表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/32

04 選択肢

 そんな苦くて酸っぱい青春の一ページが、気付けばこれである。僕の身に何があった。

 踊る小男。邪神の像に、飛び交う翼竜。そして――逆さ吊りのアトラクション。

 こんな野蛮なアトラクションあったっけ? あったとしても、客をこんな形で吊んなって話だ。バンジージャンプはすぐに開放されるから楽しめるんだ。

 エンドレスで吊るな。

 こんなアトラクション、誰が喜ぶよ。いたとしても特殊な性癖だよ? そいつ。色んな意味で危険過ぎる。すぐにエバキュエーションだよ。

 ――まあともかく。このままだと命の危機かもしれない。

 小男たちがどうこうという前に、取りあえず切実な問題として、この逆さぶら下がり健康法の効能というか、悪影響というか、頭に血が登ってきてツラい。

 なんかこう、鼻から上がむくんで、脳みそが重くなった気分だ。


 やばい。僕の未来はきっと三択。

 その1。あの小男たちにざっくりやられて、あの炎でこんがり焼かれる。

 その2。翼竜たちにパクパクされちゃう。

 その3。放置。あったまボーン。


 である。

 うわーロクな未来ねぇなー。

 前途ある若者の未来を狭めてんじゃねえよ社会。

 っていうか異世界。


 そんな不幸で孤独な僕だったけれど、一度だけ三つ目の小男が近づいてきて、

「ボボゼボ、ゼバ、ドゥゼノ、ラッべ」

 なんて面白いことを言って、僕の気を紛らわせようとしてくれた。 

 ――いや、本当は何を言っているか分からないんだけどね。

 あのさ、神様、異世界に人を送り込むときはさ、

『あれあれ、おかしいぞ? なんで言葉が通じるんだろう?』

 みたいなオプションくらい、サービスで付けて欲しいよ。

 仮に生き残れても僕、死ぬ気であんな濁点の多い言葉を覚えなきゃいけないんだろうか。ツラすぎる。

 けれどひとつだけ、本当に嬉しいニュースがあって、出来れば飛び上がって喜びたいんだけど、この逆さ吊りの状況だとどう逆立ちしても無理なので(ややこしい)、とりあえず報告だけしておきたい。

 まず、僕の服装だが、いつの間にか着替えさせられていた。意識を失っている間に取り替えられたのだろう。しかし、ずた袋みたいなボロ布が辛うじて大事な部分を隠してくれている状態で、どうにも落ち着かない。そして、ダブルデートのために揃えたお気に入りの一着がどこに行ってしまったのか、気にはなる。

 ただ、重要なのはそこではない。服ではなくて中身の問題だ。

 僕の胸が重くなっていて、下半身が軽くなっている。

 これから先、パスポートを作ることがあれば「M」じゃなく「F」と印字してもらうことになるし、もし小学生に若返ったりしたら、保健の授業を特別メニューで受けることになる。

 ちなみに、頭が重いのは長い金色の髪が重力に従って僕の頭部を引っ張っているせいでもあった。僕は黒髪のくせっ毛だったはず。短くはないけれど、ここまで長くもなかった。

 そして全体的に肌は白く、体のラインは丸みを帯びている。

 ――簡単に言おう、女子だ。女体になってしまっている。

「せめて! せめてこの手の縄を解けーー!」

 この状況になって僕が唯一、発した言葉だ。

 魂の叫びだ。ソウル・シャウトだ。

 この手さえ自由になっていたならば、僕はそれだけで生きてきた意味を確かめられたのに。両手で触って実感できたというのに。もちろん言葉は通じないので、小男たちには無視された。

 そして誰に通じることもないその魂の叫びが、僕の遺言になった…………。


 と、いうことはなく。

 まだなんとか生きてます。

 やっほー。

 ちなみに、あのモテそうにない小男たちをこのナイスバディでたぶらかそうかとも考えた。しかし、僕の初めてをあんな歯並びの悪い半裸の男に捧げたくはなかった。

 愛の囁きもきっと聞き取れないし。ムードなさすぎってもんだ。しかも童貞の前に処女(だよね?)を捨てるとか、なかなかのハードモードな人生だ。

 なので、とにかく状況が変わるまで大人しくしていようというのが僕の判断だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ