聖女様はお散歩中
翌日から、ミリーの授業が始まった。
ミリーは、静養中のためあまり長いこと歩けない。(体力的にもだが、エディから禁止令が出されている)それをエリーから聞いたときには、ミリーは頭をかかえた。
ともあれ、長いこと歩けないのは事実なので、授業でも学校の庭から出ることはない。
今日は、使える植物と危険な植物の授業にしようと、庭の端へとみんなで歩いていった。ちょっとした散歩だわ~とミリーの心もウキウキする。エリーとフィルのお屋敷では、傷ついた聖女様として皆が基本過保護なのだ。散歩なんて言おうものなら、お付きが5人位ついてくる始末。
本当は学校にもついて来たそうだったのを、往復馬車送り迎え、学校警備の騎士人数増でやっと説得したのだった。
庭の端の、様々な草が生えている場所に行き、ミリーは一本の白い花を葉っぱごと折りとった。
「はい、みんな。この花知ってる?」
「知ってる~!カナの花だよ!傷薬にするヤツ」
ヒューがものすごく嬉しそうに言うのを見て、ミリーはうなずいた。
(うん、全員わかってるね)
5人とも当然という表情だ。
「じゃあ、この花とそっくりで、紫の花は?」
「はい、リークの花です」
ベンが手を挙げて答える。
「正解!その花はなにに効くかは?ベン」
「え~と、たしか…眠くなるとか…」
「まあ、よく知ってるわね、ベン。すごいわ。リークの花はね、眠くなるのよ。でも、葉っぱは毒だから、触っちゃダメよ?」
「「「「「「は~い」」」」」」
「ここには…あら、無いようね。普通、カナとリークは一緒に生えてることが多いのに」
ミリーが小首を傾げると、クレアがきょろきょろする。
「あれ?先週は生えてたのに」
「まあ、あぶないからって誰かが刈ったのかしら?かぶれる程度だけど」
「ローラしってる~。あたらしくきしだんのりょうのりょうり人になった人が、きのう、いっぱいうでに持ってたよ」
ローラがにこにこと、とんでもない情報を教えてくれた。ミリーとベン、クレアの顔色が変わる。それを見て、ノアもただ事ではないと顔をこわばらせた。マックとヒューは、なにが起こったのかよくわかっていない。
「そう、ローラ、よく見てたわね。ベン、先生これから手紙を書くから、騎士団の詰め所に持っていいってくれないかしら」
「はい、先生」
「みんなは、カナの花の絵を描いていてね」
そういうと、ミリーは速攻で騎士団への手紙を書いた。学校の庭のリークがねこぞぎ無くなっている事。騎士団寮の新料理人がリークを腕に大量にかかえていたというローラの証言。何かの間違いがある前に、と最後に書いてミリーは署名した。
ベンに配達を頼んで、ミリーは授業にもどる。カナの花以外にもいくつか有用な植物を紹介していると、騎士に付き添われてベンが帰ってきた。
「お帰りなさい、ベン。ご苦労様。みんなの所にもどってね」
「はい」
ベンが5人の下に戻るのを見送ってから、ミリーは騎士に振り向いた。
「送ってきてくださってありがとうございました。それで…」
「いえ、情報をありがとうございました。リークは無事押収できました」
「ああ、よかった。あの、その料理人というのは?」
「食用だと思ったといっていますが、さて…」
「そうですか、では、私は授業に戻らないと…」
「ええ、あまりムリをなさいませんよう」
「はい」
壊れ物を扱う様な騎士の態度に、こんなところまで騎士団長の指示はいきわたってるのかとミリーは苦笑する。
その日の夕食後ミリーがフィルとエリー夫婦と居間でくつろいでいると、執事から受け取った書類に目を通したフィルが、ミリーに声をかけた。
「ミリー、今日情報をくれたリークの件だが。騎士団狙いだったよ。今日の夕食に使うつもりだったと料理人が自白した。裏には、まだありそうだ」
「あら、やっぱり。気がついてよかったわ。あ、ローラちゃんほめてあげてね」
「ええ、お手柄よね」
「ふむ、明日団長に言っておこう」
領主屋敷はいつもと同じ、穏やかな夜だった。