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おにょめ!  作者: 6496
第一部:竜喰らいのベルティ編
4/41

第四幕 その日の夕飯

「いただきます」

「いただきます」

 椅子に座り、料理の並んだテーブルを挟んでベルティとルナークは向かい合っていた。

「わーい、おにくー♪」

 こんがり焼き上がった豚肉のソテーの真ん中にフォークをブッ刺し、ベルティはそれをあ~んぐり開けた口の中に放り込む。

「……せめてナイフで切れよ、おまへ」

「もむもむもむ、もぐもぐむぐむぐ」

「そして呑み込んでから喋れよ」

「もぐもぐごっきゅん。おいしー!」

「はいはい、まだおかわりはあるからな」

 と、やたら嬉しそうに騒ぐベルティに、ルナークはもう一枚ソテーを追加した。

 “仕事”直後でよかったぜ、と思うルナークであった。

「ま、お仕事お疲れさん、と。実際のところ、どんな塩梅だったよ」

「ん、もっきゅもっきゅ。らくしょー、ちょーらくしょー」

「だろうな」

 ブイサインをかますベルティに、ルナークが苦笑した。

 彼女から前もって、標的の地竜がBランク程度であることは聞いていたので、ルナークは特に心配の一つもしていなかった。

「あー、リボンは、どうだ……?」

「ん、大丈夫大丈夫。ルナは心配性ねぇ」

 ベルティは、自分の頭に結ばれたブラウンのリボンをチョイチョイ触って笑う。

「そう、ルナさぁ、どうしてわたしの仕事のところに来るかなぁ」

 村でのことを思い出して、ベルティはルナークに尋ねた。

「んー? 何がよ?」

「何がよ、じゃなくてさ。どうしてわたしが仕事してたところに来たの、って聞いてるのー。思わず星にしちゃったじゃーん」

「まぁ、おまえには殴られ慣れてるし、特に気にすることじゃねーぞ。100mくらいぶっ飛んだが」

「う~、そういうことじゃなくてぇ~」

 なんだかはぐらかされているような気がして、ベルティは唇を尖らせる。

「なんで、わたしの、しごとに、くびつっこむんだって、言ってるんだー!」

 考えるのに行き詰まり、ベルティが腕をバタバタさせた。

 三枚目のソテーを彼女の皿に載せ、ルナークは「ハイハイ」と笑う。

「ベル、俺、おまえにいつも言ってることがあるよなぁ?」

「う?」

 ベルティの動きがピタリと止まる。

 ルナークが言った。

「仕事を受けるなら――」

「……正当な報酬を必ず受け取ること、でしょー」

 聞き飽きたと言わんばかりの口調で、ベルティがそれを引き継いだ。

「そゆこと。今回の仕事、明らかに報酬が安かったぞ。請求して当たり前だ」

「そ、そうかなぁ? ちゃんとした報酬、もらったよ……?」

「これのどこが?」

 と、ルナークが持ち上げたのは、村でもらった報酬の詰まった革袋だった。

「地竜一匹に金貨80枚。金額にして80000ラドル。……はっきり言って、相場の半額だぜ。普通だったら地竜だったら150000ラドルはもらうべきだろ」

 ラドルとは、ドラグレイスの通貨単位であり、銅貨一枚で10ラドル、銀貨一枚で100ラドル。金貨一枚で1000ラドルという単位になっている。

 ちなみにドラグレイスで一年普通に生活するなら、その費用はおよそ100000ラドルほどであると言われている。

「うーうー、そうかもだけど、そうかもだけど。でも、ほら、村の半分潰されたんだし、わたし以外にも竜狩人雇ってたんだし、ね?」

 困ったように言うベルティは、言ってる間に三枚目のソテーをペロリと平らげていた。

 すかさずルナークが四枚目のソテーを皿に載せる。

「ま、とりあえずメシ食っっちゃいますかー」

「うー、分かったー」

 そして、ルナークがソテーを一枚食べている間に、ベルティはソテー八枚+デザートにプリン四個を食べ尽くし、今夜の夕飯は終了したのだった。


「要するに、おまえはナメられてたんだよ」

 食事が終わって午後8時頃、話は再び今回の仕事の話へと及ぶ。

「な、なんだよぉ……」

 ナメられてたという言い方に、ベルティはさすがにちょっとした抵抗を覚えた。

「ベルティ・ザーンと言やぁ、ドラグレイス最強。生ける伝説。竜を喰らう存在、みたいなこと言われてるだろ。まぁ、実際8割方当たってるわけだが」

「そうだねぇ、竜の肉は美味しいからねー」

 夕飯直後なのに、ベルティはジュルリと舌をなめずる。

「普通は喰えないんだぞ、竜の肉。人間には猛毒だから」

「う~……」

 ルナークにたしなめられ、ベルティはまた唇を尖らせた。

「村の連中としてみればその『竜喰らい』に依頼できたんだ。これ以上は望めないだろうが、こう思ったんだろうな。もしも名前倒れだったらどうしよう、ってな。だから別の竜狩人まで呼び寄せたんだろうよ」

「それが、ナメられてるってこと……?」

「そういうこと。しかも見た目がこんな小娘と来ちゃあ、不安にもなるかもだけどよ」

 クックックと意地の悪い笑みを零すルナークに、ベルティは「なんだよー!」と頬を膨らませた。

「でもさー、だからってルナが出てくること、なかったんじゃないの?」

「馬鹿言ってんじゃねぇ」

 ベルティの疑問を、ルナークは一蹴する。

「仕事したなら、こなした仕事の分の報酬はキッチリ受け取る。それが労働だぜ。報酬が低いってのは、やった仕事が正当に評価されなかったってことだ。それはダメだぜ」

「でも、わたしは別に、報酬が低くてもいいんだけどなぁ……」

 呟いたベルティの声を、ルナークは聞き逃さなかった。

「報酬が低くても、いいのか?」

「うん。だって、竜を倒せば助かる人いっぱいいるんでしょ? わたしは別に、みんなが喜んでくれるなら、報酬なんか安くてもいいんだけどなぁ……」

「ルナークきーっく」

 ルナークがチョップした。

「いた! いたい! っていうか、きっくって言ったよね今!」

「フン、まぁ、『騙り部』ですから」

「なんで!? なんでこの流れで腕組みして勝ち誇った笑顔になれるの!」

 しかし指摘されても、ルナークは勝ち誇ったままだった。

「おまえがやってることは、この国で一番危険な仕事だ。分かるな」

「そ、それは分かるけど、急に真面目になられてもついていけないよ、ルナ~」

「今真面目な話してるんだ。話の腰を折るな」

「鏡に向かって言えー!」

 しかし指摘されても、ルナークは真面目なままだった。

「う~、う~、でも、ルナ。わたしが竜と戦ったくらいでどうにかなるヤツじゃないって、ルナは知ってるでしょー?」

「知ってる」

 ルナークはあっさりと答えた。だが、言葉はそれで終わらない。

「けど、それとこれとは別だ」

「えー、なんで~……?」

「おまえがどれだけ強くても、おまえがどれだけ頑丈でも、おまえがどれだけ平気でも、危険な仕事をしてるなら、その分の報酬は絶対に受け取らなきゃいけない」

「だから、わたしは別に報酬なんて――」

「テメェ、労働者だろうが」

 ルナークに言われ、ベルティは言葉を途中で止めて押し黙った。

「……そりゃ、そうだけど、さ」

「竜狩人なんて格好良く呼ばれちゃいるが、それが労働なのは確かなんだぜ。給料だってもらって当然。その給料が安くちゃ話にならねぇよ」

「でも、でも、わたしの稼ぎって、悪くないでしょ?」

「よくもない」

 ルナーク、即答。

「ベルティ・ザーンという名前の大きさに比べれば、おまえの稼ぎは微々たるモンだ。むしろ、現状じゃ俺の稼ぎの方が大きいくらいだぜ」

「う~! ルナと一緒にするなー! 毎日毎日十万単位のラドル稼いでる癖にー!」

「頑張ってますから!」

 ルナーク、笑った歯が白く輝く。

「……どうして『騙り部』なんて呼ばれるペテン師がそんな稼ぐかなー」

「俺は、正当な報酬を受け取ってるだけさ。ま、表に出せない金だがね」

「お金、お金って、お金がそんなに大事かよー」

 不満を垂れるベルティの頭を、ルナークが撫でる。

「なぁ、ベル」

「なんだよー」

「おまえの、その、人が喜んでくれるのが嬉しいって精神は素晴らしいぜ。正義の味方ってのは、まさにおまえのことを言うんだろうがよ」

「うー……、それって誉めてるの?」

「思ったことを言ってるだけだ」

 そしてルナークは食器をキッチンに片付けて戻ってくる。

「あのさー、ルナ。わたしは別に正義の味方とかになるつもりはないんだよー? たださー、わたしが誰かの助けになれたらって思うだけなんだけどなぁ」

「助けりゃいいじゃねぇか、それで報酬もらうのがおまえの仕事だろ」

 このルナークの言葉に、ベルティは「そうじゃなくてー!」と腕をばたつかせた。

「お金なんかいらないの。わたしは誰かの助けになれればいいんだってば!」

「えー、おまえが稼いでくれれば俺の助けになるんだけどー」

「こ、このやろう……!」

 拳をプルプルと震わせて、ベルティはルナークを睨んだ。

 ルナークはコホンと咳払いを一つ。

「ベル。おまえのその考え方は素晴らしいぜ、素晴らしいが……、それじゃあダメだ」

「う~、またそれ言う……」

 これもまた聞き飽きた言葉。

 そして、次に彼はもう一つ、ベルティが聞き飽きた言葉を言うのだ。

 それが、実はルナークの口癖だった。

「おまえは英雄になんてなっちゃいけねぇのさ」

「英雄なんてなるつもりなーいー」

「だったら稼げやー。働いた分、きっちり報酬もらってこいやー」

「あーうー、どれくらいがきっちりした報酬か分からないんだってばー」

「だから俺がいるんじゃねーか!」

 ビシィ、とルナークが親指で自分を示した。

 ルナーク・ザーン。

 彼はベルティの夫であり、外では『騙り部』と呼ばれるプロの詐欺師であり、そして同時に、『竜喰らい』ベルティ・ザーンの正式なマネージャーでもあった。

「……でもさ、それって公表できないんでしょ?」

 ベルティが冷めた目で見てくる。

「まぁ、俺の本業はペテンの方だしねー。動きにくくなっちまうぜ」

「わたしと結婚してるの秘密にしてる理由も、それ……?」

 ベルティの表情に、かすかな翳りが差す。ルナークはそれを敏感に察して、顔に浮かべる笑みを優しいものに変えた。

「いや、明かさないのは、明かしたくないからさ」

「なに、それ。理由になってないよ」

 ルナークがベルティの隣に座る。

「立派な理由さ。ベルティは、俺が独占してる。その事実を知ってるのは、俺とおまえだけでいい。その事実も、俺は独占したいんだ」

「……欲張り」

「ああ、欲張りだ」

「……ワガママ、嘘つき、ズルイ奴」

「なんとでも」

 そしてルナークはベルティの頬に手を伸ばす。

「あー、もぉ」

 ベルティは呻きつつ、顔が熱くなる自分を自覚した。

 結局、今日もルナークにいいように言いくるめられてしまった。

 でもいつか、きっと必ず、絶対仕返ししてやる。言い負かしてやる。

 そう思いながら、彼女はルナークからのキスを、その唇で受け止めるのだった。

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