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聖女様は待機中

 出来る手配はすべて終わった。後は、実働部隊にまかせ、ミリーは通常の生活に戻ることとなる。


 協力すると宣言した翌日、早速神殿から返ってきた返事は、ミリーに衝撃を与えた。


 マシューは確かに将来有望な優秀な神官だった。だが真面目で学究肌なところがあり、その学問へののめり込み具合に祖父と父は心配していたのだという。

 いつか人間として越えてはいけない一線を越えてしまうのではないかと。


 ミリーにとっては優しいお兄さんだったマシューにそんな一面もあったのかと、愕然とした。マシューは一線を越えてしまったのだろうか?火事にあったというあの遺跡で何を見つけてしまったのだろうか?すべては想像に過ぎない。マシュー以外には誰にもわからないのだ。


 ということで、ミリーは学校の先生に全力投球中であった。


「せんせー、かけたぁ」


「ぼくも~」


 年少組2人がにこやかに書き取り練習の紙をミリーに差し出す。後の4人は作文に取り組み中だ。


「どれどれ、きれいに書けたかなぁ?」


 二人と笑いあいながら、出来上がった書き取り練習の紙を手に取る。ローラはかわいらしい字で、ノアはきっちりした字でそれぞれの名前を書いていた。ミリーはにっこりと笑う。


「二人共良くできました!」


「わぁい!わたしたちがんばったんだよねぇ~」


「ね~」


 ローラとノアはきゃっきゃと笑ってうれしそうだ。心が癒される風景に、ミリーもほほが緩む。


「せんせ~、もっと書いてもいい?」


 ローラがきらきらした目でお願いしてきた。これを断れる者はいるのだろうか。


「ええ、いいわよ。そうねえ、ローラの名前をノアが、ノアの名前をローラが書くのはどう?」


「「やるやる~」」


 2人は、楽しそうに書きはじめる。ミリーは、作文に奮闘中の4人を見回ってから、自分の席についた。子供達の様子を見ながら、盗まれた書物のことに考えをめぐらす。


 神殿関係の書物は、この地方の神話だった。どの書物にも共通する話は、この国の北方に位置する山脈の話だ。

 昔、強大な魔力を有する一角の竜がいた。心優しい竜は、動物も人間も慈しんだ。その命を終える時、いつまでも見守るために竜は大陸の北部に横たわりその身を山に変えたという。その死を悲しんで動物達と人間たちが流した涙がたまったのが、この国のほぼ中央に位置する湖というおまけつき。

 まあ、お伽話である。

 だが、もし、その影に隠されたものがあったとしたら?マシューは真実をつかもうとするだろう。


 魔術師関係の本は題名のごとく、成長力と魔力との関係について書かれていた。詳しい内容を語ってくれたエリーの師匠の友人という魔術師は、最速で返答したことを英雄殿にくれぐれも・・・・・よろしくお伝えくださいと書いてよこしたそうだ。エリーが半笑いでエディーいったい何したんだかとミリーに言う。そのうち呼び名が英雄から魔王になるんじゃないかと、笑いあう。

 本の内容は、かいつまんで言うと魔力が抱負にあるところの生物は成長がいいというもの。それを聞いて思い浮かぶのは、この地方の動物、植物の巨大化だ。


 この二つの話を、マシューはどうつなげたのか。

 竜の魔力はどこに宿る?―角だ。北の山脈が竜の身体なら、竜の頭はどこ?―辺境伯領ここだ。生物の成長がいいのはどこ?―辺境伯領ここだ。ならば竜の角は辺境伯領ここにある。そう考えたであろうことは、想像にかたくない。


 ミリーはふうとため息をついた。


 辺境伯領ここには、学術研究の手は伸ばされることはない。四方を四つの国に囲まれたこの国において、辺境伯領ここは特に重要な場所だ。北の国はその半分が山脈で、厳しい生活をしていると聞く。そのため、昔から辺境伯領ここを奪おうと攻め込んできた過去がある。それを代々の辺境伯が退けてきたのだ。

 マシューのやり方は、まずいのだ。騎士団を弱体化させようとしたり、連続強盗事件に騎士団や私兵団の手をさかせたり、守りがうすくなってしまう。そこに北の国が攻めてきたら―。

 エリーは、マシューの背後に北の国がいるのかもとさえ言っている。フィル経由で国王や宰相にもその情報は伝わっていた。話が大きくなりすぎて、もうミリーがどうこうできるレベルではなかった。


 願わくば、マシューの背後に何もありませんように。


 ミリーは優しかったお兄さんのためにそっと心の中で祈るのだった。


 

 




 

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