聖女様は混乱中
ミリーが臨時の先生になって無事に5日が過ぎた。
子ども達も、ミリーに慣れて、授業は順調に進んでいる。
今日は、ミリー達英雄一行の話を交えつつ、地理と産業のお勉強だ。
ちなみに、子ども達にはミリーが聖女ミリアムだとは言っていない。あくまでも校長の友人の巫女ミリーとして臨時の先生になったのだ。
もっとも辺境伯フィルの執事の息子であるベンは知っているが、内緒にしてもらっている。
「でね、英雄一行は次に西の王国にむかったの。西の王国でとれる有名なもの知ってる?」
「西のおうこく?え~と、おかし?」
「ローラ、おしい!お菓子にも使うかな」
「お菓子に使うなら小麦かな?」
「近いわ、クレア。でも小麦なら東の国ね。この大陸の穀倉地帯、作物がいっぱい取れるところよ」
「あ、じゃあ砂糖!」
「マック、凄くおしいわ!砂糖は南の国ね」
「せんせ~い、おれ達が食べてる砂糖も南の国からきてるの?」
「いい質問ね、ヒュー。半分正解よ。この国でも砂糖は作ってるの。でも足りないから、南のお国から買ってるのよ。反対に、南の国は、この国からチーズやお肉を買っているのよ」
「「「「「「ふ~ん」」」」」」
6人がそろってうなずいた。と、ベンが何かをひらめいたようだ。
「先生、さっきの答、はちみつですか?」
「正解よ、ベン。東の国でもうちの国でも蜂蜜はとれるけど、西の国の蜂蜜は、とても質がいいの」
「うわ~、食べてみたいな~」
ローラがキラキラした目でミリーを見上げた。ローラったらといいながらクレアも内心食べてみたかった。
「おれも!」「おれも!」
ヒューとマックが手を挙げている。ミリーを倒しそうな勢いに、ミリーは苦笑する。
「みんな、先生にごめいわくですよ」
と、ベンは脳筋兄弟をいさめながらも、ミリーに期待に満ちた目をやった。ベンは、辺境伯家に西の国の蜂蜜があることを知っているのだ。
「わかったわ、校長先生にお願いしてみる。ダメかもしれないから、その時は諦めること!」
「「「「「「はい!」」」」」」
と、全員の返事がそろったところで、中庭から声が聞こえてきた。
「お~い、マック、ヒュー、いるか~?」
「あ、父さんだ!」
言うなりマックとヒューが中庭へと駆け出していった。びっくりしてるミリーに、いつも突然くるんですよ、あのひとはと、ベンとクレアが説明する。
親御さんに挨拶しなくてはと、中庭に出たミリーの目にはいったのは、牛ほどもある巨大なオオカミもどきに襲われてるマックとヒューだった。
「マック!ヒュー!!」
悲鳴をあげて、2人を助けようと駆け出すミリーに、オオカミがしゃべった。
「おう、はじめまして。巫女の先生だね。せがれ達が世話になってすまねえな」
「オオカミが、しゃべってる…」
「ちがうよ~、これ父さんじゃなくて、父さんの相棒だよ~」
「父さんは、横だよ!」
混乱するミリーに、マックとヒューがオオカミの上から説明した。よく見ればオオカミの横に、これまた巨大な人がいた。辺境伯フィルをさらにマッチョにした感じだ。ガハハと笑っている。脳筋兄弟の父もまた脳筋だった。
「あ。ど、どうも…」
あっけにとられながらも、ミリーは挨拶をかえした。ベンとクレアが、ミリーの両脇につき、脳筋兄弟の父の前まで、進んだ。いつの間にか、ローラとノアもオオカミにじゃれ付いて遊んでいる。
「いや~、新しい先生のことをせがれ達が自慢するんで、一度会おうと思って。あ、こいつは俺の相棒。でかいが、女子どもには優しい奴だから、大丈夫!」
「は、はあ…」
ミリーが恐る恐るオオカミのほうを見ると、オオカミはべろんとミリーの顔全体をなめた。
限界だった。ミリーの記憶はそこで途切れた。
目を覚ましたのは、辺境伯のお屋敷のミリーに与えられた部屋だった。
枕元にはエリーがいる。
「災難だったわね。ミリーは屋敷と学校しか知らないから、見た事なかったものねぇ」
エリーがくすくす笑いながら、ミリーの身体を起こした。
「見たことって?」
「あのね、巨大な動物ってここローランド領の名物なのよ。なんだか、みんな大きく育っちゃうのよね~」
笑うエリーに、あのオオカミもどき以外にも巨大動物がいるのかとミリーは頭を抱えるのだった。