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ナルカミ様が呼んだから ――僕、異世界で女神見習い始めました――  作者: タイフーンの目@『劣等貴族|ツンデレ寝取り|魔法女学園』発売中!
第3章 流星にかけた願い

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06 二人の時間

 意外と――と言ったら失礼になるかもしれないが、青の部屋はシンプルながらも生活感と清潔感がある、落ち着いた部屋だった。

 部屋のドアを開けるといきなりキッチンがあって、取りあえずパンの耳が入った袋をそこに置いた。右手にはお風呂とトイレ。左手にはリビングダイニング、その奥にベッドルームがあるらしい。青曰く、

「狭くて安い部屋」

 だそうだが、僕は一人暮らしの経験がないなりに、充分な広さのように思えた。まあ僕の感覚はともかく、あの中央魔塔セントラルと比べれば狭い、ということもあるのかもしれない。

 リビングには観葉植物が置いてあったり、出窓には出窓には犬や猫の置物が飾られていたりと、塔の中の、ある種外界から隔絶された雰囲気とは明らかに別物だ。同じ白壁でも、この部屋からは何となく暖かみを感じる。石かレンガの塗り壁のようで、プラスチックのような触感ではない。

「人間になりたい」と言った彼女の、これは努力の跡なのかもしれない――そんな勝手な想像をしながら部屋中を眺めていると、

「ナル、座ってて。うっとうしい」

 と青に注意された。

「うっとうしいって……段々僕に辛辣になってきてないか。いいんだけどさ。親しき仲にも礼儀ありって言うんだぜ、僕らの世界じゃ」

「じゃあ、ナルもジロジロ見ない」

「あ……それは、うん。ごめん」

 女の子の部屋を隅々まで見学しようなんてのは、礼儀を欠いているんだろう。

 普通に叱られちゃったよ。

 でもこれは、初めての女子部屋に興奮している僕に免じて許して欲しい。甘い匂い……はしないものの、二人っきりで青の部屋にいるというこの状況に甘い、雰囲気を感じてしまう。

 

 じゃあ、と言って僕は、リビングにあったダイニングチェアに腰を下ろし、窓からの景色に目をやる。石やレンガの壁をした三角屋根の建物、自動車の騒音などない閑静な住宅街だ。見慣れない景色なのに何だか落ち着く。

 ソファやテレビといった類の家具はない。そもそもテレビなんてあるんだろうか。塔の中ならありそうなものだけど、こういう一般家庭にはどうなんだろうか。

 そう思って訊ねると、

「テレビ? 映像……、そういうのはない」

 らしい。

 もちろんスマホなんてものもないし、漫画もない。寝室から戻って来た青に、興味本位で質問を重ねる。

「普段はどうやって過ごしてるんだ、青は」

「お仕事。バイト」

「ああ、メイドって言ってたな。偉い……っていうか当たり前なのか。一人暮らしなんだもんな」

「大変。だけど楽しい」

 勤労少女だ……。小遣い生活の僕は頭が上がりそうにない。

「ナル、私ご飯作る。待ってて」

「ん、おう。何か手伝おうか?」

 なんて。料理は出来ないけど一応申し出てみる。

「いらない。邪魔」

「……だからさ、もう少しソフトな言い方を……」

「援護不要。待機要請」

「ソフトじゃねえし。むしろ堅苦しいよ? 簡潔だけどもさ」

 しかも漢字ばかり、である。更に青は、殊更平坦な口調で、

「折角のお申し出を断らねばならないこと、誠に残念でございます。我々としましても、キッチンのスペースをより確保できるよう善処して参る所存です。また今後、同様の案件があった場合には前向きに検討させて頂きます」

「ソフトっつーか玉虫色だね。政治家か? 役人か? 絶対改善されないし、前向きに検討されないやつだよな」

 とかなんとか言い合いながら、キッチンに消えていく青の背中を見送った。


 時間が出来たので、今置かれている状況をもう一度整理してみた。

 所長から聞かされたシンカクとしての僕の役割――役割と言うべきかは分からないけれど――この世界での僕の立場は軽いものではないことは、何となく分かった。神の核となる存在。神を目指す候補生。悪魔のように魔法を超える力を持ち、異世界すら渡り歩く。町や国を滅ぼしかねない脅威。

 悪魔のようでもあり、魔王にもなり得る――人外。

 所長の言葉だけでは実感の持ちようはなかったけれど、あの中央魔塔セントラルの存在感や、青が見せた物理法則を超える力、そしてゼパルさんの使った魔法……そういった間接的なあれこれが、僕の周囲をパズルピースのように埋めていく感覚はある。

 なすべきことは何なのか。従者を増やし神に取って代わること。

 マジで僕が? というのが正直な反応だけれど。

 青との時間は、新しい発見も多くて楽しいし、意外と常識人(常識コヨーテ)っぽいヨーヨーとだって、もっと話してみたい。この世界をもっと見てみたい気もする。

 ――やるべき事とやりたい事はこちらにもある。


 けれど、やはり僕の中での最優先事項は塔也とリンちゃんの事だ。

 猿江さんが、そしてゼパルさんが言っていたように、『欠けているもの、不十分なもの』を探し当て、『引き金』を自在に扱えるようになれば、異世界渡航がスムーズに出来るかもしれない。それを見つけるのが先決か?

「結局、何にも分かってないんだよなあ……」

 と、ひとりこぼす。

 そういえば、異世界渡航において、時間や場所はランダムなのだろうか。もし自らの意思で選べるのであれば、最善の選択はダブルデートのあの日だろう。何かが起こったのはあの日以降のはずだ。

 しかし、過去に向かうことは出来るんだろうか。これまでの異世界渡航は、ズレこそあるものの、時間に順行する方向でワープしている。時間を遡ることは出来るのか……。

 こればっかりは試してみないと分からないか。

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