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ナルカミ様が呼んだから ――僕、異世界で女神見習い始めました――  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
第4章 黒泥を割く稲妻

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05 それは悪魔

 ゼパルの魔法が、僕をぎりぎりと締め付ける。

「ゼパル……さん、あなたは、全部知って……」

 首を締め付けられる苦しみに耐えながら、彼の薄ら笑いに向けて問う。

「ええ。ただ、あの時のシンカクが私の主人と同じ世界の住人とは驚きました。しかも顔見知り……いやはや、世間は、いや。世界は狭いものですね。ふふ、アドバイスなどするのではなかった」

 口ではそう言っているが、ゼパルの口調はどこか楽しげだった。可笑しくて仕方がない……そんな風に聞こえる。

 彼の端正な顔は今、醜く歪んでいた。

「ネクロア様。お下がりください。この狼藉者は私が処分いたしましょう。秘密を知られた以上、生かしておいて利はありません」

 ゼパルは雪代さんの前に歩み出る。

「だ、駄目……殺すなんてそんな……私がもう一度成馬くんの記憶を書き換えれば……」

「無理ですよ」

 冷めた声でゼパルは言う。

「今のあなたが記憶を改竄出来るのは一人まで。そのように『なっている』のですよ。その一人も記憶の齟齬に苦しむことになるでしょうが……。まあ、あなたにとっては些事です」

「じゃあ鈴は、鈴の記憶は……」

「あの憐れな少女ですか。ええ、元のままでしょう。きっと何一つ変わることなく。恋人を友人に奪われ、恋人の記憶は書き換えられ、もちろん原因すら分からず」

 ゼパルは口の端を歪める。

「知らずにいるのは不幸中の幸いでしょうかね? あの善良な少女は、あなたのせいだと知ったら――果たしてどうなってしまうことやら」

 雪代さんは支えを失ったかのように、その場に座り込む。

「そんな…………そんなの……鈴、そんな……」

 これじゃまるでゼパルが雪代さんを、従者がシンカクを追い詰めてるみたいじゃないか。何のために。もしかしてこの状況は、ゼパルが描いたものなのか?

「ふふ、ネクロア様、あなたが望んだのはあの少年を手に入れることでしょう? それならばもう充分、その他の人間など、どうなっても構わないでしょうに……」

「いや……違う……私は…………」

「もう……やめろ……!」

 やっとの思いで声を絞り出した僕に、ゼパルは蔑むような視線を投げかけてくる。

「死に急ぎますか? 〈魅了〉のシンカク……あなたを裏切ったこの娘のために? 随分と物好きですね」

 ゼパルは鼻を鳴らす。

「彼女にはただ、裏切りの代償を払わせているだけなのですよ。それが人の道というものでしょう? あなたがすべき報復を、代わりにして差し上げていると言ってもいい」

「ふ、ざけんな……んなこと頼んでねぇよ……!」

「はは、汚い声だ。あちらではあんなにも美しかったというのに。――聞くに耐えない」

 僕を指さして唱える。

「〈囲いて結ぶ赤の条理〉――」

 足元から無数の赤い帯が這い上がってくる。

「う……ぐ、が」

 僕の身体中を締め付ける。ミシミシ――と骨が鳴る。

「やめて――成馬くんを……」

「あなたに友人を想う資格などない」

 ゼパルはなおも冷酷に言い放つ。

「〈改竄〉の能力を己がために使い、人心を惑わせ、自ら信頼を踏みにじったあなたにはね」

「……いや、いや……」

「あなたは実によく動いてくれました。私の言うとおりにね」

 魔術師は、雪代さんの髪を掴むと無理矢理に顔を上げさせる。

「醜い横恋慕! 心の脆い部分をさらけ出し、私に縋ってくれました。友人の記憶を蹂躙し、利己のためだけに動いた。素晴らしい! 実に素晴らしいシンカクです。さあ、もう充分でしょう? その力を放棄し、私に譲渡なさい! 小娘にはあまるその力を!」

 ゼパルは雪代さんの頭を小突くと、

「――きゃ」

 という小さい悲鳴が漏れた。

「あなたはただ『力』であればいい。そう。使うのは私だ。そして現存する魔術師の頂点に、私は立つ」

 ゼパルは僕に向き直り、

「……ああ、そうだ。念のため」

 まるでタクトのように右手を軽やかに振ると、赤い帯が僕の頭部にも巻きつき、両目を塞ぐ。

「ふふ、使いこなせていないとはいえ、〈魅了〉は防いでおかないといけませんね。はは、私としたことが。まあ今のあなたの魔力ではその魔眼は発動しないでしょう。とはいえ、秘めた魔力はやはりシンカク……ふふ、どうやって絞り尽くして差し上げましょうかねえ……?」

 ゼパルが笑うと、僕を締め付ける力が更に強くなる。

「が……あ、あ……!」

 彼の哄笑に合わせて、締め付ける力が強まる。

 ――こいつを許しちゃ駄目だ。

 こいつは僕の大事なものを壊した。そして今また壊そうとしている。

 助けなきゃ、雪代さんを。助けて――

 僕の意識が遠のく……。

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