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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
10/72

10話 勇者の話と今後の話

更新~

「居るの?勇者?」


「居るよ、勇者」


 ラルクの言葉にソウマは思わず間抜けに聞き返してしまった。


「え?勇者ってあの勇者なのか?」


「ソウマが言ってるのがどの勇者かは知らないけど確かに今この世界には勇者がいるよ。しかも複数」


 ラルクの言葉にソウマはまたも驚きを露わにする。


「複数!勇者いっぱい居るのか?」


「うん、少なくとも各国に一人は居るね」


「なんでそんなことに、それも神の連中が関係してんのか?」


「まあ当たらずも遠からずかな、そもそも魔族との戦いが本格的に始まったのがソウマが封印から出てくる三年程前になるんだ。当時魔族が大群で人族領に攻めてきた時は魔族が集団で攻めてくるなんて考えもしてなかった各国は完全に対応が後手に回ってしまってねそれは甚大な痛手を受けたんだ」


「だろうな」


 ソウマは当初の自分の予想の通りになっていることに納得顔をする。


「それでも今は膠着状態なんだろ?」


「うん、当時魔族にほぼ完膚なきまでにやられた人族側は相当焦ったんだろうね。各地の大神殿で神々に助けを求めたのさ」


「困った時の神頼みか」


 神の中には人族やその他亜人族の祈りや願いに呼応して様々な奇跡や加護を人々に授けてきた。邪神と違い真性の神々は人々の祈りや信仰を糧にこちら側の世界に己が力を行使する。


「それでその時に祈りに応えた神の一柱である空間を司る神にある術を授けられたのさ」


 ラルクの言葉に気になる言葉をみつけてソウマは眉を顰める。


「空間を司る神?」


 ソウマは《氷結地獄コキュートス》内の精神世界で会った神を思い浮かべていた。


「どうかしたのかいソウマ?」


「その神の名は分かるか?」


「確か・・・・・リャマダとか言っていたかな?」


「(違ったか、しかしあの野郎あの時妙に意味深なことを言っていやがったがまさかこのことじゃねえだろうな)」


 ソウマは今はここにいない神の一人に心の中で悪態をつく。

 因みに邪神と違い真性の神は真名を呼んでも通常の人でも差して影響を受けない。これは邪神と真性の神との纏う神気の違いと言われている。邪神が放つ神気は生きる者全てに無差別に振りまかれる邪気の塊である。その本体である邪神自身の魂の核である真名を呼ぶことはその邪気を直接体内に取り込むに等しい行為なのである。対して真性の神が放つ神気はそれがそのまま人々の願いや祈りに呼応する奇跡や加護として作用する。ゆえに真性の神の真名を普通の人が呼んでも影響を受けないですむのだ。


「まあいい話を続けるよ。それでその神から授かった術ってのは召喚術だよ」


「召喚術だと?」


 ソウマは一瞬嫌な考えが頭をよぎる。見ればそれを裏付けるようにソウマ以外の全員が顔を顰めている。


「そう、こことは違う異世界から神々の加護や魔法適正や戦闘適性などの優れた才を持つ者を特定しこちらの世界に強制的に呼び寄せる術式さ」


「くっだらねえ、これだから神の連中のやることは」


 ラルクの言葉を聞いた瞬間ソウマは悪態を付く。その顔は明らかに不機嫌を顔に張り付けている。


「その意見には僕も・・・・・というよりここにいる全員が賛成かな。彼ら神の善意てものはそもそも此方の都合を考えたものはほとんどないからね。彼らからすれば純粋な親切心なんだろうけどその結果どうなるかを全く考慮していない、実に不愉快極まりない」


「召喚されているのは皆が十代の若者ばかりだ。儂にはそれが我慢ならん、これは儂らの世界の問題だ。それを全く関係の無い者に責任を負わすなど恥も誇りもない行為だ」


「勇者が召喚される前に開かれた各国の王達が集った会議で夫とラルク君はそのことを伝えたのだけれど・・・・」


「結局彼らは王様やラルクの言葉に耳をかさなかった、「戦争に参加すらしない者がとやかく言うな」とね。全くだからって異世界の関係ない者を巻き込んでもいい道理などないでしょうに」


「勇者の人達も元の世界に帰る為に戦うしかないような状況みたい」


「自分達が生き残るために他の生き物を犠牲にするのは生物としては当然の行為といえるけどそれはあくまでも自らの住まう世界の中で成立する話よね。それを何の関係性の無い異なる世界の生き物を無理やり呼んで自らの犠牲にするのは筋が通らないわ」


「ていうかなんで勇者がそんなに一杯いるんだ。普通勇者って一人だろ?」


「しょうがないんだよ。召喚術がリャマダから授けられた時にさらに余計なことまでしてね。召喚術を起動する為のある程度の魔力があれば後はリャマダがサポートしてくれるんだと、各国で一回だけらしいけどね」


「ほんとに碌な事しないなぁ(・・・なんだその福引券みたいな召喚は)」


「でもなんでソウマが言う様に色んな国が召喚したのかな?確かに勇者さん達って強いらしいけどそんなに一杯呼ぶ必要があったのかな?」


 ソウマ達の話を聞いてシャルロットがそんな疑問を口にする。


「それはですね姫様、各国がその後を心配しているからですよ」


「その後?」


 シャルロットはラルクの言葉にさらに疑問顔になる。


「戦後の心配よシャル」


 するとシャルロットの頭を優しく撫でるようにシルヴィアが答える。


「戦後の心配?」


「そうです姫様。もし今後人族側がこの戦いに勝利した場合戦争には必ずある戦利品の分配を心配しているんですよ。戦利品の・・・・まあこの場合敵側の領土や労働力である奴隷等色々ですがそれをどの国がどれ位獲るかの話ですよ。当然その取り分の分け方は戦争での貢献・活躍度合によって決められるものですからより強い駒が欲しいんでしょうね」


「全くくだらない話だ」


 アウロが心底嫌そうな顔でそう嘆く。


「それともう一つ、戦争が終結後の各国の力関係の心配でしょうね。魔族との戦争が終われ欲を搔くものは今度は別の国・・・・他の国との戦争を考えるものです。そうなった時に自国に勇者が居ないのは不利です、だから自分達も勇者を召喚したんですよ」


「つまりその各国の王や重鎮共は・・・・・・」


「勇者達を元の世界に返すつもりは無いということだね。まあ全ての国がそうであるとは限らないけどそう考える国は確実にあるということだよ」


「酷い・・・・・」


 シャルロットが悲痛そうな顔をする。


「まあ可哀想な勇者君は今はどうしようもないとしてそれそうと・・・・・・」


 ソウマはシャルロットの頭を撫でながらラルクに尋ねる。


「その勇者って強いのか?」


「結局君はそれなんだねソウマは」


 ライハルトが思わずといった風に苦笑する。


「まあ、それなりに・・・・・といった所だろうね。勇者達が召喚されたのが今から二年程度前位だったかな?それからしばらくして何人かの勇者がこの国にも来たんだけどね。その時に僕とシルヴィアが少し稽古を付けたことがあったんだ」


「それで?」


「まあ当時はとても僕やシルヴィアに善戦できるレベルじゃなかったけどそれでもこちらに召喚されて一年足らずであそこまでの強さはさすが加護持ちといえるね。あの成長速度を考えると今だと数人ぐらい集まれば僕やシルヴィアが相手でも十分戦えると思うよ」


「ふ~ん、お前はどう思うシルヴィア?」


「う~ん、私も概ねラルクの言い分と同じだけれど今でも私はあんな子達に負けるつもりは微塵も無いけどね。それと私は別に心配事があるわね」


「心配?」


「あそこまで急激な成長は明らかに神達のブーストがかかっているわ。人と言うものはある日突然強い力が手に入るとその力に魅入られる場合が多い。特に本人にあまりリスクを負わない類の力は特にね。だから私もラルクも当時勇者君たちが来た時はそのつもりでかなり厳しくしたのだけれど」


「まあそれは後は本人達次第でしょうね」


「シルヴィアの言う通りだ。苦痛や苦悩を伴わない力は本人にとってはあまりいい結果をもたらさないもんだ。なにも単純な武力だけの話じゃない。勉学に伴う知力だってそうだし長い間の修練で身に付けた料理やあらゆる分野の職種でもそうだがあらゆる強さに必要なのはそいつがそれに対して注ぎこんだ時間と密度だ。目指した強さに見合った時間とそれに伴う苦痛と苦悩があって人って奴は己の力を自覚して制御できるんだ。それをある日棚ぼたみたいにアッサリ手に入れてみろ、そこにあるのはそれを振りかざす快楽しか残らねえ。人は便利なものがあると使いたくなるもんだ、特にそれが自分にとってなんのリスクも無い代物だと特にな。因みに別に己の力を良い事に使えって意味じゃねえぞ、力はそいつ自身のモノ、どういった事に使おうが本人の自由だ。俺が言っているのは要は覚悟の問題だ。己の力に使われるのではなく使うって事だ」


「僕も同意だね。力は手に入れる過程にこそ本当の価値がある。過程という途中経過をなく力のみを身に付けた者の振るう力は時としてただの暴力になり下がる。しかしさすがだねぇ、己の信念のみでそこまで己を高めた男は言う事が違うね」


「まあな、こう見えても昔はそこらの魔物にも勝てなかった身なんでな」


 ソウマのその言葉にラルク以外の全員が驚きを露わにする。


「ソウマにも弱い時があったんだ~」


「ちょっと想像できないわね」


「人に歴史あり、か・・・・」


「頑張ったのね~」


「普通の魔物に負けるソウマか~う~ん想像できない」


「ま、俺にもそういう時代があったてことだ。力は使われるのではなく使うものだ。才能は勿論重要だがそれに溺れない修練がそれを真に使いこなす重要な要素になる。今聞いた勇者君達みたいに人から簡単に才能も能力も与えられるとどんなに修練して身に付けてもあらかじめ手に入る力・・・・・・・・・・として遊戯感覚が抜けないもんだ(まあ要は俺の前世の世界のテレビゲームで言うRPGのレベル上げの感覚になっちまうってことなんだけどな、これを言ってもこいつ等にはわかんねえし)」


「う~んそれについてはさっきも言ったけど後は勇者次第だね。力に溺れて力を悪戯に使う輩なら僕たちでどうにでもすればいい」


「それもそうね。心配しても結局は他人事だもの、私は私の身近な人に危害が及ばないなら他はどうでもいいわ。仮に勇者君達がなにかしらちょっかいを掛けてきてもお仕置きするだけだもの」


「できれば俺は一度勇者達を見てみたいが別にどうこうする気はない、が向こうが手を出すというなら俺は別に正義の味方じゃないんでね。異世界に呼ばれた可哀想な勇者にはここで終わる未来も覚悟してもらわないとな」


 ラルク・シルヴィア・ソウマの三者三様の言いざまを聞いてライハルトとアウロは苦笑いを浮かべる。


「やれやれ、各国の切り札にして人族の希望とも今や言われている勇者を当然のようにどうにかできる発言を言うとはさすがというかなんというか」


「しかしこの三人が口にするとそれが出来ぬと思えぬのも又確かではある」


 その後、皆でお茶やお菓子を楽しみつつソウマが居ない間に変わった城内の人物背景や出来事などを話し合っていた。


「へえ~あの門番の衛兵君その後酒場のあの子と結局上手く言ったのかぁ」


「うん、思い切って思いを打ち明けたら成功したみたいでね。孫まで生まれて中々順風満帆な人生を生きていたよ」


「そりゃー良かった。以前に何度か相談に乗ったことがあったが当時の俺じゃその手の話は全く力になれなかったからなぁ」


「そもそも前のソウマに色恋の話を相談する方が間違いでしょ。私達の気持ちをずっと袖にし続けていたくらいだもの」


「そうだそうだ」


 ここぞとばかりにシルヴィアとシャルロットがソウマに愚痴をこぼす。


「それについては返す言葉も無い」


 室内に笑い声が木霊する。百年間の空白をなど無いかのように皆がソウマを毎日会っていたかのように違和感なく過ごしている。それはまさにここにいる全員の絆を示すものに他ならないものだった。


「それでだ、ソウマ」


 皆でひとしきり談話を楽しんだ後会話が一段落したのを見計らう様にラルクがソウマに話を切り出す。


「なんだ?」


「とりあえず世間で大きく変わったことは大まかに話した。それで、ソウマはいつ頃出発するんだい?」


「!」


 部屋の者で驚いたのはシャルロット一人だった。


「やっぱり気づいてたか。ていうか姫さん以外の皆気づいていたみたいだな」


「当然ね。最初は違和感程度だったけどソウマが話を聞きながら外の世界に興味を示していたのは気づいていたから」


「え!なんで?ソウマここを出ていくのどうして?せっかく帰ってきたのに!」


 シャルロットが当然のように猛抗議する。そんなシャルロットの頭をソウマは又撫でる。


「流石にお前らには隠し事はできないな。それと姫さん少し落ち着けって、別に今日明日にでも行くって分けでもねえんだから」


「ホントに?」


「ああホントだ。俺もまだ少し確かめたいこともあるしな」


「・・・・・・て騙されないよソウマ!なんで出ていくのかって私は聞いたの」


 一度ソウマの言葉に安心したシャルロットは今再びソウマに詰め寄る。


「誤解だ誤解、俺は何もこの国を出ていくわけじゃない。しばらくのの間旅をするだけさ」


「旅を?」


「そう、ラルク達から話を聞いて今の世界がどう変わったかはある程度把握した。だったら後は自分の目で直接世界の変化を確かめるだけだ。百年間音沙汰無しだったから久しぶり挨拶したい奴もいるしな、以前からこの国が落ち着いたらまた少し旅に出る気ではいたからな、世界が良い感じに面白くなってるし今が良いタイミングだ」


「む~~」


 シャルロットはソウマの言葉に押し黙る。元々シャルロットとてソウマの性分は幼いながら理解している部分は幼いころからあった。心の中のどこかで「この人は一つ所にいつまでも留まる人じゃない」といつも思ってはいたのだ。


「そんな心配するな姫さん。もし旅が終わっても必ず俺はこの国に帰ってくる。俺にとってのもう一つの故郷がこの国だからな」


「ソウマ・・・うん、わかった。でも・・・・・」


 シャルロットは何かを言いかけてやめる。


「どうした?」


「うん、決めた。その旅に私も一緒に行く!」


 シャルロットは突然宣言と同時に立ち上がる。


「!、おいおい姫さんそれは無茶だろう」


「無茶じゃない。行くったら絶対行く!」


「無理に決まってるだろう、第一姫さんはこの国のお姫様なんだぜ?そんな簡単には・・・・・」


「いいのではないか?」


 するとソウマにとっては予想外のシャルロットへの援護が来る。


「おっさん!」


「いやなに、シャルロットも今年で十七歳。そろそろ一度は遠出の旅を経験させるのはよい機会だと儂は考えるがなぁ」


「私も賛成よ~、それにソウマ君なら大概の危険からシャルロットを護るくらい朝飯前でしょう?」


「僕も賛成だよ。別にシャルロットは箱入りお姫様にって分けでもないし王位継承権第一位ってわけでもないから事前に準備と手続きを揃えれば十分君と旅くらい出られると思うよ」


「お、お前ら・・・・」


 ソウマは己が期待したシャルロットへの反論の言葉が見事に覆されたことに驚きを隠せない様子である。するとソウマの背後からソウマの首に腕を回して柔らかいモノを背中に当ててくる人物が一人。


「当然、私も着いて行くわよ?」


 シルヴィアがそう言いながらソウマの背中にさらに自身の凶器をグニグニと押し付ける。


「お前もか・・・・・、俺は元から居なかったからいいがお前がこの国を抜けてどうするんだよ?」


「僕は別に構いませんよ?」


 すると又してもソウマの予想に反してシルヴィアを援護する声が上がる。


「ラルク、お前まで・・・・」


「別に僕は考え無しにこんなことを言ってるのではないよ?そも先の話でも言ったけど現在人族は魔族との争いの真っ最中でよその国に手を出すほど暇じゃない、それに魔族は魔族でこの国には手を出してこない。万が一攻め込まれても君達を呼び戻す間位僕一人でもどうとでもなる。というか大抵の事は僕一人でもなんとかなりますよ。それに奥の手もありますから」


「奥の手?」


「転移魔法ですよ。ソウマが居なくなってからも僕はいくつか魔法や魔術の研究を続けていてね。つい五・六年前にようやく形になったんですよ」


「へえ、具体的にはどんな感じなんだ?」


「転移魔法と言ってもそこまで自由自在じゃないんだ。まず転移させたい対象に術式でマーキングする、それからその術式と対になる術式を人物又は特定の場所にもマーキングする。それでその対象が遠方に居る場合あらかじめマーキングした術式を発動させて対となる術式をマーキングした場所まで転移するという魔法さ」


「つまり一度行った場所にしか行けないわけか」


「それとこのマーキングは一度使用すると消えてしまうから一度使用するともう一度マーキングし直さないと使えないんだ。しかも一度で同時に転移できるのは三人までしか転移できない」


「なるほど」


「それでも今回にかんしてはそれで充分さ。君たちの誰か一人に僕が術式を施して置くから何かあった時は僕が通信魔術で君達に連絡を入れるからその時にこの国まで転移すればいい。これならシルヴィアがこの国を離れてもいつでも君もシルヴィアも戻って来れるよ。よってシルヴィアがソウマに付いて行ってもなんの問題も無いという訳さ」


「うぬ」


 ラルクの説明を受けてソウマはぐうの音も出ない様子で黙り込む。


「これで決まりねソウマ。ソウマの旅に私とシャルが同行することに異論も問題点も全てクリアされたわ、文句はないでしょ?」


「ないでしょソウマ?」


 シルヴィアとシャルロットが勝ち誇るようにソウマに詰め寄る。ソウマは若干座っているソファーから仰け反る様な態勢になる」


「くっ・・・・・・、分かったよ。姫さんもシルヴィアもしょうがねえな。出発する詳しい時期はまた教えるから二人とも準備はしといてくれよ」


 ソウマは一瞬苦い顔をしたもののすぐに苦笑する。案外ソウマも心のどこかでこうなる予感がしていたのかもと思いながらも迷わず自分に付いてくると言った二人に改めて感謝と愛しさが込上げる。


「話は纏まったようだな」


 話が終わったの見計らったようにアウロが四人に話しかける。


「話は全て了解した。ソウマが心配せずともこの国なら大丈夫だ。先もラルクが言ったようにラルクの魔法があるしシルヴィアやソウマが居らずともやすやすとこの国はやられわせんよ。安心して三人で行ってくるがいい」


「そうよソウマ君、せっかく帰って来たのにすぐに又旅に出ちゃうなんていくら何でも二人が可哀想よ。男の子ならそこは好きな女の子に一緒に付いてきて欲しいくらい言わないと」


「はあ」


「まあ、折角だし三人でゆっくり旅行を楽しんできなよ。ソウマとシルヴィアが居れば文字通り魔王と出会っても大丈夫だろうけどね」


 アウロ・ヘンリエッタ・ライハルトがそれぞれソウマ達を送りだす言葉を贈る。若干ヘンリエッタのみ説教が混じっていたが。


「わかったわかった。おっさんやラルクを信用するよ。俺達は安心してこの世界を見て回ることにするよ」


「それでよい、儂達もソウマの信頼に全力で答えられるだけの力があることを証明しよう」


「別に信用していないわけじゃないんだが・・・・・・・」


「まあいいじゃない、任せてほしいって言っているんだから任せましょう」


「私フェリチタ公国の華桜祭に行ってみたい」


 シャルロットは既に旅出た行先の事を考えているようだ。


「シャルロットは気が早いな、ソウマも今すぐに出ないといっているのだからお前は出発前の準備をまずしなさい」


「そうよシャルロット、いくらソウマ君やシルヴィアちゃんがいるといってもいつ何時貴方の身に不測の事態が起こるか分からないわ。そんな時ソウマ君やシルヴィアちゃんの負担にはなりたくないでしょ?私とラルク君でエルフが使える魔術を教えてあげるから、幸い貴方はライハルトよりもハイエルフの血が濃いみたいだから魔力はかなり大きいわ、だからかなりの数の魔術、もしかしたら精霊魔法も使える様になるかもしれないわ」


「ええ、それについては僕も協力は惜しみません。生憎と僕は精霊魔法の才能は有りませんがその他の魔術・魔法なら教えられます」


「あれ?お前精霊魔法使えなかったっけ?」


「使えないよ。精霊魔法は魔力量や才能以前に精霊に好かれなければそもそも使う事すらできない。僕は精霊にはあんまり好かれていないんだよ」


「じゃあ王妃様は使えるの?」


「うん、ヘンリエッタ王妃は元々ハイエルフの巫女の役割を持つ役柄の家だった家系だから先祖代々精霊に好かれているんだよ。特にシャルロット王女は特に精霊に好かれているといっていいね」


「そうなの?」


 シャルロットが自分の両手を見つめながら首を傾げる。


「ええ、僕も過去にそれなりの数の精霊魔法の使い手・・・・・ハイエルフ的に言うと世界樹の担い手というんですが、それと比べてもなんら見劣りしない・・・・むしろそれ以上に好かれているかもしれません。きっとシャルロット王女なら有数の精霊魔法の使い手になれますよ」


「・・・・・うん、大魔導士のお墨付きなら頑張ってみようかな、私もソウマやシルヴィア姉様の足手まといにはなりたくないもんね」


「まあ私とソウマが居る時点でそういう事態が起こる可能性はかなり低いと思うけどね。それでも私達の為にって部分はとても嬉しいわ」


 シルヴィアはそう言ってシャルロットを優しく抱きしめる。


「それでソウマ、大体でいいんだが出発の時期を教えてくれないか。シャルロット姫の準備の予定もあるしもしかしたら君に少し頼みたいことがあるからそれの調べものもしたいんだ」


「あん?別に構わないが・・・・・・・そうだな、大体三週間・・・早くて二週間後位かな?(よく考えたらこの世界の暦や日数の概念は俺の前世と同じだな、なにか関係があるんだろうか?)」


「三週間?君にしては随分長いね。君は思い立ったが即行動みたいな所があるから一週間もしたらすぐ旅に出るもんだと思ってたよ」


「だからさっきも言っただろ?少し俺も確認したいことがあるんだよ。それが済み次第出発するからもしかしたらもっと早いかもしれないがな」


「?そういえば確かにそんなことをシャルロット姫相手に言っていたな。確かめたいことってなんだい?」


「別に、そう深刻なことじゃないよ。俺自身がどうなっているのかの性能テストだよ」


「なんだい?鈍っているのかい?」


「いやその逆でな。どうもあの空間はかなり肉体に負荷をかける代物だったらしくてな、多少俺の体に変化が起きている気がする」


「それは確かに、元々《氷結地獄コキュートス》は不死に近い神々を封じる為に神々自身が生み出した禁忌魔法だからね。それを上級邪神六体分もの力を注いだ封印に百年間生身の人間が閉じ込められていてこうして何事も無く平然と話している時点でもはや呆れとかを通りすぎているよ」


「それについては俺自身がたまに怖くなる時がある。ともかくあの空間で俺はなにかが変化したらしいからそれを確かめたいんだよ」


「大丈夫なのソウマ?」


 シルヴィアがそう聞いてくる。その顔と声には少しソウマを心配するような気配が含まれている。


「大丈夫だ。なんとなくだがこれは俺にとってあまり悪いモノにならない気がするからな」


 そんなシルヴィアにソウマは何でもないように答える。


「他には何かあるのかい?」


「まあ、旅の間に使う道具やその他もろもろを・・・・・シルヴィアがいるからあまり問題は無いかな」


「ええ、私の影のなかなら大概の物が入るからね」


 シルヴィアは普段からよく人の影から影への移動や影から《影獣オンブラ・ベスティア》を出しているがそれ以外にも普通の物も収納が可能である。


「シルヴィア姉様の影の中ってどれくらい入るの?」


 シャルロットが純粋な質問をぶつけてくる。


「う~ん、実は上限は私自身良く知らないのよね。まだ試したことがないの、大分昔に私の王国の兵士千人位影に収納して奇襲を掛けたことがあるけど・・・・」


「それはまたなんとも軍師泣かせな戦術ですことで」


 ラルクがなんとも言えないような顔をする。


「ふぇ~千人も人が入るってことは凄い一杯はいるんだね」


 シャルロットはとにかく一杯入ると認識したようだ。


「まあそういう事だから荷物の件は道具や食料を用意した端からシルヴィアの影に入れれば問題無しと、お次は足だな、徒歩や走りでもいいが姫さんもいるし何より折角の旅だからもっと風情があった方がいいだろうな」


「キューちゃんに乗って行けば?」


「姫さん・・・・・流石に誰も通らないならいいが万が一街道の途中で窮奇が普通の人に見られたら大騒ぎになるぞ」


 何しろ窮奇は見た目は完全に魔獣である。しかも通常の魔獣やモンスターが足元にも及ばないような威圧感を出しているのである。それが街道を人を乗せた状態で悠々と闊歩していれば・・・・・・・。


「討伐隊が出るね」


 ラルクが即答する。


「じゃあどうする。お馬さんを使う?」


 シルヴィアが再度提案する。


「まあそれが無難かな。まあ最悪歩きでも俺はいいんだがお姫さんは・・・・」


「私なら大丈夫だよ」


 シャルロットがソウマの言葉に被せるように答える。


「私はソウマやシルヴィア姉様が一緒ならどこでもどんなことでも大丈夫」


 シャルロットはそう断言する。その言葉には強がりや虚勢は無くむしろどこか確信や誓いにも近い心境を含んだ言葉だった。


「・・・・そうか、そうだな。俺達ならなんでも大丈夫か、取りあえずのんびり最初は歩いて行くか」


「そうね、私もそれでいいわ。私もソウマやシャルと一緒ならなんでも構わないわ」


「わ~私今から楽しみで眠れなくなりそう」


「おいおい、今からはさすがに気が早えよお姫さん」


「まあとりあえず今からって訳にもいかないから今日の所は一度ゆっくり食事と睡眠をとるべきだね」


 ラルクがそう提案してくる。


「それもそうだな。久しぶりにベッドでゆっくり眠るかな。俺の部屋はどうなっているんだ?」


「それなら私とシャルで掃除はしているわよ、いつでも貴方が帰って来てもいいようにね」


「・・・・・・悪いな」


 シルヴィアの言葉に隠されたニュアンスを感じ取ったソウマは自らの思いも乗せた礼を返す。


「ソウマ・・・・」


 するとソウマの服の袖を遠慮気味に引くシャルロット。


「どうした姫さん?」


「あのね、今日一緒に寝ていい?」


「へ?」


 ソウマは思わず変な声が出た。


「あら?ずるいわシャル。ソウマそれなら私も今日ソウマと一緒に寝たいわ」


「なぬ!」


 追い打ちをかけるようにシルヴィアまでそんな提案をしてくる。


「お、お前ら・・・・」


 動揺するソウマにシルヴィアが近づきシャルロットに聞こえないようにソウマに囁く。


「心配しなくても何もしない、ただ一緒に眠るだけよ」


「あ?」


「シャルは未だにそういった知識に疎くてね。多分あの子は純粋に久しぶりソウマと一緒のベッドに眠りたいだけだと思うの」


「なんでそんなことに?普通王族はそういう事をある程度成長すると教育するんじゃないのか?」


「それについては私と王妃の不手際ね。あまりにあの子が可愛いものだからそういった知識をあまり触れさせなかったの、王妃様なんて「それならソウマ君に直接教えて貰えばいいじゃない」なんて言っていたけども、その所為で未だにあの子少し子供っぽい所があるもの」


「なにしてんだお前ら・・・・・特に王妃さん・・・どうりで体は大分成長していたが雰囲気は何となく小さい頃のままのはずだ」


「だから今日の所は私も何もしないから、私もシャルを除け者にしたくないけどシャルがもう少しそういった事をキチンと理解して自分から決断してもらいたいから、今のままだとあの子よくわからずに私に流されてしてしまいそうだもの」


「・・・・・・・・」


「ね?だから今夜は皆で一緒に寝ましょ?」


 今度は聞こえるようにシルヴィアが言う。


「・・・・・はあ、分かったいいよ」


「ホント!」


「ああ、今日は三人で寝よう」


「やた!」


 シャルロットはその場でガッツポーズをとる。その姿を室内の面々が微笑ましい顔で見ていた。



最近やりたいPCゲームが増えたから執筆が・・・・・

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