聖女様は退屈中
ぬけるような青空の下、庭には花が咲き誇り、その向こうに広がる畑には作物がたわわに実っている。その先の国境まで続く森の緑が目にまぶしい。
「のどかよねぇ」
庭先でお茶を飲みながら、ポツリとつぶやくミリアム・リン・セーリス(通称ミリー、20歳、職業聖女)は、暇をもて余していた。
ことの始まりは三ヶ月前にさかのぼる。
神託により集められた魔物退治の一行の一員として、4年間大陸中をまわっていたミリーは半年前にエンレント国の都に戻ってきた。当初の目的である邪竜を滅したためであった。後は各地の騎士団に任せることになる。
一行は都あげての大歓迎で迎えられた。
国王よりお言葉とそれなりの地位をいただいた一行は、英雄と呼ばれた。
特にリーダーでもあった大剣使いのエディは、邪竜にとどめを刺したことから竜殺しの英雄と言われている。元々伯爵の三男だったが新たに伯爵位を賜り、一騎士から騎士団長に昇格して、一躍花婿候補No.1におどりでた。
さて、ここでご令嬢及びその親達の邪魔になるのが、英雄一行の女性二人である。
魔術師は、辺境伯に任ぜられた元傭兵と結婚してさっさと領地に行ってしまった。
残ったのが元巫女(回復担当)現聖女のミリー。
お約束のように古典的な嫌がらせが、ミリーをおそった。動物の死骸やら毒蛇や毒蜘蛛、毒入りの食品の贈り物。わざと聞こえるように言う悪口のオンパレードなどなど。
が、大陸中を巡ってたくましくなったミリーは歯牙にもかけない。贈り物は処分し、毒は浄化、悪口はスルー。話を聞きつけたエディーが神殿の警備を強化し、話を聞いた他の仲間も駆けつけた。
そんな中、事件が起こる。怪我人をかばおうとしたミリーが、その怪我人により斬りつけられたのだ。
エディの手加減ない取り調べにより、エディ狙いの貴族が邪魔なミリーを消そうとしたことが判明。これにエディがキレた。ついでに他の仲間もキレた。
都をキレイに掃除するからミリーはエリーのとこに行ってろとエディーはそれは黒い笑顔で宣言したのだ。
かくして、有無を言わさずミリーは辺境伯の所に送り込まれた、というか気付いたらエリーの家だった。
それから3ヶ月。身体はほぼ治り、散歩も出来るまでになったのだが、まだ都に帰れない。エディーからOKが出ないのだ。
「エディの過保護」
そう呟いて、カップをテーブルにおろす。
一日中散歩してるわけにもいかないし、本もあらかた読んでしまった。エリーにも領主夫人としての仕事があるから、相手してもらうにも限度がある。手芸も飽きてしまった。
要するに退屈なのである。
クスクスと笑い声と共に、この屋敷の女主人エリーがやって来た。
「笑い事じゃないのよ、エリー」
「あはは、ごめんなさい。でもエディが過保護になるのも仕方ないわよ。ミリーのケガひどかったもの」
「う、そう言われると…。でも、毎日知らせをよこせって言うくせに、自分は10日に一度しか返事かかないのよ。ひどいと思わない?」
「はいはい、ごちそう様。ま、辺境伯邸は国内一安全だから」
そう言いながらエリーはミリーの隣に腰をおろすと、侍女の差し出すお茶を受け取り、優雅に口をつける。ミリーもおかわりをいただいた。
「それはそうと、ミリーにお願いがあるの」
「何かしら?」
「あのね、私町の学校に携わってるじゃない?で、1人先生が体調くずしてしばらく授業できなくなったの。ミリー、代わりにやってくれないかな~って」
「先生?やるやる!何でもやる!」
「よかったぁ!助かるわ」
こうして、ミリーはやっと暇から解放されることになったのであった。