episode.2 πの現実
とぼとぼ。とぼとぼ。家への帰路を《あいしゅう》を漂わせながら歩きます。
どーしよう♪ へい! どーしよう♪ へい!
「はあ」
リズムに乗って明るく振舞おうとしてみました。余計暗くなりました。
「よお! レン!」
突然後ろからおちゃらけた声と共に肩を叩かれます。
反射的に振り返ります。いじめっ子だったらここできっと顔に泥団子をぶつけてきたことでしょう。
「あっ、ケンジ君」
いじめっ子ではなくケンジ君は僕の友達です。泥団子ではなくぷにっと、頬を指で突かれました。
「何シケた顔してやがんだ。早く遊びに行こうぜ!」
エンジョイライフというレッテルを自ら体中に添付している彼はありがたいお誘いをしてくれます。
だけど。
「あ、僕今日は――」
「んじゃあ、俺達いつもの場所で待ってっから早く来いよ! ばいびー!」
電光石火。その言葉が似合う少年はランドセルを上下に、中の教科書を上下に揺らしながら走り抜けていきました。
「また言えなかった……」
僕って意志が弱いのかなー……。
その後は、更にとぼとぼという擬音が似合いそうな下校風景だったと思います。
002旅路
家に帰った後、支度を整えていつもの場所へと向かいます。遊ぶためではなく、断るためです。
例の場所、公園に着くと僕以外の遊び仲間は既に集合していました。
「おっ来たかレン。おっせーぞ」
ジャングルの王者ケンジ君は上からそう言います。ジャングルと言ってもジャングルジムの事なんですけどね。
時間が立てば立つほど、こういうものは言いにくくなると、テストで赤点を取ったこうこうせいのお兄ちゃんや昼ドラのおにーさんが言っていました。
握り拳を作り、意を決して、遊びに行けない旨を舌に乗せて、口に出そうとします。
「そういや、一昨日から旅人が来てるんだっけ?」
ケンジくんの、何の気なしな話題振りが僕を制止させます。
「ああ、確かすんげー頭良い人たちなんだってよ」
いじめっ子じゃないけど、泥団子を大人にぶつけるのが大好きないたずらゴロウ君がそれに続きます。因みにあだ名は泥団子のゴロウ、略して泥ダンゴロウです。ダンゴムシみたいで間抜けだといつも思ってます。
間抜けと言えば、僕も口をだらしなく開けたまま体が一時停止していました。旅人さん? 頭がいい?
「なんでも《きょうじゅ》とかいう職業の人で、学校の先生なんかよりずっと偉いんだってよ」
自称情報屋を謳うマサシ君は更なる情報の肉づけをします。子供の情報屋なんてたかが知れてるなー、といつも嘲笑っています。
「………」
無口なタヌキコウジコウジ君。きっと彼の頭の中では会話に参加しているのでしょう。というか名付け親はもっと子供の事を考えてあげなかったのでしょうか。いつも彼の事が不憫でなりません。
「それはすっげーな。俺たちの町って、学校くらいしかねーもんな。大きな建物って。だから一番偉い人っていえば先生だし」というケンジ君。
「そんなに頭いい人ならからかってみたいぜ、泥団子投げつけたり」というドロンダンゴロウ君。
怒らせてほしくないなー。
「そんなことより頭良いんなら宿題教えてほしいくらいだよ」
すると誰かがそう言います。
おっ。これはなかなかのチャンスなのでは? そして、僕が賛同しなくても、
「あはっ、そいつは良いーな。俺も実は宿題を溜めてて先生に怒られたばっかりなんだぜ」
ケンジ君がふざけた調子でそれに乗っかります。
え、ケンジ君も僕と一緒なんだ。何かちょっとやだ。
「とりあえずその人んところに行ってみようぜ、どうせ暇なんだし」
リーダー格であるケンジ君がそういえば、答えは決まったようなものでした。
宿題云々はともかく、皆珍しい外からの訪問者を一目見たいと、その案は満場一致となりました。
この分だと明日は明日の風が吹きそうです。
まあ、大分軽い類の話です。あと二、三話程でこの章は終わりでする。