01 逆転風景
さて、今の僕は逆さ吊りである。
この角度だとよく見えないけれど、足首は縛られて、木の櫓に吊るされているようだ。それに手首も縛られている。頭の上で(逆さなので下で、かな)手のひらを合わせた状態でギッチギチに固定されていて、動かすことができない。
痛い。普通に痛い。勘弁して欲しい。
けれど僕を拘束するのはそれだけだ。口や鼻、耳、そして目が塞がれていないだけ、まだマシなのかもしれない。
だから僕は見る――視界に広がった逆さの風景を眺める。
赤い土の上で大きな炎が燃え盛っていて、夜の闇を煌々と照らす。炎の周りでは、褐色の小男たちが半裸の腰蓑姿で、何やら嬉しそうに踊っている。
すぐそこで太鼓や笛の音が響いている。陽気さは全くなく、まるで悪魔を崇めるような不気味な調べだった。ここは、あの小男たちの住む集落なのだろうか。質素な藁葺きの家が幾つかと、周囲には暗い森が広がっている。ただそれだけだ。
そして暑い。夜だというのに暑い。熱気だ。あの立ち上る炎からの熱気であり、あの小男たちの熱気なのかもしれない。炎の向こうには――神様だろうか――大きな石像が祀られていて、吊り上がった目でこちらを見ている。口は裂け、牙があり、いかにも人間を取って食いそうなタイプだと感じた。
……うん、肉食系の神様っぽい。
しかしあれが肉食系の神様で、今が何かの儀式の最中だとすると、近くにお供え物や生贄がありそうなものだが。
(――どこにあるんだろう?)
まあ、そんなことは彼らの問題なので、僕が気を揉むこともないか。
とはいえ、これだけなら、
「変な部族に拉致られたんだなー」
なんて悠長に構えることも出来るんだけど(出来るか?)。しかし、小男たちの額にはもう一つ目があって、時折まばたきをしているのを発見して、「おや?」と思った。
しかも夜空には満月が三つ輝いていて、更には羽の生えたドラゴンが旋回しているのが見えたあたりで、「どうやらちょっと違う」ということに気付く。
気付いたところで逆さ吊りの僕に出来ることがあるとは思えず――
だから僕は思い出す。
このおかしな状況になってしまう前のことを、出来る限り――思い返す。