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ナルカミ様が呼んだから ――僕、異世界で女神見習い始めました――  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
第1章 青の邂逅

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07 追手の牙

 この深い森から脱出すべく、もうどのくらい歩いただろうか。本当に出るために歩いているのだろうか。それすら心配になってくる。足はあちこち擦りむいてヒリヒリと痛い。彼女は何も語ってくれないし、ずんずん進んでいく。道に迷っている風はない。

「そういえば、大丈夫?」

「何」

 振り返らずに彼女は応答する。

 もしかしたら警戒されているのかもしれなかった。

 うーん、僕はこの短期間にどれだけ女子に嫌われればいいんだろうか。不可抗力なのに。

「いやほら、今もだけど……ケガとか大丈夫?」

 そう。

 狼に乗っての強行軍のときも、彼女は僕の前にいた。だから木の枝なんかでケガをしたっておかしくない。

 マントは羽織っていても鎧の類は装着していないし、頭は丸出しだ。そういう僕はボロ布みたいな服なので、防御力で比べれば彼女のほうが高いにしても、だ。

 それでも彼女は女の子だ。僕みたいな半端モノじゃなく、中身まで正真正銘の女の子なのだ。見た感じ、怪我をしているようにはないけれど。

「大丈夫。皮膚強いから」

 藪をかき分け、僕が通りやすいようにしながら彼女は進む。

「皮膚、ねぇ……」

 人造人間ホムンクルスだと彼女は言った。

 それなら人間と作りが違うのだろうか。触った感じでは大して違いは感じられなかったけど。

 触るといえばそう、僕は自分の体も触ってみた。変な気持ちからではなくて、何だか実感がなかったからだ。僕が僕であるという実感が薄い。代わりに、夢じゃないかという浮遊感。そしてある種の喪失感――

 これは精神的な、ということを付け加えておこう。決して身体的な話ではない(それもあるけども。上下でプラマイゼロだ)。

「追っ手は来ないみたいだな」

 小さな背中に向かって僕は話しかける。

「ヨーヨーのおかげ」

「そっか。ヨーヨーは君の……友だち?」

 ペットというにはちょっと憚られる存在感だった。

「違う。使い魔」

「使い魔――そっか、そう言ってたっけ。っていうか使い魔って何?」

 彼女はぴたりと足を止めて振り向く。

「あなたは、本当に何も知らない?」

 僕は正直に告白する。

「そうなんだよ。その……信じてもらえるかは分からないんだけど、僕はたぶん別の世界の人間で。そもそも男だし。気がついたらこんな体であんなとこにいて……だからさ、君が言うシンカクとかじゃないと思うんだよ。名前を付けてやるとか、色々偉そうに言っといて悪いんだけど……」

 告白したものの、「じゃあ」と置いて行かれたら僕の未来はお先真っ暗になってしまう。しかし彼女は、

「シンカクはシンカク。間違いない」

 と言い切った。

「光を追って来たから間違いない。あなたはシンカク。そういう――違うところから来るシンカクもいるって、所長が言っていた」

 珍しく長めに話してくれたが、相変わらず要領を得ない。

「所長? その人が僕のことを……シンカクだって言ったのか?」

「違う。所長はもう用済み」

「よ、用済み?」

 えらく物騒なワードが出て、ちょっと身構える。

「違った。ええっと、もう所長の家から出て来たから……うーん……」

 なるほど、無愛想というよりは口下手というか。説明下手なのかな、この子は。

「『所長』の家に住んでた?」

「そう! 住んでた。で、出た」

「家を?」

「家を」

 お、少しずつ会話のコツが掴めてきたぞ。

「じゃあ君は、もう所長の家にはいない。だから所長に教えてもらったわけじゃないと」

「そう。空の光を見た」

「空の光?」

「あなたが落ちてくる光」

 僕が落ちてくる光。この世界に落ちる光。

「流れ星みたいな?」

「そう、流れ星みたいな。明るいやつ」

 彼女はこくこくと首を振る。心なしか、話が通じて嬉しそうにも見える。

 猫が懐いてきたみたいで可愛い。

 喉のあたりをうりうりしたい。

 うりうり。

「つまりその光を追いかけてあそこに、か。でも何で僕を――シンカクを? いや、それも言ってたか。従者に、人間になるため? ちょっとそこのところがよく理解出来なかったんだけど……」

 彼女は少し考えるような素振りを見せた。そして、

「そう。私は、『早く人間になりた~い』系の人造人間ホムンクルス

 ……考えた結果がそんなコメントかよ。

 妖怪人間みたいに言うな。

 こっちでも放送してたのか? ドラマや映画。もしかしてアニメも。

「ベム! ベラ!」

「………………?」

 きょとんとしている。さすがに通じないか。

 ベロって言えよ、ベロって。

「シンカクと――神様と契りを結ぶと人間になれる」

「契り? 契約みたいな?」

「そう。神の従者になれる」

「手下みたいな?」

「従者は従者」

 うーん、やっぱりよく分かんねぇや。

 でも、僕とその『契約』とやらをしたくて、助けてくれたってことなのだろうか。

 ちょっとムフフな響きがあるな、契りとか言われると。

「その契りってどういう――」

 言いかける僕を、彼女が押し倒す。

「――うわっち!」

 覆いかぶさるように茂みに背中から落とされて、耳元で小枝がバキバキと折れる音がする。

「何すん――」

「逃げて!」

 彼女は叫び、立ち上がり、剣を抜く。

 刃を向けるその先には――大蛇。さっき僕が立っていた辺りで大蛇が大きな口を開け、牙を覗かせていた。

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