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ナルカミ様が呼んだから ――僕、異世界で女神見習い始めました――  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
終章

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エピローグ

 夏休みに入ったある日、僕らは最寄りの駅で待ち合わせをしていた。

 これはあのダブルデートのやり直しだ。

 そしてちなみにこの駅は、僕があの日、『やっちゃった』場所だ。

 僕の隣には雪代さん。雪代姫花さんが立っている。あとは塔也とリンちゃんが揃えば全員だ。あのお似合いのカップルがやって来れば――僕らは完璧だ。


 あの後。

 僕の魔眼はこちらでは発動出来なかったので、皆してもう一度〈神柱の世界〉へと渡った。コツを掴んだのか、それともゼパルとやり合う中で魔力が増したのか、猿江さんの『補助』なしで異世界渡航は成功した。

 ちなみに、雪代さんの魔力は僕の何倍もあるらしく(ちょっとショックだ)、だから異世界渡航も独力で可能だったし、猿江さん曰く、ゼパルの妨害さえなければ記憶を書き換えるのも四、五人は楽勝らしい。


 あちらに行ってまず最初に、僕と雪代さんはお互いの姿に驚いた。知ってはいたけれど、実際に目で見るのはだいぶ違う。僕はナイスバディの金髪おねーさんだし、雪代さん――ネクロアは、ゼパルにも引けをとらないイケメンだった。

 そして、これは口には出さなかったけれど、どこか塔也に似ていた。


 僕らは、中央魔塔セントラルにある猿江さんの工房に場所を移した。

 彼女はここで、魔術の研究に精を出している(半分くらいは従者としての仕事で留守にしている)そうだ。

 そこでゼパルを僕の〈魅了〉で操り、細工していた契約内容を元に戻させた。何かを口の中でブツブツ唱えるだけで、その儀式はあっけなく終った。

 ともあれ、これによって雪代さんは本来の魔力を取り戻して、塔也とリンちゃんの記憶を上書きすることに成功した――らしい。『念じるだけ』という、その能力の発動はあまりにもあっけなさ過ぎて、僕には上手くいったのかどうか分からなかったけれど、そこは猿江さんのお墨付きを信じた。

 ちなみにゼパルの今回の所業は倫理的には許されないことであっても、あちらとこちら、どちらの世界の法律でも裁けるような事件ではなかったので、彼の取り扱いは猿江さんに一任した。

「もう悪さしようなんて思えないように懲らしめてやるから。私の手でしっかりと、じっくりと、念入りに、たっっぷりと時間を掛けて更正させてやるから……命があれば、の話だけどね」

 後段は聞こえなかったことにした。猿江さんの眼が怖かった。七百歳の言うたっぷりって、どれくらい長いんだろうか。

 ともかく、そんな風な手続きを終えて、僕たちはこちらの世界へと戻って来た。


 戻って来て、確かめてみた。

 結果は成功。

 ダブルデート時の記憶に、ここ数日の当たり障りない記憶を付け足した状態で、塔也とリンちゃんは元鞘に納まっていた。

 そうして僕らは、ひと通りの後始末を終えたのだった。


 今では僕と雪代さんは、両方の世界での生活を掛け持ちしている。僕は青とバイト生活、雪代さんは改めて従者探し。

 たまに時間感覚がおかしくなったりもするけれど、基本的には順調だ。


 ――さて。

 そして今日である。

 ダブルデートのやり直し。

 塔也には、僕が前回倒れたお詫び、という名目で提案したところ、

「もう倒れるなよ。ん? もちろんオッケーに決まってるだろ」

 と、快く了承してくれた。

 まだ僕と雪代さんが抱える一種の後ろめたさは消えないし、今日が成功したところでそれは変わらないだろう。

 でも少しは、僕らの気持ちだって変わるはずだ。小さな一歩ずつを重ねて、僕らは友達になろう。そして大人になろう。そんなことを、雪代さんと何回も話した。

 

 駅前。まだ八時だというのに、既に夏の日差しは強い。けれども、珍しくからっとした暑さだった。雲ひとつない抜けるような七月の青空。まるでこれから、胸躍る冒険が僕らを待っていそうな――そんな朝だった。

 しかし僕の右横で雪代さんは、どこか緊張した面持ちで通りのほうを見ている。

 そう、彼女が塔也と会うのはこれが久しぶりなのだ。

 公園で僕らが対峙した日に、雪代さんは塔也と会う約束をしていた。しかしもちろんその約束は叶うことなく。だから約一ヶ月ぶりの再会ということになる。

 僕は硬い表情の彼女に話しかける。

「そんな緊張するなって。いい挨拶のやり方教えてあげるからさ。ほら、まず足を肩幅に開いて。左手は腰に、右手は目のところでピースを作って……横ピースな。ウインクしながら『よろしくハピネス!』って言うんだよ」

「……成馬くん、あれは本気で引いたからね」

 雪代さんはようやく笑った。

「やっぱり? あの時の僕はどうかしてたんだよ。でも今の雪代さん、たぶん同じくらい緊張してるんじゃないかな。リラックス、リラックス」

「ふふ、ありがとう」

 雪代さんは真顔になって、

「……成馬くん。本当に、いつもありがとう」

「何だよ。なんか距離を感じるな、改まっちゃって」

 前回とは違う距離感だけどもね。

「なあ、この前って、やっぱりずっと僕のこと警戒してた?」

「最初はね……でもそうじゃなくて。やっぱり塔也くんのことで、鈴に対して勝手に嫉妬して……落ち込んでたんだと思う」

 雪代さんはあけすけにそう言った。

 そう、言えるようになった。

「それにね。成馬くんのこと、ちゃんと覚えてたんだよ? でも成馬くんは『はじめまして』――みたいに言うから、ちょっと戸惑っちゃって」

「え? そうなの?」

「うん……えっと、その。塔也くんと成馬くん、いつも一緒にいたから……」

「ああ、そういうことね。うーん、喜んでいいんだか悲しんでいいんだか。……いや、悲しいよな、その覚えられ方。んー、でも忘れられてるよりいいかな。……どっちだ?」

 僕らは笑い合った。こんなやり取りも僕は楽しかった。

 勝手に高嶺の花だとか、僕のこと覚えてないなんて決めつけて、雪代さんと距離を取っていたのは僕かもしれない。

 雪代さんにだって駄目なところはあるし、僕にはそれ以上にたくさんある。そしてそれでいいと思った。僕らは傷つけ合いながら、笑い合えるようになったのだから。


 バスが来た。

 停車してドアが開くと、塔也とリンちゃんが仲良く揃って降りてきた。

 二人は、よく似た笑顔で駆けて来た。

「ごめんごめん! みんな早いな」

「あったりまえだろ。僕は徹夜でここにいるんだ」

「……またぶっ倒れるぞ?」

「はは、ホントは徹夜しようと思ったけど穂香に止められたんだ。塔也によろしくだってさ」

 早く別れてねダーリン――という伝言は伏せておいた。

 伝えてたまるかストーカーめ。悪魔かあいつは。お土産で我慢しろ。

 リンちゃんは満面の笑顔で、

「姫花おはよう! 今日は成馬くんに変なことされなかった?」

「うん。ギリギリ大丈夫だったよ」

「ギリギリって何だ。聞き流さないからな」

 わざとむくれる僕。

 それを見た雪代さんは笑って、そして塔也に向き直った。

「塔也くんも久しぶり。元気?」

「おう元気だよ。雪代さんも元気そうだね」

「元気だよ。うん……」

 彼女は言葉に詰まったかと思うと、


「今日は……よろしくハピネス!」


 ――ウインクをしてみせた。

 キラリン、という効果音が鳴った。絶対に鳴った。マジで聞こえた。

 僕なんか及びもつかない、可愛らしい仕草だった。

 皆はどっと笑った。

 雪代さんも笑った。


 五人とも、笑顔になった。


「あ、ごめん――」

 塔也が視線を僕の左隣へと移す。

「あいさつが遅くなっちゃって。えっと――成馬のいとこだっけ?」

 塔也は、僕の横でちょこんと立つ少女に笑ってみせる。

 彼女は白いワンピースに身を包んでいた。今日のために僕と一緒に選んだ、お気に入りの一着だ。彼女にとってこっちの繁華街は随分と刺激的だったようで、走り回る彼女に付いて行くのが大変だった。

 肩から掛けているピンクのポーチには、可愛らしい犬のマスコットをぶら下げている。ヨーヨーに似ている、とゲームセンターではしゃぐもんだから、クレーンゲームで僕が取ってやったキーホルダーだ。


 そんな彼女は堂々と。

 足は肩幅、手は腰に。

 右目のあたりでピースサイン。


「そう、青。よろしく」


 感情いっぱいな無表情でそう言った。

 僕らにとって今日はあの日のやり直しで、彼女にとっては友達と行く初めての遊園地だ。

 思いきり楽しんでもらおうじゃないか。

 僕も楽しもう。


 青、君は今、幸せかい。

最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。


別作品としてあとがきと登場人物の裏話を書いていますので(シリーズものとして紐付けしています)、もしご興味のある方はどうぞご笑覧ください。

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