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聖女様は奮闘中

 マシューに連れられて、教室を出て庭へと出る。門へ行くのかと思いきやマシューは隣接する森へと進路を取る。ミリーはマシューに気付かれないように自分に保護魔法をかけた。木々の葉や枝から肌を守る初歩的な魔法だ。エリーならばこの魔法を追ってこれるはず。ミリーはエリーの魔術師としての能力を信頼している。


 マシューは、森の中をスタスタと進んでいく。徐々にミリーの息が上がってきた。整備された道ではないので、体の負担が大きい。ミリーはついに立ち止まった。


「ちょっ、と、待って…」


 自分の身体を抱きこんで息を整えているミリーを見て、マシューがあわてて飛んできた。


「すみません、怪我が治ったばかりでしたね」


 心配そうに身体を支えてくれる。ミリーは昔と同じやさしいお兄ちゃんを感じて、どこかホッとした。

 だが、マシューはミリーを支えながら、歩き始める。もうミリーのことは見ていない。彼の目に映っているのは、竜の角へと通ずる道だけ。


 やがて、ミリーは森の木々が段々と大きくなって来ているのに気がついた。幹や葉の色はそうみても若木なのに、太さ大きさは10年もの以上だ。


「木が…大きくなってきてる」


 ミリーのつぶやきにマシューが反応した。


「ええ、これが竜の角の魔力の影響ですよ。すばらしいでしょう!竜の角を利用すれば、どんなことができるのか、わくわくします」


 憑かれたように話し始めたマシューを、ミリーは黙って見つめるしかなかった。下手に刺激したら、なにをされるかわからない。

 しゃべり続けるマシューに連れられ、ミリーは森の奥へと進んだ。不意にぽっかりと開けた場所にでた。中央にひときわ大きな大樹が、その根元には石で囲われた清らかな泉がこんこんと水を湧き出していた。2人に気付いた仔犬ほどの大きさのリスがタマゴ大の木の実を抱えて逃げていく。


「さあ、着きました!ここの泉が竜の角の真上のはずです。どうです、あの大樹を見てごらんなさい!素晴らしい大きさです。植物がこれだけ大きくなるのです、動物ではどうなるでしょう?寿命は?繁殖は?ああ、どんな実験をしましょうねぇ、楽しみです!」


 ミリーの片手をつかみながら、マシューはべらべらしゃべり続けた。ミリーは、マシューに軍事利用の発想はないようだと一安心した。


「さあ、邪魔が入らないうちにすませましょう」


 マシューは服の中から、小さな飾りをいくつか取り出すと、泉の周りの石に差し込み始めた。


「これらが封印をとく鍵なんです。まったく、何で昔の人はこんなことしたんでしょうねぇ。わざわざ封印なんかして、もったいないじゃないですか」


「マシュー、それって…」


「あ、ええ この遺物ですか?書物と同様盗んでもらったものです。ばらばらの遺跡から出土したものですから、そろえるのが大変でしたよ。よし、これで全部!さあ、ミリー。力を貸してください」


 そういうとマシューはミリーの右手をつかんで泉の中へと突っ込んだ。水の冷たさにミリーは息を呑む。


(まだ?エリー)


 ミリーの願いもむなしく森の木々のはずれが聞こえるだけ。


「私には、神官としての神力が少なくてね、1人では封印が解けないんですよ。どうしようかと思っていたら、王都から聖女様がやって来たじゃないですか!これは天命だと思いましたよ!」


 興奮してどんどん声が大きくなっていくマシューの手から逃れようとするが、ミリーの力ではどうにも出来ない。そのうち、泉に浸した手から、神力が流れ出ていくのに気付いた。泉が仄かに光りはじめる。マシューは恍惚とした表情でそれに見入っていた。


「ああ…、もうすぐです。もうすぐ竜の角が…」


 神力を奪われ、ふらふらしてきたミリーの耳に、聞き慣れた矢音が飛び込んできた。


「うわぁ!?」


 マシューの叫び声と同時に、ミリーは解放された。マシューが矢に射られた肩をつかみながら転がるのが見える。


(アルの矢…。来てくれたんだ…)


 ぼんやりそう思いながら、ミリーもゆっくりと倒れていく。服が汚れちゃうなぁ、などど考えていたら、地面につく前にぽすんと抱きとめられた。


「無茶するなと言っただろうが」


 ものすごく機嫌の悪そうな顔が目の前にある。


「あれ、エディー?」


 ここにいるはずの無い、竜殺しの英雄エディーであった。



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