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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
19/72

19話 勇者と自己紹介

結局9月までに更新できなかったなぁ

「先ほどシルヴィア様から紹介がありました。天月楓です、えっとこの国で勇者をやらせてもらってます」


 なぜここにシルヴィアがいるのかが分からずに多少困惑しているが元が礼儀正しい子なのか少女・・・天月楓はたどたどしいながらも改めて自分から自己紹介をする。


「おう、俺はソウマ、ソウマ・カムイだ」


 ソウマも楓に軽い調子で自己紹介をする。


「私は」


「シャル、ちょっと待て」


 ソウマに続いて自己紹介をしようとしたシャルロットをソウマが静止する。


「どうしたのソウマ?」


 シャルロットが怪訝な顔でソウマを見る。ソウマはそんなシャルロットに笑いかけると楓に向き直る。


「なあ、少し込み入った話になる。この街に内緒話ができるような店か場所を知らないか?」


 ソウマに言われて楓は少し考える素振りをする。しかしすぐに思い至ったのか顔を上げる。


「あります。ここから少し歩いた所ですが一軒程」


「よし、じゃあそこに案内してくれるか?」


「わ、わかりました。此方です」


 楓はソウマに言われるまま踵を返して心当たりの店へ案内し始める。しかし内心ではかなり戸惑っていた。正体の分かったシルヴィアはともかくとして相変わらずソウマの方は全くと言っていいほど強そうにも凄そうにも見えない。しかし先ほどのように何故か思わずソウマの言う事に従ってしまう。ソウマの言葉になにか得体の知れない強制力や威圧感に似た何かを楓は感じていた。しかしそれは警戒心を起こさせるものではなく寧ろ巨大なモノに包まれる安心感のようなものすら感じていた。「この人は敵じゃない」と本能に近い部分で彼女は感じていたのである。だから先ほどからあまり抵抗感なくソウマの言葉に従ってしまうのだ。


「ここです」


 しばらくしてソウマ達は楓に案内された場所に着いた。しかしそこは何の変哲もない一軒家に見えた。部屋の明かりもついて居らず家の下にある船着き場には船も無い。一見すると家の中には誰も居ない空き家にすら見える家であった。


 コンコン


 しかし楓は構わず扉をコブシで軽く二回ほど叩く。すると扉の一部のちょうど楓の目線の辺りの部分がスライドして開く。


「部屋を借りたい」


 楓はスライドして開いたドアから除く感情の伺えない瞳に素早く要件を伝える。


「・・・・・・時間は?」


「そうだな・・・・」


「一時間程度ですむ」


 時間を聞いてくる男の声に楓は考えるが後ろからソウマが代わりに声を出す。


「・・・・・・それなら10ギメルだ」


「随分高いな・・・・・・ま、仕方ないか」


 ソウマは懐から袋を取り出して数枚の金貨を取り出して男に渡す。


「・・・・・入りな」


 金を渡された男はしばらく扉の向こうで金の数えていたのか確認した後静かに扉を開けた。


「・・・・・・・」


 家の中は薄暗く数本の蝋燭で照らされている程度で良く見えない。男はソウマ達が中に入るのを確認すると扉を閉めて家の中に向かう。楓達も静かに男に着いて行く。


「この奥だ」


 男が家の奥にある扉を開けて先を促す。見れば扉の奥には下へ続く階段があり下へ続いていた。


「一番奥の左側の部屋だ」


 階段を降りると短い廊下が有り廊下の左右に全部で六つ程の扉がありどうやらそれぞれ部屋があるようだ。


「一時間したら呼びに来る。酒や飲み物が居れば部屋の中の備え付けを好きに飲め」


 男はそう言うと一本の蝋燭を手渡してくる。普通の蝋燭と違いこの蝋燭は青い炎が燃えている。この世界では時間を正確に知る時計と呼ばれる物は無いが時間を測ることはできる。今ソウマが手にしている時の蝋燭と言われるものは火を付ける前に時間を告げてから火を入れると告げた時間に燃え尽きる蝋燭である。ソウマ達も言われた通りの扉を開けて部屋に入る。扉の先はやはり部屋になっており広さは五人が入るには十分な広さがあった。部屋にある棚には男が言ったように酒やその他の飲み物が用意されていた。


「すごいねー。外から見た時は普通のお家だったのに下はこんなに広いんだね」


 シャルロットが感心したように部屋の中を見渡す。


「幻覚の魔術がかかっているんだ。家の外から見ると普通の家に見えるんだろうが実際は水中深くまで続く位の縦長の箱みたいな建物だったよ」


 ソウマがシャルロットの疑問に答えるように言う。ソウマの眼からは最初からこの建物の本当の姿が見えていたようだ。


「そうなんだ」


「ああ、だから外からはこの建物の明かりが一切見えなかったんだ。実際は窓も何にもありゃしないからな。ついでにこの建物全体の壁やドアに防音の魔術がかけられている。これで部屋ごとの会話や物音は一切外に漏れることはない。まさに秘密話には持って来いの場所って訳さ」


「実は私もここを利用するのは初めてです。知人の一人に聞いただけだったのですが・・・・・初見でそこまで見極めているとはそこの御二人の言った通り貴方は只者ではないのかもしれませんね」


 ソウマの言葉を聞いていた楓が感心したような言う。どうやら彼女はそこまで見抜けなかったようだ。


「そうだよ!ソウマは凄いんだから!」


 楓がソウマほ褒めたことが嬉しかったのかシャルロットが捲し立てるように言う。


「まあまあ、取りあえず本題に入ろうぜ」


 言ってソウマは全員に着席を促す。着席前にアイスが全員分の飲み物をテーブル置いている。


「それでわざわざこんな所まで来てのお話とは?」


「回りくどい話や変な隠し事は面倒なんでな単刀直入に言わしてもらう。俺がその鎧の本当の持ち主だ・・・・・・・


「!」


 楓は驚愕して思わず自分の右手の籠手に手を添える。


「本当の持ち主?え?でもこの鎧の持ち主って・・・え?」


 楓は状況が飲み込めないのかかなり口調が落ち着かない。ラルクかシルヴィアに本来の持ち主であるソウマの事を幾らか聞いていたのか本当にそうなのか?という顔をしている。


「楓、信じられないでしょうけど彼は本当にその籠手の所有者よ。本来の姿・・・・のね」


「!」


 シルヴィアの言葉に楓は更に驚愕している。シルヴィアの強さは知っている。数年前に何の国に行った時に多少シルヴィアとラルクに戦闘についての指導を受けたが最後までまるで歯が立たなかった。あれから随分と腕を上げた自信はあるが今でも全く勝てるイメージが沸いてこない。実力を付ければ付ける逆にその力の差を実感している。そのシルヴィアとラルクが言ったのだ「自分達が二人掛かりでも絶対に勝てない男いる」と、それが今現在自分が右手に着けている鎧の本来の持ち主だということも聞いている。そしてこの鎧が自分が装着できるように大半の力を封印していることも。最初に本来の状態で鎧を着けよとした時触れただけで動けなくなってしまった。これほどの鎧を全身装着できる者が本当に居るのかと当時は思っていた。


「信じられないか?」


 ソウマがそう聞いてくる。正直言うとソウマの言う通り信じられないという気持ちが強い。当時シルヴィアとラルクに言われた時も冗談か担がれていると思った程だった。


「しょうがない、悪いんだがそこに立ってもらえるか?」


「?」


 楓は疑問を感じながら大人しく席を立ちあがる。シルヴィアは面白そうにアイスはまさかと思いながらシャルロットは疑問顔でそれぞれ見つめている。


「今から俺がお前に殺威をぶつける。お前はそれに耐えてみろ」


「え?殺威、ですか」


 楓はいよいよ混乱する。初対面に近い者からいきなり殺威を向けると言われれば誰でも大なり小なりこういう反応を見せるものだろう。むろん殺威をぶつけられるのは初めてではない、これまでの魔族との戦いなどで殺威を使える程の使い手とも何度か戦った経験も幾度もある。


「いいか?気の抜けた状態で俺の殺威を受けると心臓止まるぞ?」


「む、来るならどうぞ!」


 ソウマの明らかに侮辱と取れる言葉に楓は少しむっとする。自分も幾つもの戦いを経て少しは成長をしている。生半可な殺威では決して揺るがい自信がある。楓は全力でソウマの殺威に耐える気を体内に備える。


「準備ができたようだな、じゃあいくぞ」


「!!!!!!????」


 天が降ってきた。そう錯覚するほどの凄まじい重圧が楓の頭上から落ちてきた・・・・・


「が、がはっはああ」


 膝がガクガクと震えて膝から崩れ落ちる。意識を保っているのかすら定かではない、今自分が地面に立っているのか寝ているのかすら分からなくなる。


師匠マスターが今放っている殺威は私に放ったものよりも少し弱めですか?」


「そうね、楓の実際の実力は恐らくだけど今の貴方と同じか少し下位かしら?あまり強めにやるとこの後の話ができなくなるから意識を飛ばさないようにソウマが調整したんでしょう」


 楓がソウマの殺威に必死に耐えている横でシルヴィアとアイスはそんな暢気な言葉を交わしていた。当の本人の楓からすればそんな言葉を聞いている余裕などまるでないのだが。


「ま、こんなもんかな」


 ソウマがそう言うと同時に楓に放っていた殺威が収まる。楓はその場で四つん這いになり浅い呼吸を繰り返している。


「大丈夫か?」


 ソウマがそう話しかければ楓はゆっくりと呼吸を整えて立ち上がる。


「はい、もう大丈夫です」


 楓はそう言って乱れた髪と服も整えて再び席に着く。


「どうだいこれで多少は信じたかい?」


「それは・・・・はい」


 ソウマに言われて楓は絞り出すように言葉を出す。先ほどのソウマから浴びた殺威は楓が今までに浴びた殺威など比べ物にならい程の凄まじいものだった。いや、もはや同じ殺威なのかと疑いたくなるほどの密度と圧力を持っていた。あれほどの力の片鱗を見せられては楓も納得せざるおえない。


「それで・・・・・貴方がこの国に来たご用件はまさか・・・・・鎧の返却でしょうか?」


 楓は自身の胸中の不安を言葉にする。これまで幾度となくこの鎧には助けられてきた。この鎧が無ければ幾度命を落としたかも分からない。


「不躾なお願いとは承知しています。それでも・・・・私にはこの鎧が今は必要なんです」


 楓は席から立ち上がり頭を下げる。


「落ち着け、俺達はお前からその鎧を返してもらう為に来たんじゃないんだ」


「え?」


 ソウマに言われて楓は思わず顔を上げる。


「一応その鎧は色んな奴が俺の為に色々と頑張ってくれたものだからな、別にお前が使うのは俺的には構わないが持ち主として鎧の持ち主達が鎧を預けておいて大丈夫か見極めに来たんだ」


「見極・・・める?」


 楓はまだ困惑顔だ。


「俺は別に今すぐにその鎧を必要としているわけじゃないんだ。実際俺もその鎧を使ったことがあるのは実は数える程だしな。それでも俺の為に作ってもらったものだからこうして俺なりに義理を果たしに来たんだよ。だからお前次第だがその鎧はこのままお前に貸しておいてもいいと思っている」


「ほ、本当ですか!」


 楓はソウマの言葉に思わずといった風に聞き返す。


「ああ、ただし先も言ったがお前次第だからな?」


「わかりました。それでどのようなことをすればいいんでしょうか?」


 楓は覚悟を決めるようにソウマの顔を見る。


「まあそれは後で」


 しかしソウマはそんなことを言う。言われた楓は出鼻をくじかれたような顔になる。


「それの用事はまた後でもできる。実はここに来たのは自己紹介の続きをする為なんだ。俺等の中に一人程公に顔を知られると少しめんどくさいのがいてな。シャル」


「うん」


 言われてシャルロットは自身の右手の中指にハメられた指輪にそっと触れる。すると先ほどまで・・・・・茶色かった髪は桃色へ、人族の耳はエルフ特有の耳へと変化を遂げた。


「え?え?え?、桃色の髪?・・・・エルフ?え?まさか!」


 楓は再びの驚愕に包まれる。この大陸に数年も居れば必ず何回か耳にしたことがある最も有名な王族・・・・・・・。顔を見たことはないがその特徴は何度も耳にしたことがる。桃色の髪とエルフの族特有の耳、【至宝の美姫】とまで言われた姫が目の前にいた。


「シャルロット・ウトピーアです。一応お姫様なんかしてます。よろしくね楓」


 そう言ったシャルロットの笑顔に楓は一瞬見惚れる。シャルロットは確かにシルヴィアには及ばないがそれでもまるで現在の薄暗いこの部屋が一瞬明るくなったかと錯覚するほどの眩い輝きを放つ少女だった。シルヴィアを夜の佇む月に例えるならシャルロットはまさに昼に輝く太陽だった。


「よ、よろしくお願いします」


 楓は正気に戻った意識を振り絞りなんとかそれだけ絞り出す。


「お、王族が自分から国を出て旅をするなんて・・・・・しかも身分を隠してなんて・・・」


「その為に私達が居るんじゃない」


 楓の感じた疑問を真っ向から否定するようにシルヴィアが自分とソウマとアイスを指して言う。


「な、なるほど」


 しかし楓もそれだけですぐに納得する。ソウマは先ほど少しその力の片鱗を覗いただけなので実際には何とも言えないが楓が最も良く知る実力を持つシルヴィアが居るのならば例え今ここで魔族が軍隊を率いてきたとしても問題にならないだろう。


「・・・・・・」


 実は楓達は以前エテルニタ王国に行った時にシルヴィアとラルクに「二人だけでも魔族と戦うのを協力して欲しい」と懇願したことがあったのだ。しかし結果はあっさりと断られてしまった。それどころか


ーー君達も無理に戦うことはありません。なんならこのままこの国に留まるのも選択肢の一つですよ?君達の国には私の方から上手く言っておきましょうーー


そう言われてしまった。しかし当然楓や他の勇者も反論する。そもそも元の世界に帰る為に戦っているのだ。このまま安穏と暮らしていれば一生自分達の世界には帰れないからと、しかしラルクは


ーー元の世界に帰る件に関しても僕の方でなんとかしましょう。そもそもこの世界に事情に貴方方無関係な人間を巻き込んだことにむしろ此方の世界の住人が負い目を感じなければいけないのにずうずうしくも帰りたければ戦えなどと恥知らずにも程がありますーー


またもこう言って来た。結局楓達はラルクの提案を飲むことができず修行だけ付けてもらいエテルニタ王国を後にした。


「なんなら今からでもエテルニタ王国に行ってもいいんじゃないか?」


「え?」


 そのことを話したらソウマがそんな提案をしてきた。それに楓は思わず聞き返す。


「ラルクが言うにはお前達勇者を元居た世界に送還するための術の目処が大体着いたって言ってたぜ」


「ええ!?」


 続くソウマの言葉に更に驚愕する楓。


「そうだったよな、シルヴィア?」


 自信が無くなったのかソウマがシルヴィアに確認する。


「ええ、以前に勇者を召喚したのに使われた召喚陣を調べてその術式を解析したらしいの、それを逆算して逆に召喚された対象を元いた世界に送り返す術を開発中だったのが最近でほぼ完成していたらしいの、因みにその過程で出来たのが転移魔法よ」


「そうだったのですか・・・・・・・・・」


 楓はシルヴィアの言葉を聞いて何かを考えるような仕草をする。


「いえ、やはり私はまだこの国に居ようと思います」


 しかしすぐに考えを決めたのか顔を上げてそう言う。


「どうして?」


 シルヴィアが微笑しながら聞いてくる。その顔は大体の事情を察しているかのようであった。


「確かに最初はいきなりこの世界に呼ばれて帰りたければ魔族と戦えと言われかなり困惑しましたし理不尽も感じました。それでも今はこの世界にも親しい友人が出来ました、守りたい小さな命と約束があります。だから私もこのまま自分だけ安全な世界に変えるという選択肢はありません。お気持ちだけ有り難く頂きます」

 

 そう言って楓はソウマ達に頭を下げる。


「うん、今の貴方ならそう言うだろう思っていたわ。以前に会った頃よりも目に強い光が宿っていた。当時の貴方や他の勇者には自身の境遇に嘆く理不尽に対する怒りと元の世界に帰る為の焦りがあったわ。でも今の貴方はこの数年でそれらを乗り越えた強さを得た様ね」


 そう言ってシルヴィアは楓に微笑みかける。


「いえ、そんな・・・・」


 そう言われた楓はシルヴィアの笑顔に一瞬見惚れた後照れたように赤くなって俯いた。美しさにおいても強さにおいても女性として尊敬するシルヴィアに褒められて照れたようだ。


「さて別の用事もあるしそろそろ時間も経つからここから出るか」


 ソウマがそう言って部屋の扉の所に掛けられた時の蝋燭を見るともう少しで燃え尽きようとしていた。あれから随分と話し込んでかなりの時間が経過していたようだ。


「他にも要件があるがそれは別の場所でやろう」


「わかりました」


 ソウマが言うと楓が頷き全員が立ち上がり店を後にした。


 ※※※※


「それでこの後はどこに行くんですか?」


 店を後にした後にしばらく歩いた後楓がソウマに行先を尋ねる。


「ああ、あそこに行く」


「え?」


 楓に聞かれてソウマが指し示したのはアグアラグ王国がある湖の外側の陸地にアグアラグ王国を守るように建てられた王城だった。


「あれ、ソウマ王城に行くの?」


 シャルロットが疑問を浮かべてソウマに尋ねる。現在シャルロットは指輪の効果により再び普通の人族に見えるように容姿が変化している。


「私もシャルと同じ疑問です。師匠マスターは目立つのを避けるべくシャルの容姿を偽ったりなどをしていたのに王城に行けば余計な問題を引き起こす可能性が高いのでわ?」


 アイスもシャルロットと同じ疑問を抱いたようでソウマに疑問を投げかける。


「まあ元々目立つ行動を避けるってのはラルクからの頼みだったからな、俺自身はあまり積極的にそれを守るつもりもないんだが・・・・・別に面倒事を進んで起こす気は無いがそうなったらそうなったらで仕方ないと俺は考えてる」


「まあソウマならそう言うでしょうね(どうせラルクも初めからソウマが目立たず行動できるなんて思ってないでしょうねぇ)。それで?王城に行ってどうするの?」


 シルヴィアは面白そうに笑ってソウマに尋ねる。


「いや、別に城に行ってなにしようって訳じゃないんだけど城なら練兵場みたいな場所があるだろ?」


「練兵場?」


 楓が疑問顔で聞き返す。


「お前の気持ちと覚悟は聞いた。次はお前の実際の実力を見せてもらう。俺の鎧を制限付きとはいえ使いこなせるかどうかの判断をさせてもらう」


「!、わかりました」


 言われた楓は瞳に闘志を宿らせて答えた。


 ※※※※


 城に着いたソウマ達は実にあっさりと城の中に入ることが出来た。楓が城の門番にソウマ達を友人だと説明すると簡単に入れてくれたのだ。どうやら楓は城の人間に相当の信頼を寄せられているようで特に疑うことも無くソウマ達を通してくれた。


「家(城)とは少し違うねー」


 シャルロットが城内を見回しながらそんな感想を漏らす。確かにこの城はエテルニタ王国の城とは少し配置が異なり全体的に廊下が広く設計されており居住区や食堂等の人の居る場所はこの広い廊下をかなり歩いた位置に建設されている。しかもこの広い廊下のあちこちに武器が幾つも用意されており直ぐに使えるように出来ている。まるで城内で戦うことを想定したような作りになっている。


「この国は他国と比べて軍隊の規模が圧倒的に少ないです」


 すると楓がシャルロットの疑問に答えるように話を始める。


「元々の国風が争いを好まない性分の国民が多い国なので自然と軍隊を持つという考えが根付かなかったのです。しかもこの国は御存じの通り昔はそちらのエテルニタ王国と懇意にしていた国です。エテルニタ王国の反感を買ってまでこの国を侵略しようとする国は今まで存在しませんでした。だからこの国には兵士はいますが精々街を見回る自警団や王城の護衛を務める程度です。だから万が一この国が責められた場合敵を城に誘い込み動きを限定した状態で戦うことを想定してこの城は作られています」


「確かそうだったわね、でも確かエテルニタ王国と交流があったのは確か先先代の王の代までだったはずよね。次の代の王がアウロ王との交流を切って他の国と同盟を組んだからやめてしまったって王様が言っていたわ」


「はい、しかしその同盟相手の国も魔族との戦争が始まるや否や同盟をそっちのけで自国の守りに専念してしまい以降全く手を貸してくれなくなったそうでけど」


「まあいつの時代もお国のお偉方なんてそんなもんだ」


「しかしなるほど、この広い廊下ならいくら広くとも軍隊規模の人数は展開が難しい。必然的に人数は限定されるます、それなら貴方のように個人の武力に優れた人には逆に戦いやすいでしょうね」


「はい、ここなら基本的に戦う人数は限定されるし周辺に人の被害が出るのも心配ないので思いっきり戦えます。今までも何度か敵をここに誘い込んで使用したことがあるそうです」


「まあ魔族は基本一対一の戦闘を好むからな。指揮官同士かお互いの腕自慢同士の戦いを申し込んだら基本的に魔族は断らないはずだからな」


「はい、今までも魔族の侵略行為は全て私に対する一騎打ちでした。この国には軍が無い事を承知して勇者である私を倒せばこの国を陥落させることは簡単と思ってのことだと思いますが」


「まあそうだろうな、この国は現状どうもお前さんに頼りっきりのイメージがあるからな。周りの兵士達を見れば一目瞭然だ」


 そういってソウマは時折すれ違う兵士達を見る。兵士達はすれ違いざまに楓に視線を寄越すがその瞳の殆どが期待に染まっている。明らかに楓の強さに縋っているものの目だ。


「それでも私は彼等の期待を裏切れない。もう二度と親を失って泣く子供の涙を見たくないから」


 楓はそう言って少し俯いて拳が白くなるほど強く握りしめる。過去に何かあったのかその横顔は悲しみと怒りが滲んでいる。


「・・・・・・・」


 ソウマ達は無言でそんな楓の横顔を見つめいる。


「ここです」


 しばらく歩いた後ソウマ達はこの城の練兵場まで着いた。練兵場は閑散としておりあまり鍛練をしている者が少ない。


「じゃあ早速やるか?」


「はい、大丈夫です」


 ソウマが尋ねれば楓は頷いて了承する。二人は練兵場の中央まで歩いて行く。


「お前さんの獲物はなんだい?好きに使って構わないぜ。その腰に下げている飾り・・じゃ全力を出せないだろ?心配しなくてもこの場所にはシルヴィアが結界を張っているから少々暴れても大丈夫だからな」


「あまり太鼓判を押されても困るのだけれど」


 言われたシルヴィアは苦笑している。旅に出る前に一応念の為にラルクから結界・防御系の魔術の手ほどきをシルヴィアは受けていた。流石にラルクには及ばないがその強度はかなりのものであるようだ。


「武器のことまでお見通しですか、わかりました。全力で行かせていただきます」


 そう言うと彼女は腰の剣を放り投げて空中に手をかざす。すると彼女の手に一本の剣が出現する。


「・・・・・・・・《水華・流水丸》」


 静かにそれを抜き放った彼女はそれを正面に構える。その剣は両刃ではなく片刃しかなくこの世界の剣の常識で言えばかなり細身の部類に入る。一番近い武器で刺突用の剣がそれに近いが明らかに彼女が手にしている剣はそれとは用途が違う。薄青く輝くそれは直刀ではなく全体的に反り返っている曲刀で見る者が見れば分かるがその剣は斬ることに非常に特化した剣である。


「久々に見るぜ本物のニホントウ」


「!、この剣の名称をご存じなのですか!?」


 楓はソウマが自分が自信の世界の故郷の武器を知っていることに心底驚いたような顔になる。


「ああ、俺の故郷に同じようなモノが伝わっているからな。辺境の隠れた場所にある村なんだが俺も今考えればあの村は異界者達の子孫の村なのかもな(案外俺が前世の記憶を持ってるのもその辺が関係してるのかもな)」


「な、なるほど」


「まあ、それはともかく、始めるとしますか」


 そう言うとソウマも腰の剣を抜いて構える。


「では、行きます」


「いつでも来な」


「・・・・・・・・・ハッ!」


 ソウマに先手を譲られた楓は一足飛びでソウマの懐まで飛び込む。飛び込んだ瞬間鞘に納めていた刀を先ほどの酔っ払いに放ったのと同じ技を腰だめから抜き放つ。しかも先のものよりも威力も速度も段違いの一撃である。


 ガキンッ


 しかしソウマは軽々と受け止める。


「くっ」


 攻撃を受け止められた楓は即座に距離を取りもう一度刀を正眼に構え直す。


「防ぐだろうとは思っていましたがまさかあそこまで軽々と受け止められるとは思いませんでした」


「いやいや中々良い一撃だったぜ。しかしお前さんのその居合抜き我流かい?」


「!、まさか居合抜きまでご存じとは・・・・・・いえ、これは勇者仲間の一人が使っている流派の技を私が見よう見真似で習得した技です。本家には及びませんがそれなりのものになったと自負していたんですけど」


 言い終わると同時に楓が再びソウマに肉薄する。いつの間にか再び鞘に納められた刀を構え直し再び居合抜きの体勢になる。しかも先ほどよりも数段速くなっている。


「いくらさっきより速くても続けて同じ技を俺に放つのは感心しないなぁ」


「!」


 しかしソウマはそれ以上の速さで楓の眼前まで迫りなんと刀が鞘から抜き放たれる直前柄頭を押さえて強引に納刀させてしまった。


「くっ」


 再び距離を取った楓は今度は魔力を集中し始める。集めた魔力が次第に刀に集中していく。


「《水刀》」


 楓はソウマから距離をとったままなのも構わずそのまま刀を振るう。すると刀身の切先から水で出来た刀が飛び出し一瞬でソウマの所まで届く刃になる。


「(水の刀か、やっぱり魔力の性質的にアイスと同じ水氷系統の魔力の使い手か・・・・)」


 自分に迫る水の刀をソウマは自分の剣で受けようとする。しかし受け止める直前・・・・・。


「(待てよ、これってアイスの氷の剣と違い水の刀なんだから・・・・・)」


 そう思った瞬間ソウマは剣は構えたまま攻撃の軌道から頭だけを逸らす。すると剣に激突しようとした水の刀はソウマの剣をすり抜けてソウマの頭上を通過していく。


「やっぱり水の刀だから物理防御基本無視か・・・・」


「これも初見で見破られたのは初めてです」


 楓は構わず距離を取ったまま水の刀を振り続ける。ソウマは受けることはせずひたすら躱し続ける。楓は剣速を徐々に加速させていく。しかしソウマは余裕で躱し続ける。


「くっ、まるで当たる気がしませんね」


「俺に当てたいんならせめて攻撃速度を音より早くしないとな」


 するとソウマは動きを止めて迫る水の刀に身を晒す。


 バシュッ


 ソウマの体に当たった瞬間水の刀は崩れてしまった。術を解除されたというよりも圧倒的に強度・・・・・・の勝るモノ・・・・・に当たって崩れたような・・・・・。


「まさか!貴方の体はミスリル並みの強度だとでも・・・・・・・」


「おいおい、ミスリル程度と一緒にされても困るぜ」


「貴方人間ですか!」


「まあ多少混じってるけど生まれは生粋の人族だぜ?」


「信じられま・・・・・せんね!」


 空中に跳んだ楓が空中に手を翳すと人一人を簡単に飲み込むほどの水球が現れる。


水の抱擁アクアラビリンス


 水系統最上級魔術を楓はソウマの放つ。しかしソウマは回避も迎撃の構えも見せず・・・・。


「《水の抱擁アクアラビリンス》か・・・・・。詠唱破棄で最上級魔術を放つのは大したものだがラルクに比べると水遊びの領域を出ていないぜ」


 そう言ってソウマは思いっきり息を吸い込む。


「かぁ!」


 そして気合い一閃咆哮のみで《水の抱擁アクアラビリンス》を吹き飛ばしてしまった。


「そ、そんな・・・・・」


 楓は目の前で起こったことが信じられないといった顔で見ている。


「だったら!」


 楓が再び魔力を集中し始めると今度は楓の体が青白く染まっていく。


「《水体》」


「ん?自身の体を水と同化させたのか?」


「その通りです、この状態の私は物理攻撃は完全に無効化できます。見た所貴方は生粋の剣士のようですが剣は私には通用しませんよ」


 楓は再び接近戦でソウマに斬りかかる。


「(ふーん、刀も一緒に水と同化してるな、恐らくあの刀はそういった特性の刀なのかな?水との同化の際の自分の体の原型を保つ同調率のアンテナの役割もあの刀がしてるみたいだなぁ。しかもあの体の水もただの水の性質とは違うみたいだな、今のアイスなら凍らせることもできるだろうが・・・・・)」


 ソウマは考えごとをしながら楓の剣戟を躱し続ける。恐らくは先の水の刀と同様この攻撃も受けが通用しないと見越してソウマは剣で受け止めることはしない。


「ああ、もう十分だ。お前の実力は分かった、そろそろ終わらせるぜ?」


 そう言われた瞬間楓は本能的に距離を取っていた。その顔には大量の汗が滲んでいた。ソウマは殺威を放っていない、ましてや殺気も闘気も出していない。ソウマはただ戦意を楓に向けただけだ。それだけで楓は自身が倒される想像ビジョンが脳内に表れた。


「中々良かった。俺が思っている以上の実力だった。期待以上だったよ」


 そう言ってソウマは剣を腰だめに構える。


「これはその礼だ」


 ソウマは楓の見せた居合抜きと同じ技を繰り出した。


「(これは!あいつのものより遥かに!!!!!)」


「《絶影ぜつえい》」


 音速すら遙かに凌駕する速度の斬撃が放たれる。


「!!!!」


 物理攻撃無効化など所詮対人レベルの物理攻撃の話である、夜空に降り注ぐ・・・・・・・星すら切り伏せる・・・・・・・・斬撃を前に多少の物理攻撃無効化など有って無いようなもの。


「がはぁ!」


 ソウマの斬撃を受けた瞬間に術が解除されたのか楓は吹き飛ばされた先の壁に激突する。


「ま、こんなもんかな」


 ソウマの言葉を聞くのを最後に楓の意識は闇に堕ちていった。




今月はせめてあと一回更新したいなぁ~

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