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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
13/72

13話 演習に参加しよう

なんとか更新しました

「確かにこういう事態はなんとなく想定はしていたけど実際に目にするとやはり信じられないという気持ちが強いね」


 ラルクがソウマのステータスの結果を見て呆れたように言葉を溢す。


「え?でもこれそんなに凄いか?神の野郎共でもこういう結果は出るんじゃないのか?」


「確かにこれは一応神でもステータスを測ることができるから一つか二つくらいならこういう結果もあるかもしれないけどさすがに全てがこういう結果になるのは無いと思うけどねぇ。前に下級の神のステータスを測ったことがあるらしいけどそれでも一つしか測定不能は出なかったらしいよ」


「う~ん?神の連中がそんなに弱いか?」


 ソウマはまだ納得がいかない顔をしている。


「前にソウマやラルクが言っていたじゃない、神もあくまで生物であり私達のように肉体を持つ生物とは違い位階の違う領域にいる為に私達肉持つ生物には想像もつかないような超常の力を行使するけど私達でも決して届かない領域ではないって。そう考えたらステータス上で神と私達が比較できるのも私達の力が上がっている証拠じゃないの?」


「付け加えるなら神々が弱いわけじゃないよ、通常は神とステータスの比較ができるシルヴィアや僕がおかしいのさ、ソウマも前に言っていただろ弱い神位なら僕やシルヴィアでも十分対処できるって。それとソウマは自分が神さえも歯牙にもかけない規格外存在だってこと忘れてない?神が弱いんじゃなくて君が強すぎるんだよ」


「そうか、な?」


「そうだよ、普通はステータスにSSがある時点で神とだってそれなりに戦える程の戦力だよ?本来僕たちは同じ存在から生み出された生き物なんだからそれだけの潜在能力は持っているはずだからね。このステータスを測る魔石も元々は神の誰かが僕たち地上の生き物が自分達にどれだけ近づいたのかを知るために授けたのかもしれないと僕は考えているよ」


「ふ~ん、そういうもんか~」


 ソウマはどうやら何となくではあるが納得したようだ。


 コンコン


 すると何者かが扉を叩く音が響く。


「入りなさい」


「失礼します」


 アウロが許可を出すと一人の女性が入室してくる。年齢は二十代前半という若い顔立ちで全身を薄青く光る全身鎧で固めている。彼女が入室した途端部屋の気温が実際に数度下がった程でその顔も氷を連想させる程の冷徹さと冷静さを含んでいる。眼光は鋭くその所作や佇まいに一切の隙が見当たらない。腰に下げた剣は一目見ただけで名刀と分る雰囲気を醸し出している。王城内での帯剣の許可はそのまま彼女への信頼の表れだろう。鋭い眼光と氷のような美しい美貌と相まって彼女の姿を一層険しく見せている。そして彼女の顔の横にはエルフ・ハイエルフの特徴である三角に尖った耳が出ている。魔力の波長からどうやらエルフのようだ。


「どうしたアイス?」


 アウロがアイスと呼ぶ女性はその場で立ったまま一礼し要件を述べる。


「本日の演習の準備が整いましたのでその御報告に参りました」


「そういえば今日は月の日の一度の僕とシルヴィアが演習に参加する日だったね」


「そうだったかしら?」


「・・・・・・」


「おーい」


 シルヴィアが人差し指を顎に当てながら首を傾げる。そんなシルヴィアにライハルトは苦笑しながら言う。


「そんなことを言ったら兵士達が悲しむよシルヴィア?城の兵士達は君達の・・・・・特にシルヴィアから直接稽古を付けて貰えるこの月の日の一度のこの演習を凄く楽しみにしている者が沢山いるんだから」


「私はいつも『既に心に決めた相手が居る』って兵士達には言っているのだけれどね」


「それでも兵士達にとって見れば君ほどの美人と物理的に御近づきになれる機会だから逃したくはないんだろうね」


「そういうものかしら?」


「そういうものだよ」


「・・・・・・」


「おーいってば」


「さっきから何を言ってるんだいソウマ?」


 すると先ほど呼びかけ続けるソウマにようやく気が付いたようにラルクが尋ねる。


「いや、そちらの彼女がさ・・・・・」


 問われたソウマは先ほど入室してきたアイスの方を指差す。


「・・・・・・」


 見ればアイスは先ほど入室した時からなのか無言でソウマを見つめている。


「・・・・・・?。ああ、そう言えばアイスとソウマは今が初対面だったね。ソウマ、彼女はアイスクル・グラシオ。現在この城で騎士団長を務めている女性だよ」


「へえ~」


 ソウマは感心した声を出す。入室時からかなりの実力者であることは感じていたがまさか自分の後任であるとは思ってはいなかったのだ。


「(まあ元々そんなに立派に務めたとは思ってねえけど)」


 むしろ自分よりも立派に団長を務めていそうであるとソウマは思った。


「そしてアイス、こっちはソウマ・カムイ。僕や王達の共通の友人でシルヴィアとシャルロット姫の恋人だよ」


「!、それではまさか・・・・!」


 このラルクの言葉にアイスは驚愕の表情を作る。


「ああ、そう言えば前に聞かせたことがあったね君には、シルヴィアやシャルロット姫様の思い人が誰なのか」


 どうやらラルクからソウマの話は聞かされていたようだ、どんな内容かは知らないが・・・・・。


「・・・・・・」


 元々少し疑り深い性格なのかアイスはまだ少し疑わし気な瞳をソウマに向けている。


「・・・・・・ふっ!」


 すると突然アイスがソウマに殺気と威圧の両方をぶつける。殺威と呼ばれるそれは物理的な圧力すら伴いソウマの頭上に降りかかる。殺威は実力者になればぶつける相手を限定することができる。場合によってはこの殺威のみで対象を戦闘不能することも可能である。もし格下の相手が殺威を使える相手と戦闘を行う場合その殺威を受けても立っていられるかどうかがまず分水嶺と言える。もう一度言うが格下の場合・・・・・はである。


「・・・・・・ふむ」


 アイスから殺威を向けられている当の本人であるソウマは先ほどから涼しげな顔である。むしろアイスから向けられる殺威に心地よさすら感じている様である。


「・・・・・!!!」


 アイスはそんなソウマの様子を見ながら内心では驚愕を露わにしていた。過去今まで自分の殺威を向けられて平然としていたのはラルクとシルヴィアだけである。その他の者は皆自分の殺威を受ければ地に伏すか意識を手放してきたはずである。


「なかなか悪くない殺威だ。まだ若いエルフみたいだがここまで限定的で洗練された殺威を放つのは大したもんだ」


「なっ!」


 それどころか自らの殺威に冷静な評価まで下してきたのである。アイスの中でソウマに対する驚愕と脅威が最大まで高まる。対象の実力が己以上の可能性を十分に考慮しながらも何かあれば刺し違えてでも己が・・・と思った時だった。


「かはっ!?」


 次の瞬間にはアイス自身が地にひれ伏していた。


「・・・・・っっ!?」


 地に倒れ伏した己の体が手足どころか指一本瞬きすらできない。言葉も発することができず辛うじて呼吸を浅く繰り返すことしかできない。


「か、かはっ、はっはっは」


 これは殺威だ。アイスは即座に理解する。これは先ほど自分がソウマに浴びせていたいたものと同じ殺威であると瞬時アイスは理解する。しかしその密度・重さそしてそのリアル度・・・・。向けられた瞬間自分が殺される瞬間がまるで実際に起こったことのように体験させられ程の濃密な殺威。己の殺威とは天地程も違う殺威にアイスは内心で冷静に分析しながらも驚愕した。


「はっはっはっ・・・・・。(桁が・・・・・・違う・・・・)」


 アイスはそう考えながらも意識を失わないのが精一杯といった様相である。しかしここで助け舟が入る。


「もうその辺でいいでしょうソウマ。これ以上は彼女が持ちませんよ」


 ラルクがアイスに対して殺威を向けるソウマを諫めるようにアイスとソウマの間に入る。


「わかってるよ。別になにかしようとしたわけじゃねえよ。久しぶりに気持ちのいい挨拶だったからこっちも挨拶し返しただけだよ」


 ソウマがそう言うと同時にアイスに向けられていた殺威が消失する。アイスは殺威が消えると同時に胸一杯に空気を求めて吸い込む。


「ソウマの挨拶は普通の者には命が幾つあっても足りないほどの負荷になりかねませんよ」


「随分な言い草だな。俺はそこまで酷いことをした覚えはないぞ」


「自覚がないのが始末に負えないなぁ」


 過去になにかあったのかライハルトがソウマの言葉に苦笑する。


「・・・・・くっ」


 ようやくアイスがソウマの殺威から回復し立ち上がる。それでもまだ少し両足がふらついている。


「アイスも大丈夫ですか?全く貴方もソウマにちょっかい掛けるから・・・・・彼は私達の友人だと言ったではないですか」


「はい・・・・しかし・・・」


 ラルクに窘められてアイスが少し俯いて落ちこむ。そんなアイスにラルクがやれやれと首を振る。


「相変わらず貴方は少し真面目すぎる所がありますね。もう少し肩の力を抜きなさい」


「そうそう、ここには私やラルクだっているんだから竜王でも攻めてこない限りはなんとかなるはよ。アイスばかりが気を張ることはないわ」


「・・・・・・はい」


 根は素直なのかアイスはラルクとシルヴィアの言葉にアイスは素直に頷く。


「確かにアイスは真面目すぎる所はあるがそれでもその真面目さは兵士達に良い影響を与える時もある。なによりそんなアイスだからこそ儂も信頼してソウマの後任を任せたのだ」


「・・・・有り難き・・・お言葉です、王よ」


 アウロの言葉にアイスが感極まるように拝礼する。


「それにしても貴方も成長したわねアイス」


「そうでしょうか?」


「ええ、本気ではないとはいえソウマの殺威を受けて動けなくはなったけど意識を保っているもの。十分成長しているわよ」


 アイスはシルヴィアに褒められて嬉しさは感じはしたもののそれ以上にシルヴィアの言葉に気にかかる部分がありそれに意識の大部分が向かってしまう。


「本気では、無い!?」


 アイスはシルヴィアの言葉の気になった部分をシルヴィアに尋ねる。先ほど自分が身に受けた殺威は過去自分が浴びたあらゆる殺威を遥かに凌いでいる。以前に体験した中で最も強い殺威はラルクとシルヴィアから浴びた殺威だった。今ソウマから浴びた殺威はそれすら上回る程の殺威であったのだ。それが本気ではないとシルヴィアが言ったので信じられなかったのだ。


「当然でしょ?それを証拠に貴方意識があるじゃない」


 シルヴィアがなんでもないように言う。


「え?」


 アイスは再び疑問が頭に浮かぶ。


「ソウマが本気で放つ殺威は私やラルクでさえ気を張っていないと意識を保つのも難しい程のモノよ」


「な!」


 アイスは又も驚愕する。ラルクやシルヴィアは自身が知る中でも間違いなく最強に位置する存在である。偉大なるハイエルフの大魔導士が席を置くこの国に仕官してから数十年、その間に嫌と言う程に二人の強さは身に染みている。騎士団長を任されてからしばらく経つがそれでも未だに二人の実力の底すら見通せない。この二人よりも確実に強いと言える存在は最強の竜である【竜王】ゼファルトスと高位の神々位の者だろうと思っていた程だ。最近有名に成り始めた勇者達もかなりの実力であるそうだがそれでもあの二人には勝てるとは思わない。そんな二人が目の前の人間?の青年の実力を完全に自身より上であると認めている。


「まさか・・・・・本当に・・・・?」


 かつてラルクから聞かされた話、自身の前任者であった者の話。百年以上前にこの国には最強と呼ばれた男がいた。悠久の時を生きる吸血姫を退け魔の国に君臨する王を打倒し神々ですらその力に驚愕し恐怖した。その力は遂には神ですら凌駕する最強の存在である竜の王すら凌駕する。この国に来る前の里にいる幼い時からお伽話の様に聞かされてきた。まだ百の齢に達しない自分ではその者を人聞きでしか聞くことが出来ないが里の長老達などはその者の強さをまるで昨日見たかのように話す。それほど長老達にとって彼の強さは凄まじいものだったのだろう。そしてラルクから聞かされた話はそれを事実だったというものだった。


「そうですよ、アイスいい加減信じなさい。今貴方の目の前にいるソウマこそがかつて世界最強の称号を持っていた正真正銘の伝説のソウマ・カムイですよ」


 アイスはあらためてソウマを見る。こうして椅子に座っている姿を見ても先ほどの凄まじい殺威を放ったのと同一人物だとはとても信じられない。発する闘気も覇気も並以下、全身を完全に椅子に預けどこから見ても隙だらけである。それでも・・・・・・・・。


「(・・・・・打ち込めない)」


 仮に自分が今どのように角度やタイミングを狙ったとしても即座に迎撃・反撃されるということが手に取るように理解できてしまう。


「まあいいだろう。それよりも演習なんだろ?俺に構わずラルクもシルヴィアも行って来いよ。俺はもう少し寝ることにするよ」


「私もソウマと一緒にもう一度寝るー」


 ソウマの言葉にシャルロットがソウマに抱き着きながら答える。


「駄目です、シャルロットはこれから作法の練習があるでしょう?やることはしっかりおやりなさい」


「うっ・・・・・、はーい」


 ヘンリエッタの言葉にシャルロットは渋々ながらも頷きてソウマから離れる。


「それならソウマどうせ寝るなら演習に付き合わないかい?僕もシルヴィアも久々にソウマと戦ってみたいしね」


「それいいわね、確かに久々にソウマと戦うのも有りね。私もどこまでソウマに近づけたか確かめたいしね」


「ああ?いいのか?そんなことしても。俺とお前らがやりあうと周りが大変なことになるぞ?」


「そのあたりは大丈夫だよ。一応今回の様にラルクやシルヴィアが演習に参加する時の場所様にかなり広くて周辺に被害が出ない場所を確保してあるから君達がそこそこ全力で戦わないかぎり大丈夫だよ」


 ソウマの懸念にライハルトが返答する。


「それに僕も事前にしっかりと防御結界を何重にも張っておくからね」


「まあ、それなら・・・」


「兵士達にもいい機会だからね。ここでソウマの力を見せておけば後に変な風に言う兵士もいないだろうからね。それにたまには僕達も思いっきり羽を伸ばせる相手が欲しかった所だからね」


「おい、今の絶対後半の方が本音だろう」


 ソウマがラルクの言葉にジト目で言葉を返す。


「まあそれもあるけど彼らは僕やシルヴィアよりも強い存在をしらないからね。彼らにも世の中には上には上がいることを教えておこうと思うんだ」


「ソウマ、僕からも頼むよ。強者同士の戦いはなによりも刺激になることがあるからね。ラルクとシルヴィアでも十分だけど多ければそれだけ得られる物も多いからね」


 そう言ってライハルトも頼んでくる。


「僭越ながら私からもお願いします」


 すると先ほどから何かを思案していたアイスが唐突にそう言ってくる。


「どうしたんだいアイス?」


 ライハルトがアイスの考えを問う。


「ここの御仁・・・・・・ソウマ殿がもし私の聞いた伝説の御方ならば是非にともその実力を拝見したく存じます。先ほどの私ごときの実力ではその片鱗すら垣間見ることが叶いませんでしたので」


 どうやらソウマの実力を直に自分の目で確かめたくなったようだ。その無表情に見える顔も良く見れば若干の期待と興奮が見て取れる。


「アイスが自分の感情をここまで露わにするのは珍しいな。よほどソウマの実力に興味が出たようだね」


 ライハルトが苦笑しながらも興味深めにアイスのことを見ている。


「どうするソウマ?後は君の返事だけなのだけれど」


 ソウマはライハルトの言葉にしばし目を瞑り難しい顔を作り考える。しかし少しして観念するように目を開ける。


「わーたよ、俺自身もまだ俺の体に違和感が無いか確認してないし丁度いいかもしれないな」


 ソウマはそういうと椅子から立ち上がり肩を回す仕草をする。


「それじゃあ早速行こうか。演習の場所はここから約百キロ程離れた所に周囲に草原しかない場所がある演習はそこで行おう」


「移動手段はどうすんだ?俺やラルクやシルヴィアならともかく他の連中はその距離だと移動に時間が掛かり過ぎないか?ラプトで行くのか?」


 ラプトとはソウマの前世の記憶で照らし合わせるともっとも近い形が小型の恐竜である。後ろ足のみで歩行しその時速は八十キロ程度で走る。しかしその耐久性は馬とは比較にならず人ひとり乗せた状態でも二時間は走り続けることができる。


「いいやラプトでは時間が掛かり過ぎるからね。今は僕たちの国の部隊は別の乗り物を使っているんだよ」


「別の乗り物?」


「とりあえず見せようか、アイス準備は出来てるんだろ?」


「はっ、ご命令があればいつでも」


「そうか、じゃあ行こうか」


 ラルクはそう言って部屋を出ていく。ソウマ達もその後を追うようにして部屋を出た。


 ※※※※


「なるほどね~」


 ソウマは現在シルヴィアの出した窮奇の上にシルヴィアとラルクと共に乗りながら周りを見るようにして感心している。


「どうだい?中々のモノだろう?」


 ライハルトが誇らしげにソウマの言葉に応える。ライハルトは今空を飛行する生物に搭乗している。いや、ライハルトだけではなくその周りには数百人もの兵士がその生物に乗り現在空をソウマ達と共に飛行している。


「まさかワイバーンを飼いならすとはなぁ」


 そう今彼らライハルトや兵士達が騎乗しているのは下位の竜種に当たるワイバーンである。


「しかしよく下位とはいえ竜種のワイバーンが人に懐いたな」


 竜種はこの星の生態系の頂点に君臨する生物である。高位の竜種になれば人種の言葉だけでなく様々な言語を操り中には竜魔法と呼ばれるものを使うものまでいる。ワイバーンも下位とはいえ竜種でありその気性は本来なら決して人に懐くものではない。


「彼らワイバーンを手懐けることが出来たのはソウマの御かげでもあるんですよ?」


 ラルクがソウマの後ろから笑いながら話しかける。


「俺の?」


「ええ、ソウマはかの竜王ゼファルトスの血を受けていますよね?」


「ああ一応な、俺は要らないって言ったのに竜王のおっさんが『儂を倒した者に何も授けんのは儂の沽券に関わる』とか言いやがってな。俺は牙が貰えただけで十分なんだけどな」


「結果的にそれがこの国にも良い方向で働きましてね。どうも自動的にソウマが所属するエテルニタ王国は竜王の庇護下にあると他の竜達に認識されているようでしてこうして下位の竜種程度ならこの国の人間は手懐けることができるんですよ」


「そりゃ知らなかった。一体いつそれが分かったんだ?」


「発見の切っ掛けはシャルロットの御かげなんだ」


 ライハルトがそう言う。


「姫さんの?」


「ああ、封印から救いだされたばかりの頃シャルロットはソウマが居ない事にしばらく塞ぎこんでね。シルヴィアや母上が慰めていたんだがそれでもしばらくは落ち込んでいてね。そんなある日にシャルロットがよく王宮を抜け出すことが多くなってシルヴィアが後をつけてみればなんとワイバーンの子供を匿っていたんだよ」


「私もその時は驚いたわ、子供のワイバーンとはいえがシャルに懐いているのを見るのはね。シャルの動物に好かれやすい体質もあったんでしょうけどもその後子供を迎えに来た親もシャルどころか私にさえ敵意を抱かないのにはさすがに違和感を覚えてラルクに調べてもらったのよ」


「そうしてシルヴィアに言われて調べてみればワイバーンなどのこの国の周辺に生息している竜種は非常に気性が穏やかになっていることがわかったんだ。まるで自分たちの更に上の上位者に命令を受けているが如くね」


 ソウマはそれを聞いて若干呆れたような顔になる。


「全くあの竜王のおっさんもこういうことだけは意外とマメだなぁ。俺も当時あって見れば意外と気さくな爺ではあったが・・・・」


「まあその御かげで僕達の国は歴史上初めての竜を主体にした部隊を作る事ができたんだけどね」


 ライハルトの言う通りである。過去に魔獣の類を戦争に使用した例は存在する、この世界には魔獣使いのスキルを持つ者もいるので魔獣を戦線に使用することも可能である。しかしいかなこの魔獣使いのスキルを持ってしても竜種だけは操ることはできない。この惑星上の竜種は特殊な例を除きほとんどが精神支配などの操作系の術や薬等を受け付けない、仮に何らかの方法で竜種を操ったとしても竜王が自らの眷族を操ったことを知れば怒りを買うことになる。


「もちろん父上はこの部隊を戦争に使う気は毛頭ないだろうけどね。あくまでも自国の防衛にのみだろうね」


「まあ多分竜王のおっさんもそれが分かってるからこうしてワイバーン共もおとなしくなっているんだろうな。あのおっさんの知覚能力はその気になればこの星で起こっていることはほとんど知ることができるらしいからな」


「へえ、じゃあ今ソウマが封印から出たことも知っているのかい?」


「いや、どうだろうな?竜王のおっさんも四六時中世界中のことを視ているわけじゃないらしいからなぁ」


「そうなんですか?文献では竜王ゼファルトスはこの世の出来事を全てその竜眼で俯瞰しているとされていますが・・・・」


「その辺俺はあんまりその時に詳しくは聞かなかったんだよな。確か昔はそんなことをしていたらしいんだけど今はあんまり視てないらしいぞ?」


「どうして?」


「だから詳しくは聞いてねえって、少し聞いた話では人間や他種族の醜い争いを長年視続けるのは疲れたらしいぞ」


「ああ、なるほど・・・」


 ソウマの言葉にラルクがどこか納得したように頷く。


「僕も随分前に似たような考えにいき付いたからなんとなく竜王の気持ちが分かるね」


「ああ確かにラルクもそんなことを言っていたわね。『人は中々学ばない』って」


 シルヴィアが笑いながら言う。


「そう人と言う種族は他種族と比べても争いが特に絶えない種族だからね。しかもその矛先が他種族だけにあきたらず同族である人族同士ですらが争う始末だからね」


「他の他種族は滅多にそういうことはしないはね。エルフやドワーフやピクシーの妖精種は基本的に自分たちの森を出ないし私達吸血鬼も王族である私達が立場を掛けて決闘する位しか起こらないしねえ」


「まあたまに人族の生活に馴染んでアイスの様に人の王国に所属するものもいるが他は戦争が始まれば自分の里に帰る者も多いからね」


 そうこうしているうちにどうやら目的地に着いたようでワイバーン達がゆっくりと降下を始める。それを追う様に窮奇も降下を始める。そうしてワイバーンと窮奇は広い草原に降り立つ。


「ここか・・・・・、確かにこれだけ広いうえにラルクの防御結界を張れば俺達が少々暴れたくらいじゃ平気だろうな」


「だろう?一応毎回演習に使用した後には僕の魔術で壊してしまった自然は直しておくけどね。今日は特に強力な防御結界を張るから少し時間を貰えるかな?」


「ああ構わねえよ、むしろそれ位のモノを張ってくれねえと俺も楽しめねえからな」


「お手柔らかに頼むよ。それじゃあ僕は結界を張りに行ってくる」


 そう言うとラルクは飛行魔術を使い飛んで行ってしまう。すると今度はジルヴィアがソウマの方にやってくる。


「うふふふふ、ソウマと手合わせも本当に久しぶりね」


「そうだな、最後に手合わせしたのはいつだっけ?」


「ソウマが封印される一年前が最後ね。その後ソウマは封印されちゃったから私からしたら約百年ぶりね」


 シルヴィアがそう言うとソウマは少し申し訳ない顔になる。


「・・・・・スマン」


 するとシルヴィアも少し慌ててしまう。


「あら?べ、別に今のはソウマを責めたわけじゃないのよ?」


「それでもあの封印は俺の油断が原因だ。それの所為でお前やお姫さんを随分・・・・」


 ソウマの言葉をシルヴィアは人差し指をソウマの唇に押し当てることにより遮る。


「別に良いの、こうしてソウマは私の前に居てくれるんだから」


 シルヴィアは花が咲いたような笑顔を見せる。ソウマはそんなシルヴィアを見て一度ため息をついて自分も笑う。


「ありがとな」


 そう一言だけ返す。


「お礼もいらないわ」


 シルヴィアも笑いながらそう返した。

 ちなみに先ほどからそれを見ていた兵士達はというと・・・・・。


「おい、見ろよ。俺シルヴィア様のあんな笑顔初めて見た・・・・」


「ああ、美しいな・・・・・・」


「あの笑顔を俺に向けてくれるなら俺もう死んでもいい」


「ていうかあの男は誰なんだ?あんなにシルヴィア様にあんなに親しそうにお話ができるなんて・・・・」


「誰かはともかく・・・・・・」


「羨ましい~~~(兵士一同)」


「ははははは」


「やれやれ」


 そんな兵士達の会話をライハルトが笑いながらアイスが額に手を当て首を振りながら見ていた。


「よし、結界の設置は終了したよ」


 するとラルクが帰ってくる。どうやらこの辺一帯を囲むように結界の設置が終わったようだ。


「終わったのかラルク?」


「これでこの辺一帯は並の魔術師の放つ上級魔術の乱れ撃ちでもびくともしないよ」


 ソウマが聞けばラルクが少し胸を張って答える。


「それじゃあ始めるか」


「そうですね」


「了解」


 そう言って三人は結界の張られた中央に歩いて行く。その間に指示を出された兵士達がソウマ達とは反対方向へ駆け足で向かう。そしてそこに改めてラルクが結界を遠隔で設置する。兵士達はその結界の中のソウマ達から数百メートル地点で戦いを観戦するようだ。ライハルトとアイスも兵たち同様に結界内で戦いを見守る。


「準備は良いですかソウマ?」


「ああ、いつでもいいぜ。シルヴィアは?」


「私もいつでも構わないわよ」


 こうして三人の模擬戦(?)が始まった。

次もできるだけ早く更新します

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