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世界最強ですが?それが何か?  作者: ブラウニー
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1話 とある王国の世界最強

二作目です。どうぞお付き合い下さい。

 ある所に豊かな王国があった。

 その王国は資源も豊富であり高い山々に囲まれた山たちからは大小さまざま川が流れ込みその土地を豊かな物に変え豊富な量と種類の作物を実らせていた。王国には港町も存在し色々な国とも交流を持ち新鮮な魚介類を国民に与えた。


 その王国の名はエテルニタといった。建国は五百年程のそこそこに歴史のある国だった。国王の名はアウロ・ウトピーア。各国に名君と知られた稀代の名君である。彼には王妃と王子が一人と姫が一人いた。彼は元来争いは好まず領土の拡大よりも内政による民への安寧を求めた。しかしいくら彼が平和を望もうと他の国が彼と同じ考えを持っているとは限らない。エテルニタの豊富な土地と資源を奪おうと何度となくいくつかの周辺諸国からの侵略を受けた。侵略をされる以上彼もまた黙って自らの国民を蹂躙されるわけにはいかない。彼もその度に侵略に立ち向かった。そしてエテルニタはその度に勝利を収めてきた。


 その王国エテルニタにはとても強い騎士がいた。その騎士は大陸最強と謳われていた。その騎士は十五歳という若さで戦場で活躍しエテルニタの為に戦ってきた。その騎士はその後十七歳という異例の若さで王族直属の騎士団長に抜擢された。彼が戦場に出れば誰も彼を倒せなかった。彼は王国の英雄と称えられた。


 その騎士は己の強さを極めるためあらゆる困難に立ち向かった。ある時は古代の森の奥に潜む古の魔法と強靭な体を持つ神代の怪物古龍エンシェントドラゴンを打倒した。またある時は人の住めぬ過酷な環境の大地である魔の国の王に戦いを挑みこれに勝利し、またある時ははるかいにしえより生き続ける美しき吸血鬼の姫と矛を交えた。いつしか彼は大陸最強から世界最強と呼び変えられるようになった。その頃には彼の国に攻める国はいなくなっていた。


 これはそんな騎士の物語。




 とある国の王宮でのとある日。


「姫さま~姫様~どこですか~姫様~」


 給仕の恰好をした複数人の女性が誰かを必死に探していた。


「居られた?」


「いいえ、こちらにはいませんでした」


「こちらにもいませんでした。全くどちらに行かれたのかしら、もう教師の方はお部屋の方にいらっしゃったというのに」


「毎回毎回、おてんばな姫様だこと」


 どうやら給仕達はこの王宮の姫を探しているようだ。しかし毎度のことなのか中々見つけられないようだ。それもそのはずこの王宮かなり広い構造をしているようで人ひとり探すにも居場所が分からねば見つけるのは容易ではないようだ。


「とにかく手分けして探しましょう。こんどはあちらからお願い。私はこちらのほうを探します」


 しかし諦めず給仕達は他の場所の捜索を開始した。


※※※※


「で、お姫さんいつまでそんな所でかくれんぼしてるつもりなのかな?」


 一人の男が木の下に立ち上を向き木に向かって話しかける。


「やー、私行かない」


 なんと木の方から返事が来た。


「それでも先生はもう来てるぜ」


「それでもやーなの」


 よく見れば木の枝の上には一人の女の子が腰かけていた。肩の下まで届く淡い桃色の髪をした十歳前後の非常に可愛らしい少女だった。自身の髪と同じ桃色のドレスに身を包みそのあどけなさの中に少女特有の成長過程での女の子らしい雰囲気も醸し出している。


「だからお姫さん、そういう我儘はそう何度も通りませんって」


 それもそのはずどおやらこの少女が先ほどの給仕達が捜していたこの王宮の姫のようだ。


「いい加減おりてきなって。でないとまた王妃さまに叱られるぞ」


 その姫に先ほどから敬意があまり感じられない言葉を投げかけるこの男は一体。

 男・・・いや青年は髪も瞳も真っ黒だった。着ている服も全身を包むボディースーツ全体が黒かった。歳の頃は十七~八といったところであろうか、しかしその若さとは裏腹にその全身を包むオーラは見るものが見れば一目で青年が只者ではないと見抜くだろう。全身も驚くほど鍛え抜かれた肉体をしている。


「う~~~~~。やっ」


 少女はしばらく枝の上で唸っていたが突然枝から青年に向かって飛び降りた。青年は全く慌てず素早く両手を構えて少女を受け止める。


「コラ、危ないだろ。怪我したらどうするんだ」


「大丈夫。ソウマが絶対受け止めてくれるもん」


 少女は青年・・・ソウマに絶対の信頼を寄せているのか自身が落下する恐怖など微塵も感じていない様子だった。

 彼こそはこの国最高の騎士にして世界最強の男である。


「はあ、しかしお姫さんどうやってあんな高い木の枝に上ったんだ?お姫さん一人じゃあんなとこ登れないだろ?」


「うん、シルヴィア姉さまに手伝ってもらったの」


 少女が嬉しそうにそう答える。


「あいつか・・・・・なるほど」


 ソウマは一瞬少女の影に目をやる。


「とりあえずお姫さんはお勉強の時間だ」


「ええ~」


「ええ~じゃないの。お姫さんは将来の為に今のうちにしっかり勉強しておかないと」


「勉強つまんな~い」


「しっかり勉強しないと将来王妃様みたいな立派な女の人になれないぜ」


「お母様みたいに!私もなれるかな」


 少女・・・この国の第一姫シャルロット・ウトピーアが嬉しそうにソウマに聞き返す。よほど母親である王妃を尊敬しているのだろう、その瞳には隠し切れない期待と喜びが感じられる。


「ちゃーんとお勉強受けたらな」


「うーうーじゃあさーじゃあさー」


 今度は一転シャルロット姫は顔を伏せて若干頬を赤く染めながら。


「ソウマはーお母様みたいな人がお嫁さんだったら嬉しい?」


 赤い顔でそう尋ねる。


「あーそうだな」


 その質問にソウマは頬を指でポリポリと掻きながらどう答えるか考える。目の前の少女がどういった意図でこのような質問をしてくるかを察せないほど彼は鈍くはない。


「まあ、そうだなどっちかってゆうとそうなるな」


 なので割と当たり障りのない答えを返す。この時期の少女によくある一過性の感情だろうとソウマは考えて今は適当に答える。


「ほんと!ほんとに!?」


「ああ、ほんとほんとだからお姫さんもお勉強しっかり受けてきな。ほらメイドが迎えに来たぜ」


 見れば王宮の廊下の向こうから給仕であるメイドの一人が急いでこちらに駆けてくるのが見える。


「うん、わかった。わたししっかりお勉強してお母様みたいな素敵な女性になるから待っててね。終わったら大きな竜さんを倒した時のお話しを聞かせてね」


「ああ終わったら竜王の奴の話を聞かせてやるよ」


 

 そういうとシャルロット姫はメイドの元に元気よく走って行く。それからメイドと二三言葉を交わし先生の待つ部屋にメイドと歩いて行った。


「ソウマ騎士団長」


 すると背後からソウマに声が掛かる。それに気づいていたのかソウマはさして驚いたそぶりも見せずに返事を返す。


「何か用か?」


「は、先ほど王が団長をお呼びしろと」


「わかった。すぐに行く。それと団長はやめろと何度も言ってるだろう」


「いや、しかし・・・・団長は我が国が誇る最高の騎士であります。それを敬称無しでお呼びするのは・・・」


「柄じゃないっての。アウロのおっさんに言われて仕方なくこんな役職やってんだぜ俺は」


「しかし団長の強さが我が国だけでなく世界で最高の腕であることは誰に聞いても明らかであり、その団長が然るべき地位に就くのは当然の・・・・・」


「ああ、もういいもういい。それじゃどこに行けばいい、軍議室か?」


 伝言を伝えに来た兵士の顔を見れば己に対する畏敬の念がそこかしこに滲んでいる。敬称を改めさせることは何度かあるがどの兵士に言っても大体が同じ反応と答えが返ってくる


「あ、はいそこで王とシルヴィア様とラルク様がお待ちです」


「シルヴィアとラルクが?そりゃまた妙な話だ。ま、行けばわかるか」


 そういうとソウマは軍議室のある方まで歩いて行った。


※※※※


 ソウマが軍議室に入るとその中では既に三人の男女が部屋の長方形の形をした席の先端あたりに座っていた。


「遅いぞソウマ。兵士に呼びに行かせてからだいぶたったぞ?」


 そう言って最初に軍議室に入ってきたソウマに声を掛けたのは席の一番先頭に座っている人物だ。豪奢な服に身を包み、頭には黄金に輝き宝石が散りばめられた王冠を乗せている。威厳のある顎鬚を生やした顔は厳しさの中にやさしさが垣間見える。その全身からでる雰囲気は一国を預かる者の自信と自負に満ちている。


「文句があるならあんたんとこのおてんば姫さんに言いな。アウロのおっさん」


 そうこの人物こそこのエテルニタ国を収める王アウロ・ウトピーアである。


「そうか、あのおてんばめまた勉強をさぼろうとしよったか」


 娘の話が出た途端先ほどの威厳はなりを潜め一転して顔がほころび言葉とは裏腹にその感情は喜で満たされている。


「相変わらず王様は娘のことになると性格変わるはねぇ」


 すると突然ソウマの影から突然人影が持ち上がる。その影はだんだん輪郭がはっきりしてくる。それは女性だった。最初にソウマが入ってきた時には王の左側に座っていたその女性はいつのまにか席から姿を消しソウマの影に潜んでいた。


「こらシルヴィア、お前お姫さんに危ないことさせんなよな」


「あら、心外ね私がそんなことする分けないじゃない。ちゃんとなにかあってもいいように姫様の影には私のペットを忍ばせてあったからなにも心配いらないわ」


 そう言ってソウマの腕に寄りかかるように腕を絡めてきたのは漆黒のドレスに身を包んだ絶世の美女と形容するしかないほどの美女がそこに立っていた。腰まで届こうかという銀色の髪がサラサラ顔の前で揺れる。美術品から飛び出したように実に均整の取れた顔の配置とまるで血のように赤い唇と全てを凍てつかせるような金色に輝く瞳、その瞳の瞳孔は蛇の目のように縦に割れている。


「それは知っていたがそれでも本人に危ないことをやらせていい理由にはならん」


「まあそれもそうね、姫様に頼まれると私もついついお願いを聞いちゃうのよね」


「はあ、貴方も十分シャルロット姫様に甘いですよシルヴィア、それとソウマ、王よその話は後にして下さい。今はそれとは別の案件を話し合わなければいけないのでは?」


 そう言って言葉を挟んできたのはこの軍議室にいる最後の一人だった。金色の長髪を後ろで纏めた線の細い青年だった。その容貌はどこか中世的で男とも女ともとれる程整った容姿をしている。そして何より特徴的なのが彼の顔の横にある人とは明らかに違う長く先の尖がった耳があることだった。


 エルフ・・・・この世界では主に世界樹と呼ばれるとても大きな木の周辺に集落を作る種族で人よりはるかに長命な種で魔力も高いが個体数は人族から見れば圧倒的に少ない。


「そうだったそうだった。で?今回呼ばれた件はなんだ。俺等の一人ずつとかじゃなくて三人一辺に呼び出したなんて最近なかっただろ?」


 ソウマはエルフの青年に尋ねる。


「確かにねぇ。この国の三神柱とか言われてる私達が一度に呼ばれるなんて珍しいわね。実は私もまだ理由を聞いてないんだけどなんなのラルク?」


「ああ、それについては今から説明する」


 エルフの青年・・・ラルクと呼ばれたエルフは静かに頷いて首肯する。どうやらこの中ではこのラルクの役割は軍師に相当する役職のようだ。


「王よ」


「うむ」


 促されたアウロ王は席から立ち上がりゆっくりと話し出した。


「実は現在我が国の国境付近に所属が未確認の部隊が接近中らしいのだ」


「あ?」


「へ?」


 言われたソウマとシルヴィアは一瞬間の抜けた声が出てしまった。


「へえ~まだこの国に喧嘩を売るような国がこの辺に残ってたのねぇ」


「確かにシルヴィアの言う通りだ。現在この近辺の国でこの国にまともに喧嘩できるのは残っていないはずだがどこの国だ?」


「だからそれは現在調査中だ。君達に今回頼みたいのはその国境付近に接近している部隊を片付けて欲しいということなんだ。これが陽動の可能性がゼロではないいじょう大部隊をうかつに動かしたくは無いからね。君達二人が打ってつけってわけだ」


 普通は部隊をたった二人で片付けろなどと言われれば言った者の正気を疑うがこの二人の場合その常識があてはまらない。


「しかしホントにどこの国なのかしら?今この国と正面から戦える規模の国はこの大陸内で1つ2つ、大陸外でもそんなに数がいなかったはずだけど」


「まあ今現在では憶測でものを言ってもしょうがない。今は現状の状況の打破に当たろう。こちらもできれば戦闘などしたくはないが我が国が侵されるのを王として黙っているわけにはいかん」


 アウロ王はその目に戦いへの虚しさと自身の守る者を確かに宿した強い意志の光が両方内包されている。


「作戦は了解した。俺とシルヴィアはとりあえずその部隊を壊滅もしくは撃退すればいいんだろ?」


「ああ、それでいいよ。できれば捕虜を一人捕まえてくれ。何らかの情報が得られるかもしれない」


「了解、シルヴィア」


「ええ、了解したわ、全部食べない・・・・・・ようにするわね」


「じゃあちゃっちゃと終わらせるかな。できれば相手が国境に入ってから出迎えよう。どういった用かは知らないがこっちの領土に入れば色々融通も利くからな」


「そうね、自国の領土内なら相手によほどの正当性が無い限り此方の罪にはならにいわ」


「ああ僕もそれが良いと思うよ。やはり各国に我が国の正当性は示しておかないとね」


「じゃあ行くか、シルヴィア行きは任せていいか?」


「ええOKよ、うちの子もたまには乗ってあげないと拗ねちゃうから」


「ああやっぱり乗り物があったほうが楽だしな。シルヴィアの使い魔なら馬よりよっぽど早いしな」


「君達が直接走った方が絶対早いと思いますけどね」


「それはメンドイ」


「ええ、メンドクサイわ」


「まったくこの二人は、まあいでしょう僕は念の為に軍の準備をしておきます。それと万が一にもないと思いますが貴方方が抜かれた時の為の準備もしておきます」


「ああそうしてくれ。俺達の後ろにお前が率いる軍がいると思うと俺達も安心して戦える」


「御謙遜を、貴方が出撃する時点でこの戦いはほぼ終わってると僕は考えているんですよ?」


「それこそ買い被りだ、俺だって生き物だからな、なにが起こるかなんて誰にも分らないぜ?」


「全く、世界最強とまで言われているのに貴方は慢心というものがまるで無い。これでは敵も付け入る隙がまるでないえしょう。僕はいつも相手に同情していますよ」


「そうね、これでほんの少しでも自分に驕りでもあれば絡めても通用すんでしょうけど」


「確かに、これほどの強さを身に着けて尚まだ高みを目指すその姿勢は感心を通り越して呆れすらわいてくるわ」


 三者三様の褒め言葉?を賜り少しソウマの頬が赤くなる。


「う、うるさい!いいから行くぞシルヴィア。俺はお姫さんと約束があるんだ、早く帰らないとまた拗ねられちまうからとっとと行って帰るぞ」


「はいはい」


 そう言ってソウマとシルヴィアは軍議室を出ていく、その様子はとても今から戦いの場へ出ていく者の出す雰囲気ではないがそれもさもありなんとラルクは部屋を出ていく二人の背中を見ていた。


「それでラルクよ、相手の狙いは読めておるのか?」


 二人が完全にいなくなったのを確認した後、アウロはラルクにそう問いかける。


「はい、大方の予想はついております。ただまだ確証が取れず完全とはいえませんが」


「そうか、ではこの件はお前に全て任せる。あの二人にはいつ伝える?」


「今日のことが片付いたら僕から伝えておきます。さっきも二人は僕がまだなにか言っていないのを察していたらしいですがあえて聞かなかったようですしね」


「まあ恐らくお主が話さないということはまだ確信がないからあえて聞かなかったのではないかな?」


「恐らくそうでしょう。まあ相手がどんな策を練ろうがソウマがいれば大抵はなんとかしてしまうでしょうがね。ほんと彼はとことん敵にとっても味方にとっても軍師泣かせですよ」


「しかしお主はソウマが居ってもけして作戦や軍の配備に油断をせん、そんなお主だからこそソウマも安心して前線に赴けるし、儂も軍を任せることができる」


「身に余る光栄です、王よ」


 その場で静かに傅くラルク。その姿をアウロは成長する息子を見るように頼もしい戦友を見るように見下ろしていた。


※※※※


 ソウマとシルヴィアはその後特に準備することもなく国境付近の所属不明部隊の元に向かっている。今二人は全身が漆黒の空飛ぶ獣に乗っている。頭が獅子、胴体が虎の体色をして足は四本とも違う動物で尻尾からは蛇が生え背中の羽は蝙蝠のような羽である。

 現在二人はその獣の背中にソウマが前に跨りシルヴィアがその腰につかまっている格好で乗っている。


「ひゅー、相変わらず結構速度がでるなーこいつ。名前なんて言ったっけ?」


「窮奇よ。別の所ではキメラとも呼ばれてるけど私は窮奇のキューちゃんって呼んでるは」


「キューちゃんね・・・・」


 キューちゃんと呼ばれた空飛ぶ獣は久々に主に呼ばれて嬉しいのか一瞬グルッと鳴いた後さらに力強く飛び始める。


「お姫さまもお気に入りよ」


「お姫さんが?」


「ええ、随分前にお姫さまに見せてあげたら可愛いって言ってたわ」


「あのお姫さんも度胸はあるよなぁ。さすがあのおっさんの娘だぜ」


「まあ貴方のお嫁さんを自称するくらいだしそれ位じゃないと」


「あれ位の年齢はそう言う時期もあるさ、もう少しすればそんなことも言わなくなるって」


「そうかしら?あの子意外と聡明で早熟だから結構本気だと思うけど?」


「そうか~?」


「そうよ、それに分かるのよ。同じ男に惚れた女としては、ね」


 そう言うとシルヴィアはソウマの腰に回した手を一層強くしソウマの背中にその豊満な塊を押し付ける。


「シルヴィアさん、当たってるんですが?」


「当ててんのよ」


 シルヴィアはそう言ってさらに強く胸を押し付ける。


「シルヴィアさんや、そういうのは今やめていただけませんか?」


「そうね、あんまりやるとお姫さまに嫌われちゃうものね」


「はあ、おっどうやら着いたぞ。あれだろ」


 前方を見れば国境を超えた地点からこちらに向かって進軍してくる一団が見えた。


「ああ、確かにそうね。思ったよりも数が多いはね。歩兵に騎兵に・・・・あらまあワイバーンまでいるじゃない。それにもう国境超えちゃってるじゃない」


「おっホントだ。それにワイバーン?そんなもん使役できる国なんかこの辺にあったか?」


「どうかしらね?それは直接聞いた方が早いんじゃない?」


「それもそうだな」


 そう言うと二人は窮奇をまっすぐ進軍中の部隊の正面に向けて飛ばす。そして部隊の正面の十数メートル手前で窮奇を止めるとまるで階段を降りるように気軽に上空から飛び降りた。そして何事も無いかのように着地する。


「おーい止まれー」


 そしてまるで知り合いに声を掛けるように気軽に前方の所属不明の部隊に声を掛ける。


「!」


 それが聞こえたのかそれともソウマの姿が見えたからなのか指揮官らしき男が片手を挙げて部隊を止める。


「貴様は!?」


「おいおい人様の国にいきなり侵入しておいて貴様も何もないもんだ。あんた達こそなんのようだ?この国に用があるなら正式に使者を出すなりなんなりして来るもんじゃないのかい?」


「そうね、仮に侵略が目的でも宣戦布告もないまま問答無用で来るなんて礼儀がなんじゃない?」


 ソウマとシルヴィアがそう聞き返せば指揮官の男はフッと笑った。


「何が可笑しい?」


「宣戦布告も何も無い。そんなもの蹂躙すれば同じことそれにこの国を落とせば周辺に文句の言える国は存在せんは、しかも貴様ら何者かは知らんがたった二人で我々を止める気か?」


 どうやら指揮官の男はソウマ達が二人であることに対して完全に侮っているようだ。しかも指揮官の男の視線はシルヴィアの体を上から下まで舐めるように見ている。見れば指揮官以外にも何人かの男がシルヴィアに同様の目を向けている。


「我々の部隊は全員貴様の国の英雄様対策に全員が強化魔法と魔法の装備を身に着けている。数こそ千にも満たんがこの国は落とせずとも男一人殺すくらいは分けないぞ。奴さえ殺せばこの国は落ちたも同然だ」


 どうやらこの指揮官あまり頭は良くないようである。此方が聞き出す前に勝手に目的を喋ってくれた。しかもこの男俺の顔を知らないらしい。


「へえーお前らの目的って俺だったの?」


「!貴様まさか」


「ピンポーン俺がお前達の目的の男だよ。標的の顔位知っとけよ」


「これは手間が省けた。この国に領土を適当に荒らし貴様を誘き出すつもりだったが貴様の方から来てくれるとはな」


「またはた迷惑なことを考えていたのねぇ。私達が真っ先に来たのは正解だったみたいね」


「ああ、どうやら問答無用で迎撃対象だったようだ。じゃあシルヴィア最初の予定通り一人は捕虜にするから捕まえよう」


「わかったわ、捕虜はあの指揮官らしい男でいいんじゃないかしら?」


「ああ、それでいいだろう。あんまり頭は良くなさそうだが一応指揮官らしいからなんか知ってんだろ」


「じゃあそれ以外は?食べていいの?・・・・・・・


「向かってくる奴だけな。逃げる奴や戦意の無い奴はなるべく捕まえろ」


「了解」


「てことで、おーいお前ら降伏は自由だ。俺達は戦意の無い奴や抵抗しないものは殺さないと約束するからそういう時は早めに言えよー」


 そのソウマの完全に自分達を気遣う発言に一気に部隊全体から殺気が立ち上る。


「ありゃりゃ?なんか逆効果っぽい?」


「まああんな言われ方すれば大抵の人は怒るんじゃない?」


 すると先ほどの指揮官らしき男が怒気も露わに震えながらこちらを睨んでいる。


「貴様等状況が分かっているのか?勝てると思っているのか?いくら貴様が強いと言ってもこれだけの強化された兵が相手では勝ち目はあるまい」


 しかしそう言われてもソウマとシルヴィアの顔には恐怖も焦りも微塵も表れていない。


「さてね、それはやってみなくちゃわからないだろ?」


「そうね、結果はやってみないと誰にも分らないものね?」


 「ねー」っとふたりで顔を見合わせる様は完全に相手を脅威とみなしていないことを示していた。


「いいだろう、どちらにしろ我々のやることは変わらん。貴様を殺しさえすれば我々の目的は達せられる。そちらの女は生かして捕らえて部隊全員で慰みものにしてやろう」


 すると指揮官の男は今度は怒りの表情から先ほどの粘つくような視線を再びシルヴィアに向ける。


「お生憎さま。私の肌に触れていい男はこの世でただの一人よ。貴方如きが私を抱こうだんて考えただけで鳥肌ものね」


 シルヴィアの両手で自分の体を抱くようにしながら嫌悪を表して指揮官の男を睨む。そのシルヴィアの言葉に再び指揮官の男の顔が怒り顔に戻る。忙しい男である。


「いいだろう、口で言ってもわからんらしい。ならば貴様等の体に直接教えてやるまでだ」


 指揮官の男が片手を挙げてその手を前方のソウマ達に向けると部隊全体が戦闘態勢でソウマ達に進軍を開始した。


「はあ、結局こうなるのか。しょうがないやるか。シルヴィア一応言っとくが油断はするなよ後危なくなったらすぐに退けよ?」


「相変わらず心配性ね貴方は。でも、ふふふふ」


「なんだよ?」


「いえ、やっぱり好きな男から心配されるのも悪くないね。私をそんな風に気遣ってくれる人なんて貴方とお姫様位だもの」


「そりゃ、心配もするさ。仲間なんだからな」


「ただの仲間なの?」


「・・・・・・・」


「うふふふふ、これ以上の追及は今はやめておきましょうか」


 敵が眼前に迫っているというのに二人の間にはまるで緊張も焦りも感じられない。むしろ最初の散歩に行くかのような雰囲気がより一層強くなった感すらある。


ドドドドドドドォォォォ


 砂塵を巻き上げながら部隊が迫る。


「さてやるか」


「そうね」


 二人はここにきてようやく戦闘態勢をとる。


 こいして戦端はその国の国民の一部以外が誰も知らぬまま開かれた。迎え撃つは世界最強の男とそのパートナー。一見絶望的なこの戦い。本来ならば結果は火を見るよりも明らかだろう。しかし・・・・・


「ははははははははっ」


 戦意に滾る世界最強はそんな常識など知らぬというように迷わず駆けだした。



 


連続で投稿します。

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[一言] わかったは この「は」って助詞とかの「わ」と読む「は」ではなく、語尾の「わ」では? キャラ付けならわかるんですが。
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