12話 ステータスを測ろう
暑くなってきました。皆さんも熱中症には気負付けて下さい。
ソウマが帰還してシルヴィアとシャルロットが一緒に寝てから翌日。
「おはようございます、お父様、お母様、お兄様。皆もおはよう」
シャルロット、シルヴィア、ソウマの三人は朝起きてから一緒に城の食堂に向かう。この城では座る場所こそ決められているが王族も臣下も使用人も皆が同じ場所で食事を摂る。これは王自身が決めたことで食事をすることに身分は関係ないと言って臣下達とより近い立場で食事をすることにしている。そこにやってきたシャルロットは朝一から元気ハツラツといった風に朝の挨拶する。食堂には既に王の他に王妃や王子、その他食事に来た兵士達などが席に着いている。
「おはようシャルロット、今日は朝からとても機嫌がよさそうじゃないか」
「あらあら、シャルロットたら朝からそんなに元気でどうしたのかしら?やっぱり昨日ソウマ君と一緒に寝たのが原因かしら?ソウマ君は優しくしてくれた?」
「うん、ソウマ昨日はずっと頭を撫でてくれていたの」
「あらあら、だったら言わなくてはいけないのかしら?ソウマ君昨日はお楽しみでしたね♪」
「おい!マジでやめろ母親」
ソウマは朝からテンション高めの母親にツッコミを入れる。
「シャルったら今日朝起きてすぐに自分の隣にソウマが居るか確認していたのよ。昨日のが夢じゃないのかって」
「も、もうシルヴィア姉様。やめてよ恥ずかしい。それにシルヴィア姉様だってさりげなくソウマの体を触って確認していたじゃない」
「ええ、だってソウマがここに居るのか確認したかったもの」
そう言ってシルヴィアがさりげなくソウマの腕に自分の両手を絡める。
「あ!シルヴィア姉様ずるい」
「シャル、恥ずかしがってばかりじゃ駄目よ。好意を表す時は素直に表さないと今みたいに遅れをとっちゃうわよ?」
「う~、だったら私も!」
そう言ってシャルロットがソウマのもう一方の腕に抱き着く。ソウマの両手に柔らかい感触が広がる。
「お前ら離れろって、このままじゃ飯が食えないだろうが!」
ソウマが腕を振って二人を引き剥がす。
「久しぶりなのにやっぱり君達三人は仲良しだね~」
ライハルトが朝食のパンを齧りながら朝から騒がしい三人を見ながらそんな事を言いながら笑う。
「もうソウマは相変わらず恥ずかしがりね」
「いいから飯食うぞ。俺はもう腹がペコペコなんだよ」
ソウマはそう言いながらごく自然な形で王達が座るテーブルの椅子の一つに座る。
「相変わらず食事はここで食うんだな。てかおっさんはもう別に普通の食事は必要ないんじゃないのか?」
「いや、シルヴィアが言うには確かに大きな怪我等をしなければ特に食事は必要ないそうなのだが別に普段から摂れないという訳ではないそうだからな、なるべく皆と一緒に食事をすることにしているのだ」
「なるほど、確かに別に飯が必要なくても美味いもんは美味いしな」
「この体になってからもなるだけ普通の人族と変わらない生活を心掛けているのだ」
「別に私に合わせてくれなくてもよいのに」
ヘンリエッタがそう言いながら苦笑する。
「儂がお前に合わせたいのだよ」
「アウロ・・・・・・・」
「ヘンリエッタ・・・・・」
王と王妃は食事を忘れて互いの手を取り合い見つめ合う。
「お前らも十分仲が良いよ」
ソウマは片手で自分の顔を扇ぎながらウンザリした顔で言う。
「おや、皆もう起きていたのですね」
するとラルクも食事をしに食堂にやってくる。
「おはようラルク、貴方は今日も一晩中書類仕事かしら?」
「まあね、それでも睡眠時間はしっかり取ってるつもりだから足りないのは栄養位だよ」
「お前はお前で相変わらずそんな仕事の仕方をしているのか?いい加減自分の仕事の肩代りできる人材くらい育てろよ」
「そう言っても正直僕レベルの仕事をこなせる人材ってのは中々いないってことと、結局僕自身が人任せにできない性格ってことが問題かな?」
「それについては儂もお前に国政は頼りきりである身なので何とも言えぬ」
「それでも居ないよりはマシだろうが。万が一を常に考えておくのもお前の仕事だろ」
「実は僕もそれは思っているので一応それなりの準備と教育は進めて行ってるんだよ?」
「それに貴方睡眠時間は足りてるって言ってるけどそれって魔術と道具を使っての圧縮睡眠でしょ?それ睡眠欲は解消されるけど疲労は回復しないでしょうが」
「睡眠欲さえ解消できれば疲労は元からそれほど感じていないよ。ていうか朝一から小言は勘弁してくれ。僕は食事に来たんだ、君達の説教を聞きに来たんじゃないよ」
ラルクはそう言いながらも自らも王達と同じテーブルの椅子に座る。
「今日の朝食は何かな?」
「今日はレオレの特製スープと手作りのパンとカカバードの玉子の混ぜ焼きだよ」
「助かります。今日は朝から少しサッパリしたものが食べたかったのでレオレの特製スープは願ったりですよ」
王達も食べるメニューは基本は一般の兵士達とほとんど変わらない。この城では王族の毒味役は存在しない。それは王達の下の物に対する信頼の証であり臣民の自らの主への忠誠の表れである。仮にもし毒や暗殺を企てる者がいてもラルクが居ればあらゆる毒や呪い等は解除できるし暗殺しようにもこの城はそもラルクの許可又は条件を満たさなければ入ることができない結界が常に張られている。その条件は王族に対して敵意を持って居ない事、百年前のガラルドの侵入を許した原因の一つにガラルドの狙いが最初から王族ではなくソウマにしか向いていなかったのも理由の一つである。それをラルクが自らの責ではないと許容できるかはまた別の問題ではあるが。
「俺はできれば肉が食べたい」
「我がまま言わないの」
ソウマがシルヴィアに窘められる。
因みに、ラルクが食堂に来たあたりから厨房に居たレオレがたまたま食堂に顔を覗かせた時につい最近我が物顔で自分に飯をたかった青年が王族や国の誇る大魔導士や吸血姫と親しそうに談笑しているの見てしばし固まっていたのは別の話。
※※※※
「そうだ!」
食事が終わり王族用の一室で昨日と同じ顔ぶれで食後のお茶を楽しんでいた時、シャルロットが突然何かを思いついたように声を挙げる。
「どうしたのシャルロット?」
王妃が問い掛ける。
「ねえねえ、ソウマにアレやってもらおうよ」
「アレ、ですか?」
ラルクが怪訝顔になる。どうやら見当が付かないらしい。
「ほらアレだよ、あの~ほら、強さがわかる道具のやつ」
「あ~ステータスを測る魔石の事?」
「そう、それ!」
シルヴィアの言葉にシャルロットが我が意を得たりと反応する。
「あ~それは面白そうだね。確かにソウマならどうなるか興味があるね」
「ステータスを測る魔石?」
ソウマは前世の記憶でまたもよく聞く単語が出てきて胡散臭そうな顔をする。
「対象の持つ肉体面・魔力面での能力をある程度把握出来る魔石のことですよ」
ラルクがソウマの顔の意味を勘違いして魔石の説明をする。
「ある程度?数値化する分けじゃないのか」
「まあ・・・・・とにかく一度見た方が早いですね。ここに持ってこさせます」
ラルクが人を呼び何か指示を出してからしばらくしてから数人がかりでソウマ達の居る部屋にある丸い物体が運び込まれてくる。
「・・・・・・思ったよりはデカいな」
ソウマがポツリと溢す。部屋に運び込まれた丸い物体は巨大な水晶球だった。大きさは人の頭よりも二回りほどの大きさで水晶球の中では虹色の輝きが渦巻く様に回っているように見える。
「これでどうやってステータスを測るんだ?」
「水晶球に手を触れるだけでいいんですよ、こうやって」
そう言ってラルクが水晶球にそっと手を触れる。すると水晶球が僅かに光り出しその後水晶球から光が放たれる。放たれた光はそのまままるで立体映像のように空中に映像を映し出す。
ラルク・カイザード 種族:ハイエルフ 年齢:1142歳 称号:【大魔導士】【大賢者】
MAG:EX
STR:S⁺
VIT:S⁺
DEX:SS
AGI:A
INT:EX
LUC:A⁻
「これが僕のステータスという訳さ、表示はF~EXまであってFが最弱でSSが最高だよ」
「SSが最高ならEXがあるのはなんでだ?」
「一応SSがその種族が至れる最高のランクらしいんだ。EXってのは本来生物では超えることのできない壁を突破した証なのさ」
「種族ごとで表示に違いは無いのか?」
「無いよ、例えば人族でSTRがAと他の種族のSTRのAは基本同じ基準で表されているよ。まあ同じAでもギリギリAと普通にAとかSに近いAとかあるけどそれは表示の横にある±で表されているんだ。プラスなら上のランクに近いマイナスならギリギリ至っている何も表示されないなら普通ってことさ」
「変化や獣化を行う場合はどうなるんだ?」
「それは変身した状態では変化はするみたいだよ。一応変化後と変化前のステータスを表示する型の魔石もあるみたいだけどここにあるのはそれじゃないんだ」
「身に付けている技能や技は表示されないのか?」
「されないよ、飽く迄も本人の素の状態での表示だからそこまで詳しくは読み取れないみたいなのさ」
「だからあくまでも目安であって対象の戦闘能力を全て表したものではないということよ。それでも最近はほとんどがそれを前提に強さを考えるから駄目なのよ」
「そう言うシルヴィアは試したことはあるのか?」
「一応ね」
そう言いながら今度はシルヴィアが水晶球に手を触れる。
シルヴァラント・ヴァルキュリオ 種族:吸血鬼(王族級) 年齢:1517歳 称号:【吸血姫】【美の体現】【闇を駆る者】
MAG:SS
STR:EX
VIT:EX
DEX:S
AGI:EX
INT:A
LUC:S
「一応これが私のステータスね」
「こうしてステータスの表示だけ見るとシルヴィアの方がラルクよりも大分強い感じするな」
「でも実際に私とラルクが闘ったら場合は勝率は五分五分って所よ。ラルクには魔術がある分私よりも遠距離でのアドバンテージがあるし補助魔術で今よりステータスが大分変化するし私達吸血鬼用の術式も使用してくるから夜じゃなければ勝率は大分傾くでしょうね」
「あくまでこのステータスは生身で殴り合いした時の結果しかわかんないってことか」
「まあ野蛮な言い方をするとそういうことだね」
「私のはこうだよ」
すると話を聞いていたシャルロットが横から出てきて魔石に振れる。
シャルロット・ウトピーア 種族:ハイエルフ(ハーフ) 年齢:16歳 称号:【エテルニタ王国第一王女】【至宝の美姫】【世界の寵愛者】
MAG:SS
STR:F
VIT:F
DEX:B
AGI:F
INT:B
LUC:EX
この結果を見たソウマは・・・・・・。
「なんか・・・・・・微妙だな・・・・・・・」
「微妙って言うなーーーー!」
ソウマの感想にシャルロットが憤慨する。
「いや~魔力値と運の高さが余計に他の値を際立たせるというか・・・・・・ていうかこの魔力と運の高さは何なんだ?」
「シャルロット姫の魔力の高さはハイエルフとの混血故だろうね。LUCの高さの理由は称号に表れているね」
「てかこの称号はなにが基準で決まってるんだ?」
「これはその対象が人々の間でどれだけの知名度があるかで決まるんだ。他者がその人に抱くイメージに最も近いイメージの称号を神々が決める。もしくは多くの人々に噂される称号がそのまま定着する場合がある、僕の場合がその類だね。後は神々がその対象に対する思入れや抱くイメージが称号に表れる。姫様の場合は【世界の寵愛者】がそれに該当する。姫様は精霊だけでなく多くの神々からも祝福に近い加護を受けているようだね」
「まあ確かに昔から姫さんはやたら運だけはむちゃくちゃ良かったよなぁ。正直あれは神掛かっているって言っても良かったが本当に神の力が働いていたのか・・・・・」
ソウマがどこか感慨深そうに語る。
「まあシャルは可愛いもの、神の連中も祝福を与えるのも納得ね」
シルヴィアがそう言いながらシャルロットを抱き締めて頬ずりする。
「私は別にお父様やお母様やソウマやシルヴィア姉様やラルク、王国の皆がいてくれれば別に神様の力なんていらないのにね」
シャルロットはシルヴィアに抱きしめられながらそう言う。
「まあ貰えるもんは貰っとけばいい。特に神の野郎どもは普段は碌なことしないんだからこういう時くらい人の役に立てばいいってもんさ」
「神に向かって堂々とそう言えるのは君位のものだよソウマ」
「まあ神様もソウマ相手に罰を当てるなんて喧嘩を売る真似はしないでしょうけどね」
ラルクとシルヴィアがそう苦笑する。
「そういえば今話題の勇者君達のステータスはどうなんだ?」
「勇者達のステータスの平均は最近の情報だとほぼAで所々Sが混じってる位らしいよ」
「それって凄いのか?」
ソウマが疑問顔をする。どうやら先のラルクとシルヴィアのステータスを見て変な基準が付いたようだ。
「十分凄いと思うよ。普通ならBに届くだけで十分凄い部類に入るらしいからね。基準はCで一人前でBで一流でAで超一流、Sが超々一流でSSが頂きに到達の扱いだからね。EXは限界突破状態だから例外だけど」
「そもそもSSに到達した前例があるのか?」
「少なくとも人族ではまだいないはずだよ。そもそもSSとEXは僕とシルヴィアがやってみて初めて判明したランクだからね。それまではSが最高値だと思われていた位だし」
「それじゃ勇者君達は十分凄いってことか」
「そうだよ、内の兵士達でさえBに届くのはライハルト殿下を入れても片手の指に届く程度だしAがあるのなんて騎士団長一人だけだよ。冒険者でさえAがある冒険者は稀なのに・・・・・」
「待て」
ラルクの会話中にソウマが待ったをかける。
「どうしたんだいソウマ?」
「今冒険者って言ったか?」
「?言ったよ。ああそういえば話すのを忘れていたよ。今は新しい職業があってね、冒険者って言って・・・」
「依頼された仕事をこなして金銭を得る職業だろ?」
ソウマがラルクの説明の前に言葉を出す。
「おや?知っていたのですかソウマ?」
ラルクはソウマの言葉に若干の驚きを示す。
「いや・・・・・まあ・・・・・別にそこまで詳しいわけじゃないがな、食堂に居る時に兵士の会話が少し聞こえてな」
ソウマは思わず誤魔化した。
「そうですか、冒険者という職業は今から八十年程前にこのステータスの見ることのできる魔石の誕生とほぼ同じ時期にできた職業ですよ。とうかこれができたから冒険者という職業が生まれたといえるかもしれません」
「どういうことだ?」
「僕の推測ですがこの魔石の開発者はおそらくは【転生者】か【渡界者】のどちらかだと思うね」
「へえ、なんでそう思うんだ?」
ラルクの言う【転生者】とはこことは違う文明の星や異世界の魂が前世の記憶を保持した状態で誕生する者のことを言う。又【渡界者】は何らかの理由・手段でこことは違う世界から来た者を指す。
「発想がこの世界の者にしてはあまりにも革新的すぎるからさ、基本的な前情報も無しにこの魔石を開発したことといい冒険者という職業の発案、確実にこことは違う文明の影響を受けている。しかも彼そのものも並の力の持ち主じゃなかった。あれは間違いなくなんらかの神の加護を受けていたね。古来より【転生者】や【渡界者】はやたら神達から好かれるからね」
「なるほどね、それで冒険者って具体的にどんなものなんだ?」
「概ねは君がさっき言った内容で合ってるよ。ただ依頼によってランクが指定されていてそのランクに見合った実力とランクを授けられた冒険者しか受けることができないんだ。それで冒険者のランクはこなした仕事の数や内容、そしてこのステータス等で決められるんだ。その他ランク昇格の為の試験や依頼等もあるらしいけどね」
「ふ~ん」
「話が少し逸れたね。それでそんな冒険者の中でもステータスの中にAを持った者は意外といないのさ」
「冒険者のランクもステータスと同じなのか?」
「一応そうだよ、と言っても現在はこの大陸にはAランク冒険者は12人、Sランクが4人とSSランクが1人しかいないけどね」
「むしろ俺はSSが1人居ることに少し驚いたがね」
「そりゃそうだよ、だってSSランク冒険者ってシルヴィアの事だからね」
「・・・・・・なんでそんなことに?」
ソウマが若干の呆れを含んだ目でシルヴィアを見ながら訊ねる。シルヴィアはソウマの問いかけに若干頬を染めながらも答える。
「ソウマとシャルが氷に閉じ込められてしばらくしてから少し寂しくってそれを紛らわせようと思ってこの国を少し離れたの、その時に色々あって冒険者の寄り合い所・・・・・ギルドと呼ばれているんだけどそこで冒険者登録をしたの」
「まさかシルヴィアの称号にあった【闇を駆る者】ってのは・・・・・」
「シルヴィアの冒険者登録をして暫くしてから呼ばれ出した二つ名だね」
ラルクが笑いを堪えながら言う。
「私としても身分証明の代わりみたいな物のつもりで冒険者登録しただけなのに勝手にSSランク登録されたり二つ名を付けられたりでウンザリしているのよ。おまけに登録を消そうとしても断られるし」
「なんで?」
ソウマの質問にまたもラルクが答える。
「シルヴィアがギルドに所属しているだけで各勢力にかなり幅が効くからだよ。ギルドは大陸各地にその支部を点在させていてその権威は国家等に左右されない。所属冒険者も冒険者としての立場は国に縛られないですむんだ。まあ大抵の冒険者がどこの国にも所属していない者だけどね。シルヴィアも本来の立ち位置はこの国客人みたいなモノだからね。言い換えればギルドに所属する冒険者の戦力がそのままギルドの戦力になるのさ。シルヴィアはソウマが居なくなってからは世界最強と目されていたからね。現役でいくつも逸話を既に持っていたから各国でもかなり重要視されていたから冒険者ギルドとしても手放したくなかったんだろうね」
「なるほどな、そもそもなんでシルヴィアは冒険者登録消そうと思ったんだ?別に持ってるだけで害は無いんだろ?あるのか?」
「あると言えばあるね。冒険者登録した者はランクに応じていろいろ制約があってね。例えばある一定期間の間に依頼を受けないとランクの降格もしくは登録の抹消とかね」
「だったら好都合じゃないのか?何もしないなら登録を勝手に消してくれるんなら手間が省けるんじゃないのか?」
「ところがそういう分けにもいかなくてね。先の制約があるのはF~Cランク冒険者のみに課せられる制約でねそれ以上のランクの冒険者は免除されるんだ。そしてそれ以上のランクの冒険者にはギルドからの指名依頼が来るようになる」
「指名依頼?」
因みにシルヴィアは先ほどから不機嫌を表した顔でソファに座ってシャルロットを抱きかかえるようにしてシャルロットの髪を弄っている。どうやらかなり不愉快な記憶らしく自分から話す気はないらしい。
「指名依頼ていうのはギルドから直接特定の冒険者に依頼することさ、冒険者もランクが上がれば名も売れるから冒険者という不特定多数ではなく個人的に名指しで依頼するのさ」
「拒否権は無いのか?」
「本来はあるんだけど指名依頼の依頼者の大体が貴族とか王族関係のお偉いさんだからね、暗黙の了解として指名依頼は断らないのが通例なんだよ。冒険者側も指名依頼をこなせば貴族や王族に顔を覚えてもらえるからね」
「それでシルヴィアにも指名依頼が来たのか?」
「ああ来たよ、それもかなりの数がね。しかもその内容が戦争の参加やら敵対勢力の壊滅やら一冒険者に依頼する内容とはあまりにかけ離れたものばかりだったのさ、本来の冒険者の仕事は危険地域での希少な植物や鉱物の採取や魔獣等の素材を取ってくることが主で指名依頼でもこの範疇は出ないことが多いよ。ただ依頼する物や場所が並の冒険者では不可能という違いはあるけどね。シルヴィアの戦力を依頼する側も知っているから初めからそういう依頼しかしないのさ」
「でもシルヴィアは断ったんだろ?」
「当然よ、なんで私が見ず知らずの赤の他人の為に戦争に参加したりしなくちゃいけないのよ。そんな依頼なんて内容を見た時点で依頼人にも会わずに断ったわよ」
シルヴィアがシャルロットの頭に顎を乗せて憤慨したように言葉を発する。そんなシルヴィアにラルクが苦笑しながらフォローする。
「一応シルヴィアにはこの国という後ろ盾があるし断った所で表面上は大した波風は立たなかったよ。問題は他の目的でシルヴィアに指名依頼してきた馬鹿達がいたことだね」
ラルクの言葉にシルヴィアから分かりやすい程の怒気が立ち昇る。そんなシルヴィアに気が付いたのかシャルロットがシルヴィアに後ろから抱きしめられたままでシルヴィアの手を取りその手に自分の頬を擦り付ける。それに気付いたシルヴィアが怒気を僅かに鎮静化させて今度は自らシャルロットの頬を撫でる。
「馬鹿達?」
「シルヴィア自身が目的の連中さ」
「ああ・・・・・」
ラルクの返答にソウマは納得がいったといった風に頷く。
「そこまで馬鹿な連中が居たのか?」
「そこまで馬鹿な連中が居たんだよ」
古今東西あらゆる時代の権力者が求めて止まぬもの、それは永遠の命である。
「まあシルヴィアが王族級の吸血鬼だと知ったらそういう反応を示す輩が出てきてもおかしくはないわな」
先のアウロとの件がある通り王族級の吸血鬼の吸血鬼は自身の任意で転化する対象の状態を選択できる。吸血鬼の能力自体は得られなくともシルヴィアならば年齢だけを取らないようにしてもらうことも可能である。
「まあ確かに下手な悪魔や邪神と契約したり下級の吸血鬼に転化させられるより遙かにいいことは間違いないね。悪魔や邪神は契約の際になにか対価に取られるし・・・・・大概碌なモノじゃないけど、下級の吸血鬼だと十中八九精神の支配又は食人鬼化してしまうからね」
「まあ、金と自分の命にしか執着がない連中じゃ下級の吸血鬼の精神支配には絶対逆らえないだろうな」
「その点シルヴィアなら精神支配も食人鬼化も簡単に回避できるし転化される側がどれだけボンクラでも転化する側がシルヴィアなら間違いなく強力且つ吸血鬼のほぼ全ての弱点を克服した昼間歩く者になれるからね」
「まあそれもシルヴィアがする気ならの話ではあるがな」
「ソウマの言う通りよ。当時その話を持ち掛けられた私は当然断ったわ。そしたら今度はあいつらったら・・・・・」
そこでシルヴィアは言葉を切る。当時の事がよほど腹に据えかねたのか見ればその顔が怒りで再び染まっていた。
「どうしたシルヴィア?」
ソウマが尋ねる。
「その依頼人達の中にはね今度はシルヴィアのことを自分の愛人や愛妻にしようとした者がいたんだよ」
「・・・・・・へえ」
ミシィ パリンッ
ラルクの言葉を聞いた途端部屋全体が軋むような音を立てる。そしてソウマの目の前に置かれていた飲み物の入っていたグラスが触れもしないのにひとりでにコナゴナになる。
「落ち着けソウマ」
ラルクは原因など初めから分かっているかのようにソウマに語り抱える。見れば部屋にいる全員がそのような顔でソウマを見ている。若干一名シルヴィアのみが嬉しそうにソウマを見ているが。
「と、悪い」
ソウマが謝るのと同時に部屋の軋みが止む。
「しかしそうか・・・・そんな輩も居たのか・・・・・」
ソウマは内心では少し納得はしていた。シルヴィアの美しさはかつて大陸中の美姫が集う社交界が開催された時にシルヴィアが出席した際に逆にその美姫達がシルヴィアの美しさの為に自身の見た目を恥て顔を伏せる事件が発生した程のものである。シルヴィアが抱いているシャルロットもエルフの血を引いていながら通常のエルフを上回る程の美しさで【至宝の美姫】と言われているがそれでもシルヴィアと比べると見劣りしてしまう。
「因みに言っておくけどその貴族達はもうこの世に居ないからね。なんせ五十年以上前だからね。今ではシルヴィアも基本的には顔にヴェールを掛けているからそういった事は無くはなったよ」
「ま、ならいいけどな」
するとさっきまでシャルロットを抱いていたシルヴィアが今度はソウマの背後に回りその首に腕を回してくる。
「どうした?」
「うふふふふふふ、ね、ソウマ。今怒っていたけどそれって私の話を聞いたから?」
シルヴィアは実に嬉しそうに先ほどの事をソウマに尋ねる。
「当然だろ。自分の女が他の男に・・・・・しかも自分のいない間に言い寄られて気分が良いはずないだろうが」
「え、あ、その・・・・・そう・・・・ですか」
シルヴィアはソウマの言葉を聞いてソウマの首から腕を離して真っ赤になって離れてしまう。どうやらここまでハッキリした言葉でソウマが言うとは思わなかったようだ。
「シルヴィア姉様可愛い」
シャルロットがそんなシルヴィアを見て言う。
「もう、シャルったら」
恥ずかしかったのかシルヴィアはシャルロットを再び抱きしめて髪を弄り出す。
「話を冒険者に戻すけど最近ではその冒険者も腕が立つのは増えてはきているよ。先に言ったけどSランクも居るにはいるから中には勇者君達以上の実力者も何人かいるし」
「俺の知り合いで勇者以上に強そうなので今生きて居そうな奴は何人かいるけどな」
「そういう人は大抵が俗世に興味の無い人たちばかりだろ?」
「いや分かんねえぞ。最近は勇者やらで世間も面白くなってるみたいだから興味を惹かれて出てきてるかも」
「それはあんまり考えたくないね。あの人達が出てくると基本厄介ごとばかりだから、もっともその筆頭が君なんだけどねソウマ」
「もうそろそろ本題に入ったら?そもそも最初はソウマのステータスを測ろうって話だったでしょ?」
「そうだそうだ」
シルヴィアといい加減に話に飽きたのかシャルロットがそう言ってくる。
「それもそうだな、いつまでも話ばかりしていてもしょうがないな」
「そうだね早速本題に行こうか」
そうしてソウマは立ち上がり魔石に近づいて手を触れようとして止まる。
「どうしたのだソウマ?」
「早く触れなよ?」
アウロとライハルトがソウマの行動に疑問顔をする。
「いや、これって高いの?」
「まあそれなりのお値段はするはね」
ソウマの質問にヘンリエッタが答える。
「壊れないよな?」
「・・・・・・・・」×6
ソウマの再びの質問に室内にいる全員が沈黙する。
「壊れないよな!?」
ソウマの再三の質問、先よりも若干語気が強めである。
「大丈夫じゃないかな・・・・・・・多分」
「今多分って言ったな多分って」
「だって今までソウマ程の強さの者のステータスなんて測った記録なんてないからさ、シルヴィアで限界値が出るんだから確かにその心配はあるかもね。でも一応それって神でも測定できるようにできてはいるらしいよ」
「う~ん」
ソウマはまだ悩んでいるようだ。
「ソウマよ心配するな、もし本当に壊れたとしても責めぬよ」
「そうよ~ソウマ君。私達も純粋な好奇心から見たいだけだからもし壊れてもソウマ君一人の所為じゃないわ」
「そっか」
ソウマも王と王妃の言葉を聞いて決心したのか静かに魔石に手を触れる。すると魔石はラルクやシルヴィア達の時以上に一際強い輝きを放ちながら明滅する。やがて静かに光は収まり空中にステータスを表示する。
「これは・・・・」
「へえ~」
「さすが・・・・・というべきかな?」
「まあ予想していたことではあるけどね・・・」
「流石ソウマね」
「ソウマだから当然のことだよ!」
皆がソウマのステータスに関心と呆れの感想を漏らす。
「いや、これーどうなんだ?」
当の本人であるソウマは自分のステータスになんとも釈然としない顔である。
ソウマ・カムイ 種族:人間(半竜) 年齢:17歳 称号:【超越者】【世界最強】【竜の主】【神殺し】
MAG:UNKNOWN
STR:UNKNOWN
VIT:UNKNOWN
DEX:UNKNOWN
AGI:UNKNOWN
INT:UNKNOWN
LUC:UNKNOWN
全ての値がUNKNOWN、つまり想定不能と出ていた。
今月中にはあと2話くらいは更新したいなー