不思議の国・大逃走
アドファルガー王国の極東にある、イーストレリィ。
その街の中を走り回る二人の女と、二人を追いかける集団があった。
「お妃様!お早く!」
一人の女…ガルシアが、もう一人の女の手を引く。
しかし、『お妃様』と呼ばれた女は、面食らった表情をし、あらんかぎりの声で叫び返した。
「ちょっと!だからお妃様ってなんのことよ!
あたしは普通の学生なんだってば!!
しかも、ここどこ!?
あんた誰!?
あいつらはなんなのよ!!?」
矢継ぎ早に質問してくる彼女の怒りをスルーして、ガルシアは走った。
「後でお話しします!ですが、今は走って下さい!!
あいつ等に捕まれば、厄介なことになりますから!」
『厄介なこと』…。その言葉を聞いた女は、口をつぐんだ。
仕方ない、と言わんばかりに首をふると、女はガルシアの後を追った。
しかし、イーストレリィの街は狭い。
しかも、相手はゆうに20人近く。
城へと走っていたはずのガルシアだったが、先回りをされ続け、しまいには路地裏に追い込まれてしまった。
そして、目の前には壁が…。
「私だけなら飛べる、けど…」
ガルシアはそう呟いて、チラリと女を見た。
そう。獣人であるガルシアにとって、壁を飛び越えるくらいワケはない。
しかし、今は『お妃』がおり、ガルシアは二人同時に壁を飛び越えたことがなかった。
つまり、『お妃』が居る以上、壁を飛び越えることができないのである。
(いっそのこと、この女を彼奴等に渡そうか…)とも考えたガルシアだったが、その考えを消すかのように頭を振った。
(致し方無い)と思ったガルシアは、自前の樫の杖を振るった。
実は、ガルシアには壁を飛び越えるやり方が二通りある。
1つは普通に飛び越えるやり方。もう1つは、魔法陣を形成し、魔法を駆使して飛び越えるやり方である。
しかし、お妃が居るため、前者は使えない…。
となれば、必然的に後者になるわけだが…。
「っ、ハァ……ハァ……」
魔法陣を形成する事は、ガルシアにとって過大な負荷をかけることに繋がるのだ。
しかし、迷っている暇はなかった。
急がなければ、追っ手が来てしまう…。
「っ、お妃様!私にお掴まり下さい!!この壁を飛び越えます!」
ガルシアの叫びが、尋常でないことを悟った女は、直ぐ様ガルシアに掴まった。
直後、浮遊感が二人を包み込んだ。
壁を飛び越えた二人は、直ぐ様駆け出した。
しかし、ガルシアの足取りは重い…。
遂に、ガルシアは膝をついてしまった。
「ちょっと、大丈夫!?」
少し前を走っていた女は、すぐに駆け寄る。
ガルシアの額には、大粒の汗が光っていた。
手は震え、顔は苦痛を我慢するかの如く歪んでいる。
ガルシアの様子から、尋常でないことを悟った女は、直ぐ様ガルシアをおぶった。
「!お妃様!?」
突然のことに、驚愕するガルシアだったが、女が発した次の言葉に強く頷き返すのだった。
「アンタが『後で説明する』って言ったんでしょうが!
それ以前に、『どんなことがあっても守り通す』って言ったじゃない!
…胸くそ悪いけど…あたしが信用できんのはアンタだけなんだから、置いて行けるわけないでしょ!?」




