15話 弟子入り志願!?
夏休みパゥワァー
「・・・・・・・!!!」
アイスはラルクからソウマの《聖王竜剣》のルーツを聞いて絶句してしまっている。先程ラルクの口にした二つの種族エルダードワーフとハイピクシーはハイエルフに並ぶほど長い歴史と知識を持つ太古の種族である。この二つの種族はハイエルフ以上に自分達の種族以外との交流を持たず遙かな秘境の奥地で過ごしているという。
「本当に何の種族があの剣に関わっているのですか?」
アイスはラルクに事実を確認する為に自ら確かめる。もはや滅んだとも言われエルフ達の間でも記録の中だけでしか存在しない程の存在である。
「本当ですよ。彼ら二つの種族は【竜王】ゼファルトスの庇護の下に暮らしていました。遥か昔の様々な種族の戦が行われた際に彼等の特殊な力と技術は多くの種族から狙われる結果となりました。その際にこの二つの種族は絶滅の危機に瀕しました。それをみかねた竜王が保護したのですよ。それに竜王の牙を加工できる程の技術を持つのはエルダードワーフのみですからね。それは貴方も知っているでしょう?」
「それは・・・・・」
この世界の生物の大半は高位次元存在である神の力には遠く及ばない。しかしごく一部の種族の限られた条件化などや特殊な技術・能力では神々ですら及ばない程の資質を発揮することもできる。かつて神々も自らの力を付与させた物質をエルダードワーフに鍛造させた。これが今の世にも伝わる伝説の神剣等である。ちなみに神剣を打てるのはエルダードワーフのみであり通常のドワーフでは聖剣・魔剣しか打つことができない。
「それにハイピクシー達の協力がなくては剣にここまでの力と魂を宿すことはできません」
ハイピクシーの力は様々なものがありその不思議な力の数々は未だに謎に包まれている部分が多い種族である。古代の古文書にもかつての戦いでも様々な神秘であらゆる種族に恩恵をもたらしたと言われている。
「それでは本当にあれは竜王の牙で・・・・・・・」
下位次元世界に於いて肉体を持つ生物で最強最古の存在である【竜王】ゼファルトス。その力は神々ですら歯牙にもかけずその竜鱗はあらゆる力を弾き返しその爪は神々の魂までも引き裂いた。なかでもその牙はこの万物あらゆるものを噛み砕くと言われた牙である。もし本当にソウマの剣がその牙で作られた物であるのならばこの世に存在する全ての聖剣・魔剣どころか神剣ですら遙かに凌ぐ武器のはずである。
「なんなら持ってみるか?」
驚愕しているアイスにソウマが何の気なしに出現させた《聖王竜剣》の柄を向けてくる。それにアイスはしばし悩む素振りを見せたが好奇心には勝てず・・・・・。
「あ!待ちなさい!」
それを見たラルクが慌てて止めに入るも一歩遅くアイスの手が《聖王竜剣》の柄に振れた時・・・・。
「え?・・・・!!!」
途端にアイスは己が竜の巨大な咢に飲み込まれる幻想に襲われた。
「は!?」
気が付くとアイスは《聖王竜剣》の柄から手を離し尻持ちを着いていた。全身には滝のような汗を気付かない内に搔いていた。
「全く、だから止めたのに・・・・・・」
「・・・・・・悪い」
その状態を見たラルクが溜息を着きソウマが申し訳なさそうな顔をしている。シルヴィアは先ほどから事の成り行きを面白そうに見ている。
「大丈夫ですかアイス?」
ラルクがアイスに近づいてその肩に触れる。そして何事か呪文を唱えるとアイスの汗は引いて行き呼吸も徐々に整いだす。
「ラルク様・・・・・ありがとうございます」
何とか調子を取り戻したアイスはようやく立ち上がる。
「先程言ったでしょう。ソウマの《聖王竜剣》には魂が宿っています。それも【竜王】ゼファルトスの牙の力を受け継ぎソウマの力を受け続けた程の強力な魂です。よほどの使い手でもない限り《聖王竜剣》の魂の圧力に負けてしまうんですよ。勿論それはソウマも当然知っていることですが・・・・・・」
「いや悪い、すっかり忘れてたわ」
ソウマは開き直ったかのようにあっけらかんと言い放つ。それにラルクは責めるような目を向けながらも直ぐに諦めたのか首を振ってアイスに向き直る。
「まあアイス、これで分かったでしょう?ソウマの《聖王竜剣》は今の貴方の《アイスコフィン》では受け切れません。これはソウマの気遣いなのですからね。決して貴方を侮った訳ではありません。そもそもソウマは興味の沸かない相手は相手にしない性格ですから」
「わかりました」
アイスは納得したのか立ち上がり《アイスコフィン》を鞘から抜き放つ。
「ソウマ殿、貴方の真意は理解しました。もはや貴方の方針に私からの不満は言いません。なので今一度お頼み申し上げます、どうか私と立ち合ってください」
アイスは改めてソウマに頭を下げて頼み込む。
「もちろんだ。俺自身もお前の気持ちは理解できるからな」
そう言ってソウマも再び先ほど兵士の一人から借りた騎士剣を構える。
「では・・・・・・・、いざ尋常に!」
アイスがそう言うと同時にラルクやシルヴィア、それに周りの兵士達も二人から距離を取る。念の為にラルクが皆の周りに防御結界を張っている。
「応!勝負!」
ソウマが応じると同時にアイスがソウマに切り掛かった。
※※※※
現在ソウマはシルヴィアと共に窮奇の背中に乗って王都を目指して飛んでいた。
「いいのかね片づけをラルクやライハルトや他の兵士達に任せても」
「いいんじゃないの?ラルク達が良いってい言ってるのだから。それにライハルト殿下の言った通り早く私やソウマが帰ってあげないとシャルが拗ねてしまうわ」
ソウマとシルヴィアは演習後、演習場の整備をラルクや他の兵士達に任せて一足早く帰途の最中である。
「それでどうだった?アイスの実力は?」
「ん?ああ、筋は悪くない。これからの鍛錬次第でまだまだ成長の余地があるだろうな。あの剣にしてもそうだ、主と剣が良い関係を築けている。持ち主の成長次第であの剣もまだまだ成長するだろうぜ」
「あら珍しい、ソウマが素直に人の才能を褒めることがあるなんて」
「本当に才能が有る奴は俺は素直に認めるよ。勇者の時にも言ったが俺が許せないのは才能だけあってもそこに自ら身に付ける力に対する責任も己の力を他者に振るう覚悟と自覚がない奴だけだぜ」
「それじゃあアイスは合格ってこと?」
「ああ、あいつにはちゃんと覚悟と責任が備わっているよ。若干自分の強さに貪欲すぎる傾向はあるがそれもまあ周りが見ててやればなんとかなるだろうさ」
「それであそこまで完膚なきまでに実力差を見せつけたわけ?」
「ああそうだ、前に多分ラルクかお前が言ったのかもしれんがあいつは強い奴と戦えばまだまだ強くなる。今のうちに自分よりも強い奴が多くいること知っておいた方がいい。でないといつか無謀な戦いで死ぬことになる」
「・・・・・・確かに昔ラルクも似たようなことを言っていたわ。だから私もアイスと昔に戦うことを了承したんだもの」
その後しばらく二人は無言で空を行く。
「そういえば・・・・・・そろそろアイスは立ち上がれるようになったかしら?」
「ああ?とっくに起き上がれるようにはなってんじゃないのか?ラルクも居るし俺もちゃんと手加減はしたぜ?」
「ソウマの手加減は死んでるか死んでないかでしょ?相手が生きてたらとりあえず手加減成功って思ってる人間の手加減は全く信用できないわ」
「・・・・・・・・・」
ソウマはシルヴィアの言葉にどこか納得のいかない顔をしていたがここで反論の言葉を出しても必ず負けることが分かっているので何も言わないことに決めたようだ。
※※※※
「立てますかアイス?」
ラルクは現在演習場に仰向けに大の字に倒れているアイスに声を掛ける。
「・・・・・・・・・」
アイスはラルクの声に返事を返す気力もないのか目を閉じて浅い呼吸繰り返している。それは一見するとまるで眠っている何の様にすら見える。
「ラルク様・・・・・・団長は大丈夫なんでしょうか?」
すると一人の兵士が心配になったのかラルクにアイスの容体を訪ねてくる。それにラルクは苦笑しながら心配するなと言う様に手を振る。
「ああ、心配いりませんよ。この状態は彼女自身が望んでいる状態ですから。いざとなれば僕が回復魔術を施しますから心配いりませんよ。ですから貴方達は演習場の片づけに専念しなさい。細かい箇所が終わったら言いに来てください、残りの部分は僕の魔術で元に戻しますから」
「・・・・・・?、わかりました。それでは団長のことをお願いします」
兵士は一瞬訝しんだがそれ以上の追及はやめて片付けの作業に戻って行った。
ラルクは立ち去る兵士の背中を見送った後に再びアイスに視線を戻す。そのアイスを見つめる瞳にはどこか手の掛かるやんちゃな娘を見る父親のような温かさが感じられる。
「(まるで大きな玩具を与えられた子供のような感じですね)」
ラルクは内心そんなことを考える。事実アイスは先程のソウマとの戦いを何度も何度もそれこそ飽きることなく反芻するように脳内に再生させていた。
「(久々ですね、ここまで心地いい疲労感に全身が包まれるのは)」
アイスは興奮冷めやらぬ内心でそんなことを考えていた。現在のアイスの状況も治療しようとしたラルクの厚意を断りアイス自身が望んでこの状態を維持していた。少しでもソウマと戦った余韻を体に覚え込ませる為に。
「(あれこそ・・・・・あれこそ私の目指すべき理想の姿です)」
ラルクとも違う、シルヴィアとも違う。ラルクもシルヴィアも確かに自分よりも遙かに上をいく実力者であることには変わりはない。しかしそもそも二人とアイスでは戦闘の型がまるで違う。ラルクは完全に魔法主体で行われる戦闘方法で確かに魔術を使うという点では参考になるかもしれないがアイスの戦闘は基本的には魔術を補助に置いた剣術での近接戦闘が主体である。シルヴィアは戦闘方法こそ近い部分もあるが彼女は基本的に近距離・中距離・遠距離を満遍なくカバーできる程の戦術の幅がある。それに加えて生物としての段違いの性能差が存在する。純粋な剣術の腕では負けてるつもりはない、しかし単純な筋力差が如何ともしがたい差を生み出している。それに加えてあの不死身の肉体を生かした戦闘方法は完全に彼女固有のモノになっている。
「(剣で・・・・・・完全に負けました)」
しかしソウマは違った。ソウマの戦闘方法は単純である。己の鍛えた肉体と剣術での超接近戦。勿論遠距離の相手に対する手も持っているのだろうが少なくともソウマはアイスとの戦いでは接近戦しか行わなかった。魔術を使わないのか使えないのかはアイスには判断できなかったがそんなことはアイスには関係が無い程にソウマの力はアイスにとって衝撃だった。ソウマの実力事態は城やラルク・シルヴィアとの模擬戦で理解はしていたつもりではあった、しかし眺めているだけと実際に戦うのではその感じ方は大きく違った。
「(おそらくはわざと私に理解できる領域まで実力を下げていてくれたんでしょうね)」
実際にソウマはアイスとの戦いでは最初アイスに合わせるように剣の速度を落としていた。そして徐々に速度を上げて最後にはアイスでは付いて行けない速度にまで剣速が上がっていった。それはまるでアイスの実力を少しづつ確かめるようなやり方であった。アイス自身もそれに必死に付いて行こうとした。アイスは最初から全開で挑んだ。己の持つ剣術・魔術の全てを駆使した。ソウマの戦い方は最初から最後までアイスに合わせた戦い方だった。それゆえにアイスは己の実力を十二分に発揮することができた。
「(だからこそ、でしょうか・・・・・・ね)」
だからこそ、己の力を十分に発揮できたからこそ尚の事相手との実力差が如実に理解できてしまった。どうしようもないほどの実力差、現在の己ではまだどれだけの差があるのかもまるで分からないほどの圧倒的な強者の存在、アイスはラルクやシルヴィアと会った時以上の衝撃と感動に包まれていた。なぜなら・・・・・。
「(ただ一つ理解できたこと・・・・・・あれこそ私が求めていた存在・・・)」
己の求める己の理想像、間違いなくソウマはその遙か先にいる。先の戦闘では身体能力の差でもなく魔力の差でもなくましてや武器の性能差でもない(そもそも武器の性能はあの戦闘ではアイスの方が数段優っている)。それは経験、アイスなど想像もつかない程の凄まじい程の戦闘経験からくる戦闘者としての直観や経験則からくる先読み、そして才能以上に凄まじい鍛練による圧倒的な剣の技量。剣を合わせてアイスは実感していた。才能などという言葉に胡坐をかいている者では到底到達できない領域の剣の技量。一体どれほどの戦闘経験と自己鍛錬を己に課せばあれほどの領域に到達できるのかアイスにはまるで想像できなかった。
「(彼に・・・・・あの人をもっと見ていたい、もっと近くで・・・・・少しでもあの人に近づきたい・・・・)」
アイスの中で一つの気持ちがどんどん大きくなっていく。その気持ちがアイスはよく理解ができなかった。ラルクやシルヴィアと戦った時でさえこんな感情を抱くことは無かった。アイス自身この感情の正体が掴めていなかった。憧憬?尊敬?それとも憧れ?様々な憶測や考えがアイスの脳内を駆け巡る。しかしアイスは一つだけ結論を己の中に見出していた。
※※※※
「は?」
ソウマは城に戻った後にすぐにシャルロットの自室に呼ばれてシルヴィアと一緒に現在三人でお菓子とお茶を楽しんでいた。するとソウマ達に遅れて演習場から帰還したラルクがシャルロットの部屋に入室してきた。しかしその際に一人の同伴を引き連れて来ていた。ソウマはその同伴者の発した言葉に間抜けな言葉を返してしまった。
「な、なんだって?」
ソウマはもう一度ラルクが連れてきた人物・・・・・アイスに問い返す。
「ですから、私を貴方の弟子にして頂きたいのです」
アイスは常の通りの氷のような美貌を無表情なままに淡々とソウマの問いに冷静に返す。
「え!、ちょっと待て、お前・・・・・えっと本気・・・・か?」
事態が飲み込めないソウマは思わずもう一度問い返してしまう。
「?、私はいつでも己の本気を込めた発言しかしていませんが?」
アイスは首を小さく傾げながらソウマの言葉の意味がわからないといった顔でキョトンとしている。
「ああ・・・うん、そうか。それで・・・・なんで・・・・弟子に?」
ソウマは取りあえず本気がどうかを問うのは無駄だと悟り理由を聞くことにした。
「それは至極簡単な理由です。貴方が私の利想像以上の存在だからです」
「ま!」
「ほへ?」
アイスの発言にシルヴィアは驚いたように(若干面白そう)シャルロットは理解ができなかったのか間抜けな声を出す。
「私が知る上で貴方以上に強く剣の腕が立つ存在を私は知りませんし恐らく現れないでしょう。ですからこの貴重な出会いを逃さないように貴方に弟子入りを志願した次第です」
淡々と自らの事実を語るアイス。それを聞いたシルヴィアは「ナンダ」という顔でお茶を飲みなおしてシャルロットはソウマの強さを褒められて少し嬉しそうである。
「それで?どうするのソウマ、弟子にしてあげるの?」
シルヴィアが再びお茶とお菓子を食べながらニヤニヤしながらソウマに聞いてくる。
「・・・・・・・うーん」
ソウマは腕を組んで悩んでいる。実はソウマは弟子入りを志願されたのはこれが初めてだったりする。昔からライハルトのように剣の稽古を少し見てやる程度のことはしていたがはっきりとソウマ自身が剣の修行を付けてやったことはない。そもそもソウマの鍛錬は並の者では到底こなすことが出来ないほどの凄まじい鍛練の為誰にも付いてこれない。よしんばソウマが鍛錬のレベルを下げたとしても元が凄すぎていずれは付いていけなくなる。なによりソウマの実力を正しく理解する者の大半はそのあまりの実力差にも分からないほどの実力差に最初から弟子入りしようなどと考えもしないのである。ゆえに今のように正面から弟子にしてくれと言われたソウマは戸惑っていた。
「いや、俺しばらくしたら旅に出るから弟子にしても教えられないから」
「勿論先ほどラルク様からお聞きして知っています。当然私も同行させてもらいます」
「うえ!?いや、でもお前さんは騎士団長だろ?国の防衛の要である騎士団長がいきなり居なくなったらまずいだろう」
「別に構わないよ」
「なぬ!」
アイスとは全く違う方向から瞬時に反論の言葉が飛んできてソウマは又も素っ頓狂な声を上げる。ソウマは反論がきた方・・・・・・ラルクの方に視線を向ける。
「前に君達が旅に出る時に言いましたが転移魔法があるのでいざという時は強制的にご帰還願いますから大丈夫ですよ。人数についても少し改良ができまして転移対象に触れていれば何人でも転移可能になりました。まあもちろん人数や距離が増えればそれだけ消費魔力も増大しますがね」
「あれから一週間と経ってないってのにもう改良が済んだのかよ」
ソウマが感心したように言う。
「まあね、備えはいくらしてもしたりないのが僕の信条だからね。あらゆる可能性を想定して転移魔法は改良が必要と判断したから少し気合いを入れただけさ。それにこれも前にも言ったけど大抵の事なら僕一人でもどうとでもなるからね。しかも今回ソウマの旅に同行するのは僕自身アイスには良い経験になると思っているからむしろ推奨したいくらいだよ」
「お前が良くてもシルヴィアやお姫さんが・・・・・・」
「私は別に構わないわよ?アイスも私にすれば可愛い妹みたいなものだし」
「うぐっ」
「私も全然いいよ~。皆で一緒の方が楽しいもんね」
「おうっ」
次々と外堀を埋められてソウマも段々反論のしようがなくなってきた。
「どうします?」
「どうするの?」
「どうする?」
ラルク・シルヴィア・シャルロットの三人に交互に問い掛けられてソウマは暫く唸る。やがて観念したかのようにため息を一つ付く。
「わかった、弟子にする件はともかく旅への同行は認めようと思う」
「では弟子の件は?」
アイスが少し残念そうに聞いてくる。弟子にする件をソウマに断られたと思ったのだろう。
「今すぐ弟子にする如何こうは今は無し、これから剣の稽古位なら少しだけ見てやる。だが俺自身が剣を教えるかどうかは今後のお前の成長を見てから決めさせてもらう。つまりお前次第ってことだ」
ソウマはアイスを真っ直ぐ見つめながら答える。それにアイスは・・・・・・・。
「はい、必ずやお眼鏡に叶うように努力します」
アイスもソウマの目を真っ直ぐに見て答えたのだった。
※※※※
深夜も程近い時間帯ソウマは王城にある自分の部屋で簡素なベッドに仰向けに倒れるように寝っ転がっている。そのベッドの脇に腰かけるようにシルヴィアが座ってくつろいでいる。その左手はさり気なくベッドに寝っ転がるソウマの左手に添えられている。
「シルヴィア」
「ん?」
今まで会話らしい会話が無かった室内でようやくソウマがシルヴィアに一言呼び抱える。それにシルヴィアは簡潔に答える。今まで目を瞑って左手に神経を集中させていた。まるでソウマの存在を全神経で感じようとするかのように。
「本当に良かったのか?」
「なにが?」
「いや、あのエルフの・・・・・アイスだっけ?彼女に旅の同行を許しちまってさ」
「どうして?」
「いや、それは・・・・・折角俺達だけの旅だったのに他の奴も一緒で良かったのかなと」
ソウマは実はシルヴィアがアイスの同行に賛成したことに若干驚いていた。シャルロットは未だに子供っぽい所が抜けない部分があるからしょうがないとしてシルヴィアは今みたいにソウマと二人きりになることを好む、例外はシャルロットだけだから今回の旅の同行者にシャルロット以外の存在をシルヴィアが許したことにソウマは驚いていた。
「あら?なにも驚くことじゃないわよ。前にも言ったと思うけど私自身はソウマとの関係をもう少しゆっくり進めて行きたいの。シャルの情緒がもう少し成長するのを待ちたいのもあるし私自身がソウマともう少しこういうまったりとした関係も悪くない思っているの」
「・・・・・・・・」
「それにこれも言ったと思うけどアイスも私にとって妹みたいなものなの、手の掛かる妹程余計に可愛く感じてしまうものよ。シャルの時もそうだったものね。そのアイスが自分からあそこまで自己主張したのは実は結構珍しい事なの」
「そうなのか?」
「自分の強さを磨くことと王族に忠誠を誓う事以外に全くと言っていいほど興味を示さない子だったから少し心配していたの。あの容姿だからよく男性のお誘いも結構あるのだけど全部袖にしていたみたいだしね。だから今回あの子が理由はなんであれ初めて他者に執着したのは初めてだからそれを少し応援したい気持ちがあるの、ラルクの言うようにそれがあの子にとって良い影響をもたらしそうな予感がするの」
「・・・・・・・わかった、お前が良いなら俺からは特に言うことは無い」
シルヴィアはベッドに寝ているソウマの横に寄り添うように寝転がる。そうしてソウマに横顔を覗き込むような体勢になる。
「なんだよ?」
「それで?ソウマはあの子を弟子にする気はあるの?」
今度はシルヴィアからソウマへの問いかけ、それにソウマはシルヴィアの顔を横目に見ながら少し顔を赤くして口を開く。
「それはあいつに言った通りあいつ次第だ。俺はあいつの剣の姿勢や覚悟、信念をこれからの旅で見させてもらう。一度剣を交えたから大概のことは剣を通じて感じてはいるがそれが実際に俺に師事したいとなれば話はまた変わる。これからのあいつの成長を俺自身が確かめてその上であいつにその実力が有りと判断した場合に弟子にしてもいい」
「(それってもう半分弟子にしてるんじゃないかなぁ)」
シルヴィアは内心でそんなことを思っていたが敢えて口には出さなかった。ソウマ自身初めての事態にアイスをどう扱ったらいいか戸惑っている所がある。だからソウマ自身がアイスを認めるまで下手に口を出さない事をシルヴィアは決めた。但し別の部分の問題には大いに口を出す気ではあるらしいが・・・・。
「アイスの扱いについてはソウマに任せるわ。でもね・・・・・・」
そう言うとシルヴィアはソウマの顔に自らの顔を近づけてその頬に優しく一瞬だけくちづけをする。
「え?」
「あんまりあの子を構い過ぎて私やシャルのことを忘れないでね?」
シルヴィアの予想外の行動にソウマは一瞬呆気に取られて思わずシルヴィアの方を向く。するとシルヴィアが少し心配そうに言葉を言う。そのシルヴィアの普段と違う可愛らしい顔にソウマは思わず先ほどのとは違う意味で一瞬呆気に取られる。
「ば、馬鹿言ってんじゃないぜ」
「ふふふふふふ」
ソウマは慌ててシルヴィアから逃げるように反対側を向いてしまう。そんなソウマの反応にシルヴィアは可笑しそうに笑う。ひとしきり笑ったシルヴィアはベッドから立ち上がる。
「それじゃ今晩はここでお暇するわね。今日はなんだか月が綺麗だから少し城下町を散歩してくるわ」
この場合シルヴィアの散歩とは城下町の上空を自らの羽で飛行することである。余談だがこのシルヴィアが行う月が良く見える晩に行われる夜は『月の女神の散歩』が見られると城下町ではちょっとした名物化している。
「あんまり長居するとシャルと拗ねちゃうしね。それじゃあソウマおやすみなさい」
そう言ってシルヴィアがソウマの部屋の窓から羽を出して飛び出そうとした時、突然シルヴィアは腕を引かれた。見ればソウマがシルヴィアの腕を掴んでいる。
「どうしたのソウマ?」
「・・・・・・・・」
腕を掴んだままのソウマが無言なのに対しシルヴィアが怪訝な声を出す。すると突然ソウマがシルヴィアの腕を更に強く引いた。純粋な膂力はソウマの方が上なので(種族的におかしい)シルヴィアは抗うことができずにソウマに引き寄せられる。
「きゃっ・・・・、ちょっとソウっ・・・・・ん」
文句を言おうとしたシルヴィアの唇を突然ソウマの唇が塞ぐ。最初は目を見開いて驚いたシルヴィアだったがすぐに目を瞑ってソウマを受け入れる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
どれ位そうしていたのかどちらともなく唇同士が離れる。シルヴィアは顔を赤くしたまま自分の唇に手を当てて余韻を楽しんでいる。ソウマは顔を赤くしたまま腕を組んで何故か踏ん反り返っている。
「突然どうしたのソウマ?」
「これで・・・・・」
「え?」
「これで余計な心配しないだろう?俺がお前らを忘れてあいつだけを構うなんてないってな」
ソウマはそう言って再びベッドに倒れ込むように寝る。どうやら羞恥心の為これ以上はシルヴィアの顔が見れなくなったようだ。シルヴィアはそんなソウマの背中を先ほど以上の幸せそうな笑みを浮かべて見ている。
「うふふふふ、これじゃあますますシャルが拗ねちゃうわね」
シルヴィアはそのままソウマの部屋の窓から夜の空へと飛び出した。
使い切った。(残量0)