聖女様は回想中
目の前で邪竜が暴れている。エディーとフィルが剣をふるい、エリーが魔法を放つ。アルが弓を射、ジェイがミリーをかばいながら暗器を投げる。ミリーは、みんなの回復に努める。
長い長い時間だった。ついにエディーがとどめを刺した。みんなボロボロだ。ミリーはガクッと膝をついた。朦朧とする意識の中で、一番傷ついているであろうエディーが駆けてくるのが見えた。地面に倒れこむ前に、エディーに抱きとめられた。エディーがミリーの名を呼んでる。みんながミリーの名を…。
「…リー、ミリー!」
目を開けたら、目の前に心配そうなエリーの顔があった。
「みんなは?回復しないと…」
「なに、寝ぼけてるの。旅は半年前に終わったでしょう?ここは辺境伯領のローラントよ」
「あ、そうだった。!いけない、今何時?学校いかなきゃ!!」
あわてて起き出そうとするミリーをエリーが抑える。
「落ち着いて。きょうは、休息日よ。学校はお休み」
「…そっか。よかった~」
ほっとするミリーの顔をエリーが覗き込む。
「…うなされてたけど、大丈夫?」
「うん、最後の戦いのときの夢見てたの。久々だったなあ」
「そっか、昨日の大犬のせいかと思ったけど、そっちか…」
「心配しないで。寝る前にね、仲間達と子ども達が似てるな~って考えてたから、そのせいだと思うよ」
「子ども達と仲間が?」
エリーは興味を引かれたようだ。身を乗り出してきた。
「そう。考えるより体が動いちゃうマックとヒューは、フィルとエディー」
「う…人の旦那を…事実だからしょうがないか」
「まあまあ。でね、頭脳役のベンがアルでしょ~」
「それは納得ね」
「その補佐のノアがジェイ」
「ふんふん」
「しきり役のクレアがエリー」
「その分類は何?その分類は!?」
「じゃあ言い方変えて、お母さん」
「…それもイヤだわ~」
「でもそうなんだもん。で最後にみんなの癒しローラは、癒し繋がりってことで私」
「まあ、確かにミリーの回復には、助けられたものね」
「うふふ~」
エリーは、ミリーの頭をいい子いい子となでた。
「ちょっ、子ども扱いしないでよ!」
「おほほ、お姉さまから見たらミリーはまだ子どもよ」
「1つしか違わないじゃない。私だってもう20歳なんだから」
「そうやって怒るところが子どもよねぇ」
けらけら笑うエリーにミリーがむくれていると、ノックの音が聞こえた。どうぞと応えるとおずおずとベンが入ってくる。
「あら、ベン。おはよう」
「おはようございます。奥様、ミリー先生」
「どうかした?」
「えっと、あの、奥様が戻ってこないので、なんかあったのかと」
「あ~、フィルね。女性の部屋には女性をよこせって言ってるのに、まだわかんないんだから!ほんとに男爵家出身なの!?」
「ありがと、ベン。ちょっと話に花が咲いちゃってね。今行くわ」
ミリーがそう返事をしたのに、ベンはまだ扉のところでもじもじしていた。ん?と思ってミリーが声をかけると、恥ずかしそうに答える。
「あの…昨日の、授業の…」
ぴんときたミリーがエリーを呼んだ。
「エリー、西の国の蜂蜜を少し分けてもらえるかしら。授業で使いたいの」
「西の国の蜂蜜?いいわよ。用意するように言っておくわ」
その言葉を聞いたベンがぱっと笑顔になる。
「ですって、ベン。よかったわね」
「はい、ありがとうございます。奥様、ミリー先生!失礼します」
ベンは飛ぶように、戻っていった。
「あらまぁ、ああするとベンも年相応ね」
「うふふ、かわいいわよねぇ」
「あら、ミリー年下好み?エディーが泣くわよ~」
「ちょ、からかわないでよ!」
「あはは、先行ってるわ」
「もう!」
そういいながらも、ミリーの顔は笑顔だ。
子ども達とも、仲間達と同じように仲良くなれるといいな。そんな思いがミリーの胸に浮かんだ。