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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
20/72

20話 闘う意思

「・・・・・・・・・ん」


「あ、気が付いたみたいね」


 ソウマの一撃を受けた楓が気絶してからしばらくが経過してからようやく楓の意識が覚醒を果たす。


「大丈夫、楓?」


「・・・・・え?」


 自信の頭上から聞こえてくる美しい旋律に引き寄せられるように楓は瞼を開ける。


「(あれ?私死んだ?)」


 楓は思わずそんな事を考える。なにせこれまで経験してきた中で比較するのも難しい程の一撃を受けて気絶した後、ようやく目覚めて最初に目に飛び込んできた光景がこの世のものとは思えないほどの美女の顔である。楓はその時本気で自分が先の一撃で死んでしまったと思った。


「楓?」


 再度その美女が自分の名を呼ぶ。それでようやく楓は今現在自分が美女の・・・・・シルヴィアの膝を枕にして寝かせられていると気が付いた。


「え?・・・・あ!」


 それが急に恥ずかしく感じたのか楓は顔を少し赤くしながら慌ててシルヴィアの膝から起き上がる。


「ふふふふふっ、大丈夫そうね。ソウマが無茶をしたから心配していたの」


 シルヴィアはそんな楓を見て微笑する。


「おいおい、ちゃんと手加減はしたぜ?それにここは練兵場だろ?あの砂時計を見た感じだったらライフの加護くらい付いてんだろ?」


 そう言ってソウマは練兵場の壁の中に埋め込まれるように設置された人一人程の大きさの巨大な砂時計に視線をやる。


「ええ、一応・・・・」


 ライフとは命を司る神の一柱である。彼の神の加護が施された空間は二十四時間・・・・・以内であれば・・・・・・一度だけ死んでも復活することができる。ライフは基本的に友好的な善神で祈りを捧げれば割と簡単に加護をくれる。その加護が施された空間の広さは場所によって異なるが各国の練兵場や闘技場には大体ライフの加護が施されている。そしてその加護が施された空間には必ずあの砂時計が出現する。砂時計は見る者によって見え方が異なる。その空間内で二十四時間内に一度も死んでいない者には砂時計の中に砂は見えない。しかしその空間内で一度死んでいる者は砂時計の中の砂が見える。つまり一度死んだ者はその砂が落ち切るまではその空間内で復活できないのである。因みにこの空間は空間一つにつき一度復活できる。二十四時間以内に一つの場所で死んで復活しても別の加護がある場所でも一度は復活できる。当然その空間ごとに二十四時間が経過しなければ再び復活できない。


「だったら大丈夫だろ。第一普通に気絶しただけ・・・・・・・・・だっただろ?」


 この空間内では死亡した者は自動的に空間外に弾き出されて復活する。死亡以外の気絶等はその場で倒れたままである。


「いくら一度は復活できるからって誰も好き好んで死にたいとは思わないでしょうが」


 そう言って立ち上がったシルヴィアがソウマの頭に手刀を入れる。


「まあ、確かにそりゃそうだわな」


 いくら加護のある空間では生き返れるとはいえ痛みまでは消えることはない。文字通り死ぬほどの痛みを経験した後に蘇る為に中には心にトラウマが残る者も実は少なくはない。だから生き返れるのは分かっていながらそこまでやる程の者は当然の如くかなり少ない。


「まあ、痛みと恐怖は教訓だ。痛みや恐怖のない訓練や修行はなんの成長も経験ももたらさないもんだ。仮にもたらしたとしてもそれは本人にとっても周りの人間にとっても碌な結果にならないことが多い」


「確かにそれは言えるわね。私の種族はそのへんがイマイチ鈍くなりがちな者が多いから私も気を付けるようにしないとね」


 ソウマの言葉に思うことがあったのかシルヴィアもウンウンと頷いている。


「私は・・・・・・痛ツ・・・・負けたのですね」


 楓が立ち上がろうとしながらも未だに先のダメージが回復しないのか顔を痛みで歪める。


「ほら無理しない。あまり得意ではないけど回復魔術をかけてあげるから」


「それでしたら姉上、代わりに私が彼女の回復をしましょうか?」


「あら?貴女回復魔術が使えるの?」


「はい、昔ラルク様に一応覚えておいて損はないと教わりました。専門職とはいきませんがそれなりに回復系にも適性があったようで最上級は使えませんが上級位なら使えます」


「十分よ。なら貴方に任せることにするわ。私は種族特性上どうしても回復系の魔術と相性が悪くてね」


「性格の問題じゃね。確かお前ら王族級の吸血鬼はハイエルフと同じ全属性に適性があるはずだろ?だったらそもそもお前の性格が人を治すのに向いてぎゃ!」


 余計なことを言ったソウマがシルヴィアの影の礫を額に喰らった倒れる。


「それでは楓さん、回復魔術を施します」


「はい、お願いします」


 そんな二人のやり取りをアイスが苦笑しながら楓が驚愕しながらも見つめている。それを見ながらアイスが楓に回復魔術を施す。


「万物を構成する要素よ、生ける者を癒す祝福と成れ【聖願】」


 アイスが詠唱すると楓の体を蒼い輝きが包み込む。すると楓の体の所々にあった小さな傷が次々と消えていく。それに伴い先程まで痛みで顔を顰めていた楓の顔色も徐々に良くなっていく。恐らくは打ち身や骨折等も数か所あったはずの怪我も数秒の内に回復する。


「・・・・・凄い」


 楓が自身の体を見つめながら思わずそう呟きを漏らす。


「ここまで凄い回復魔術はラルク様以外で初めてです」


 この世界では回復魔術の適性を持つ者は少なからず存在するがそのほとんどの者が初級~中級までの使い手しか居ないのである。数少ない上級以上の使い手は国や宗教関係の者達が囲ってしまうのだ。そしてかなり高い報酬で回復を請け負うのである。


「へえ、そうなんだな」


 それを聞いたソウマはそんな言葉をこぼして不思議そうな顔をする。見ればシャルロットも同じような顔をしていた。それを楓は疑問に感じる。


「?、エテルニタ王国では違うのですか?」


 楓が疑問に感じたことをソウマに尋ねる。


「違うな、大体大怪我した者が城まで来たらラルクが直ぐに治して返してたからな」


 その答えを聞いて楓は驚愕する。


「ほ、報酬は受け取らないのですか!?」


「ん~、俺は受け取ったのは見たことがないな」


「偶に自分の方から出向いて行くことも有ったわよ。確か街を歩いてる時なんかに怪我をした者が居た時はそのまま自宅に行って治療をしたこともあったわ」


「なんだ、あいつ偶に居なくなると思ったらそんなことしてたのか」


「もちろん頼まれればなんでもかんでも治すわけじゃないわよ。ソウマも言ったけど痛みや恐怖は教訓になるから簡単に怪我を治していたらそもそも危機感そのものが欠如する恐れもあるからその辺は考えて治療しているみたいよ」


「前に私が悪戯して転んで膝を怪我した時もラルク治してくれなかったもの。「悪戯する罰も兼ねてその怪我の治療はお預けです。今後はその痛みを教訓に悪戯を控えて下さい」って言われちゃった」


 シャルロットが下を出しながら笑う。


「ああ、確かにシャルが封印から出てしばらくソウマが居ないのを寂しがってよく周りの者に悪戯してたっけ?」


「もう!それは言わないでシルヴィア姉様!」


 シャルロットが顔を赤くしながらシルヴィアに抗議する。


「・・・・・・・!」


 しかし楓はそれに注目する余裕はなかった。自信の知るこの世界の常識と彼等の会話のあまりの食い違いに衝撃を受けていたのだ。


「ち、ちなみにラルク様が使用できる回復魔術の等級は・・・・・」


 ようやく言葉を絞り出した楓は何とかそれだけを聞く。


「最上級の回復魔術が使えるわよ。というかラルクは現存するほとんどの魔術を極めてるんじゃなかったかしら?」


「ああ、さすがに時間系や創造系の魔術は自在とは言わないらしいがな。それと知っての通り現在は召喚系の魔術の新しい可能性も探ってる途中だ」


「!!!」


 シルヴィアとソウマの言葉に楓は完全に言葉を失う。最上級魔術の回復魔術の使い手などそれこそこの大陸で確認できるだけでも一人しかいない。それも滅多に人前に姿を現すことが無くその相手は専らどこかの国の王族だとか貴族だとかだ。それをラルクは一般の民にしかも無償に近い形で治療を施しているという。思わず楓は眩暈がしそうになった。


「(以前の私達が稽古を付けてもらっていた時に手加減をしているとは分かっていましたが本当の本当に手加減していたのですね)」


 約二年前にエテルニタ王国で楓や他の勇者がラルクとシルヴィアに鍛練を受けていた時、シルヴィアは影を一切使わず通常の武器で相手をしラルクはほとんど中級魔術のみ(それでも並の魔術師の上級以上の威力と速さはあったが)で上級魔術は一度しか使わなかった。ソウマとシルヴィアの今の会話を聞いてそれがどれほどの手加減だったのか察することができた。


「回復魔術ってそんなに重要なもんなのか?俺は大概の怪我は飯食って寝たら治っちまうからよくわからん」


「そもそもソウマは怪我なんか滅多にしないでしょ。普通の人はちょっとした事で直ぐに死んじゃったり怪我しちゃったりするんだから結構重要なの。特に上級回復以上は特にね」


 回復魔術の効果は初級で擦り傷や軽い切り傷程度が数分で回復する程、下級で時間を掛ければそれなりに大きな傷も治せる程度、但し骨折や内臓のような体の中の怪我は治せない。中級では時間が掛かるが骨折や内臓の中も治せるようになる。上級は外傷や骨折や内臓の怪我はほぼ数秒で治すことができる。しかし無くなった部位の再生はできない。最上級の回復魔術は失った部位の再生を可能とする。事実上死んでいなければどんな状態からでも回復させることが出来る。


「ラルクもそこまで重要視はしてなかったけど各国のお偉い人達は少しでも自分の生存率を上げたいのよ」


「ふ~ん、そんなものかね」


 ソウマはイマイチ曖昧な返事をシルヴィアに返す。


「終わりました」


 アイスが声を上げる。どうやら喋っている間に治療が終わったようで見れば楓の負傷は綺麗に完治していた。


「ありがとうございます」


「それで、どうだった楓?実際に手合わせしてみたソウマの実力は?」


 シルヴィアが楓に訊ねる。


「正直かなり驚いています。まさか貴方とラルク様以外にこれ程の実力の持ち主が居たとは思いもしませんでした。私も魔族との戦いを経験してそれなりに実力を付けたと思っていたのですがその自信もコナゴナになりましたね」


「その手の感情をソウマに対しては感じるだけ無駄だと思うわよ?」


「そうです。師匠マスターに負けたことを気に病むのは天災に対して挑むのと同じくらい無駄な事だと思います」


「お前らなぁ・・・・」


 ソウマが二人のセリフになんとも言えない顔で二人を睨む。最近はアイスもこの手の会話に容赦のない意見を言う事が増えてソウマとしては勘弁してほしい所である。


「しかし人族で貴方ほどの実力者が居るのであれば私達のような勇者が呼ばれる必要は無かったのでわないでしょうか・・・・・・」


 楓はソウマの実力を感じて勇者の存在意義する疑問に感じ始めている。


「あ~それについては仕方がない部分が多少はあるはね~」


 それを聞いたシルヴィアが苦笑しながら楓に説明を始める。


~~説明中~~


「そんなことが・・・・・」


「そういうこと、確かに貴女の言う通りソウマが封印される百年前なら魔族もこんな馬鹿な真似もしなかったでしょうね。私やラルクはともかくソウマは放っておいても勝手に魔王を興味本位で倒すでしょうけど百年も音沙汰無ければさすがにこんな行動をする場合もあるわね」


「むしろ興味本位で倒される魔王に私は同情しそうです」


 話を聞いていたアイスが苦笑しながらそんな感想を漏らす。


「それでは貴方の力を我々に貸していただけないでしょうか?」


「悪いがそれはできない」


 楓がソウマにそう切り出す、それをソウマはほとんど間を置かずに答えを返す。しかしその答えを楓は半ば予想していたのか特に残念そうな顔をしなかった。


「何故かお聞きしても?」


「まあ、理由は幾つかある。一つはラルクに今はまだ魔族に関わるな言われたことだな」


「そうですか、ラルク様も昔同じ頼みをした時に聞かされた理由も同じでした」


「そうだ、今現在の状況はいつもくだらない事で小競合いを続けている人族が一応であるが纏まることができる貴重な機会だからしばらくはこの状態が続いた方がいいらしい」


「それは・・・・・・・まあ、理解はできます。私の世界でも似たような状況ですから」


「二つ目が俺は今の所魔族や魔王に興味が無い。俺は今は百年経ったこの世界を見て回る方が興味が深いんでね。久しぶりに会ってみたい奴や行ってみたい場所が結構あるんだ」


「それでこの世界のどこかで罪もない力弱い人が死ぬとしても?貴方にはそれを救うだけの力が有るのに?」


 楓が少し責めるようにソウマに問い掛ける。


「貴方なら今すぐにでも魔族領に行って魔王を倒すことも可能なのでわないですか?」


「まあ、出来るだろうな」


 ソウマは誇るでもなく謙遜するでもなく淡々と事実のみを告げるように簡単に言う。


「そんな力を持つ貴方が同じ人族を見捨てて自分の欲求を満たすと?」


「それのどこが悪い?」


「!」


 ソウマは再び淡々と告げる。


「人が自分の為に生きることはそんなに悪い事か?そりゃ確かに力を使って悪さをするのは罪だ。そりゃあ俺だって助けられる命は助けたいと感じる、でもそれは飽く迄も自分が関わった上での案件だ。基本的には俺は俺の世界を守る為だけにしか力を使わない」


「貴方の・・・・・・世界?」


 そう聞かれたソウマは視線をシルヴィア・シャルロットの順に視線を向ける。


「こいつらが悲しませない世界、それが俺の望む世界だ。以前の俺は自分の強さにしか興味が持てない男だった。だがこいつらと出会って俺の世界はそれ以上の輝きと色に満ち溢れた。俺はそんな俺の世界を変えてくれたこいつらの望む世界の為に力を振るう」


「彼女達が望めば世界を滅ぼすと?」


「滅ぼそう」


 今度はやや胸を張るようにソウマが言う。


「こいつらがこの世界に絶望しこの世界の終焉の望むのならその力になろう。逆に今すぐこいつらが世界を救えと言えば今すぐにでも神だろうが魔王だろうがぶった倒してやるさ」


「私はソウマの好きなように生きて欲しいな。そんなソウマを見ているのが私は大好きなんだ」


「ええ、シャルの言う通りよ。私もソウマには誰かに従って生きるなんて生き方は選んで欲しくはないわ。ソウマが自由に生きる世界が私の望む世界よ」


 ソウマの言葉にシャルロットもシルヴィアも嬉しそうに答えを返す。


「て、言う事だ」


「・・・・・・わかりました」


 そう言った楓は少し残念そうではあった。


「だが・・・・」


 するとソウマがそんな楓を見て声を掛ける。


「俺も流石にそんな顔をする奴を無下に突き放す程心も荒んじゃいないつもりだ」


 そう言ってソウマは楓に一枚の紙きれを渡す。


「これは?」


「ラルクから大量に貰った通信用の魔術が付与された紙だ。それを持って一度でも会話をしたことがある人物の顔を思い浮かべながら魔力を込めるとそいつが遠くに居ても会話ができる仕組みになっている。なにか困ったことがあったらそいつで俺かシルヴィアかラルクを呼べ」


「!」


 楓は驚く。ソウマから受け取った物はこの通信手段の乏しい世界からすればまさに革新的とも言っていいアイテムである。それをまるで名刺を渡すかのように簡単に数枚手渡したソウマに楓は驚愕の眼差しを向ける。


「いいのでしょうか?これを貰ったこともそうですが貴方やシルヴィア様、ましてやここに居ないラルク様を頼ってしまって・・・・・しかも私だけが・・・・・・」


 どうやら楓は自分だけがソウマ達の力を借りることに後ろめたさがあるようで少し戸惑っている。ソウマ達の実力を良く知るが故に他の必死に戦っている勇者達に申し訳ないのだろう。


「構わない、ラルクからも信頼した相手なら渡して構わないと言われているからな。それで自分のとこに連絡が来る可能性もラルクの事だから当然想定済みだろうさ。それに先も聞いただろう?俺は俺の世界の為にのみ力を振るうって、このまま黙ってこの国を出たんじゃシャルが悲しむからな」


 シャルロットもソウマに自由に生きて欲しいと言ったが元が心優しい性格の少女なのでこのまま楓の事情を知った上で何もせずにこの国を出れば表面上は気にしていなくとも心の奥では気にしているような性格である。ソウマもそんなシャルロットの性格を十分把握しているようでこのような提案をしたのだ。


「だからこれは俺の我儘みたいなもんだ。だからお前は遠慮なく俺達を頼ればいい。あんまりそれを他の人間に渡されるのは勘弁だがな」


「渡しません」


「そうか、ラルクじゃないが出来る事ならお前もあんまり無理はするな。その気になればラルクがお前を元の世界に返してくれるからいつでもエテルニタ王国に行けばいい。まあ今日見たお前の性格上この国の人間を見捨てて自分だけ元の世界に帰る選択肢は無さそうだがな」


「はい、お気持ちだけ頂きます」


 楓はそう言って頭を下げる。どこまでも律儀な少女である。


「まあ、魔族に関してはいずれ俺がなんとかしてやるよ。ラルクが風に言うなら十分に人族全体が学んだらって言うべきかな?それに案外俺が倒さなくてもどこかの勇者が倒しちまうかも知れないぜ?そう言えば魔王に会った勇者っているのか?」


「少なくとも私が知っている限り居ない筈です。魔王は魔族領の最奥の城から幹部達に命令を出して人族を攻めているようですから」


「そうすると魔王を倒そうと思ったら魔族領に直接乗り込むしかないってことか・・・・」


「はい、しかしそれには人族の総力が必要になります。しかし現状では・・・・」


「各国は自国の防衛のみしか頭に無いからほぼ不可能っと」


「だからアウロ王とラルクが一時そういう提案を各国の代表を集めて議論したことがあったのだけれどどこの国も自国のことで頭が一杯で全く聞き耳持たなかったらしいわ。その癖に他の国には資源を寄越せだの救援をしろだの注文ばかりだったの」


 シルヴィアが呆れるように口にする。


「呆れたラルクが人族全体がそう言う考えを持つまで魔族を放置することに決めたのよ。そうでもしないととてもではないけど人族全体が纏まるなんて無さそうだから」


「そう言われてはぐうの音も出ません」


 楓自身もその考えは否定できないのか苦々しい表情を浮かべる。


「だから楓としては納得いかない思うけど私もラルクも多少の犠牲はしょうがないと割り切っているのよ。アウロ王も人族全体が纏まるなら力を貸すつもりだったのだけれどそんな調子だったから彼も自国の防衛のみに専念したの。ソウマも私達の考えに賛同してくれたわ」


「・・・・・・・・」


 そんなシルヴィアに複雑そうな顔を向ける楓。


「こんな私やラルクを残酷だと思う楓?」


「・・・・・・・・」


 シルヴィアに聞かれた楓は暫く考える。やがて静かに顔を上げる。


「いえ、確かにシルヴィア様の言う考えは私には到底賛同できるものではありませんが言わんとすることは十分理解できます。確かに現状の状態で人族が一つに纏まって魔族に対するにはその方法しかないことは私も分かっています。残念ながら現在の私達勇者の実力ではそれぞれの国を護ることは出来ても単独で魔族領に入って魔王を倒すのは不可能ですので・・・・・」


 楓は悔しそうにしながらも事実を口にする。楓自身も現状ではどうにもならないことは十分承知しているようだ。


「んで、ラルクが言うにはそれでも人族が纏まらずにどうにもならなくなった時に俺の出番らしい」


「そういうことですか、・・・・・そちらの言い分は理解しました。残念ながら今の私ではそちらの意見・考えを否定するだけの根拠も力も持ち合わせておりません。力を持つ貴方達を否定するだけの力を持たない私は貴方達を止める術も方法も知りませんから。私はこの世界で学びました。この世界では力が有るものが全てだと、力が無い者は力有る者に従うしかない事を」


「それは違うぞ」


 楓の言葉を聞いていたソウマが突然楓の言葉を遮る。


「え?」


「確かにこの世界では力有る者達が幅を効かせる世界だ。それは否定しない、実際に今俺が好き勝手に生きようとしてるわけだからな。でもな、だからって力が無い者が力有る者に従わないといけないなんて理屈は存在しない。力は所詮力だ使う者によって力は武力にも暴力にもなる。この世界に居る者の中には力を暴力にしか使わない者も存在するがお前のように力を武力に使う者もいる。お前は弱者を力で従わせようとは思わないだろ?」


「はい」


「人は確かに力に従う傾向にある。だがな力では魂まで支配することはできない。どんな者も表面上では従っても魂には反抗の意思が残っていれば人は必ず力に抗う。人の強さは力の大きさでは無く魂の強さだ」


「魂の・・・強さ・・・」


「まあ、同じだけの弱さも持つのが人ではあるけどね。それでも団結した時の人の強さはソウマの言う通り計り知れないわ。団結すれば・・・・・だけどね」


 シルヴィアもソウマの言葉に続くも最後は少し自信なさげになってしまった。


「ようするに力の大きさが全部じゃないってことだ。俺がお前より強いからってお前が俺に従う理由は無い。お前はお前の信念と魂に従えばいい」


「はい」


『ソウマ』


 すると突然ソウマの脳内に響く様に声が聞こえる。それはラルクの声だった。


「どうしたラルク?突然連絡なんかして?まさか王国の方で何かあったのか?」


『いや、此方は問題ない。問題があるのはそっちの方だ』


「?、どういうことだラルク」


『現在君達が居るのはアグアラグ王国だね。その国から海側に十数キロ離れた地点に巨大な魔力反応が感知された』


「巨大な魔力反応って何だよ?」


『それは僕にも分からない。でも魔力の大きさだけを見れば最上級魔術の発動を遥かに凌ぐ規模だよ』


「あ?それって・・・・」


『うん、十中八九禁忌魔法を誰かが使ったのに間違いないと思う』


「どうしたのソウマ?ラルクからの連絡?なんだが少し前から肌がピリピリするのだけれど関係あるのかしら?」


「あ~実は」


「楓様!」


 ソウマがラルクからの連絡内容を伝えようとすると練兵場に兵士が血相を変えて飛び込んでくる。その慌てぶりは練兵場に駆け込むと同時に転んでしまう程である。


「なにかあったのですか!?」


 駆け込んできた兵士の様子にただ事ではないと思ったのか楓も表情を硬くして兵士に訊ねる。


「我が国から数十キロ離れた海にきょ、巨大な竜巻が発生し現在一直線にこの国に向かっております」


「な、なんですって!!?」


 兵士の報告に楓は驚愕の表情になる。


「何故竜巻が突然出現したのですか!?」


「わかりません、王宮の魔術師によれば突然巨大な魔力の流れが発生したようですが・・・・・」


「禁忌魔法だ」


「え?」


 楓と兵士の会話に入るようにソウマが言葉を挟む。


「たった今ラルクからも同じ連絡が入った。ほぼ間違いなく誰かが禁忌魔法を使ってこの国に竜巻をぶつけようとしている」


「き、禁忌魔法!」


 楓も禁忌魔法の存在は知っていたのかその表情が先ほど以上の驚愕に包まれる。


「い、一体誰が禁忌魔法を使ってこの国を?」


「まあ多分魔族じゃないのか?」


「魔族が?しかしこれでは下手をすればこの国は跡形も残りません。侵略した地が滅んでいてはそもそも戦争する意味も無いではないですか?」


「つまり魔族の目的が人族の支配・侵略じゃなくて殲滅が目的ってことだろ?」


「とにかく楓様、王がお呼びです。一緒に来ていただけますか」


「わかりました」


 返事をした楓はソウマ達に向き直る。そしてなにか言い難くそうな顔になる。


「早く行こうぜ」


 そんな楓にソウマが笑いながら声を掛ける。そんなソウマをシルヴィアとシャルロットが嬉しそうに見ている。


「はい!」


 楓は嬉しそうに答えた。


 ※※※※


「なんとかならんのか楓よ!」


 王宮の玉座がある部屋に案内された楓とソウマ達は現在この国の王と対面していた。


「(こいつがこの国の現国王か)」


 ソウマは王と楓の会話を聞きながら王を観察する。


「(こりゃ駄目だ。先代も恐らく今のこいつと同じ感じだったんだろうな)」


 ソウマは王の瞳を見る。その瞳にあるのは明確な恐怖だった。


「(先代もようはビビったんだろうな、ラルクやシルヴィアに)」


 王の瞳にある恐怖は現状に対する恐怖もあるが目の前の楓に対しても恐怖の感情を抱いている。


「王よ、残念ながら私では確認しましたがあの竜巻をどうにかするのは不可能です。国を捨てて避難してください」


「それを何とかするのが勇者の仕事であろうが、なんの為にお前を召喚したと思っているんだ!故郷に帰りたいのであろう!」


 王が椅子の肘掛を叩いて声を荒げる。完全に癇癪を起して冷静な判断すらできなくなっているようだ。


「ちょっと・・・・」


 責められている楓を庇おうとシャルロットが言葉を発しようとするがソウマが手で遮る。


「なんとかするのだ。余は魔族如きに背を向ける気は一切ない」


「では国民に非難するように呼び掛けて下さい。少しでも遠く国民を遠くに逃がさないと」


「ならぬ」


「何故です!」


 王の言葉に今度は楓が激高する。


「我が国の国民にも魔族如きに背を向ける者は一人も居らぬ」


「なにを言っているんですか!そんなわけが?・・・・・」


「その方の仕事は避難の誘導では無くこの国の防衛だ。早く己の役割を果たすが好い」


「しかし・・・・」


「無駄だ」


 なおも言い募ろうとした楓をソウマが言葉を挟んで遮る。


「この手の相手に何を言っても無駄だぜ楓。こういう輩自分が死ぬ瞬間まで自分の間違いに気付かないもんだ」


「先ほどから思っていたがその方等は何者だ?見ればこの国の者ではなさそうだが・・・・・?」


「旅の流れ者さ。楓、ここで議論しても時間の無駄だ。行こうぜ」


「い、行くとは何処に行くというのですか?」


「決まってんだろ」


 聞かれたソウマはニヤリと笑う。


「竜巻を何とかするんだよ」


 シルヴィア・シャルロット・アイスがソウマの言葉に笑顔を浮かべていた。



 


次の更新もなるべく早くします。

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