聖女様は暗躍中
「私、捜査に協力するから」
学校から帰るなり、フィルの執務室に突撃し、ミリーは両手を腰に宣言した。
執務室にいた役人達は、みな唖然としている。それはそうだろう。フィル以外の彼らは傷付き弱った聖女ミリーしか知らない。突然のミリーの豹変に只ただ驚くばかりだ。
「ついに元に戻ったか」
フィルがハアとため息をつくと、更なる驚きの声があがる。
「ええぇ~!?ミリー様、元にって」
「みんな聖女の肩書きにだまされるんだよな~。これが本来のミリーだ」
「うわぁ、イメージがぁ」
ショックを受ける役人にミリーはフンと鼻を鳴らした。勝手に人のイメージを決めつけるからだとつんとする。
「はぁ、まぁこいつらのショックはいい。で?何を協力するって?」
フィルは机に片手を突きあごをのせた。すっかりやる気を失っている。
「マシューは神官よ。神官の考え方は神官にしかわからないわ。だから、私がそれをあたな方に伝えるの」
「神殿に問い合わせるという手もあるぞ」
「時間がかかりすぎる。私ならその場で答えられるわ」
「エディーが何て言うか」
「私はこの領主館からでないもの。エディーは何も言えないはずよ?」
ミリーは口をとがらせた。フィルが深々とため息をつく。
「あ~あ、ミリーが言い出したら誰も止められないんだよなぁ」
「じゃあ、いいのね」
「仕方ない」
「ありがとう!じゃあ、早速。マシューが死んだことになった原因の事故を調べ直して。マシューのことを神殿に問い合わせるのは、やっておくから」
「わかった」
「それと、連続強盗の件だけど、お金以外に取られたものはないの?何か共通点がないかクレアのお父様に聞いてもらってるんだけど」
「…どうなっている?」
フィルが鋭い目つきで、役人に問いただした。役人はあわてて書類をめくっている。
「は、はい。報告では、古い飾りと書物数点が見当たらないと…」
「詳しいことを教えてくれないかしら?」
「はいっ、ただ今」
役人が書類を探す間、ミリーはフィルと王都への手紙を書く事にした。ミリーがすらすら書いていくのに対してフィルはため息ばかりをついている。
「筆が進まないようね」
「誰のせいだと思ってるんだよ。エディーにミリーのこと書く時はすんごい気を使うんだよ!」
「じゃあ、当たり障りのないことだけ書けばいいのに」
「後でばれたらまずいだろうが!殺されるわ」
ミリーとフィルがぽんぽん言い合っていたら、役人が詳しい資料を探しだしたらしい。
「あの、こちらです」
どことなく腰の引けた役人から書類を受けとると、ミリーは急いで読み込んでいく。
「ん~、どの飾りも古い物ね。遺跡からの出土品みたい。これは神殿に問い合わせるわ。書物は、神殿関係と魔術師関係か」
てきぱきと分類するミリーの姿に、役人達が尊敬の眼差しを向ける。その横でフィルは必死に手紙を書いていたが、誰も見向きもしない。
と、いきなり執務室の扉が開き、エリーが飛び込んできた。
「ちょっと!ミリーここにいる?!帰って来るなり消えちゃって」
「エリー、いいところに!この本のこと知ってる?」
だだっと走りよりミリーはエリーに書類を突きつけた。
「えっ、『魔力と生物力の因果関係』って、え~と、生物力なら大きさや成長具合のことよ?」
「そうなんだ、で、詳しい人知ってる?」
「え、ええ。師匠の友達が…」
「じゃあ、この本の中身について教えてもらって!」
ミリーがさらにエリーに詰め寄る。
「…わかった。…あ~あ、ミリー戻っちゃったんだ~。か弱い聖女様かわいかったのに~」
エリーは書類を手に、肩を落とした。
「や、やっぱり、これが本来のミリー様なんですね」
役人達が、ちょっぴり残念そうにミリーを見る。
「そうよ~、戦闘中は逆らえないんだから~」
「え”?」
「ミリーは戦闘時の司令塔だ。俺とエディーはミリーの指示で攻撃してたんだよ」
ミリーは悪い?とばかりに腕を組んでいる。エリーはうんうんと大きくうなずいていた。
「え、英雄が聖女をかばって戦ったんじゃないんですか~?」
「ああまたイメージが~」
こうして、役人達に大ダメージを与えて、ミリーの協力は始まったのであった。