聖女様は収穫中 2
昼近くになると、領主館の料理人たちが大なべを抱えてやってきた。中身は、野菜たっぷりのスープ。町のパン屋さんたちも、山盛りのパンを持ってきた。料理人たちとパン屋さんは、じゃあ始めましょうと言うなり、庭に転がってる石を動かし始め、あっという間に簡易かまどの出来上がり。スープの大なべはよいしょとかまどに乗せられ、火が点けられるといいにおいが漂い始めた。
においにつられるように、森から狩をしていた人々が出てきた。皆手には獲物を抱え、高笑いしている。豊猟らしい。
「せんせー、みてみて~!」
マックとヒューが両手に鳥とウサギもかかげて走ってきた。
「オレ達が獲ったんだ!ちっちゃいけどな」
「まぁ、すごいわね」
ミリーは、大人達の獲物に比べれば小さいが、一般的には十分大きな獲物に感嘆の声を上げた。
「マック、ヒュー。そいつを保管場所に置いてこい」
「「はーい」」
父の言葉に従い、脳筋兄弟は獲物が山積にされてる場所へと駆けていく。脳筋父が、小脇にぐったりしたベンをかかえてミリーの元に来た。後ろについて来る大犬の背中には、獲物が山と積まれていた。大犬は、飼い主の背中から気まずそうに顔をのぞかせる。この前ミリーが倒れたことを悪く思っているらしい。
「大猟ですね」
「おかげさんで。この前は悪かったな。こいつも悪気があったわけじゃないんだが」
脳筋父が大犬の頭をポンとたたくと、大犬はきゅうと鳴いた。
「わかってます、ビックリしただけですから。仲良くしましょう、あなたの名前は?」
「こいつはアルです、ついでに俺はグレン」
「よろしくね、アル、グレンさん」
ミリーが鼻先をなでてやると、アルは嬉しそうに目を細めた。
「そうそう、こいつを返品しておくぜ」
グレンが、小脇に抱えたベンをミリーに差し出したので、あわてて、ベンを支える。うなっているので、意識はあるようだ。
「へ、返品…」
「おう!30分もしないうちにダウンしちまってな、もうちっと体力つけたほうがいいぞ、坊主」
「だ、だから、僕は最初から狩は、イヤだと…」
そこへ、脳筋兄弟が、バタバタと戻ってくる。
「父さ~ん、置いてきたよ! あ、ベンおきた~」
マックとヒューがベンを囲む。
「なあ、ベン。狩おもしろかっただろ?」
「楽しかったよね!」
ワクワクした兄弟の言葉に、ベンはうつろな目でクビを横に振った。
「…僕にはムリ…」
「おかしいな~、アルの背中ではねるの、おもしろいはずなんだけどな~」
「矢がいっぱい飛んでくるのよけるのもたのしかったよね~?」
「――マック、ヒュー。人には向き不向きというものがあるのよ」
ミリーは、脳筋兄弟に、自分達と違う人間もいるのだと教えるのであった。
「マック、ヒュー、行くぞ!こいつを降ろしたら、昼飯だ!!」
「「わーい!」」
脳筋親子を見送ると、ベンがミリーを見上げた。決意をこめた眼差しである。
「先生、来年は最初から書類仕事のお手伝いにしようと思います」
「そうしなさい」
ミリーとベンは、強くうなずきあった。
そんなこんなで収穫祭りは5日間続き、近年まれに見る収穫量で締めくくられた。
「先生、これで作物のほうは完了です」
「ありがと。狩のほうも終わったわ。それにしても、動物も作物も普通の2割り増し大きいわね。なにが原因かしら?」
「さあ?昔からこうらしいですよ?だから、狙ってる国も多いって聞いてます」
「ふ~ん、今度調べてみよっと」
書類をまとめながら、冷静にそんな会話をする二人の周りでは、ボロボロになりながらも、やりきった感でハイになった人々が、打ち上げへとなだれ込んでいく。
収穫には参加できなかったけど、祭りの空気が気に入ったミリーは、来年も来て次は収穫させてもらおうとこっそり計画を立てるのだった。