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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アウトサイド

アウトサイドへいらっしゃい

作者: 河内和泉

東京の土地勘はまるでデタラメです;;ゴメンナサイ;;

「ねぇ、おにへーさん。わたしの復讐手伝って欲しいって言ったら…、手伝ってくれる?」


 …彼女がそう言ったから、10月7日は復讐記念日。

 などと脳内でとりあえずボケてみたのは、彼女…高山綾とかいう名前だったか…が晩御飯の材料を買ってきてと頼むような口調で、言ったからだろうか。

 しかも、場所も似つかわしくない。

 ここは西新宿のゲーセンの一角で、仁谷平蔵と彼女は【Passing Racer】の最新台で熾烈な闘いを繰り広げてる最中なのだ。

 ちなみに、これまでの戦績は24戦2勝1分け。21敗1分けしてるのが平蔵の方だ。同じMTモードで勝負してるというのに、彼は本当にこの女子高生に勝てない。…まったく、何度ここのゲーム台を叩き壊しそうになったことか。

 現在レースは最終に入ったところである。今日も先行しているのは綾だ。コースはどっかの峠をモデルにした、難易度の高いワインディングロードであるが、それを攻略しながらさっきみたいな軽口を叩ける余裕があるのだから、コイツはマジで凄腕のゲーマーに違いない。…うん。『西新宿最速の男』たる自分がこうも勝てないのだ。もう間違いない、コイツの脳味噌と神経はゲームで出来てるのだきっと。

 平蔵はチッと舌打ちを一つし、対戦車両がゴールラインを切ったのを見て忌々しげに目を細めた。

 ふと、視線を感じて画面から瞳を隣に移せば、黒目がちの大きな瞳が、窺うように自分を見上げている。


「ね、おにへーさん、聞いてた?」


 冗談じゃなかったのか…。

 途端に胡乱な目つきになったのを自覚しながら、平蔵はイタリアの高級ブランド製ジャケットの内ポケットからアメリカンバットを取り出し、一本引き抜いて口に咥えた。すかさず、背後で待機していた平蔵子飼いのストギャンリーダー・木島正平が、ジッポの火を近づけてくる。

 それを当然のように、煙草の先に火を灯した平蔵は、すーっと空気ごと煙を吸い込んでから、徐にフィルターを口から外した。


「…オレぁ、金とるぞ。払えねぇなら、簡単にンな事言うんじゃねぇ」


 大きな声では勿論言えないが、平蔵はヤクザである。ヤクザだから殺しも請け負うが、それは当然見返りがあってのことだ。しかも、女子高生如きに支払える額じゃない。

 ところが、予想外にも綾は、がっかりした様子も驚いた表情もしなかった。ただ、やっぱり、とでも言いたげに平然と頷いただけだ。


「お金の宛てはあるんだよね。…もしかしたら足らないかもだけど」

「……幾らあんだよ」


 女子高生のヨタ話を信じたワケではないが、とりあえず訊いてみる。


「現金じゃなくて、土地。渋谷の道玄坂にテナントビル3つ。うち2つは営業中で、残り一つは暴走族の溜り場」

「ァア?」

「土地だけで、ざっと計算して2億いかないくらいかなぁ……。それ、三つともあげちゃうって言ったら、手伝ってくれる?」


 ちょっと待て…えらく話が具体的だが、コイツ、マジで冗談じゃなかったのか?

 平蔵はオフ仕様で下ろした長い前髪を、ガシガシとかき上げた。


「オイオイ、お嬢ちゃんよォ。おめぇ、パパか爺ちゃんの土地、勝手に担保にしてんじゃねぇだろうな?」

「違う違う、わたしがお爺ちゃんから生前分与で貰ったの。権利書もちゃんとあるし。

…ただ、名義はお爺ちゃんのままだけどね。あんな土地、相続したって税金払えないもん」

 

 そりゃそうだ。場所にもよるが、あの辺りなら大体1平米600万は下らない。いいトコなら1000万もいくだろう。テナントだというなら、上がりも相当期待出来る筈だが、当然毎年の固定資産税も相続税も、恐ろしい金額になるハズだ。


「……爺さんは、今生きてんのか?」

「一年前に死んだの。あの土地のこと知ってるの、お爺ちゃんの弁護士さんとわたしだけだし、でもわたしの所有権はお爺ちゃんの遺言書に明記されてるから、おにへーさんにあげちゃっても大丈夫なの」

「…ふーん………」


 女子高生の妄言と思いはしても、話を聞いてみるだけなら無駄にもならないか。…内心そう考えながら、平蔵は煙草の先っぽを綾に向けた。


「…で、何して欲しいっつーんだ?」


 平蔵に話を聞く気が起きたのを察したのだろう。綾は途端に口角を上げた。頬にえくぼが出来ている。ちくしょう、カワイイじゃねーか。


「暴走族の溜り場になってるビルがあるって言ったじゃん?…そこに溜まってる暴走族を…潰して欲しいの。

 …跡も残んないくらい、キレーさっぱり」


 …聞いた話はちっともカワイクなかった。それどころか…、


「……オイオイオイ、可愛いツラして怖ぇこと言うなぁ…」

「…わたしが美少女なのは知ってるけど、顔は関係なくない?」

「……おめーのそーゆーとこは、カワイクねぇな…」

「…おにへーさん、関西じゃあ、ボケにそうやってマジツッコミすんのって、無粋の極みらしいよ。人間関係も悪化させる原因になるかもしれないんだって」

「ここぁ東京のド真ん中だから、問題ネェ」

「…ハイハイ、マジレスカッコワルイ。

 それで、わたしのお願いごとは引き受けてもらえるの?もらえないの?」

「………おめーも十分無粋だよ…。何だよにちゃん語かよ。

 まァー謝礼の額だったら辛うじて問題ねェ…かもなァ。けどそのガキども、どーせ全員高校生くれーだろ?

 オレら本職が干渉するってぇーと…体面悪ィんだよ。面子潰されたとかだったら、まだ理由になンだけどな。

 …で、おめー、なンでそいつら潰してェんだ?」

「………言わなきゃダメ?」

「っ!!

 …おめーはっ!…こんな時に上目遣いヤメロっ! ンな事しても誤魔化せねェぞっ」

「ちっ…ダメか……」


 舌打ちはヤメロと言いたいが、どうせコイツは言ったところで聞きはしないだろう。

 ゲーセンで勝負するだけの間柄だが、平蔵と綾の間にはそういう機微すら読みとれる関係が出来あがっていた。出逢ってからまだ2週間くらいだというのに、何故か、不思議な事に。


 綾はシートの上に両足を乗せ、体育座りの膝に顎を埋めるようにして、少し考えているようだった。


「…そうだね…言わなきゃダメだよね…。

 おにへーさん達風に言うなら、わたしの面子を潰されたから…ってことになるんだと思うけど…」

「なるほど……さっぱり分んねェな…」

「ぅ…、一生の汚点に速攻認定した出来事だったから、言いたくない…」

「言えよ。事が事だ。しょーもねー理由でオレらが動くワケいかねェだろ」

「………おにへーさん…なんか顔がサドっぽい」

「ァア?…そりゃおめー…、オレはサドだよ。ドSだよ。あたりめーだろ。

 …てオイ、何距離とってやがる」

「わたしノーマルな性癖しか持ってないから」

「まるでオレが変態みてーに言うのヤメロ。

 …ってかまた脱線してんじゃねェーか。おめーわざとじゃねーだろーな?」

「今のはワザとじゃないよ。…できたらこのまま話さずにすましたいって思ってるけど」

「思ってんじゃねェーか。…ホレ、とっととゲロしやがれ」

「ゲロって…汚いなァ…。

 …まー…要するに、ですよ。わたしがオトコ見る目が無かったって言っちゃえばそれまでなんだけど…」

「今でも有るようには見えねェーな」

「う゛…自覚はあるけど他人に言われたら腹立つな…。ま、いいか。

 …実は一か月前まで、ワタクシつきあってた男がおりましてー」

「何でイキナリ敬語だよ。…で?」

「その男がね、まァその、暴走族のトップだったりするワケよ」

「へェ……。ナンかもう話が読めちまった。ま、いいから続けろ。聞いてやる」


 …と、上から目線で言ったのが悪かったのか。

 途端に綾は、ギンっ!と平蔵を睨めつけるや噛みつくように声を荒げた。

 それどころか、小さな拳でボカボカ平蔵を殴りつける。腐ってもヤクザを殴るなぞ、傍で見ていた木島が顔色を変える程の暴挙であるには違いない。


「っ!!…無理矢理話しさせたのそっちじゃんっ!…そうよっ!ご想像の通り捨てられたのよっ!!だから言ったでしょ!?一生の汚点だって!!」

「ちょっ!オイ逆ギレヤメロっ!っ、痛ェーなコラっ!!」

「しかも。しかもよっ!!実は本命の女が別に居たんだけど、その女が危ない目に遭わないよーにって、最初から影武者にするつもりでわたしのこと彼女にしたって言うのよっっ!!

 丁度お爺ちゃん死んだばかりで、寂しくて寂しくて、死んじゃいたいって時に、うまいこと付けこまれたのよっっ!!

 バカでしょ!?バカなのよっっ!!笑えばいいのよわたしなんかーーーーっっ!!!!」

「あ゛ーーーー!!!ちょっ!おまっっ!!スーツ掴むな皺になんだろゴルァ!!しかも鼻水つけやがって!!コレ、ジョルジオ・アルマーニのすげぇ高ぇヤツなんだぞーーーっ!!」

「女の涙拭かせてやる甲斐性くらい持ちなさいよ!!」

「オレにとっちゃ、17歳はオンナじゃねーーー!!!」

「初潮すんでるから立派なオンナよ文句ある!?」

「そのツラで初潮とか言うのヤメロ!!男の夢と希望を汚すんじゃねェヤ!!」

「既に夢も希望も自分から東京湾に沈めたヤクザのクセに、青臭いこと言ってんじゃないっつーの!!」

「……(ゼェゼェ)」

「………(ハァハァ)」


 互いに肩で息をしながら、睨み合う二人。しかし、女子高生とヤクザ。何の冗談だと、木島は半眼で口の端を引き攣らせた。


 そして数十秒後。


「やめよ……凄く時間が不経済な気がしてきた…」

「果てしなく不経済だよ…。脱線しまくってんじゃねェーか…」

「ウンだから、四の五の言わずに黙って聞いてね」

「オイ…何その上から目線」

「(スルー)…そういうワケで、わたしもコロっと騙されて、その男に愛されてると信じ込んでずっと傍に居たんだけど…。

 …一か月前、事件が起こったんだよね…」

「…へー…」

「男の敵対勢力の暴走族にワタクシ拉致されましてー。ソイツらのアジトに連れてかれて速攻レイプされちゃったの」

「あー…最悪のパターンがきたか…」

「ボコボコに殴られたり蹴られたりしながらね。刃物傷とかはつけられなかったのが、せめてもの救いだったかな。

 …ま、怖くておしっこちびっちゃったけどね。

 …でもね、見るからに人相悪くてマトモじゃない男どもに、何時間もマワされても、きっと彼が助けに来てくれるって…それだけを信じて必死で耐えてたの」

「……」

「で、三日目の夜だったかな。…全身痛くてどーしよーもなくなった頃、拉致した奴らの親玉がわたしのとこに来て言ったのよ。

『てめー、袴田のオンナじゃねぇのかよ』って。

 やっと彼と電話繋がったらしくてね。彼から直接、『ソイツはオンナでもなんでもねーから、好きにしろ』って言われたんだって」

「…それで?」

「何言ってんの?って思うじゃん。コイツ、わたしに嘘言ってんだって。自分で言うのもアレだけど、わたし美少女だし、人質って以外にも利用価値見つけたのかなって思ったの。

 …とにかく信じられなかった。だからね、わたし、その夜、逃げたの。指の関節無理矢理外して縄抜けして、その辺の椅子ぶつけて窓ガラス割って、4階から飛び降りた」

「……おめーホントに素人か?…てか、よく死なずに済んだな…」

「窓の下にゴミ入れたダンボールが山積みになってたから。…わたしも、まさかリアルで香港のアクションスターもビックリなマネするとは思わなかったよ」

「ああアレな…。ラストのNG集じゃかなり大怪我してたらしいぜ」

「あ、やっぱり。わたしは骨とか折らずに済んだんだけど、打撲と捻挫で全治2週間。うち一週間は入院してた。検査でだけど。…ホントに痛かったよ…主に金銭的な意味で」

「そっちかよ。…じゃあおめーは、その彼氏本人にコトの真偽を直接確かめたワケじゃねーのか?」

「まさか。退院して速攻彼のマンションに行ったよ。合鍵貰ってたし。

 …で、そこで動かぬ事実ってヤツをベッドの上に(・・・・・・)目撃しちゃって。ついでに、彼から『おまえはもう用済み。とっとと目の前から失せろ』って言われて、怪我治りかけてたところまた殴られちゃった」

「…オレには負けるけど、ソイツ相当クズなガキだな…ちょっと感動したワ」

「しないでよ。…んでその後、ネカフェ渡り歩いてずっと泣いてたんだけど、ある時フッと冷静になったの。

 わたしが彼に貸してあげたテナントビル、あんな仕打ちされて、これ以上アイツらに使わせる義理なんてないなって。

 でも、ただ、返してって言いに行っても、また殴られて終わりな気がするでしょ?実際にもしそうなったらわたし、マジで踏んだり蹴ったりじゃん」

「なるほどねェ…。それで『復讐』ってワケかィ」

「うん」

「…思ってたより普通だったなァ。おめーの事だから、もちっと壮絶な話聞けんじゃねぇかって思ったんだけどよォ」

「ちょっとー、人の不幸話を酒のツマと一緒にしてんの?」

「ちげぇ。言葉の行間ってヤツを正確に読めヤ。オレぁ、『わざわざヤクザが危ねェ橋渡る理由にはならねェ』って言ったんだぜ?」

「…おにへーさんヤクザなのに、よく『行間』なんて言葉知ってたね…」

「……バカにしてんのか。オレぁこれでも高校は出てんだよ。勉強嫌ェだったけどよォ」

「顔見てたら何となく想像出来るヨ」

「ウルセェ高偏差値め」


 綾の通っているのが、都内でも有数の進学校であることを指して、唇を尖らせる平蔵だったが、彼女はそれを綺麗に無視して、これ見よがしにがっくりと肩を落とすと、更に切なげな溜息をおまけにつけてきた。


「……フゥ…やっぱダメかぁ…おにへーさんはカワイイカワイイわたしの為に動いてくれないんだ…」

「だーかーらー、自分でカワイイ言うなカワイクねェ。…ま、物件の売却の相談には乗ってやるから、それで機嫌直せヤ」

「おにへーさん、不動産屋さんじゃないでしょ?」

「バッカおめー、神門巽ナめんなよ!?土地転がしてシノギにしてるオジキとか、何人か心当たりあるっつーの」

「ああ…地上げ屋っていうヤツね…」

「人聞き悪ィな。…ま、そういうコトもやるけどよ」

「……ねぇ、おにへーさん」

「ア?なんだよ」

「じゃ、もう一つ相談に乗ってくれる?」

「オゥ、いーぞ。とりあえず話してみろや」


 もうここまでくれば毒も皿まで…などという殊勝な心がけが、平蔵にあったワケではない。

 だが、後に仕事(・・)忙殺される事になった彼は、あそこで仏心を出して喋らせたのが間違いだった、と、一度でなく後悔したという。

 そして、問題の話を語り出した綾の声は、先程と同じ、世間話でもするような気軽さであった。


「…あのね…さっきの話の続きなんだけど…。その敵対勢力ってのが、実はどっかのヤクザさんに面倒みてもらっててね。

 彼…あ、元カレね、わたしのこと生贄にしたクセに、バックのヤクザ怖がっちゃって何も報復してないンだって」

「……そりゃまた…クズなりに利口だったンだな」

「でね、わたし、輪姦されてる間ずっと動画撮られてて、それ動画投稿サイトに上げられちゃったの」

「…は?」

「更に、美少女ガチレイプ輪姦モノで裏でDVD売られてるんだって。…結構人気出たらしいよ。うちのガッコの男子に知れ渡るくらい」

「……オイオイ……ちょっと待て」


 軽く言ってくれるが、話はどう考えても軽くない。それどころか、ドえらい深刻ではないか。


「受験でちょっとノイローゼになりかけてたとある男子に校内で襲われてねー、それは先生に見つかって未遂で済んだんだけど、その男子がヤケになって、わたしが出てたDVDのことブチ撒けちゃったワケ。

 お陰でわたしまで停学になっちゃった。…で、多分このまま退学になると思う。被害者なのに、ヒドイよねー」

「…なんでおめーまでガッコ辞めさせらんなきゃなんねんだよ」

「私立の超有名進学校だもん。今丁度受験の追い込み時期だし、そんなデリケートな時に醜聞なんて御免なんじゃない?」

「…ガッコも客商売ってコトか…」

「そ。で、更にわたしのことレイプしようとした男子の親まで出てきちゃって。それがねー、こともあろうにテレビとかにも出てる有名代議士だったの!笑うでしょ?

 テレビじゃいい人そーな顔してるのに、わたしのこと夏場の生ゴミでも見るような目で見てくんの!

 …挙句の果てには、息子はこの女子生徒に誘われたんだとかなんとか言いだして」

「オゥ」

「ついでにわたしの両親にまで連絡されちゃって。…わたしのお父さんさ…上場企業の重役なんだけど、こないだ十年ぶりに電話かかってきて、『この恥知らず!そんな娘育てた覚えはない!二度と私の娘を名乗るな!!勘当だ!!』って言われちゃった。…そもそも、物心ついた時から、親に育てられた覚えなんかないんだけど」

「………ぁーーー……」


 思わず平蔵はゲーセンの天井を仰いだ。

 何でコイツは、叩けば叩く程不幸のネタをザクザク零してくるのか。これではまるで、不幸のデパート…いや、工場である。聞いてるこっちまで陰鬱な気分になりそうだ…というか、もうなっているが。


 内心、頭を抱える平蔵に、綾は明日の天気を尋ねるように言った。


「ねー、真っ当な一般市民にすらなれなさそうなんだけど…どうしたらいいと思う?」

「…頭痛ェ………、なんでそんな絵に描いたよーな転落人生になっちゃってンだよおめーはよ…」

「わかんない」

「わかんない…って……自分のコトだろーが」

「だって、何でこーなったって理由なんか分り切ってるし、自業自得なのも分ってるから今更あーだったらこーだったらなんて考えたくないもん。」

「………」

「それにそんな不毛なこと考えても、どっちみちわたしの人生もう終わったようなもんだし。この先、中卒で働けるような場所なんて限られてんじゃん?しかも、どこかで働けたとしても、あの動画とかDVD見てる人に脅えなきゃなんない。そんなことなら、もういっそ死んじゃった方がいいのかなー…なんて思ってんの」

「…死ぬ気なんかさらさらねェだろうが、おめーは」

「ちょっと違うかな。死にたいけど死ぬのがコワイってのが正解。ねェ、睡眠薬だったら楽に死ねるってホントかな?」

「結局死ぬ気ねーんだろ?だったらやめとけ…」

「………」

「…わーったよ。…ったく、女子高生がヤクザ説得すンだから、大したもンだよおめーはよ」

「ヤクザでも同情したの?」

「調子のンなよ?やり方次第で大金取れそうだと思ったからだ」

「じゃ、2億弱じゃ少なかったんだね…ゴメンね。相場とか知らないから…」

「知らなくてあたりめーだ。…そんじゃ、まずおめェの元カレの名前とチームの名前、んで敵対勢力とやらのチーム名、そっから教えろや」

「…元カレの名前が、【袴田隼人】、チームの名前が【魅栖吏鏤(ミスリル)】」

「…聞いたことあンな……。

 …オイ、しょーへー。知ってっか?」

「二年程前から、ここいらで幅利かせてるガキどもです。確かケツ持ってる組とか無かったハズですが。

 …チームの上がイケメンばっかだっつーんで、コギャルどもに人気あるみてーっスよ」

「オイオイオイしょーへー、てめぇ自分らのホームで鼻たれたクソガキなんぞにデカイ面させちゃってんのかよォ?」

「正直うるせーとは思ってましたけど、アイツらモグリや中国人のヤクの売人を勝手に潰してくれますんで。

 薬にはならねーけど毒にもならねーってんで、放置してたんスよ」

「てめェよォ、ガキは適度に頭叩いとかねーと、際限なく調子に乗る生物だって、オレぁ、何度も口酸っぱくして言ったよな?」

「はぁ…すんません」

「ちっ…。まぁいいワ。んで、おめーをレイプしたのはどこのガキどもだ?」

「…確か…【邪悪切裂(ジャックリッパー)】て名前。バックのヤクザさんの名前は知らない」

「【邪悪切裂】…、確か【赤城組】の下位組織にケツ持ちしてもらってた筈です」

「『経済ヤクザの吹き溜まり』かよ…。そりゃお誂え向きだ、ククッ」

「…戦争になるんじゃねェスか?」

「なるかよ。アイツらどうせそのクソしょーもねー下っぱども、組ごと切り捨てんだろぅよ。こっちは骨の髄まで毟り取ってやりゃぁいい」

「はぁ…、ま、裏ビで相当儲けちゃいるでしょうが…」

「オイ綾。それからガッコでおめーをレイプしようとしたヤツと、その親の名前教えろ」

「陵山学園高等学校3年A組御子柴理(サトル)。親は公益党の衆議院議員の御子柴主税(チカラ)

「…なんだよ…随分小者じゃねェか。ちょっとしたスキャンダルですぐ潰れる程度のヤツだ。…そりゃ、息子の不祥事も必死で無かったコトにするワ」

「…ソイツだったら、最近夜にここら辺うろついてるって噂になってるっスね。ガラ悪ィのと付きあってるみてぇっすよ」

「へぇ……そりゃもしかすっとレイプも他に前科あんのかもしンねェな」

「あるでしょーね。確か【極悪連合】のヤツラだったとつるんでたハズっすわ」

「半グレ野郎どものオトモダチかよ。ロクな奴じゃねェな。人ンコト言えねェけどよ。

 …ますます面白くなって来たじゃねェか」

「ウチのモンに御子柴拉致らせましょうか?」

「まぁ待て。…ひとまず監視だけ付けろ。動くのはもっと後ンなってからだ。オレもここまでの大仕事ってなると独断で動けねェ。

 …こういうコトはよ…じっくり時間かけて悪だくみしとくもンなんだよ。コイツにも十分な見返りはやりてェしな」

「わたしお金いらないよ。全部おにへーさんの取り分にしたらいいよ」

「そういうワケにはいかねェ。ヤクザの業界(セカイ)無料(タダ)ってコトバはねェんだよ。おめーは見合った報酬を受け取らなきゃならねェ」

「なんで?」

「裏切らせねェ為だ。でなきゃこの件で動く人間が誰も安心して仕事出来ねェだろ」

「裏切ったりしないのに…」

「口先の言葉なんかヤクザは誰も信じねェ。だから黙って貰える分貰っとけ。これから生きてくにしたって金は幾ら有っても邪魔にならねェだろ」

「………」

「そんなカワイイ面すんじゃねェよ。ヤクザってなァ面倒臭ぇ生き物なんだ。おめーもそのヤクザにもの頼むんだから、オレらの流儀に従え」

「……わかった」

「よし、イイ子だな。…んじゃ、そろそろお開きにすっか。…あー…綾、おめー携帯の番号教えとけ」

「いいけど…充電切れてるかもしれないよ?ネカフェ転々としてるから」

「ちっ…面倒臭ェな…。つか、女子高生がネカフェ泊りなんかすんじゃねェよ」

「だって帰るとこないもん」

「そうだったな…。んじゃ、おめー、オレんとこ来るか?」

「……ゑ?」

「ンだ?その面ァ」

「だ、だって……、わたし、おっぱいちっこいし、抱き心地あまり良くないと思うよ?」

「ばっ!!バカヤロ!!誰が体目当てだっつった!!オレぁ17歳の小娘じゃ勃たねぇっつーの!!」

「ヒド…っ!!こんなに美少女なのに!!」

「小便臭ェガキが無理だっつってんだよ!!大体、ンな台詞は二十歳過ぎてから吐きはがれ!!」

「あ、綾ちゃん…オレなら綾ちゃんでも守備範囲内だけど」

「えーヤダ。木島さんみたいなイケメンって、どーせ元カレと同じ人種でしょ?…もうあんなヒドイ目見たくないもん」

「てめコラ!オレぁイケメンじゃねーーってのか!!」

「え?おにへーさんはイケメンじゃないよ。イイ男って言うの。だって、顔だけじゃないじゃん?」

「…っ!」

「…オレは顔だけってコト?…うわ…何かショック……」

「やっぱり、男は三十路を越えてからだよねー」

高山 綾:私立陵山学園高等学校3年。黒髪の超美少女で超小顔の6頭身。森ガール風ファッション。密かに西新宿のゲーセンクイーン。

仁谷平蔵:34歳。広域指定暴力団・神門巽系二次団体秋定組若頭補佐。長身8頭身のVシネ俳優みたいな男前。私服はL●ON系。

木島正平:19歳。西新宿をホームにしているストギャン・GateKeeperのリーダー。アッシュのミドルをアシメにしてる一見ギャル男なクール系イケメン。

袴田隼人:18歳。高校は行ってるけど1年ダブリ。暴走族・魅栖吏鏤(ミスリル)の総長。昔からの本命の女を危険に晒さない為に、綾をスケープゴートにした。

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