聖女様は捜索中
いつもより短いですが。
「もうすぐ掃除が終わりそうだと」
王都からの手紙を手に、フィルがミリーに声をかける。封印を見るに手紙はエディーからではなく、国王もしくは宰相からのものらしい。
声を掛けられたミリーはと言うと、眉をしかめ厳しい顔で手元の手紙をにらんでいた。
「ミリー、どうしたの?」
「…神殿から報告が来たの。この前の古代神聖文字の使い手のこと」
「わかったのか?!」
フィルが思わず立ち上がる。
「うん…。マシュー・ドレイク。優秀な神官でね、お祖父様も期待してた。父が弟みたいにかわいがってて、私もよく遊んでもらってたな。8年くらい前に学術調査に出かけた先で、火事で亡くなったはずなのに…目撃した人がいたって―」
「ミリー、執務室に来てもらえるかな?詳しく聞きたい」
「…わかったわ」
「ミリー、大丈夫?一緒に行こうか?」
「ありがとうエリー、でも1人で大丈夫よ」
ミリーは寂しそうに微笑んで、フィルの後に続いた。
執務室には騎士団と私兵団からも人が呼ばれた。フィルから古代神聖文字の使い手がわかったと説明がなされ、ミリーからマシュー・ドレイクの人物像が語られる。
将来を期待された優秀な神官。学術調査先で火事にあい、死亡とされていたこと。優しいおとなしいタイプだったこと。
「まだ私が10歳前のことですから。子どもの印象ですけど」
フィルと騎士団、私兵団が捜索の話し合いをしている横でミリーは小さくため息をついた。知っている人、それも幼い頃に可愛がってもらい慕っていた人が道を外れ追われることは悲しい。それも自分が捕まえるための情報を提供するのだ。
「よし、それでいこう。俺からエディーに話は通しておく」
その言葉をきっかけに、男達はガタガタとイスから立ち執務室を後にした。ミリーも帰ろうと立ち上がると、フィルがポンと肩をたたいた。
「ミリーのくれた情報があって助かったよ。計画がたてやすかった。ここからは俺達が動く。…ミリーが気に病むことはない」
「…ありがとう」
事件はミリーの手を離れた。後は早い解決を祈るだけだ。
翌日、子供達に書き取りをさせながら、ミリーはふと考えた。
なぜマシューは強盗をしたのだろう?そもそもなせ死んだことにしたんだろう?
彼の目的はなんなんだろう?
「せんせー?」
ローラの声に現実に戻った。子供達が心配そうにミリーを見つめている。
「せんせー、どっかいたいの?病気?げんきないよ」
「ううん、大丈夫。…知ってる人がね、悪いことしちゃったの。どうしてかなーって考えてたんだ」
「そっかあ」
ベンとクレア以外はそれで納得したようだ。書き取りに戻っていった。ベンとクレアは顔を見合わせ、ミリーを見上げる。
「先生、それってこの間の強盗の…?」
「…ええ。将来を期待された神官だったのに、自分が死んだことにして何をしようとしているのか、わからなくて…」
「死んだことにした時になにがあったんですか?それと関係あるんじゃないですか?」
「そうね、当時のことを調べた方が良さそうね。神殿に聞いてみるわ」
クレアの言葉にミリーは、光明を得た気がした。
「先生、強盗もお金のためだけでしょうか?お金以外で取られたものは?」
ベンが疑問を口にした。ミリーは目を見開いた。
「…クレア、お父様からその辺の話聞ける?」
「はい!」
私は私の出来る方法で、この件に関わっていく。
ミリーは、そう決意した。