16話 旅立ちと鎧の行方?
なんとかなんとか
「それじゃあソウマ、シャルロット姫とアイスの事を頼んだよ」
早朝、王城の城門前に数人の男女が集合していた。
「ちょっとラルク!シャルとアイスは頼んどいて同じ女性である私の名前が出ないのはどういうことよ?」
その内の一人の女性が先ほど頼みごとをした男性に詰め寄る。
「なにを言っているんだい、君はソウマと一緒に彼女達を・・・・特にシャルロット姫を守る側だろう?そもこの世界でも上から数えた方が早いような実力の持ち主が何を言ってるのさ」
「・・・・・・・この旅から帰って来た時貴方が私の事をどう思っているのかゆっくり聞かせてもらうわ」
「全くお前達は朝っぱらから元気がいいなぁ」
そんな男女のやり取りを男・・・・・ソウマが呆れた目と共に見ている。
「良いでわないかソウマ、これからしばらくはこのようなやり取りも見れなくなるのだ。しばらくの見納めに好きにさせるがよいぞ」
「そうよソウマ君、私達はこれからしばらく貴方達に会えないのだからこういうやり取りも貴重よ?」
「アウロのおっさんも王女さんも何言ってんだ。その気になればラルクの転移魔法で会おうと思えば簡単に会えるだろうが」
「僕の被る苦労は考慮してくれないのかい?」
「(無視)それにここにいる奴は俺以外全員会えない時間を気にする程の寿命の種族じゃねえだろうが」
「何言ってるのはソウマの方でしょう。貴方も半分竜みたいなモノなんだから寿命もほとんどないのと同じよ?」
「それは俺の意思じゃない。竜王のおっさんが無理矢理俺の体に自分の血を入れやがったんだからな」
「同じことよ」
「朝から元気が良いのはソウマも同じようなものだよ」
「お兄様の言うとおりね。ソウマ昨日の夜はどの国に行って何を食べようかってずっと言ってたわ」
「失礼ながら姫様も昨夜は大変高揚しておられたようで・・・・・」
「もう!アイス、それは言わないで」
城門の前で八人の男女が賑やかな言葉を交わす。今日はソウマ達が旅立つ日。その見送りの為に国王夫妻とライハルトとラルクが見送りに来ている。見送られる側であるソウマ・シルヴィア・シャルロット・アイスはシルヴィア以外全員冒険者風の革鎧を着ている。唯一シルヴィアのみがいつも通りの漆黒のドレスを着ている。
「どうしてシルヴィアだけいつも通りの恰好なんだい?その服は自分の影なんだろ、だったら色はともかく服装はもう少し目立たない服の方がいいじゃないのか?」
ライハルトが疑問に思ったのかシルヴィアに問い掛ける。
「こいつの場合はどんな格好していても目立つからな。だったらもう普段通りでいいんじゃないか?てことになってな。お姫さんは姫だってバレなきゃいいだけだしアイスはこの恰好なら普通のエルフに見えるしな」
「まあ元々そんなに必死になるほど姫様の身分やソウマ達の正体を隠すつもりもないんですよ。ただ要らない面倒事を呼び込まない為の処置ですから。別にバレたらバレたで面倒事を起こそうとした者が思い知るだけですよ。自ら怪物の喉に飛び込んだ事に・・・・・ね」
「な、なるほど」
シルヴィアの代わりにソウマとラルクが答える。ライハルトはラルクの最後の底冷えするような言葉に若干言葉が引きつってしまうライハルト。するとソウマが旅の同行者の女性陣を親指で指し示しながら言葉を続ける。
「それに身分も正体も隠してもこいつらを連れて歩ていれば勝手に目立っちまうよ」
そう言ってソウマに指を指された女性陣は全員頬を染めている。どうやらソウマに遠まわしではあるが容姿を褒められて照れたようだ。若干一名何故自分の顔が赤くなるのか良く分かっていない者もいるようだが。
「まあ、確かにね」
言われてライハルトも納得する。ソウマの言う通りで女性陣はシルヴィアが突出しているのを差し引いても全員がそこらの王族や貴族の子女などが裸足で逃げ出すほどの容姿の持ち主たちである。これではどんな格好をしていようとどれだけ身分を隠していても目立つものは目立ってしまうだろう。
「だからこの恰好も気休めみたいなもんだ」
「わかった納得したよ」
ソウマとラルクの言葉に納得したライハルトは今度は自分の妹に向き直る。
「それじゃあシャルロット、ソウマやアイスにあまり迷惑はかけるんじゃいぞ」
「もう、お兄様!私もそこまで子供じゃないもの」
ライハルトの言葉にシャルロットが頬を膨らませて不機嫌を露わにする。
「あら、私には迷惑をかけていいのかしら?」
するとシルヴィアが不満そうに口を挟んでくる。どうやら先ほどライハルトが自分の名前を挙げなかった事に抗議したいようだ。
「正直君はシャルロットに甘すぎるからね、どちらかというと君はシャルロットに同調して迷惑をかける側だね」
「やっぱり今度帰った時にラルクと殿下を交えてじっくり話し合いが必要なようね」
シルヴィアがこめかみを引く付かせながら乾いた笑いを浮かべている。
「それで、ソウマ」
ラルクがそんなソウマの後ろのやり取りを無視してソウマに話しかける。
「ん、なんだラルク?」
「行先は決めたのかい?いくつか候補があるのは知ってるけどまだどこから行くのか聞いてなかったからね」
「ああ決めてるぜ」
「どこに?」
「最初の目的地はここから一番近い国、水の都アグアラグだ。そこに俺の鎧の一つを持った奴がいる」
※※※※
これはソウマ達が旅に出発する数日前、アイスがソウマに弟子入り志願をしてから数週間が経過していた。
「ソウマ、君封印から出てから一度くらい鎧を呼び出してみたかい?」
最近ではほぼ日課になりつつある王家の面々とソウマ・ラルク・シルヴィア・アイスを交えてのお茶の時間の最中にラルクが突然切り出した言葉から始まった。
「鎧?」
「そう、君の鎧《四精の鎧》は使って見たりしたのかい?」
ラルクがその質問をすると同時に室内がなんとも言えない微妙な空気になる。アウロとヘンリエッタはやや困った顔をしている。シルヴィアはそう言えばという顔をしている。アイスは良く分かっていない顔をしておりシャルロットはだらだらと冷や汗を流している。
「?、・・・・・・いや、言われてみれば一度も鎧は出してないな」
「《鎧》、とはもしやあの伝説の?」
この場で唯一ソウマの鎧を知らないアイスが質問を投げかける。
「そうよ、貴方もエルフなら噂位は聞いたことがるでしょう?ソウマの持つ《四精の鎧》の事について」
アイスの質問にシルヴィアがソウマの反応を伺うように答える。
「はい、本当に噂程度のモノではありますが多少は、なんでも世界最硬の金属オリハルコンを超える物質で出来た精霊王様の御力が宿った鎧であると。どの精霊王様の御力が宿ったものかはわかりませんでしたが鎧の金属は少し里の文献に載っていました。確認ですがその鎧はアルティマタイトで出来ているのですか?」
「結論から言うと正解。ソウマの鎧に使われている金属は純度百%のアルティマタイトよ」
「そう、ですか」
自分から質問したアイスではあるが実際に事実を確認するとあらためて驚愕に胸中を支配される。
アルティマタイト、神の金属と言われる世界最硬金属オリハルコンを超えると言われる未知の金属。オリハルコンは神々が授ける武具等に使われることが多くその質は地上に存在するどの金属よりも硬く軽く魔力親和性が高い。オリハルコンは神にしか作り出すことが出来ないと言われ武具以外にもオリハルコンの塊そのものを時折授けられる場合もある。しかしオリハルコンの加工には超一流の鍛冶師の技術と時間が必要になる程で地上世界ではオリハルコン製の武具等は滅多にお目に掛かれない。それを所持する者も伝説に伝わる英雄や勇者や一部の王国の王家が所有するのみとなっている。
「(確か勇者の武具は全員がオリハルコン製だったはずですが)」
しかしアルティマタイトは違う。かの超金属は神々ですら扱うことはできず又どのようにして精製されているのかもわからない。ある日地上のどこかに突然出現するのである。何故そこにあらわれるのかそもそも誰が生み出しているのか、分かっているのはこの金属がオリハルコンすら超える金属であることだけである。しかし地上で発見されてもその量は決して多くない上にそも加工がオリハルコン以上に困難であることから発見しても希少性から所持しているだけの者も多い。
「知っての通りアルティマタイトはオリハルコン以上に加工の難しい金属。竜王の牙並にその扱いは困難を極める代物ではあるけどソウマの剣を造ったエルダードワーフなら可能よ」
「私はむしろ竜王の牙がアルティマタイトと同等の扱いに驚いています」
「エルダードワーフがアルティマタイトを鎧に加工しハイピクシーが精霊を宿るのを手伝ったソウマの剣と同じこの世界最高峰の鎧よ」
視界の端でシルヴィアとアイスの会話を捉えながらそれ以外のメンツの反応にソウマは一瞬その室内の微妙な空気を感じ取り訝しんだがすぐにラルクの質問に思考を巡らせてから質問に答える。その答えを聞いたラルクは目を閉じて溜息をつく。
「それがどうかしたのか?」
「やっぱりね、ソウマが封印を出てから一度もその話題がソウマの口から出ないから不思議には思っていたけどやっぱり今の鎧の状態を知らないみたいだね」
ラルクの言葉でソウマは先程よりもさらに訝しんだ視線に変わる。
「鎧の状態?」
「兎にも角にも説明するより実際に見た方が早いね。ソウマ、鎧を呼び出してみてくれよ」
「よくはわからんがお前がそう言うなら言う通りにしよう」
そう言うとソウマは飲んでいたお茶をテーブルに置いて立ち上がり
「ん」
手を前にかざして集中する。どうやら今回は詠唱は破棄して召喚するようだ、しかし・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
室内がしばし沈黙に包まれる。
「おい・・・・・・・・ラルク」
「なんだい・・・・・・ソウマ」
「俺の鎧が出てこないんだが?」
「無いからだね」
「なんで?」
「人に貸したからだね」
「誰に?」
「各国の勇者に」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでそんなことに!?」
ソウマは呆れたような表情になる。
「いや~実はこれには事情があって」
「ソウマ!」
すると突然ソウマの背後から声が挙がる。
「姫さん?」
ソウマが背後を振り返るとシャルロットが見事な五体投地DOGEZAを披露していた。
「なにしてんだ姫さん?」
ソウマはシャルロットの突然の行動に困惑した表情を浮かべている。昔から(空白は存在するが)どんな悪戯をしても大抵悪びれることをしない彼女がここまで明確に誤ったことをしらないソウマは現在の彼女の状況を飲み込めないでいた。
「・・・・・・・・・・・おい、ラルク」
ソウマは土下座の体勢から動こうとしないシャルロットに変わってラルクに説明を求める。
「ソウマが封印から出てくる数年前に僕とシルヴィアが勇者の稽古を付けたことがあるって言ったよね。その時に何人かの勇者に姫様が君の鎧を貸し与えたんだよ」
「?、持ち主の俺が言う事じゃないがそんなこと可能なのか?確かあの鎧俺にしか着れないんじゃなかったか?」
ソウマの言葉にラルクが頷く。
「普通の状態なら不可能だね。あの鎧は作成の際にハイピクシー達と僕が君以外では君が許可を出した者にしか使用が出来ないように作ったからね。それでなくともあの鎧は純度百%のアルティマタイトで出来ている。ソウマ、君も知っているだろうけどアルティマタイトはその高い魔力親和性と絶大な硬度とは引き換えに恐ろしい程の加工の難しさがある上にアルティマタイトは使用者の力量によってその重量を変化させる。使用者の力量が足らなければアルティマタイトは凄まじい重量に変わり逆に力量が足りていればアルティマタイトは羽毛のような軽さに変わる。しかもそれはアルティマタイトの量が増えれば増えるほどその加重も増えていく」
「それはさすがに覚えているさ、だから地上に稀に出現するアルティマタイトの大半は誰も持ち帰れずにそのまま放置される。仮に極小さい塊を持ち帰れたとしても加工はできないから大抵は置物決定だからな」
「その通り、だから仮にアルティマタイト製の武具があったとしてもほとんどが使われずに埋没することが多い。ましてや君の鎧は全身鎧をまともに使用する場合は僕やシルヴィアでさえも重すぎてまともに動くことすらできないだろうね。例外は君が百年前にシャルロット姫に使用したようにその力のみを使用した場合のみだ。しかもあれは鎧の力というよりも鎧に宿ってる精霊達の力を使っただけだからね。しかもあの時は所有者は飽く迄も君だったから鎧もおとなしく従ったんだろうね」
「だったら尚更どうやったんだ?お前らに聞いた勇者君達の実力じゃ到底俺の鎧を使えるとは思えないぞ?ていうかなんで鎧を貸したんだ?」
その質問にラルクは少し申し訳なさそうな顔になる。
「それについては僕自身にも少し責任があるんだ。二年前に勇者がこの国を訪れた時に当然勇者達とも少し交流を持ってね。彼等の中には当然のこと突然この世界に召喚されたことにより望まない戦いを強いられている者がいた。彼等がそれでも戦う理由は・・・・・」
「元の世界に返してもらう為・・・・・・か」
ラルクの最後の言葉をソウマが引き継ぐ。その顔には各国の思惑を理解するが故の不愉快さが滲み出ている。
「そう、無論全てではないけど彼等の何人かはそれだけを希望に戦っている者がいる。そしてそんな彼等の事情を聞いた姫様が彼等の為に何かしたいと言ってね。それで僕とシルヴィアが彼等を強くする為に稽古を付けたのさ、そして彼等がこの国を去る時にソウマの鎧を彼等の為に姫様が貸し与えたんだ」
「なるほど」
「ごめんなさいソウマ。勇者の人達が可哀想だったから少しでも戦いが楽になるようにしてあげたかったの。でもお父様達の考えも邪魔したくなかったからラルクやシルヴィア姉様にも勇者の人達を手伝ってとは言えなかったから・・・・・・・・その」
いつのまにか五体投地から起き上がっていたシャルロットが申し訳なさそうに謝罪する。そんなシャルロットの頭にソウマは優しく手を置いて撫でる。
「大丈夫だ姫さん、別に怒ってる訳じゃない。それにお前らが何の理由も無く俺の鎧を人に貸すとは思ってなかったからな。俺が一番気になったのは俺の鎧をどうやって勇者の連中に貸したかだ」
「まあタネは君が封印された時に鎧を別の人間が使用していたことだね」
ラルクが指を一本立ててまるで教壇に立つ教師のように説明を始める。
「と言うと?」
「君が健在の時なら既にその鎧は君を主と認めているから君以下の存在にはテコでも装着を許さないだろうけど不幸中の幸いで君は《氷結地獄》の中に封印されていた。あの封印内は外界からは完全に遮断された異界だ。鎧も君が《氷結地獄》に封印された時点で君の存在をこの世界のどこにも感知できなくなって所有権が一時空白になったんだよ」
「なるほど」
ソウマが理解を示す様にうんうんと頷く。
「そこで僕が鎧に直接干渉して勇者達にも使用できるように調整したんだよ。勿論勇者達の力量でも鎧が使えるようにアルティマタイトの性質を抑え込んで使用できるようにしているよ。まあ鎧の性能は半分以下になってしまうけどそれでもオリハルコン製の物よりは遙かに高い性能を出せるけどね」
「よくアルティマタイトの性質に干渉できたな」
「それは偏にシャルロット姫の協力のおかげでもあるんだ」
「姫さんの?」
「アルティマタイトは元々精霊が大量に宿った物質だ。これは僕の独自の研究で確証は無い推察ではあるけどアルティマタイトの性質は精霊が関わっていると思うんだ」
「精霊が?」
「そう、精霊は自然界の意思そのものと言われている。そしてその頂点に君臨する精霊王達はあの【竜王】ゼファルトスと同じ神すら凌ぐ高次元生命体と言われている。彼等精霊王はこの世界の意思だ。そしてアルティマタイトにはこの世の理の意思が宿っていると僕は思っている。アルティマタイトの性質はそのまま精霊王の意思の表れではないかと思っている」
「意思の表れ?」
「つまりアルティマタイトに相応しくない者は精霊王の意思に拒絶されるのさ。アルティマタイトが持つ者の力量を感じ取り自身にそぐわない力の持ち主では使うことが出来ないように重くなるんだと思うんだ。そうすれば力量によって重さが変化するのも納得できる。あれは試練だね、アルティマタイトを望む者が自身の力量を分かりやすいようにする為のものだと推察できる。まあこれは全て僕の仮説だけどね」
「つまり精霊が関わっているから姫さんの力を借りたと?」
「その通り、ソウマも知っての通りシャルロット姫は精霊や神に愛されている。それは精霊王も例外じゃないよ。現にシャルロット姫には精霊王の加護も付いているからね。そこでシャルロット姫の協力を得て鎧の中の精霊達に働きかける事ができたんだ。すると僕の推察通りアルティマタイトはその性質を弱めてある程度の力量があれば使用できるようになったんだ。まあその過程で能力が弱まったのはしょうがないと諦めるしかないね。まあ僕からすれば僕の仮説の一つが証明できたから収穫は十分あったけどね」
「なるほど、方法は分かった。それで何人の勇者に貸したんだ?」
「五人だよ。右手甲、左手甲、右足甲、左足甲、そして胴体鎧の五つに鎧を分けて勇者に渡したんだ。いくら能力を抑えていてもさすがに全部を使うのは勇者君達には不可能だからね鎧の一部ずつを渡したんだ」
「ふーん」
ソウマはラルクの話を聞き終えると何かを考えるようにお茶を口に運ぶ。
「ソウマもしかして君、勇者達に会いに行く気かい?」
「まあな、一応あれは俺が貰った鎧だからな。俺自身が望んで手に入れた物じゃないとはいえ俺の為に竜王のおっさんやらラルク達が骨を折って作ってくれた物だからな。俺自身もその勇者達が本当に鎧を預けても大丈夫か見極める義務があると思うんだよな」
「すごい!ソウマにもそういう責任感ってあったのね!」
ソウマの言葉を聞いて椅子に座ってアイスとお茶を飲んでいたシルヴィアがそんなことを言う。
「おい!どういう意味だそれは!」
ソウマがシルヴィアの言葉を聞いて憤慨する。
「褒めたのよ」
「どこを!?」
二人のやり取りに先程から皆のやり取りに聞き耳を立てながら無言でお茶やお菓子に舌鼓打っていたライハルトが苦笑しながらも口を開く。
「そう言えばソウマの鎧を持っている勇者がどこの国の勇者かは実は僕も知らないんだよね。二年前勇者がこの国来ていた時僕は少しこの国を離れていたから勇者とは少ししか会っていないんだよね」
「私もその時ライハルト殿下の護衛でこの国を離れておりました。ですので私も勇者を拝見したのはラルク様とシルヴィア様が勇者に稽古をされている時の少しだけです」
ライハルトの言葉に続く様にアイスも当時を思い出して言葉を出す。
「それで俺の鎧を持ってる勇者君達の居る国はどこなんだラルク?」
ソウマが再びラルクに尋ねる。
「それはね・・・・・・・」
※※※※
「最初の目的地はここから一番近い国、水の都アグアラグだ。そこに俺の鎧の一つを持った奴がいる」
「アグアラグ?なんでそこを選択したんだい?」
ラルクがソウマに目的地を選択した理由を尋ねる。
「一つはこの国から一番近いのがアグアラグであること、二つ目にシルヴィアに聞いたがもうすぐあそこでなにやら祭りが催されるらしいからそれに行ってみたいこと、かな」
「理由が二つとも割と下らない理由だね」
「うるせ」
「私がソウマに行きたいって言ったんだよ!」
するとソウマの背後からシャルロットが顔を出す。それを見てラルクが深々と溜息を付く。
「なんだい結局ソウマも姫様に甘い所はシルヴィアとそう大差ないじゃないか」
「いいんだよ俺も行きたかったし」
「私も行きたいわ」
「私は皆様に従うまでです」
ソウマの言葉にシルヴィアが同意を示す。アイスはそもそも反対する気がないのか最初からソウマ達に着いて行くつもりのようだ。
「しかしそうか、水の都アグアラグか・・・・・・。青の精霊王の力が宿る右手甲【蒼の右手】を所持する【水】の勇者が居る国だね」
「勇者にも別個の名称があるのか?」
「各国の勇者が各々最も得意とする武器や魔術や能力が由来になっているんだ。他にも【剣】【槍】【拳】【魔】etc・・・・・・かな」
「へえ、まあそれはこれからの楽しみとっておくか」
「あまり勇者を苛めたらだめだよソウマ」
「苛めるかっての」
「ソウマ、そろそろ出発しましょう。あまり遅くなると歩きだからすぐに日が暮れてしまうわ」
「応、そうだな」
「私もシルヴィア様に同意です。あまり出発が遅れると師匠に稽古をしてもらう時間が取れませんから」
アイスの言葉を聞いた瞬間ソウマはその場で転倒する。
「・・・・・・・・・・アイス」
「はい、なんでしょう師匠?」
呼ばれたアイスはキョトンと首を傾げている。
「その師匠と呼ぶのはやめろと言ったはずだが?」
「しかし師匠は私の師匠ですからそう呼ぶのはなにも不自然ではないはずですが?」
アイスはさも当然であるかのように言う。その言葉にソウマは頭を抱えるように溜息を付く。
「そもそもまだ俺はお前を弟子とは認めてないだろう。稽古を付けると言ってもお前の剣の練習台になってるだけだろうが」
「私の剣を全て軽々と受けられるのは師匠とシルヴィア様位です。それだけでも現在の私には十分な修練となります」
「だが俺はお前にまだなにも教えてないだろう。そんな俺を師匠と呼ぶのはやっぱりおかしいだろうが」
「いいえ、私はいずれ貴方に認めてもらい必ず師匠になっていただきます。ですから今のうちに師匠と呼ぶのも問題ありません」
アイスは自信満々に言い切る。その様子にソウマはぐぬぬぬと唸りながらアイスを見ている。
「どうしてもその呼び方をやめる気は無いのか?」
「ありません。私の中では既に貴方が私の師であることは私の中で決定事項です。例え今は師匠から指導を受けられずともそれはかわりません」
「・・・・・・・・」
ソウマは暫くアイスを睨みつけていた。しかしアイスが全く視線を逸らさずいつもの無表情を貫いたのを見て諦めるように再び溜息を付いた。
「・・・・・はあ、好きにしろ」
「了解しました。師匠」
ソウマが諦めたように師匠呼びを認める。それを確認した時アイスは返事と共に僅かではあるがしかし確かに小さな微笑みを浮かべる。並の男ならそれだけで撃沈されそうな破壊力である。
「全くお前も結構頑固な所があるな」
「恐れ入ります」
「褒めてねえよ」
しかしソウマは大陸の至宝と言われるシャルロットや至高の芸術も裸足で逃げ出す美貌を持つシルヴィアで耐性のあるソウマは全く動じない。
「コラッ!アイスとばかりイチャついてないで私やシャルも構いなさいよ」
するとシルヴィアがソウマの背中から突然抱き着いて抗議する。
「そうだそうだー」
真似するようにシャルロットもソウマの右腕に抱き着いてくる。
「別にイチャついてないだろうが、突然抱き着くんじゃない!」
「なによ、恋人に抱き着いてなにが悪いのよ」
「そうだそうだー」
ソウマの反論と文句にシルヴィアが再び抗議する。そしてシャルロットはオウムのように先ほどの言葉を繰り返す。
「別に悪くはないが時と場所を考えろっての」
「全くソウマは照れ屋さんね」
そう言ってシルヴィアはソウマの背中から離れる。
「ほんとほんと」
「姫さんもシルヴィアに乗せられるんじゃない」
ソウマは未だにソウマの右手に抱き着いたままのシャルロットに手を手刀の形にして頭に乗せるようにチョップを入れる。
「あう」
「ほら、離れて」
「ぶー」
ソウマに言われてシャルロットは渋々といった様子でソウマの腕から離れる。
「いやーソウマもこれから大変そうだねー」
ライハルトが実に面白そうに言う。
「シャルロット」
するとヘンリエッタが手招きしてシャルロットを呼ぶ。
「なあにお母様?」
呼ばれたシャルロットはヘンリエッタの元に行く。するとヘンリエッタはシャルロットの方に優しく手を置いて・・・・・・。
「シャルロット・・・・・・」
「?」
シャルロットは母親の神妙な面持ちに不思議そうな顔をする。そんなシャルロットにヘンリエッタは至極真剣な表情で・・・・・。
「孫ができたらすぐに報告するのよ」
そんなことをのたまった。
「おい!いきなり姫さんになにを吹き込んでんだ」
ソウマはズッコケながらもヘンリエッタに猛抗議する。
「なにって重要な事じゃない。孫ができたら私も直ぐ知りたいし」
「それについては儂も同意見だ」
するとアウロ王もその話に参加してくる。
「???」
いまいち話の内容がシャルロットには理解できないようで頭に無数の?マークが浮かんでいる。
「ホントに大変そうだねーソウマ」
今度はラルクが実に楽しそうな顔で言っている。
「お前らなー」
ソウマは恨めしそうにラルクとライハルトを睨む。しかしソウマは諦めるように溜息を再び付く。どうやらソウマの旅は最初から色々大変そうであるようだった。
次もなるべく早く投稿できるよう努力します