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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
17/72

17話 旅の途中

「そう言えばさぁー」


 ソウマ達が王国を出発して三日目、無事何事も無くいくつかある関所を通過していた(面倒を避ける為ここでもシャルロットの身分は伏せてある)。現在ソウマ達は国と国の間の道をのんびりと徒歩で道を進んでいる。その途中でシャルロットが何かを言い始めた。


「どうしたのシャル?」


 シャルロットの隣にいるシルヴィアがシャルロットに問い返す。現在二人は手を繋いでいる。この二人は見た目こそあまり似ていないが普段からこのようなスキンシップを常時こなしている。その自然な感じは二人の見た目の似ていなさを差し引いても十分姉妹のように見えている。以前ソウマも「何かお前ら俺と居る時より楽しそうじゃね?」と言って怒られていた。


「私達てさ一応身分を隠して旅しているじゃない。そんな私達に勇者の人って簡単に会ってくれるかな?」


 シャルロットが首を傾げながらそう疑問を口にする。


「確かに姫様の仰る通り今の私達では勇者との面会は困難である思います」


 アイスもシャルロットに同意するように頷く。


「そもそも勇者の人は戦争中なのに国に居るのかな?」


 シャルロットが更なる思いついた疑問を口にする。


「ああ、それについては大丈夫よシャル」


 しかし二つ目の質問の答えは直ぐに隣から帰ってきた。シルヴィアが手を繋いでいる手とは逆の手でシャルロットの頭を撫でながら愛しい妹の質問に答えた。


「どうして?」


「さっきもシャルが言ったけど戦争中だからよ」


「どういうこと?」


 シャルロットが更なる疑問を頭に浮かべて問い返す。


「現在の魔族と人族の戦争はそのほとんどが人族側の国に襲撃してきた魔族を人族側が迎撃する形がほとんどなの、それ以前に魔族そうした襲撃をする国は毎回まちまち・・・・時には魔族領と襲撃された国間にはかなりの距離があっても襲撃される場合が多いの何故だか分かる?」


「・・・・・・・・・・わかんない」


 シルヴィアの問い返しにシャルロットは暫く思案していたがやがて諦めて答えを求めるようにシルヴィアを見る。


「それはね、魔族と言う種族は殆どの者が空を飛ぶことができるのよ」


「空を?」


「ええ、魔族と一括りに言っても彼等魔族はその種族全体で様々な形態を持った種族であることはシャルも知っているでしょう?」


「うん」


「その魔族の多種多様な形態の中でも共通項の一つに魔族の殆どは飛行能力が有るのよ」


「シルヴィア姉様みたいに?」


 そう言われてシルヴィアが少し笑う。


「ふふっ、そうね大体が私のように羽や翼を持っている者が多いわね。勿論全てではないけど魔族の多くは魔術を行使することなく空を飛行することができるのよ」


「ふ、ふーん?」


 シルヴィアの言葉に何となくといった感じで応じたシャルロットはやはりいまだ良く分かっていないような感じである。そんなシャルロットの様子を見たソウマが苦笑する。


「シャル、個人の戦闘でもそうだが戦争では空を自由に飛ぶ相手ってのは想像以上に厄介なんだぞ?」


「どうして?」


「まず最初にこちら側に飛ぶ手段無いし上空への遠距離攻撃手段が無かった場合殆ど御手上げに近い形になっちまう。二つ目に移動手段が空中と地上では明確な差が現れる。自分達が地上をトロトロ行く内に連中は悠々と自分達の頭上を飛び越えて自国に奇襲が掛けられる。どれだけ戦争に勝っても自分の国が無くなったらその時点で何の意味も無くなるからな」


「ソウマの言う通り、だから基本戦争と言っても大勢で広い場所で派手に戦うとかは最初の数回だけで現在はほとんどの国が魔族の空からの奇襲を恐れて自国の戦力は国内に留めている。勿論勇者も含めてね。中には自主的に各国を回って修行ないし救援活動をしている勇者も居るみたいだけどね」


「なるほどー」


 先ほどと違いシャルロットはちゃんと理解の光を宿した目をして頷く。


「そっ、そしてアグアラグの勇者は各国を回っているなんて話は聞かないから間違いなく国内には居るはずよ」


「では問題は最初の姫様の質問であるどうやって勇者に会うかですね」


「あ!そう言えば」


 するとまた何か思いついたのかシャルロットがまたも声を上げる。


「今度は何だいシャル?」


 今度はソウマがシャルロットに問い返す。


「ねえ、アイス姉様・・・・・


「何でしょう姫様?」


 アイスは何故自分が呼ばれた意図が読めず首を傾げながら返事をする。


「それだよそれ!」


 するとシャルロットはアイスを指差しながらなにやら憤慨したように叫ぶ。


「それ・・・・とは?」


 アイスは今だ良く分からずに憤慨するシャルロットに困惑している。


「その姫様って呼び方は駄目だよって言ったでしょ?私の名前はともかく姫様なんて呼び方をしていたらすぐにバレちゃうよ?」


「うっ」


 シャルロットの指摘にアイスは珍しく言葉に詰まる。


「前に言ったでしょ、この旅の間は私はシルヴィア姉様とアイス姉様の妹分なんだからアイスも私のことはシャルロット若しくはシャルって呼んでって言ってるでしょう!」


「そ、それは・・・・・ですね、姫様。いくら姫様の頼みと申されましてもこればかりわ・・・・・・」


 シャルロットの剣幕にアイスはタジタジになりながらもなんとか反論を試みようとする。


「私は仮にも姫様の国の騎士団を預かる団長の身ですのでその私が身分を偽っているとはいえ姫様のことを敬称無しでお呼びするのはとても畏れ多いといいますか」


「そんなこと私がいいっていってるんだから関係ないの!」


「ですが・・・・・・」


 シャルロットの言い分に尚も言い募ろうとするアイスだが・・・・・・。


「全く・・・・・・、アイスはソウマの時の呼び方に揉めたことといい相変わらず頭が固いわねぇ」


 そんな二人をシルヴィアが苦笑しながら間に入り宥める。


「シルヴィア姉様・・・・・」

「シルヴィア様・・・・・・」


 二人は同時にシルヴィアを見る。シルヴィアはそんな二人をいつもの優しさの宿る瞳で見る。


「アイスもシャルの言う通り呼び方を改めなさい、確かに相手を敬う気持ちも大切だけれど行き過ぎればそれは敬われる側を傷つけることにもなるわ」


「それは・・・・・・確かに」


 シルヴィアの言葉にアイスが頷く。アイスもそこまで頑ななわけではなく飽く迄も本人が真面目すぎるのが偏に頑固の一因となっているだけでキチンと納得させてやれば相手の意見に耳を傾けるのである。ソウマの時の場合はアイス自身に曲げられない気持ちが有った為にあそこまで頑なであったのだ。


「それにそれを抜きにしてもシャル自身が貴方と純粋に仲良くしたいと願っているのは貴方も感じているでしょう?だからこそシャルも貴方にシャルという愛称を呼ぶことを許すしシャル自身も貴方の事を「姉様」と呼ぶのよ」


「はい・・・」


 シャルロットは確かに今だ少し幼い所があり誰に対してもある程度親密に接するがそれでも本当に本人が親しくなりたいと思った相手の線引きはしている。例えば彼女は年上の女性に対して母親のヘンリエッタとシルヴィア以外の者に対しては「○○○様」としか言わない。「姉様」の呼称を付ける場合はその相手をよほど尊敬するか相手を気に入った時の場合のみだ。年下や他の生き物を気に入った場合は大抵「○○ちゃん」である。シャルロットは年下や他の生き物そういった呼び方をすることは多いがシルヴィア以外に「姉様」の呼称は付けたことは一度もなかった。


「それは姫様私に対する呼び方で重々承知しております」


 そしてそれはアイスも十分理解している。仮にもソウマの代わりに十年間騎士団長として彼女の傍に仕えていたのだ(エテルニタ王国では騎士団長とシャルロットの直属護衛は兼任)その程度のことは彼女にも分かる。分かるからこそ彼女にもシャルロットが単に自分の身分を隠す為だけに言っていないことがわかるのだ。


「それじゃあ呼んでご覧さいなシャルって」


 言われたアイスはシャルロットに改めて向き直る。そして逡巡しながらも何度か口を開いたり閉じたりを繰り返してようやく絞り出すように・・・・・・。


「これでよろしいでしょうか・・・・・・シャル?」


 そう口にする、しかし・・・・・・。


「むー、敬語!」


 頬を膨らませてシャルロットはアイスに敬語も止めるよう言う。


「・・・・・・これでいいシャル?」


 アイスは今度こそ観念したようにシャルロットの望むように言葉を掛ける。


「うん、いいよアイス姉様」


 その言葉にシャルロットは満面の笑みで答える。すると今度はシルヴィアがアイスの後ろから肩に手を置いて顔を出す。しかもこちらも満面の笑みで。


「うんうん、大変よろしい♪じゃあ次は私の事を「お姉様」って呼んでみようかしら♪」


 そして実に嬉しそうにそんなことのたまったのである。


「な、何故!?」


 もちろんアイスは困惑する。しかしシルヴィアは当然であるかのような顔する。


「あら当然じゃない、シャルのことを敬称無しの愛称で呼んでそのシャルが私のことを「姉様」と呼ぶのよ?なら当然私のことを貴方も「姉様」もしくは「お姉様」と呼ばなくちゃ不自然じゃない?」


 訳知り顔でシルヴィアはそう言う。アイスは先ほどシャルロットの時と違い純粋にシルヴィアの剣幕に押されていた。シャルロットに対しては主従関係による後ろめたさによるものがあったがシルヴィアに対しては純粋に自分よりも完全に格上の存在に対する苦手意識のようなものが存在する。無論アイスはシルヴィアの普段から見せる洗練された高貴な立ち振る舞いや態度、なによりもソウマに及ばぬとはいえ明らかに自分以上の実力を持つシルヴィアに尊敬以上の念を抱いてるのも確かである。


「ほらほら、呼んで呼んで」


 シルヴィアは無邪気な様子でアイスに催促する。


「お、お、お・・・・・・・・・・」


 アイスは先ほど以上に何度も口を開いたり閉じたりを繰り返す何度も声を漏らす。


「お・・・・・・・・・!!~~~~~~~~~あ、姉・・・・・上」


 そうして絞り出すように口にする。


「う~ん、私的には「お姉様」か「お姉ちゃん」がいいんだけどアイスにこれ以上無理強いするのも可哀想だし「姉上」で我慢しようかしらねぇ」


 シルヴィアの納得した様子にアイスはほっと安堵の息を漏らす。


「うふふふふっ、それじゃあこれでいいよねシルヴィア姉様、アイス姉様♪」


「はい、問題ありま・・・・・問題ないわ。・・・・・・・シャル、・・姉上」


「ええ。これなら大丈夫ね。シャル、アイス」


 アイスにはまだ少々ぎこちない所が有るものの三人とも先ほど以上に空気が和やかになったのは誰が見ても明らかであった。

 ・・・・・・・・・・・因みに、ソウマは三人がやり取りをしている間中ずっと我関せずと空を眺めながら「明日も晴れかねぇ」と暢気な感想を漏らしていた。どうやら女同士のこういったやり取りに介入すると碌な目に会わないと学習したようだ。やがて三人の会話が一段落したところでソウマが三人に声を掛ける。


「御三方、話し合いは終わったみたいだな。勇者の件についてはまあ何とかなるようになるだろうさ。それよりも折角水の都に行くんだからどうせなら観光として名高い水の都を堪能しようじゃないか」


「そうね、私もアグアラグの名物の海鮮料理を堪能してみたいわ」


「私は泳ぎたい!」


「私個人もアグアラグは初めてなので少し楽しみではあります」


 ソウマに声を掛けられた三人はそれぞれ目的地に着いてからのことを考える。どうやら四人とも勇者自体にあまり興味が向いていないようだ。


「ガァッ」


 すると少し離れた森の奥から数匹の獣が出てくる。体長は五~六メートルはあろうかという獣である。口からは鋭い牙が伸び背中から尻尾まで剣山のような鱗のようなものが飛び出て先頭の一匹は全身が赤色の体毛で覆われており他が茶色の体毛で覆われている。


「ん?なんだっけこいつ」


 ソウマが目の前の獣達の事が分からずに尋ねる。


「確かカラー・ウルフね」


「なんだその随分可愛らしい名前は?」


 シルヴィアの答えを聞いたソウマはその外見とは似ても似つかない名前に呆れている。


「しかし名前の通りの可愛い獣でもないです、師匠マスター


「どういうことだ?」


「カラー・ウルフは体の成長と強さに合わせてその体毛の色を変化させる種です。個体によって成長の度合いと体毛の色の変化はまちまちですが弱い個体でもランクの低い冒険者では後れをとることも珍しくありません」


「ふーん、あいつはどの程度なんだ?」


 そういいながらソウマは目の前の魔物の観察を続けている。


「体毛の変化の度合いは灰色から始まって青・茶・黄・緑・赤・白・黒まで変化します」


 言われたソウマは目の前の魔物を改めて観察する。


「するとこいつは色的に上から三番目に強いのか?」


「そうなります、ここまでになりますと冒険者でもBランク以上でないと対処は難しいでしょう。しかも今目の前の先頭に居る個体・・・・・恐らくAランク冒険者クラスでないと対応はできないでしょう。あの三匹だけで小さな町程度なら壊滅させることも簡単でしょう」


「ていうか何でさっきからあのでっかい獣さんは襲ってこないのかな?」


 するとシャルロットが疑問に思ったのかそんなことを聞いてくる。確かに先ほどから魔物達は唸るばかりで一向にソウマ達に襲い掛かる素振りを見せない。


「ああ、それは俺とシルヴィアが居るからだろ」


「そうなの?」


「そうなの」


 ソウマは自身満々にそう言い切る。


「なあ?」


 ソウマがそう言って魔物に話しかける。すると魔物達はビクッとなって唸るこそすらしなくなる。


「可哀想に、あまり苛めちゃ駄目よソウマ」


 事実魔物達は動けないでいた。ソウマとシルヴィアを・・・・・・特にソウマを目にした時から体の奥底から湧き上がる感情が止まらない。魔物として生を受けてから天敵と呼ばれるものに一度も遭遇したことがない己にとって己の力こそが何よりも絶対の自信をもたらしていた。しかし、今その自身の源である己の爪や牙が酷く頼りないものに感じてしまう。なけなしの虚勢で唸るもののそれ以上の行動に全く移せなかった。


「どうした?来ないのか、俺達を喰いたいんじゃないのか?」


 ソウマが素手のまま魔物に一歩近寄る。すると魔物達は一歩後ずさる。

 恐怖・・・・・・そう、これは恐怖。先ほどから魔物心を支配している感情は間違いなく生まれて初めて感じる感情・・・・恐怖である。それを一度自覚した瞬間赤い体毛の魔物以外の魔物は逃走を考え始めていた。

しかし・・・・・・・・。


「お?お前はかかってくるみたいだな」


 恐らくリーダー格である赤毛のカラー・ウルフ(赤)が一歩ソウマに歩みを進める。


「恐怖を感じていない訳じゃなさそうだが・・・・・誇りが恐怖に勝ったか?本能を凌駕するだけの矜持がお前にもある。だったら俺もお前をただの魔物とは思わないぜ」


 言うとソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を取り出して構える。


「・・・・・・・・」


 しばらくお互いに構えたまま睨みあう。しかし傍から見れば赤毛の方が押されているのは明らかだった。段々と呼吸が浅くなり前足がガクガクと震え始める。


「ソウマ程の相手となると向かい合うだけでもかなりの体力を消耗するわ。いかにソウマが殺威を出していないとはいえ《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を出したソウマの前に立つのはかなりの気力が必要よ」


 シルヴィアが両者の対峙を静かに見つめながら言葉を出す。


「カラー・ウルフ(赤)は見た所このままでは睨みあっているだけでも戦闘不能に陥りそうです。だとするなら仕掛けるならば・・・・・・・」


「ガアァァァァァァッ」


 アイスが言うや否やカラー・ウルフ(赤)がソウマに躍りかかった。


「よく俺と殺し合いの土俵に上がった状態で俺に向かってきた」


 ソウマは向かってきた相手に称賛を送りながら《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を上段に構える。


「お前は魔物だが本能を越えた矜持を持つ戦士だ。だから俺もお前に俺の剣を振るえてよかったと思うぜ!」


 そう言ってソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を思いっきり振り下ろした。振り下ろされた《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》は寸分違わずカラー・ウルフ(赤)の眉間の部分から刹那の抵抗も許さずに切り裂かれる。《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》をソウマが振り切った後には真っ二つになったカラー・ウルフ(赤)の姿あった。


「あばよ」


 ソウマは《聖王竜剣ドラゴ・エスパーダ》を消して死骸になったカラー・ウルフ(赤)にもう一度声を掛ける。いつのまにか他のカラー・ウルフは姿を消していた。


「お疲れ様ソウマ」


「お疲れ様です師匠マスター。見事な一振りでした」


「カッコよかったよぉ」


 三人がそれぞれソウマに労いの言葉を掛ける。


「それはそうとこの魔物の死骸はどうするの?さすがにこのままはまずいでしょう」


「ああ、こいつは埋めてやる。そこらに適当に穴でも掘って埋葬してやる」


「あらそんなにこいつのこと気に入ったの?」


「ああ、こいつは魔物だが戦士だ。戦士には戦士への振る舞いが有る。こいつも戦士として死骸を晒されるのは屈辱だろうからな」


「ソウマなんだか少し悲しそう」


 ソウマのことを見てシャルロット自身も悲しそうな顔をする。そんなシャルロットに肩を後ろからシルヴィアが優しく触れる。


「ソウマは相手を戦士として認めていた。本来なら殺したくはなかったはずよ。でも相手は魔物、生きている以上は罪も無い人を殺す存在。普段なら見逃すだろうけどここは人里が近すぎる、いくらソウマでも見逃すわけにはいかない。だから仕方なく殺すしかなかったの」


 シルヴィアが説明する間にソウマはカラー・ウルフ(赤)の死骸が埋まる程の穴を掘り埋めていた。そしてその上に頭ほどの意思を乗せて静かに手を合わせる。


「・・・・・・・・・えい」


 そんなソウマを見ていたシャルロットはいきなりソウマの背中に抱き着いた。


「どうしたんだシャル?いきなり抱き着いたりなんかして」


「ソウマを慰めてるの」


 シャルロットそう言って頬をソウマの背中にぐりぐりと押し付ける。慰めてるのか甘えてるのか分からない状態ではあるが。


「ありがとなシャル」


 ソウマはシャルロットの頭を優しく撫でる。するとシルヴィアもソウマの傍に来る。


「まあソウマも珍しく落ち込んでいるから二人で慰めてあげましょう」


「別に落ち込んでねえよ」


「はいはい、男の子男の子」


 そう言いながらもシルヴィアもソウマの右手に抱き着く。


「・・・・・・・・」


 するとアイスがいつの間にか無言でソウマの左手側に寄り添っていた。


「どうしたんだアイス?」


 怪訝に感じたソウマがアイスに尋ねる。


「・・・・・・いえ、別に」


 問われたアイスは素っ気ない感じに返事をする。その頬が僅かであるが紅潮しているのをシャルロットとシルヴィアは見逃さなかった。


「ほら、もういいから先に進もうぜ。アグアラグまで数日すれば着くんだからな」


「それもそうね」


「私もそろそろベッドの上で眠りたーい」


「私は野宿は慣れていますがやはりキチンとした料理が恋しくなる時があります」


「決まりだな、さあ先を急ごうぜ」


 そうしてソウマ達は再び歩き始めた。


 ※※※※


 数日後


「あ、潮の香りがしてきた!」


 シャルロットが嬉しそうに声を上げる。


「お、本当だ。確かに潮の匂いがするな」


 シャルロットの言葉にソウマが鼻を動かして匂いを嗅ぐと確かに海が近い事を告げる潮の香りが漂っていた。


「ええ、そろそろ・・・・・・・・あ、見えたは海よ」


「うわぁーホントだー♪海だー」


 シャルロットがその場で飛び跳ねながら喜びを顕わにする。その様子は今にも海に向かって走り出しそうである。


「はーいはい、嬉しいのは分かるけど一人で先に行かないように!」


 そんな様子のシャルロットを読んでいたかのように素早くシルヴィアがシャルロットの襟首を掴む。


「ぶー、はーい」


「私も海を見るのは初めてなので些か気分が高揚しています」


「あれ?アイス姉様そうだったの?」


「ええ、私は生まれてから自分の里と王国以外にはほとんど出たことはなかったから知らない事のほうが多いわ」


「それじゃあ折角の初めての海を堪能しなくちゃね」


「はい、そのつもりです姉上」


「お、見えたぞあれが水の都アグアラグだ」


「うわぁーすごーい」


 しばらく歩くと前方の視界に海と川以外に建物が見えてくる。


「あれがアグアラグか。海の傍にある国ってよりもありゃ水の上にある国って感じだな」


 ソウマの言葉通り水の都アグアラグは海と川の合流地点の大きな湖の上に出来上がった国だった。建物の一つ一つが水の上に建造されており建物下側は恐らく水底まで伸びた柱で支えられているのだろう。建物は水面から三メートル程度の床下部分にトンネルのような穴が開いておりどうやら船を使えば全ての建物を行き来できる構造になっているようだ。勿論トンネル以外にも上側は全ての建物が端で繋がっている。


「(俺の前世の記憶じゃイタリアのヴェネツィアが近いかねぇ)」


 ソウマは内心でそう考えていた。


「素敵素敵」


 シャルロットは先ほどから機嫌の良さがうなぎ登りである。


「なるほど、川と海が丁度合流する地点に町が建っている為にアグアラグでは海と川の幸が両方とも豊富に提供できるというわけですか」


「そう、しかもあの湖は流れの影響で川と海の境がはっきりとしているから川と海の生き物が共生できるのよ」


「早く行こう!早く!」


 もう我慢できないとばかりにシャルロットが入り口の関所に向かって走り出そうとする。


「わかったわかった、行くぞシルヴィア、アイス」


「ええ」


「はい、師匠マスター


 三人はシャルロットを追うように関所前に到着する。関所の前は沢山の人が列を作っておりソウマ達が入国するにはそれなりの時間が掛かりそうである。


「なんだか時間が掛かりそうだねぇ」


「そうだな、しかし凄い人だな」


「それはしょうがないわよソウマ。このアグアラグは観光都市としても有名だし見ての通り魚介類や海や川の特産品の産地としても有名だから観光目的の人や商業目的の商人なんかが毎年たくさん来るのよ」


「これじゃあ日が暮れちまうぜ」


「なんとか日暮れまでに宿を確保したいですね」


「ん?」


 するとソウマが周りをよく見れば並んでいる人の視線がやたらと自分達・・・主に女性陣に集まっていることに気付く。


「(まあそりゃそうか)」


 三人が三人とも普段では滅多に目に出来ない程の容姿をしている三人である。特にシルヴィアは自然体でいてもその動作の一つ一つが主に男性の目を惹きつけてしまう。同性でさえ先ほどからシルヴィアの髪を掻き上げる動作を見るだけで感嘆の溜息を漏らしている。


「(さて、どうするかね)」


 ソウマこの現状をどうするか考える。


「(ま、いっか)」


 そしてあっさりと諦めた。今更この手の案件で考えることにソウマは諦めを見出したようだ。


「むふふふふふ♪」


 するとなにを思ったかシルヴィアが突然ソウマの右手に抱き着いてくる。


「おい、なんの真似だ?」


「さあ~?」


 シルヴィアはソウマの言葉に惚けた答えを返す。


「あ!シルヴィア姉様ずるい!私も」


 それを見たシャルロットが今度はソウマの胸に抱き着く。


「コラ!シャルまでシルヴィアに乗せられるんじゃない!」


「やだ!私もソウマとくっ付きたい」


 そう言ってシャルロットは一層強くソウマに抱き着いてくる。いつのまにかアイスもソウマの左手側に回り込んでいた。


「アイス?」


「・・・・・・・・いえ」


 最近のアイスはシルヴィアとシャルロットがソウマにスキンシップを謀るといつのまにかソウマの近くに寄っていることが多い、その行動についてシルヴィアとシャルロットは何やら面白そうに黙認しているがソウマ的にはなんとも言えない気持ちである。


「(おい、シルヴィア。お前分かってやってるだろ?)」


「(ええ~なんのことぉ?)」


 ソウマがシルヴィアに目線で問いただせばシルヴィアも目線で惚ける。周囲では人の視線(主に男)の視線が先ほどとは違う意味でソウマに集中していた。すなわち嫉妬と羨望である。


「(はあ~)」


 ソウマはニコニコと嬉しそうにするシルヴィアとシャルロットを見て離れさせることを諦めて甘んじて嫉妬の視線を受け入れることに決めた。


「(早く順番回ってこねえかな~)」


 ソウマは内心でそう思って溜息を付いたのだった。

 日が暮れる直前にようやくソウマ達の順番が回ってきた。


「観光目的かい?」

 

 関所の衛兵がソウマ達の通過時にそう聞いてくる。


「まあな」


 ソウマもそう言いながら自らのギルドカードを取り出す。このギルドカードはソウマが国を出る際にラルクが作った偽造のギルドカードである。冒険者ギルドで正式発効した場合本人のステータスがそのままギルドカードに記載されてしまうためソウマが作ると大騒ぎになり身分証明の度にギルドカードを見た人が卒倒しかねない。その為ラルクがソウマの為にステータスを偽ったギルドカードを作ったのだ。しかもこのギルドカードはギルド本部の人間が見ても偽物と分からない程の精巧さである。


「ふーん、アンタ冒険者なんだな」


 衛兵がソウマのギルドカード見てそう感想を漏らす。ソウマのステータスはCランク冒険者程度の表示になっている。


「・・・・・・後ろのアンタの連れはパーティーメンバーかい?」


 衛兵は次に後ろの女性陣の目を向ける。その際にごくりと喉が鳴っている。


「ああそうだぜ」


 言われて三人とも懐からギルドカードを取り出す。すると三枚のカードがソウマのカードと共鳴するように静かになる。ギルドカードは近くにパーティー登録したメンバーが近くに居た場合カード同士が共鳴するのである。


「よし、身元の確認はできたな、通っていいいぞ」


 ギルドカードは発行の際に前科の有無を問うためギルドカードを持っていることはすなわちそのまま安全証明になるのである。


「ようこそ水の都アグアラグへ」


 衛兵が開けた門を通過する為ソウマ達は歩き出す。その際衛兵の一人が三人の髪の匂いに恍惚した表情を浮かべていた。


「ぐわ!」


 その衛兵に向かってソウマが親指を弾いて顔面に空気弾を喰らわせた。それを顔面に受けた衛兵は仰向けに倒れる。


「うふふふふ、妬いちゃって~」


 それを唯一目で捉えていたシルヴィアは嬉しそうな声を出す。


「ふんっ」


 ソウマはそっぽ向いてしまう。しかしその頬が僅かに赤くなっいるのをシルヴィアは見逃さなかった。

 こうしてソウマ達はアグアラグに到着したのだった。

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