえた気がした。
「見掛け倒しもいいとこだなおい。随分と厳つい姿になるから少し期待したんだけどよ」
「(全然見掛け倒しではなかったと思いますけど・・・・・)」
楓はソウマの言葉を聞いて頭を抱えたくなる。敵の魔族の将軍が変化後の戦闘能力は恐らく己よりも上と感じていた楓はソウマの言葉通り相手が見掛け倒しとはとてもないが思えなかった。もし楓が相手と戦っていた場合間違いなく己の命を懸ける戦いになるはずだった。楓も少し前まではその覚悟でいた。ソウマやアイスは偶然今日この国に居合わせただけである。いかにソウマ達が自ら楓に協力をしてくれているとはいえ巻き込まれたことには変わりがない。今回の首謀者は当然自分が相手にするつもりだった、例え自分が敗れたとしてもソウマやシルヴィアが必ず何とかしてくれるというかなり悲壮な決意と覚悟を抱いてここまでソウマに付いてきたのである。
「(しかし・・・・・・・)」
この結果がこれである。楓は完全に覚悟が空回りした形になってしまった。
「キ、貴様ハ一体何者ダ!?何故勇者二加担シテ我等魔族二敵対スル!?」
魔族の男は今だ息絶えないのか驚愕の表情でソウマを問い詰める。どうやら肉体の変化は男に相当の生命力を与えているらしく首を落とされても男を生かし続けているらしい。
「まだ生きてんのかしぶといな、俺がお前等に敵対する理由か?それはな・・・・・・」
ソウマはアグアラグがある方向に親指を向ける。
「あそこの国の料理な・・・・・俺の女が気に入ったんだ」
そして少し躊躇いがちにそう口にする。若干顔が赤いのは恥ずかしさの所為だろう。
「ナン・・・・・ダト?」
「だから、あの国の料理を俺の女が気に入ったんだ。だからあの国が無くなるとそいつが悲しむんだよ。それともう一人の俺の女がそいつが悲しむとこれまた悲しむんだわ」
「キ、貴様ハソンナ事ノ為二我等二敵対シタト言ウノカ!?」
魔族の男はソウマの言葉に信じられないといような驚愕と理不尽な理由に対する怒りの表情を浮かべている。
「そんな事?」
「貴様ハ高々女ガ悲シムトイウ理由ダケデ我々魔族ノ全テヲ敵二回スト言ウノカ!?」
「あ?高々女の為だ?お前等に言わせれば確かにそうかもな、でもな・・・・・・俺にとってはその二人の女を悲しませる行為は神様をぶっ倒してもお釣りがくるだけの理由になるんだよ」
ソウマはまるで気負いも誇張を加えた様子も無く言い切る。そこにあるのは只当然のことを言ったと言わんばかりの自然体である。
「ソ、ソンナ・・・・・ソンナ・・・・・」
「だからな・・・・・・・・・」
「ソンナ馬鹿ナ話ガアルカァァァァァァァ」
ソウマが更に言葉を続けようとしていたがソウマの言葉に遂に我慢ができなくなった魔族の男は大喝すると同時にその首と体が再び紫色のオーラが包み込み首の無い胴体の首の切断部分から血液が噴き出しそれがまるで生き物のように蠢いて離れている首の切断部分に伸びていく。
「こ、これは・・・・・・!」
楓が驚愕の声を出す。首の切断部分まで伸びた血はそのまま首を持ち上げて胴体へと戻っていく。そして元通りになってしまった、それどころか首と胴体が繋がった途端その体は先程よりも更に巨大化していく。
「さ、更に異形を!?」
「ウガァァァァァァッ」
「逃げて下さい!」
「・・・・・・・」
更なる変化を遂げた魔族の男は再びソウマに躍り掛かる。楓は先程よりも更に凶悪な外見とオーラを身に纏った魔族の男に驚愕しソウマに手を伸ばして叫ぶ。一方アイスはそんな状況にも関わらずその表情には一切の焦りも心配の感情も無い。まるでこの後に何が起こるのか予め知っているかのような・・・・・・・・。
「今俺がお前を斬るのも俺にとっては当然のことなんだよ」
そう言ったソウマの腕が霞む。楓の目には空中に光の線が幾つかできたようにしか見えなかった。しかしそう楓が認識した瞬間には既に男はバラバラに切り裂かれていた。しかも一つ一つの肉片がまるで楓の世界のサイコロのように小さな肉片に切り刻まれている。
「これだけ細かく斬れば流石に再生できないだろ。まあこれでも再生するようなら更に細かくしてやるだけがな」
ソウマがサラリと恐ろしい事を口にする。楓が「いや、もう十分でわ?」と思わず口にしてしまう程にソウマの顔は真顔であった。
「・・・・・・・そこまで細かくされたら再生は出来なかったみたいだな」
ソウマはしばらく刻まれた肉片を見つめていたが肉片からなんのオーラも生命力も感じられないことを悟ると《聖王竜剣》を異空間に納める。そして懐に手を入れて一枚の小さな紙片を取り出す、これは出立前にラルクから貰った通信用の魔術が付与された紙片である。これを通信を取りたいもの同士が持っていればラルクのように通信魔術が使えなくとも離れていても連絡が取れるようになる。但し通信できる距離は紙片を持っている者の魔力量に比例する。ソウマはこれをラルクから受け取った時に「携○電話かよ」と思わず口走ったそうな。
「シルヴィア、シルヴィア聞こえるか?」
『・・・・・・何?聞こえてるわよソウマ』
「こっちは決着が着いたぞ、術の発動者も倒したし魔法陣の方も竜巻に向かう魔力供給を止めたみたいだぞ」
そう言ってソウマは魔法陣の方に目を向ける。魔法陣からは最初に立ち昇っていたような不気味な魔力は収まり魔法陣はなんの波動も動きも見せていなかった。
「多分もう竜巻の方も元に戻ることは無いと思うぞ」
『そう、それじゃあ・・・・・・』
「ああ・・・・・」
「喰い破れ!」
『喰い破る!』
ソウマとシルヴィアの声が重なった瞬間遙か遠方に見える竜巻がもう一つの黒い竜巻にあっさりと飲み込まれた。そして飲み込まれた竜巻は二度と元に戻ることはなかった。竜巻が消えると竜巻の影響か暗雲に包まれていた空にも晴れ間が現れる。
「一件落着だな」
「はい」
それを見届けてソウマは腕を組んでドヤ顔で言い切る。それに便乗するようにいつの間にかソウマの横に来ていたアイスも当然のように頷く。
「・・・・・・・・」
ソウマもアイスも最後まで結果が分かっているかのように平然としていた。結局最初から最後まで狼狽えていたのは楓だけであった。その楓は茫然とその場で喰い破られる竜巻とその後に出る晴天を見つめていた。
「終わった・・・・・・・のですか・・・・・・?」
事態を把握した楓が何とかそれだけ口にする。
「さて、帰るか」
「そうしましょう、師匠」
そんな楓を置き去りにしてソウマとアイスはソウマ達がこの島に降り立つと同時にどこかに行っていた窮奇を呼び戻してサッサと帰る準備をし始める。
「え?え?」
楓はその行動に着いて行けず狼狽した声を出す。そんな楓にソウマが声を掛ける。
「おい、帰るぞ」
「え?あ、はい!」
ソウマに声を掛けられた楓は慌てて自分も窮奇の背に跨る。
※※※※
窮奇に乗ってシルヴィアとシャルロットの元に戻って来たソウマ達、すると早速シャルロットが戻って来て窮奇から降りたソウマに抱き着いた。
「えっへへ~♪おかえりソウマ♪」
「ただいまシャル」
ソウマは抱き着いてきたシャルロットの頭を優しく撫でる。するとそんな二人にシルヴィアがゆっくりと近づいてくる。
「お帰りなさい、お疲れ様ソウマ」
「ああ、お前もお疲れだったなシルヴィア」
ソウマは左手でシャルロットの頭を撫でながら右手で近づいてきたシルヴィアの頬を優しく撫でる。
「ええ、少し疲れたわ。ご褒美にソウマからの熱い口づけが欲しい所ね♪んんんっ!?」
シルヴィアがソウマの頬を撫でる手に気持ちよさそうに目を細めながら悪戯っぽく言うと同時に不意打ちにソウマがシルヴィアの唇に自分の唇を合わせてきた。そしてゆっくりと顔を離す。
「これで・・・・・・いいか?」
ソウマは顔を真っ赤にしながらそっぽを向きながら言う。
「あうっああうあうあうああああ!?」
当のシルヴィアは完全に不意打ちだった為に顔が完全に真っ赤に染まり言葉に成らない言葉を発している。
「ああ~ずるいソウマ!私もちゃんと待ってたんだからご褒美欲しい。んっ!」
それを見ていたシャルロットが今度はソウマに対して不意打ちのように飛びつく勢いで唇を合わせる。
「おいおい、そんなに飛びつかなくてもいいだろ」
「だって羨ましかったんだもん」
ソウマにそう言われたシャルロットは拗ねたように頬を膨らませる。今だにシルヴィアは口づけの衝撃から回復していない。そんなシルヴィアにソウマが正気に戻す意味合いも込めて声を掛ける。
「おい、シルヴィア戻ってこい」
そして何度か頬を軽く叩く。するとシルヴィアの目の焦点が次第に再びソウマに合う、すると・・・・・・。
「あひゃああああああ!?」
再び顔を真っ赤にして意識がどこかに飛んでいく。
「ええ~~!?」
楓はそんなシルヴィアを見て信じられないというような顔になっている。楓にとってシルヴィアとはその規格外の強さや類いまれとすら言えないその美貌、そして大人の女性としての完成された仕草や雰囲気を楓は密かに自分が想像する理想の女性像を見ていた。そんなシルヴィアの信じられない姿に楓は戸惑いを隠せないでいた。
「こんなシルヴィアは初めて見たな・・・・・」
ソウマも若干戸惑っている。
「シルヴィア姉様とっても可愛い♪」
シャルロットはシルヴィアを見て頬を染めて嬉しそうにしている。
「姉上は普段は毅然としておられますが実はとても女性らしい方だったのですね」
アイスはうんうんと頷きながら何かを納得するように頷いている。
「あわわわわわわわ!」
シルヴィアは今も顔を赤くして目を回している。シルヴィアにとってソウマは初恋の相手である。それまでのシルヴィアの1000年余りの人生(吸血鬼生?)は吸血鬼の王族として頂点に立つに相応しい振る舞いと風格を求められシルヴィア自身もそれを疑うことなく応えていった。一族内では若輩ながら一族史上最強にして最美の存在と称えられてきたシルヴィアには己以外の男は例え同族であろうと取るに足らない存在に見えていた。
ーーアンタが吸血鬼のお姫様とか言われている吸血姫かい?ーー
その男はある日突然シルヴィアの前に表れた。不敵な眼差しと自身に満ちた表情、そして全身から満ちる闘争への期待。この男が何をしにここに来たかは明白であった。
ーー貴方人間みたいね、どうやってここまで来たのかしら?表には我が国有数の兵士が詰めていたはずだけれどーー
ーーああ、あいつらなら全員お昼寝中だぜ。まあ殺しちゃいないから吸血鬼ならそのうち目を覚ますだろーー
ーーへえ、人間にしては中々強いみたいね。それで自信が付いちゃって私に勝てるなんて思いあがっちゃったのかしら?--
ここで初めてシルヴィアは自らの玉座から立ち上がり自らの影から剣を創り出す、そして同時に顔を隠していたヴェールを取り払う。
ーー・・・・・・・・・ーー
男が押し黙るのが見える。シルヴィアにとってみればこれは当然の結果であった。自分の容姿が造形的に非常に優れているのは自覚している。吸血鬼のみならずあらゆる人種を虜にするその美貌は余計な混乱を招かぬように普段は隠している。今回のように相手が男であれば(場合によっては同姓でも)顔を見せるだけで簡単に戦意を無くすことが出来る。
ーーいやー驚いたぜ、こんなにスゲー美人に会ったのは生まれて初めてだわ。いやー良いもん見た、んじゃそっちも割と乗り気みたいだし変な邪魔が入らないうちに早速闘りますかねーー
ところが男は今までの者達とは違いシルヴィアの容姿に驚きはするもののそれ以上はさして興味を示さずに自らも剣を取り出す。シルヴィアはそれに内心動揺する。今までも確かにシルヴィアの顔を見ても戦意を失わない者はいたが必ず次に飛び出す言葉が「勝ったら妻になれ!」である。正直ウンザリしていた。しかし目の前の男は自分の容姿に関心を示しこそしたがそれ以上の興味を抱かず戦う事を優先させようとしている。
ーーあんたの見た目がスゲーのは見ればわかった。確かに噂通り・・・・いや噂以上にとんでもない美人だ。だったら強さも方も噂以上のものを期待させてもらうぜーー
ーーいいわ、私も少し貴方に興味が湧いてきたわーー
そしてその時感じた僅かなその男に対する興味が後にシルヴィアにとって人生の転機ともいえる感情を獲得するとは夢にも思っていなかった。
「あわあわあわあわ!!!」
ようするにシルヴィアは千年以上恋も知らずに育った完全純粋培養の乙女である。見た目こそ大人びており普段のソウマをからかう様も大人の女性のソレであるがその知識の殆どは自らの国を出た後の又聞きであり今まではソウマがシルヴィアの気持ちに応えようとしなかった故にソウマから反撃を貰うことがなかった。自分から仕掛ける時は多少大胆なことでも心の内で覚悟を決めているのでそこまで動揺しない。しかし今回のようにソウマから不意打ちに近い形での行為に完全に感情と理性が暴走してしまったのだ。
「きゅう」
シルヴィアはなんとそのまま気絶してしまった。よほど精神に負荷が(幸福過ぎて)掛かったのかとりあえずシルヴィアの脳は一度意識を閉ざすことを選択したようだ。
「あ、気絶した」
「どうやら姉上の頭が負荷に耐え切れずに意識を閉ざしたようですね」
「シルヴィア姉様大丈夫かな?」
気絶したシルヴィアを三人が取り囲むように覗き込む。
「あ、あの~」
するとそんな三人に遠慮するように後ろから楓が声を掛ける。
「とりあえず王のいる王宮の方へ来ませんか?先ほど顛末を報告に行った兵士の一人が戻って来たところ、王が是非礼を言いたいと・・・・・・」
そう言われた三人は顔を見合わせてしばらく考え込む。ソウマ達の本音を言えばこのままこの国を出ていきたいのが本音である。このまま王と謁見しても面倒事の予感しかしない為だ。シルヴィアが気絶しているがそれは窮奇にでも運んで貰えば問題ない(ジルヴィア本人が気絶している状態でもソウマかシャルロットが呼べば窮奇は出てくる)。しかしこのまま行くのはアグアラグの王はともかく楓にこのまま何も言わずに行くのは悪いと感じるくらいにはソウマ達も(特にシルヴィアとシャルロットが)楓に気を許している。
「まあ、取りあえずシルヴィアが目を覚ますまで休ませてもらうとするかね」
目線で会話を終えたソウマ達はとりあえず楓の言葉に従い王宮に向かうことにした。
※※※※
「はっ!」
暫くしてシルヴィアはベッドの上で跳ねるように目を覚ます。
「・・・・・ここ、は・・・・?」
そして辺りを不思議そうに見渡して現状の把握を試みる。
「アグアラグ王国の王宮の客室です。姉上が気絶してしまったので取りあえず王宮の一室をお借りして姉上を寝かせていただきました」
「・・・・・・ソウマとシャルは?」
状況をある程度把握したのかシルヴィアはとりあえずこの部屋に気配の無いソウマとシャルロットの行方を尋ねる。
「師匠と姫さ・・・・・・シャルは現在、楓殿と一緒に王様に謁見中です」
「そう・・・・・・、それじゃあ私達も行きましょうか」
「もう大丈夫なのですか?その・・・・・・師匠に会っても・・・・・」
そう聞かれてシルヴィアは少し顔を赤くする。
「大丈夫よ、さっきは不意打ちで少し動揺してしまったけれど今はもう心構えはできてるから」
「わかりました。確かに先程姉上はかなり動揺していましたが現在は精神的にも落ち着いて見えます」
「ええ、少し動揺していただけだからもう大丈夫よ」
「かなり動揺していたにしては早い回復です。さすが姉上ですね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
二人はしばし無言で見つめ合う。こころなしか室内の空気が張り詰めだしていた。
「あなた中々言うようになったわね」
「師匠や姉上に鍛えられましたから」
アイスはシルヴィアの言葉に淡々と返す。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
室内の空気が更に張り詰める。
「久しぶりに私が今度あなたに稽古を付けてあげようかしら」
「それは私としても望む所ではあります」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「おーい、いい加減シルヴィア起きたか~?てっ!この部屋空気重!なんだこの戦場みたいな空気!」
そんな二人のやり取りの最中にソウマがシルヴィアの様子を見に部屋にやって来た。そして部屋の中の戦場さながら張り詰めた空気に驚きの声を上げる。
「ぴっ!ソ、ソウマ!」
「あ、師匠どうかしましたか?」
「あ、ああ(今シルヴィアが変な声出したような?)シャルの奴がシルヴィアが目お覚ましたかどうか気にしていてな、あいつは今王様と会話中だから抜けられなくてな俺が様子を見に来たんだ」
「それならもう大丈夫よ。今から私達もシャル達の方へ行こうと思っていたところだから丁度いいわ。今からシャルの所に行きましょう」
「・・・・・・」
「じゃあ行くか」
因みにアイスは流石に空気を読んでソウマが来てからは無言を貫いていた。
※※※※
「此度の働き誠に大儀であった旅の者よ、勇者カエデから今回の働きは聞いた改めて礼を言おう」
「有り難うございます。偶然立ち寄っただけの我々がこの国の危機を救う一助となれたことは私達としましても嬉しく思います」
王室にて王からの言葉にシャルロットが完璧な礼節でもって答える。その仕草は普段の姿からはとても想像もできない程の完成振りである。彼女は普段ソウマやシルヴィアや家族等と過ごす時は年相応以上に幼く感じる振る舞いをするがそこは王族、それ以外の場合の社交界の場等では幼いころから受けてきた教育を十全に発揮することができる。飽く迄も普段の振る舞いはシャルロットが素の自分を見せているだけでありその気になれば受けた教育を即実践できるだけの素養と聡明さが彼女にはあるのだ。
「しかしカエデにも聞いたが其方はかなりの手練れ揃いと聞いた。それ程の腕の持ち主ならば何故旅などしておる?冒険者にしてもそれ程の腕なら一つ所に落ち着いて召し抱えれる手もあろう?」
「私達は現在ある目的の為に旅をしている者でしてその目的を果たす為には各国を回らなくてはいけないのです」
「なるほど・・・・・」
先ほどからシャル達は王とこのように他愛無い会話を続けている。楓は王の横に控え会話を静かに聞いている。ソウマとアイスは目の前に並べられたお菓子に夢中になっている。二人とも甘党は共通しているようだ。シルヴィアは素顔をヴェールに隠した状態で出席しており王とシャルロットの会話を静かに見守っている。
「それで・・・・・ものは相談ではあるが其方が目的とやらを果たしたのちは我が国に仕えるつもりはないか?」
王は会話が落ち着いてきたのを見計らったようにこの話を持ち出してきた。どうやらこれが本命の要件のようで先程までとは違い心なしか体も前に少し乗り出している。
「(このおっさんも戦争の先を考えている口か・・・・・)」
ソウマはお菓子を食べながら王の言葉を聞いて内心で呆れかえっていた。
「(勇者としての楓の力に恐怖感を感じつつもその力の有用性もしっかりと認識している。そして楓は約束どおり魔族との戦争が終結すれば元の世界に返さなければならない、よしんば反故にしようとしてもその結果で楓がこの国から出ていっても困る。どのみち勇者が居なければこの国は魔族との戦争が終わると同時に他国の侵略をうけることになる。だから勇者に匹敵する別の戦力が欲しいってわけね)」
「折角のお誘いなのですけれど私達にもまだ目的があります。それに私達は既に帰る場所がありますのでご厚意だけありがたく受け取りたいと思います」
シャルロットが柔和な笑みを浮かべながら当たり障りのない言葉で王の言葉を遠まわしに断る。
「なんなら其方の要望をできるだけ叶えるようにはするがどうだ?家族や友人や恋人などこの国に呼び寄せたくば優遇しようでわないか」
しかし、それでも王は諦め切れないのか更に条件を付け加えた上で勧誘してくる。
「やはりどれだけ言われましても我々には優先すべき目的と帰る地がありますので王様のお話を受けるわけにはまいりません」
そう言ってシャルロットが再び頭を下げる。
「し、しかしこのまま冒険者稼業を続けるよりも・・・・・・・・」
「王よ」
それでも尚も言い募ろうとした王の横から楓が声を掛ける。
「彼等の意思はどうやら固いようです。これ以上悪戯に引き留めるのも彼等に悪いと思われますのでその辺で・・・・・・」
「くっ・・・・・・」
楓にそう言われた王は一瞬憎々し気な顔を楓に向ける。しかし次にシャルロット達に向き直った時には元の友好的な顔に戻っていた。
「(一国の上に立つ者なら内心はどうでも外面くらいは平然としてろよ)」
ソウマはそんな二人のやり取りを見ながらこの国の王の器の小ささに内心何度目かの呆れた溜息を付く。結局その日はなんだかんだと王様がせめて一晩だけでも食事をと言うのでその晩王城で食事を頂いて王城の客室に泊まった。因みにシルヴィアはその後色々フッきれたのかソウマと普通に接することができるようになった。
※※※※
「色々お世話になりました。今回あなた方が居なかったらこの国も私も今ここに居なかつたかもしれません。皆さんにはなんとお礼を言ったらいいかわかりません」
「別に、それにお礼なら昨日散々聞いたよ。この国に来たのはマジで俺の鎧の現所有者であるお前を見に来ただけだし来た理由も一番近かっただけだし逆にそこまで感謝されるとこっちが気が引ける」
「そうよ楓、私達が今回この街にこの時期に居たのは本当に偶然なんだからそこまで感謝することないわ。第一ソウマと私がこの国を助けた理由なんてほとんどがシャルの為なんだから」
「シャルロット姫の?」
「シャルがこの国の料理を美味しいと言っていたからこの国が無くなるとシャルが悲しむもの、それに貴女とも知らない仲ではなくなったからシャルのことだからどうせ見捨てられないわ。だから貴女も感謝するならシャルだけに感謝すればいいし、それでなくても運が良かったと思えばいいわ」
楓はシルヴィアの言葉に戸惑いの表情を浮かべる。どうやらソウマが魔族の将軍と戦っている時の会話は聞こえていなかったようで今更聞かされて困惑しているようだ。
「(もしかしてあの時魔族の男が突然激昂したのはソウマ殿にこれを聞いたからでわ?」
内心でそんなことを考えていた。大当たりである。
「そうです、カエデ殿もあまり師匠や姉上の行動にあまり気にしすぎない方がよろしいです。二人の行動原理はほとんどがシャル中心で動くのですから」
アイスの言葉に後ろの二人が何か言っているが楓はサラッと無視してそう思うことにした。
「それよりもカエデ殿・・・・・・」
すると急にアイスが神妙な顔になる。
「思うのですがカエデ殿がこのままこの国に留まってもカエデ殿にとってあまり良い結果になるとは思えません。やはりエテルニタ王国に身を寄せた方がよろしいのではないですか?」
「うん、それは私も思うな。あの王様とっても嫌な感じがするの、カエデちゃんもあんな人の所にいても良くないよ絶対に!なんなら私がお父様やお兄様に頼んであげるから今からでも家(エテルニタ王国)に来ない?」
アイスの言葉にシャルも同意とばかりに捲し立てる。シャルもよほどこの国の王に嫌悪感を抱いたのかそう言ってくる。
「珍しいわね、シャルがここまで特定の人を嫌いって言うのわ」
「う~あの人目が嫌い。たまにお父様やお母様に付いていった先の舞踏会なんかに偶に居る人達と同じ目をしてた」
それは猜疑心・懐疑心・妬み・好色等様々な感情を含んだ者の眼だろう、シャルロットは幼い頃よりそういう世界を沢山見てきた。シャルロットは純粋であるが故にそういった瞳に特に敏感なのだろう。
「そうだな、俺もアイスやシャルに同意見だ。国の事が心配ならラルクに言えばこの国一つくらい何とかしてくれると思うぞ」
「ええ!本当にそんなのでいいんですかね?」
ソウマの言葉に楓が思わず驚愕の言葉を返す。
「あいつその気になったら国一つ覆うくらいの結界張るなんて簡単にやってのけるからな。この国位なら楽に魔族の手出しできない結界張れると思うぞ?」
「ええ~~」
楓は今度こそ信じられないと言ったような声を出す。自分が覚悟を決めてこの国を護る決心をあっさりと崩されたのだこんな声も上げたくなるだろう。ソウマ達と出会ってから楓は覚悟が空回りっぱなしである。
「最初にお前の覚悟を聞いた時はお前の覚悟を尊重して言わなかったんだが予想以上にこの国の王が器の小さい野郎だったんでな、言う事にしたんだ」
「・・・・・・少し、考えさせてください」
結局楓はそう言うので精一杯だった。
「それじゃあ俺達はもう行くわ」
「はい、本当にお世話になりました。あの件も考えておきます」
「ああ、なにかあったら遠慮なく通信して来い。ラルクにも話を通して置くからよ」
「じゃあね楓、あまり責任を持ちすぎて怪我をしては駄目よ」
「カエデちゃん、またね。帰りにはこの国によってご飯を食べるからまだこの国に居たら会おうね」
「それではカエデ殿お元気で、機会があれば今度ゆっくりとお手合わせ願います」
「はい、その時は遠慮なく頼らせていただきますソウマ殿。私もなるべくそうならないようにしますシルヴィア様。シャルロット様も次にもし私がこの国に居れば是非に。お手柔らかにお願いしますアイス殿」
そう言ってソウマ達はこの国の出入り口である門に向かって歩き出す。楓はソウマ達の背名に向かってもう一度無言で頭を下げる。それはソウマ達が門を越えてその背中が見えなくなるまで下げ続けていた。
※※※※
「次はどこに行くのソウマ?」
門を出て暫くしてシャルロットがソウマに聞いてくる。
「次か・・・・次は・・・」
ソウマは少し考える。
「鉄の国アイアンガイス、そこに俺の鎧の右足を持っている奴がいる」
ソウマはそう答えて歩き出した。
次回はもう少し早く投降したいな~




