丸パン二個
「『商品を袋にお詰めいたしましょうか?』は?」
レジ前にいる一人の老人は、不満そうに言った。
俺は一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。
レジ台の上には丸パンが二つ。
ここは、王都の大通りから一本奥に入った通りに位置するベルナ商会。少しだけ高級な食料品店だ。
俺の名前はアイル=アレン。ベルナ商会で働くバイト店員である。
そして今、初めてわかった。
ここでは、片手で持てるような小さなパン二個であっても、クレームが発生することを。
「おい、聞いてるのかって」
白髪混じりの頭に片眼鏡。その老人は声を荒げた。
その声量に驚き、俺は咄嗟に頭を下げる。
「申し訳ありません……」
俺が頭を下げると、老人は不満そうに鼻を鳴らした。
「普通は聞くだろう?『商品を袋にお詰めいたしましょうか?』ってな」
そう言って老人は、わざとらしく腕を上げた。
その手には立派な布袋。
しかも口は大きく開いている。
(……袋持ってんじゃん。しかも準備万端……)
「ったく、俺が袋を持っていても、聞くのが礼儀というものだろ」
わざとなのか無意識なのか、その老人は大きくため息をつく。
「申し訳ございません。商品をお入れ致しましょうか……?」
俺がもう一度謝り、即座にそう言うと、
「もういい、自分でやる」
老人はそう言って、丸パンを自分で袋に入れ始めた。
そして、
「まったく、最近の若者はなってないな」
と言い放ち、店を出て行った。
(丸パン二個……)
その後ろ姿を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
ここはワイナー通り。
王都の大通りから一本外れた場所にある、小さな通りだ。
そしてもう一つの名前がある。
通称「クレーマー通り」。
ここまで読んでいただきありがとうございます!ぜひ次回もお楽しみください!




