2話 世界最強は蹂躙する
連続です。
指揮官の男は最初は半信半疑だった。自分の主からこの部隊を与かる時に目的を聞いたがその目的がたった一人の男にぶつける為だけの部隊だという。最初にそれを聞いた時男は思わず自らの主に聞き返していた。
「そこまでの男なのですか?」
と、するとその主は一度男を見た後最初に見ていたなにやら難解な文字が書かれた書物に再び視線を落とす。その部屋の主であるその男は深いローブを目深にかぶりその顔には影が差している。かなりの老齢に達しているのかその顔には深い皺が刻まれている。白く長い顎鬚蓄えたいかにも魔術師然とした男はその眼だけは不気味な程光っていた。しかしその光はどこまでも深く暗くなにかを見ているようでその実なにも見ていないようだ。
「貴様はあの男を見たことがあるかね?」
すると男の主は逆に質問を返してきた。一瞬疑問を感じたものの男は素直に答える。
「いえ、直接戦場等でその男を見たことは一度もありません。噂程度ならいくつも耳にしますがどれも荒唐無稽でとても信じられるものでは・・・・・」
すると男の主は一度ため息をつき再び本から顔を上げ今度は空を仰ぎ見る。
「それは噂ではなく真実だ」
「は?」
主の口から出た言葉に一瞬信じられず男は思はず間の抜けた声がでてしまった。
「し、真実とは?」
「聞いたとおりだ、貴様がこれまで見聞きした噂や物語は誇張でも比喩でもほぼ真実だ」
「いや、しかし・・・」
自らの主から言われた言葉でも男は素直に信じることができなかった。なにせ噂や話の中には神代から生きる竜の王を倒したや魔の国にたった一人で踏み入りそこを統べる魔の王を倒しただとかまである。主の言うことが真実ならこれから男が相手をする男は文字通り物語の中の神話の英雄豪傑の住人ということになる。男でなくても信じられなくとも無理はない話ではある。
「事実だ。今から貴様が対峙する男は人の形をした怪物だ。正直貴様に授けた部隊ですら十分とは言えないだろうが今はこれしか準備できなかった」
やはり男には主が言うことが信じられない。今回主から与かる部隊は部隊の全員が高位の魔法強化に加え全員が魔法付与が施された武具を身に着けさらにはワイバーンまでいる。通常の魔法強化や魔法付与の武具でさえ数人分手に入れるのにどれほどの労力がいるかわからないのにそれが数百人分。しかも下位とはいえ竜種であるワイバーンまで数十頭、小国程度なら訳もなく侵略できる戦力である。間違っても一個人に向けていい戦力では無い。これほどの魔法や武具やワイバーンをどこから持ってきたのかと男は自らの主に戦慄したがその主はこれでも十分ではないという。
「ご安心を。必ずやその男を打ち取ってご覧に入れます」
「いや最初に言ったが貴様の役割は交戦のみだ。打ち取る必要は無い。いやどうせ打ち取れはせんから全滅する前に撤退せよ。適当に死者が出れば十分だ」
「!?」
主の言葉に男は再び驚愕する。完全に今回の戦いは負けると確信している言葉が自らの主の口から出たのだ。
「しかし・・・」
「これ以上の問答は必要ない。もう儂は貴様に必要なことは伝えた。あとは貴様が命令を遂行するのみだ」
「・・・・・・失礼します」
男はしばらく納得がいかなかったが主に逆らう分けにもいかず渋々退出する。それを見送ったあとこの部屋の主である男は再び本へと視線を戻す。
「奴のあの様子では素直に言うことを聞きそうにはないが、まあ私にはどちらでもかまわんが・・・」
男はそう独り言を呟いた後一言も喋らずその奈落のような瞳でひたすら書物を読み続ける。
※※※※
それは正しく蹂躙だった。
「馬鹿な!こんな馬鹿な!」
指揮官の男には眼前の光景が信じられなかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」
黒い人影が手に持つ両手剣を一度振るう度に砂塵が巻き起こり直線上にいる兵が纏めて吹き飛んでいく。斬撃を飛ばしているとか何かしらの技や魔法では無い。単純に剣を振った時の風圧で兵が吹き飛ばされているのだ。
「うふふふふ、行きなさい私の可愛い猛獣達」
もう一人の女の方では女の影の中から無数の数の獣達が生み出されていた。それは、魔の国に生息するという魔獣と呼ばれる生き物に類似しているがたった一つ違う点が一つある。それは女から生まれる獣は全身が漆黒に包まれている。まさしく影から生まれたと形容できるような獣達である。その無数の影の魔獣達が兵たちに襲い掛かる。
「うわわぁぁぁぁぁぁ。く、来るなー」
兵の方も獣に対して反撃を試みるが兵の武器が影の魔獣の体に命中するとその武器はまるで絡めとられるかのように魔獣の体の中に沈んで消えていく。さらに影の魔獣の爪や牙が振るわれる度に兵達の魔法付与の鎧がまるで紙のように容易く引き裂かれる。それはもはや戦闘ではなく一方的な食事であった。
「こ、こんなことがこんなことがこんなことがこんなことが」
男は混乱の極致にいた。男はこの戦闘が開始される直前まで主の言葉を信じていなかった。実際に目的の男を見てそれはほぼ確信に変わっていた。どれほど屈強な男かと考えていれば見ればまだ年若い小僧である。しかもこの世の物とは思えないような美しい女を連れている。男の脳裏には戦闘開始後この眼前の目的である男を始末しもう一人の美しい女を自分の思うさま嬲る様を想像して悦にさえ入っていた。しかし実際に開始されたのは自らの部隊の蹂躙劇。男の精神はもはや崩壊寸前であった。
※※※※
眼前に迫る部隊に対しソウマは腰に下げている両手剣、俗に言うバスターソードを抜く。
「あれ?そっちを使うのソウマ?それって一応の建前上の剣じゃなかったかしら?」
そうソウマの本来の剣は別にある。今彼が抜いた剣は以前ラルクに騎士団長が武器も持たずにいるのは示しがつかないと言われ仕方なく腰に下げている通常の騎士用の剣である。
「ああ、こっちの方が手加減ができるからな、それに剣に頼ってばかりでは俺の腕は上がらん」
「あらまあホントに相変わらずねぇ。でも上手くいくかしらぁ?」
こんな時でも自らの鍛錬のことを考えるソウマにシルヴィアは感心半分呆れ半分の言葉を返す。
「じゃあ私も久々に可愛いペット達の散歩でもさせますか」
そういってシルヴィアがその漆黒のドレスの裾を少し持ち上げればその足元の影が蠢き始める。
「うふふふふ、生まれておいで私の可愛い可愛い獣達」
シルヴィアの影が一瞬大きく唸ったかと思うとその影が一層強く盛り上がり弾けたかた思えばその影の中から次から次に異形の獣達が姿を現す。
「行きなさい。《影獣》」
シルヴィアの合図に影獣達は一斉に敵兵に襲い掛かる。そこから展開されるのは一方的な蹂躙・・・・いや食事だった。敵兵はろくな抵抗もできずに影獣達に引き裂かれその牙にかかっていった。
「おいシルヴィア、あんまり殺しすぎんなよ」
ソウマが剣を振るいながらシルヴィアに注意を促す。そう言いながらも剣を振るう度にその風圧で敵兵が木の葉のように舞っていく。
「わかってるはよ。一応逃げる相手は追わないように命令は出してあるわよ」
「ならいいさっと、おりゃっ」
会話をしながらもソウマは剣を振るい続けて敵兵を吹き飛ばし続ける。
「貴方もあまり人のことは言えないのではなくて?そんなにポンポン人間を吹き飛ばすものじゃないわよ」
「おいおい心外だな、俺はちゃんと向かってくる奴だけを吹き飛ばしてるぜ?」
ガキィィィィィンンンン
すると突然ソウマの振るう騎士剣から甲高い音が響いた。
「あ?」
「あら?」
ソウマとシルヴィアは同時に間の抜けた声を上げる。見れば敵兵の武器と打ち合ったソウマの騎士剣がちょうど中程から折れてた。
「あらあら折れちゃったはね。まあ当然と言えば当然ね。向こうは結構良い魔法武具みたいだしただの武器のソウマの武器じゃそうなるのも当然ね」
「あちゃー、結構いけると思ったんだがな」
「そもそも剣どころか鎧すら出さずにやろうって考えが間違いなのよ」
「そうかなぁ。なんの変哲の無い物でも最大の効果を得るのがホントの達人じゃね?」
「誰に影響受けたのか知らないけどどんな達人も名人も自分の丈に見合った物を使って初めて最大の効果が出るものよ。|達人だから獲物を選ばないんじゃなくて達人だからこそ獲物を選ぶものよ」
「むう、しょうがない。抜くか」
ソウマがそう言うと同時に地面に右手を付ける。
「力を示すがいい強大なる竜王の咢から生まれし剣よ《聖王竜剣》」
ソウマが自らの武器の名を呼べばソウマの右手の地面の下から一本の剣が出てきた。その剣は先ほどソウマが使っていた剣と同じ両手剣の形状をしており大きさもほぼ同じ程度しかしその見た目はかなり異なっている。まず刀身は両刃の中心部分が黒くなっており金属というよりはまるで黒曜石のような輝きを放っている。その黒い部分を覆うよにして青白く輝く刀身に覆われている。そして持ち手の部分は黄金に彩られた竜の形をしている。竜の頭が刀身とは逆向きの下を向いておりその竜の口が直径4~5センチ程度の赤い宝玉が嵌まっている。そして竜の翼をかたどった鍔の部分の中心には白く輝く宝玉が嵌まっている。何よりその剣が放つ圧倒的な力はその剣が出現すると同時に敵兵の動きが止まった程である。
「さて、これを使うとあまり手加減ができないがそれでも来るかい?」
「うっ」
敵兵が怯む。無理もあるまい先ほどですらまるで相手にもならなかった怪物の戦力がさらに上がると言うのだ。
「うううううぁぁぁぁぁぁぁっ」
それでも恐怖を抑え込み無理矢理闘志を奮い立たせた何人かの兵士がソウマに躍りかかる。それにソウマは一瞬憐れみを向けたがすぐに自らも迎え撃つ構えを取る。
「はっ」
気合い一線ソウマは剣を一気に振り抜いた。先ほど同じように技も何も無いただ振り回しただけの一振り。しかしその結果は劇的だった。
ズバァァァァァァァンンンンン
大地が割れた。そうとしか形容できないような一撃だった。ソウマの一振りは文字通り敵兵の部隊を真っ二つにしそれに止まらず後ろにある森の遥か彼方まで両断した。両断された地面の断面の深さはざっと見ただけでは底が分からない。
「あ、ああああああ」
何人かの敵兵がその場でへたり込む。完全に今ので戦意を喪失してしまったようだ。見れば先のソウマの一撃で地上の様子を伺っていたワイバーン部隊のほとんどが撃墜されていた。しかも無事なワイバーンもどうやら恐慌状態に陥っているようだ。乗り手の命令を全く聞こうとしない。ソウマから感じる戦力を野生が感じ取ったのかそれともソウマの持つ剣から放たれる圧力が自身など塵芥に過ぎない程の竜の力だと気づいたのか、或いはその両方か。
「終わったはね」
シルヴィアは今のソウマの一撃で決着が着いたと確信したようだ。敵兵の恐怖は伝染する。一人が恐怖すれば十人が、十人が恐怖すれば百人が恐怖する。戦場とはそういうものだ。この場でのこれ以上の戦闘(食事?)は無意味と感じたシルヴィアは影獣達に自らの元に戻るように念じる。
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!」
その瞬間だった。まさにシルヴィアが戦闘継続の意思を無くし影獣達を呼び戻す為に思考を己から逸らしたまさにその瞬間シルヴィアの背後から先ほどまで茫然自失だった司令官の男が襲い掛かった。狙ってやったものではなかった。自らの主から与えられた部隊も壊滅状態になり、このまま帰っても自分は恐らくは処刑されるという状況で男は半ば恐慌状態に陥った精神でとったやけくそに近い形の攻撃だった。しかしタイミングとしてはこれ以上ないというタイミングで奇襲は行われた。シルヴィアは既にこの場での戦闘は終了したと思い込んでいたその心の間隙、そして油断が重なったことによる完全な死角からの奇襲であった。
「・・・・・・・あっ」
背中からシルヴィアを襲った司令官の男の槍はシルヴィアの背中を貫き胸の中央を心臓ごと深々と貫き貫通した。
「はは、ははははははは、やった。やったぞ。はははははははは、どうだ化け物どもめ」
男の笑い声が響く。シルヴィアの胸からはおびただしい量の血液が流れている。シルヴィアは背中から貫かれた槍に倒れこむように体を逸らしてピクリとも動かない。司令官の笑い声に反応したほかの兵士達がこちらを見る。敵である化け物の一人を始末した光景に部隊の中からも希望の声が上がる。戦意を喪失していた者達も希望を見出し再び立ち上がろうとする。・・・・・・・・しかし。
「はあ、だから油断するなって言っただろ?」
すると仲間を殺されたはずのソウマが突然中仲間の死体に話しかけだした。
「そ・う・ね・こ・れ・は・か・ん・ぜ・ん・に・ゆ・だ・ん・ね」
「!?」
ソウマの行動に一瞬訝しんだ司令官は次の瞬間その死体からソウマの言葉に対する返答が来たことに驚愕する。
「まっ・た・く・ど・れ・す・が・だ・い・な・し・だ・わ」
胸を槍に貫かれているせいか発音が上手くいかないのかよく聞き取れないがそれは間違いなくシルヴィアから聞こえてくる声だった。
「こ、こ、こ、こんな、馬鹿な、俺は、確かに心臓を・・・・???」
司令官の男は現在混乱の極みにいた。自分は確かにこの女の心臓を貫いた。それなのにこの女は何故生きているのか。それが男には理解できなかった。
「残・念・それじゃ・私は・死なないわ」
言うとシルヴィアの体が動き出し胸に刺さった槍を前から背中に押し込む形で抜く。その瞬間一気に血が噴き出すがそれも数秒で止まる。見れば刺されたはずの胸の傷もまるで冗談のような速さで塞がっていく。回復系の魔法や回復薬を使った形跡は無い。そもそもそんなものではあの傷は塞がらない。そもそも死体に使っても意味は無い。ならばこれは。
「そ、そんな。まさか、お、お前は、まさか・・・」
通常の回復薬や回復法術を遙かに凌ぐ回復力。人とは思えぬ美貌。銀色の頭髪に黄金に輝く瞳。それに該当する存在を男は一つしか知らなかった。
「きゅ、吸血鬼。し、しかも王族級!?そんな馬鹿な、そんな伝説の存在が何故こんな所に!」
そう彼女は吸血鬼、しかも男が言ったように王族級・・・・強力な力と回復力を誇る純血の吸血鬼の中でもさらに規格外の力と不死身の肉体を持ち太陽すらものともしないという。吸血鬼の中でさえ伝説に語り継がれるほどの存在である。
「あら良く知ってるはね。意外と博識なのねあなた」
つまるところシルヴィアの油断した最大の原因はこれ。要するにこの場の者では一人を除いて自らを殺せる存在も武器も存在しないといことである。
「あ~あこのドレスお気に入りだったんだけどな~」
この国が吸血鬼を己の陣営に入れているのは聞いていたがまさかこれほどの存在とは・・・。
「何故だ!?純血の・・・・それも伝説とまで言われる王族級の吸血鬼が何故人間の国に仕えている!」
本来吸血鬼はプライドが高く己の種族を至上と考える者が多い。それは歳を経た者、力が強い者、純血の者ほどその傾向が強い。ましてや目の前のシルヴィアは伝説とまで言われる王族級の吸血鬼、その気になれば単身で一国を滅ぼしかねない程の存在である。とても人間に仕える存在ではない。
「あら?それは貴方達も聞いたことがあるんじゃないのかしら」
「??」
指揮官の男が首を傾げる。先ほど立ち直り掛けた部下達は目の前の事態に理解が追い付かず再び固まっている。
「?この大陸にいる人間ならソウマの武勇伝は結構有名じゃないの?」
「武勇伝とか言うな恥ずい」
そんなソウマの返しも男の耳に入って来ない。男の脳内にはここに来る前の目標である目の前の男に関する荒唐無稽とも言える噂の数々だった。
〝曰く古の神代から生きる竜王に挑み認められる″
〝曰く魔の国に君臨する強大なる力を持つ魔法を極めし魔の王と死闘を演じる″
〝曰く世界最強の武具を妖精たちから授かる″
〝曰く最も古く強大な吸血鬼の姫に強さを見初められる″
「!」
男の脳内であまり信じたくない結論が実を結びかける。そんな男の絶望にさらにシルヴィアが拍車をかける。
「今貴方が考えている通り今この大陸中で噂される噂はほぼすべて事実よ。ただ一つ訂正するとしたら・・・・」
「?」
男の心が警鐘を鳴らす。これ以上聞いてはいけないと心が訴えかけるが体は一ミリも動こうとしない。
「流れている噂はほとんどが〝挑んだ″とか〝認められた”とか〝生還した″とあるけどあれは半分ほど正解なのよ」
「半・・・・分?」
男は茫然と聞き返す。
「そう、確かに結果としては噂通りの結果にはなっているけど大事な部分が抜けている。・・・・そう勝ったという言葉がね」
「!?」
「ソウマはね、噂の相手には全て勝利しているの。相打ちだとか力を見せて認められたとか戦い生還したとか曖昧な表現ばかりなのは噂を流した側も半信半疑だったんじゃないかしら?でも間違いなくソウマは竜王にも魔王にも間違いなく勝利した地上唯一の存在よ。・・・もちろんその負けた相手には私も含まれているはね」
自身の敗北を語っているといのにシルヴィアの顔には陶酔した恍惚とした表情すら浮かんでいる。その頬はほんのり赤くそまり全身から香り立つように色香が立ち上る。その雰囲気に司令官の男や周りの兵士達がここが戦場だということも忘れてシルヴィアに見惚れる。
「こらこら、あんまり人の事を言いふらすんじゃない」
ソウマがそんなシルヴィアに待ったをかける。若干頬が赤いのは照れているのだろう。
「あら、いいじゃない。惚れた相手を自慢するのは女として自然なことでしょう?」
「はいはいお気持ちだけ受け取っとくよ。それと時と場所を考えなさい」
「つれないわねぇ。まあいいはそれじゃ捕虜を何人か連れて帰りましょうか」
「そうしよう。早くしないとお姫さんがまた癇癪起こしちまう」
「あら妬けちゃう。私といるよりもお姫さまを優先するの?」
「それとこれとは話が違う!たくとっとと行くぞ」
「はいはい。で?どれを連れてくの?」
シルヴィアはそういって地面にへたり込んでいる兵士たちに指を向ける。
「そこでへたり込んでる指揮官っぽい男一人で十分だ」
ソウマはシルヴィアの前でへたり込む指揮官の男を指さす。
「他の人間はどうするの?」
「逃がしてやれ、捕虜にしても恐らく敵さんは交渉なんかしてこない」
「あらどうして?」
「敵の本当の狙いはなにかはさすがにわからないが今回のこの騒動は恐らくただの捨て駒だ。多分こいつを連れ帰ってもなにも分からないだろうな」
「捨て駒?これほどの戦力で?確かに私達から見れば大したことない連中だけどこの指揮官さんが言うとおり都市や小さな国程度なら十分制圧できる質よ?」
「そう、それほどの戦力を俺達を目的としてぶつけてきたことが問題なんだ。俺達・・・・特に俺の力を正しく把握している奴ならこの程度で俺が倒せないのは百も承知のはずだ。仮にそれがわからないただの阿呆なら楽なんだがもしこれが作戦なのだとしたらそれほどの戦力を捨て駒に使える奴ってことだ」
「なるほどね」
ソウマの言葉にシルヴィアもしばらく考える素振りを見せる。しかし・・・・・。
「やめましょう。考えるのはラルクに任せればいいわ」
「そういうこと。めんどくさい事は大概あいつに投げればなんとかなる。だから俺達はこいつを連れてさっさと帰ろうぜ」
「そうね。でもソウマ、この人達の装備品は頂戴したほうがいいんじゃない?結構上等な物だし数も結構あるわよ」
「それもそうだな。シルヴィア頼む。おーいお前ら今から全員武装解除して今すぐこの場から消えろ!見逃してやるからどこえなりと失せろ。ただしこの国内には留まるな。もし留まれば・・・・・」
「私のペットのエサよ♡」
シルヴィアがそう言い彼女の影から唸り声がした途端兵士達は自らの装備をその場に脱ぎ去り逃走する。ワイバーンは既に騎手をおいて何処かえ消えていた。
「じゃあシルヴィア任せた」
「任されたわ」
※※※※
「報告は以上だ」
王宮に帰ったソウマとシルヴィアは早速アウロとラルクに報告をしていた。
「ご苦労さまです。しかし早かったですね。貴方達が出撃されてからまだ半日経過していませんよ?」
「ああ予定があったんでな手早く済ませたんだ」
「それにしても敵の狙いはソウマであったか・・・・・」
ソウマの報告を聞いたアウロは自らの顎に手をやり思案する。
「ラルクよ、お主はどう思う?」
アウロは傍らの側近に意見を求める。
「そうですね・・・。恐らく現時点で私の意見も恐らく王と大差のないものでしょう」
「よい、申してみろ」
「それでは、敵の狙いがソウマ自身である場合は考えられるとすれば敵はよほど綿密な計画を立てているはずです。彼を倒そうとするのはこの国を陥落させること以上に遥かに難題でしょう。しかし逆に言うならソウマさえどうにかすれば後はどうとでもなると思っているのだろうからソウマを排除することに全力を掛けるはずです」
「あら、私達も随分舐められたものねぇラルク」
「それは仕方がないよシルヴィア。なんせ比較対象が・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
するとシルヴィアとラルクが胡乱な目でソウマを見る。
「・・・・・・なんだよ」
「これじゃあねぇ~」
「お前らが普段俺のことをどういう風に見てるのかよ~くわかった」
ソウマがそんな二人の反応にじとーとした目を返す。
「ごめんごめん、お詫びに今度美味しいものでも奢るので許して下さい」
「私も今日の夜貴方のベッドの中で謝罪するから許して」
すると二人は苦笑してそんな謝罪の言葉を口にする。
「・・・・・・・ラルクの謝罪だけ受け取ろう」
ソウマはそんな二人の謝罪をラルクのだけ了承する。・・・・・・若干ジルヴィアの謝罪内容に葛藤を覚えたのは彼が健康的な男性故だろう。
「ともかくラルクよ。敵の狙いはソウマ・・・轢いてはこの国の陥落が目的であると?」
三人のやり取りに口を挟んだのはアウロであった。この三人のこのようなやり取りは日常茶飯事だから彼もたいして気にしていない。むしろじゃれ合う自分の子供達を見るような雰囲気すら醸し出していた。そして三人の会話がひと段落した所で本題を口に出したのだ。
「現時点で確証はありませんが恐らくそうでしょう。ソウマ達の報告通りならあれほどの質をあつらえた部隊を捨て駒にするほどですから敵はよほどの勢力を誇るのかもしれません」
「しかし不気味なのはそれほどのものでありながら未だに正体すら掴めんとは」
「はい、その点は僕も不安を感じている部分です。この敵は僕の感じている印象ですがソウマの戦力正しく認識しています。そしてそれを認識した上で尚ソウマのいるこの国に挑もうとしている。普通の軍師や知恵者なら確実に勝てる策が無いとまず挑みません」
「ほう、ちなみに一度聞いてみたかったがラルクよ、もし仮にお主がソウマの居るこの国を攻めろと命令されたらお主はどうする?」
「何もしません」
アウロの質問にラルクは即答する。
「何もせんとな?」
「はい、何もしません。そもそも彼の戦力をまともに把握して且つまともに知恵の働く者ならまずソウマに戦いを仕掛けようとは思いません。こちらの立てるあらゆる策をかれならたやすく叩き潰すでしょう。やるだけ無駄です。それでももしやれというなら僕はさっさと降伏しますよ」
「ほう、なにをしても無駄と?」
「ええ、まともな策なら」
「そうか・・・軍神の異名をとるお主にそこまで言わせるとはさすがソウマだな」
「その異名も彼のいる国の軍師である私にはいささか空しい称号ですよ」
ラルクはアウロの言葉にそう苦笑して返す。
「それじゃあ敵はそれほどの相手であるソウマに対して戦いを挑もうと思う程の奴ってことよね?」
シルヴィアが会話の合間にそう尋ねる。
「そういうこと、こちらの見方がまともな常識で測れないからそれに喧嘩を売る相手も常識で測れないと想定するべきだ」
「なるほどね」
「相分かった。ではこの件はラルクに任せる。敵のあらゆる動きも見逃すな。ソウマ、シルヴィア両名もいついかなる場合に置いても対処・出撃ができるよう各自備えてくれ」
「了解」
「わかったわ」
「御意に」
アウロの言葉に三者三様の言葉を返す。するとちょうどその直後部屋のドアをノックする音が響く。
「許す、入れ」
「失礼します。お父様ソウマが帰っていると聞いたのですが知りませんか?」
そこから顔を出したの薄桃色の美しい髪を腰の上まで垂らした可愛らしい顔の女の子だった。