21話 迫る竜巻
「お~思ったよりデカい竜巻だな~」
ソウマが海側の見張台から海の方を眺めながらそんな暢気な声を出す。
「暢気な声を出してる場合ではないですよ」
楓がそんなソウマに対して抗議の声を上げる。実際発生した竜巻は現在町から数キロの所まで迫っており目を凝らさなくとも竜巻を視界に納めることができる。
「しかしなんて巨大な・・・・・・」
楓は茫然とするように眼前に視線をやる。竜巻の巨大さは彼女の世界のテレビで見るものとは明らかに大きさが桁違いである。直撃すればこの街を丸ごと覆い尽くしてしまう程の大きさだ。
「確かに大きいわね。最上級の風系統の魔術でもあそこまでの大きさのモノは出来ないでしょうね。さすが禁忌魔法の産物なだけはあるわね」
シルヴィアも感心するように感想を漏らす。その横では吹き荒ぶ強風と雨に打たれながらシャルロットが嬉しそうにハシャイでいる。アイスは若干緊張しているようだがそれよりも強風で飛んでくる木片や石がシャルロットに当たらないよう注意する方に神経を割いているようだ。どこまでも職務に真面目なアイスだった。
「皆さんもうちょっと状況を真剣に受け止めましょうよ・・・・・」
楓がそんなイマイチ緊張感の足りないソウマ達に疲れたような眼差しを向ける。
「街では民衆が避難を開始していますがとても間に合いません。やはりあの竜巻をなんとかしないと・・・・」
現在街は接近する竜巻から非難すべく避難活動が行われている。迫りくる圧倒的な脅威を前に人々は恐慌寸前である。
「ソウマ殿、あの竜巻を何とかできますか?」
楓がソウマに訊ねる。どう考えても自身ではどうすることもできないと冷静に状況を分析している楓はもはや目の前の底知れない存在に頼るしかないと結論している。
「ふむ、破壊できなくはないだろうがあれが禁忌魔法なら・・・・・・・・・試してみるか」
一瞬思案したソウマだが次の瞬間右手に《聖王竜剣》を取り出していた。楓が《聖王竜剣》を目にした瞬間感じたそのあまりに圧倒的な力に目を見開く。
「ふっ、はっ」
そのままソウマは《聖王竜剣》を真横に振り抜く、そして続けざまに《聖王竜剣》を頭上から振り下ろす。振り抜かれた《聖王竜剣》から放たれた斬撃の衝撃波は圧倒的な威力で持って吹き荒れる風をものともせず竜巻に迫りその勢いのまま竜巻を十字に引き裂いた。
「や、やった」
竜巻が十字に裂けるという冗談のような光景に一瞬呆けた楓だが事実を認識した瞬間喜色の声を上げる。しかし・・・・・・・。
「・・・・・・・ちっ。やっぱり駄目か・・・・・」
「そんな・・・・・・」
ソウマが舌打し楓が落胆の表情になる。十字に引き裂かれた竜巻はこれまた冗談のように何事も無かったかのように元通りに戻る。ソウマは内心で前世の記憶から「(ビデオの逆回しみただなー)」などと暢気な感想を漏らしていた。
「どうして!?今確かに竜巻は破壊されたのに!」
楓は目の間に光景が信じられないといった声を上げる。
「禁忌魔法の特徴みたいなものよ。禁忌魔法は基本的に一度発動してしまったら目的を完遂するまで解除は普通の方法では不可能よ。発動してから回避・対処するか術の元になった力そのものを断つかのどちらかしかないらしいの」
楓の疑問にシルヴィアが答える。
「ソウマ、恐らくあの術は術者か術式そのものが無事なら何度破壊しても目標を破壊するまで解除も破壊も不可能な代物みたいよ」
「ああ、そうみたいだな。問題はその術の大本がどこにあるかだな」
「これだけの大規模な術だもの術者はそれなりの距離に居ると見た方がいいわね。禁忌魔法の使用には代償としてそれなりのものを求められるから使用に距離と規模があればあるほどその代償も大きくなる。これだけの規模だもの代わりに発動させる距離は結構近い位置から発動させているはずよ」
「だとしたらアレがこの街に直撃するまでにその大本を何とかしないとな」
「そういうことね」
ソウマが親指を竜巻に向けて問えばシルヴィアがそれに頷いて答える。
「おい、ラルク。聞こえてるんだろ」
『なんだいソウマ?』
ソウマの呼びかけに当然のように返事が返ってくる。
「あの術の大本の場所が分かるか?」
『・・・・・・・・・・・・そこから南西に離れた場所から強力な魔力反応があるよ。多分それが術の発生源じゃないかな』
「なるほど、すまんな」
『まあ頑張って』
ソウマはラルクに礼を言って通信を切る。
「ということで術の大本はここから南西に行った場所にあるらしいぞ」
ソウマがラルクに言われた南西方向を指さして言う。
「なら早速向かう事にしますか」
「あの竜巻はどうするのですか?このままでは後数分でこの街に到達しますが?」
シルヴィアの言葉にアイスが指摘する。見れば確かに竜巻の距離はかなり近い所まで来ていた。
「しょうがないわね。私がここに残ってあの竜巻を足止めしましょう。ソウマ達はその間にこの術の発生源を何とかして頂戴ね」
「了解」
「シャルは一応キューちゃんに乗って非難する?」
「ううん、私は姉様と一緒にここでソウマを待ってる」
「万が一あの竜巻がこの街に直撃したら危険よ?」
「大丈夫だよ。私はソウマやシルヴィア姉様を信じてるから。ソウマならあの竜巻がこの街に来るまで絶対になんとかするしシルヴィア姉様ならソウマが何とかするまでに絶対にあの竜巻を止められるもの」
シャルロットは力強く言い切る。その瞳と言葉にはソウマとシルヴィアに対する絶大な信頼が込められている。その力強い瞳を受けたソウマとシルヴィアは思わず苦笑する。
「あらあらソウマ。こんなに期待されたんじゃあ応えない訳にはいかないわねぇ?」
「そうだな、これに応えられない様じゃあ二度とシャルの前に立てないなぁ」
ソウマとシルヴィアは仕方なさそうな言葉とは裏腹にその体からは戦意が満ち溢れている。
「それでは私は師匠に着いて行きます。シャルのことは姉上に任せても大丈夫だと私も判断します」
「わ、私もソウマ殿に同行させてください。何もできないかもしれませんがせめて何か力なれることがあるかもしれません」
「・・・・・よし、分かった」
ソウマ的には二人が着いてきた所で足手まといでしかないのだがそれでも問題ないと判断した。
「それじゃあシルヴィア、窮奇を出してくれ。三人で移動するなら窮奇に乗った方が早い」
「了解よ」
頷いたシルヴィアは自らの影の中から一匹の巨大な獣を出現させる。
「キューちゃん、ソウマとアイス姉様とカエデちゃんのことお願いね」
キュルルルル
影から出てきた窮奇をシャルロットが優しく撫でる。撫でられた窮奇は気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。そして窮奇はソウマ達の前に前足を畳んで屈むような姿勢になる。
「この生き物は・・・・・!?」
楓は突然シルヴィアの影から出現した巨大な魔獣に困惑する。楓から若干の警戒心を向けられた窮奇は楓に対して威嚇するように小さく喉を鳴らす。
「警戒しなくても大丈夫よ楓。この仔は窮奇、私の影から生み出した影の魔獣よ。可愛いでしょ?窮奇だから可愛くキューちゃんって呼んであげてね」
「ええ~!?あ・・・・・・その、よろしくお願いします・・・・・ね?キュー・・・・・・ちゃん?」
グルァ
シルヴィアに呼ばれた窮奇は威嚇をやめて「任せろ!」とでも言うかのように一声鳴いて見せる。
「それじゃあ行ってくる。任せるぞシルヴィア」
「任せて」
そう言ったシルヴィアは右手の手の平を上に向けた状態で竜巻に向かって掲げる。するとその手の平の上にシルヴィアの影が集中し始める。集中し始めた影は徐々に渦を巻き始める。渦は大きさこそ小さいがその回転は段々と速度を増し始める。
「うーん、あの規模の竜巻にぶつけるにはもう少し力を溜めないといけないかしら?」
シルヴィアは迫りくる竜巻に視線を向けながら唸る。
「な、なにをするつもりですかシルヴィア様!?」
楓はシルヴィアのしている事に目を剥く。現在シルヴィアの手の平の上に発生している力の奔流は楓が戦慄するには十分な規模の力だった。それをまるで玩具でも扱うように発生させるシルヴィアに楓は戦慄する。
「おい!あんまり力を籠め過ぎると今度は逆に反発力で街が吹き飛ぶからちゃんと相殺しろよ!」
ソウマがシルヴィアの行動を見守りながらそう忠告する。
「そうは言うけどね。このクラスの力を緻密に制御するのは結構大変なのよ!」
ソウマの言葉にシルヴィアが集中を切らさずに反論する。
「なるほど、弱すぎればあの竜巻に巻き込まれて消える。逆にあの竜巻よりも強くともあの竜巻は術の発生源を何とかしなければ姉上の攻撃が通過したのちまた竜巻は出来る。しかも最悪ぶつかった時の反動の余波で街が竜巻到達までに崩壊しかねないとうわけですか」
「そうよ、だからあの竜巻にぶつかった瞬間に威力を相殺できる丁度いい威力を調整しなくちゃいけないの。・・・・・・これくらいかしら?」
アイスが納得したように説明を述べシルヴィアがそれに相槌を返す。すると丁度威力の調整が済んだのかシルヴィアが視線を竜巻に向ける。
「行きなさい《影の竜巻》」
シルヴィアに命じられた手の平の小さな黒い竜巻は手の平からフワリと浮き上がるようにシルヴィアの手の平から飛び立つと竜巻に向かって一直線に進んでいく。進んでいく黒い小さな竜巻は迫る巨大な竜巻から一定の距離を持って止まる。
「《解放》」
それを確認したシルヴィアが静かに鍵となる言葉を口にする。
カッッッッゴオオオオオォォォ-
シルヴィアがその言葉を口にした瞬間黒い小さな竜巻は一瞬で迫る巨大な竜巻と同等の大きさまでに変化する。巨大化した黒い竜巻は前方の竜巻と激突すると二つの竜巻は凄まじい轟音を響かせながらその場で停止する。しかし不思議な事にぶつかる二つの竜巻の後方はほとんど波の揺れは無くなり逆に横側に凄まじい豪風と衝撃波が駆け抜けていく。
「おみごと。威力が綺麗に横側に流れていってる」
ソウマがそれを見て称賛の言葉をシルヴィアに掛ける。
「ふー、我ながら調整が上手くいったみたいね」
シルヴィアも竜巻同士のぶつかり合う結果を見て安堵の溜息を付く。しかしその両目と右手は油断なくぶつかり合う竜巻に向けられている。どうやらこうしている間もシルヴィアはあの黒い竜巻の維持に力を使っているようだ。
「どれ位保たせられる、シルヴィア?」
「幾らでも・・・・・・と答えたいところだけれどさすが禁忌魔法だけはあるわね。正直3~4時間と言った所ね」
「十分」
「姉上頑張ってください」
「街をよろしくお願いします」
「貴方達もソウマが居るから大丈夫だと思うけれど気を付けてね」
「ソウマ頑張れ!」
「ああ、シャルもシルヴィアの傍を離れるなよ。それじゃあシルヴィア頼んだ。行こう窮奇」
ソウマがそう言って窮奇の頭を軽く叩くと窮奇は一声鳴いた後三人を背中に乗せたまま飛び上がった。そのまま先ほどラルクの言っていた南西方向に向かって飛行する。
「す、凄い!」
「実際に乗るのは初めてですがワイバーンよりも随分速いですね」
楓とアイスは窮奇の飛ぶ速度を体験して驚いた声を出す。
「まあな、|こいつ(窮奇)はそこらの小型の竜種よりは大分強いからな。速度もそれ相応に出るぞ。しかも多少魔術を使えるからな。今も風の魔術で俺達にほとんど風が来ないようにしているからこんな速度でも普通に会話できてるだろ?」
「そ、そう言えば!」
「さすが姉上の使い魔ですね」
言われて楓は改めて周りを見る。周りの景色は窮奇の飛行速度で飛ぶように通り過ぎる。
「(確かにこの速度で先ほどから普通に会話できていることになんの疑問も感じていませんでした。今気が付きましたが私達の髪や服もほとんど風で揺れていませんでした)」
本来これほどの速度で飛ばれてはなんの器具も付いていない窮奇では必死に体にしがみ付かないといけないがただ座っているだけなのに姿勢も不思議と崩れない。どうやら窮奇が風魔術で楓達の姿勢制御も助けているようだ。
「(もしかしてこの魔獣の方が私より強い????)」
楓は驚愕とともに胸中でそんなことも考えていた。窮奇から感じる威圧感、実際に体感する窮奇の飛行速度から想像される運動能力、そして今自分も恩恵に与かる緻密な風魔術の制御の技量、それらから予想される総合的な戦闘能力を楓は自信よりも上ではないかと冷静に分析していた。
「(まあやり方次第ではあると思うが普通に闘れば多分窮奇が勝つだろうな)」
そしてソウマはそんな楓の胸中を正確に察してこちらも自身の胸中で楓の疑問に答えを出していた。
※※※※
窮奇の背に乗って三人が飛び始めて数分でかなりの距離を飛んだソウマ達は現在目的のモノを探して視線を巡らしている。
「・・・・・・・・あれか!?」
するとソウマが海の上に浮かぶように存在する小さな小島の上の砂浜の所に奇妙な紋様が描かれた魔法陣が描かれているのを発見する。
「どうやらあれのようですね」
アイスもソウマから遅れて同じものを発見したのか同じ方向を見ている。その砂浜に描かれた魔法陣からは不気味な魔力が渦を描く様に立ち昇り空に消えていく。恐らくはあの魔力の行先があの竜巻の何だろうその魔力は留まることなく沸き続けている。そしてその魔法陣の直ぐ傍には一人の男が佇んでいた。
「どうやらあいつがあの術を操っている術者本人で間違いなさそうだな」
「はい、間違いないかと」
「私も同意見です」
三人は目的の場所と人物を発見すると窮奇を操作してその小島へと着陸しようとする。すると向こうも此方に気が付いたのか視線を向けてくる。
「やはり来たか」
小島に窮奇が着陸すると同時に男から声が掛けられる。男は全身を黒い鎧に身を包み全身から隠しようのない闘気を醸し出していた。魔族の種族特徴の一つである紫色の髪と浅黒い肌、そして最大の特徴である頭の側頭部から生える二本に角は男が間違いなく魔族であることを物語っていた。
「予測はしていた。あの竜巻がアグアラグの街に直撃する前に術の根幹であるここを探して破壊する為に勇者である君が私の元に来ることを予測は出来ていた」
男は言いながら自らの腰に差した長剣を抜き放つ。抜き放たれた長剣からはドス黒いオーラが滲みだしている。何らかの特殊な付与が施されているようだ。
「貴方は・・・・・・」
「知ってるのか楓?」
「はい、以前にも何度かこの国を魔族が襲撃してきた折に居た魔族軍の将軍です」
「ほう、私の事を覚えていてくれたか光栄だな」
男がわざとらしく恭しく礼を言う。
「一体これはなんのつもりですか!」
「なんの・・・・とは?」
「この現状のことです!あの竜巻が街を直撃すればアグアラグ王国どころかその周辺の土地ですらが不毛の大地になり果ててしまいますよ!そんなことをすればあなた方魔族が得られるものすら何も残らないのですよ?一体なにが目的でこのような愚かな行為に及んだんですか!」
「知らぬよ」
「何ですって!」
魔族の男の予想外の答えに楓が驚愕する。
「知らないとはどういうことですか!」
「我らが偉大なる主のお考えなど我々如きが知ることなど出来ぬよ。我々はただ偉大なる主より下知される命令を粛々とこなすのみだ」
「それだけでこんな酷い事をしようというのですか!?」
「それが私に課された主からのご命令だ。たとえそれがどのような内容であろうとな」
「なんて愚かな・・・・・」
「愚か?愚かとだと?貴様が私を愚かというか勇者よ。しかし私からすれば以下に神々からの恩寵を授かったとはいえ貴様等のような人間の若造共が偉大なる我が主に歯向かうことこそ愚かと言わしてもらおう」
「今すぐあの竜巻を止めなさい!」
「まさかそう言われて本当に止めるとは思っていまい?」
楓の要求を男は事も無げに嘲笑う。
「止めたければあの竜巻が街に到達する前に私を殺すか魔法陣を破壊するがいい。最も、今頃は既に街は・・・・・・!」
男はそこでようやく街のある方向に視線を向ける。
「な、なんだ!なんだあれは!!」
そして信じられないような表情で街の方角を見る。男の強化された視力は捉えていた。そこには自らが生み出した巨大な竜巻に正面からぶつかり押し合っているもう一つの巨大な黒い竜巻があることに。男の竜巻はその黒い竜巻に完全に押し止められており本来なら既に街を蹂躙している竜巻は全く進めないでいた。
「あれは貴様の仕業か勇者よ!」
魔族の男は先程までの落ち着いた雰囲気は無くなり焦りの表情を浮かべている。
「私の力ではありません。しかしあれは私にとって天恵、貴方にとっては災厄の存在と言えますね。そしてここにも・・・・・・」
そう言って楓はソウマの方を見る。ソウマの存在はこの状況にあって楓に絶望を抱かせないだけの存在感となっていた。それだけ楓にとって先のソウマとの手合わせは鮮烈なモノになっていた。
「どちらにしろこの状況で貴方に勝ち目は有りません。あの竜巻を発生させている術を解いて投降してください」
「勝ち目が無いだと?それは貴様の後ろにいる連中の存在のことを言っているのかね?それとも貴様が私に確実に勝てる保証があって言っているのかね?」
言うと同時に男の周りを紫色の禍々しいオーラが漂い始める。男は先程までの落ち着いた雰囲気を取り戻している。
「(あのオーラを纏いだしてから妙に自身有り気な感じが戻ったな。なにかとっておきの技かなんかなのか?)」
「(明らかに先程よりも戦闘力の向上の兆しが見えます。先に姉上の技を見て失った冷静さと自信が元に戻っています。あの紫色のオーラはよほど自信がある技か何かのでしょうか?)」
ソウマとアイスは楓と魔族の男のやり取りを最初から黙って見守って魔族の男と足元の魔法陣を観察していた。
「(魔法陣の方は以前見たガラルドのとは少し違うみたいだな。術者の存在を術の核にして起動させてるから術者自身の命が消えれば禁忌魔法の方も消える仕組みか。ガラルドの使った禁忌魔法はあの中でも最上級の禁忌魔法だったがこの術はそれにかなり劣る代物だ。しかしそれでも禁忌魔法は禁忌魔法だな見た所あの魔族の男じゃ起動させるのは無理な気がするな。なにか代わりのものでも・・・・・・)」
そこでソウマは視界の端にあるモノを発見する。それは黒い山のようで・・・・・・・。
「おい、おっさん」
そこでソウマは突然男に話しかける。
「何だね?」
「一つ聞きたいんだがあの禁忌魔法、どう考えてもお前さん一人で起動させたとは思えない」
「だから?」
「魔族の・・・・しかも将軍様がまさかこんな敵地に一人では来ないよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何が言いたい?」
「お前・・・・・自分の部下を・・・・・・使ったな?」
「!」
「!」
「!」
ソウマの言葉に男は目を見開く。そしてソウマの言葉の意味を察した楓とアイスが驚愕の表情になる。そして同時にソウマと同じモノを視界の端に捉える。
「あ、あれは!」
それは黒い山、多くの魔族の兵士達で積み上げられた屍の山だった。それらの死骸に目立った外傷は無く全ての死骸の顔は虚ろで普通の死体と比べて違和感があった。
「まさか貴方自分の部下の魂を禁忌魔法の生贄に使ったのですか!?」
その事実に気付いた楓は信じられないという顔で魔族の男を見ている。アイスも何も言わないが嫌悪感を露わにしている。彼女も一国の騎士団の長に身を置いた身である。そして真面目で責任感の強い彼女であるからこそ部下を犠牲にするという行為自体が理解できないものであった。
「貴方それでも部下の命を預かる将軍ですか!?目的を遂行する為に自分の部下をまるで捨て駒の様に命を奪うなんて」
「勘違いするな」
楓の詰問に男は冷静に言葉を返す。
「私の部下たちは捨て駒ではない。彼等の命は我が偉大なる主の下された崇高なる任務の為の名誉ある一助となったのだ。これは名誉なことだ、我が主の為にその命を使えた彼等を私は誇りに思っている。貴様の常識で私の部下の命を侮辱するのはやめてもらおう」
「それは貴方の勝手な理屈でしょう!その勝手な理屈で命を奪われた者達が全員貴方の考えで納得する筈がありません!彼等にも大切な者や残してきた者が居た筈です!」
「やれやれ、敵であるはずの者の命すら心配するとはさすがは勇者といった所だがその考えこそ押し付けというものだよ」
「しかし!」
「あ~まてまて」
更に口論を続けようとした楓をソウマが横から手で遮って止める。
「この手の話は平行線を辿ってばっかで決着するもんじゃない。戦争やる以上はどっちも自分の正義を掲げてやるもんだからな。それよりも俺はちょっとお前ら魔族に聞きたいことがあったんだよ」
「・・・・なにかね」
魔族の男は少し警戒しながらソウマに聞き返す。先ほど逸早く兵士達の事に気が付いたソウマに男は警戒していた。
「お前ら魔族は本来実力主義の個人主義の集まりの筈だ。己より強い者相手でも滅多な事では従わない性分の筈だ。そんなお前らが一人や二人無くても数人程度ならまだしも種族全体がそこまで纏まって統率されてるのは明らかに異常だ。よしんばお前らのトップの魔王がそれだけ強くとも不自然だ。俺はどうもそのへんが不可解なんで聞いときたいんだ。将軍のアンタならなんか知ってるんじゃないか?」
「ふふふふふふふっ」
ソウマの言葉を聞いた男は小さく忍び笑いを漏らす。
「魔王・・・・・・魔王様か、確かに今代の魔王は強い。だが今代の魔王は只強いだけではないのだよ」
「強いだけじゃない?そりゃあ知力とか治世に長けてるって意味か?個人でそれほどの能力を持った魔族が居るとは確かに驚きだが・・・・・」
「個人ではありません」
「何?」
すると魔族の男からではなくソウマの横にいる楓からだった。
「少し前の事ですが別の勇者の人が魔族と戦闘の折に魔族より聞き出したことですが現在魔族には四人の魔王が存在しているそうです」
「四人だと!」
ソウマは思わず聞き返す、ソウマが昔にラルクに聞いた限りでは魔族には代々魔王は一人しか存在しない筈である。それが一度に四人の魔王とはソウマが驚くのも無理もない。
「つまり四人の魔王の強大な力で無理矢理に魔族全体を統治してるって訳か?しかしそれだと今度は別の疑問が出てくるぞ?その四人の魔王はなんでそれぞれ覇権争いをしない?魔族は強ければ強い程徒党を組むのを嫌がる。現に先代の魔王は完全な個人主義者だった」
「ふふふふふ。どうだろうなぁ?だが話はもう終わりだ。私も主の目的を完遂する為に一刻も早くあの黒い竜巻を消し去らなければいけないのだからね」
「・・・・・・・・いいだろう、俺もあそこで持ち堪えている奴を待たせている。聞きたい事はまだあるがさっさと俺も終わらせたいのは同意見だ」
すると男の紫のオーラは次第に濃くなり霧の様な濃さになる。そしてその霧の中に兵士達の死体が取り込まれる。
「何をするつもりですか?」
楓の疑問は直ぐに答えが示された。霧の中から人型の何かが出てくる。それは先程の魔族の兵士達だった、いや正確には兵士達だったものだ。浅黒かった肌は紫色に染まりその瞳は黄色く染まっている。そしてそのまるで生気を感じさせない様子と動きから彼らが既に生き物として完全に終わっていることを物語っていた。
「遺体すら冒涜しようというのですか!」
「死してすら我が主の為に役に立てるのだから光栄に思ってもらわなければね。そして素晴らしいだろう?これが我が主から授かった力だ。そして私自身も・・・・ウヌァァァッガァァァァァァ」
言うと同時に男の体が盛り上がり身を包んでいる鎧を内側からの肉体の盛り上がりで弾け飛ぶ。そのまま膨らみ続けた肉体は筋肉というよりもまるで金属のような光沢放つほど高密度に発達しそれそのものが先程弾け飛んだ鎧以上の硬度を持った鎧であることを物語っていた。頭の角は更に長く太くなり肌も兵士達と同じ紫色に染まる。手に持っていた剣はいつの間にか男の体格に合わせるように巨大化していた。
「ドウカネ?コノ偉大ナ力コソ我ガ主カラ授カッタ力ダ。以前ノ私トハ比ベ物二ナラ無イ程ノ力ガコノ体二満チテイルノガ実感デキル」
「こ、この力は!?」
楓は男から感じる力の威圧感に戦慄する。
「(今の私では勝てない!)」
楓は直感でそう理解する。加えて周りはゾンビ兵で囲まれている。
「俺もあまり時間は掛けたくない。一瞬で終わらせるぞ」
「ソレハ此方ノ言葉ダ。ソシテ、マサカト思ウガ勇者デハナク君ガ私ノ相手ヲスルト言ウノカネ?」
ソウマは肩を竦める。
「まあな、残念だが今のお前さんの力はあいつじゃ持て余しそうなんでな。(アイスで勝てないことも無さそうだがかなり時間が掛かりそうだし)」
「私ヲ舐メテイルノカ?ソレハ貴様モ同ジコトダ。私ノ力ハ最早大型ノ竜種二スラ迫ルモノダ。貴様如キ勇者デモナイ人間二勝テルモノカ。貴様ラハ我ガ兵士達二始末サレルノダ」
「兵士なんているのか?」
「ナニ?」
「《起動》、待機魔術発動《氷の世界》」
アイスが鍵となる言葉を口にした瞬間、世界は氷に包まれる。
「ナンダト!?」
一瞬で周りは氷で包まれゾンビ兵達も一瞬で氷の壁の中に包まれる。アイスは先程からソウマや楓のやり取りを聞きながら敵に何らかの伏兵の気配を読み予めこの術の準備をしていたのだ。ラルク直伝の予め術を完成させて任意のタイミングで術を発動させる時限魔術を準備していたのだ。
「バ、馬鹿ナ!オ、オノレェェェェェェゲッ???????」
激情のままにソウマに躍りかかった男が次の瞬間見た者は自分の首の無い体だった。
「ガ!!!!!!???????」
そしていつのまにかソウマが剣を振り切った格好で男の背後に立っていた。
「言ったろ?一瞬だって」
あまりに一瞬の出来事に楓は茫然自失としていた。
感想お待ちしてます。皆さんも風邪には気を付けましょうね。




