それぞれの事情
なんやかんやあって精霊さんと契約を結ぶことにした私。
というか契約を結ばなきゃ淘汰される(私が扱える武器は銃)だろうし。女神様との約束をまもんなくちゃだし。
ちなみに精霊さんの名前はカナリヤというらしい。黄色の目だから?
『そういえば知ってました?』
「んー?」
『セツ様の幼馴染の方もこちらにいらっしゃってるそうですよ!』
瞬間硬直した。あーあ、マジでいるのか。
歩みを止めた私にジンが視線を向けてきたがそんなのを気にする余裕はない。
アレ、がいる。
私が生きている中で最も嫌い、今では興味を一片も持てない存在。
二度と会いたくない、という言葉が駆け巡り、思考がぐるぐると回って頭が潰させれるような錯覚に陥りそうになる。
「大丈夫か」
「・・・・・・びみょー」
倒れそうになる前にひょいっと抱えれれて、少し落ち着く。
ちなみに小脇に抱えられる感じ。まぁ敵が出てきたら危ないもんね、両手塞ぐのは。
軽く眉を顰めてジンを見上げると、視界に入ったのはくるくる回っているカナリヤ。
わーわー言いながら回るその姿に軽く癒やされて、完全に思考が元に戻る。
「嫌だなー、会いたくないなー、存在しててほしくないなー」
「お前幼馴染嫌いなのか」
「いや、どうでもいいけど鬱陶しいからさ」
「そうか。とりあえず街に戻るぞ」
抱えたまま森を歩いて行くジン。
まぁまた倒れかけたら正直迷惑だろうしね。抱えていくのが一番いいよね。
ふわふわとカナリヤも宙に浮きながらついてくる。私は取り敢えず聞いてみた。
「アレはなんでここに居るの」
『どこかの国の王族が呼び出したみたいです。ヒトは本当にこの世界に負担をかける』
「それでも淘汰されないのは、その分だけこの世界に貢献してるから?」
『・・・全ては女神様の思し召し、ですがきっとそうなのでしょうね』
女神様、って結局誰なんだろうか。
私が会ったあの女性は確かに神様なんだろう。
でも彼女は始祖神、とも呟いた。そして自分がその神様に敵わないことも。
だからこそ私の力が必要である。
なぜ私なのか、このタイミングでここの世界に来たのはなぜなのか。
これらを全て偶然とは思えない。それこそカナリアのいう思し召し、なんだろう。
もし其の運命にアレが入ってるのだとしたら吐き気がするけども。
「うう、嫌だなぁ」
「・・・気分が?」
「そうともいうかもしれないしそうじゃないかもしれない、しかしそうかもしれな「もういい」
人の言葉を切らないで欲しい。
いやもしかしたら私が悪かったのかもしれないが、というか私が悪いが、この消化不良気味の気分を味わいたくなかった。
「・・・吐き気がするの」
「何が」
「もし私がここに居るのがカナリアの言う運命だとして、そこにあいつが組み込まれて居るのが嫌だってことだよ」
「気持ちは分からないでもない」
「ジンにも居るんだ、そんな人」
次の瞬間、彼の目が細くなり殺気で場が染まる。
そこまで嫌いになれるやつが居るってことね。まぁいいんじゃないだろうか。
人が人を嫌ってしまうのはもはや性だろうから。
「そういえばさ、カナリヤが私の矛だって言うなら盾もいるの?」
「せ、セツ様・・・!すごいです!そこまで頭がいいなんて私は感激なのです!私のご主人様がセツ様でとってもとても光栄なのです・・・!」
「分かったから落ち着いて。その反応ってことはいるんだね?」
そう言うとカナリヤは少し寂しげに、でも自慢気に微笑む。
自慢の家族を誉められて嬉しいそうで、だけどいま一緒に居れないことが悲しそう、そんな笑顔。
もはや彼女の癖であるように小さな両手を広げ、くるりと舞った。
「貴方様にとって盾になる存在は、シアンっていいます。私の双子の弟なのです!」
「もしかして眼の色が水色とか?」
「はい!私は髪が水色、目が金色なのですが、シアンは逆なんです」
「・・・妖精にも双子とかあるんだな」
「そうですよ相棒さん!私達の生体は基本人間と変わらないのですよ」
嬉しそうに話すカナリヤは本当にシアンという弟が好きそうだった。
なぜ今離れてしまっているのか、それを聞くべきではないのだろう。そう、今は機会ではない。
もう幼馴染のことはいいのか、と笑っているジンもそう。
カナリヤの触れてほしくないところには触れないでいる。視界の端に小さく息を吐くカナリヤを見て尚更そう思った。
そしてジンの嫌いな相手というやつにも。
私と彼はまだ共にいることが確定していないパートナーだ。彼のことを確定的な未来になるまで抱え上げる気は全くない。
一月の関係にそんなものは、そんな重荷は要らないのだ。
なのに少しばかり寂しいと思ってしまう。
思ったよりも私は二人に心許してるのだと思い、笑えた。
人間として心細い状況に現れた二人に許すのは当たり前だろうが、ジンに至っては命を狙われた関係だ。
未だ自分の中に昔の純粋さが残ってるようで、イライラする。
それも、今の私には必要のないものなんだ。
「・・・さっさと行こうか」
「おい、お前抱えられてる身なんだから少しは遠慮しろ」
「そうだった。もう下ろしても大丈夫だよ」
「・・・別に。鍛錬になるからいい」
素直じゃない彼と素直すぎる彼女、それと嘘つきな私。
そんな私達は街へ少しずつ近づいていくのだった。